Title リンゴのS遺伝子型と自家不和合性成立過程( はしがき ) Author(s) 松本, 省吾 Report No. 平成11年度-平成13年度年度科学研究費補助金 (基盤研究(C)(2) 課題番号11660025) 研究成果報告書 Issue Date 2001 Type 研究報告書 Version URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/526 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
は し が き 自家不和合性とは、一つの花の中に雌ずいと雄ずいを持つ両性花において、 雌雄両性の生殖器官が形態的、機能的に正常であるにもかかわらず、自己の花 粉が自己ゐ雌ずいに受粉する自家垂粉をしても受精に至らない現象である。両 性花では自衰受粉が起こるのを避けられないが、もし、自己の花粉が自己の雌 ずいに垂精する自殖が成立すると、遺伝子のホモ化による自殖弱奏を進めるこ とになる。生殖の本賀が遺伝子の混ざり合いによる種め形質の多様性の作出に あるとすれば、生殖たは他殖性が求められることから、自家不和合性とは強度
の近親交配に当たる自殖を避け、他殖鹿を守るために高等植物が獲得した機構
であると考えられる。 自家不和合性は、二遺伝子座 (台遺伝子座) た座乗する台複対立遺伝子群によ って制御される植物の自他認歳反応であり1リンゴ(鳳u言文d血e5日毘Bor姐.)は配偶体重自衰不和合性を示す云配偶体型自家不和合性では、雌ずい
と、雄ずいつまり花粉の5遺伝子の尚た共通 のものがあるとき不和合となる。 例えば、一雌ずいゐs遺伝子型が$$であるとき二自身の花粉量、一馬‡まともに花 粉管の伸長が阻害され自家ネ和合となる。これに対し、他からゐ花粉$は受精 に到る。また、自身の花粉$【および島は∴$$めS遺伝子型を有する他の雌ず い上では受精に到る。リンゴの属するバラ科植物以外に、ナス科植物も配偶体 型自家不和合性を示すことが知られており、、ナス科植物から雌ずいの5遺伝子 としてリボヌクレアーゼ活性、を有する 岳⊥RNaseめ存在が明らかにされていた 紬Idersonetal・,'1986,19g9i'M七Clur占6t'al;,1989)。S-RNase遺伝子群は 5遺伝子座(㌻locus)上にあり、以下の3つの点から自家不和合性に関与する と考えられた。 1.岳⊥RNaseは雌ずいで強く発現しており、花粉管伸長阻害の起 こる花柱上部にタンパク質が局在している。2.S-RNaseの未成熟な雌ずいで の発現レベルは低く、この段階では雌ずいは尭粉管伸長を停止できない。3. S-RNaseの推定ア手ノ酸配列レベルでの類似性が38%-98%と幅広い。その後、S-RNaseの機能がトランスジェニック植物を用いたgain-Of-functionと loss-Of-funCtionの実験により確かめられた(Leeetal.,1994;Murfettetal., 1994)。すなわち、S遺伝子型が量島のペチュニアにS3-RNaseを導入したト ランスジェニックつチュニアでは、$3花粉の伸長阻害が起こった(gain-0ト function)。逆に、$2$3のペチュニアにS3-RNaseのアンチセンス遺伝子を導 入したトランスジェニックペチュニアでは、$花粉の伸長が見られた(loss-Of-function)。以上のことから、S-RNaseが実際に自家不和合性に関与して いることが明らかとなった。また、リボヌクレアーゼ活性中心のヒスチジン残 基をアスパラギン残基に置き換えることにより、リボヌクレアーゼ活性を消失 したキメラS-RNaseを用いたトランスジェニック植物の解析から、S-RNase の有するリボヌクレアーゼ活性が不和合性を示すのに必須であることも示され た(Huangetal.,1994;McCubbinetal.,1997)。S-RNaseが作用するRNA に関しては、血房voで不和合花粉管中のrR仙遺伝子に作用し分解されること が報告されている(McClureetal.,1990)。花粉管ではrRNA遺伝子は発現して おらず、花粉管伸長時のタンパク質合成は花粉成熟時に作られたリボソ∵ムに よって行われていると考えられている(McClureetal.,1990;Mascarenhas, 1993)。しかしながら、不和合の受粉をした花柱を和合の花柱上に接ぎ木すると、 不和合の花粉管が和合の花柱内で花粉管伸長を回復することから(IJuShand Clarke,1997)、もし、rRNA遺伝子がS-RNaseの標的分子ならrRNA遺伝子
は花粉管内で転写されていることになる。現在のところ、rRNAの分解により花
粉管伸長停止が起こっているのか、花粉管伸長停止の結果としてrRNAの分解 が見られているのかはっきりとしていない。S-RNaseの標的分子は、mRNA等 の別なRNAかもしれない。 ナス科植物のタバコ(JⅥco伽aa血亡威、ペチュニア(fなとu皿ね血助由)、ジ ャガイモ(Sohmumchaco飢Se)等のS-RNaseの構造の比較から、S-RNase 上にはClからC5までの推定アミノ酸配列のよく保存されている5つの領域 があることが明らかにされた(Ioergeretal.,1991;Tsaietal.,1992)。C2とC3にはリボヌクレアーゼ活性中心のヒスチジン残基が含まれている。また、 S-RNaseは糖タンパク質であり、1つあるしiはそれ以上の糖鎖を有している。 糖鎖がSLhaplotypeの特真性決定に関わっているかとうかを錮べるために、ペ チュニテS3-RNaseの糖鎖付加部位のアスパラギン残基をアスパ ラ専ン酸に直 き換えたキメラS,-RNaseがち島のべ≠ユニアに導入されたこ導入されたトラ ンスジェニック植吻体で$花粉め伸長阻害が見られたことから、糖鎖は㌻ haplo加eの特異性決定に関与し七おらず、タンパク質自身が関与しているこ とが示唆された(Kamanandaaetal.,1994)。S-RNase構造遺伝子上には S-RNase間で最も変異に富む2つの嶺域、Hypervariable、regioha,b(HVa, HVb)がある(Ioergeretal.,1991;T恕戒etal.,1992)。とれらの額域は最も親 水性に富んでいることからタンパク質の表面に鹿膏すると考えちれており、自-` 己・非自己ゐ認識部位、すなわちSも叩lo師畠の特真性を決定している部位で あると考えられている(Parryet、示.;1998)。岳-RNas6i由HVa、INbとそ の他の領域のS寸1aPlotype由特異性決定た対する綾封は、ヰメラS-RNase遺 伝享を導入したトランスジェ土少ク樟物の解析から由らかにされたこキメラS-RNaseは、あるS-alleleのS-RNase上のHVa、HVbを含む領域を、別のauele
の相当額域に置
き換えることにより構築されたこ一トランスジ寛ごック植物の解
析から、推走アミノ酸由列レベルd)類似性の低いS-RNase間で奮き換えた場合 は、元々のS⊥良Naseの有するSbaplotypeLの特異性が央われたか、新たな、 つまり置き換えたS-RNaseの有するSjlaPlotypeは獲得されなかった(Zurek etal・,1997)。この結果軋、HVa、欄Ⅳb領域は∴自己・非自己の認識すなわち ㌻h叩lot叩eの特異性を決めるのた必要な部位であるが、これらの領域のみセ は十分ではないことを示唆している。これに対し、推定アミノ酸配列レベルの 類似性の高いS-RNase間でHVa、HVb東城を置き換えた場合は、元々のS-RNaseの有する富もap16typeの痔異性が失われ、置き換えられたS-RNaseの 有するShaplotypeの特異性が痩纏された(Mattonetal.,1997)。この実験 にはSokinumChacoe8SeのSll⊥とS13-kNaseを用いているが、両者は全体で10アミノ酸しか異なっておらず、そのうちの3つはHVaに、1つはHVbに局 在している。Sll-RNaseの}ⅣaとHVbをS13-RNaseのHVaLtHvbに置き 換えたキメラS.-RNaseを導入したトランスジェニック植物では、島3の花粉管 伸長が阻害されト量,の花粉管伸長は阻害されなかった(Mattonetal.,1997)。 この場今は、、けVa、HVb飯域のみで馳aplotypeの特異性決定に必要かつ十 分であるこ七を示しているが、Sllとち3-RNase間で配列が同じで奉る箇所も
軸loty㌍の特畢性決定に関与している可能性もあるⅣe血掛率可.,1998)。
Mattonら(1999)は、さらに、S13-RNaseのHVa、HⅥか領域の3アミノ酸を Sll-RNaseのものに置換すると島3と島iの両方の花粉管伸長阻害が起こ_ること を示した。自家不和合性が成立するためには上様々な㌻dleleの存在が必須で ある。新規5>alleleの出現は†花粉もしくは雌ずいの5Lalleleに変異が生ずる ことがその第一歩≒考えられるが、どちうか一方に変異が生ずるとその時点で 自家和合とな_る?,Mattonら(1999)昼、前述甲データを基に自家不和合性を 損なわずに新たなSl山eleが隼ずるモデルを示した。 リンゴでは、西欧の栽培種からS2-、S,-、S5-、S7-、S9-RNaseが単離されて おり、日本q)栽培輝から埠S=TISF-RNaseが単帝されていた(Broothaertsefal., 1995;飴ssa鱒aL1996)。日本のリンゴ栽培嘩のS遺伝子型は交配によって 同定されてきており、島から量までの計6坤eleの存在が示唆されていたのに 対し(Komorietal・,1998a,b)、西欧ではKobel(1939)らにより島から量1まで、の姐eleが示されていた。S琴伝子型同定に用いられてきた日本の栽培種は
西欧のもの阜品種が異なることから、日本と西欧のS二劇eleの対応関係が一部・ を除き不明で串りリンゴ叫1eleの多様度を把握できない状況に串?た。すでに単離亨れていたリンゴS-RNas占上に軋ナス科植物に見られたS-Nase間でよく保存されてヰ、為clからC5までの5つの額域が相当部位に存
在していたが、C4の推定アミノ酸配列はナス科植物とは異なる配列で保存され ていた(Sassaetal.,1996)。その後、バラ科植物のナシ(伽usLmiW、ア ーモンド(丹皿uSdulcid、オウトウ(Ehln_uSaViumL.)からも.S-RNaseの単離がなされ(Ishimizuetal.,1998a;Taoetal.,1999;Ushiiimaetal.,1998)、バラ 科植物のHypervariable regionとしてRHV領域が提示された(Ushiiimaet d・,1998)。本領域は、ナス科植物のHVa嶺域に該当しており、HⅥか領域に相 当する廓位はバラ科植物S-RNase間では変異に乏しかった。また、Ishimizu ら(1998b)により非同義置換が同義置換に勝るPS領域が示され、PSl領域は RHV領域に相当する部位にあった。バラ科植物においては、RHV(PSl)領域が 自己・非自己の認識に関わる嶺域と推定されるが詳しくは何もわかっていない。 これまでに、タバコ、トマト、アーモンド等からS-1ikeRNase遺伝子群が単 離されている汀卸loretal.,1993;Bari01aetal.,1994;Kocketal.,1995;Ma andOliv占ira,2000)。これらは、構造上の特徴がS-RNaseと類似しているも のの5遺伝子座上にはなく自家不和合性の機能を担っていない。おそらく共通 祖先遺伝子からS-RNaseとSJike RNa岳eが独自に進化したと考えられてい る。 S-1ike RNaseにはゲノム構造上イントロンが1から3個挿入された3 種類が知られている(MaandOuveira;2000).:。Lリvンゴ、ナシのS-RNaseは イントロンが1カ所挿入されているものしか知られていないが、オウトウのS-RN舶eには少なくとも2カ所挿入されている肋血aneetal.,2000)。今のと ころ琴通祖先遺伝子からどのような過程で各種植物のS-RNase、S-1ikeRN畠Se が生じたのか不明である。 リンゴには唯一の自家和合品種として`恵,が知られているが、この自家打 合性の分子機構は全く不明である。 以上のリンゴに関するこれまでの知見に基づき、本研究は、○野生種から栽 培種に至るリンゴのS遺伝子型ならびに未同定のS遺伝子群の構造を明らかに