遠隔医療の法的問題
著者名(日)
河原 格
雑誌名
東洋法学
巻
47
号
1
ページ
121-140
発行年
2003-09-30
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000176/
︻研究ノート︼
遠隔医療の法的間題
1可原
格
はじめに
東洋法学
医療資源はわが国では都市部に集中し、その結果、都市医療と地方医療との格差が大きくなっている。また医 療技術の専門化がますます進行するに伴い、最先端医療を地方で実施することの意味が非常に大きく、その医療 を遠隔医療により実現できる可能性がますます高くなっている。この場合、経済上の効率性も無視できない要素 である。つまり遠隔医療の実施により、患者を病院から病院へ搬送する手間が省かれ、費用低減の上でも非常に 大きな意味をもつ。 では遠隔医療とは何か。一応、遠隔医療の定義としては、﹁映像を含む患者情報の伝送に基づいて遠隔地から診 ︵−︶ 断、指示などの医療行為及び医療に関連した行為を行なうこと﹂とされている。この定義に見られるように、情 121遠隔医療の法的間題 報伝達に伴い、医師は診断、治療計画について医学データを調査することにより、この際、病院対病院、医師対 医師ばかりでなく、家庭対医師、病院対家庭も遠隔医療の中に入るわけであり、いわゆるホームケアをも対象と することができる。遠隔医療が可能になったのは、もちろん情報のデジタル化によるのであって、瞬時に知識︵情 報︶を全世界的に取得し、接続できることになったおかげである。 本稿は、前記のような、遠隔医療のあらゆる適用領域を考察するのではなく、重点的に診断検査及びそれと非 ︵2V 常に密接不離の医療従事者への助言手術を間題とする。 一般的に遠隔医療の特徴は、専門医が患者のところにいるのではなく、空間的に患者と隔絶されている︵遠隔 医学︶ことである。このことは保険契約者にも患者にも多くの利点があるが、同時に患者にとって過小評価しえ ない潜在的危険をも生み出す恐れがある。なぜならば技術の点で高度の能力のない担当医が、患者を直接治療す るためであり、当該治療分野の専門医が場所的に担当医から離れている点にある。この場合、患者、保険契約者 にとっての前記の経済的な利益状態以上に、医学上の結果目的︵好結果︶を目指さねばならないことはいうまで ︵3︶ もない。また医師法二〇条に違反する可能性もあり、その点の疑間をいかに解消させることができるかである。
注
︵1︶ 遠隔医療研究/総括班報告書 一九九七年三月公表︵窪8ミω2貧Φヒ邑P碧む\①昌ざざ\8\︾&<置8。。。旨ド 拝巨︶つまり遠隔医療は異なった場所での関与者間で医療機関による情報伝達及び情報技術を用いることである。 =o℃Oρ]≦Φα肉一80 0迅爵。︵2︶ ︵3︶ ロボットによる手術は現在広範囲に用いられているわけではなく、研究試用の段階にあるとされる。たとえば、ド イツのライプチッヒ中央心臓研究所では一〇〇人以上の患者に対しロボットによる手術が成功していると報道され ている。ωΦ旨阜勾¢9閃R因RP営馴因8げ富ヰ餌鴨口αR↓巴Oヨa冒凶P82ψ緕。 一九九七年に旧厚生省は遠隔医療を行なうことは直ちに医師法二〇条に抵触するものではないとの見解を示して いる。だが、同条の﹁医師は自ら診察しないで治療をする﹂という点をいかに解釈するかが疑間として残る。なお生 命倫理事典 二〇〇二・八八ぺージ︵廣川博之︶参照。
二 医療水準
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︵1︶ 遠隔医療の場合の医療水準とは 一般に医師の義務は、患者を医術の規則に従って治療し、ケアすることである。この場合、一般的に医術の規 則はそれぞれの治療法について水準を決めることになる。従って医療水準は医療行為の基準であって、一般に医 師集団がその職業上の行為によって医療水準を決めるのであって、法律家が責任法上の要件により決めるのでも なく、立法者が立法行為により決めるのでもない。従って医療水準は静的に決まるのではなく、医術の進歩によ り変わりうる性質をもつのであって、動的な要素を有すると考えられるのである。従って医療水準自体を一般化 した言葉で表しにくい。 だが、それにも拘らず一般的に妥当する具体的な言葉で医療水準の内容を表現せねばならない。あらゆる医療 行為は医療水準に合致して実施されねばならないからである。この場合、経験のある専門医の水準を保証せねば 123遠隔医療の法的問題 ︵4︶ ならないのではない。 一般的に医師の診療義務は、医師がその専門的知識・経験を通して、その当時における医療水準に照らし患者 の病的症状の医学的解明をし、その症状及び以後の変化に応じて適切かつ十分な診療行為をなすべき義務である ︵5︶ とされるが、これとても極めて抽象的な債務内容をいうにすぎない。 医療水準の内容をめぐり、次のような最高裁の判示内容を基準とすることができ、またこれからの考察の基準 材料ともすることができる。 多数の判例のある未熟児網膜症事件で多く間題となった場合としては、新規の治療法の存在を前提にして検 査・診断・治療などに当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかを決するについて は、当該医療機関の特性などの諸般の事情を考慮すべきであり、右の事情を捨象して、すべての医療機関につい て診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当ではない。新規の治療法に関する知見が当該医 療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及し、当該医療機関に右知見を有することを期待することが 相当と認められる場合には、特段の事情のない限り、右知見は当該医療機関にとっての医療水準である︵最判平七・ 六・九民集四九・六・一四九九︵未熟児網膜症姫路日赤事件︶と判示した。 また、直接の治療行為自体についてではないが、新たな治療法を実施できる医療機関への転院または転医のた めの説明義務の有無の判断基準については、当時の医療水準として未確立の療法であっても、少なからぬ医療機 関において実施され相当数の実施例があり、実施した医師の間で積極的な評価もあるものについては、患者が当
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該療法の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心 を有していることを医師が知った場合には、たとえ当該医師が当該療法について消極的な評価をしており、自ら はそれを実施する意思を有していない時でも、なお患者に対し医師の知っている範囲で当該療法の内容、適応可 能性や、それを受けた場合の利害得失、当該療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務が あると判示している︵最判平一三二一・二七民集五五・六・二五四︶。 では遠隔医療と医療水準の関係について、いかに考えるべきなのであろうか。ここでは、ケルンの叙述を参考 として、この間題を取り上げたい。なぜならば、わが国では十分論ぜられるような基盤が端緒についたばかりの 状況であるのに対し、ドイツでは本格的に遠隔医療の法的間題点に取り組んでいるからである。 ︵6︶ ケルンによれば、遠隔医療にとり、前記基準は次の三つの点で興味深いとする。つまり第一に、遠隔医療は従 来からいわれているところであるが、医療行為の基準とされている医療水準を下回ることが許されるか否か。つ まり遠隔医療の場合、治療医とは別に専門医が距離的に離れてはいるが、その医師の助言により治療行為をする という状況であるから、その状況を無視して、専門医の治療行為の水準を維持せねばならないとするのは酷であ り、勢い当該治療医の技術水準を加味せねばならないわけである。従って医療水準を下回ることも考えられる。 第二に、遠隔医療の目指すより高度の水準の達成により、その達成がどれくらいその他の医療水準に影響するか を探らねばならない。第三は、現代の高度の情報制度が医師に要請される研修義務などにどのように影響するか が問題とされる。特に情報制度の発達は遠隔医療だけではなく、他の分野に対し大きな影響を及ぼすだろうから、 125遠隔医療の法的間題 第三の間題は遠隔医療特有の間題とはいえないことは承知のところではあるが、 い。 敢えてここで論ずることにした ︵2︶ 遠隔医療により医療水準が下回ることが許されることの是非 遠隔医療の内容には様々なものが含まれるが、ここではその代表例を挙げてそれぞれ論ずることにしたい。
ア 遠隔診断
遠隔診断の場合、患者と専門医との間は遠距離にあるため、患者を治療する医師と医師以外の職員の質の間題 が生ずる。この場合、前記医療水準が維持されねばならないことはいうまでもない。そのために、患者を治療す る医師の側になんらかの技術上及び医療上の不十分さがある場合に、その不十分さを専門医により埋め合わせる ことができるか否かを考察しなければならない。 第一に患者に関わる医師はいかなる任務を果たさねばならないかが間題である。専門医はいないけれども、専 門医が治療医の行なう検査方法をコントロールし、指導できるというのであれば、患者を治療する品質のよくな ︵7V い要員で十分ということになる。 特に必要な条件が治療医に備わっているのではなく、専門医のみに備わっている場合には、その限りで水準を 下回ることがありうるので、その場合には、治療医は転送をするか、患者に遠隔検査が水準未満であることを示 さねばならない。東洋法学
また遠隔診断は特に二人の高度専門医︵その中の一人は患者のところにいる︶によるビデオによる協議の形で 行なわれうる。この場合、ここで出された間題は生ずるはずがない。 にも拘らず、その治療医が遠隔操作ができなければ、それ相応の専門医が患者に立会わねばならないか、遠隔 ︵8︶ 医療をやめねばならない。特に医学側は実施可能性について次のように述べている。第一に、正確に切除された 組織と切断面についてのがんの腫瘍診断は、十分可能であるといわれ、特に性器の腫瘍に関する遠隔病理学上の 診断の場合には、別の内容が妥当するとされる。第二に、多くの病理学者は切断面に関する専門外の医師の判断 を信用していない。染色と試料の製作とを含む切断面を作成できるのは、外科医ではなく、病理学者のみだから という理由である。 ︵9︶イ 遠隔手術
遠隔手術は①執刀医が隣室にいる場合と、②執刀医が数キロ離れた場所で手術をコントロールするという仕方 で進行する場合がありうる。さらに③プログラム化されて進行する、つまり現実に指導する医師がいないままで 侵襲が行なわれる場合︵たとえば股関節全内装の際のスライス術︶がある。 遠隔診断の場合と同じく、遠隔手術を実施する場合、専門医の水準を保証せねばならない。つまり、侵襲のい ずれの時点も手術が従来の方法により続けられるということが保証されねばならないのである。かなり離れてい れば︵たとえば執刀医が病院外にいる場合︶、患者に対する十分なチーム医療が少なくとも呼びかけに応じられる ことによってのみこれは保証される。隣室での手術の場合、執刀医自身が直ちに従来の方法により侵襲を続けら 127遠隔医療の法的間題 ることで十分である。 さらに、次のような基本的な間題がある。患者のところにいる治療医は、侵襲を従来の方法で続行できるため に用意するだけでなく、場合によっては遠隔手術︵たとえばマイクロ計器の交換︶との関連でも任務を果たさね ばならないことも想定される。その限りで、専門医水準に達するのは重要ではないが、事実上の装置について取 扱い能力がなければならない。場合毎に手術室で働く看護婦などの側にも実際の装置についての取扱い能力があ る場合もある。従って全体的に患者に専門医と特殊の技術能力のある職員とが待機している必要がある。その限 りでこのような人と人との結びつきが想定される。 ウ 遠隔モニター 遠隔モニターで、患者の症状などを含めた状態を専門医が監視する方法については、従来からのいつでも呼び かけに応じられる態勢と関連し、水準の低下がない場合にのみ許される。このことは専門医の監視を受けねばな らない初心者としての担当医についてはなおさら当てはまる。 家庭にいる慢性患者の監視については、ケルンによれば、特に別の内容が当てはまるという。この場合には、 水準を高める明らかな質の改善方法が達成されうる。 ︵3︶ 遠隔医療による高度の水準の医療水準への影響 ︵−o︶ 遠隔医療を実施する意味は特に医療水準を向上させることにある。従って当該遠隔医療を導入したことにより、
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より高度の医療水準が実現されたか否かが間題とならざるをえない︵実験段階での手続きで既に水準を間う限り で︶。だが、水準が達成されたとすると、そのことと従来の治療法との関連が間題となる。 ︵H︶ シュテファンは従来からのむしろ控えめなBGHの判例を総括し、すべての病院が新しい技術に切り換えねば ならないというのではないと評価している。 事実、BGHは両極性の電気凝固高周波電流の代わりに単極性のそれを実施した場合につき、﹁特定の治療法が 古くなり、時代遅れになる結果、その治療法の利用は維持すべき質的水準に合わなく、同時に治療過誤となる時 期というのは、新たな治療法の危険がより少なく、しかもより治癒の機会が約束され、医学上本質的に議論の余 地がなくなり、従ってその適用のみが注意深く研修を重ねることを念頭に置く医師により責任を負われる時に到 来したのである。しかし、費用の点から、初めはおそらく市場への不十分な申出のため、治療水準を改良できる すべての技術上の革新を直ちに病院が導入できないので、古く、従来より利用されてきた方法により治療すると ︵12︶ いう一定の過渡期が認められねばならない﹂と判示する。 たとえば、より規模の小さい病院は、おそらく遠隔診断を導入することで、その水準を高めることもできよう。 なぜならば、そうした病院はよりすぐれた診断法を提案し、転医ないし搬送をしなくてすむからである。 遠隔医療の方法により、より高度の水準を達成できる医師は、この方法をも維持せねばならない。BGHは個々 の場合に専門医が達成できる、より高度の水準を、常に専門医の負わされている債務であるとみなした。﹁医師は 要求される水準を超えて医学上の専門知識を自由に使える場合には、その専門知識を患者のためにも使わねばな 129遠隔医療の法的間題 ろ ら
5研? な一
〇修 _ い馨 ゴ は 」! ︵4︶ 国際的なデータバンクによる最新の医療知識の取得 研修は医師の義務の一つである。医師の義務は教育終了後も医学上確かだとされている認識を取得することに ある。だがこの研修義務の範囲は極めて漢然としており、開業医と普通の病院、大学病院での医師の場合で異な っていると考えられる。 ︵14︶ このことについて最近、OLGは海外の医学文献上の知識・情報を医師に期待できないと判示した。だが、ネ ットで入手できる包括的で国際的な医学データバンクの時代にこのような要請を強めてはいけないのかは問題で あり、このような疑問が生ずるのは妥当なように見える。なぜならば、こうしたデータバンクを準備するための 質は普通急速かつ確実な入手を可能にするからである。国際的なデータバンクの利用は将来も最大の提供の場と して医師にますます要請される可能性が高くなる。注
︵4︶ ドイツの最高裁は周知のように、経験のある専門医の水準が保証されねばならないと判示した。ωO餌乞︸妻ご貫 一㎝①O︵ま曾︶● ︵5︶ ﹁要件事実の証明責任 債権総論﹂︵一九八六︶一二九ぺージ︵國井和郎︶。 ︵6︶ 因RP騨曽04ω㎝O●︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ パ パ パ
121110
) ) ) パ パ 1413 ) ) ωO頃Z一薫一。・ ωけ①頃窪\Uおωω一Rρ︾嵩9織9昌暢おO辟●刈.︾︵一8刈V菊N。H誤。 水準が向上したか否かは、ライプチヒの心臓手術の例で見られるように、いつも明臼に確認できるものではない。 従来の侵襲の場合よりも長めにかかるという不利がある。 術後の当日には痛みがなく、数日後病院を退院できる。小さい創面からの感染の危険は減少する。これに対し手術が 遠隔手術では、切ったあとと疲痕とが明らかにより小さくなり、胸骨はのこぎりで切断せねばならない。患者は手 る。同病院では、転送された画像が同時に利用・評価されている。 の手術棟○ウ↓声評には、ロボット顕微鏡がある。これとの統一的サービスはベルンブルク病院の病理研究所にあ たとえばベルンベルクの病院とケーテンの病院との協力関係︵二〇キロ離れている︶の例では、ケーテンの郡病院 である。 距離からの指示により超音波検査を蝦疵なく実施することになれば、この方法は専門医の水準に対する要件は十分 たとえば妊婦に対する超音波の事例がある。この事例はアムベルクで実施され、フランクフルトで鑑定された。遠 。o 。葛目︵嵩旨︶は﹁その時の医療水準に適合した﹂治療がいつ間題となるかを判断した。これはBGH がいつも最新の治療プランに従わねばならない、そのためには常に最新の水準に合った器械設備も必要でなければ ならないというのではない。 劇○目寓①α勾這。 。﹃bω一︵器N︶阿Z︸名一。。 。冒ミ。, ○いOζq目oびΦP宮Φα勾一〇〇〇︸&①。 三 方法の自由東洋法学
原則的に医師には教育、経験、実践に合致した方法により、治療方法を選ぶ自由がある。これがいわゆる医師 の裁量である。特に医師に考えられ、利用できるいくつかの治療方法があり、それぞれの治療方法について具体 ︵15︶ 的な治癒及び予後の違いがそれほどなければ、原則的に最も確実な方法を選ばねばならないとされる。だが、こ 131遠隔医療の法的間題 のことは医師が新規の措置をとってはいけないというのではない。従って遠隔医療の方法をテストするのは人間 に対する調査研究の条件の一般的な枠内では許される。 他方これは遠隔医療が適切な病象の場合にのみ利用することができるということである。たとえば心臓手術で は、現在、欠陥のある心臓弁膜についてはバイパス術と手術で修復する方法のみがある。そこから﹁疑わしい場 合には従来の方法を有利に用いるべきである﹂という基本ルールが出てくる。 従来の方法が疑わしくないのであれば、能力と可能性とに応じて、学校医学または遠隔医療の方法が利用でき る。遠隔医療はなお別の方法を排除する程度に普及してはいないが、質の上ではるかに優っていると想定されて いる。 だが、遠隔医療法は現に存在し、具体的な場合にはるかに優れた方法とされれば、同方法も利用されうる。 四 注意の基準 ︵−︶ 一 般論 遠隔治療の場合は、医師その他医療従事者が複数関与する、いわゆるチーム医療の場面でもある。この場合の 責任形態としては、患者側は使用者責任、共同不法行為責任のいずれかによりその責任を追及することになる。 だが、いずれの場合も、過失の内容により責任の有無は決まる。すると、この場合の過失内容をいかにして決定 するのであろうかが間題となる。
ケルンによれば過失内容としての注意義務は、集団過失論に従い測られるとされる。 ではこの集団過失論とは何か。その内容としては、医師の異なった集団毎に、異なった要件が立てられること ︵16V である。言い換えれば、普通医と専門医のそれぞれの治療領域の前提とする能力、そこで期待される知識、技術 が間題とされ、職業上の一員としての個人的な能力は間題とされない。その際、医師はその地位に応じて全く異 なった要求を満たさねばならないとされる。つまり大学病院の院長U一お算aからは小さな病院の部長医よりも ︵17︶ 専門的な能力を要求される。BGHはこの関係を﹁医療技術の急速な進歩とそれに伴う更に新しい経験と認識と を獲得すると、必然的に、たとえば患者が大きな大学病院に行くのか、人的物的に特に十分調った専門病院に行 くか、あるいは一般的なサービスをする病院に行くかに応じて、患者の治療の質は異なる。従って限界線上での 要求される医療水準は、人的物的な可能性に応じて異なってくる。中くらいか、小さい病院では基本的医療サー ビスが現代の医学の要請に合致する場合には、医療水準は保証される。患者に対し回避可能な畏損をすれば、明 ︵18︶ らかに標準に達しない設備で初めて責任を生じさせざるをえない。﹂と判示した。
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︵2︶遠隔手術
遠隔手術を実施する医師は、遠隔手術の必要とする付属的な情報を自由に利用しなければならないということ である。 遠隔手術の方法が従来の療法よりも明らかに優れた結果を目指すとしても、同術はすべての段階の病院で提供 133遠隔医療の法的問題 されねばならないのではない。従来の方法により治療する医師は、更にそれをも利用することが許され、従来の 方法が﹁明らかに貧弱な手術﹂とみなされるほどに、遠隔医療が普及、浸透していなければ、遠隔手術によるこ となく、従来の手術によればよいとされる。
︵3︶遠隔診断
だが、遠隔診断は一般的な注意基準に対し大きく影響する。なぜならば、遠隔医療の形式は従来の治療法の欠 陥を補うのに役立つからである。その場合、専門医の注意義務が債務内容とされ、患者が収容されている当該施 設での注意義務が債務内容とはならないと考えられるからである。注
︵15︶ω醇︷窪\90ωω一Φ述。PO。菊N。一鐸 ︵16︶ 囚RP騨POψ曾。大学病院では小さなラント立病院の場合とは異なる最大限のサービスを提供する場所として、 別の基準が適用されると判示している。閃○=Z薫HO。 。o 。レ竃ズa旨︶, ︵17︶ U蝉鼠ω>鵠qΦo拝●㎝>︵一〇〇ω︶菊N◎ミト ︵18︶ ωO目Z旨名一〇〇 〇8一ミO、 五 説明と助言 遠隔診断・治療をしようとする際には、以下のように区別する必要がある。第一にどの程度まで、従来の方法をとっている医師は患者に対し、遠隔医療の可能性を説明せねばならないかである。 遠隔医療が稀に実際され、従来の方法が治療上の基準としてなお対応しているとして考えられている場合には、 遠隔医療そのものについての情報提供義務は当該医師にはない。つまり従来の方法により治療する医師は他のと ころで遠隔医療が提供されていると示す必要もない。その限りで代替治療の際の高められた説明義務の準則によ る情報提供義務もない。 だが極めて例外的な場合にのみ、別の内容が妥当する。つまりもちろん、⋮⋮常に特別の医学上の知識と経験 を有する医師の治療を必要とする疾病にかかった患者は、それにふさわしい特殊の病院にさらに転送されねばな らない。その限りでのみ、助言義務が存在するとされる。 遠隔治療を実施することになれば、通常の原則により診断、経過、危険について説明し、特に従来の医療で存 在する代替治療についても説明せねばならない。 なお、遠隔医療による治療が試験段階にある限りでは、試験段階で要求される高度の要件が適用される。 六 医師の責任の帰すう
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関与した医師のうちいずれの者が責任を負うかを明らかにする必要がある。多くの場合、その限りで医師の分 業の新たな形態の間題であるといってよい。 遠隔医療の可能性があって専門医が関与した場合、または専門医に転送された場合︵たとえば妊婦に対する超 135遠隔医療の法的間題 音波診断︶、間題は別である。だがこの場合事実上、新たな責任法上の場合であり、具体的な契約形成毎に、一般 ︵19︶ に対診医の責任に倣って論じられる。つまり判例では、関与した専門医は単に助言のために呼ばれただけでなく、 ︵20︶ 独立し、かつ自己責任で治療する場合に、初めて責任を負うことが原則的に妥当するとされる。だが、対診医が 一連の事例経過を指揮する場合には、対診医︵助言者︶は共同行為者となる。普通、対診医への転医の際はそこ が出発点である。従って遠隔操作で意見を求められた医師が診断していて、主治医が補助の役目を果たしている 場合には、対診医自身の責任が考えられる。そうでない以上、対診医は主治医の履行補助者であると考えられて いる。 さらに遠隔手術の局面では、執刀医が優先的に責任を負う。関与医と医師でない職員は垂直的分業に応じての ︵21︶ み責任を負うにすぎないとされている。 異なった専門領域の医師が遠隔操作により協力し、二つの治療法の組み合せにより、患者に特別の治療危険が 発生する場合には、医師問に利用すべき治療法についての合意が必要である。判例によると、この場合、信頼の ︵22︶ 原則は妥当しないとされる。 ︵19︶ ︵20︶ 注 Oお目鮮冒”一き房\d巨Φ昌歪畠届如’P﹄o 。o 。”勾N’鐸留蜀勾N●お矯対診医囚oお蜜巽巽昌11囚o房ま胃ごωとは主 治医が自らのために医療上の助言を求める同僚の専門医または専門医をいい、患者と契約関係にない。なお﹁世界 の医事法﹂︵一九九二︶六〇ぺージ注︵17︶︵今西康人︶参照。 OUOωεけ眞蝉昌冨oα勾一8一レ斜ω・
︵21︶ ︵22︶ 因Φ旨甘”U雲於\d巨Φ暮肘8F鉾鉾ρ留貫寄。呂斥この垂直的分業の内容については後日検討する。なお橋口賢一 ・同志社法学第五四巻第五号︵二〇〇三︶一五五ぺージ以下参照。 切○国竃8因お遷o 。曽︵ω認γなお、異なった責任担当者の医師または全く異なった国の医師が関与している場合 も、別の間題となる。この事情についても後日検討する。
七 組織過失
遠隔医療の導入に際し、かなりの組織過失義務が病院設置者に負わされる。特に必要な装置及びプログラムを 用意し、整備し、職員を教育し、その教育を整備することについてである。医師と遠隔医療の職員との関係には、 ︵23︶ 後者は医師ではないので、信頼の原則は適用されないとケルンは論じている。 ︵23︶ 注 因RP一員国①魯富ヰ諾窪ψO轟●だがその理由については明言していない。東洋法学
八 ま と め ︵24︶ 結局、ケルンは遠隔医療の場面で注目に値するなんら特別な点は見当たらないと結論づけている。 特に遠隔医療診断では患者を専門医に転送する、または遠隔医療により専門的な判断を下さねばならないとい 137遠隔医療の法的間題 うような徴候が見落とされるというような典型的な間題が明らかに起こる。 下のような準則に考えることができる。 遠隔手術に対する要件も一般的に以
︵1︶医療水準
遠隔手術を実施する場合には、専門医の水準を保証せねばならない。専門医と患者を治療する医師との空間的 な相違は専門医の水準が患者に対し保証されないということになってはならない。 他方、遠隔医療により水準を超える専門医の知識が利用されるという状況が生ずることがあっても、それは、 医療水準が一時的に別の医師にとっての医療水準の変更となりうるわけではない。 つまり遠隔医療により水準が高められた場合には、その高められた水準が遠隔医療にとっての基準である。 ︵2︶ 治療法の自由 前述のように、医師は、自己の教育、経験、実践にかなう仕方で治療法を選ぶ自由を有するという原則が認め られている。特に医師にいくつかの方法がある場合、最も確実な方法を選ばねばならない。このことから、﹁疑わ しい場合には従来の方法を有利に選択する﹂という原則が導かれる。 これは特に遠隔医療を適切な病象の場合にのみ利用するということである。たとえば、現在のところでは心臓 外科手術でバイパス術と手術により心臓弁膜症を回復させる場合がそうである。そうでなければ、 通りである。 能力及び可能性に応じて学校医学または遠隔医療の方法が用いることができることは前述の
︵3︶注意基準
︵25︶ ケルンによると、集団過失の基準が注意基準として妥当するとする。これは専門医の異なった集団毎に異なっ た要件が定められるということである。従って、遠隔医療が明らかに従来の医療よりも好結果をもたらすのであ っても、遠隔医療が全く世間で認められない限り、遠隔医療の示す基準が他の医師に対し要求しえないことはも ちろんである。東洋法学
︵4︶ 説明と助言 前述のように、病院または医師は遠隔医療による治療を提供できない病院または医師は、遠隔医療がよそで実 施されていると示す必要もない。その限りで、代替治療の際の高められた説明原則による説明義務もない。 遠隔医療が実施されることになれば、診断、経過、危険を説明する原則により、従来の医学での現在の代替治 療案についても説明されることは前述した通りである。 139遠隔医療の法的間題