291 <研究ノート>
運動が酸化ストレスに与える影響
Effect of Exercise Training on Oxidative Stress
加藤倫卓
1,久保明
1,塚本敏也
1,栗田泰成
1,光地海人
2,森雄司
2,川瀨翔太
2,
千﨑史顕
2,落合康平
2,平野幸伸
1Michitaka KATO
1, Akira KUBO
1, Toshiya TSUKAMOTO
1, Yasunari KURITA
1,
Kaito KOCHI
2, Yuji MORI
2, Shota KAWASE
2, Fumiaki SENZAKI
2,
Kohei OCHIAI
2, Yukinobu HIRANO
11常葉大学健康科学部静岡理学療法学科,
Department of Physical Therapy, Fuculty of Health Science, Tokoha University 2国立病院機構静岡医療センターリハビリテーション科
Department of Rehabilitation, Shizuoka Medical Center
【要 旨】
【目的】近年,ストレッチング体操が,柔軟性の向上のみならず,酸化ストレスを軽減させることが報告さ れている.本研究は,運動習慣を有する急性心筋梗塞(AMI)患者に対するストレッチング体操が,酸化ス トレスに与える影響を明らかとすることを目的とする.【方法】対象は,定期的な運動習慣を有している AMI 患者 30 名を採用する予定である.患者を,ストレッチング群とコントロール群の 2 群に無作為に分類する. ストレッチング群は 7 種類のストレッチから構成されているストレッチング体操を毎日 20 分,4 週間実施 する.調査測定項目は,酸化ストレスの指標として血清マロンジアルデヒド修飾 LDL-C と血中活性酸素種, 抗酸化酵素の指標としてスーパーオキシドディスムターゼ活性,グルタチオンペルオキシターゼ活性および カタラーゼ活性を測定する.【予想される結果】ストレッチング群において,介入後の酸化ストレスの指標は 介入前と比較して有意な減少を示し,介入後の抗酸化酵素は介入前と比較して有意な増加を示すと予想され る.【まとめ】運動習慣のある AMI 患者に対する 4 週間のストレッチング体操は,抗酸化酵素の増加を介し て酸化ストレスを軽減すると予想される. Key Words:急性心筋梗塞,ストレッチング体操,酸化ストレス 1. はじめに 生 活 習 慣 病 の 増 加 や 社 会 の 高 齢 化 な ど を 背 景 と し て , 狭 心 症 や 急 性 心 筋 梗 塞 ( Acute M y o c a r d i a l I n f a r c t i o n : A M I)などの動脈硬化 性疾患の罹患率が増加している 1).近年,動脈 硬化を形成するメカニズムのひとつに,酸化ス ト レ ス の 亢 進 が 強 く 関 与 し て い る こ と が 明 ら かとされている 2).酸化ストレスの亢進とは, 体内で発生する活性酸素種と,活性酸素種を還302 元 し て 弱 毒 化 す る 抗 酸 化 物 質 と の バ ラ ン ス が 崩 れ , 体 内 で 活 性 酸 素 種 ( Reactive Oxygen Species : ROS)が過剰となった状態を指す 3). 過剰となった ROS は,低比重リポタンパクコ レ ス テ ロ ー ル ( Low-Density L i p o p r o t e i n c h o l e s t e r o l : L DL-C)を酸化して 酸化 LDL-C を産生する.酸化 LDL-C は,血管 の 内 膜 に お い て マ ク ロ フ ァ ー ジ に 貪 食 さ れ 血 管壁が肥厚することにより,アテローム性動脈 硬化を形成し,その結果 AMI を発症させると 考えられている 4).また,酸化ストレスの亢進 は,交感神経活性の亢進や血管炎症を惹起する ことから,AMI の再発の増加や予後の悪化に関 係することが報告されている5).このことから, AMI 患者において酸化ストレスを軽減するこ とは,AMI の再発リスクを軽減し,予後の改善 にも寄与すると考えられる. 一方で,AMI 患者に対する運動療法は,AMI の再発を予防し,予後を改善することが示され ている 6).特に,持久力運動は抗酸化酵素を増 加させることにより,酸化ストレスを軽減し, 血 管 炎 症 や 血 管 内 皮 機 能 障 害 を 改 善 す る こ と が報告されている7 ), 8).さらに近年,持久力運 動 の ウ ォ ー ム ア ッ プ と し て 広 く 行 わ れ て い る ストレッチング体操が,柔軟性の向上のみなら ず,抗酸化反応を増強させることも報告されて いる9).我々が行った先行研究においても,運 動習慣の無い心不全患者に対する 4 週間のスト レッチング体操によって,酸化ストレスの軽減 を認めている.以上のことから,ストレッチン グ体操は,持久力トレーニングと同様に酸化ス ト レ ス の 軽 減 に 対 す る 有 効 な 運 動 療 法 に な る と考えられる. しかし,運動習慣を有する AMI 患者に対す るストレッチング体操が,酸化ストレスに与え る影響は未だ検討されていない.また,ストレ ッチング体操が,酸化ストレスを軽減するメカ ニズムも十分に明らかとされていない. よって,本研究は,運動習慣を有する AMI 患者に対するストレッチング体操が,酸化スト レ ス に 与 え る 影 響 を 検 討 す る こ と を 目 的 と す る.また,ストレッチング体操が酸化ストレス を 軽 減 す る メ カ ニ ズ ム を 明 ら か と す る こ と も 本研究の目的とする. 2.方法 2.1.対象 本研究のプロトコールは,国立病院機構静岡 医 療 セ ン タ ー の 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 受 け て い る. 本研究は,2014 年 9 月から 2016 年 4 月の間 に AMI で入院し,外来の心臓リハビリに通院 している患者の内,定期的な運動習慣を有して いる 30 名を採用する予定である.定期的な運 動習慣を有する患者とは,中等度強度以上の持 久力運動を 1 回に 30 分以上,週に 3 回以上実 施して,1 週間の合計運動時間が 90 分以上とな る場合と定義した.除外基準は,心臓超音波検 査から得られた左室駆出率(Left Ventricular E j e c ti o n F r a c t io n : LV E F)が 40%未満を示し ている患者,血行動態が不安定な患者,ストレ ッ チ ン グ 体 操 の 実 施 が 困 難 で あ る 中 枢 神 経 疾 患,整形外科疾患または認知症を合併している 者とする.また,介入期間中に,服薬の変更が あった患者も本研究から除外する. 患者背景因子として,介入開始日の年齢,性 別,体格指数(Body Mass Index: BMI),合併 症,New York Heart Association の心機能分類, 収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,血漿脳性ナ トリウム利尿ペプチド,LVEF および服薬状況 を調査する. 2.2.研究プロトコール この研究は,単一施設,非盲検,無作為化比 較試験とする. まず,4週間のストレッチング体操を実施す るストレッチング群と,研究開始前と同様の生 活を4週間継続するコントロール群の2群に無 作為に患者を分類する.無作為化は,コンピュ
313 ータによって作成した乱数表を用いて行う. その後,すべての患者は,介入開始日に血液 検査と運動機能の評価を受ける.ストレッチン グ群は,介入開始日とその翌日の2日間,理学 療法士から直接ストレッチング体操の指導を 受けながら体操を実施する.その後,ストレッ チング群はストレッチング体操を毎日,4週間, 自宅で実施する.コントロール群は,介入開始 日から4週間,研究前と同様の生活様式を継続 する.4週間のストレッチング体操を実施した 後の介入後の評価として,全ての患者は,介入 終了日に血液検査と運動機能の評価を受ける. さらに,患者の身体活動量を,介入開始日から 終了日までの4週間連続測定する.なお,介入 期間中は,すべての患者に対して,研究前に実 施していた運動を含む生活習慣を維持するよ うに指導する. 2.3.ストレッチング体操 ストレッチング体操は,手関節掌屈,手関節 背屈,体幹回旋,閉脚位における体幹前屈,開 脚位における体幹屈曲,片膝位における股関節 伸展そして足関節背屈の7種類のストレッチか ら構成されている(図1:【a~g】). 患者は,30秒間の筋肉のストレッチを実施し た後,20秒間の休憩を行い,これを2度実施す る.筋肉を伸長する強度は,伸長を行っている 部位の痛みがないように心地よい程度で行い, さらに,筋肉をストレッチしている間に呼吸を 止めないように指導する. なお,患者がスト レッチング体操を実施する際には,毎日オリジ ナルのビデオを見ながら実施するように指導 する1 0). 2.4.測定条件 血液検査と運動機能の測定は,午前中に実施し, 朝食および全ての薬剤の内服を行わない状態 で実施する.さらに,測定の12時間前からアル コールやカフェインの摂取および激しい運動 は控えるように指導する. 血液のサンプルは上 腕の正中静脈から採取された後,血清を遠心分 離して,測定まで4℃で保存する. 図1 ストレッチング体操 ( a )手関節背屈,(b)手関節掌屈,(c)体幹回旋, (d) 閉脚位における体幹前屈,(e)開脚位における体幹屈 曲,(f)片膝位における股関節伸展,(g)足関節背屈 2.5.酸化ストレスおよび抗酸化酵素の指標 酸化ストレスの指標として,血清マロンジア ルデヒド修飾 LDL-C および血中活性酸素種を 測定する.抗酸化酵素の指標として,スーパー オキシドディスムターゼ活性,グルタチオンペ ル オ キ シ タ ー ゼ 活 性 お よ び カ タ ラ ー ゼ 活 性 を 測定する. 2.6.運動機能 体 幹 と ハ ム ス ト リ ン グ ス の 柔 軟 性 の 評 価 の 指標として,長座体前屈計を使用し,Modified sit-and- reac h te st(SR)を測定する.測定は, まず壁に臀部,背中および頭部をつけた長座位 姿勢をとる.患者は両上肢と膝を伸展したまま, 上体を可能な限り前屈し,指先で測定機器の定 規を滑らせ,その移動距離を測定する.SR は 2 回測定し,最大値を解析値として用いる. 2.7.身体活動量およびストレッチング体操の 実施頻度 身体活動量の指標として,一日の平均歩数と 中等度以上の運動強度の活動時間を,加速度計
324 付 き の 歩 数 計 で あ る 生 活 習 慣 記 録 器 (Lifecorder GS, SUZUKEN, Tokyo, Japan: LC)を用いて測定する.患者は,LC を入浴時 と睡眠時を除いて,介入開始日から1週間,そ して介入終了日の前1週間,腰に装着する.装 着 期 間 の 身 体 活 動 量 の 平 均 値 を 解 析 値 と し て 用いる. ストレッチング体操の実施の確認は,ストレ ッチング体操の実施記録表を用いる.患者がス トレッチング体操を行ったときに,その日にち をチェックシートに記録し,4 週間の介入期間 後にその数を集計する. 2.8.統計学的手法 研 究 開 始 時 に お け る 患 者 背 景 因 子 の 両 群 間 の比較および身体活動量の比較は,対応のない t検定あるいはχ2検定とフィッシャーの正確確 率検定を用いる.各調査項目の経時的変化につ いては,群(ストレッチング群とコントロール 群)と測定時期(介入前と介入後)の2元配置 分散分析を使用する.もし,F値に統計的に有 意な差が認められた場合は,Post Hoc testを実 施する.全ての値は,平均値±標準偏差として 明記し, 統計解析にはSPSS 19.0 for Windows を使用し5%未満を有意水準とする. 3.予想される結果 ストレッチング群において,介入後の酸化ス ト レ ス の 指 標 は 介 入 前 と 比 較 し て 有 意 な 減 少 を示すと思われる.さらに,ストレッチング群 において,介入後の抗酸化酵素は介入前と比較 して有意な増加を示すと予想される.また、コ ントロール群におけるすべての項目は,介入前 後で有意な変化は認められないと予想される. 4.予想される結果からの考察 本研究は,運動習慣のある AMI 患者に対す る 4 週間のストレッチング体操が酸化ストレス へ 与 え る 影 響 と 酸 化 ス ト レ ス の 改 善 の メ カ ニ ズムを明かにすることを目的としている. 本研究において,運動習慣のある AMI 患者 にする 4 週間のストレッチング体操は,酸化ス トレスを減衰させると予想される.その理由と しては,抗酸化酵素の増加が考えられる.マウ ス を 用 い た 動 物 実 験 に お い て 骨 格 筋 細 胞 に 対 して他動的な機械的ストレッチを負荷すると, 数 時 間 以 内 に 細 胞 内 で 活 性 酸 素 分 解 酵 素 で あ るスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の 生成が亢進することが報告されている11).また,
Sanka ralin gamらは,妊娠高血圧腎症の妊婦に 対 し て 長 期 間 の ス ト レ ッ チ ン グ 体 操 を 実 施 さ せたところ,小動脈の血管内皮細胞において, SOD の発現が歩行練習をした妊婦よりも有意 に高かったことを報告している 9).これらのこ とから,ストレッチング体操を繰り返し長期に 渡り実施することによって,骨格筋細胞内や血 管内皮細胞内の SOD 含有量が増加すると考え られる.その結果として,細胞内の SOD の増 加により血中に流出する ROS が減少し,酸化 ストレスが改善すると考えられる. 本研究の結果は,酸化ストレスを減衰させる という視点から,AMI 患者が持久力トレーニン グ に 加 え て ス ト レ ッ チ ン グ 体 操 を 実 施 す る 意 義を明らかにできる点で,臨床的にも重要であ ると考えられる.また,本研究により,ストレ ッ チ ン グ 体 操 が 酸 化 ス ト レ ス を 改 善 す る 機 序 も明かにすることができると考えられる. 本研究は,常葉大学共同研究費の補助を受け て実施する予定である. 5.引用文献 1) 坂田 泰, 後岡 広 and 下川 宏. 【循環器 病学における臨床研究-いかに確実に臨床 に還元するか】 わが国の疾患登録研究か ら学ぶ 慢性心不全登録研究(CHART-2 研 究)から学ぶ Evidence & Pitfall. 医学の あゆみ 2013; 244: 1271-6.
335 2) Niki E. Do free radical s play cau s al role
in a ther osclerosi s? Low density lipoprotein oxidation an d vita min E revisited . J o u r n a l o f c l i n i c a l b i o c h e m i s t r y a n d n u t r i t i o n 2011 ; 4 8: 3-7 . 3) 久木留 大, 西川 武 and 荒木 栄. 【活性 酸素-基礎から病態解明・制御まで】 疾患 病態・臨床編 糖尿病における酸化ストレ ス 制 御 異 常 . 医 学 の あ ゆ み 2013; 247: 915-20.
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Antioxidati ve effects of exerci se t r aining in p atient s wit h c hro nic hear t f ailure: increa se in radic al sc avenger en zyme activity in skeletal m uscle . Cir c ulation 2005; 111 : 1 763-70.
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