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サービスラーニング理論による海外教育実習プログラムの構築

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サービスラーニング理論による

海外教育実習プログラムの構築

児 玉 奈 々

Incorporating International Service Learning into

Pre-service Teacher Education in Japan

Nana KODAMA

キーワード:海外教育実習、サービスラーニング、教員養成、海外留学 はじめに 1975 年に約 75 万人だった世界の高等教育機関で学ぶ留学生の人数は、2000 年以降に急増し、2016 年には 500 万人となった(OECD, 2018; 太田・工藤・上別府、2014)。一方、日本人の海外留学者数は 2000 年代前半までは順調な推移を示したが、2004 年をピークに減少に転じた。この減少傾向は、高額 な留学費用の工面が困難という経済的な理由、留学時期と就職活動との重複といった留学を阻害する 諸要因の影響があったものの、日本の若者が海外への興味を持たなくなっている「内向き志向」が主 たる理由と論じられ、問題視された(小林、2011)。このような状況を受けて、日本政府は、産業界か らの要請でもあるグローバル人材の育成を目指すため、学生への奨学金給付事業や大学が取り組むグ ローバル化推進事業への財政支援事業などの若者の海外留学を促進する関連政策を展開している(太 田、2018)。 こうした中、日本では教員養成においてもグローバル人材育成の必要性が論じられるようになっ た。従来、教育学部生などの教員養成系の学生は、過密なカリキュラム、実習の時期・回数といった教 員免許取得に関わる制度、教員採用試験の受験時期との兼ね合いなどのスケジュールの制約により、 海外留学への参加率は他専攻の学生と比較して少ない状況にあった(児玉、2015)。教員養成系学生の このような動向も「内向き志向」と評され、それへの懸念から、2012 年の中央教育審議会答申「教職 生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」では、教職におけるグローバル化 に対応した人材の育成が取り上げられ、教職課程を置く大学で教員を志望する学生の海外留学を促進 することが提案された(中央教育審議会、2012)。 2017 年には、文部科学省が 2013 年に開始した留学促進キャンペーン「官民協働海外留学支援制度∼ トビタテ!留学 JAPAN 日本代表プログラム」(以下、トビタテ!留学 JAPAN)1) の「グローバルリー ダーの育成」と同様の理念を掲げた教員養成における取り組みとして、「トビタテ!教員プロジェクト」 が始まった。このプロジェクトの一環で制度改正の検討が進められた結果、2019 年度から、海外の日 本人学校などの在外教育施設で教育実習を行うことが可能となった。小学校外国語教育の早期化・教 科化や外国人児童生徒教育などの教育の国際化の動向を踏まえ、こうした変化にグローバルな視点や 考え方で対応できる教員を育成していこうというものである。在外教育施設で働く教員との接触を通し て様々な教授法、情報、グローバルな視点を学ぶこと、現地の特色ある教育や指導法に触れることによ り、教員自らのグローバル化を進めることが目指される(文部科学省、2018a;文部科学省、2018b)。 * 滋賀大学教育学部

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自国以外の国で教育実習を行う海外教育実習は、すでにアメリカやカナダの大学が外国の現地校や インターナショナルスクールにおいて実施してきた取り組みである。今回の制度改正により、日本の 教員養成系学生も海外をフィールドにした実践的な学習の場に参加することが今まで以上に容易とな り、海外教育実習は今後の発展が期待できる取り組みである。しかし、海外教育実習を導入している 日本の大学は多くはなく、海外留学をテーマとする研究も蓄積されていないことから、今後の海外教 育実習のあり方を展望するために十分な経験や知見は得られていない。 そこで、本論では、海外教育実習が、日本のグローバル人材育成が推進される現状において、目的、 期間、時期の点で教員養成系学生に適した海外留学の形態であることを論じるとともに、より効果的 な海外教育実習プログラムの構築に向けてサービスラーニングの理論に基づいた実践の可能性を検討 する。 1.教員養成系学生のための海外プログラム 近年、日本の各大学は、政府による海外留学促進事業という後押しもあり、留学や研修などの海外 プログラムの開発や導入を進めている。現在の日本の高等教育における海外プログラムを「主たる目 的別」で類型化すると、専門履修型(留学先で自分の専門を履修するタイプ)、専門研究型(留学先の 研究室で専門を研究するタイプ。理系に多い)、教養履修型(留学先で自分の専門とは特に関係ない内 容(語学を除く)を学ぶタイプ)、共同ワークショップ体験型(専門の研究よりも海外の学生と共同 ワークショップを体験することに意義があるタイプ)、フィールドワーク型(派遣先の海外現地の人た ちを対象としたフィールドワーク・調査を行うタイプ)、語学習得型(語学研修と銘打たれたタイプ。 異文化体験が含まれているもの)、キャリア開発型(キャリアに重点が置かれたタイプ。インターン シップを含む)などがあり、多様化していることがわかる(学校法人河合塾、2018)。 多様な目的を持った海外プログラムが開発される一方、期間別に見た場合、多くの大学が短期のプ ログラムに力を入れるようになっていることがわかる(河合塾、2019)。教員養成系学部を持つ大学も、 教員を目指す学生向けに夏休みや春休みなどの長期休業期間中に数日間から数週間の日程で実施する 短期の海外プログラムを導入している。その代表的なものが、海外の現地校や教育施設を訪問し、教 育活動の見学や児童生徒との交流を行う短期海外研修である。現地の小・中・高校の授業を参観する 三重大学の教育学部生向けニュージーランド研修(後藤・荒尾、2013)、現地を訪問しての学生交流、 各学校段階のクラス・授業観察、大学講義の受講を台湾の大学と相互に行う千葉大学の教育学部生向 け学生交流プログラム(ホーン・伊藤・市川、2019)などの事例がある。また、昨今、教職大学院に よる短期海外研修も増えており、教職大学院の学生が韓国の協定校の学生や現職教員との交流や附属 校や公立学校を視察する宮城教育大学の海外研修の事例がある(高橋、2015)。 大学が実施する短期の海外プログラムは、参加者数においても増加傾向にある。日本学生支援機構 が毎年実施している調査によると、2018 年度に大学等の協定に基づく留学制度を利用した日本の大学 生数は 10 万人を突破した前年度から 9,845 人増えて 115,146 人となり、2009 年度の 36,302 人から 3 倍 近く増加した。この人数を留学期間別に見ると 1 か月未満の留学が 76,545 人と全体の 66.4%を占めて おり、1 か月未満留学者数の占有率が 46.5% だった 2009 年度からの大幅な上昇が目立つ(文部科学省、 2020)。 このような長期留学を敬遠する動きや短期留学の急増の背景には、経済的負担の大きさや就職活動 への影響を懸念する学生が増えていることがあるとされる(『朝日新聞』2019 年 3 月 3 日朝刊)。また、 特に短期間の海外プログラムを支援するために 2011 年に始まった、大学間協定に基づく 3 か月未満の 留学生の受け入れと派遣に奨学金を給付する「ショートスティ・ショートビジット」のような政府に よる支援が拡充されたことも要因の一つと考えられる。 この潮流の中で、短い渡航期間でも実践的な体験学習が可能な海外プログラムを設計する大学が増

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えている。日本学生支援機構が実施した政府の海外留学支援制度の奨学金を利用した留学経験者のう ち、留学・研修中のインターンシップ経験(公的機関・企業・NGO における研修、大学研究室での研 究体験、臨床実習体験、教育実習)について、2011 年度の場合、3 か月未満の短期の留学を指すショー トビジットで 10%、留学期間が 3 か月以上 1 年未満の留学で 11.2% の学生が「有り」と回答した。翌 年度のインターンシップ経験者はショートビジットで 14.4% へと上昇し、3 か月以上 1 年未満の留学は 8.4% と逆に低下している(独立行政法人日本学生支援機構海外留学支援制度(協定派遣・協定受入) 評価分析委員会、2015)2) 。 インターンシップが組み込まれた短期の海外プログラムの開発・導入が日本の大学全体で拡大して いることは、教員養成系学生にとっても歓迎すべき動向と言える。教員養成系学生向けのインターン シップを含む短期の海外プログラムの一つである海外教育実習は、1970 年代にアメリカの大学の教 員養成系学部で導入されたものである。将来自国の学校で教員となる人材に国際経験を積ませ、アメ リカ各地の学校に増加する移民の子どもへの対応に必要な異文化理解力や多文化対応能力を身に付け させることを意図して開始された(児玉、2015)。日本の教員養成系学生の海外留学参加率の低さに ついてすでに述べたように、過密なカリキュラムを持つ理学、工学、看護系、教員養成系などの専門 職養成系学部の学生の低い海外留学参加率はアメリカでも課題として指摘されていた。教員養成系学 生がより容易に海外留学に参加できるような方策が検討され、短期間の海外滞在で専門領域について 実践的に学ぶことのできる海外教育実習プログラムが開発された(Brown & Tignor, 2016; Mahon & Espinetti, 2007; Woodruff & Henry, 2012)。海外教育実習は、現在では、アメリカだけではなく、カナ ダ、オーストラリアなどの移民受け入れ社会の大学でも導入が進められている。そして、これまでに 海外教育実習の参加学生の意識やプログラムの効果の実証研究が行われてきており、海外教育実習に よって得られる効果として、異文化コミュニケーション能力の向上、自立・独立心の育成、海外の教 育システム・制度・方法に触れることによる教員の専門性へのプラスの影響などがあることが明らか にされている(児玉、2015)。 短期間の参加で大きな効果が期待できる海外教育実習は、長期の海外留学への参加を諦めていた日 本の教員養成系学生にとっても重要な意義を持つものとなるだろう。しかし、海外教育実習を導入し ている日本の大学は、それほど多くないのが現状である。前述の日本の大学で増加している教員を目 指す学生向けの短期海外プログラムは、現地の教育施設の見学や子どもとの交流を行うもので、国内 の教育実習で行われているような授業実習や学級活動・行事の補助に学生は携わらない。また、海外 で授業実習を行う取り組みでは、日本語教師を目指す学生が参加する日本語教育実習を 2016 年に必修 化する制度が適用されたことを背景に海外の高等教育機関などで日本語教育実習を実施する大学が私 立大学を中心に増加傾向にあるものの(渡辺・今西、2019)、初等・中等教育段階の教員を志望する 学生が参加する事例はわずかである。管見では、2003 年に岩手大学が開始した英語教育専攻の学生が タイの公立中等学校で日本文化について英語で授業を行うプログラムや愛媛大学、千葉大学、群馬大 学、北海道教育大学などによる同様のプログラムのように、2000 年代半ばから一部の国立大学の教員 養成系学部が開始したものに限られる(伊藤他、2018;学校法人河合塾、2018;隅田他、2011;野村 他、2017;山崎・Hall・Unher、2010)。 また、これらの先行事例は学生の自由参加や課外活動として実施されてきたこともあり、いずれも 参加者数は少数に留まっている。アメリカやカナダのいくつかの大学では、海外教育実習を選択必修 科目に位置づけたり、海外で教育実習に参加することを一部の教科の教員免許取得の条件としたりす るなど教員養成プログラムのカリキュラムとのつながりを考慮した海外教育実習プログラムが設計さ れている。このような工夫によってカリキュラム上の必修科目や国内の教育実習との重複の問題を回 避することができ、より多くの学生が海外教育実習に参加することが可能となった例もある(児玉、 2015)。このことを踏まえると、日本の大学において在外教育施設における教育実習が可能となったこ とは、国内の教育実習と関連した教育職員免許法施行規則の一部改正として行われた制度改正である

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ため、学生が国内実習との重複の問題に煩わされることなく、海外プログラムを履修計画に組み入れ やすくなり、教員養成系学生の海外留学参加率の向上にも寄与する可能性がある。 2.実習の派遣側と受け入れ側との間に見られる認識・意識の差異 教員養成系学生に適した海外留学の形態であり、グローバル教員の育成方法として期待が高まる海 外教育実習であるが、日本の大学にとって新しい取り組みであるため、今後の拡充と発展に向けてさ まざまな点において検討が必要となる。ここでは教員養成における類似の取り組みを参考に、海外教 育実習の開発・導入に際してどのような課題を検討しておく必要があるかを考えることとする。 海外教育実習のような正規の教育実習以外で教員養成系学生が参加する体験学習活動としては、す でに日本の多くの大学で導入されている学校インターンシップがある。学校インターンシップは、2015 年の中央教育審議会答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」で、既存の教 育実習とは異なり、学生が長期間にわたり継続的に学校現場で行う体験的な活動として提案されたも のである。しかし、学校インターンシップに関しては、学生を受け入れる学校側の負担が増加するな どの課題がすでに指摘されている(『朝日新聞』2015 年 9 月 12 日朝刊)。なお、2019 年度の教育職員 免許法の改定により、各大学の教職課程の「教職に関する科目」に「学校体験活動」を含むことが出 来るようになったため、学校インターンシップは今後さらなる拡充が予想され、受け入れ校の負担が より一層増すことが懸念される。 受け入れ校の負担感については、既存の国内の教育実習に関わる課題としても報告されている。2013 年の全国連合小学校長会による調査で全国の小学校の 6 割が実習生の受け入れに負担感を持つという 結果が報告されており、教育実習は現状では受け入れ側が意義を感じにくいものとなっている(斎藤、 2015)。教育実習の受け入れ校や実習生受け入れ担当者の意識を考察した研究でも、「実習校の負担が 大きい」ことが教育実習に関わる課題の回答の上位に挙がっている(滝沢他、2018;柳他、2010)。文 部科学省が 2010 年に実施した「教員の資質向上方策の見直し及び教員免許更新制の効果検証に係る 調査」では、学校長と教育委員会の回答者の半数以上が実習生受け入れ校の負担の大きさを指摘した (文部科学省、2010)。 この 2010 年の文部科学省の調査は、教員、学校長、保護者、教育委員会、教職課程を有する大学、 学生を対象としたものであり、その回答からは実習生を派遣する側の大学と受け入れる側の学校との 間に教育実習に対する認識と意識の違いがあることがわかる。例えば、「実習校の指導体制が不十分」 と回答した割合は教員 25.4%、学校長 29.4% だったのに対し、大学の割合は 35.7% であった。反対に 「大学の指導体制が不十分」と回答した割合は、教員 31.5%、学校長 36.7%、大学 27.5% という結果で あった。この傾向は、先に触れた「実習生受け入れ校の負担が大きい」という項目でも見られ、大学 の数値 43.0% と学校長の数値との間に 10 ポイント以上の開きがあり、教員の 46.7% との間にも差が あった(文部科学省、2010)。このような相違があることの背景には、派遣側と受け入れ側のそれぞれ のニーズや考え方を十分に反映させた教育実習の体制づくりが行われていないことがあるものと考え られる。 とりわけ受け入れ側の要望や意見が実習の体制や実践に取り入れられていないことが、受け入れ校 の負担感を生み出しているように思われる。日本において国内の教育実習をテーマとする先行研究は 一定の蓄積があり、学校インターンシップを扱った研究も増えつつある(例えば、田島他編、2016)。 しかし、教育実習に関する研究の多くが学生の学習成果やふりかえりなど派遣側の立場から行われた ものであり、それに対して受け入れる側の視点や意識を扱った研究は圧倒的に少ない。 このことは、教育実習と同じく派遣側と受け入れ側の両アクターを有する留学や研修などの海外プ ログラムに関する研究にも当てはまる。もともと数の少ない海外プログラムの先行研究でも派遣側の 視点に立った研究や留学経験者の意識や実態を考察したもので占められ(例えば、横田・太田・新見

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編、2018)、受け入れ側の視点は見過ごされてきた。また、現在、日本の多くの大学が導入している 短期の海外プログラムについては、それぞれの大学によって研修の実施報告書や実践記録の刊行、プ ログラムの改善を目的に学生の意識の変化や研修の効果を測るなどの事後調査が行われている。こ れらの報告や研究も、ほとんどが派遣側の視点から書かれたものである(例えば、正楽・杉野・武、 2017;中川、2012)。一方の受け入れ側の視点や立場から考察した研究は希少であり、日本の大学生の 国際協力活動の海外体験学習の受け入れ先であるカンボジアの NGO において受け入れ側に与える影 響に関してインタビュー調査を実施した岡島(2017)の研究、岡島の研究が参考にした恵泉女学園大 学(2008)の報告のみである。なお、海外教育実習を含む海外プログラム関連の研究が数多く行われ ているアメリカ、カナダ、オーストラリアでも、先行研究のほとんどが参加学生の意識の変化、実習 を通して得られた成果、派遣する大学のカリキュラムの課題点の検討など送り出し側の視点から論じ られている(児玉、2015)。 海外教育実習プログラムを先駆的に開発・導入してきた日本の大学もそれぞれが研究を実施してい るが、それらはプログラムの開発過程や概要の紹介、実践の報告、参加学生による振り返りレポート や意見記述を基にプログラムの成果や改善点の考察を行ったものであり(例えば、伊藤他、2018;稲 葉、2017;隅田他、2011;野村他、2017;箱崎他、2019;本田他、2019;山崎・Hall・Unher、2010)、 受け入れ側に着目した研究は行われていない。 このように日本国内の正規の教育実習や海外プログラムには、事後に調査や検討が行われるものが 多いが、現状では派遣側で実施されるふりかえりのみで完結しており、プログラムの改善に向けて受 け入れ先の要望や意見は十分に反映されない傾向にある。しかし、海外教育実習も実習生の受け入れ 先がなければ成立しないプログラムである。文部科学省の通知でも、在外教育施設における教育実習 を可能とする制度改正に際し、実施にあたっての方策として大学と実習校との間の連携体制を構築し ておくことを求めている(文部科学省、2018a)。国内の教育実習や学校インターンシップで指摘され ているような受け入れ校の負担感の課題を乗り越えていくためには、海外教育実習でも受け入れ側の ニーズや考え方を取り入れたプログラムの設計が求められるだろう。 そこで、次節では、これまでの大学生の体験学習活動の実践や先行研究において欠落していた「受 け入れ側の視点」を包摂するサービスラーニングの理論に着目し、その理念を取り入れた海外教育実 習の可能性を考えてみたい。 3.サービスラーニングの理念を取り入れた海外教育実習 サービスラーニングは、1960 年代にアメリカで提唱され、近年は、専門分野に関わらず高等教育機 関を中心に世界の教育機関で普及が進む。また、昨今のグローバル化への対応や体験的教育を重視す る高等教育の状況において、サービスラーニング、国際教育、海外留学の 3 形態の体験的教育を組み合 わせた効果的な学習活動を国際サービスラーニングと呼び、欧米の大学で導入が進んでいる(Bringle & Hatcher, 2011)。日本の大学では諸外国と比較すると取り組みや概念の広がりは限定的であるもの の、サービスラーニングが大学教育と社会・地域をつなぐ教育手法として将来的に発展していくこと は、日本の大学と社会にとって重要な意味を持つと期待されている(福留、2019)。 津止・桜井(2009)は、理論が提唱されたアメリカにおいてもサービスラーニングの統一された定 義はないと断りながらも、先行研究の分析から、サービスラーニングを、サービス(奉仕)を通じて 現実社会へ何らかのインパクトを与えること、単なる体験ではなく構造化された教育的取り組みであ ることという二つのキー・コンセプトのもと実施されるものと説明し、多様な形での地域貢献を通し て、学生が学びと成長を得ることができる学習プログラムであると定義した。さらに、日本で 1990 年代後半から 2000 年代にかけて学校教育の場でも政策的に導入されてきたボランティア活動とは異 なり、構造的な学習の枠組みが存在していること、そして、従来、大学で実施されてきた実習、イン

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ターンシップ、フィールドワークと異なり、地域コミュニティへの貢献が明示された取り組みである と指摘する。そして、地域に働きかけ、地域とともに実施される教育プログラムであるサービスラー ニングは、地域の諸団体との連携が成功するための大きな柱となるとし、大学の視点から評価や検証 を行うことの多いサービス・ラーニングのカリキュラムマネジメントにも、コミュニティ中心の視点 を取り入れることの重要性を示唆する。 サービスラーニングは、受け入れ側への奉仕を含む活動であることに加え、派遣側と受け入れ側の 相互の利益を追求する活動であることが特徴的である。社会福祉分野におけるボランティア活動のあ り方を考察した南(2009)は、派遣側と受け入れ側の相互関係を重視するサービスラーニングの特徴に 着目している。生活支援を要する人たちが利用する社会福祉施設の実習生受け入れに関わり、「学生・ 学校側のニーズも利用者・施設側のニーズも、その双方の利益が相反することなく効果を上げるには、 ボランティア活動を通じてマンパワーを提供する「社会」へのサービスと、ボランティア活動を通じ て学ぶ「個人」のラーニングという相互補完関係がうまく機能することが伴になる」(南、2009、158 頁)と論じている。 今津(2016)もサービスラーニングがサービスの受け手と送り手の双方にとって利益を生み出す手 法であることに注目し、教員養成における活用を主張する。今津は、教職課程の学生が学校に出かけ て実地体験に参加する取り組みが普及している状況で、自発的奉仕活動であるボランティアと特定職 業の実地訓練のことを指すインターンシップが乱雑に理解されていることを問題視する。その上で、 自発的奉仕活動であるが学生の学習が深まらないという限界があるボランティアと学生が教職の実地 訓練として行うインターンシップに、中間形態の「地域諸機関での奉仕(サービス)を通じた経験学 習(ラーニング)」を意味するサービスラーニングを加えて、4 年間の大学生の成長発達過程に見合っ た適切な学習活動としてそれぞれを配置することを提案している(今津、2016)。 このような理念を持ったサービスラーニングに依拠すれば、派遣側と受け入れ側の両アクターの存 在によって成り立つ取り組みである海外教育実習についても、いずれかにのみ不利益や負担がもたら されるようなことは避けられるのではないだろうか。 なお、学校インターンシップが提案された 2015 年の中央教育審議会答申には、「学生がこれからの 教員に求められる資質を理解し、自らの教員としての適格性を把握するための機会としても有意義で あると考える。さらに、学生を受け入れる学校側においても学校の様々な活動を支援する地域人材の 確保の観点から有益であることが考えられる」という記述がある(中央教育審議会、2015、33 頁)。そ して、学校インターンシップの実施にあたっては「学生側と受け入れ校側のニーズやメリットを把握 するための情報提供の実施」などの環境整備を十分に検討することを関係機関に求めており、ここに すでにサービスラーニングの考え方が見られる。実際に行われている学校インターンシップにおいて も、サービスラーニングの理念の一つである学生の受け入れ側への奉仕・貢献という側面を受け入れ 側が好意的に評価する例がすでに報告されている。藤原ら(2019)が学校インターンシップを受け入 れている学校の管理職に対して行った聞き取り調査では、「受け入れ学校のメリット」として「仕事 を手伝ってもらえた」、「若い学生と(子どもたちが)触れ合えることはよいこと」、「学校が明るくな る」といった回答が得られた。 しかし、学生の奉仕・貢献という考え方には、単に労働力が加わるという誤った期待を受け入れ 校に抱かせる危険性があることが学校インターンシップ関連の研究で指摘されている(佐藤・伊藤、 2018)。こうした課題に対応するためにも、受け入れ側が学生から提供されるサービスにどのようなこ とを期待しているかを明確に示し、派遣側と共有しておくことが重要だろう。派遣側も学生がサービ スラーニングを通してどのような学びと成長を期待しているかを的確に把握し、それを受け入れ側と 共有する過程をプログラム設計の段階に位置づけておく必要があるだろう。

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4.まとめと今後の課題 本論では、海外留学の促進などのグローバル人材育成の取り組みが日本の大学において推進される 日本の昨今の状況において、海外教育実習が目的、期間、時期の観点から見て教員養成系学生に適し た海外留学の形態であることを論じた。また、より効果的な海外教育実習プログラムの開発・導入に 向けて、サービスラーニングの理論を参考に、派遣側だけではなく実習生を受け入れる側のニーズや 考え方を的確に捉えた上で、実習生と受け入れ側の双方の利益を生み出せるような互恵的なプログラ ムの設計を目指す必要があることにも言及した。 本論で行った検討を前提とし、在外教育施設などの海外教育実習受け入れ先や参加を希望する学生 など海外教育実習に関わる各アクターの要望や意見を明らかにしていくことが今後の課題である。そ の際、留意する必要があるのが、海外教育実習が他の教員養成系学生向け体験学習活動と異なり、外国 という異文化環境において行われる活動だということである。異文化環境にある実習受け入れ先には 国内の受け入れ先から示されるものとは異なった固有のニーズやメリットがあることが考えられ、学 生が体験学習活動に対して持つ期待も異文化環境と国内の環境とでは違ったものとなるであろう。異 文化環境で実施されるサービスラーニングである国際サービスラーニングについては、北米やオース トラリアの大学の実践事例などを扱った研究が増えているが、海外留学プログラムの研究動向と同様 に、それらのほとんどにおいて派遣側の立場で考察が行われている(例えば、Beckman & Christenson, 2016; Campbell & Walta, 2015; Larsen & Searle, 2017 など)。しかし、このような一面的な評価に疑問を 呈する立場から、受け入れ側の視点から国際サービスラーニングのあり方を検討しようとする Larsen (2016)のような研究も登場している。こうした先行研究から得られる知見や研究方法を参考に、海外 教育実習に関わる各アクターの要望や意見を丁寧に把握し、考察していくことが望まれる。 注 1 ) トビタテ!留学 JAPAN は、企業や団体からの寄付による返済不要の留学奨学金の給付、教育機関への留学 だけではなく、インターンシップ、ボランティアなどの海外における活動計画も支援の対象とすることから、 順調に応募者数を拡大させてきた。 2 ) なお、ショートビジットのインターンシップ参加率が上昇した理由は明らかではない。ショートビジットは 柔軟な制度として出発したため、採択されたプログラムにはフィールドワークや現地の学生との討議なども 組み込まれた語学力強化プログラム、フィールドワークやインターンシップを中心とするもの、研究室での 専門的な研究・研修、国際会議への参加など様々な目的を持った多種多様なプログラムが含まれていた(野 水・新田、2014)。このことから、インターンシップを含むプログラムの増加は各大学がショートビジットの 奨学金に採択されやすいよう申請したことが背景にあり、学生のニーズに応えた結果ではないという見方も 可能である。 参考文献 伊藤隆・今井就稔・新井淑弘・任龍在・上原景子・菅生千穂(2018)「群馬大学教育学部海外インターンシップに ついて−在外日本人学校および海外協定校での教育実践−」『群馬大学教育実践研究』第 35 号、25-34 頁。 稲葉みどり(2017)「交流を主軸とした海外短期研修での学びを考察する−気づき・発見・驚き・疑問と新たな探 求―」『教職キャリアセンター紀要』Vol. 2、93-100 頁。 今津孝次郎(2016)「教員養成における「大学中心」と「学校現場中心」−「サービス・ラーニング」と「学校イ ンターンシップ」」『東邦学誌』第 45 巻第 1 号、17-27 頁。 太田浩(2018)「日本の海外留学促進政策の変遷」横田雅弘・太田浩・新見有紀子編『海外留学がキャリアと人生 に与えるインパクト:大規模調査による留学の効果測定』学文社、2-28 頁。 太田浩・工藤和宏・上別府隆男(2014)「日本の大学国際化と留学生政策の展開」日本私立大学協会附置私学高等

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参照

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