体育授業に関する小学校教師の
力量形成についての調査研究
―― 教職経験年数による差異に着目して ――
加 登 本
仁 *・辻
延 浩 *・青 木 作 衛 **
中 川 大 介 **・八 木 純 子 **
A Questionnaire Survey on Elementary School Teachersʼ
Professional Development Shown in Physical Education Class
―― With a Special Emphasis on Years of Teaching Experience ――
Hitoshi KADOMOTO, Nobuhiro TSUJI, Sakuei AOKI
Daisuke NAKAGAWA and Junko YAGI
キーワード:小学校教師、体育授業、現職研修、教職経験年数 1.緒 言 2012 年 8 月、中央教育審議会は、「教職生活 の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上 方策について」を答申した。同答申は、具体的 な文言に若干の違いはあるものの、「養成と採 用・研修との連携の円滑化について (第 3 次答 申)」(教育職員養成審議会,1999) や、「今後 の教員養成・免許制度の在り方について (答 申)」(中央教育審議会,2006) において示され た、「学び続ける教員像」の理念の重要性を改 めて示すものである。その中で「教育委員会と 大学との連携・協働により、教職生活全体を通 じて学び続ける教員を継続的に支援するための 一体的な改革を行う必要がある」とし、現職研 修の充実を改革の柱の一つに掲げている。 こうした教育制度改革の動向を受け、近年、 体育科教育の分野においても、現職教育段階に おける継続的な教師の職能成長を支援する方途 を追究する必要性が合意されてきた。しかしな がら、現職教育段階での体育授業改善に関わる 教師の職能成長研究はまだ緒に就いたばかりで ある。 加登本ら (2010) は、小学校教師が体育授業 を行う上でどのような事項に悩みを感じている のかについて検討し、学習規律の維持や子ども 相互の協力的な関係づくり、安全の確保や意欲 の喚起といった事項についての悩み事の認知は 相対的に低く、一方で、配慮を要する子どもの ニーズに応えることや一人ひとりの子どもの学 びの把握、模範を示せない種目の指導や子ども に合わせた教材づくりといった事項についての 悩み事の認知は相対的に高い傾向にあることを 明らかにした。また、体育指導に積極的に関与 している教師と比べて、そうでない教師は全般 的に悩み事の認知が高い傾向にあることから、 * 滋賀大学教育学部 ** 滋賀大学教育学部附属小学校体育指導に積極的に関与する立場にない教師に 対して、悩み事の解決方法を検討する必要があ ることを指摘した。 次いで加登本ら (2011) は、小学校教師が体 育授業を行っていくうえでの悩み事を低減する ためにどのような解決方法をとっているかを検 討することを通して、有効な支援のあり方を考 察した。その結果、体育指導に積極的に関与す る立場にある教師は、そうでない教師に比べて 学校外の研修や研究会に参加する機会に恵まれ ていることから、様々な教師の悩み事を低減さ せるためには、体育指導に積極的に関与する立 場にある教師が中心となり、学校内において専 門的知識を交流し共有していくような校内研修 の組織されることが有効であると指摘した。 また徳永ら (2012) は、小学校教師が体育授 業に関する研修に求めている内容を検討し、 「各運動領域の内容より指導法、理論より実践」 を求めている傾向のあることを明らかにした。 また、体育指導に積極的に関与する立場にある 教師は、そうでない教師に比べて、体育のカリ キュラムや指導内容の系統性、体育の基礎理論 や最新の体育理論などの内容をより強く求めて いる傾向のあることを指摘した。 これらの研究はいずれも、体育指導に関する 小学校教師の意識を明らかにすることを通して、 現職研修の改善のための基礎資料を得ようとす る研究である。その際、これらの研究では、体 育指導に積極的に関与している教師とそうでな い教師との意識の差異を分析の視点として比 較・検討を行っている。しかし、小学校教師の 意識に対して、教職経験年数による差異という 視点での分析は行われていない。 松田 (2010) は、保健体育教師が職務を遂行 するにあたって自分が必要だと思っている力に ついて、学生期、初任期 (新任から 3、4 年ま で)、中堅期 (10 年前後)、ベテラン期 (20 年 以上) に分けて検討した。その結果、保健体育 教師は「授業構想力」、「人間関係力」、「運動指 導力」、「情報活用力」、「生徒管理力」の 5 つの 力を必要と考えており、「各時期において必要 だと思われている力がそれぞれ違う」ことを明 らかにした。すなわち、初任者のうちは「生徒 管理力」を必要と考えるが、中堅からベテラン になるにつれて「人間関係力」を必要と考える ようになるという。松田の研究は中学校保健体 育教師を対象としたものであるが、教職経験年 数により教師の意識に差がみられることを示唆 する研究である。 小学校教師を対象とした体育授業改善に関わ る教師の職能成長研究のうち、教職経験年数に よる差異を観点とした研究はいくつか散見され る。 荒井ら (2007) は、「基本の運動」の指導に 関して、指導が困難だと感じる領域や、指導が 困難であると感じる理由について調査を行い、 その結果を教職経験年数(10 年以下と 11 年以 上) の違いによって比較・検討した。そこから、 教職経験年数10 年以下の教師は 11 年以上の教 師に比べて「力試しの運動 (遊び)」の指導を 困難であると感じていることや、「基本の運動」 に対する専門知識や技能の個人差への対応、評 価の観点や方法といった様々な要因について指 導上の困難を感じていることが明らかになり、 10 年経験者研修までの期間にそれらの要因を 克服できるような研修機会が設けられる必要性 を指摘している。 厚東 (2011) は、小学校低学年を担任する教 師を対象に、教職経験年数が体育授業に対する 反省的思考にどのような影響を及ぼすのかにつ いて検討した。その結果、教職 10 年目前後で キャリア発達の様相が異なることや、10 年目 以上の低学年担任の男性教師は体育授業におけ る運動従事時間の確保が十分でなく、結果的に 子どもの運動技能が向上していない傾向がみら れたことから、「技能目標」を授業の中核とし て認識する必要があるとし、体育分野の「初任 者研修」、「5 年目研修」、「10 年目研修」の内容 に示唆を与えている。 これらのように、教職経験年数を視点として 教師の意識の違いを検討することは、教師の キャリアステージに応じた研修内容を準備する 上で有益な示唆を与えてくれるものと考えられ る。 ところで、前述した加登本ら (2010 ; 2011)、 徳永ら (2012) の研究では、いずれも調査対象 者の偏りが課題として挙げられていた。すなわ ち、加登本ら (2010 ; 2011) の研究では、分析
の対象となった 348 名のうち、半数以上が教職 経験年数20 年以上の教師であるという教職経 験年数の偏り、及び調査対象者が教員免許更新 制講習をはじめとする体育指導に関する講習 会の参加者であるという調査対象者の志向性 の偏りが課題として挙げられる。また、徳永ら (2012) の研究においても、調査対象者が体育 指導に関する研修会、及び講習会の参加者であ り、さらには「調査対象者の多くが体つくり運 動に関する研修会の参加者であった」という、 調査対象者の志向性の偏りが課題として挙げら れている。このように、体育指導に関する研修 会や講習会の参加者を対象とした調査では、必 ずしも一般の小学校教師の傾向を示していると はいえない問題が考えられる。それゆえ本研究 では、調査対象者の教職経験年数に偏りが生じ ないように、また、調査対象者が特定の研修会 参加者に偏ることのないように、調査の方法を 改善することにした。 以上のことから本研究では、小学校教師が体 育授業の力量を形成する上で、どのような事項 に困難を抱えており、その解決のためにどのよ うな方法をとっているのか、また、どのような 研修内容を求めているかについて、教職経験年 数による差異を検討することを通して、教師の キャリアステージに応じた現職研修の改善のた めの基礎資料を得ることを目的とした。 2.研 究 方 法 2.1 調査内容及び方法 本研究は、質問紙調査法を用い、質問紙の内 容を、「属性」、「体育授業に関する自己評価」、 「体育指導で困難に思っていること」、「体育授 業で困難に思っていることの解決方法」、「研修 会で学びたいこと」の 5 つで構成した。「属性」 については、性別、教職経験年数(講師経験を 含む)、主要な担当学年、主要な研究教科、体 育主任経験の有無、教員免許状取得大学、中学 校・高等学校の教員免許状の有無の項目を設定 した。「体育授業に関する自己評価」では、中 井・澤田 (2007) によって作成された体育授業 への取り組みに対する「自己診断表」の 15 項 目を設定し、それらの各項目について、「1.常 に心がけている」から「5.全く心がけていな い」までの 5 段階評定尺度を用いて回答を求め た。「体育指導で困難に思っていること」では、 加登本ら (2010) によって作成された「体育授 業の悩み事」の 19 項目を設定し、それらの各 項目について、「1.全く困っていない」から 「5.とても困っている」までの 5 段階評定尺度 を用いて回答を求めた。また、「体育授業で困 難に思っていることの解決方法」では、加登本 ら (2010) が設定した 12 項目を一部修正、追 加し、16 項目を設定した。すなわち、加登本 ら (2010) の「1.校内の同僚の先生に相談す る」の項目を、「1.校内の学年部の先生に相談 する」と「2.校内の体育主任に相談する」、及 び「3.校内の校長・教頭に相談する」と細分 化し、また、「5.出身大学の先生に相談する」、 「13.学術論文を読んで勉強する」の項目を追 加した。それらの各項目について、「1.全くそ うしていない」から「5.よくそうしている」 までの 5 段階評定尺度を用いて回答を求めた。 最後に、「研修会で学びたいこと」では、徳永 ら (2012) によって作成された「研修に求めて いる内容」の 22 項目を設定し、それらの各項 目について、「1.全く学びたくない」から「5. とても学びたい」までの 5 段階評定尺度を用い て回答を求めた。 2.2 対象及び実施時期 本調査は、S 県内の小学校教師を対象に行っ た。2012 年 8 月初旬に、各郡市を代表する体 育主任を通じて各学校に配布を依頼した。その 際、体育主任には、教職経験年数や性別に大き な偏りが生じないよう、教職経験年数 5 年以内、 6〜10 年、16〜25 年、26 年以上の 4 つの層と それぞれの男女比について概ね均等に配布して もらうよう依頼した。各郡市への配布数は、S 県内の各郡市にある公立小学校の設置数に応じ て決定した。その後、同年 10 月中旬に、各郡 市を代表する体育主任を通じて調査用紙を回収 した。回収数は 1229 であった。 2.3 分析の視点及び方法 本研究では、前述したように、小学校教師が 体育授業の力量を形成する上で、どのような事
項に困難を抱えており、その解決のためにどの ような方法をとっているのか、またどのような 研修内容を求めているかについて、教職経験年 数による差異を検討し、教師のキャリアステー ジに応じた現職研修の改善のための基礎資料を 得ることを目的としている。それゆえ、本研究 では調査対象者全体を、吉崎 (1998) の区分に 従い、教職経験年数ごとにⅠ群 (初任期:5 年 以 内)、Ⅱ 群 (中 堅 期:6〜15 年)、及 び Ⅲ 群 (熟練期:16 年以上) の 3 つの群に分けた。そ して、「体育指導で困難に思っていること」と 「困難に思っていることの解決方法」、及び「研 修会で学びたいこと」について、対象者全体 の評定比率を算出するとともに、各群におけ る評定平均値を算出した。また、各群の平均値 の差異を、一元配置分散分析を用いて検討し た。さらに、有意差がみられた項目について は Games-Howell 法による多重比較を行った。 な お、分 析 に は、統 計 パ ッ ケ ー ジ SPSS Statistics Version21.0 for Windows を使用した。
3.結果及び考察 はじめに、対象者全体及び各群の「属性」を 表 1 に示す。 表 1 のうち、性別についてみると、女性教師 がやや多い結果であった。平成 24 年度の「学 校基本調査」(文部科学省,2012) によれば、 小学校の「教員数(本務者) のうち、女子教員 の占める比率は 62.7%」であり、女性がやや高 い。この点については、本調査対象者も同様の 傾向であった。また、群別にみると、性別の比 率に大きな偏りはみられなかった。 主要な担当学年についてみると、対象者全体 では、担当学年に大きな偏りはみられなかった。 また、群別にみると、Ⅰ群では中学年を担当す る比率が高く、Ⅲ群では高学年を担当する比率 の高い傾向がみられた。 主要な研究教科についてみると、体育を主要 な研究教科としている教師は全体の 1 割程度で あった。小学校には 9 つの教科があることから、 主要な研究教科についても、性別の比率と同様 に、本調査対象者は小学校の実態を概ね反映し たものであると考えられる。 体育主任経験についてみると、体育主任の経 験がある教師は全体の 3 割程度であり、群別に みると、教職経験年数の増加につれて体育主任 の経験のある教師の数が増加する傾向がみられ た。 以上、本調査対象者の「属性」を示したが、 総じて本調査対象者は、一般的な小学校の実態 を概ね反映しているものと考えられた。すなわ ち、これらの「属性」をもった対象者の調査結 果は、ある程度一般的な小学校教師の意識を反 映しているものと考えられる。 3.1 教職経験年数による「体育指導で困難に 思っていること」の差異 まず、「体育指導で困難に思っていること」 について、対象者全体における各項目の評定比 率を図 1 に示す。なお、記入漏れがみられた項 目については欠損値として扱い、評定比率は 1229 名を 100% として算出した。また、群別 の評定平均値を算出する際には、欠損値を除い た回答者数に対する評定平均値を算出した。以 下、「体育授業で困難に思っていることの解決 方法」や「研修会で学びたいこと」についても、 同様の手順で分析を行った。 合計 Ⅰ群 Ⅱ群 Ⅲ群 全体 表 1 対象者全体及び各群の「属性」 (単位:人) 211 (17.2%) 88 (7.2%) 50 (4.1%) 経験 あり 体 育 主 任 経験なし (21.7%)267 (15.9%)196 (33.9%)417 (71.6%)880 1229 (100.0%) 628 (51.1%) 284 (23.1%) 317 (25.8%) 65 (5.3%) ほぼ 同程度 127 (10.3%) 58 (4.7%) 37 (3.0%) 32 (2.6%) 体育 研 究 教 科 体育以外 (23.2%)285 (20.1%)247 (46.4%)570 (89.7%)1102 349 (28.4%) 担 当 学 年 334 (27.2%) 135 (11.0%) 79 (6.4%) 120 (9.8%) 中学年 362 (29.4%) 230 (18.7%) 85 (6.9%) 47 (3.8%) 高学年 244 (19.9%) 119 (9.7%) 60 (4.9%) 267 (21.7%) 122 (9.9%) 143 (11.6%) 男性 性 別 697 (56.7%) 361 (29.4%) 162 (13.2%) 174 (14.2%) 女性 289 (23.5%) 144 (11.7%) 60 (4.9%) 85 (6.9%) 低学年 532 (43.3%)
図 1 より、「とても困っている」と「困って いる」を合わせた人数の割合で各項目をみる と、「自分が模範を示せない種目の運動を教え る (示範)」(50.0%)、「運動技能を向上させる た め の 指 導 が で き る (技 能 向 上)」(47.9%)、 「配慮を要する子どものニーズに応えられる (ニーズ)」(45.3%)、「教える運動についての 知識がある (教材知識)」(42.7%)、「子どもた ちの運動のつまずきが診断できる (つまずき)」 (41.3%) といった項目が 40% を超える高い割 合を示した。他方、「子どもの意欲を喚起でき る (意欲喚起)」(18.8%)、「子ども同士の協力 的な関係をつくる (協力関係)」(15.1%)、「子 どもが私の授業を好意的に評価してくれる (好 意)」(14.7%)、「子 ど も を 安 全 に 運 動 さ せ る (安全)」(13.6%)、「適切な学習規律が維持で きる (学習規律)」(12.4%) といった項目は、 20% を下回る低い割合を示した。 これらの結果は、体育授業の「基礎的条件」 (高橋、1992) に関する課題に対しては悩み事 の認知が低く、一方で体育授業の「内容的条 件」(高橋、1992) に関する課題については悩 み事の認知が高いという加登本ら (2010) に よって示された結果と同様の傾向を示すもので あった1)。それでは、これらの悩み事は、教職 経験年数の違いによってどのように変化するの であろうか。 次いで、「体育指導で困難に思っていること」 について、対象者全体及び群別の評定平均値を 図 2 に、また一元配置分散分析の結果を表 2 に 図 1 「体育指導で困難に思っていること」各項目の対象者全体の評定比率 (単位:%) 図 2 「体育指導で困難に思っていること」各項目の対象者全体及び群別の評定平均値
示す。 図 2 より、対象者全体の評定平均値をみる と、高い順に「技能向上」(3.42)、「年間計画」 (3.41)、「ニーズ」(3.39)、「教材知識」(3.39)、 「示 範」(3.38)、「認 識 指 導」(3.32)、「つ ま ず き」(3.31)、「教 材 選 択」(3.29)、「技 術 指 導」 (3.24)、「把握」(3.24)、「不得意」(3.18)、「場 づくり」(3.02)、「施設管理」(3.01) であった。 それ以外の項目は、3.00 以下であり、「困って いない」課題であると考えられる。これらの結 果は、図 1 に示した評定比率の結果と同様の傾 向を示した。 表 2 より、「安全」の項目を除き、ほとんど の項目においてⅠ群はⅡ群やⅢ群よりも悩み事 の認知が有意に高い傾向がみられた。「安全」 については、対象者全体の評定平均値が 2.73 と低く、群間に有意な差がみられなかったこと から、体育指導において「子どもを安全に運動 させる」ことは大前提であり、初任期において 解決されていく課題であると考えられる。その ほかの項目は、Ⅰ群>Ⅱ群>Ⅲ群というように、 教職経験年数の増加に伴って悩み事の認知が漸 減していくものと、Ⅰ群とⅡ群には差がなく、 Ⅲ群になって悩み事の認知の低減がみられるも の、そしてⅠ群からⅡ群にかけて悩み事の認知 が低減し、Ⅱ群とⅢ群には差がみられないもの の 4 つのパターンがみられた。すなわち、「把 握」、「不得意」、「技能向上」、「つまずき」、「年 間計画」、「認識指導」、「協力関係」の 7 つの項 目は、教職経験年数の増加とともに悩み事の認 知が低減していくものであり、これらの課題に ついては継続的な支援が必要なものであると考 えられる。次に、「学習評価」、「好意」、「教材 知識」の 3 つの項目は、熟練期になると悩み事 の認知が低減してくる課題であるため、熟練期 を迎える 15 年目までに解決されるべき課題で あると考えられる。そして、「技術指導」、「場 づくり」、「学習規律」、「ニーズ」、「意欲喚起」、 「教材選択」の 6 つの項目は、中堅期になると 悩み事の認知が低減してくる課題であり、初任 期から中堅期にかけての 5 年目までに解決され るべき課題であると考えられる。 以上の結果から、教職 5 年目までに解決され るべき課題として「技術指導」、「場づくり」、 「学習規律」、「ニーズ」、「意欲喚起」、「教材選 択」が挙げられ、教職 15 年目までに解決され るべき課題として「学習評価」、「好意」、「教材 知識」が挙げられる。そして「把握」、「不得 意」、「技能向上」、「つまずき」、「年間計画」、 「認識指導」、「協力関係」といった課題につい ては、教職経験年数にかかわらず継続的に解決 が図られるべき課題であると考えられる。 3.2 教職経験年数による「体育授業で困難に 思っていることの解決方法」の差異 図 3 は、「体育授業で困難に思っていること の解決方法」について、対象者全体における各 項目の評定比率を示したものである。図 3 より、 「よくそうしている」と「そうしている」を合 わせた割合で各項目をみると、「学校の学年部 の先生に相談する (学年教師)」が 77.6% と最 も高い割合を示した。次いで、「インターネッ トのホームページを利用する (インターネッ ト)」(64.8%)、「校 内 の 体 育 主 任 に 相 談 す る (体育主任)」(58.7%)、「専門図書・雑誌を読 ん で 勉 強 す る (文 献)」(53.1%) の 順 で あ っ た。これら 4 つに比べて、他の解決方法はかな り低い割合を示しており、「教育委員会主催の 研 修 会・講 習 会 に 参 加 す る (教 育 委 員 会)」 好意 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 26.56** 2/1213 協力関係 Ⅰ群 ・ Ⅱ群 > Ⅲ群 31.69** 2/1213 教材知識 自由度 F 値 多重比較 (*p<.05 **p<.001) 項目 表 2 一元配置による分散分析結果 (悩み事) 年間計画 Ⅰ群 > Ⅱ群 ・ Ⅲ群 21.65** 2/1216 意欲喚起 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 36.62** 2/1218 認識指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 ・ Ⅲ群 21.27** 2/1214 教材選択 Ⅰ群 ・ Ⅱ群 > Ⅲ群 11.13** 2/1215 学習評価 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 18.59** 2/1218 つまずき Ⅰ群 > Ⅲ群 4.10* 2/1219 施設管理 Ⅰ群 > Ⅱ群 ・ Ⅲ群 16.42** 2/1216 ニーズ Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 56.52** 2/1216 不得意 Ⅰ群 > Ⅱ群 ・ Ⅲ群 13.56** 2/1218 場づくり Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 31.25** 2/1215 技能向上 Ⅰ群 > Ⅱ群 ・ Ⅲ群 24.76** 2/1219 学習規律 Ⅰ群 ・ Ⅱ群 > Ⅲ群 28.86** 2/1217 示範 Ⅰ群 > Ⅱ群 ・ Ⅲ群 16.54** 2/1213 技術指導 ― 2.53 2/1216 安全 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 26.52** 2/1215 把握 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 37.11** 2/1217 Ⅰ群 > Ⅲ群 3.79* 2/1219
(24.3%)、「他 校 の 先 生 に 相 談 す る (他 校 教 師)」(20.8%)、「校内の校長・教頭に相談する (管理職)」(10.7%) と続いた。これら以外の 方法は、10% 以下の低い割合であった。加登 本ら (2011) の調査でも、「小学校教師は体育 指導に関する悩み事の解決方法として、校内の 同僚の教師や文献、HP を主な情報源としてい る」ことが明らかにされており、上記の結果も 同様の傾向を示した。加えて、本研究では、同 僚の教師について、「学年部の先生」、「体育主 任」、「校長・教頭」の 3 つの項目に分けて調査 を行った。その結果、校内の同僚のうち、学年 部の教師が最も重要な相談相手になっており、 体育主任への相談も、インターネットや文献と 同様に重要な解決方法となっていることが明ら かになった。これら悩み事の解決方法は、教職 経験年数の違いによってどのように変化するの であろうか。 以下、「体育授業で困難に思っていることの 解決方法」について、対象者全体及び群別の評 定平均値を図 4 に、また一元配置分散分析の結 果を表 3 に示す。 図 4 より、対象者全体の評定平均値をみると、 高い順に「学年教師」(3.93)、「インターネッ ト」(3.53)、「体育主任」(3.52)、「文献」(3.26) となり、図 3 に示した評定比率の結果と同様の 傾向を示した。それ以外の項目は、いずれの群 においても評定平均値が 3.00 を下回っており、 悩み事の解決方法としてあまり活用されていな いものであると考えられる。 図 3 「体育授業で困難に思っていることの解決方法」対象者全体の評定比率 (単位:%) 図 4 「体育授業で困難に思っていることの解決方法」対象者全体及び群別の評定平均値
表 3 より、いくつかの項目について、群間に 有意な差がみられた。まず、悩み事の解決を 「学年教師」や「インターネット」に求める傾 向は、Ⅲ群よりもⅠ群及びⅡ群の方が高く、こ れら 2 つは初任期から中堅期にかけて特に活用 されている解決方法であると考えられる。次に、 悩み事の解決を「体育主任」に求める傾向は、 Ⅰ群よりもⅡ群の方が高く、体育主任は中堅期 の教師の悩み事の解決に重要な役割を果たして いる。そして、悩み事の解決を「文献」に求め る傾向は、Ⅱ群、Ⅰ群、Ⅲ群の順に高く、文献 も体育主任と同様に、中堅期の教師の悩み事の 解決に重要な役割を果たしているものと考えら れる。 そのほかの項目で、群間に有意な差がみられ たものは、「地区研究会」、「自主サークル」、 「指定校」の 3 つであった。このうち、「地区研 究会」、「自主サークル」は、全体としては解決 方法としてあまり活用していないものの、熟練 期よりも初任期の方がより活用されている。一 方、「指定校」では初任期よりも熟練期の方が より活用している結果であった。研究指定校は、 体育に関して研究的に取り組んでいる学校であ り、そこでの研究会は公開授業を伴う場合が多 い。熟練期の教師は、そうした研究指定校の授 業を観察することを通して、自らの課題の解決 に結びつけてきたものと考えられる。また、初 任期の教師が研究指定校の研究会をあまり活用 していない背景には、S 県の場合、平成 15 年 度から続いていた「体力向上実践事業」が、平 成 20 年度で終了したことも影響していると考 えられる。 以上の結果から、体育授業で困難に思ってい ることの解決方法として、「学年教師」、「イン ターネット」、「体育主任」、「文献」の 4 つが重 要な役割を果たしていることが明らかになった。 また、教職経験年数別にみると、初任期の教師 は上記の 4 つに加え、学校外の学習の場を比較 的多く活用している傾向にあった。中堅期にな ると、特に「体育主任」や「文献」の果たす役 割が重要になると考えられた。熟練期の教師は、 「学年教師」、「インターネット」、「体育主任」、 「文献」の 4 つに加え、研究指定校の研究会に 比較的多く参加している傾向がみられた。 これらのことから、小学校教師が体育授業で 困難に思っていることは、校内の同僚、とりわ け学年部の教師や体育主任に相談したり、イン ターネットや文献から情報を入手したりして解 決しているものの、学校外の研究会や研修会へ の参加による解決はあまり行われていない実態 であると考えられる。 3.3 教職経験年数による「研修会で学びたい こと」の差異 図 5 は、「研修会で学びたいこと」について、 対象者全体における各項目の評定比率を示し たものである。図 5 より、「とても学びたい」 と「学びたい」を合わせた割合で各項目をみる と、「授業づくり」が 86.9% と最も高い割合を 示した。次いで、「器械指導」(84.3%)、「陸上 指 導」(82.8%)、「ボ ー ル 指 導」(82.8%)、「体 つくり指導」(81.8%)、「水泳指導」(80.6%)、 「個別指導」(79.6%)、「表現指導」(76.6%) の 順であり、各運動領域の指導法や個別指導が 高 い 割 合 を 示 し た。ま た、「体 つ く り 内 容」 (76.1%)、「器械内容」(75.1%)、「ボール内容」 (75.1%)、「陸 上 内 容」(73.4%)、「実 践 事 例」 (73.1%)、「水 泳 内 容」(70.3%)、「表 現 内 容」 (69.0%) と、各運動領域の内容や実践事例が 続いた。そして、「体力づくり」(66.2%)、「評 価」(64.4%)、「日 常 化」(52.6%)、さ ら に、「系 (*p<.05 **p<.001) 自由度 F 値 多重比較 項目 表 3 一元配置による分散分析結果 (解決方法) 学術論文 ― 0.62 2/1217 大学講習会 ― 0.04 2/1216 大学院 Ⅰ群・Ⅱ群 > Ⅲ群 31.75** 2/1216 インターネット 指定校 ― 2.69 2/1217 大学附属 ― 2.58 2/1217 教育委員会 Ⅱ群 > Ⅰ群 > Ⅲ群 16.34** 2/1218 文献 ― 0.09 2/1217 大学恩師 Ⅰ群 > Ⅲ群 7.40* 2/1215 地区研究会 Ⅰ群 > Ⅲ群 6.47* 2/1216 自主サークル ― 0.26 2/1215 民間研究会 Ⅲ群 > Ⅰ群 6.32* 2/1217 学年教師 Ⅱ群 > Ⅰ群 4.02* 2/1210 体育主任 n. s. 3.12* 2/1211 管理職 ― 1.30 2/1213 他校教師 ― 2.12 2/1216 Ⅰ群・Ⅱ群 > Ⅲ群 19.12** 2/1217
統 性」(48.8%)、「最 新 理 論」(32.5%)、「カ リ キ ュ ラ ム」(29.5%)、「基 礎 理 論」(23.3%) の 順であった。これらの結果は、「小学校教師が 体育科に関する研修で学びたいと考えている項 目は、各運動領域の内容より指導法、理論より 実践といった傾向」がみられるという徳永ら (2012) の結果と同様の傾向を示したと考えら れる。運動領域に着目すると、概ね器械運動系、 陸上運動系、ボール運動系、体つくり運動、水 泳系、表現運動系の順に学びたいと考える割合 の高い傾向がみられた。こうした「研修会で学 びたいこと」は、教職経験年数の違いによって どのように変化するのであろうか。 以下、「研修会で学びたいこと」について、 対象者全体及び群別の評定平均値を図 6 に、ま た一元配置分散分析の結果を表 4 に示す。 図 6 より、対象者全体の評定平均値をみる と、高 い 順 に「授 業 づ く り」(4.36)、「器 械 指導」(4.29)、「陸上指導」(4.27)、「ボール指 導」(4.25)、「水泳指導」(4.23)、「体つくり指 導」(4.22)、「個 別 指 導」(4.15)、「表 現 指 導」 (4.14)、「体つくり内容」(4.08)、「実践事例」 (4.07) となり、図 5 に示した評定比率の結果 と同様の傾向を示した。 表 4 より、すべての項目において群間に有意 な差がみられた。その多くは、Ⅰ群>Ⅱ群>Ⅲ 群というように、教職経験年数の増加に伴って、 学びたいと考える意識が漸減していく傾向に あった。例外として、「カリキュラム」につい ては初任期や熟練期よりも中堅期の方がより学 図 5 「研修会で学びたいこと」対象者全体の評定比率 (単位:%) 図 6 「研修会で学びたいこと」対象者全体及び群別の評定平均値
びたいと考えている傾向がみられた。また「系 統性」については、熟練期よりも中堅期の方が より学びたいと考えている傾向がみられた。そ して「日常化」、「基礎理論」、「最新理論」につ いては、初任期と中堅期には差がみられないも のの、中堅期までに比べて、熟練期の方が学び たいと考える意識の低い傾向がみられた。 以上の結果から、本研究においても徳永ら (2012) と同様に、小学校教師が体育科に関す る「研修会で学びたいこと」は、各運動領域の 内容よりも指導法であり、理論よりも実践であ ることが明らかになった。また、教職経験年数 別にみると、全般に、若い教師の方が学びたい と考える意識が高い傾向にあった。そして、中 堅期の教師は、「カリキュラム」や「系統性」 といった指導計画の作成にかかわる内容を比 較的学びたいと考えていることや、熟練期の教 師は、「日常化」、「基礎理論」、「最新理論」と いった理論的内容については、比較的学びたい と考えていない傾向にあると考えられた。 3.4 総合考察 これまで、「体育指導で困難に思っているこ と」と「体育授業で困難に思っていることの解 決方法」、及び「研修会で学びたいこと」の 3 つの調査内容について、対象者全体の傾向や教 職経験年数の違いによる意識の差異を検討して きた。ここでは、これら 3 つの調査で明らかに なった点をキャリアステージごとに整理し、各 段階の教師に対する支援について、若干の提案 を試みる。 まず、初任期の教師については、体育指導に おける悩み事の認知が全般に高く、研修で学び たいと考える意識も高い。悩み事の内容は、 「学習規律」や「意欲喚起」といった体育授業 の「基礎的条件」(高橋,1992) に関わる課題 や、「場 づ く り」、「技 術 指 導」、「教 材 選 択」、 「ニーズ」といった子どもの実態に合わせた授 業計画及び授業実施に関わる課題を抱えている と考えられる。それらの課題について、校内の 学年部の教師に相談したり、インターネットや 文献から情報を得たりして解決を図っている。 また、地区の研究会や自主的なサークルに参加 しながら、同世代の教師同士で学習しているこ とも初任期の特徴である。それゆえ、初任期の 教師に対する支援としては、目の前の子どもに ついての理解を深めるために、学年部など身近 な教師と日常的に対話ができる環境を整えるこ とが重要であると考えられる。 次に、中堅期の教師については、体育指導に おける悩み事のうち、「学習評価」や「教材知 識」、「好意」が課題として意識されてくる。ま た、「カリキュラム」や「系統性」といった内 容を学びたいと考えるようになる。すなわち、 子どもの実態に合わせた授業を計画したり実施 したりする力量を形成してきた中堅期では、授 業を通して子どもにどんな力をつけるのか、或 いはどんな力がついたのかといった「内容的条 件」(高橋,1992) に関わる知識が課題として 意識されてくるものと推察される。さらに、授 業計画に関わる「カリキュラム」や「系統性」 といった視点が課題として意識されるように なってくる。体育指導に関わるこれらの専門的 力量を、体育主任からの助言や文献を手がかり にして高めていくものと考えられる。それゆえ、 個別指導 (*p<.05 **p<.001) 自由度 F 値 多重比較 項目 表 4 一元配置による分散分析結果 (研修内容) 日常化 Ⅰ群 ・ Ⅱ群 > Ⅲ群 12.16** 2/1180 基礎理論 Ⅰ群 ・ Ⅱ群 > Ⅲ群 7.40* 2/1181 最新理論 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 30.15** 2/1182 評価 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 28.39** 2/1181 ボール指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 66.57** 2/1181 表現指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 36.27** 2/1180 体力づくり Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 46.26** 2/1178 実践事例 Ⅰ群 ・ Ⅱ群 > Ⅲ群 19.22** 2/1180 体つくり指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 92.70** 2/1181 器械指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 96.80** 2/1181 陸上指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 72.63** 2/1182 水泳指導 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 86.72** 2/1181 カリキュラム Ⅱ群 > Ⅲ群 4.61* 2/1176 系統性 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 81.90** 2/1179 授業づくり Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 60.04** 2/1181 表現内容 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 77.86** 2/1181 器械内容 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 88.94** 2/1181 陸上内容 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 58.88** 2/1179 水泳内容 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 74.63** 2/1180 ボール内容 Ⅱ群 > Ⅰ群 ・ Ⅲ群 3.63* 2/1171 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 58.96** 2/1178 体つくり内容 Ⅰ群 > Ⅱ群 > Ⅲ群 76.35** 2/1181
中堅期の教師に対する支援としては、専門的知 識を有する体育主任を育成することや、中堅期 の教師自身が体育の専門的知識を学ぶための研 修会や講習会に参加しやすい環境をつくること が重要であると考えられる。さらに、学校外で 学んだ専門的知識を学校内の他の教師と共有で きるような校内研修の組織化が重要であると考 えられる。 最後に、熟練期の教師については、体育指導 における悩み事は全般的に低減している。熟練 期になると、子どもたちと日々の教育実践を積 み重ねていく過程で実践知が形成され、新たに 理論的内容を学ぶことについて敬遠する傾向に あると推察される。また、熟練期の教師は、イ ンターネットや文献の活用が比較的少ないもの の、研究指定校の授業を観察することを通して、 自らの課題の解決に結びつけているという特徴 がある。近年、熟練期の教師でも授業が成立し ないといった問題も指摘されており、全般的に 悩み事が低減している熟練期の教師といえども、 常に自らの教育活動を省察し、積極的に学び続 ける姿勢が求められるだろう。 以上より、小学校教師は、概ね教職 6 年目か らの中堅期において、体育の専門的力量を形成 していくものと考えられ、そこでは専門的知識 を有する体育主任の果たす役割が重要であると 考えられた。それゆえ、体育主任の専門的力量 を高めることが、校内研修を通じて教師全体の 体育指導の力量を形成することにつながると推 察される。多くの教師は、「実践」を通して、 「内容よりも指導法」を学びたいと考えている。 しかし、体育指導における悩み事では、「内容 的条件」(高橋,1992) が課題として挙げられ ている。小学校教師が求める研修内容は「指導 法」であったが、「内容的条件」(高橋,1992) の課題を解決するためには、教科内容について の専門的知識の学習も必要であろう。体育指導 に関わる研修会や講習会では実技を伴うものが 多いが、その際には指導法だけでなく、同時に、 教科内容の専門的知識を学習する機会を設定す ることが重要となる。 しかしながら、上記の考察は一般的な小学校 教師の意識を把握するという方法によって得ら れたものにすぎない。今後はさらに、実際に小 学校教師がいつ、どのような経験によって体育 指導に関する困難を克服し、力量を形成して いったのかという視点から、体育授業の力量を 高めてきた教師を対象として、力量形成に影響 を与えた過去の経験について検討する必要があ る。 4.結 論 本研究の目的は、小学校教師が体育授業の力 量を形成する上で、どのような事項に困難を抱 えており、その解決のためにどのような方法を とっているのか、またどのような研修内容を求 めているかについて、教職経験年数による差異 を検討することを通して、教師のキャリアス テージに応じた現職研修の改善のための基礎資 料を得ることであった。本研究で行った調査の 結果は、以下の 5 点にまとめることができる。 1.「体育指導において困難に思っているこ と」については、体育授業の「基礎的条件」 (高橋,1992) に関する課題に対しては悩み事 の認知が低く、一方で体育授業の「内容的条 件」(高橋,1992) に関する課題については悩 み事の認知が高い傾向がみられた。また、教職 5 年目までに解決されるべき課題として「技術 指導」、「場づくり」、「学習規律」、「ニーズ」、 「意欲喚起」、「教材選択」が挙げられ、教職 15 年目までに解決されるべき課題として「学習評 価」、「好意」、「教材知識」が挙げられる。そし て、「把握」、「不得意」、「技能向上」、「つまず き」、「年間計画」、「認識指導」、「協力関係」と いった課題については、教職経験年数にかかわ らず継続的に解決が図られるべき課題であると 考えられた。 2.「体育授業で困難に思っていることの解決 方 法」に つ い て は、「学 年 教 師」、「イ ン タ ー ネット」、「体育主任」、「文献」の 4 つが重要な 役割を果たしていることが明らかとなった。ま た、教職経験年数別にみると、初任期の教師は 上記の 4 つに加え、学校外の学習の場を比較的 多く活用している傾向にあった。中堅期になる と、特に「体育主任」や「文献」の果たす役割 が重要になると考えられた。熟練期の教師は、 「学年教師」、「インターネット」、「体育主任」、
「文献」の 4 つに加え、研究指定校の研究会に 比較的多く参加している傾向がみられた。 3.「研修会で学びたいこと」については、各 運動領域の内容よりも指導法を、また理論より も実践を学びたいと考えていることが明らかに なった。また、教職経験年数別にみると、全般 的に、若い教師の方が学びたいという意識の高 い傾向がみられた。そして、中堅期の教師は 「カリキュラム」や「系統性」といった指導計 画の作成にかかわる内容を比較的学びたいと考 えていることや、熟練期の教師は、「日常化」、 「基礎理論」、「最新理論」といった理論的内容 については、比較的学びたいと考えていないこ とが示された。 4.各キャリアステージの教師に対する支援 を考察すると、初任期の教師に対しては、目の 前の子どもに対する理解を深めるために、学年 部など身近な教師と日常的に対話ができる環境 を整えることが重要であると考えられた。また、 中堅期の教師に対しては、専門的知識を有する 体育主任を育成することや、中堅期の教師自身 が体育の専門的知識を学ぶための研修会や講習 会に参加しやすい環境をつくることが重要であ り、さらに、学校外で学んだ専門的知識を学校 内の他の教師と共有できるような校内研修の組 織化が重要であると考えられた。そして、熟練 期の教師については、常に自らの教育活動を省 察し、積極的に学び続ける姿勢が重要であると 考えられた。 5.総じて、小学校教師は、概ね教職 6 年目 からの中堅期において、体育の専門的力量を形 成していくものと考えられ、そこでは専門的知 識を有する体育主任の果たす役割が重要である と考えられた。それゆえ、体育主任の専門的力 量を高めることが、校内研修を通じて教師全体 の体育指導の力量を形成することにつながると 推察された。また、体育の専門的力量を形成す る上では、実技を伴う研修会や講習会の中で、 教科内容の専門的知識を学習する機会を設定す ることが重要となる。 注 1 ) 高 橋 (1992) は,「授 業 の マ ネ ー ジ メ ン ト」, 「学習の規律」,「授業の雰囲気」といった,授 業の目標・内容・方法の考え方や形式に関係 なく,すべての授業に常に要求される条件を, 体育授業の「基礎的条件」と規定した。また, どのような授業の目標・内容が決定されたの か,どのような教材や教具が工夫されたのか, どのような学習過程や学習形態が適用された のか,どのような説明・演示・発問・指導言 葉が計画され,適用されたのかといった条件 を体育授業の「内容的条件」と規定した。 文 献 荒井弘和・大平誠也・上田暁史・梅田幸博・江上知 男 (2007) 小学校教員を対象とした「基本の 運動」指導に関する調査研究 ―― 指導の困難 さおよび指導阻害要因の検討 ――.体育の科 学 57(10):782-788. 中央教育審議会 (2006) 今後の教員養成・免許制度 の在り方について (答申) 中央教育審議会 (2012) 教職生活の全体を通じた教 員の資質能力の総合的な向上方策について (答申) 加登本仁・松田泰定・木原成一郎・岩田昌太郎・徳 永 隆 治・林 俊 雄・村 井 潤・嘉 数 健 悟 (2010) 体育授業の悩み事に関する調査研究 (その 1) ―― 教職経験に伴う悩み事の差異を中心とし て ――.学校教育実践学研究 16:85-93. 加登本仁・松田泰定・木原成一郎・岩田昌太郎・徳 永 隆 治・林 俊 雄・村 井 潤・嘉 数 健 悟 (2011) 体育授業の悩み事に関する調査研究 (その 2) ―― 悩み事の解決方法を中心として ――.学 校教育実践学研究 17:169-174. 厚東芳樹 (2011) 教職経験年数という物理的条件が 教師の反省的思考に及ぼす影響 ―― 小学校低 学年担任の男性教師について ――.北海道大 学大学院教育学研究院紀要 112:59-71. 教育職員養成審議会 (1999) 養成と採用・研修との 連携の円滑化について (第 3 次答申) 松田恵示 (2010) 調査研究からみえてきた教師の職 能成長.梅野圭史ほか編著 教師として育つ ―― 体育授業の実践的指導力を育むには ――. 明和出版,pp. 122-127. 文部科学省 (2012) 学校基本調査 ―― 平成 24 年 度 (速報) 結果の概要 ――.文部科学省ホー ム ペ ー ジ http : //www. mext. go. jp/compo-nent/b_menu/houdou/__icsFiles/afieldfile/2012 /08/30/1324976_02.pdf 2012 年 10 月 29 日検 索. 中井隆司・澤田あかね (2007) 小学校体育授業への 取り組みに対する自己診断表作成の試み ―― 反省的実践家として自己成長できる教師を目 指して ――.教育実践総合センター研究紀要
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