〈研究ノート〉
小売食料品店の広告・販売慣行の規制
一規則修正に対する代替案
内 田 耕 作
1 はじめに 「小売食料品店の広告・販売慣行」という取引規制規則は,主として費用・ 便益分析に基づく見直しの結果,1989年8月28日,実質的な修正を受けるに到 った。 この点,もともとの規則に関してどういつだ費用・便益分析が行われたのか, 入手不可能の現状に対してどういつだ法的評価が下されたのか,その結果どう いつだ修正が行われたのか,はたまた,修正規則はどういつだ効果を及ぼすと 1) 考えられているのかといったことについては,すでに紹介した。 そこで,本稿において,残された問題,すなわち,当該修正に対してどうい つだ代替案が提案されたのか,またそれらがなぜ採択されなかったのかについ て紹介することにする。 叙述は次の順序による。まず,現状維持という選択肢がなぜ採択されなかっ たのかについて簡単に述べる。次に,廃止という選択肢の法的根拠についてや や詳しくふれるとともに,それがなぜ採択されなかったのかについて述べる。 そして,その後,再修正としてどういつだものが提案されたのかについて紹介 するとともに,それらがなぜ採択されなかったのかについて述べる。 なお,最後に,本規則修正は一貫した論理に基づいて行われたものであるの 1)この点については,拙稿「小売食料品店の広告・販売慣行の規制 取引規制規則の修 正 」彦根論叢272号179頁(1991年)参照。170 彦根論叢 第275号 か,あるいは妥協の産物であるのかということについても,若干の考察を加え ることにする。これをもって,2つの小論のむすびとすることにする。
II現状維持
委員会が何らの行動もとらず,もともとの規則をそのままにしておくことは, 2) 選択肢の1つでありうる。 しかし,委員会は,次のような理由により,規則の現状維持という選択肢を 3) 採択しなかった。すなわち,もともとの規則を遵守する費用の方が,その便益 を大きく上回るという理由である。 当該規則は,不必要な在庫への投資ならびに過剰な監視および記録保持の費 用という形で,費用の高くつく負担を小売食料品店に課す。そして,これらの 費用は,高価格またはサービス低下という形で,究極的に消費者に転嫁される。 他方,消費者が獲得すると思われる節約は,主として,次のことの結果であ る。すなわち,ストックされていない商品を購入するためになされるむだ足の 数が,減少するということである。これらの節約あるいは便益は,当該規則が 課す費用からすれば,わずかなものにすぎない。III廃止
規則の廃止は,1986年12月の最終スタッフ報告書に添付された消費者保護局4) 5)
長の声明において,はじめて表だって主張されたように思われる。そして,そ 2)もっとも,この選択肢は,消費者等のコメントに支持が見受けられる程度で,スタッフ 等により強力に主張されることはなかった。消費者等のコメントについては,See Sum− mary of Comrnents on the Proposed Amendment of the Retail Food Store Advertising and Marketing Practices Trade Regulation Rule 1, 5−9. See also Henry B. Cabell, Report of the Presiding Officer on Proposed Trade Regulation Rule : Retail Food Store Advertising and Marketing Practices 48−49 (1987). 3) See 54 FR at 35463. 4) Statement of William MacLeod, Director, Bureau of Consurner Protection, Ac− companying the Final Staff Report on the Retail Food Store Advertising and Marketing Practices Rule. 5)それ以前の動きとしては,次のことが目立っ程度である。すなわち,1985年10月24日の/6) れは,その後の手続の諸段階において,規則制定にかかわったスタッフの1人,
7) 8) 9) 10)
消費者保護局長,経済局,カルバニ委員により強力に主張されるに到った。 しかし,本稿では,各々の主張のいちいちを紹介することはせず,全体を見 渡すことによって,まず,廃止という選択肢の法的根拠がどのようなものであ りうるのかを確定することにする。そして,その後,委員会がなぜ廃止という 選択肢を採択しなかったのかについて紹介することにする。 なお,最後に,委員会の見解に対する,廃止の立場からの想定されうる反論 についてもふれておくことにする。 (1)廃止という選択肢の法的根拠 廃止という選択肢の法的根拠は,次のように総括することができるように思 われる。すなわち,入手不可能の現状は不公正でも欺隔的でもないというのが 主たる法的根拠であり,たとえそれが不公正または欺野物であるとしても,規 則制定基準が満たされていないというのが従たる法的根拠であるということで ある。以下,それぞれどういつだ主張がなされうるのか,紹介することにする。 (a)入手不可能の現状の法的評価 まず,入手不可能の現状は不公正では \規則制定案の告知において,規則の廃止が選択肢として取り上げられ,その費用・便益分 析が行われたということである。See 50 FR at 43229−30,43231,43232. なお,1986年12月の最終スタッフ報告書における議論については,Bureau of Consumer Protection, Retail Food Store Advertising and Marketing Practices: Final Staff Report to the Federal Trade Commission on Propesed Amended Trade Regulation Rule 117−30 (1986). 6) See Memorandum from Walter C. Gross, III, Jill Goodrich−Mahoney and Barbara DiGiulio, Rulemaking Staff Attorneys, Division of Service lndustry Practices, BCP to the Commission (September 4, 1987). 7) Memorandum from William C. MacLeod, Director, Bureau of Consumer Protection, to the Commission (November 30, 1987). 8) Memorandum from David T. Scheffman, Director, Bureau of Economics, to the Commission (November 10, 1987) ; Memorandum from Ronald S. Bond, Deputy Director, Bureau of Economics, to the Commission (November 10, 1987). 9) Dissenting Statement of Commissioner Calvani, 54 FR at 35468. 10)なお,事業者団体等のコメントについては,Summary of Comments, supra note(2), at 1, 4−5.172 彦根論叢第275号 ないという主張について,続いてそれは欺隔的ではないという主張について, 11) 紹介する。 12) (7)不公正 委員会の現行の不行正基準は,次のことを要求している。す なわち,①その慣行から生じる消費者侵害は重大である,②その侵害の方が, その慣行に由来する相殺的な消費者便益または競争上の便益を上回っている, および③その侵:害は合理的に避けられえない,ということである。 この点,約10パーセントの入手不可能という規則制定前の平均は,委員会の この不公正基準を満たしていない。その理由は次のところにある。 約10パーセントの入手不可能の率と比べたとき,現行の平均約5パーセント という入手不可能の率は,買物客1人当り1週間で1セント未満の追加的な節 約を提供するにすぎない。この見積りに基づけば,消費者は,1年当り総計4, 800万ドルの便益を受ける。しかし,規則を遵守する費用は,1年当り1億2,600 万ドルないし1億3,200万ドルから3億7,000万ドルの間であり,その便益をは るかに上回っている。 また,独立の調査機関の調査によれば,すべての消費者のほぼ4分の3は, 規則制定前の率のほとんど3倍の率の入手不可能でさえ,ほとんどまたは全く 不便を感じていない。したがって,入手不可能は消費者に重大な侵害をもたら さない。 これらの理由のために,当該産業に蔓延する入手不可能の程度は,一般に, 不公正ではない。 13) (イ)二三 委員会の欺隔基準は,次のことを要求している。すなわち,行 為または慣行が欺隔的であると考えられる前に,重大であり,かつその状況の 11)なお,委員会は,広告商品の入手不可能が中隔的な慣行となるとの判断を示しているが, それが不公正な慣行となるかいなかに関しては沈黙している。委員会の判断については, さしあたり,拙稿・前掲(注1)188−89頁参照。 12)以下,See Memorandum, supra note(7),at 6.なお,論述の整合性を保つために,デ 一色の数値には手を加えている。 13)以下,See Memorandum, supra note(6),at 24−29. See also Memorandum, supra note (7), at 6−8.
もとで合理的に行為する消費者をミスリードする蓋然性のある表示,不表示ま たは慣行が存在しなければならない,ということである。 この点,入手可能性に関する,限定のない表示は,消費者にとって重大であ るけれども,合理的に行為する消費者をミスリードする蓋然性はない。という のは,入手不可能が10パーセントを超えると大部分の消費者が見込んでいると ころ,消費者は実際には,約10パーセントのレベルの入手不可能に遭遇するに すぎないからである。 それゆえ,入手不可能がこのレベルにとどまる限りで,規則によってもとも と問題とされた行為は,現行の欺隔基準のもとでは欺隔的ではない。 なお,委員会が,広告商品の入手不可能は野馬的な慣行となるという判断を 下すに際して,34パーセントの消費者は完壁な入手可能性を期待しているとの 調査結果に依拠したことに対しては,次のような批判が廃止の立場から加えら れうる。すなわち,入手不可能に遭遇しなかったのは13パーセントの消費者の みであり,また,広告主のコントロールを超えるところの,入手不可能を惹起 する多くの状況が存在するので,その34パーセントの消費者がすべて,完愚な 入手可能性を期待するのは合理的ではない。したがって,記録上の証拠は,そ の状況のもとで合理的に行為する消費者は当該広告が完壁な入手可能性を表示 しているということを期待していないし,またそう解釈しないということを立 証している。 (b)規則制定基準のテスト 廃止の従たる法的根拠は,次のように要約す 14) ることができる。すなわち,委員会の規則制定基準によれば,規則が採択され る前に,次のことが立証されなければならない。すなわち,①行為または慣行 が蔓延している,②重大な害悪が存在する,③規則案はその害悪を減らすと思 われる,および④規則の便益はその費用を上回ると思われる,ということであ る。この点,当該の規則は,これらのテストのいずれをもパスしない。 もっとも,廃止の立場は,規則制定基準の各々のテストをどのように行った かについては必ずしも明らかにしていない。むしろ,①ないし③の基準のテス 14) See Memorandum from David T. Scheffman, supra note (8).
174 彦根論叢第275号 トは,一括して,市場の失敗が存在するかいなかという問題の検討に代置され ているように思われる。そこで,本稿でも,市場の失敗の存否の検討を紹介す ることで,①ないし③の基準のテストに代えざるをえない。 (7)市場の失敗の存否 市場の失敗の証拠は存在しないというのが,廃止 15) の立場からの主張である。 まず,消費者行動に関しては,記録は次のことを示しているという。すなわ ち,第1に,消費者は,店舗を見渡したり店員にたずねたりすることによって, 広告製品がストックされているかどうかを容易に確かめることができる。第2 に,ほとんどの消費者は,同じ小売店に頻繁に,また定期的に買物に行く。第 3に,ほとんどの消費者は,便利であると考えられる小売食料品店を少なくと も3つもっている。そこで,特定のノj・売店での広告商品の入手不可能のレベル が高いままであれば,相当のパーセンテージの消費者は,他の小売店で買物を することによって当該の小売店をこらしめることができ,また実際にこらしめ ている。 他方,市場構造に関しては,記録は次のことを示しているという。すなわち, 小売食料品産業は非常に競争的な産業である。したがって,そこでは,常連客 を維持し,反復購入を促すために,小売食料品店は,適量の広告商品をストッ クするよう強いインセンティブが与えられる。 かくして,市場諸力が,小売食料品店による欺史的広告に対する強い抑止力 を提供することになる。 16) (イ)費用・便益分析 廃止の立場からは,次のように主張される。すなわ ち,規則制定の記録は,もともとの規則の費用がその便益を相当上回っている 15)以下,See Memorandum, supra note(6),at 37−38;Memorandum, supra note(7),at 2, 9−10 ; Memorandum from David T. Scheffman, supra note (8) ; Memorandum from Ronald S. Bond, supra note (8), at 1 ; Dissenting Statement of Commissioner Calvani, supra note (9). 16)この点については,See Memorandum, supra note(7), at 3;Memorandum from David T. Scheffman, supra note (8) ; Memorandum from Ronald S. Bond, supra note (8), at 1.
17) ということを立証している。その限りで,廃止の立場は,委員会の立場と合致 18) する。 (2)廃止についての委員会の見解 委員会は,規則廃止のメリットとデメリットを衡量した結果,規則の修正は 廃止のデメリットを回避することができるとともに,廃止のメリットを大差な く実現することができると判断して,廃止という選択肢を採択しなかった。こ .. 1?) の点,委員会は,次のよっにいっ。 もし規則が廃止されるなら,小売食料品店は,規則要求の結果として今日こ うむっている費用のすべてを回避することができる。消費者は,これらの費用 がもはや転嫁されない範囲で究極的に便益を得るであろう。消費者はまた,次 のことからも便益を得るであろう。すなわち,もともとの規則のもとでは小売 食料品店が通常は呼び物としない特売品の入手可能性について,広告を通じて 一層の情報を受け取ることができるということである。消費者への価格情報の 流入の増大は,買物客の時間費用を低め,競争を促進し,これらの商品の価格 を低めるであろう。 しかしながら,規則が存在しなければ,小売食料品店は,次のことに関して 明確なガイダンスを欠くかもしれない。すなわち,欺隔的な広告に関する一般 的禁止を執行するにあたり,委貝田がどういつだ基準を用いるのかということ である。この不確実さに直面して広告主は,たとえば過剰の在庫を注文したり, 通常の事業過程では維持しないと思われる記録を維持したりすることによって, 究極的に消費者に転嫁されるこれらの費用をいくらかこうむり続けるかもしれ ない。 加えて,規則の廃止は,いくらかの小売食料品店が,その分野における特定 の規制の廃止を利用し,公衆をだますよう企図されている慣行を行うのを促進 するかもしれない。というのは,直ちに民事制裁が課せられるというおそれが 17)これについては,拙稿・前掲(注1)183−88頁参照。 18)なお,相違点については,後述111(3)(c)参照。 19) See 54 FR at 35463−64.
176 彦根論叢 第275号 除去されるからである。確かに,既存の市場諸力がおそらくそのような悪事を 行う者の数を押えるであろうが,規則の廃止は,抑止の要素を除去し,あまり 成果が上がりそうにない欺三三主張をあえて行うよう不謹慎な小売食料品店を 誘惑するであろう。 それに対し,提案どおりに規則を修正することは,もともとの規則の遵守費 用のすべてを事実上排除し,新しい重大な費用を課さないであろう。確かに, 修正と廃止との間には費用節約に差があるが,それは,微小といえるほど小さ い。さらに,修正規則は,不注意による法違反を回避するために小売食料品店 が必要とする確実性を提供する。それは,また,規則違反に対する民事制裁と いう抑止のインパクトをもっている。 要するに,修正規則は,規則を適所にもっという肯定的な有利さを保持する 一方,規則の廃止とほとんど同じように費用を低下させる。したがって,委貝 回は,規則の修正が廃止より望ましいと信じる。 (3)廃止の立場からの想定される反論 廃止についての委三会の見解に対しては,次の点をめぐって,廃止の立場か ら反論がなされうるように思われる。すなわち,①規則の廃止によって不公正 または三三的な慣行が蔓延するか,②規則の廃止によって小売食料品店の行為 準則が欠けることになるか,③規則の修正と廃止との間での費用節約の差は微 小といえるほど小さいか,という点である。 (a)不公正または三三的な慣行の蔓延 ここでは,次の2つのことが問題 になる。すなわち,1つは,規則の廃止によって将来市場が失敗する可能性が あるかいなかであり,もう1つは,規則の廃止によって委員会が小売食料品店 における不公正または欺隔的な慣行を阻止する意図をもっているというシグナ ルを提供することができなくなってしまうかいなかである。 20) (7)市場の失敗 将来の市場の失敗は全くありそうにない。したがって, 我々は,そのような失敗に対して保険をかけるために高い保険料を喜んで支払 わないであろう。そういった状況のもとでは,ケース・バイ・ケースのアプロ 20)以下,See Memorandum from Ronald S. Bond, supra note(8>,at 3.
一チが適切であるように思われる。もし市場の失敗が将来起こるとすれば一 それはありそうにない事態であるが一,その時,委員会は規則の制定を考え ればよい。 (イ)執行意図のシグナル 委員会が小売食料品店における不公正または欺 隔的な慣行を阻止する意図をもっているというシグナルは,とりわけ,規則ほ コ どやっかいでない次の行為によって可能である。すなわち,委員会が規則制定 手続の終結時に,または将来の適当な時期に,政策声明またはガイドを発する ということである。 (b)行為準則の欠如 まずもって,市場の失敗が立証されているわけでは ないので,規制の一層の確実さが必要であったり望ましいということが自明で 22) あるわけではない。たとえそうであるとしても,規則制定ほど制限的ではない 手段を利用することが可能である。たとえば,規則案に類似した政策声明また はガイドを発することがそうである。 したがって,規則を廃止しても,小売食料品店の行為準則が直ちに欠けると いうことにはならない。 (c)費用節約の差 修正規則はもともとの規則の費用を減少させることは 23> できるが,その費用はなお便益を上回っている。 したがって,規則の修正と廃止との間での費用節約の差は,微小といえるほ ど小さくはない。 IV 再修正 修正案に対しては,また,消費者に役立つか,小売食:料品店の責任回避を防
24) 25)
止するよう,それが再修正されるべきであるとの提案も数多く行われている。 21)以下,See Memorandum, supra note(6),at 39;Memorandum, supra note(7),at 12 ; Memorandum from Ronald S. Bond, supra note (8) , at 3. 22)以下,See Memorandum from Ronald S. Bond, supra note(8),at 3. 23) See Memorandum, supra note (6),at 38−39; Memorandum, supra note (7),at 3, 12; Memorandurn from Ronald S. Bond, supra note (8), at 1. 24>なお,再修正案ではないが,規則制定案の告知においては,入手不可能の受忍レベルの 設定の是非が検討されている。See 50 FR at 43229,43230,43231,43232. 25)なお,費用・便益分析にかかる再修正の立場について付言すれば,およそ次のようにい/178 彦根論叢 第275号 そこで,以下,開示にかかるものと抗弁にかかるものとに分けて,どういつだ 26) 再修正が提案されているのかを紹介するとともに,どのように考えて委員会が 27) それらを採択しなかったのかをみることにする。 (1)開示にかかるもの 開示に関しては,次の方向で再修正が行われるべきであるということが提案 されている。すなわち,①個別商品ごとの数量限定開示,②具体的な数値を用 いた数量限定開示,③入手可能の店舗を特定する開示,の方向である。 28) (a)個別商品ごとの数量限定開示 これは,数量が限られている旨の開示 が個別商品ごとに行われるよう再修正すべきというものである。 その趣旨は,次のところにある。すなわち,数量が限定されている旨の広い 一般的なことわりは,どの商品の数量が限られているのか,また,どの商品が 充分に供給されているのかを消費者に知らせないので,情報が提供された上で の消費者選択を促進しないし,また,顧客の便益の促進にもならない,という ことである。 しかし,委員会は,次のように考えてこの提案を採択しなかった。すなわち, このアプローチは,広告されたすべてのもののために広い一般的なことわりを 小売食料品店が用いる機会を排除するという点で,消費者にとっていくらか価 値があるかもしれないが,記録には,この提案を採択するための証拠に基づい た根拠は存在しない。また,広い一般的なことわりは,より特定的なことわり と同程度に消費者にとって有用であったり報知的であったりするわけではない \うことができる。すなわち,再修正の立場は,もともとの規則の費用が便益を上回ってい るということでは修正の立場と軌を一にしているが,費用・便益のそれぞれの見積りに関 しては評価を異にしており,またその較差をより小さくみているということである。See Memorandum, supra note (6), at 6. 26)なお,再修正は,聴聞官と,修正案に対してコメントを提出した公衆とによって提案さ れているが,どの提案がだれによるものかはここでの関心事ではないので,その点にはふ れないこととする。 27)ちなみに,規則制定にかかわったスタッフによる,聴聞官の再修正案にかかる評価につ いては,See Memorandum, supra note(6),at 6−7,18−22. 28) See 54 FR at 35464,
が,公衆がそれによってだまされるという証拠は存在しない。 それどころか,実際の需要を満たすのに充分なだけすべての製品が供給され ないかもしれないということを消費者が報知される限りで,消費者は,その特 定の小売店では入手不可能の危険がいくらか存在するということを注告される。 そこで,消費者は,どこで買物をするかの決定に際して考慮に入れる変数に, その要素を含めることになる。 こういつた態様で広告を行うことは,一般に,欺隔的ではないと思われるの で,修正案の再修正を通じてそのような広告を減らそうと試みるのは,正当化 することができない。 29) (b)具体的な数値を用いた数量限定開示 これは,各々の店舗で入手可能 な広告商品の最低数量が開示されるよう再修正すべきであるというものである。 再修正の趣旨は,次のところにある。すなわち,広告商品の供給が極端に少 ないところでは,数量が限られているとのことわりを,小売食料品店が用いる ことができないようにするということである。 しかし,委員会は,次のような考えで,この再修正案を採択しなかった。ま ず,それは,数量が限定されているということわりを,とにもかくにも用いる ことに対する高価な障害となり,したがって,今は広告されていないところの, 数量が限定されている商品の広告を増加させようとする当該修正の機能をだい なしにする。 次に,そのような開示は,消費者に情報を提供するものではない。というの は,小売店は入手可能な最低数量を低めに述べがちであり,また,消費者は, どれくらいの速さでその供給が尽きるかわからないからである。 そして,最:後に,そのような開示は必要ではない。というのは,あまり特定 的でない開示を認める規則上の例外が濫用される可能性があれば,連邦取引委 員会法5条が発動されうるからである。 30) (c)入手不可能の店舗を特定する開示 これは,一定の店舗に限定される 29) See 54 FR at 35464−65. 30) See 54 FR at 35465.
180 彦根論叢 第275号 入手不可能に関することわりは,特定的でなければならないということを要求 するよう再修正すべきであるというものである。 再修正の趣旨は,次のところにある。すなわち,広告製品は「すべての店舗 で入手可能というわけではありません」ということのみを告げる開示は,当該 商品が入手不可能であるかもしれない店舗の所在を充分に消費者に知らせない, ということである。 しかし,委員会は,次のように考えて,この再修正案を採択しなかった。ま ず,特定の製品を見つけることができる(あるいは見つけることができない) 店舗の所在すべてを小売食料品店がリスト・アップするよう要求することは, あまりにも費用の高くつく広告スペースを必要とする。 次に,もともとの規則は,共通の場所(たとえばメリーランド州の店舗)ま たは共通の特徴(たとえばデリカテセン部門をもつ店舗)のいずれかによって, 入手可能性が限られていることを消費者に知らせればよいことになっている。 また,「すべての商品がすべての店舗で入手可能とは限りません」ということ を小売食料品店が明確に開示するなら消費者は害されるとの証拠は,規則制定 にかかる聴聞の間には提出されなかった。 そして,最後に,そのことわりに遭遇する消費者は,一定の商品がすべての 店舗で販売されないかもしれないという注告を与えられるので,どこで買物を すべきかの決定にとって特定の商品の入手可能性が重要であれば,前もって電 話をすることができる。 (2)抗弁にかかるもの 抗弁に関しては,次の方向で再修正が行われるべきであるという提案が行わ れている。すなわち,①抗弁発動の前提条件の設定,②引換券と代替品との間 でのオプションの消費者への付与,③引換券を抗弁とする場合の要件の追加, 等の方向である。 3D (a)抗弁発動の前提条件の設定 この点に関しては,次のような再修正が 提案されている。すなわち,1つは,引換券または代替品にかかる抗弁を発動 31) See 54 FR at 35465.
する前提条件として,最低限の在庫をもつことを要求するというものである。 その趣旨は,次のところにある。すなわち,①潜在的に欺隔的な広告から消費 者を保護し,合理的なレベルの入手可能性を確実にする,②「最後の1つの需 要」を満たすことと結びついた,もともとの規則のもとでの記録保持および在 庫の費用を大きく減少させる,ということである。 そして,もう1つの再修正案は,当該抗弁の発動の前提条件として,合理的 に予測される需要を満たすのに充分と判断した数量の商品を,小売食料品店が 注文したということを要求するというものである。 しかしながら,委員会は,次のように考えて,これらの再修正案を採択しな かった。まず,小売食料品店は,過剰仕入れを行い,また,通常の事業過程に おいてなされるところのものを超えて監視および記録保持を行い続けなければ ならない。その結果は,少なくとも,修正案の目標一当該規則を遵守する費 用の低減一の部分的な挫折となる。 次に,引換券および代替品は,入手不可能に対する,受け入れることができ る代替として役立ち,また入手不可能を防止するインセンティブとして役立つ ので,そのような前提条件を要求することは,欺購の防止のためには正当化さ れえない。 最後に,小売食料品店が広告商品の過少仕入れを組織的にかつ故意に行って いるということを示唆する証拠は存在しなかった。 なお,小売食料品店がおとり広告を行えば,それは,引換券または代替品が 提供されたかどうかにかかわらず,連邦取引委員会法5条のもとで訴追されう る。 32) (b)引換券と代替品との間でのオプションの消費者への付与 この点に関 しては,次のような再修正が提案されている。すなわち,ユつは,好みの補償 方法を選択するというオプションを消費者に許すとともに,代替品の場合には 何が「匹敵しうる」代替品であるかを決定するオプションを消費者に許すとい うものである。というのは,消費者は,自分が望まないタイプの補償を受け入 32) See 54 FR at 35465−66.
182 彦根論叢 第275号 れるよう強制されるべきではないからである。また,利益の増大を図るために 品質の悪い商品を広告商品に代替する機会を小売食料品店に与えるべきではな いからである。 そして,もう1つは,入手不可能な商品が通常ストックされているものであ る場合には,小売食料品店が申し出るその他の補償に優先して,引換券を受け 取ることを選ぶ機会を顧客に与えるというものである。 しかし,委員会は,次のように考えてこれらの再修正案を採択しなかった。 すなわち,小売食料品産業の高度に競争的な性質,および小売店は顧客を満足 させるよう動機づけられているという,争われていないかなりの記録上の証言 に照らせば,顧客が引換券または代替品に対する好みを述べるとき,小売店の 責任者は顧客の便宜を図るよう最善を尽くすといえる。したがって,代替品政 策ではなく引換券政策を,当該小売店がとることを顧客が好むとき,その問題 を解決するための最善の手段は,顧客と小売店との間での1対1の交渉である ようにみえる。 33) (c)引換券を抗弁とする場合の要件の追加 この点に関しては,次のよう な再修正が提案されている。すなわち,1つは,引換券という抗弁に依拠する 小売食料品店は,問題になっている商品を即座に再注文し,また,それが再び ストックされるとき顧客に通知しなければならないということである。そして, もう1つは,小売食料品店が引換券を償還するための「合理的な時期」を要件 として課すということである。 しかし,委員会は,次のように考えてこれらの再修正案を採択しなかった。 すなわち,そのような要求はわずらわしく,規則の遵守を複雑にする。「合理的 な時期」または「即座に」といったあいまいな用語の使用は,小売食料品店が, 通常ではない遵守手段にいつ訴えなければならないのか,またそれをいつ免れ ることができるのかを知るために必要な,規制上の確実さを提供しない。 また,ほとんどのスーパーマーケットは,1週間以内には確実に,ほとんど の製品の供給を補充することができ,かっ,スーパーマーケットの買物客の大 33) See 54 FR at 35466
多数は,次の定期的な買物の際に引換券を償還することができるので,引換券 の発行および償還をつかさどる基準を作り出す必要はないようにみえる。その ような要求は,評価しうるほどに便益を改善することなく,費用を追加するだ けであろう。 なお,引換券を償還するためにわざわざ出向かなければならない消費者は, いつでも前もって電話をして,引換券を渡された商品が再びストックされたか どうかを確かめることができる。 V 修正は妥協の産物か 委員会は,次のようにいう。すなわち,費用・便益のインバランスを正す選 択肢をすべて考慮したのち,提案どおりに規則を修正することが,高められた 入手可能性に由来する消費者の便益を維持する一方,費用を実質的に減じるこ とになるとの結論を下した。 しかし,もともとの規則の廃止ではなく,修正という選択肢が採択されたの は,一貫した論理に基づくというよりも,妥協の産物であるように思われる。 この点,問題となるのは,委員会が,規則制定案の告知の段階で早々に,次 の方向で規則の修正を行うということを事実上決定してしまったのではないか ということである。すなわち,消費者の便益を維持する一方で,産業に課せら れる負担を減少させるという方向である。 このことは,次の事実から間接的に確かめることができるように思われる。 すなわち,第1は,規則制定案の予告およびスタッフの経済分析に応じて提出 されたコメントは,消費者が当該規則の廃止に強く反対していることを示して おり,また,スタッフは,規則を修正することで委民会は,規則によって課せ 34) See 54 FR at 35462. 35)なお,取引規制規則の改廃に伴う制約の違いから,もともとの規則の廃止ではなく,修 正という選択肢が採択されるに到ったという面があることも,無視できないように思われ る。See 54 FR at 35457−58;Memorandum, supra note(6>, at 23. 36) See 54 FR at 35457; Mernorandum from Richard E Kelly, Assistant Director, Division of Service lndustry Practices, to the Commission (Novernber 9, 1987), at 4.
184 彦根論叢 第275号 られる費用を減少させるべきであると勧告していたということである。 第2は,規則制定案の予告に対して消費者が先例のない反対を行ったのとは 対照的に,規則制定案の告知に対する消費者および消費者グループの対応は, 控え目であったということである。また,産業の対応も,控え目であったとい うことである。 そして,第3は,廃止が委員会に利用可能な現実みのあるオプションである ということを,局長およびスタッフが明確に指摘してからも,この手続の当事 者によるリアクションはほとんどなかったということである。 このように,規則制定案の告知の段階で規則を修正することが既定の事実と されたということは,結果として,本規則修正の論理にあいまいさを残すこと 37) となったように思われる。 しかし,本規則修正は,規則が作り出す消費者への便益を維持する一方,費 用を可能な限り排除しようとしたものであり,適切なバランスをとったものと 38) して,大方の賛同を得ることができたように思われる。 37)とくに問題になるのは,次の点である。すなわち,入手不可能の現状の法的評価に際し て,委員会が,入手不可能についての消費者の態度および知覚に関する消費者調査の結果 を場当り的に利用したのではないかという点である。詳しくは,拙稿・前掲(注1)のIII (1)(b)と剛Vとを対比されたい。 38) See Memorandum, supra note (36), at 5.