招待論文
IMT-Advanced
に向けた無線実験装置の開発
鈴木
利則
†宮崎
功旭
†小西
聡
†Testbed Development for IMT-Advanced Radio Experiments
Toshinori SUZUKI
†, Noriaki MIYAZAKI
†, and Satoshi KONISHI
†あらまし IMT-Advanced とは,俗(あるいは一般)に第 3 世代携帯電話システムと呼ばれる IMT-2000 の後継システムを表す ITU-R での総称である.IMT-Advanced の最大伝送速度としては,高速移動環境で 100 Mbit/s,低速移動環境で 1 Gbit/s 程度が目安として設定されている.本論文は,IMT-Advanced の主要無 線技術を検証するために,筆者らが開発した実験装置を紹介する. キーワード IMT-Advanced,実験装置,無線システム,移動通信,OFDM,MIMO
1.
ま え が き
携帯電話に代表される移動通信は,アナログから ディジタルに変わった第2世代を経て,音声サービス 以外の多様なサービスも可能とする第3世代を迎え ている.更に,携帯端末の処理能力やユーザインタ フェースの向上に伴ってアプリケーションの高速大容 量化が進展し,より性能の優れた次の移動通信システ ムが期待されている. 第3世代の商用サービスが始まった2000年代初頭, 来るべき新しいシステムをInternational Telecommu-nication Union RadiocommuTelecommu-nications Sector (ITU-R)ではSystems Beyond IMT-2000(通称Beyond 3G)と称し,その特徴はいわゆるVan diagram [1]に集約され,多くの議論が進められてきた.2005年の
ITU-R WP8F会合において,IMT-2000の高度化と
その後継システムをIMT-Advancedとすることが合
意された.2005年前後に標準化が開始された Evolved-UTRA (LTE) [2]やUMB [3]は,IMT-2000の高度
化に位置づけられる.IMT-Advancedは,高速移動 環境下で100 Mbit/s以上,低速移動環境下で最大 1 Gbit/s程度が目標とされ,無線関連の研究報告がな されてきた[4], [5]など. 限られた周波数帯域でギガビットオーダの移動通信 を実現するには,マルチパス伝搬に強く帯域あたりの †(株)KDDI研究所,ふじみ野市
KDDI R&D Laboratories, Inc. 2–1–15 Ohara, Fujimino-shi, 356–8502 Japan ビットレートが高いマルチキャリヤ系の変調/アクセ ス方式や周波数利用効率を大きく向上させるMIMO (Multiple-Input Multiple-Output)等の新たな無線技 術を今までにないパラメータで実装し運用することが 求められる.また,ハード規模や方式の評価は,実用化 にあたって欠かせないノウハウとなる.このような背 景から,本論文では筆者らが開発したIMT-Advanced 無線実験システムを紹介する.
2.
装 置 仕 様
2. 1 全体構成と概要 開発した実験装置は伝送帯域幅に応じて二つのモー ドをもつ.大きな違いは,下りリンクの帯域幅がモード 1では100 MHz,モード2では20 MHzとなることで ある.モード1はIMT-Advanced,後者はIMT-2000 の高度化システム相当のパラメータと位置づけてい る.なお,ITU-Rで定められたIMT-Advancedの帯 域幅の要求条件は40 MHz以上である[6].本論文で は主にモード1に関する内容を紹介する.表1に主 要諸元を示す.なお,表中のR-OFDM (Rotational Orthogonal Frequency Division Multiplexing)とは 筆者らが提案している多重伝送技術であり,詳細につ いては3.1で述べる. 実験装置の全体構成を図1に示す.オムニセル基地 局(BS) 1台と移動局(MS) 3台で構成される.ただ し,モード1で動作する移動局は1台(MS#1)のみで ある.BS及びMSは,主にモデムとRFの機能を有す る無線部(Radio Module),無線部の操作・監視用端末(OMT:Operation and Maintenance Terminal),無 線区間のプロトコルを終端しIPアプリケーションサー バにインタフェースを提供するRLP-PC (Radio Link Protocol-Personal Computer)で構成される.図1に は,ネットワーク側の通信パス経路にあるアプリケー ションサーバ,基地局RLP-PC及び無線部のプロト コルスタックも示している.移動局側も同様の構成で ある. また,実験装置にはセルラシステムで用いられる基 本的な制御機能を備えている.これらは,無線要素技 術をシステムの観点でも検証することを意図して実装 表 1 実験装置の主要諸元
Table 1 Major radio parameters of the testbed.
図 1 実験装置の全体構成 Fig. 1 Testbed system architectures.
されている.主な制御機能を以下に示す. • 適応変調制御:伝送路状態を受信側から送信側 に報告し,その報告に基づいた変調方式と符号化率を 適応的に用いる.データチャネルに採用されており, 伝送路情報はサブフレーム長である0.5ミリ秒ごとに 4ビットでフィードバックされる.制御遅延は6ミリ 秒である.この機能は,ユーザ視点でのスループット 特性や通信品質を評価する際に用いる. • 送信電力制御:下り送信電力はディジタルゲイ ン設定による固定値が用いられる.上り送信電力は, リンク確立までのオープンループ制御とリンク確立後 のクローズドループ制御により調整される.55 dBの 電力範囲を0.25∼2.0 dB刻みで,0.5ミリ秒ごとに制 御することが可能である.この機能は,送信電力と通 信品質の関係や与干渉の評価の際に用いる. • 多元接続:モード2の場合の機能として,最大 3台の移動局と同時接続することができる.各移動局 に割り当てる無線チャネルは,装置立上げ時に操作者 が指定し,その割当情報が報知チャネルで移動局に通 知される. 上記以外に上りタイムアラインメント機能等も有して いる. 2. 2 チャネル構成とフレーム構成 実験装置の無線区間では図2の物理チャネルが定義 されている. • F-SCH:移動局がシステムタイミングを捕そく するためのチャネルで,基地局がプリアンブルを送出 するチャネル.プリアンブルパタンや送出アンテナは
操作者が設定可能である.フレーム先頭の1サブフ
レーム内に1∼3シンボルの範囲で割り当てられる.
• F-CCH:移動局に対する制御情報を運ぶチャ ネルである.すべての移動局が用いる共通制御チャネ ル(F-CCCH;Forward-Common Control Channel)
と,制御対象の移動局を指定する個別制御チャネル
(F-DCCH;Forward-Dedicated Control Channel)があ
る.前者はフレーム先頭の1サブフレーム内に2∼4 シンボルの範囲で割り当てられる.後者は,各サブフ レームの第1,第5シンボルのいずれか若しくは両方 に割り当てることができる. • F-CPICH:すべての移動局が用いる下りパイ ロット信号を運ぶチャネル.各サブフレームの第1シ ンボルに割り当てられ,更に高精度なチャネル推定が 必要な場合に第5シンボルにも割り当てることができ る.F-CCHと異なるサブキャリヤを用いることで周 波数領域で多重化される. • F-DCH:ユーザが通信に用いる下りチャネル. フレーム先頭でないサブフレームの第2,3,4,6,7 シンボルに割り当てられる.F-CCHとF-CPICHが 第5シンボルに割り当てられていなければ,F-DCH を割り当てることもできる. • R-ACH:リンク確立前に移動局がネットワー クにアクセスするのに用いるチャネル.競合するチャ ネルである. • R-CCH:基地局に対する制御情報を運ぶチャネ ル.リンク確立後のサブフレーム内先頭シンボル(第 1LB;Long Block.後述,図6参照)に割り当てら れる. • R-PICH:上りパイロット信号を運ぶチャネル. 図 2 無線区間の物理チャネル構成
Fig. 2 Physical channel structure on the air inter-face. リンク確立後のサブフレーム内の二つのSB(Short Block.後述,図6参照)に割り当てられる. • R-DCH:ユーザが通信に用いる上りチャネル. リンク確立後の第2∼6LBに割り当てられる. 各チャネルはディジタルゲインによる振幅重み付けが された後に,多重化される.それらの様子を図3と
図4に示す.上りリンクではSingle Carrier FDMA (SC-FDMA)を採用しており,R-PICHを除いては離 散フーリエ変換を用いて信号を生成している.また, F-DCHとR-DCHは考案技術である回転多重(3.1 参照)が適用される. フレーム構成は,LTE規格策定前に3GPPで議論 されていた内容に沿って構成しており,7 OFDMシ ンボルで構成される,長さ0.5ミリ秒のサブフレー ム(注1)と,20サブフレームで構成されるフレームを規 定している.ただし,上りサブフレームにおいては, サブキャリヤ間隔を下りサブキャリヤ間隔の2倍とし, シンボル長が半分になるショートブロックにより,6 ロングブロックと2ショートブロックで1サブフレー ムが構成される(注2).フレーム構成と物理チャネルの マッピング規則を図5と図6に示す. DCHは400サブキャリヤを1単位とし,それをサ ブチャネルと呼ぶ.DCHの1無線パケットは(400サ 図 3 下り物理チャネルの多重化構成 Fig. 3 Multiplexing structure for downlink physical
channels.
(注1):現LTE規格ではサブフレームが1ミリ秒である. (注2):現LTE規格ではショートブロックは規定されていない.
図 4 上り物理チャネルの多重化構成
Fig. 4 Multiplexing structure for uplink physical channels.
図 5 下りフレーム構成と物理チャネルのマッピング Fig. 5 Downlink frame structure and physical channel mapping.
図 6 上りフレーム構成と物理チャネルのマッピング Fig. 6 Uplink frame structure and physical channel mapping.
ブキャリヤ×1サブフレーム)に相当する.
2. 3 接続シーケンス
図7にリンク確立までのシーケンスを示す.通信
開始までのフェーズとして,下り同期確立(Forward
synchronization),上り同期確立(Reverse synchro-nization),下りリンク確立,及び上りリンク確立の 各フェーズがある.下り同期確立フェーズでは,移動 局がF-SCHとF-CPICHを用いて下りタイミングの
捕そくと追従を行う.この間,F-CCCHではオープ
ンループ電力制御のための下り送信電力情報(図7の
“open-loop Power Control info.”)が報知されてい る.移動局は次のステップである上り同期確立フェー ズにおいて,R-ACHを送信する際に,F-CPICHの 受信電力とこの下り送信電力情報から伝搬損を求めて オープンループ電力制御を行う. 図8に下り同期アルゴリズムを示す.SCHサーチ 1では,7.68 MHzクロックでF-SCHに用いられてい るCAZAC系列との相関値を検出し,しきい値1を 超える振幅を大きい順に二つ求め,それらを候補タイ ミングとする.次に,候補タイミングの周辺±16サ
図 7 リンク確立までの制御シーケンス Fig. 7 Control sequence to connect the data link.
図 8 下り同期捕そく・追従シーケンス Fig. 8 Flow chart to synchronize the downlink signal.
ンプルの中から相関値が,事前に設定したしきい値1 を超えるサンプルタイミング(これを候補タイミン グ群と呼ぶ)の数を求め,その数が多い方の候補タイ ミングをドミナントとみなす.ドミナントな候補タイ ミング群の中で最先行のタイミングを同期点として F-SCHによるタイミング捕そくを完了する.タイミン グ捕そく以後は,サンプリングレートを122.88 MHz に上げ(モード1の場合.モード2では30.72 MHz), F-CPICHを整合フィルタにより相関検出してタイミ ング追従し,その相関値がしきい値2を連続して下 回った場合に,F-SCHによるタイミング検出に戻る. 移動局が下り信号に対して同期を確立した後, R-ACHを用いて基地局にアクセスし,基地局は上り同 期確立する.その後,F-DCCHを用いて基地局が移 動局に対してR-ACH停波を命じ,更にタイムアライ ンメント(TA)とクローズドループ送信電力制御を行 う.移動局はR-ACHを停波した後にR-PICHと R-CCHを送出して下り信号品質(CQI:Channel Quality Indicator)を基地局に報告する.基地局は下りCQIに 基づいてF-DCHのMCS (Modulation and Coding Scheme)を選択して送出する.R-DCHに関しても同 様の手順が適用される(2.1「送信電力制御」の項も 参照).
3.
主要要素技術
3. 1 R-OFDM マルチキャリヤ伝送方式はマルチパス干渉に強く, 屋外環境での高速データ伝送に適しているとされて いる.代表的なマルチキャリヤ方式としてOFDMとMC-CDM (Multi Carrier-Code Division
Multiplex-ing)がある.チャネル符号化の符号化率と伝送路の周
波数選択性に依存して,周波数ダイバーシチ効果が
誤り率特性が優れ,逆の場合はOFDMが優れる[7]. R-OFDMは,周波数ダイバーシチと符号間干渉がトー タルの効果として最大となるように周波数拡散の度合 を調整することができる点に特徴がある[8].具体的に は,拡散次数D = 2の場合,式(1)に従う回転直交 符号を用いて変調シンボル(A, B)を拡散して多重し, シンボルに変換する.変換後のシンボルは異なるサブ キャリヤ(F1, F2)にマッピングされる.その様子を図 9に示す.周波数選択性を有する伝送路を介して信号 を受信すると,同図に示すように,サブキャリヤF1, F2 の受信電力が異なる.受信側では等化器やMLD
(Maximum Liklihood Detection)等を用いて,サブ キャリヤシンボル(X, Y)から変調シンボル(A, B)の 確からしさを検出する. X Y =R2 A B = cosθ1 sinθ1 − sin θ1 cosθ1 A B (1) 本実験装置では,R-OFDMはF-DCHとR-DCH に適用されており,QPSKの場合は拡散次数Dが2 または4,16QAMと64QAMではD = 2に対応し ている.D = 4の場合は,四つの変調シンボルを式 (2)の回転直交符号を用いて拡散多重し,四つのサブ キャリヤにマッピングする.F-DCHはOFDM信号 であり,受信側(移動局)ではMLDを適用してい る.SC-FDM信号となるR-DCHの場合は,MMSE (Minimum Mean Squared Error)規範に従い等化処 理を施した後に復調している. R4= R2cosθ2 R2sinθ2 −R2sinθ2 R2cosθ2 (2) 図 9 R-OFDM伝送ブロック図 Fig. 9 Block diagram of R-OFDM transmission.
R-OFDMはUMB [3]にオプション採用されている. 3. 2 ツインターボ 受信性能を改善する技術として,復調処理とターボ 復号を融合させたツインターボ方式が提案されてい る[9].ツインターボ復号は,復調器とターボ復号処理 の反復演算ではなく,図10に示すようにターボ復号 における要素符号レベルでの反復復調を行うことに特 徴がある.通常のターボ復号は事後値Lpのみが反復 演算による更新対象であるが,通信路値Lcも更新す ることで効果的な復号を目指している. 図10において,DEC1とDEC2はそれぞれ要素 符号1と要素符号2のMAP復号器であり,情報ビッ トの事前値Laと通信路値Lcから情報ビットの事後 値Lpが出力される.事後値から事前値を差し引いた 値(Lp− La)は,チャネルインタリーバπ若しくは 逆インタリーバπ−1を経た後に,次若しくは前の要 素符号復号器に事前値として引渡される.ツインター ボではこの反復演算に加えて,通信路値Lcの更新も 行うことで,更に効果的な誤り訂正を実現する.通信 路値の更新は,多値変調方式や周波数選択性のある伝 送路におけるマルチキャリヤ拡散多重(R-OFDMや MC-CDM)に効果がある.課題としては,変調多値 数や拡散多重数の増大時に,通信路値更新に要する 演算量が増大することにある.最近の研究[10]では, 16QAMの2倍拡散多重(D = 2)において演算量が 通常のターボ復号器に比べて約1.3倍までに抑えるこ とができると報告されているが,この実験装置では 64QAMまで対応するため送受信のDuty比を0.5に 抑えている. 3. 3 MIMO 基地局,移動局ともに2系統の送受信回路を有して おり,2×2 MIMOによる空間多重が可能である.操作 者の切換によりSISO (Single-Input Signle-Output),
SIMO (Single-Input Multiple-Output),MISOにも 対応する.
図 10 ツインターボ復号器の構成 Fig. 10 Structure of twin turbo decoder.
MIMO-OFDM受信信号処理は,行列のQR分解
とMアルゴリズムを組み合わせたQRM-MLD (QR
Decomposition and M-algorithm-Maximum Likeli-hood Detection)を用いる[11], [12].生き残りシンボ ル数は可変であり,設定によりすべてのシンボルを生 き残らせるQR-MLD [13], [14]も可能である. 上りSC-FDMの受信信号処理では,各サブキャリ ヤをMMSE等化した後で復調する.その結果,得ら れた受信シンボルに対しては,MIMO-OFDMと同 様[10]にQRM-MLDを適用している.
4.
無線実験設備ハードウェア構成
図11に基地局架の外観を示す.基地局は2架構成で,RF (Radio Frequency),BB (Baseband),ファ ンシェルフ,電力増幅器,電源ブレーカから構成され
る.移動局も2架構成で,基地局と同様の構成である.
RFシェルフは,RFフロントエンド送受信機,上り/
下り信号多重のためのデュプレクサからなり,詳細は
4.1で述べる.
BBシェルフは,BB基板,LIF (Line Interface)基
板など,複数の基板を有する.LIF基板は簡易MAC
(Medium Access Control)レイヤの機能を有し,RLP (Radio Link Protocol) PCから送られたRLPパケッ
トからMACパケットを構築し,BB基板へ転送する.
BB基板では,物理レイヤの全信号処理を行う.ハー
図 11 基地局架の外観
Fig. 11 Photograph of BS (Base Station) cabinets.
ドウェアの観点では全BB基板同一であるが,FPGA
(Field Programmable Gate Array)やDSP (Digital Signal Processor)などのプロセッサに異なるプログ ラムをインストールすることにより,各基板の処理内 容を変えている.BB基板の外観を図12に,BB基板 に実装されている各プロセッサの仕様を表2に示す. ベースバンド処理の詳細に関しては,4.2にて述べる. 屋外実験の場合は,図13に示す電測車に移動局を 積載し,移動実験を行う.電測車には,移動局や測定 器等の設備を駆動するため,31 kWの発電機が搭載さ れている. 4. 1 RF送受信処理の詳細 図 14に ,RF 送 受 信 処 理 の ブ ロック 図 を 示 す. RF送信機では,入力されたベースバンドI/Q (In-/Quadrature-phase)信号を波形整形し,DA (Digi-tal/Analog)コンバータに入力する.DAコンバータ では,ディジタル直交変調を行い,245.76 MHzのディ ジタルIF (Intermediate Frequency)信号を生成する. 更に,ローカル発信機とミクサを使って,IF信号を アップコンバートし,4485/4770(下り/上り)MHz のRF信号を出力する.RF送信機から出力された RF信号の出力レベルは−10 dBmであり,電力増幅
器(PAU:Power Amplifier Unit)によって増幅され
る.電力増幅器は,4増幅素子を用いることによって,
図 12 ベースバンド基板の外観 Fig. 12 Photograph of baseband package.
表 2 ベースバンド基板のプロセッサ仕様 Table 2 Specifications of signal processors on
base-band package. 後の出力レベルは40 dBmとなる. RF受信機は,ダブルスーパヘテロダイン方式を用 いており,2回のダウンコンバートを行って,IF信号 を生成する.IF信号は,ディジタル直交復調を行っ て,ディジタルIF信号に変換される.ディジタルIF 信号の出力レベルをIF信号処理部に実装されたVGA
(Variable Gain Amplifier)にフィードバックするこ とにより,AGC (Auto Gain Control)を行っている.
また,本RF送受信機では,開発当時としては最速の
DAコンバータ(1 Giga-Sample Per Second (sps))と
ADコンバータ(250 Msps)を採用し,ディジタル領
域での直交変復調を100 MHzの広帯域信号に対して
実現している.
図 13 電測車の外観
Fig. 13 Photograph of measurement truck.
4. 2 ベースバンド送受信処理の詳細 図15にベースバンド送受信処理のブロック図を示 す.なお,ここでは,下りリンクを対象とし,基地局 での送信処理と移動局での受信処理について述べる. RLP PCから送出されるRLPパケットは,複数まと められ,IPフレーム化されて基地局に届くので,ま ず,基地局では,LIF-M基板にて,IPフレームから RLPパケットのみ取り出し,ラウンドロビンで四つの LIF-S基板に転送する.シリアル処理では,0.5ミリ秒 間隔で100 MHzの広帯域信号処理を行うのは難しく, 処理をパラレル化している.LIF-S基板では,MCS, MACパケットを構成するRLPパケットの数やパディ ングビット数などのパケッティング情報から,MAC
図 14 RF送受信処理のブロック図
Fig. 14 Block diagrams of RF transmission and reception.
図 15 ベースバンド送受信処理のブロック図
パケットを生成し,MOD基板へ転送する.MOD基 板では,ターボ符号化とQPSKなどの一次変調,回 転多重などの二次変調を行って,MIMO BTX基板に 出力する.MIMO BTX基板では,変調シンボルの周 波数サブキャリヤへの割当を行って,IFFT基板へ出 力する.IFFT基板では,複数のデータチャネルを周 波数多重,IFFTしてOFDMシンボルを生成すると ともに,それらと制御チャネルやパイロットチャネル を時間多重して,無線フレームを構築し,RF送信機 に出力する. 移動局のRF受信機を介して到達したベースバンド 受信信号は,RF受信機にて複製され,一方はFFT 基板に,もう一方はSYNC MS基板に入力される. SYNC MS基板では,トレーニング系列を使って,無 線フレーム/サブフレーム同期を行い,タイミング情 報をFFT基板とCCH MS基板に出力する.FFT基 板では,タイミング情報を使って,サブフレームを OFDMシンボルに分割し,FFT処理を行って,周波 数領域の信号に変換し,DETECT基板に出力する. DETECT基板では,多重された物理チャネルを分離す るとともに,パイロットチャネルから伝搬路推定値を算 出し,データチャネルと伝搬路推定値をMIMO MRX 基板に出力する.MIMO MRX基板では,多次元復調 や最ゆう検波を行ってゆう度を算出し,ターボ基板に てターボ復号を行う.受信側のLIF-S/M基板は,送 信側のLIF-S/M基板の逆処理を行って,RLPパケッ トをRLP PCへ出力する.
5.
実 験 結 果
本章では,無線実験装置の実験結果として,基地局, 移動局架のRF特性測定結果,RFケーブルとフェー ジングシミュレータを介した無線通信特性評価結果, フィールドテスト結果を示す. 5. 1 RF特性測定結果 図16に下り送信パワースペクトルの測定結果を示 す.本測定結果は,基地局架のアンテナコネクタにス ペクトルアナライザを接続して取得した.図16より, 基地局の送信波形が,スペクトルマスク仕様どおりに, モード1 (96 MHz),2 (18 MHz)の帯域を占有し,全 帯域にわたり2 dB以内のレベル差に収まっているこ とが分かる. 表3にモード1(100/40 MHz(下り/上り))のと きの基地局,移動局のRF特性の測定結果を示す.基 地局では,増幅器とアンテナの距離を20 [m]に抑え, 両者を低損失の20Dの高周波同軸ケーブルで接続す ることでケーブルロスを4 dB台にとどめた.また, 広帯域信号にもかかわらず2 dB程度の雑音指数に収 まっている. 5. 2 RFケーブルを介した無線通信特性評価結果 本節では,RFケーブルを介した無線通信特性とし て,下り100 MHz通信の評価結果を示す.図17に実 験系を示す.基地局からの送信RF信号は,パワーアッ テネータにて減衰した後に,フェージングシミュレー タに入力される.フェージングシミュレータとノイズ 発生器により,基地局からの送信信号はマルチパス伝 送路を介して白色雑音(熱雑音に相当)が加わること になる.測定中,希望波信号の受信電力を−40 dBm に保ち,ノイズ発生器の出力レベルを調整することに より,SNR (Signal to Noise power Ratio)を変化さ せた.前述のとおり,希望波信号の受信レベルが移動 局の熱雑音レベルよりも十分高いため,熱雑音は無視できる.MIMOの場合は,ストリームごとに受信電力
を測定し,受信アンテナ間での受信レベルをそろえた. 図18にR-OFDMのPER (Packet Error Rate)特
性の実験結果を示す.アンテナ構成はSISOとし,マ
図 16 下り送信パワースペクトルの測定結果 Fig. 16 Measured forward transmission power
spec-trum.
表 3 基地局,移動局 RF 特性の測定結果 Table 3 Measured BS and MS (Mobile Station) RF
図 17 実 験 系
Fig. 17 Overviews of experimental configurations.
ルチパスモデルとしてITU-Rの6パスTU (Typical Urban) [15]を用いた.フェージングシミュレータに設
定する移動局の移動速度は30 km/hとした.MCSは
QPSKの3/4符号化率で,ターボ復号により誤り訂正
を行った.パケット誤りの有無は,16ビットのCRC
(Cyclic Redundancy Check) [16]により判定した.図
18には,R-OFDMだけでなく,OFDMのPER特 性もプロットし,シミュレーション結果もプロットし ている.測定,シミュレーションとも,R-OFDMの 回転次数は4で,回転角θ(= θ1 =θ2)は,0.4(単 位:π/4 [rad.])とした.本実験前に,1 %程度のPER が得られるSNRにて,回転角を変えてPERを測定 し,0.4の回転角が最小のPERを与えることを確認 している.図18より,R-OFDMはOFDMに比べて 1 %のPERが得られる所要SNRを1.1 dB程度改善 できることが分かった.シミュレーションでの改善量 も1.0 dB程度であるから,妥当な結果といえる.ま た,シミュレーションに対する実測の所要SNRの劣 化量も0.5 dB程度にまで抑えられており,実測とシ ミュレーションの結果はよく一致しているといえる. 図19にツインターボ復号のPER特性の実験結果を 示す.ここでは,ツインターボ復号の基礎特性を把握す るため,伝搬路はAWGN (Additive White Gaussian Noise)とした.MCSは16QAMの1/3符号化率であ る.図19には,ツインターボ復号だけでなく,ター ボ復号のPER特性もプロットし,測定結果だけでな く,シミュレーション結果もプロットしている.図19 より,ターボ復号の代わりにツインターボ復号を用い ることによって,所要SNRが改善でき,AWGN環 図 18 R-OFDMの PER 特性の RF ケーブル接続実験 結果
Fig. 18 Measured PER performance of R-OFDM in lab. experiment.
図 19 ツインターボ復号の PER 特性の RF ケーブル接 続実験結果
Fig. 19 Measured PER performance of T2 decoder in lab. experiment. 境であっても,0.8 dB程度の利得が得られることが分 かった.シミュレーションでの改善量も0.7 dB程度 であること,シミュレーションに対する実機の劣化も 0.1 dB程度であることから,問題なく実装できたとい える.図18に示すR-OFDMのPER特性を含め,シ
ミュレーションに対する実測の劣化量を1 dB未満に 抑えられた要因として,図16から明らかなように,広 帯域信号にもかかわらず,数dB程度の高い周波数フ ラットネスを実現できたこと,受信機の量子化誤差な ど,ハードウェア制約によるSNRの上限値を28 dB 程度と高く保てたことが挙げられる. 図20にMIMO-OFDMのF-DCHスループット特 性の実験結果を示す.F-DCHは2.2で述べたように, ユーザが通信用に用いるデータチャネルであり,パイ ロットチャネルや制御系チャネルは除かれている.マ ルチパスモデルは6パスTUとし,複数アンテナ間 の伝搬路変動は無相関とした.安定した伝搬路状態の ユーザにMIMOが提供されると想定し,移動速度は 3 km/hに設定した.16QAMと64QAMの変調方式 と,1/2と3/4の符号化率を組み合わせ,計4通り のMCSについて評価している.MIMOストリーム 多重は,一つのパケットを2本のアンテナで送信す る,SCW (Single-Codeword)とした.フィードバッ クを用いないオープンループMIMOを仮定し,スト リーム多重において,プレコーディングは行ってい ない.受信機では,QR-MLDにより,ビットゆう度 を算出し,ターボ復号により,復調した.図20より, 64QAMの3/4符号化率のMCSのとき,実機にお いて,512.7 Mbit/sの平均スループットを達成でき ることが分かった.このときの平均PERは6.3 %で あったが,瞬間的にはエラーフリーになるときもあ り,547.2 Mbit/sの瞬時スループットも確認してい る.16QAMの3/4符号化率と64QAMの1/2符号 化率は,同一の帯域効率を有するが,ダイバーシチ 効果の高い周波数選択性環境下であっても,16QAM の方が64QAMより低いSNRで最大364.8 Mbit/s に到達していることが分かる.なお,本実験装置は, 図 20 MIMO-OFDMの F-DCH スループット特性の RFケーブル接続実験結果
Fig. 20 Measured F-DCH throughput performance of MIMO-OFDM in lab. チャネル全体の最高ビットレートが1 Gbit/s相当に なるように2× 2MIMOを採用し,符号化率も最大 で11/12としている.すなわち,64QAMでの最大正 規化ビットレートが6 [bit/Hz/stream]× 2 [stream] × 11/12 = 11 [bit/s/Hz]となり,CPのオーバーヘッ ド(4.7 μs/66.7 μs = 0.07)を考慮して,100 MHzの 信号帯域幅で約1 Gbit/sとなる.しかし,帯域幅が 100 MHzのままでユーザが通信に使用するチャネルの ビットレートを最大1 Gbit/s程度にするには,MIMO 多重数を4程度に増やす必要がある. 5. 3 フィールドテストによる無線通信特性評価結果 フィールドテストはYRP(横須賀リサーチパーク・ 神奈川)[17]にて実施した.図21にフィールドテス トコースと基地局,移動局アンテナの外観を示す.基 地局アンテナはオムニアンテナで,YRPセンター3 番館の屋上に設置した.地表面からのアンテナ高は 26.1 m,垂直面チルト角は4度である.アンテナ利得 は11.5 dBiであり,EIRP(等価等方ふく射電力)は 46.4 dBmとなる.基地局は1局のみであり,他セル 干渉の影響は受けない.移動局アンテナもオムニ型 であり,アンテナ利得は5.1 dBi,アンテナ高は3.5 m で,アンテナから移動局までのケーブルロスは1.6 dB である.電測車は図21の地点AからDに向かって, 30 km/h強の速度で走行させた.コース1(AからB), コース3(CからD)は,見通し外が支配的な伝搬環 境,コース2(BからC)は,見通しが支配的な伝搬環 境である.コース1,2,3の平均SNR/遅延スプレッ 図 21 フィールドテストコースと基地局,移動局アンテ ナの外観
Fig. 21 Field test course and photographs of BS and MS antennas.
ドは,それぞれ,22.3 dB/0.60μs,25.6 dB/0.18μs, 15.9 dB/0.43μsであった. 図22にR-OFDMのPERのCDF特性を示す.図 22 (a)がコース1のCDF特性,図22 (b)がコース3 のCDF特性である.MCSはRFケーブル接続実験 と同じで,3/4符号化率のQPSKとしており,PER は,そのときのパケット誤りの有無を10 [m]間隔でカ ウントすることにより算出している.図22より,実 伝搬環境においても,R-OFDMの方がOFDM(回転 角θが0.0のときのR-OFDMに同じ)より優れるこ とが明らかとなった.コース1に着目すると,OFDM において1 %未満のPERが得られる場所率が69 %で あったのに対し,R-OFDMでは,回転角θが1.0の ときに場所率が最大12ポイント改善し,81%の場所 率を達成できることが分かった.θが0.2のときの場 所率は76 %程度であるが,θを0.4まで大きくすると 79 %の場所率に達し,十分な改善量が得られることが 分かった.一方,コース3に着目すると,コース1に おいて最大の改善量が得られたθ = 1.0での特性が劣 化し,OFDMと同程度の場所率であることが分かる. 回転角を大きくすると,R-OFDMの伝送特性は伝搬 路状態に大きく依存するようになるため,適当な回転 角を設定する必要があり,実伝搬環境でも同様の傾向 図 22 R-OFDM PERの CDF のフィールドテスト結果 Fig. 22 CDF of measured R-OFDM PER in field
test. が確認できた.θが0.2のとき,18 %の最大の場所率 が得られ,θが0.4のときでも,17 %の場所率が達成 できている.0.4の回転角は,5.2で述べたRFケー ブル接続の屋内実験において,6パスTUマルチパス モデルを適用したときの最適回転角である.このよう に,屋内実験で求めた最適回転角が屋外の実伝搬環境 でも適用可能であり,優れた特性を引き出すことを確 認した.文献[18]では,回転多重されたシンボルを十 分離れたサブキャリヤに配置すれば,最適な回転角は マルチパス伝送路の条件に依存せず,MCSによって 決まることが,計算機シミュレーションにより示され ている.この最適な回転角に関する性質は,実環境に おいても成立することを本実験により確認できた.
6.
む す び
ギガビットクラスの伝送レートを目指して筆者らが 開発したIMT-Advanced実験装置の全体構成と通信 にかかわる仕様,要素技術検証のための装置構成や実 験結果等を述べた. IMT-Advanced向けバンドがWRC07で特定され, IMT–Advanced へ 向 け た 機 運 が 高 ま り つ つ あ る .OFDMA やMIMO等の主要な要素技術はLTEや
WiMAXで先行して採用されており,それら方式を ベースとする新たな方式がIMT-Advancedの要件を 満たすものとしてITU-Rへ提案されている.今後は 評価作業を経て2011年に標準方式が認定される予定 である. 昨今の状況として,ビット単価の更なる低減が求め られており,設備と運用の両面から様々な研究開発が 行われている.無線は移動通信に欠かせないメディア であるが,その機能は今やコモディティ化し,「モデム」 の一言で片づけられることが多い.しかしそこには多 くの技術とIPRが詰まっており,今後も進化し続ける であろう.技術力の維持向上のためにも継続した研究 開発が望まれる. 謝辞 日ごろ御指導頂くKDDI研究所伊藤会長,秋 葉所長,松本副所長,野本執行役員に感謝する. 文 献
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