• 検索結果がありません。

雌阿寒岳における感覚量としての合目表示に関する試行的研究 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "雌阿寒岳における感覚量としての合目表示に関する試行的研究 利用統計を見る"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

著者

東海林 克彦

著者別名

Katsuhiko SHOJI

雑誌名

観光学研究

12

ページ

1-12

発行年

2013-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004411/

(2)

1 背景及び目的

近年の自然志向の高まり等を受けて、中高年を中心として登山を楽しむ多数の人が全国各地で見 受けられようになった。また、「山ガール」という言葉が 2010 年の流行語大賞候補となったように、 最近は、登山の利用者層は若者の間にも広まりつつある。しかし、その一方で、自分の体力の過信 等を起因とした事故等も発生しており、安全かつ快適な登山の普及が望まれているところである。 この安全かつ快適な登山を行うためには、入念な準備や体力の増進等が必要とされることはい うまでもないが、実際に登山という行動をしている時には、何をおいても登山利用者それぞれの 体力に応じた適切なペース配分を行うこと等が重要なポイントとなってくる。この適切なペース 配分を行うに際してのよりどころとして手軽に利用されているのは、各山岳の登山道に設置され ている「合目表示」という道しるべであることが多い。合目表示は、登山口から頂上までの間を 10 区分したものが一般的である。しかし、合目表示は単純に距離や標高差を等分したものになっ ておらず、登山の難易度を踏まえて頂上までを十に分けた目安だといわれている1)。こういった意 味においては、合目表示は標高差や区間距離等の単なる物理量を超えた感覚的な量を示したもの であると考えられる。 本論は、このように合目表示が心理的な感覚量であることに着目し、登山における心理的な感 覚量と物理量との関係を分析することによって、登山における心理的な感覚量を規定する要因を 明らかにするとともに、安全かつ快適な登山に資することができるような適切なペース配分を検 討するうえでの手掛かりとなる知見を得ようとするものである。 なお、合目表示は標高や区間距離を測る測量器具がなかった時代から設定されたものが多い。こ のため、合目表示は、「経験と勘をもとにアノニマスに得られた心理的な感覚量をベースにした尺 度であると考えられるという点においては、適正なペース配分に関する理想的なヒューマンスケ ールに近似される尺度であるとみなすことができる」という仮定のもとに調査研究を行ったもの でもある。また、本論は、かかる調査研究の実施可能性及びその方法論の妥当性の検証を含めて、 試行的に調査研究を進めたものであることを注記しておきたい。

雌阿寒岳における感覚量としての合目表示に関する

試行的研究

東海林 克彦 *

*東洋大学国際地域学部:Faculty of Regional Development Studies, Toyo University

(3)

2 調査方法

(1)場所

北海道の道東地域に位置する日本百名山の一つである雌阿寒岳(標高 1499 m)を調査対象地と して選定した。これは、雌阿寒岳が、古くから多数の人に利用されている山岳であること、登山口 から頂上に至るまでの合目表示標識がもれなく整備されていること、起点と終点が明確に区別でき る独立峰であること、登山道が途中で車道等の人工構造物によって分断されていないこと、登山所 要時間が数時間以上と極端に短い登山道でないこと、登山の初心者でも楽しむことのできる登山道 であること(鎖場などの岩場が連なる高度な技術を要する登山道でないこと)といった条件を満た す山岳であったことから選定したものである。 雌阿寒岳の概要は、表1及び図1に示したとおりである。なお、今回の調査研究は、前述したよ うに試行的な分析といった性格のものであることから、3 本ある雌阿寒岳の登山道のうち雌阿寒温 泉コースの上りに限定して調査研究を実施した。 表 1 雌阿寒岳の概要 阿寒湖(北海道釧路市阿寒町)の南西に位置。日本百名山の一つで、標高は 1,499m。 山麓部はエゾマツやトドマツを中心とした森林に覆われ、1,100m を過ぎると岩石と砂 礫帯になる。現在も活発な火山活動を続けており、山頂部からは阿寒湖や知床半島など が一望できる。登山道は、雌阿寒温泉コース(約 3.3km)、阿寒湖畔コース(約 6km)、 オンネトーコース(約 4.2km)の 3 つがあり、夏場を中心とした日帰り利用の登山が老 若男女によって楽しまれている。 左上:雌阿寒岳の全貌  右上:二合目付近の登山道の様子 左下:頂上からの眺望  右下:八合目付近の登山道の様子 図1 雌阿寒岳の概況写真

(4)

(2)日時

調査は、平成 24 年 9 月 13 日(木)の 9 時から開始した。当日の天候は晴れである。なお、8 合 目付近より上は最初はガスがかかっていたが、頂上に到達して間もなく視界が開けて、展望がき くようになった。風は無風から風速 2 ∼ 3m 程度の比較的穏やかな状態であり、気温も登山口では 25 度前後、頂上部でも 15 度前後であった。

(3)記録方法

ハ ン デ ィ タ イ プ の GPS ロ ガ ー(Holux 社 製 の M-241)を使用して、それぞれの合目表示標識の位 置している地点の標高及び合目表示間の歩行時間 及び距離の測定を、デジタルカメラに記録された 各合目表示標識の撮影時刻とのつきあわせ結果を もとに割り出す方法によって実施した。記録時間 の間隔は 5 秒である。なお、GPS ロガーの最初の 起動については、できるだけ正確な位置捕捉(観 測衛星の電波受信)が行われるように、登山口の 近くにある天空が開けた駐車場において行った。なお、本調査研究で使用した Holux 社製の GPS ロガー(M-241)の性能は、表2のとおりである。

(4)被験者

登山の速度や負荷量は人の体力差によって変化することから、被験者は複数名からなるグループ 登山客を対象とすることとした。具体的には、東洋大学の学生 16 人(男性 3 人、女性 13 人)と阿 寒町在住の登山指導者 1 名(50 歳の男性)からなる登山客を対象とした。学生の中には、数時間か けて森林限界に至るような登山を数回以上にわたって経験した者は皆無であるが、高校時代に陸上 部等での負荷量の多い運動経験のあるものが 2 名含まれている。なお、雌阿寒温泉コースの所要時 間は登山ガイドブック2)によれば約 150 分とされているが、当該被験者による所要時間は、歩行 時間の総合計時間が 123.6 分、休憩時間の総合計時間が 48.5 分であった。

3 山岳における合目表示の尺度構成等

一般的に合目表示は、登山口から頂上までの間を十区分しており、順に「登山口、一合目、二合 目、三合目、四合目、五合目、六合目、七合目、八合目、九合目、頂上」という地点表示になって いる(図2参照)。また、登山に限らずいろいろな場面において、作業の進捗状況を比喩的に表す 時にも合目という表現が使用されることもある。しかし、山形県の羽黒山の「半合目」、岩手県の 薬師岳の「二合五勺」のように端数表示をしているものがある。また、昭和初期の地図によるもの であるが、福島県の磐梯山の登山案内図では、山頂を五合目とする五区分となっているような事例 も存在するなど、一部の山岳では十区分によらない例外的な区分方法も散見される。 チップ:MTK チップ チャンネル数:32 精度:3.0mCEP,DGPS 時 2.2m 速度:0.1m/ 秒、 時間:0.1 マイクロ秒で同期 サイズ:32.1mm × 30mm × 74.5mm 重量:39 g ( 電池を除く) 表2 使用したGPSロガー(M-241)の仕様 001-012syoji-三校 3 13.3.9, 0:16:57 AM

(5)

例えば岩手山における各合目の表示地点の標高は表3に示したとおりであるが、このように合目 表示は比高の等差区分といった単純なものではなく、登山の難易度のような心理的な要因などを加 味した区分になっているのではないかと推測されるところである。 なお、「合」という表現をされるにいたった理由及び十区分といった尺度構成をした理由に関す る言及をした論文及び専門書を探すことはできなかったが、富士山本宮浅間神社社務所がとりまと めた「富士の研究」1)によれば、富士山の合目表示に限っていえば主として次の諸説が考えられる 旨の記述がなされている。いずれにしろ現時点での結論としては、残念ながら「合」という表現及 び十区分を基本とする尺度構成がされる至った理由等を明確にすることはできなかった。 ①富士山は升に入れた米をまいた時の形に似ていることから、枡目を用いて一里を一合と設定 ②富士山の山頂のことを御鉢といい、仏教用語でもお供えする米を御鉢料ということから、米の 計量単位を踏まえて「合」により表現 ③梵語の「劫」が「合」に変化したものであり、登山の苦しさを人生の苦難に見立てて、その困 難さの度合いを「劫数(転じて「合目」)」で表現 ④富士山の祭神は木花開耶姫という女神であることから、赤ちゃんの胎生期間である十ヶ月を十 合に分割 ⑤昔から洪水の水量をたとえるのに「何合何勺の水」といったことから、この表現を適用 ⑥提灯が一合の油を消費する道のりで区分 ⑦米を少しづつ落としながら登った時の米の散布量で区分

4 合目表示等に関連する人の感覚特性

(1)心理的な感覚量と物理量

3) 「感覚の大きさは刺激の強度の対数に比例する」という G.T.Fechner の法則及び「弁別閾(区別 地点 標高 頂上 2,038m 九合目 1,820m 八合目 1,770m 七合目 1,722m 六合目 1,567m 五合目 1,390m 四合目 1,250m 三合目 1,147m 二合目 935m 一合目 910m 登山口 633m 図2 山岳における合目表示 表3 岩手山(柳沢コース)における合目表示

(6)

することができる最小の刺激の差)は、原刺激の値に比例する」という E.H.Weber の法則によれば、 人間が認知する心理的な感覚量と物理量とは異なるものであるといわれている。 「感覚の大きさは刺激の強度の対数に比例する」という G.T.Fechner の法則は、感覚量(R)が 等差級数的に変化するとき、物理量(S)は等比級数的な変化になるというものであり、「R = a × logS + b」といった数式モデルでその関係を表すことができるとされている。音を例にとって具体 的事例をあげると、同じ振動数の場合に音圧が物理的に 10 倍になると音の強さは感覚的には 2 倍 になるというものである。 また、「弁別閾(区別することができる最小の刺激の差)は、原刺激の値に比例する」という E.H.Weber の法則は、刺激強度(S)が大きい時よりも小さい時の方が、刺激量の変化の違いを感 じ取ることのできる幅(弁別閾:∆S)が小さくなるというものであり、「∆S / S = 一定の定数」 といった数式モデルでその関係を表すことができるとされている。手に取った物の重さを例にとっ て具体的事例をあげると、1kg の重さの物を持っているときには、0.1kg(原刺激 1kg の 10%)の 変化を鋭敏に感知できる能力があっても、10kg の重さの物を持っている時は 0.1kg(原刺激 10kg の 1%)の変化の感知は困難となり、1kg(原刺激 10kg の 10%)の変化を感知できる程度の能力 になってしまうというものである。これら 2 つの法則が歩行距離に適用できるかどうかについては 即断できるものではないが、本論における分析結果の解釈に際しては何らかの参考になる可能性を 否定できないものであると考えられる。 また、人が空間内を行動する時は、自分の頭の中に描かれた認知地図を基にして行動している と考えられている。この場合の認知地図とは、人がそれぞれの頭の中に描いている空間に関する地 図のことであり、イメージマップやシェマなどと呼ばれることもある。イメージの世界は現実の世 界と異なる位相幾何学的な構造になるが、Byrne の研究4)においては、道路などのルート上に記 憶されている物が多いほど距離が長く推定される傾向のあることが明らかにされている。このこと は、登山道に関する心理的な距離は、眺望等の景観資源の有無によっても変化する可能性を示唆し ているものであると考えられる。

(2)尺度構成

3)

計量の基準となる尺度については、S.Stevens によって質的尺度である名義尺度(nominal scale) 及び順序(序数)尺度(ordinal scale)、量的尺度である間隔(距離)尺度(interval scale)及び 比率(比例)尺度(ratio scale)の4種類の尺度に分類できることが示されている。名義尺度とは、 ある事象を複数のカテゴリーに分類した尺度のことである。テレビのチャンネルの数字などのよう に分類されたカテゴリーの名称には数字が使われることもあるが、この数字は数値としての意味を 持たず、あくまでも他のカテゴリーと区別するための「名称」として機能するものである。順序(序 数)尺度とは、ある属性の優劣や大小などを判断基準として順位づけを行った尺度のことであり、 具体的には運動競技における順位などが一例として挙げられる。間隔(距離)尺度とは、前述の順 序(序数)尺度と違って、尺度化された数値に序列関係があるとともに数値間の間隔が一定である 尺度のことであり、具体的には温度計によって測られる気温などが一例として挙げられる。従って、 数値同士の比の比較や演算は行えないということになる。一方、この間隔(距離)尺度のような数 値間の間隔が一定である尺度であって絶対零点を持つ尺度が比率(比例)尺度である。この尺度に 001-012syoji-三校 5 13.3.9, 0:17:00 AM

(7)

おける数値は、物理量そのものを表したものであることが多いことから、数値間の比や演算を行う ことが可能な尺度構成となるものである。 本論で調査研究の対象としている合目表示も、道しるべとしての機能を有しているといった点に おいては尺度基準の一種であると考えられる。しかし、前述したように登山口から頂上までの間を 単純に等分したものではないことから、順序尺度及び間隔尺度としての性格の両面をあわせ持った ものになっているのではないかと考えられるものである。

5 調査結果及び考察

(1)データの補正作業

調査の結果、GPS ロガーには、登山開始から頂上到達までの間に、経度、緯度、標高及び時刻 に関する合計 2,066 個の 5 秒ごとに測定されたログ・データが記録された。しかし、この記録され た 2,066 個のログ・データには、登山中に数回とった休憩時間も記録されている。このままでは、 正確な歩行時間や歩行速度を算出できないことから、データから登山中の休憩時間を削除する補正 作業を実施した。 今回の調査では、GPS ロガーのログ・データで歩行速度が 0m/5 秒になったところを休憩時間と してデータの削除作業を行うことができると考えたことから、休憩をとった時刻に関する記録をと らなかった。しかし、結果としては、休憩中でも僅かに動き回っていることが多かったり、数分以 上にわたる休憩の他にも、歩行途中で足を止めるといった行動もあったことから、ログ・データの 歩行速度から歩行をしていない時間のデータを削除するのは、前もって想定していたように単純に 行うことができるものではなかった。このため、一定間隔で連続的に撮影した写真に記録された撮 影時刻をもとに、明らかに休憩をとったと思われるログ・データとして 291 個のログ・データを抽 出する作業を行うとともに、抽出された 291 個のログ・データの経度・緯度・標高・時刻から算出 された歩行距離・高度差・歩行速度に関するデータ値(5 秒間隔)の頻度分布から、休憩時間のロ グ・データとみなすことが妥当と考えられる識別点を推計する方法により休憩時間のログ・データ の削除作業を行った。具体的には、休憩時間にかかる 291 個のログ・データに占める割合が 1% に なる水準を識別点として設定することとした(図3∼5参照)。この結果、1,484 個のログ・データ が登山中の歩行にかかるデータとして整理され、このデータをもとに各合目の間の歩行時間、歩行 距離及び平均傾斜度を算出した。平均傾斜度の算出に当たっては、ごく短い距離であったが一部に 下り道もまざっていた区間があったことからその絶対値をとるとともに、GPS ロガーの測定精度 及び誤差を考慮して 10 個のログ・データごと(50 秒の歩行時間ごと)に算出した傾斜度の平均値 を使用することとした。 なお、今回の調査の実施によって得られた調査方法に関する知見であるが、GPS ロガーによっ てデータ測定を行うことができることが分かったものの、登山中の休憩時のログ・データを歩行速 度によって判別することは単純に行い得なかったことから、ボイス・レコーダー等を持参して休憩 の開始時刻と終了時刻をこまめに記録する必要があると考えられた。また、合目表示標識の地点判 別については、合目表示標識を撮影したデジタルカメラの撮影時刻とのつき合わせ作業により行う

(8)

ことができるものであるが、不測の事態に備えて、今後は合目表示標識の標高判別調査についても ボイス・レコーダー等による通過時刻または GPS ロガーにより測定された標高データの記録をと った方がよいのではないかと考えられた。

(2)分析結果及び考察

①標高と合目表示との相関関係 図6は、標高と合目表示との関係を示したものである。登山口の標高 701m から頂上部の 1,503m までほぼ規則的に等分されているように見えるが、実際は、合目表示間の高低差の最も小 さいのが六合目から七合目の区間の 41m である。逆に高低差の最も大きいのが五合目から六合目 の 114m となっており、その差は約 2.8 倍になっている。また、等分された場合には約 80m の平均 高低差になるが、それよりも多い区間が 4 区間、少ない区間が 6 区間という内訳になっており、そ の並び順は多い区間と少ない区間がほぼ交互に出現するといったパターンになっている。当該分析 結果からは、少なくとも当該登山道における合目表示は、登山口と頂上部との標高差を等分したも のではないということが明らかにされたといえる。 ②区間の歩行距離及び歩行時間と合目表示との相関関係 表4は、各合目の表示区間の歩行距離及び歩行時間と合目表示との関係を示したものである。登 図3 休憩時のログ・データ値の頻度分布 (5秒ごとの高度差) 図4 休憩時のログ・データ値の頻度分布 (5秒間隔の速度) 図5 休憩時のログ・データ値の頻度分布 (5秒ごとの歩行距離) 001-012syoji-三校 7 13.3.9, 0:17:05 AM

(9)

山口から頂上部までの総延長距離は 2,921m であるが、 合目表示間の区間距離の最も短いのが二合目から三合目 の 190m である。逆に区間距離の最も長いのが三合目か ら四合目の 493m となっており、その差は約 2.6 倍とな っている。また、等分された場合には約 292m の平均区 間距離となるが、それよりも長い区間が 5 区間、短い区 間が 5 区間という内訳になっており、その並び順につい ては特に目立った規則性は観察できなかった。 また、登山口から頂上部までの歩行時間の総合計は 123.6 分であるが、合目表示間の歩行時間の最も短いの が六合目から七合目の 11.1 分である。逆に歩行時間の 最も長いのが区間距離の最も長かった区間である三合目 から四合目の 17.9 分となっており、その差は約 1.6 倍と なっている。この 1.6 倍という差は、前述した区間距離における 2.6 倍の差よりも小さくなっている。 これは登山道は区間によって傾斜度や路面の凹凸が異なるために歩行速度が変化することとなり、 それに応じた体力の消耗量や心理的な疲労感が異なってくることから、合目表示に際しては区間距 離よりも歩行時間をできるだけ等分する意図が働いていた結果ではないかと考えられる。また、等 分された場合には約 12.4 分の平均歩行時間となるが、それよりも長い区間が 5 区間、短い区間が 5 区間という内訳になっている。また、その並び順については特に目立った規則性は観察できない が、登山口から五合目までの総合計歩行時間が 64.5 分、五合目から頂上部までの総合計歩行時間 が 59.1 分とやや前半の方が歩行時間が長くなっている。顕著な差ではなかったことから直ちに断 定することはできないが、登山者の疲労は徐々に蓄積されることから、歩行量に関する心理的な感 覚量を等分する場合には、前半の方が長くなる傾向があるのではないかと考えられる。 ③区間傾斜度と合目表示との相関関係 図7は、各合目の表示があった区間の平均傾斜度と合目表示との関係を示したものである。また、 比較考量を行うために、前述した区間距離を重ねて表示してある。 図6 雌阿寒岳における合目表示地点の標高と高低差 区間名 歩行距離 (m) 歩行時間 (分) 登山口∼一合目 314 13.8 一合目∼二合目 270 12.7 二合目∼三合目 190 10.1 三合目∼四合目 493 17.9 四合目∼五合目 215 10.0 五合目∼六合目 327 16.2 六合目∼七合目 208 9.1 七合目∼八合目 280 9.8 八合目∼九合目 315 14.1 九合目∼頂上 310 10.0 合計 2,921 123.6 表4 雌阿寒岳における合目表示区 間の歩行距離及び歩行時間

(10)

登山口から頂上部までの平均傾斜度は 16.7 度であるが、合目表示間の平均傾斜度の最も小さい のが九合目から頂上の間の 14.6 度である。逆に平均傾斜度の最も大きいのが八合目から九合目の 間の 23.1 度となっており、その差は約 1.6 倍となっている。各区間の平均傾斜度の分布構成につい ては、合目表示の地点区分によっても多少は変化するものであるが、基本的には雌阿寒岳という山 体においてどのような性格や難易度の登山ルートが立地選定されるかといったことに大きく左右さ れるものであることから、合目表示との相関について論じることについては、本論の目的に照らし てあまり意味がないと考えられる。このため、図7は、平均傾斜度にかかる合目表示の意味を考察 できるように、前述した区間距離を追記して作図してみたものである。図7によれば、傾斜度の高 い傾向にある区間では区間距離が比較的短めであり、傾斜度の低い傾向にある区間では区間距離が 比較的長めになっているといったことに関する緩やかな関係が観察されている。このことは、合目 表示に際しては、各区間ごとの歩行速度に大きな差やばらつきが出ることを抑制し、登山者の疲労 感や体力の消費量を平準化しようとする意志が働いていた結果ではないかと考えられる。しかし、 傾斜度の大小と歩行距離の大小がトレードオフの関係にあり、小さい傾斜度の長距離区間を歩くこ とと大きい傾斜度の短距離区間を歩くこととが心理的な疲労感といった点において同値になるとい うことについては、若干の疑義がないわけでもない。このことについては今後の課題とし、再調査 の機会があれば各種運動における疲労分析の指標として使用されている動脈血酸素飽和度や心拍数 をパルスオキシメーターによって測定5)してみることとしたい。なお、雌阿寒岳については 3 本 の登山ルートがあるが、本調査の研究対象とした雌阿寒温泉コースが最も距離が短く(傾斜度が大 きく)、その結果として所要時間が最も短い登山ルートになっているものである。 ④合目表示に関する規定要因の総合分析 前述の①から③においては、合目表示と歩行時間及び平均傾斜度等といった個別要因との相関関 係の分析を個々別々に実施してきたが、ここではこれらの量的な個別要因の他にも景観に関する質 的な要因を加えて整理したのが表5である。 表5をもとに、合目表示間の高低差(⊿ H)を目的変数、歩行時間(T)、区間距離(D)、眺望 条件(L)、平均傾斜度(G)を説明変数として重回帰分析を行った。この結果、「⊿ H(高低差) 図7 雌阿寒岳における合目表示区間の距離と平均傾斜度 001-012syoji-三校 9 13.3.9, 0:17:08 AM

(11)

= 0.10T(歩行時間)+ 0.00T(区間距離)+3.46L(眺望条件)+2.14G(平均傾斜度)‐41.0」とい う重回帰式が得られた。相関係数は 0.90 であり、5% の有意水準で有意であると判断できる結果で あった。この得られた回帰式によれば、歩行時間や区間距離に比べて、平均傾斜度と眺望条件が合 目表示の区分に大きなウェイトを占めていることが分かる。このことは、合目表示は「傾斜のきつ い区間は疲労感が大きいことから区間距離を短めに設定するとともに、眺望が優れているといった ように登山者にとって魅力的な区間は心理的な疲労感が軽減されることから区間距離を長めに設定 したもの」といった結論が導き出せる可能性を示唆していると解釈できるものである。確かにこの 結論は、感覚的には理解や共感が得やすいものである。しかし、今回の調査データについては精度 等に若干の曖昧さが残ることは否めないことから、本調査結果だけでもって拙速に結論付けること は避け、あくまでもかかる結果が得られる可能性があるといった程度の結論にとどめておくことと する。 なお、眺望条件については、林内を抜けて見晴らしのきくところに近づくにつれて、今回の調査 研究の被験者からは感嘆の声が上がっていたことから、眺望は心理的な疲労感を軽減する効果があ るのではないかと推測される。定量的な調査を実施していないことから即断はできないが、再調査 の機会には、各区間ごとに変化する眺望条件や眺望条件に関する登山者の魅力評価点を指数化する 方法についても検討することとしたい。

6 まとめ

本論においては、雌阿寒岳を対象として、感覚量としての合目表示の実態や測定方法に関する調 査分析を行った。その結果、主として次のことが明らかにされた。 ①合目表示は比高の等差区分といった単純なものではなく、登山の難易度のような心理的な要因 などを加味した区分になっている可能性が明らかにされた。従って、その尺度としての性格は、 順序尺度及び間隔尺度としての性格の両面をあわせ持ったものになっているものであると考え 区間名 高低差 (m) 歩行時間 (分) 区間距離 (m) 眺望条件 (4 段階評価) 平均傾斜度 (度) 登山口∼一合目 77 13.8 314 0 16.4 一合目∼二合目 88 12.7 270 0 18.6 二合目∼三合目 57 10.1 190 0 18.0 三合目∼四合目 97 17.9 493 1 16.0 四合目∼五合目 73 10.0 215 2 20.5 五合目∼六合目 114 16.2 327 3 21.6 六合目∼七合目 41 9.1 208 3 18.6 七合目∼八合目 73 9.8 280 4 16.1 八合目∼九合目 111 14.1 315 4 23.1 九合目∼頂上 72 10.0 310 4 14.6 合計値等 802 123.6 2,921 − 16.7 表5 雌阿寒岳における合目表示地点データの総括表 注 : 眺望条件については、「森林内を0点、人の背の高さのハイマツ帯を1点、人の背より低いハイマツ帯を2∼3点、 ガレ場で展望が開けた状態を4点」と評価している。また、平均傾斜度に関する合計値欄の値は平均値である。

(12)

られた。なお、「合」という表現及び十区分を基本とする尺度構成がされるに至った理由等を 明確にすることはできなかった ② GPS ロガーによって合目表示にかかるデータ測定を行うことができることが分かったが、登 山中の休憩時のログ・データを歩行速度によって単純に判別できなかったことから、別途に調 査・記録する必要のあることが明らかにされた。また、合目表示の判断要因と考えられる登山 者の疲労度や景観条件などの要因についても調査・測定する必要のあることが指摘された。 ③合目表示の設定に当たっては、区間距離よりも歩行時間をできるだけ等分する意図が働いてい たことや、各区間ごとの歩行速度に大きな差やばらつきが出ることを抑制して登山者の疲労感 や体力の消耗量を平準化しようとする意志が働いていたことなどが、調査結果から推測された。 ④合目表示は、傾斜のきつい区間は疲労感が大きいことから区間距離を短めに設定するとともに、 眺望が優れているといったように登山者にとって魅力的な区間は心理的な疲労感が軽減される ことから区間距離を長めに設定したものである可能性が、調査結果から推測された。 最後になるが、調査に協力をしてくれた東洋大学国際地域学部国際観光学科の学生達に深甚なる 謝意を表したい。 参考文献 1)富士山本宮浅間神社社務所(1928):富士の研究、富士山本宮浅間神社社務所 2)阿寒湖畔エコミュージアムセンター作成・一般財団法人前田一歩園財団協力(2010):雌阿寒岳登山ガイド、 阿寒湖畔エコミュージアムセンター、1p.(変型 A3 版リーフレット) 3)田中良久(1977):心理学的測定法、東京大学出版会、298p. 

4)Byrne.R.W.(1979):Memory for urban geography、Quarterly Jouma of Experimental Psychology  31,pp.147-154.

5)関和俊・石田恭生・小野寺昇・田淵昭雄(2007):富士山登山における心拍数、SpO2 および自覚症状スコアの変化、 川崎医療福祉学会誌 Vol.17 No.1、pp.113-119 

(13)

参照

関連したドキュメント

本研究の目的は,外部から供給されるNaCIがアルカリシリカ反応によるモルタルの

SD カードが装置に挿入されている場合に表示され ます。 SD カードを取り出す場合はこの項目を選択 します。「 SD

断面が変化する個所には伸縮継目を設けるとともに、斜面部においては、継目部受け台とすべり止め

この項目の内容と「4環境の把 握」、「6コミュニケーション」等 の区分に示されている項目の

第1条

(注)本報告書に掲載している数値は端数を四捨五入しているため、表中の数値の合計が表に示されている合計

AMS (代替管理システム): AMS を搭載した船舶は規則に適合しているため延長は 認められない。 AMS は船舶の適合期日から 5 年間使用することができる。

層の項目 MaaS 提供にあたっての目的 データ連携を行う上でのルール MaaS に関連するプレイヤー ビジネスとしての MaaS MaaS