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高頻度に認めた被虐待児の脳波異常についての検討

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原  著 〔東女医大誌 第63巻 第10号頁1222∼1229平成5年10月〕

高頻度に認めた被虐待児の脳波異常についての検討

東京女子医科大学 小児科学(主任:福山幸夫教授)      Harvard大学医学部精神科 McLean病院, Hall−Mercer小児思春期センター,     発達生物学的精神医学研究部門       イ   トウ       伊 東 ゆ た か (受付 平成5年6月21日) Increased Prevalence of Electrophysiological Abnormalities in Children with          Psychological, physical and Sexlla蓋Ab腿se        Yutaka ITO         Department of Pediatr孟cs(Director:Prof. Yukio FUKUYAMA)       Tokyo Women’s Medical College Department of Psychiatry, Harvard Medical School and Developmental恥opsychiatry Research Program,    Hall−Mercer Center for Childreロand Adolescents, McLean Hospital, Belmont, MA, USA   This retropsepective study examined the associat童on between abuse history and neurological abnorηaalit圭es in 115 consecutive admissions to a child and adolescent psychiatric inpatient unit. Inとreased electrophysiological abnormalities were found in abused patients compared to non・abused pat三ents(54.4%vs 26.9%, p=0.021), predominantly in the left−side of the frontal, temporal or anterior region(p=0.036), This may support the hypothesis that early abuse alters brain development, particularly limbic structures. However, a large−scale, prospective longitudinal assessment study is needed to interpret this association. The possible clinical consequences of relatively well preserved right frontal function are discussed.          緒  言  最近Teicherらは幼小児期に受けた虐待が大 脳辺縁系の成熟に影響を及ぼし,精神症状を含め た神経生物学的変化を起こすであろうとの仮説を 述べた1).被虐待児に特徴的に認められる精神症 状としては,感情の不安定さ,衝動性や怒りを調 整する能力の欠如,ストレスに対する耐性の乏し さ,繰り返し噴出する攻撃性,解離記憶の障害, 幻覚がある.Van der Kolk and Greenberg2)は, より限定した形での仮説を提唱した.すなわち彼 等は心理的外傷を反復体験したり,特に小児期に 虐待を受けると,扁桃核(amygdala)のkindling を招き,神経学的異常,さらに衝動的・攻撃的行 動,性的異常行動を引き起こしう.ると指摘した. 類似の報告は限られている.Greenら3)によると, 頭部外傷の既往のない小児で身体的虐待を経験し た場合には,soft neurological signsと非特異的 脳波異常が高頻度であったという.またDavies4) は近親相姦的関係を幼小児期に経験した22例の患 児の内,77%に脳波異常があり,36%にけいれん が認められたことを報告した.これらの患児の 82%は衝動的であり,54%は離人症を伴っていた. Teicherら1)は側頭葉てんかんを疑わせる身体 的・感覚的異常,異常行動および記憶に関する症 状の程度を測定することを目的に,質問紙法によ

る辺縁系の評価法LSCL−33(Limbic System

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135 Check List)を独自に開発し,253例の成人精神科 外来患者を検討した.LSCL−33の得点は身体的虐 待の既往のある患者では対照のL38倍であった. 同じく性的虐待では!.49倍,特に両虐待を合わせ て経験した場合には2.13倍の高い値を示した.何 れか一方のみ経験した患者では,その虐待を18歳 未満で受けた場合でのみLSCL−33が高かった1).  本研究は,小児期に受けた身体的,性的あるい は心理的虐待と神経生物学的異常との関係を確か める目的で実施した.病歴に記載された虐待の事 実と程度,神経学的異常を各々別に,相互の情報 に全く影響されないよう工夫して評価し,関連を 検討した.もしも幼小児期の虐待が神経生物学的 発達に影響を及ぼすとすれぽ,虐待を受けた亡児 の神経学的検査結果は高頻度に異常を示すはずで ある.またもし虐待により特異的な神経生物学的 変化が起こるのであれぽ,虐待された群に多く出 現した異常検査所見から,特定の神経学的異常を 推測することができるであろうと予測した.        対象および方法  1.対象  1988年6月から1989年5月までの1年間に米国

Massachusetts州McLean病院小児思春期精神

科病棟に入院した115人の病歴を調べた.11例は虐 待と無関係の神経学的異常を有する可能性がある ため除外した.その内訳は頭部外傷下意識消失の あった4例,神経学的合併症が起こり得る疾患の 既往を持つ7例(鉛中毒,脳炎,短頭,胎児性ア ルコール症候群,修復後の頸動脈瘤,嚢胞性線維 症,染色体転座)であった.残る104例の平均年齢 は13.0±2.7歳,60%は思春期(13歳以上),51% は男児,人種は大部分(86%)が白人であった. WISC−Rによる知能指数は正常範囲(85以上)が 84%,境界域(71∼85)9%,軽度から中等度遅 滞(71以下)が7%を占めた.本研究では診断の 如何にかかわらず期間内に入院した干すべてを対 象にしたが,同施設の年報によると,三児の主な 退院時診断は,この期間次のようであった.うつ 病性障害44%,行為障害18%,注意欠陥・多動障 害または反抗・挑戦性障害17%,精神病性障害 7%,不安性障害6%,適応障害3%,残りは他 の様々な診断であった(摂食障害,チック障害, 精神活性物質乱用など).  2.方法  研究助手が病歴から虐待の既往に関する情報, および神経学的検査の結果を抜ぎ出し,症例毎に 2枚の用紙に分けてすべて記載した.虐待の加害 者,初めて虐待を受けた時の患者の年齢,行われ た期間,頻度,その内容および程度,さらに実際 にどの位の確かさでそれが起こったかを虐待の4 つの形式毎に記入した.Massachusetts州では小 児虐待の可能性がある場合には管轄役所に報告す ることが義務付けられており,その折りの公式文 書も,虐待が行われた確実性を裏付ける情報とし て用いた.記載が終了した用紙は完全に分けて独 立させ,番号を付し,判定者が対象とする項目以 外の事柄を知り得ないように工夫した.神経学的 検査結果の異常の判定は,小児神経科医と小児神 経科および小児精神科の研鐙を積んだ小児科医 が,また虐待の程度に関してはこの小児科医と小 児精神科看護の資格を持つ研究者が各々個別に 行った.判定が一致しなかった項目は,さらに別 の精神科医が独自に判定し,最終的には少なくと も2人が同一の判定を下すことを必要とした.神 経学的検査は,臨床上の必要に応じて行われたも のであり,これらの検査を施行した専門家,技師 にはこの研究の意図や仮説は全く知らされなかっ た.  3.評価法  1)虐待の判定  小児期心的外傷の4つの形式,すなわち,身体 的虐待,性的虐待,心理的虐待(暴力の目撃,言 語的虐待),そして無視・放置の各々を3段階に評 価した.その基準は次のごとくである.0=どの ような虐待,無視・放置も知られていない.1= 過度の虐待,無視・放置の可能性があるか,また は中等度の虐待が明白である.2罵過度の虐待, 無視・放置が明白である.ここで身体的虐待とは 通常の罰(平手でたまに叩く程度)の範囲を逸脱 した体罰,身体的外傷を加えられた場合をいう. 性的虐待とは性交,それに準じた挿入,外陰部接 触,抱擁をいう.他者が身体を露出し見せること

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は性的虐待に含めず,まれに抱擁されることは1, 指手による陰部挿入は2と判定した.両親の言い 争いや,親が兄弟を言語的に脅すことを頻繁に目 撃した時は心理的虐待の1と評価した.無視・放 置は親あるいはそれに代わる者が必要な:養育の実 行を拒否すること,適当な保護,指導を怠ること を指す.  2)虐待の程度による分類  患児は受けた虐待の程度と種類に応じて分類さ れた.まず上記4虐待項目すべて0であった者を 非虐待群,いずれかで1あるいは2を示した者は 虐待群とした.さらに心理的虐待群とは心理的虐 待または無視・放置の項目で1または2と判定さ れるが身体的虐待および性的虐待の項目は0と判 定された者,身体/性的虐待群とは他の項目の評価 にかかわらず,身体的虐待または性的虐待が1ある いは2であった者とした.この両項目で2と判定 された者は特に高度身体/性的虐待群とした.  3)神経学的異常の判定  神経学的評価は次の4つの項目を設けた.神経 学的診察,神経心理学的検査,神経放射線学的検 査;computerized tomography(CT), magnetic resonance imaging(MRI),そして神経生理学的 検査;electroencephalography(EEG), brain electrical activity mapping(BEAM)である. 神経学的診察は96%,神経心理学的検査は86%, 神経放射線学的検査67%,そして神経生理学的検 査は90%の例に施行されていた.各項目を正常あ るいは異常に判定した.神経学的診察の異常の判 定は,入院時神経科医が行った通常の診察所見お よび簡単な精神状態の判定検査の記述を基にし た.神経学的異常所見が既往にある場合,また年 齢不相応なsoft neurological signsが認められる 場合は異常と判定した.神経心理学的検査では各 種検査での患児の反応を総合的に判断した.また 視覚空間認知能力と言語能力の隔たりが大きいこ とが報告書に明記されている場合には異常とし た.神経放射線学的検査では,軽度のChiari I型 奇形は異常とする一方,例えば一ヒ顎洞の小嚢胞な ど神経系と無関係な所見は異常と判定しなかっ た.神経生理学的検査では,検査結果報告書に基 づき,突発性の脳波変化,左右差,局所性徐派な どの有無を考慮した.しかし異常所見が,artifact や患児の傾眠傾向による疑いが強い場合には正常 と判定した.93例ではルーチン脳波検査を覚醒時 および睡眠時に施行されていた.この内48例では,

さらにより詳細な情報を得るためにBEAMが施

行された.BEAMには通常の脳波記録に加え,周 波数分析,聴覚性誘発電位(auditory evoked potentials;AEP),視覚性誘発電位(visual evo− ked potentials;VEP)が含まれている.判定は各 検査別に下したのみならず,さらに総合的に神経 生理学的検査としての異常を知る目的で,一般的 脳波検査とBEAMを合わせて異常率を示した. 多くの場合,異常の認められた部位は,広範な領 域(例えば,頭蓋前半部,側頭部)で報告されて いたため,その名称の部位別に異常率を計算し局 在を分析した.  4)統計処理  2下間の異常率の差の検定にはtwo−tailed Fi− sher exact testを用いた.          結  果  2人の判定者は神経学的検査では98%,虐待の 程度では80%が一致していた(それぞれCQhen Kappa O.969,0.613).不一致項目は第3の判定 者が前2者のいずれかと一致したことで最終決定 がなされた.虐待の有無および程度に基づいた分 類では非虐待群27例,心理的虐待群22例,身体/性 的虐待群55例であり,この中に高度身体/性的虐待 群38例が含まれた.以上の丁半の間には年齢,知 能指数に差はなかった(表1).女子の割合は虐待 群,特に身体/性的虐待群に多かった(それぞれ p=0,003, p=0.001).  神経学的検査の異常の割合を野営に分けて表2 に示した.神経学的診察,「神経心理学的検査の異 常率は虐待群と非虐待群の間で差を認めなかっ た.神経放射線学的検査の異常率は非虐待群で 15.0%,虐待群で26.0%であったが,2借間に有 意差はなかった(p=0.529).神経生理学的検査の 異常率は26,9%の非虐待群に対し,虐待群で 54.4%と有意に高かった(p=0.021).心理的虐待 群での異常率は42.9%を示したが,非虐待群との

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137 表1 各群の構成 N %女子 年齢(SD) 言語性IQ 動作性IQ 102.2(20.0) 104.2(21.9) 非虐待群 @ 心理的虐待群 @ 身体/性的虐待群 @ 高度身体/性的虐待群 27 Q2 T5 R8 25.9% S0.9% U7.3% U8.4%  13.5(2.4) @12.9(2,3) @12.8(3.0) @13.0(2,9) 100.2(13.0) X9.4(16,8) X7.1(16.3) 108.7(13.3) P02.3(21.4) P02,1(21.2) 心理的虐待群    :言語的虐待,暴力の目撃,無視・放置などの虐待を受けた既往の          ある者 身体/性的虐待群  :中等度以上の身体あるいは性的虐待を受けた可能性のある者 高度身体/性的虐待群:高度の身体あるいは性的虐待を受けた既往が確実な者 表2 神経学的検査の異常率 神経学的診察 神経心理 神経放射線 神経生理 非虐待群 50.0%(13/26) 88.0%(22/25) 15.0%(3/20) 26.9%(7/26) 虐待群 55.4%(41/74) 87.5%(56/64) 26.0月置13/50) 54,4%(37/68) 有意差 ns ns ns 0,021 冒   一   一   一   ¶   一   一   一   一       一       一         →   一   一   凹   一   一   一 心理的虐待群 50.0%(10/20) 78,9%(15/19) 35.7%(5/14) 42.9%(9/21) 身体/性的虐待群 57.4%(31/54) 91,1%(41/45) 22.2%(8/36) 59.6%(28/47)* 高度身体/性的虐待群 57.9%(22/38) 93,9%(31/33) 23,1%(6/26) 71.9%(23/32)*准 神経放射線学的検査:CTおよびMRI 神経生理学的検査 :一般的脳波およびBEAM(脳波,周波数分析,誘発電位) 累p=0.014,**p=0,0013対非虐待群 表3 年齢層と性別による神経生理学的検査の異常率 非虐待群 虐待群  男児    小児   思春期  女児    小児   思春期 異 常 率 26.9%( 7/26) 55.6%(15/27) 56.3%( 9/16) 54.5%( 6/11) 53.7%(22/41) 53.3%( 8/15) 53.8%(14/26)  小児:12歳以下 思春期:13歳以上 差はなかった(p=0.355).身体/性的虐待群では 59.6%(p=0.014),殊に高度身体/性的虐待群で 71.9%(p=0.0013)と高値を示した.心理的虐待 群と身体/性的虐待群との間では差を認めなかっ た(p=0.292).  また表3に示すように,虐待群の神経生理学的 検査の異常率は,性,年齢層にかかわらず同程度 (53.3%∼56.3%)であった.  より詳細な神経生理学的諸検査の分析結果を表 4に示した.一般的脳波検査で非虐待群がわずか 7.7%の異常率を示したのに対し,虐待群では 23.9%(p=0.088)であった.一方BEAMにおけ る脳波所見では非虐待群の20%,虐待群の34.2% が,また周波数分析では非虐待群の10%,虐待群 の41%(p=0.133)が異常を示した.一般的脳波

とBEAMを合わせて施行された患児の結果を統

計学的に検討したところ,この3種の脳波検査法 (一般的脳波,BEAMでの脳波,周波数分析)の 結果は同一であることは否定できず,一致してい る可能性が強く示された(Cochran Q=0.388, df=2, p>0.8).そこでこの3検査のいずれか一 つでも異常と判定された場合を脳波異常ありと し,脳波全体の異常率を検討した.非虐待群では 脳波異常は比較的稀(11.5%)であったのに対し, 虐待群ではその3.6こ口41.2%)を示した(p= 0.007).異常率は心理的虐待群の33.3%(p< 0.10)から高度身体/性的虐待群の53.1%(p= 0.001)に渡っていた.誘発電位検査では虐待群, 非虐待群で異常率の差はなかったが,視覚性誘発

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表4 神経生理学的諸検査の異常率

BEAM

一般的脳波検査

BEAM脳波 周波数分析

AEP

VEP

脳 波# 非虐待群 s待群 @ 心理的虐待群 @ 身体/性的虐待群 @ 高度身体/性的虐待群 7.7%(2/26) Q3.9%(16/67) @ 0,088一  _  一  一  一  一  一  一  一  一  一  ,  r  曽 Q3,8%(5/21) Q3.9%(11/46) Q5,8%(8/31)琳 2⑪.0%(2/1G) R4.2%(13/38)

@ ns

黶@ 一  一  一  一  ,  一  一  一  一  曽  曽  一 SG.0%(4/10) R2.1%(9/28) Q7.3%(6/22) IG.0%(1/10) S1.0%(16/39) @  ns @       一   一   一   一   『   一   一   一   一   一   一   鴨 R0.0%(3/10) S4.8%(13/29)* S7,8%(11/23)* 4Q.0%(4/10) R3.3%(13/39) @  ns 黶@  一   一   一   一   伽   一   一   一   一   一   一   一 T0.0%(5/10) Q7.6%(8/29) R0.4%(7/23) 50.0%(5/10) V4,4%(29/39) @  ns 黶@  一   一   一   一   一   騨   噌   一       一   一 UG,0%(6/10) V9.3%(23/29) W2.6%(19/23)* 11.5%(3/26) S1.2%(28/68) R3.3%(7/2D* S4.7%(21/47)** T3.1%(17/32)*纏 #:一般的脳波,BEAM脳波,周波数分析の3検査所見を統合した異常率 BEAM:brain electrical activity mapping, AEP:聴覚性誘発電位, VEP:視覚性誘発電位 *p〈0,10,纏p=0.004,***p=0.001対非虐待群 表5 神経生理学的異常の局在 前 頭 部 側 頭 部 前頭部・側頭部 ワたは頭蓋前半部# 非虐待群 7.7%(2/26) 15.4%(4/26) 19,2%(5/26) 虐待群 25.0%(17/68) 32.4%(22/68) 47.1%(32/68) 有意差 0,085 0,126 0,018 一 一駒一一一一一一一需曹一一 一一髄曽_一一一 曽  一     一  一  一  一  惰  一     一  一  一  一  需  一  髄  一 一  一  一  }  r     一     一  一  一  一  ¶  一  割  一  一  一 心理的虐待群 143%(3/21) 28.6%(6/21) 38.1%(8/21) 身体/性的虐待群 29.8%(14/47)奉 34.0%(16/47) 51.1%(24/47)零卑 高度身体/性的虐待群 37.5%(12/32)** 34.4%(11/32) 59.4%(19/32)*傘* #:前頭部・側頭部または頭蓋前半部のいずれかに異常所見を認めた割合 卑p=0.038,紳p;0.012,目串p=0,003対非虐待群 電位は.高度身体/性的虐待群で非虐待群よりも高 い傾向を示した(82.6%vs 50.0%, p=0.090).  神経生理学的検査で異常を認めた44例を異常部 位別に検討すると,この43.2%(19例)は前頭部 に,59.1%(26例)は側頭部に異常があった.さ らに,前頭部・側頭部または頭蓋前半部のいずれ かが異常部位と記載されていた患児を合計すると 37例,84.1%と大部分を占めた.  表5に局在別の神経生理学的異常率を各群に分 けて示す.前頭部の異常率は非虐待群の7.7%に比

べ虐待群では25.0%と高い傾向を認め(p=

0.085),身体/性的虐待群,特に高度身体/性的虐 待群では有意に高かった(それぞれ29.8%,p= 0.038;37.5%,p=0.012).側頭部の異常率は非 虐待群で15.4%,虐待群では32.4%を示したが, 有意の差ではなかった(p=0.126).前頭部・側頭 部または頭蓋前半部のいずれかに異常を認めた率 は,非虐待群の19.2%に対し,虐待群では47.1% と高く(p=0.018),身体/性的虐待群,特に高度 身体/性的虐待群では,非虐待群の患児に比べ 2.7∼3.1倍高い異常率を示した(それぞれ51.1%, p=0.012;59.4%, p=0.003).  さらにこの領域で異常の左右差を検討した.表 6にあるように,左側の異常率は虐待群で22.1% で,非虐待群の3.8%に比較し高かった(p= 0,036)が,右側の異常率および両側あるいは優位 側不明の異常率では両群間の差は認めなかった (それぞれp>0.8,p二〇.505).各群の中で異常に 左右差の明らかであった患児の数を比べると,非 虐待群では左側異常は右側異常に比し0.5倍(1 例/2例),虐待群では2.5倍(15例/6例)を示し た.身体/性的虐待群では,1.67倍(10例/6例), 高度身体/性的虐待群では1.2倍(6例/5例)と左 右の偏りは顕著ではなかった.しかし心理的虐待 群では左側異常5例(23.8%)に対し,右側異常 を持つ患児はなく,左側に異常の偏りを認めた (p=0.048).またこの群では左側異常は側頭部に 限局しており,左側頭部に限ってみれぽ,非虐待

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!39 表6 前頭部・側頭部または頭蓋前半部における神経生理学的異常の局在 左  側 両側または不明 右  側 左/右 非虐待群 3.8%(1/26) 7.7%(2/26) 7.7%(2/26) 0.50 虐待群 22.1%(15/68) 16,2%(1!/68) 8.8%(6/68) 2.50 有意差 0,036 ns    ns M       一   ㎜       一   ■   一   ■   一    一   一   一 一   一       一   一   一   一       冒   一       一   一   一       一   一   一   一   一   一 一   一       一   一   一   一   一   一   一   一 一       弊   一   一       一   一   胃   冒   “   一         一   一   惚   ■   ■   一   一 心理的虐待群 23.8%(5/21)* 14.3%(3/21) 0.0%(0/21) OQ 身体/性的虐待群 21.3%(10/47)* 17.0%(8/47) 12.8%(6/47) 1.67 高度身体/性的虐待群 18.8%(6/32) 25.0%(8/32) 15.6%(5/32) 1.20 *p<0.10対非虐待群 表7 視覚空間認知能力と言語能力の差より推測し  た障害側 視覚空間〉言語 @ 左半球 視覚空間く言語 @ 右半球 左/右 非虐待群 36.0%(9/25) 16.0%(4/25) 2.3 虐待群 31.3%(20/64) 4.7%(3/64) 6.7 有意差 ns 0,094 一   一   一   一   一   一   一       一    一   一   一   一   曽   一       一   一   一   一   一P   一   鱒   π   一   一   一   一   一   一   一   一 雫   隔   観   密       一       一   P   一}   一   一   ■         心理的虐待群 42.1%(8/19) 5.3%(1/19) 8.0 身体/性的虐待群 26.7%(12/45) 4.4%(2/45) 6.0 高度身体/性的虐待群 30,3%(10/33) 6.1%(2/33) 5.0 群の3.8%に対し23.8%と異常率が高い傾向に あった(p=0.076)。  心理的虐待が左半球の成熟・発達を阻害する可 能性をさらに検討するために,神経心理学的検査 結果にみる左右両半球の機能の差を分析した,視 覚空間認知能力が言語能力よりも明らかに優れて いる場合を左半球の相対的機能低下,逆に言語能 力が視覚空間認知能力よりも優っているときは右 半球の機能低下と評価した(表7).非虐待群では 左半球機能障害が右半球機能障害に比し2.3倍(9 例/4例)を示した.虐待群では左側障害は右側障 害に比べて6.7倍(20例/3例)であり,殊に心理 的虐待群では8倍(8例/1例)と高い比を示した. 興味深いことに,この比の違いは虐待群に左側障 害が多いためではなく,右側障害が少ないためで あった(p=0.094).          考  案  本研究は神経学的異常が虐待を受けた小児に高 頻度に認められるかどうかを確かめるために行わ れた.神経学的診察,神経心理学的検査ではその 異常率と虐待の間に関係は認められなかった.神 経放射線学的検査では虐待を受けた既往のある患 児では26%に,同既往のない児では15%に異常率 を示したが,この差は有意ではなかった.一般的 脳波とBEAM(脳波,周波数分析および誘発電位) を合わせた神経生理学的検査の異常率は,非虐待 群の26.9%に比べ虐待群で54.4%と高く(p= 0.021),特に脳波全体(一般的脳波,BEAMでの 脳波,周波数分析)の異常率は虐待群で極めて高 かった(41.2%vs 11.5%, p=0.007).神経生理 学的異常の大部分は前頭部・側頭部あるいは頭蓋 前半部のいずれかに局在し,この領域の左側で虐

待群と非虐待群は異常率に差が認められた

(22.1%vs 3.8%, p=0.036)が,右側での差は なかった(8.8%vs 7.7%).身体的あるいは性的 虐待を受けたことのある患児は前頭部で異常率が 高く(29.8%vs 7.7%, p=0。038),心理的虐待 を経験した患児は左側の側頭部で異常率が高い傾 向を示した(23.8%vs 3.8%, p=0.076).ゆえ に,虐待を受けた子供では神経生理学的異常率が 増加しており,異常は前頭部・側頭部あるいは頭 蓋前半部の特に左に偏在して認められることが確 かめられた.  最も顕著な差は一般的脳波,BEAMでの脳波所 見,周波数分析を統合し脳波全体の結果を分析し た時に見られた.BEAMの臨床的意義については 未だ議論のあるところである5)∼7).BEAMを受け た赤児では1例を除くすべてが一般的脳波検査も 受けていた.このことから一部の患児ではBEAM が一般的脳波検査を補うと考えられ施行されたと 理解される.臨床的に異常が強く疑われる時には, 1回の結果に頼らず脳波検査を繰り返すことが妥 当とされる.それは例えば非発作時の側頭葉てん かんではしぼしぽ異常波が記録されない8)ためで ある.本論では統計学的手法により一般的脳波検

(7)

査とBEAMによる脳波検査,周波数分析結果と

が一致する可能性が強く示され,これらは本質的 には類似の情報を与えており,BEAMは一般的脳 波の再検査としての性格で行われたと考えられ

た.また一般的脳波記録よりもBEAMの方が異

常波の局在を正確に示すこともあることが報告さ れており9),これが一般的脳波検査上異常を認め

た患者でも,加えてBEAMを施行された理由で

あろう.虐待を受けた三児では受けない町制に比 べ一般的脳波の異常率が3.1倍高く(23.9%vs 7.7%,p=0.088), BEAMでの脳波,周波数分析 結果を合わせた脳波全体の異常率では3.6倍高い ことを認めた(p=0.oq7).  本研究の結果は,近親相姦的な関係を幼小児期 に経験した患児の77%に異常脳波を認め,36%に けいれんがあったとするDavies4)の結果と類似で ある.同じく,Greenら3)は,虐待を受けたことの ある小児では,対照に比べsoft neurological signsを多く認め,非特異的脳波異常率が高いこ とを示した.Teicherらは,253例の成人精神科外 来患者で,身体的性的虐待を受けた既往と質問紙 法による辺縁系の機能障害を示す得点に関連があ ることを見出した1).  この脳波異常と虐待の関係を解釈するにはいく・ つかの方法がある.Davies4)は脳波異常を持つこ とが虐待の対象となる危険因子であろうと指摘し た.また元来親や同胞に脳波異常が存在し,虐待 という行為が起こり,その形質が児に受け継がれ る可能性もある.しかし筆者らは,脳波異常は幼 小児期に受けた虐待の影響と考える.その理由は 第一に海馬(hippocampus)はcorticosteroid濃:度 に著しく過敏であり,高度のストレスの持続によ り上昇したglucocorticoid濃度により海馬錘体 細胞が死滅する可能性があるからである10)11).第 二に心理的外傷を繰り返すと辺縁系にkindling を招き神経学的異常が出現するであろうことが, van der Kolk and Greenberg2)により示されてい る.第三に動物実験によると,前前頭葉(pre− frontal cortex)へのdopamine投射は軽度のスト レスにより特異的に活性化することが認められて おり12)13),神経系の中でも最後に成熟するとされ る14>この領域を繰り返し活性化することで,逆に 発達・成熟は阻害されるであろうことが考えられ る.しかしながらこの虐待と脳波異常の因果関係 を明らかにするには,長期的で大規模な前方視的 追跡研究を展開する必要があろう.  心理的虐待を受けた町尽の脳波異常は左半球の みに有意に多かった.近年の研究では右半球は特

異的に陰性感情に携わることが報告されてい

る15)∼17).さらにGalin18)とJoseph19)は,痛ましい 小児期の記憶は無意識の中で右半球に優先的に蓄 えられるが,意識上の行為と感情に影響を与え得 るであろうと推測した.SchifEer, Teicher, Papanicolau(未発表データ,1992)は, probe evoked potentialsを用いて行った実験で,小児期 の痛ましい記憶の想起は大脳皮質の賦活化部位を 左から右優位に変え,その右側への偏位は小児;期 に受けた虐待の程度に相関することを示した.本 論では虐待を受けた小児では左半球の機能障害を 伴っており,その結果,右半球への機能依存がよ り大きくなるであろうことが示された.右前頭葉 への依存は陰性感情に対する感受性とそれへの反 応を増強し20)21),さらに無意識の中に蓄えられて いた痛ましい小児期の記憶が蘇り易くなる19)と考 えられる.このような推測は現時点では想像的で はあるが,外傷体験を持つ者がしぼしぼ過敏に陰 性感情に反応し,長い年月完全に抑圧されていた 虐待の記憶も時に鮮やかに復活するという臨床的 観察と一致する.          結  語  この病歴調査研究の結果は,当初の仮説を支持 し発展させた.しかしながら脳波の正常な子供が 虐待を受けて異常を呈するに至る過程を前方視的 に調査しない限り,この仮説を正確に証明するこ とはでぎない.それは論理的にも倫理的にも明ら かに困難な研究となる.ここでは幼小児期に受け た虐待が神経生物学的異常を招くであろうとする 仮説を確証できないが,それと同じ程度に,神経 生物学的異常を有する小児が虐待を受ける危険性 が高いという仮説を確証することもできない.ど の方向から探求するにせよ,被虐待児における神 経学的異常の原因,症状,治療そして予防を深く

(8)

141 理解することは重要であり,そのためには生物精 神社会学的に統合されたモデルと,熟慮された大 規模な前方視的研究の展開が必要であることが本 研究より示された.   病歴調査に御協力いただいたDavid Harper氏と Eleanor Magnus嬢,虐待の判定と研究部門のcoordi− natorとしての役割を負って下さったCarol A. Glod 博士(McLean Hospital),神経学的検査所見の判定を お願いしたHarris A. Gelbard教授(Department of Neurology, University of Rochester School of Medicine),そして終始御指導戴いたMartin H. Tei− cher教授(Department of Psychiatry, Harvard Medical School)に感謝いたします.さらに恩師福山 幸夫教授には,数々の貴重な御助言を戴き感謝いたし ます.       文  献   1)Teicher MH, Glod CA, Surrey J et al:Early      chlldhood abuse and Iimbic system ratings in      adult psychiatric outpatients. J Neurosci Clin      Neuropsychiatry 5:301−306,1993   2)van der Koik BA, Greenberg MS: The      psychobiology of the trauma response:Hyper・      arousal, constriction, and addiction to trau・      matic reexposure,・肋Psychological Trauma.      (van der Kolk B ed)pp63−87, American Psychi・      atric Press, Washington DC(1987)   3)Green AH, Voeller K, Gaines RW et al:      N6urological impai㎜ent in maltreated chil−      dren. Child Abuse Negl 5:129−134,1981   4)Davies RK:Incest:Some neuropsychiatric      findings. Int J Psychiatry med 9:117−121, 1979   5)Nuwer MR: Quantitative e工ectroencephalo−      graphy(letter). Arch Gen Psychiatry 44:840,      1987   6)Cancro R: The art of turf creation(letter).      Arch Gen Psychiatry 46:191−192,1989   7)Nuwer MR: In reply(letter to the editor).      Arch Gen Psychiatry 46:192−194,1989   8)Matthews WB:The use and abuse of      electroencephalography. Lancet ii:577−579,      1964   9)Nuwer MR: Frequency analysis and topo−      graphic mapping of EEG and evoked potentials    in epi}epsy. Electro印ceph Clin Neurophysiol    69:118−126, 1988 10)Uno H, Tarara R, Else JG et al:    Hippocampal damage associated with pro−    longed and fatal stress in primates. J Neurosci    9:1705−1711, 1989 11)Sapolsky RM, Uno H, Rebert CS et a藍:    Hippocampal damage associated with pro.    10nged glucocorticoid exposure in primates. J    Neurosci 10:2897−2902,1990 12)Bannon MJ, Roth RH:Pharmacology of    mesocortical dopamine neurons. Pharmacol    Rev 35:53−68,1983 13)Kalivas PW, Du鉦y P:Similar effects of daily    cocaine and stress on mesocorticolimbic    dopamine neurotransmission in the.rat. Biol    Psychiatry 25:913−928, 1989 14)Fuster JM:The prefrontal Cortex:Anat−    omy, Physiology and Neuropsychology of the    Frontal Lobe. Raven Press, New York(1980) 15)Schwartz GE, Davidson RJ, Maer F:Right    hemisphere lateralization for emotion in the    human brain:Interaction with cognition. Sci−    ence 190:286−288, 1975 16)Ladavas E, Nicoletti R, Umilta C et al:    Right hemisphere interference durlng negative    affect:A reaction time study. Neuropsy−    chologia 22:479−485, 1984 17)Ahern GL, Schwartz GE= Differential later−    alization for positive and negative emotion ln    the human brain:EEG spectral analysis. Neur・    opsychologia 23:745−756, 1985 18)Gal董n D:Implications for psychiatry of left    and right cerebral specialization. A neuro−    physio藍ogical context for unconscious proces−    ses. Arch Gen Psychiatry 31:572−583,1974 19)Joseph R:The right hemisphere:emotion,    music, visual−spatial skills, body−image,    dreams, and awarenesS. J Clin Psychol 44:    630−673, 1988 20)Tomarken AJ, Davidson RJ, Henriques JB:    Resting frontal brain asymmetry predicts    affective responses to films. J Pers Soc Psychoi    59:791−801, 1990 21)Davidson RJ, Ekman P, Saron CD et al:    Approach・withdrawal and cerebral asym−    metry:Emotional expression and brain physi−    010gy I. J Pers Soc Psychol 58:330−341, 1990

参照

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