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大静脈体外循環バイパスによって摘出術の実施が可能となった胸腔内巨大Schwannomaの1例

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160 臨床報告

〔書画繕63武篇63神言〕

大静脈体外循環バイパスによって摘出術の実施が可能となった

胸腔内巨大Schwannomaの1例

ヒ グチチ

樋口千恵子・佐中

テラオカ 寺岡 東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター エコ サナカ ツトム トウマ ヒロシ タカハシ コウタ

孜・東間 紘・高橋 公太

サトシ ク ボ カズオ サトウ ヒロシ ヤ エガシミ カ

慧・久保 和雄・佐藤 博司・八重樫美香

タクマ タケヒデ スギノ ノブヒロ オオタ カズオ

詫摩武英・杉野信博・太田 和夫

(受付 昭和62年8月20日) はじめに Malignant schwannomaは稀な疾患であるが, きわめて急速に発育し,時に数週間で児頭大に達 するものもみられ,また予後も悪く特に胸腔内に 発生した場合,根治摘除術不能の場合が多い. 一方,今日二折療法が一般化して十数年となり, より安定した循環動態を得るために,体外循環の 技術も著しく進歩した. 今回はそのような体外循環技術の応用として, Swan・Gantzカテーテル法にて心血行動態をモニ ターしながら大静脈体外循環を行ない循環動態の 安定をはかることにより,はじめて腫瘍摘出術を 可能にしたと思われる胸腔内malignant schwan・ nomaの1例を経験したので報告する, 症 例 患者は25歳,女性であり,対麻痺,右側腹部痛, 下肢浮腫,尿量減少を主訴として来院した.15歳 時,右脛骨々腫瘍(丘brousdisplagia)の摘出術, 23歳時右上腕筋腫瘍(neuro飾roma)の摘出術を 受けている.24歳時右側腹部痛が出現し,徐々に 疹痛は増強し近医を受診した.超音波エコー,点 滴静脈腎孟撮:景多にて右腎下垂以外特に異常を指摘 されず放置していた.その1ヵ月後には両下肢浮 腫,尿量減少,仰臥位における呼吸困難,動悸が 出現し,次第に両下肢の麻痺も出現,急速に進行 し,2∼3日の間に起立歩行困難となり,精査の ため当院に入院となった.なお家族歴,既往歴に 特記すべきことはない. 入院時現症:血圧118/76mmHg,脈拍110/分 整,呼吸数14/分,仰臥位にて非常な呼吸困難を伴 ない,常に右側臥位をとっていた.膓腹,背部 にはcafe au Iait様小円形色素沈着を認め,両頚 部にはリンパ節を4∼5個触知した.胸部所見は, 右記下部において濁音著明で,呼吸音も二部に一 致して減弱していた.腹部では右季肋下から膀上 部にかけて圧痛を伴う腫瘤を触知した.腹水は 認められなかった.また右背部から右腰部にかけ て,軽度腫脹を認めた.両下肢には軽度の浮腫が みられ,弛緩性対麻痺,Th 6∼7以下の知覚低下を 認めた.その他神経学的異常として尿失禁がみら れた. 入院時検査成績:表1にまとめたように,貧血, 低蛋白血症のほかに,血算および血液生化学的検 査では異常は認められなかった.胸部X−Pおよび CT(写真1)では第9胸椎および肋骨の破壊像と, 右胸腔下部を占める被膜に覆われた比較的血流に

Chieko HIGUCHI, Tsutomu SANAKA, Hiroshi TOMA, Kota TAKAHASHI, Satoshi TERAOKA, Kazuo KUBO, Hiroshi SATO, Mika YAEGASHI, Takehide TAKUMA, Nobuhiro SUGINO, Kazuo OTA〔Tokyo Women’s Medical College Kidney Center〕:Acase of intra−thoracic giant schwannoma

extripated using extracorporeal by−path between inferior and anterior vena cava

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161 表1 入院時検査成績 1)血 液 RBC 402万, WBC 8000, Hb 12.2g/dl, Ht 362% 白血球像 正常 2)血沈1017㎜,2040㎜ CRP 2(+) 3)生化学 T.P.5,2g/dl, BUN 14.2mg/d1, Cr O,9mg/d1, GOT 16, GPT 9, LDH 178, Al−P 4.3,γ一GTP 23

ZTT 2.1, TTT O.7, T・Cho1102, T−Bil O.9

Na 131mEq〃, K 4.4, Cl 94

Alb53,α、G7,偽G13,β・G l3,γ一G14

FDP血中5,0, AFP O, CEA 1.5

4)尿 蛋白(十),潜血(十←) RBC 15/F, WBC(一) 5)腫瘤生検にて Malignant Schwannomaと診断 乏しい大きな腫瘤を認めた.下大動静脈造影(写 真2)では,腫瘤の栄養血管は乏しく,腫瘤によ る二二の下方への圧排,胸部大動脈の横隔膜付近 での左方への圧排を認めた.下大静脈は腫瘤によ り前方へ圧排され横隔膜付近で閉塞されていた. 側副血行路として奇静脈の拡張を認めた,腹部皮 下腫瘤生検ではneuro丘bromaの診断であった が,皮下まで増大した巨大腫瘍を腰部から経皮針 生検を行ない,malignant schwa1皿omaの診断を 鱗 脅㍗’輪・ 写真1b 胸部CT 胸腔内巨大腫瘍 1:㍗ ,l l・ 翼 写真1a 胸部X・P 当初,右横隔膜の挙上は,腹腔内の巨大腫瘍(schwan・ noma)によるものと考えた. 得た. 入院後の臨床経過:入院後腫瘤圧迫による静脈 還流低下により下肢の浮腫は増強し,10w out put のためと考えられる血圧低下(収縮期圧60)も出 現し,このため腫瘤摘出術を行なった.腫瘤摘出 時,閉塞された下大静脈の開放による静脈還流量 の増加と,それに引き続く心負荷を考え,以下に 述べるように手術時に体外循環を設置した. 大静脈体外循環(図1):下大静脈および外頚静 脈にカニューレを挿入し,途中にポンプ,輸液, 輸血ラインを介在させ静脈還流量を調節できるよ うにした.またもう一方の下大静脈に圧モニター 写真2a 大動脈造影像 胸腔内の巨大腫瘍は大動脈を左側方に,右側を下方に 圧排している. 一161一

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162 写真2b 静脈相 下大静脈は腫瘍により著しく圧排され,体位によって は,閉塞性に変形しているように思われる, (CVPライン)を,上肢よりSwan Gantzカテー テルを挿入し,圧モニターし連続的に心血行動態 パラメーターを測定しながら,静脈還流量を調節 した. 術中心血行動態(図2):術前の右潜門(RA) は14/9mmHg(19/12mmH20)であったが,これ に対し下大静脈圧(Plvc)は36.5mmH20と異常 高値を示していた.体外循環はシャント流量を 徐々に増加してPIVCを低下させ,シャント流量,

輸液,輸血にて調節してRAを10∼13mmHgに

保つようにした.術中開胸や出血および手術操作 による腫瘤の位置変換での一時的な血圧や心拍出 量(CO)の変動はみたが,ほぼ安定した血行動態 を保つことができ,腫瘍摘出術に成功した.摘出 後RA 9/6mmHg(12/8mmH20), PIvc 13cmH2 0となり,COも術前4,39〃minであったものが Swan−Gantz カテーテル Femoral カテーテル (cvpライン) Y.M.25y.o. female ’ 〆 !

b

輸液 図1 大静脈体外循環 輸血

2

14:0015:00 16:00 17:00 18:00 19=00 20:00 21:00 22:00 mmHg B.P。 H.R. ロ150 〔 110 70 PA 30 ●一● Q0 RA lO 一累

mmHg

6000 C.0. ml/min 4000

疑1

ml/血in 800

胃z

Plvc 600 400 200 腫 瘤 摘 出 ↓ 体 手 外 術

轡サ

. ●・。 ●・ 怐怐@ ・ ● ● ● 一∼一回矧㌔浄一 cmH207ノ『氏・ひ・4’@ \ shunt volume m1/min易 ・ ●HR mmHg 30 寓_!翼∼3←三一冨 PA 旨\ 舩 ] 2000 卜●PA 20

−RA

10 0 30 ノ ヘ ノ b久 σ’ ヘ ノク \、 !%ノ ’ 一8 覧㍗一一一 コ ココロココロ ゥロコ cardiac output 10 PIvc 図2 術中心血行動劃 一162一

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163 5.061/minと上昇をみた.術後腫瘍による圧迫症 状は改善し,対麻痺:の改善は得られなかったが, 体位変換も自由に行なえ,座位もとれるようにな り,呼吸困難,動悸も消失し,下肢の浮腫も改善 した. 考 察 Malignant schwannomaは末梢神経由来の悪 性腫瘍で,neur面bromatosis(von Recklingh− ausen病)に合併して発生することが多い1)2)4).合 併例の予後は悪く諸家の報告では5年生存率ば 15∼30%である3)6).またその進行は非常にはや く,手二大ないし小児頭大になるまでの期間は数 ヵ月以内のものが多い1).治療は根治的切除術が 最良であるが再発しやすく,化学療法や放射線療 法の成績もきわめて悪い5).また胸腔内あるいは 傍脊椎部に発生した場合根治切除不能の場合が多 い3).本症例はcafe au lait様色素沈着やneuro一 飾romaがありvon Recklinghausen病に合併し たmalignant schwannomaと診断した.本院受診 1ヵ月前にはレントゲン上腫瘍は確認されておら ず,急速に増大し下大静脈を完全閉塞したと思わ れる.また第9胸椎および肋骨の破壊を伴ない, 脊髄への圧迫症状による両下肢の対麻痺,尿失禁 もあり,根治的切除は不可能と思われたが,急速 に増悪する圧迫症状を一時的にでもとる目的で腫 瘍摘出術を実施することとした.しかし腫瘍摘出 後の下大静脈の閉塞解除による静脈還流量の増 大,それによる心不全が危惧された.これに対し 静脈還流量を自在に調節できるようにするため に,あらかじめ術前に静脈体外循環をおいた.そ して,下大静脈およびSwan Gantzカテーテルに

よりPIvc, RA, COを測定し,これらをパラメー

ターとして,RA,血圧を正常に維持するように シャント流量,輸液,輸血量を調節した.その結 果心機能を越えた右心系の過剰還流による肺浮 腫,あるいは還流減少と心拍出量の低下,それに 続く体血圧の低下を惹起することなく,しかも尿 量も一定に保持できるなど安定した循環動態を得 ることができ,安全な手術を行なうことができた. また体外循環開始前はわずかな体位変換のみでも 血圧変動がみられていたのに対し,体外循環開始 後血圧は非常に安定し,このことも手術に対し有 用であったと考えられる.本症例において静脈体 外循環を用いて行なったこの手術は圧迫症状の改 善が得られるなど有用であったと考えられた. おわりに 25歳女性のvon Recklinghausen病に合併した 胸腔内の巨大なmalignant schwannomaセこ対し, 大静脈体外循環を用いて腫瘍摘出術を行なった. 大静脈体外循環を用いることにより,循環動態の 安定を得ることででき,非常に有用であったので 報告する. 文 献 1)新村真人:レックリングハウゼン病に合併してみ られた悪性腫瘍一特に神経線維肉腫について一. 皮膚臨床 14:365−379,1972 2)内原栄輝:悪性末梢神経腫瘍20例の臨床病理学的 研究.四国医誌 29:1−10,1973 3)森本重利,木村文夫,太田憲一ほか:Von Reck− linghausen病に伴う神経肉腫(malignant schwannoma)と甲状腺癌の重複腫瘍の1例.外 科診療 12:1496−1502,1975 4)立花久大,関 隆郎,蓼沼 翼ほか:Von Reck・ 1inghausen病の1家族例一悪性神経鞘腫,高脂血 症との関連について一.最新医学32:2151 −2159, 1977 5)千葉雅史,上杉 孝,神保孝一:悪性神経鞘腫一全 身に多発し,化学免疫療法により寛解をみた1例. 日皮会誌 94:347−358,1980

6)Storm FK, Eiller FR, Mirra J et al:

Neurofibrosarcoma. Cancer 45:126−129,.1980

参照

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