多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴
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(2) 14. (382). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). 存在として設立されたことや,複数の MEA と. 取り組み,そのための責任を共有する必要があ. 関係構築をしなければならないことなども,そ. る.しかしながら,先進国と途上国との間に. の任務や活動形態に特殊性を持たせている.. は,地球規模の環境悪化に対するこれまでの寄. このように,MEA の資金メカニズムには,. 与度やそれに対処していく能力について大きな. その役割や組織構造において,南北間の文脈を. 差異が存在しており,MEA ではかかる歴史的. 背景とした特殊性を有するが,その具体的な役. 背景あるいは経済的社会的発展の較差を考慮す. 割や組織構造の特徴についてはこれまで詳細な. る必要がある7).UNCED で採択された気候変. 検討はなされてこなかった.本稿では,この. 動枠組条約や生物多様性条約の前文では,地球. GEF を中心として,MEA を取り巻く国際状況. の気候変動及びその悪影響や生物多様性の保全. を背景に,MEA の資金援助メカニズムに期待. が「人類の共通の関心事」として確認される一. されるようになった新たな役割とその組織構造. 方,環境保護と開発を調和させるため,先進国. の特徴について明らかにする.. と途上国との間での責任の差異化が重要な争点. Ⅱ.MEA の遵守と資金メカニズム . となってきた.この意味で持続可能な開発の原 則より派生する「共通だが差異ある責任の原則. 環境保護活動に対する国際的な資金援助は,. ( common but differentiated responsibility )」. 従来,政府開発援助 や 国際開発機関 な ど の 南. が,MEA の締約国間で約束の差異化を基礎づ. 北間の開発援助の枠組の中で対応がなされて. ける法原則として重要な役割を果たすように. 4). きた .他方で,国際環境法の発展に伴い,条. なってきている8).かかる原則に基づき,MEA. 約の中に独自の資金援助約束を規定し,その実. では途上国への特別の配慮や,先進国と途上国. 施のために信託基金などの資金メカニズムを設. との間の異なる義務・約束が規定されるように. 置するものが現れてきた.しかしながら,この. なり,さらにより積極的な較差是正のため,途. ことは環境保護のみに特化した資金メカニズム. 上国が条約に基づく約束を実施するための資. の発生を意味するものではなく,国際環境法. 金・技術援助が規定されるようになった.また. にお い て も 持続可能な開発は「法原則」とし. かかる資金・技術援助規定の実施を担うために. ての地位も主張される重要なファクターであ. 既存の,もしくは新規の国際制度を資金メカニ. り5),当然のことながら,環境条約での資金援. ズムとして利用することが一般的になってきて. 助の展開は環境保護と開発との間の相克を免れ. いる9).. 得ない.加えて MEA においては,遵守能力を. . 持たない締約国への対応や参加へのインセン. Ⅱ―2.遵守管理への影響. ティブの付与といった,資金メカニズムに対す. 国際環境法における資金援助規定の目的は,. る MEA の独自の文脈から生じる期待が反映さ. それが規定される条約の目的や文脈によって多. れている.. 様であり,具体的なメカニズムにも制度的な面 での違いが存在する10).例えば,条約運営のた. Ⅱ―1.MEA と資金メカニズム. めの事務的な費用負担や緊急時の環境損害への. 国際社会は 1980 年代から 90 年代にかけて,南. 損害補償を確実にするといった事後的な性格の. 北問題を抱え込みながら地球環境問題への取り. も の11)か ら,近年 で は MEA の 遵守確保 に 深. 組みを開始した.そのため地球環境問題への取. く結びついたものへと展開してきている12).. り組みには,環境保全行動を「開発過程の不可. プレスマンとゴラーは,国際環境法における. 分の一部4)」として,個別の国家だけでなく国. 資金メカニズムにおいて「遵守支援(compliance. 際社会が全体として,その原因と影響に対して. assistance)」の概念が生じてきたことを指摘す.
(3) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). (383). 15. る13).この概念の登場により,資金メカニズム. カニズムの役割は重要性を増している.. は MEA の普遍的参加の拡大と条約目的の実現. 不遵守が意図的なものでない場合,不利益措. 14). に多大な貢献をするようになったという .こ. 置による制裁的対応は,遵守の回復を期待でき. の「遵守支援」の 概念と結びつくことによっ. ないだけでなく,不遵守国の条約からの離脱を. て,資金メカニズムには従来にない新たな機能. 導き,延いては普遍的参加を損なうことになる.. が期待されることとなった.資金メカニズムが. 遵守支援のためのメカニズムを条約に組み込む. MEA の遵守の問題と接点を持つようになった. ことにより,条約の目的に賛同するが実施能力. ことで,MEA の紛争処理・遵守確保メカニズ. の伴わない国がもつ,不遵守(およびそれへの. ムにも大きな影響を与える要因となったのであ. 制裁)への不安を取り除くことで,条約参加へ. 15). る .遵守を強制するのではなく,それを支援. のインセンティブが作られ,同時に遵守支援に. し促進するというアプローチは,国際環境法に. より条約目的の促進が図られるのである.この. おける不遵守手続の展開にも見られるように,. ように,資金メカニズムが担う「遵守支援」は,. MEA の制度構築において主たる柱となってい. MEA の普遍的な参加の確保と条約の遵守確保. る.. の 2 点において,MEA レジーム全体の維持と. MEA においては,能力の異なる諸国の普遍. 密接に結びつくようになっている.. 的な参加を確保することが極めて重要である. その際,主に先進国がその発生に寄与してきた. Ⅱ―3.共通だが差異ある責任との関係. 問題に対して,途上国に新たな負担を課すため. MEA の規範構造においては,国際社会全体. 16). の説得材料として ,途上締約国への資金援助. の共通利益としての地球環境利益の保護と供給. は必要とされてきた.対応能力を持たない途上. のための方策とその実施についての,現在およ. 国への実施支援は条約目的の実現のために政策. び将来に向けた負担配分・責任配分をいかに行. 的にも不可欠であるといえよう.さらに能力不. うかということが基本的に重要な課題となっ. 足によるやむを得ない不遵守への対応として,. てきた22).かかる問題を考える際に重要になる. 従来の国際法における方法(国家責任の追求や. のが「共通だが差異ある責任」の原則である23).. 条約の停止などによる対応,および国際裁判を. 過去から現在に至る環境問題の発生への各国の. 中心とした紛争解決手続)の実効性への懐疑17). 寄与度の違いと問題への対応能力の較差に着目. から,遵守促進的なアプローチによる不遵守の. することで,従来の双務的な権利義務構造を基. 処理が望まれるようになった18).MEA では不. 本とした国際法の構造とは異なる,差異化され. 遵守手続がこのようなアプローチを実現するた. た義務ないし待遇を MEA の規範構造のなかで. めの新たな手続として多くの条約で採用される. 積極的に意義づけるこの原則は,形式的な平等. こととなり,GEF 等の資金メカニズムと結び. ではなく実質的な平等をめざしており,一般国. ついて,遵守の促進と不遵守からの回復を目的. 際法上の衡平を体現したものと位置づけられて. としたインセンティブを提供してきた19).不遵. いる24).むろん,各 MEA の中で具体的にどの. 守手続は資金援助の提供に関する意思決定を行. ような差異的待遇が導かれるかは個別の文脈. うことから,実質的にコンディショナリティー. に 依存 す る が,一般的 に こ の 原則 は,約束実. を促進する新たな援助枠組を提供する手続とし. 施の猶予期間などの差異的な基準の設定や,約. ての性格を持つようになっている20).不遵守手. 束の実施に伴い増加する負担を補填するための. 続が紛争解決手続というよりも能力構築による. 資金的支援によるインセンティブの提供によっ. 遵守確保を目的とした国際協力制度としての性. て,MEA への普遍的な参加を奨励するという. 21). 格を強めるにつれ ,その手段としての資金メ. 役割を有するものとしての意義を有する25).し.
(4) 16. (384). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). たがって,共通だが差異ある責任の原則は,実 施されるべき基準の差異化を基礎づけると同時. Ⅲ.GEF 設立・改組の経緯. に,基準を遵守する能力を持たない国への支援. Ⅲ―1.GEF 試行期間の開始まで. を関連づけるものであり26),MEA への普遍的. 地球環境保護を目的とした国際的な資金メカ. 参加確保のための重要な条件. 27). として地球規 28). ニズムの設立へ向けた動きは,1987 年の環境. 模のパートナーシップの基礎となっている .. と開発の世界委員会(ブルントラント委員会). このパートナーシップは,MEA の法構造に. の報告書に遡ることができる34).かかる報告書. おいてはより強力な連帯的支援として,先進締. は持続可能な開発の定義を示したものとしてし. 約国からの資金援助と途上締約国の約束実施と. ば し ば 引用 さ れ る が,国際的 な 資金的支援 へ. 29). を結びつける規定に現れている .すなわち,. の要請が急激に増加していることの指摘と35),. 途上締約国の MEA に基づく約束の効果的な実. 「保全プロジェクトもしくは国家戦略への投資. 施の程度は,先進締約国の資金移転に関する約. に資金供与するための…,世銀と結びついた特. 束の効果的な実施に依存するとして両者を連動. 別な国際的貸し付けプログラムもしくはファシ. 30). させる規定が盛り込まれるようになった .こ. リティーの開発36)」の提案を行った.それによ. の規定の存在により,途上国は約束を遵守でき. り,地球環境保護に関する資金問題への注目が. なくなった場合の弁明として,先進国の資金援. 集まり,その後さまざまな研究が行われること. 助約束の遵守状況を引き合いに出すことができ. となった37).. る.例えば,オゾン層保護モントリオール議定. GEF 設立の直接の契機となったのは,1989. 書では,先進国の資金援助の不十分な実施によ. 年 の 世界銀行開発委員会 で の フ ラ ン ス 政府 の. り途上国が義務遵守できない場合,その旨を書. 提案である38).フランス政府が,地球環境問題. 面により事務局に通報することができ,かかる. を対象とした基金の設立を検討するよう世界. 事態に対する適切な措置を締約国会合が決定す. 銀行に対して提案し,さらに具体的な数字と. るまでの間,不遵守手続は当該途上締約国につ. して 3 年間に 9 億フランの拠出を約束したこ. いて適用できないとされる31).この意味で,途. とにより,基金設立の現実性が一気に増した.. 上国の遵守は先進国の遵守状況から反射的に評. その後ドイツも同様の提案を行い,90 年 3 月. 価されることになったのであり,途上国は先進. よ り,世銀 の 作成 し た 原案 を も と に,関係主. 国に対して,約束を実現するために必要な手段. 体を交えた会合が開かれるようになる.そし. を提供するよう圧力を掛ける力を与えられたと. て,90 年 11 月 の パ リ 会合 に お い て,GEF 設. 32). いえる .. 立の提案が最終的に承認され,3 年間で 10 億. このように MEA の資金メカニズムが担うよ. SDR の資金がドナー国から拠出されることが. うになった「遵守支援」の機能は,共通だが差. 合意された.この合意に基づき,91 年 3 月 14. 異ある責任の原則を途上締約国への有利な待遇. 日,世銀の理事会において,地球環境信託基金. として制度化・具体化したものと捉えることが. (Global Environment Trust Fund: GET)の 設. で き,普遍的参加 と 実施 の 確保 を 必要 と す る. 立 を 認 め る 決議 が 採択 さ れ た39).同年 10 月,. MEA レジームの維持と目的実現に欠かせない. 世銀,UNDP お よ び UNEP と の 間 で,ファシ. 重要な要素となっている.資金メカニズムは,. リティーの実施協力に関する三者間合意が締結. 共通だが差異ある責任の原則より導かれると同. され40),この時点をもって正式に GEF の試行. 時に,同原則の実現手段の一つであり両者は相. 期間(Pilot Phase)が開始された.. 互依存的に結びついたものとして捉えられる33)..
(5) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). (385). 17. Ⅲ―2.改組交渉から改組 GEF の設立まで. にあたり,世銀の先進国支配への懸念から,条. 1992 年リオ・デジャネイロでの国連環境開. 約ごとに環境基金を設立することを望んだ.数. 発会議(UNCED)の開催を契機に,GEF の改. で上回る締約国会議の管理のもとで資金メカニ. 組交渉が本格化した.主に途上国から出された. ズムを運営することにより,自らの支配権を. 試行期間 GEF への不満点. 41). をもとに,アジェ. 確保しようとしたのである.そのため複数の. ン ダ 21 で GEF の 改組 が 勧告 さ れ,透明性 と. MEA を一手に引き受ける単一の資金メカニズ. 民主的 な 管理機構 な ど が 求 め ら れ た42).さ ら. ムという発想は支持されず,それぞれの MEA. に GEF を改組することは,UNCED で成立し. に特化した個別の資金メカニズムの創設を主張. た気候変動条約等のリオ諸条約の財政メカニズ. した.それに対して,先進国は基金の増殖の回. 43). ムとなる条件ともされた .改組 GEF の組織. 避と,主要なドナー国として意思決定権限を保. 構造をめぐり先進国と途上国との対立が激しく. 持し続けることを望み,単一の資金メカニズム. な る 中,GEF(試行期間)の 参加国会合 で も. の創設を主張した50).こうした対立の妥協の結. 改組交渉が始まり,2 年間に渡って 7 つの会合. 果,GEF の設立においては,新たな国際機構. 44). が も た れ た .そ し て,1994 年 3 月 ジュネー. とすることはせず,既存の国際機構の能力を活. ブ会合において改組交渉が終結し,新たに「改. 用することが基本方針とされたのである51).そ. 組 GEF の設立に関する文書45)」 (以下,設立文. のため,改組 GEF は設立の法的根拠は世銀に. 書)が採択された.参加ドナー国は 1994 年か. 求められるとしても,試行期間のような世銀の. ら 98 年の期間にわたっておよそ 20 億 US ドル. 一内部プログラムとしての性格を改め,より自. の基金補充 を 行 うことに合意し,試行期間の. 律的な意思決定と運営を行うために,参加国の. GET が廃止され,新規の GEF 信託基金へとす. 意思の反映と他の国際機構との連携を強めた組. 46). べての資産,業務が引き継がれた .参加国会. 織構造を持つようになっている52).その結果,. 合で採択された設立文書は,その後,3 つの実. 「緩やかな制度的結合の組み合わせ53)」と呼ば. 施機関(世銀,UNEP,UNDP)でそれぞれの. れるような,特徴的な組織構造を持つ国際制度. 独立した決議として採択され47),それにより改. が誕生した.. 組 GEF が発足した.. Ⅳ.GEF の組織構造. Ⅲ―3.GEF 設立の特徴. 改組 GEF 設立文書には,GEF を構成する実. 改組 GEF の設立形態の特徴として,設立の. 体として,事務局,評議会,総会および実施機. 根拠となる国際文書に対して国際条約という形. 関・執行機関が挙げられている.以下では各機. 式 を と ら ず,あ く ま で 改組 GEF 設立文書 は,. 関の任務や特徴について検討する.. 世銀 と UNEP,UNDP そ れ ぞ れ の 国際機構 の 決議として並行的に採択されたにすぎないとい. Ⅳ―1.事務局. うことが挙げられる.そのため,改組 GEF に. 改組後 の GEF の 組織構造 の 特徴 の 一 つ が,. 賛同する国家は単に参加国(participant)と呼. 事務局に与えられた地位と機能である.事務局. ばれ48),設立文書に対する署名や批准の手続は. は,世銀によって行政的なサポートを受けつつ. 49). 行われていない .. も,機能的に独立した存在として,GEF の多. GEF をいかなる形態と法的性格をもった組. 様な実体からなるネットワークの調整機関とし. 織として改組するかという点については,先進. て中心的な役割を担っている.. 国と途上国との間の対立を背景に,改組交渉に. 改組交渉 の 一 つ の 論点 と し て,事務局 を 世. おいても問題とされた.途上国は GEF の改組. 銀の一内部組織として設置するか,独立した.
(6) 18. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). (386). GEF 独自の組織とするかということが問題と 54). を評議会が任命するが62),かかる勧告は事前の. なった .特に試行期間中,実施機関間の協働. 評議会との協議を経てなされることが求められ. に関する取り決めだけでは GEF の運営を調整. る63).ま た,CEO は 3 年間 の 常勤職 と し て 任. するのに不十分であったことから,組織的及び. 命されるが,評議会の意思によりその再任と解. 機能的に実施機関から独立した管理者的立場の. 任ができるとされており64),CEO の任免に関. 機関を設立し,全体の管理調整機能を強化する. しては評議会の排他的な権利が認められてい. 必要性が主張されていたからである55).. る.. しかしながら,すでに改組 GEF を独立した. CEO の任務のなかでも重要な意義を持つの. 国際機構とはしないという参加国の方針が存在. が,評議会会合 の 共同議長 と し て の 役割 で あ. しており,独立した事務局の設置はその流れに. る65).評議会が共同議長という形式を取ること. 反するものであった.それでも GEF の運営を. になった背景にも先進国と途上国との対立が影. 管理 ・ 調整するための自立した機関の設置は必. 響している.先進ドナー諸国は世銀の方式を採. 要不可欠であり,その妥協点として, 「機能的. 用して,CEO が評議会の議長を務めることを. に独立した事務局」というアイディアが新たな. 求めた.それに対して,途上国は国連での実. 展開を生み出した56).. 行を反映して評議会から議長が選出されること. 機能的に独立した事務局という地位は,設立. を求めたため,最終的には二つのやり方を合わ. 文書のパラグラフ 21 に明示されている.GEF. せることで妥協が成立した66).その結果,評議. 事務局は,総会及び評議会の運営を補佐し,ま. 会会合 で は,二人 の 議長,す な わ ち 事務局 の. た各種の報告業務を行うとされ,その際「世界. CEO と評議会の中から選出される議長の二人. 銀行によって運営上支援を受ける」が, 「機能. が共同で評議会の議事を取り仕切ることとなっ. 的に独立し,かつ効果的なやり方で運営する」. た67).. 57). ことが求められている .したがって,GEF. また CEO は諸機関の協働で構成される委員. 事務局は,物理的には世銀の内部に置かれ,事. 会や会合で議長を務める権限と,GEF を資金. 務的なサポートを受けることとなったが,機能. メカニズムとして利用する MEA の事務局との. 的には独立したものであり,業務に関して世銀. 折衝や事務局間の調整なども行う権限を有す. からの監視は受けない58).. る68).CEO と事務局は GEF ネットワークのす. GEF 事務局は GEF の運営だけに向けられた. べ て の レ ベ ル で パート ナーと 相互協力関係 を. 唯一の常設的な機関である.およそ人員的な構. 結び,またパートナー間の調整を行う機関と. 成としては,50 人の専門家とサポート・スタッ. なっており,ネットワーク管理オフィスとして. 59). フより構成されている .GEF 事務局のスタッ. GEF の運営を担う重要な存在となっている69).. フは元は世銀のスタッフであり,任命状によっ. これは事務局にとっては,GEF の政策全般に. て GEF 事務局のスタッフとなるが,世銀のス. 関する情報の収集機会ともなり,その意味で事. タッフが有する権利や義務そして特権と免除が. 務局は GEF の「制度的な記憶装置,もしくは. 60). 与えられている .. 連続性を担保する装置70)」となっているといえ. 事 務 局 に は 事 務 局 長( Chief Executive. よう.設立文書も,「GEF が資金拠出する活動. Officer: CEO)が置かれ,多くの主導的な役割. の促進と調整に関する責任は事務局に帰属す. を担っている61).この CEO に対しては,世銀. る71)」としており,事務局は GEF の制度的な. ではなく評議会のコントロールが強く及ぶ.例. 結び付きの中心点となっている.事務局の調整. えば,CEO の候補者は 3 つの実施機関から推. 能力には,多様な実体間の対立緩和への期待が. 薦され,事務局との共同勧告に基づいて,それ. されており,GEF の参加主体が増加するにつ.
(7) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). (387). 19. れてますますその役割の重要性は高まってきて. の」と評価される81).しかしながら,現在のと. いる.. ころすべての決定はコンセンサスによってなさ れており,パラグラフ 25 ⒞の投票方式は利用. Ⅳ―2.評議会. されたことがない82).. GEF の主要な意思決定機関が評議会である. 72). 評議会は会合ごとに,受け入れ国と非受け入. 評議会(Council)は 半年 に 1 度開催 さ れ ,. れ国の議席国から交互に議長(Chair)を選出. GEF が資金提供を行う活動についての,実施. する.上述の通り,この議長は CEO との共同. 方針および実施プログラムの開発,採択,およ. 議長(co-Chair)となることが定められており,. び評価に責任を有する73).評議会は 32 名の評. 各共同議長に固有の責任を割り当てている.議. 議員で構成され,すべての参加国の調和の取れ. 長としての CEO は,①作業プログラムの承認. た公平 な 代表性 や,拠出国の負担への適切な. や監視などに関する事項,②資源の利用および. 考慮を反映して,先進国から 14 名,中東欧お. 被信託機関に関する事項,③プロジェクトの選. よび旧ソ連から 2 名,開発途上国から 16 名と. 択や運営戦略に関する事項,および④ MEA─. 74). 定められている .この 32 名の評議員のメン. COP からのガイダンスの遵守に関する問題等. バーは,32 の 議 席 選 出 枠( Constituency)か. についての評議会の議事を取り仕切る83).選出. ら選出されるもので,各議席選出枠は一カ国の. された議長(Elected Chair)は,① GEF の政. 場合もあれば,数カ国からなるグループの場合. 策,プログラム,実施戦略およびプロジェクト. もあり,その場合にはそのグループの中からメ. の監視と評価に関する事項,② MEA─COP と. 75). ンバー国が選出される .つまり,参加国はい. の窓口としての評議会の役割に関する事項,③. ずれかの議席選出枠に割り振られ,その枠から. CEO の任免等および事務局の活動の監視,④. 選出される形で評議会の「議席国(Member) 」. 予算の審査と承認(GEF のためになされた業. となる76).信託基金への主要な資金拠出国・ド. 務に関する事務局及び実施機関の定期的な財政. ナー国(設立文書 の 文言上 は「非受 け 入 れ 国. および効率評価を含む),⑤年次報告書の承認. (non-recipients) 」 )は単独で議席を保有してい. および持続可能な開発委員会との連携に関する. 77). る .各議席選出枠を代表する議席国(および. 議事を取り仕切る責任を有する84).また GEF. 「補充議席国(Alternate Member) 」 )は,同一. 設立文書によると,GEF の目的,範囲および. 枠内の参加国が他の決定をしないかぎり 3 年間. 対象に関する運営状況の審査に関する事項につ. の任期が与えられ,再任が可能である.. いては二人の議長が共同で議事を取り仕切るこ. 評議会の意思決定の原則はコンセンサスで. ととされている85).. 78). ある. が,コンセンサスが得られない場合は,. いかなる評議会のメンバーも公式な投票を要 79). Ⅳ―3.総 会. 求できる .この公式投票は,二重加重多数決. 総会 は 3 年 に 一回開催 さ れ86)現在 177 あ る. 方式(double weighted majority)と呼ばれる. す べ て の GEF 参加国代表 か ら 構成 さ れ る87).. もので,すべての評議会メンバーの 60 パーセ. 1991 年からの試行期間の GEF では,参加国と. ント以上,および全拠出額の 60 パーセント以. なることを望む国家はその資格として資金拠出. 80). 上の多数により可決される .これはいわば各. をしなければならなかったが,1994 年からの. 評議員に割り当てられた同等の基礎票と,拠出. 改組 GEF ではその要件はなくなった.この決. 比例票からなる二重の多数決制であり, 「国連. 定 は,普遍的 な メ ン バーシップ と い う 要請 へ. 総会などでの一国一票制とブレトン・ウッズ機. 応えたものである.条約を設立根拠としない. 関における加重表決制を巧みに組み合わせたも. GEF にとって,総会を開催することは,政治.
(8) 20. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). (388). 的なレベルにおいて GEF の正当性と包括性を 88). 含まれる93).. 高める役割を担っている .. GEF の制度的な観点から見て重要な被信託. 総会 の 権限 は GEF 設立文書 パ ラ グ ラ フ 14. 機関 の 機能 が,附属書 B パ ラ グ ラ フ 7 で 規定. に規定されている.すなわち,⒜ GEF の一般. された,COP と GEF 評議会が合意した取り決. 的な政策の検討,⒝評議会から提出された報. めを「正式なものとする(formalizing)」とい. 告書を基にした GEF の運営の審査と評価,⒞. う権限である.これは次節で検討するように,. GEF の参加国構成を常に検討すること,そし. MoU の法的性格の曖昧さに関係してくる問題. て⒟ GEF 設立文書への改正を,コンセンサス. であるが,フリーストンの言うように,おそら. で承認するために検討すること89),などである.. くはこの規定は GEF の独立した法的地位の欠. 最後の改正に関しては評議会の勧告を基にした. 如を埋め合わせるために挿入されたものといえ. ものでなければならず,事実上,評議会による. る94).. 事前の承認を要件としている.また評議会は実. 第 3 次総合成果評価書(OPS3)の 研究 に よ. 施機関と被信託機関の見解を考慮しなければな. ると,基金管理という被信託機関の役割の重要. らないから,改正にはこれらの機関の見解も反. 性に反して,その任務の性質から,被信託機関. 映されることとなる.総会が設立文書への改正. は GEF のネットワークの中では後方部門とし. を承認しても,実施機関および被信託機関がそ. ての役割しか果たしておらず,GEF の他の実. れぞれの規則および手続的要件に従ってそれら. 体のほとんどが,被信託機関を GEF の活動に. を採択するまでは,その改正は有効なものとな. 重要な影響力を持つとは評価していないことが. 90). らない .. わかった.それでも,被信託機関は実施・執行 機関との財政協議会合を開くなど,財政管理プ. Ⅳ―4.被信託機関. ロセスの強化への取り組みを通じて GEF の他. 改組 GEF 設立文書 は 試行期間 の 地球環境基. の実体とより緊密なパートナーとなってきたと. 金(GET)を 終了 し, 「す べ て の 基金,受領. 言われる95).. 高,資産と負債」が新たな基金へと移転される. 被信託機関と他の実体との結び付きにおいて. 91). ことを予定している .それにともない新規の. は,システムの一体化に困難が存在しており,. GEF 信託基金(GEF Trust Fund)が設立され. それが資金の支払いと,その流れの監視過程. ることとなり, 「世界銀行が基金の被信託機関. の透明化を動きの取りにくいものにしている.. (Trustee of the Fund)として招請される」と. OPS3 は GEF が実効的な管理情報システムを. 92). 設立文書は規定した .. 開発しなければならないとしており,被信託機. GEF 設立文書附属書 B は,基金 の 資産 を 保. 関がこの重要なシステムの分析と構築において. 管する法的所有者としての被信託機関の役割を. 主要な役割を果たすべきであると強く勧告して. 詳細に規定している.被信託機関の固有の責任. いる96).. としては,⒜基金ための資源の流動化(必要な. ところで,ここまでの説明で分かるように,. 場合には,かかる研究や調整の準備を含む) ,. 世銀 に は,①事務局 と し て の 世銀,②被信託. ⒝基金の資金管理,実施機関および執行機関へ. 機関としての世銀,そして以下で述べる③実. の資金配分および財政報告書の準備,⒞記録お. 施機関としての世銀という 3 つの役割が存在す. よび口座の維持管理および会計監査報告書の準. る(④ GEF を創設した世銀というのも可能で. 備,⒟予算 お よ び プ ロ ジェク ト 資金 が,GEF. 97) あろう) .GEF の運営にはパートナー間での. 設立文書および評議会の決定に従って利用され. 連携が重要なため各機関間での取り決めが多用. ていることを確保するための監視活動,などが. される.世銀が担う 3 つの機関も GEF の中で.
(9) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). (389). 21. は独立した実体として扱われるため,それらの. ジェク ト の 数(299 件)も,GEF か ら 受 け 取. 間での取り決めをどのように行うか疑問となる. る資金拠出額の割合も,最も少ない(US$417.6. ところであるが,実務の上では,各機関を担当. million).また共同プロジェクトは GEF 第 1 期. する世銀のそれぞれの部局を独立したものと扱. から第 3 期まで,それぞれで 20 件以下しかな. い,それら部局間で協定を結ぶことで解決して. く,GEF ポートフォリオのなかで共同プロジェ. 98). いるようである .. クトは比較的少ないが,これは実施機関が共同 して活動することを望まないからではなく,プ. Ⅳ―5.実施機関と執行機関 . ロジェクトの基本的な構造が原因である103).. ⑴ 実施機関. ⑵ 執行機関. プロジェクトの開発から実施までの中心的. プロジェクトを実施できる機関の数を増加. な 役割 を 担 う の が 実施機関(Implementing. させるという構想は GEF の創設期から議論が. Agency)で あ る.GEF は,世界銀行,UNDP. あった.設立文書 も 実施機関 に 対 し て「多数. および UNEP を実施機関と定め99),新たな国. 国間開発銀行,国連の専門機関・プログラム,. 際機構を作る代わりに,既存の国際機構の能力. 他 の 国際機構,二国間開発機関,国家機関,. を活用するアプローチを取った.3 つの実施機. NGO,私的セクターの実体および学術機関な. 関はそれぞれの能力の比較優位に応じた役割を. どによる GEF のプロジェクトの準備および遂. 持 ち,世界銀行 は 投資 プ ロ ジェク ト を,UNDP. 行(execution)のために,プロジェクト遂行. は能力開発プログラムと技術援助を,UNEP は. の効率性と費用対効果におけるそれぞれの比較. プロジェクトと科学技術的な分析との結びつけ. 優位を考慮して,取り決めをする104)」ための. を行っている100).. 権限を与えている.. 第一次総合成果評価書(OPS1)に よ る と,. 1998 年 ニューデ リーで の 第 1 回 GEF 総会 で. 当初規定された実施機関の役割と責任はぶれて. は, 「設立文書パラグラフ 28 に挙げられた実体,. きており,各機関の主要な比較優位についても. 特に地域開発銀行や NGO に対して,活動の遂. 「国家,制度的プロセスの類型およびプロジェ. 行のための機会を拡大するべきである105)」とし. クトに関わる政策課題などに依存する」として. てパートナー拡大への方向性を打ち出した.こ. い る101).さ ら に,近年,実施機関同士 の 間 で. れを受けて,GEF 評議会は機会拡大のための. の対立する意志決定の問題の存在が明らかに. 基準 や 選択肢 を 分析 し,1999 年 5 月,執行機. なってきた.OPS3 によると,3 つの実施機関. 関に対する機会拡大のための新たな政策を採択. 間のパートナーシップは当初の比較優位を基礎. した106).ここではアジア開発銀行(ADB),ア. にしていたものから,部分的には競争に基づく ものへと変化してきている102).. フ リ カ 開発銀行(AfDB),欧州復興開発銀行 (EBRD),米州開発銀行(IADB)の 4 つ の 地. 実施機関による GEF ポートフォリオのプロ. 域開発銀行 と の 関係確立 が 検討 さ れ た.ま た. ジェクト数を見てみると,承認されたプロジェ. 2000 年 に は 国連食糧農業機関(FAO)と 国連. ク ト の 数 は UNDP が 最大(857 件)で あ る. 工業開発機関(UNIDO)が 残留性有機汚染物. が,GEF からの拠出資金額は世銀が最も多く. 質分野での活動が承認された.翌年の 2001 年. 受け取っている(US$2,9129.9 million) .UNDP. に は GEF 評議会 は ①戦略的適合性,②能力,. は 2 番目に大きな資金拠出のシェアをもつが. および③相補性という 3 つの新たな執行機関選. (US$1,801.3 million) ,世銀 は 総 プ ロ ジェク ト. 択のための基準を承認し,同会合において新た. 数の第 2 のシェアを占めるプロジェクトを実施. に国際農業開発基金(IFAD)の土地劣化の分. している(392 件) .UNEP は承認されたプロ. 野での機会拡大を承認した107)..
(10) 22. (390). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). その後,執行機関への機会拡大については,. ように捉えられてきたかも明らかにしたい.. プロジェクト実施能力を慎重に審査するよう注 意が促される一方で,その実施能力を確証でき. Ⅴ―1.GEF のプロジェクト・サイクル. た場合には実施機関と同等の GEF 基金への直. GEF のプロジェクトは適格性を満たすもの. 接のアクセス権を与え,評議会に対する責任. であればすべての個人及び集団が提案すること. 108). を負わせるべきとの積極論が主流となった. .. ができる.プロジェクトの提案には,①適格性. 2002 年 の 第 2 回北京総会 の 後 に は,第 3 次基. を有する国家において実施されるものであるこ. 金補充の政策勧告に従って,ADB と IADB に. と,②国家の優先事項やプログラムに合致する. プロジェクト基金への直接のアクセス権が与え. こと,③ 1 以上の GEF 対象分野に取り組むも. られ,また他の執行機関に対しても年度ごとに. のであり,地球環境の向上やそのリスクを軽減. 審査すべきとされた.2003 年には,執行機関. するものであること,④ GEF 運営戦略に合致. の実績を再検討した上で,実施機関と執行機関. す る こ と,⑤地球環境利益 を 達成 す る た め の. の間の取り決めの複雑さを減らし,かつ執行機. 措置に関した合意された増加費用についてのみ. 関の積極的な参加を妨げている制約を緩和する. GEF に資金提供を求めるものであること,⑥. ために,すべての執行機関は,実施機関を介在. プロジェクトの設計及び実施において公衆の参. させることなく,GEF プロジェクトの企画立. 加を得ること,⑦プロジェクトが実施される国. 案および実施に関して,基金への直接のアクセ. 家の政府の承認を受けていることなどが条件と. ス権を与えられるべきであるとの勧告がなされ. なる111).. 109). た. .. GEF の参加国はそれぞれ自国内での GEF の. 現在,大・中規模プロジェクトおよび PDF. 活動に責任を持つ GEF 運営窓口(Operational. ─A/B に 関 し て ADB と IADB に 直接 の ア ク. Focal Point)を 設置 し て い る.運営窓口 の 主. セ ス 権 が 与 え ら れ て い る.EBRD,AfDB,. 要な役割は GEF プロジェクトと自国のニーズ. IFAD,UNIDO および FAO には PDF─B への. 及び政策優先事項との整合性を確保することで. 直接的アクセス権が認められるが,大・中規模. ある.プロジェクト提案書を起案する前に,提. プロジェクトへは実施機関を通じた間接的ア. 案者は国内運営窓口と連絡を取り,その提案が. クセス権が認められるに過ぎない.UNIDO と. 上記の要件を満たすものであることを確認しな. FAO に関しては,これらに加え,前者が工業. ければならない.もしプロジェクトの適格性に. 的 POPs,後者が農業的 POPs への比較優位が. 関して疑問がある場合は GEF 事務局と非公式. 認められ,この分野での条約対応能力形成活動. の協議を行うことができ,かつそれが望ましい. 110). への直接的アクセス権を与えられている. .. Ⅴ.GEF と MEA との関係,GEF の法人格. とされる. 実施・執行機関 は プ ロ ジェク ト の 起案段階 か ら 提案者 を 支援 し,受入国 と GEF と を 結. GEF の組織構造は,多様な実体間のつなが. ぶ架け橋としての役割を果たす.プロジェク. りおよび GEF を資金メカニズムとして利用す. ト 提案者 は 各機関 の 比較優位 を 考慮 し,い ず. る MEA との関係性という文脈からも理解され. れ か の 実施・執行機関 と 連携 し て,GEF に. なければならない.本節では,GEF の実体間. 申請するためのプロジェクト証明書(Project. の交錯が極めて明確に問題となるプロジェク. Identification Form: PIF)を作成する.PIF が. ト・サイクルを外観した上で,GEF の存在意. 準備できると,各機関は事務局に対してそれを. 義ともいえる MEA との関係性について考察す. 提出し承認を受ける.. る.この論点に関連して GEF の法人格がどの. 以下では大規模プロジェクトをもとに GEF.
(11) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). (391). 23. でのプロジェクト・サイクルの全体像を概観. 評価部署への報告に責任をもつ.プロジェクト. する112).まず⑴ PIF が事務局・CEO によって. 実績の教訓は,将来的なプロジェクトの開発の. 承認されると,GEF パイプラインへの記載と,. ためのフィードバックとして編集され,配布さ. ⑵国内運営窓口での保証が求められ,それによ. れる.. りプロジェクト提案の準備・作成が始まる.プ. 加えて,こうしたすべての過程は各条約から. ロジェクト提案は作業プロジェクトへの登録を. のガイダンスの要件に従ってそれを満たすプロ. 目指して作業が進められ,事務局等の審査を経. ジェクトとして作られなければならず,この. た後,⑶評議会による作業プログラムへの登録. 様々な要件の組み合わせが GEF のプロジェク. の承認をまつ.作業プログラムへの登録がなさ. ト・サイクルを複雑なものとしている.. れると,⑷各実施機関でプロジェクト査定が行 われる.これを通過するとプログラム提案はプ ログラム文書となり,事務局・CEO の保証を. Ⅴ―2.GEF と MEA の間の取り決め:了解覚書 (MoU). 得た後,⑸各実施機関内の権限ある機関によっ. GEF と MEA との制度的な結び付きや取り. て最終的なプロジェクトの承認が行われる.こ. 決めによる関係構築は,GEF の動態的な組織. の過程を経てプロジェクトは⑹各実施・執行機. 構造に少なからぬ影響を与えている.なぜなら,. 関により実施・監督され,⑺プロジェクトの終. 締約国会議(COP)には GEF の資源の利用に. 了と最終評価が行われる.. ついて,指示を発し影響力を行使する権限が与. この過程の中で,実施機関が責任を果たすの. えられているからである.. は⑴プロジェクト・コンセプトの開発,⑵プロ. GEF と 各 MEA の COP と の 関係 に つ い て. ジェクト提案の準備,⑷プロジェクト査定,⑸. は,GEF 設立文書パラグラフ 6 に基本的な関. プロジェクト(文書)の最終承認と⑹実施の監. 係性が規定されている.それによれば,GEF. 視, および⑺プロジェクトの終了と評価であり,. 評議会は「COP のガイダンスの下で機能を果. プロジェクト・サイクルのほぼ全過程にわたっ. たし,COP に対して説明責任を負う.COP は. て重要な責任を負っていることが分かる.. 条約の目的のための政策,プログラム優先事項. GEF 事務局・CEO は,⑴コンセプト合意の. および適格性基準を決定する」とされている113).. 審査,⑵評議会での承認のために提出される作. GEF が行うべき活動の内容,優先事項および. 業プログラムへの登録の審査,および各段階で. 資金拠出の基準などの主要な項目については各. の CEO 保証審査があり,またプロジェクト準. MEA の COP が決定権を有しており,COP は. 備のための支援プログラムである PDF─B/C の. それをガイダンスとして GEF に提出する114).. 承認において意思決定の場面が存在する. また,. GEF はそのガイダンスに従った活動と COP へ. プロジェクト実施中の,監視・評価部署による. の説明責任を負うとされ,GEF の活動内容の. プロジェクト審査およびプロジェクト終了時の. 決定および説明責任関係の側面からは,基本的. 最終評価もまた各機関のプロジェクト・サイク. には MEA 優位の関係性が想定されている.す. ルと接点をもっている.. なわち,MEA の COP はガイダンスの通知を. 各審査段階 で は,事務局・CEO,も し く は. 通じて,GEF が責任を負うべき資金的及び技. 評議会が,プロジェクト提案文書を GEF の戦. 術的活動を条約の法的枠組の中に位置づけてい. 略的優先事項やプロジェクト審査基準に基づい. るのであり,換言すれば,MEA は GEF の実. て検討する.プロジェクト終了後の,最終段階. 施機関および執行機関が行う活動の正統性を評. においては,プロジェクトを実施した機関が最. 価するための枠組を提供しているといえる115).. 終評価の実施と,かかる評価を審査する監視・. こ の よ う な 関係性 を よ り 具体的 に 規定 し,.
(12) 24. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). (392). 安定的な関係構築を行うために,GEF を利用. 見は,COP と試行期間の GEF の両者の法構造. している各 MEA の条文には,資金メカニズ. を検討し,いかなる形式の取り決めがふさわし. ムの実施に関する取り決めを結ぶことが規定. いか決定することはできないとした122).その. 116). されている. .こ の GEF と MEA と の 間 の. 理由として,そもそも試行機関 GEF の設立文. 取 り 決 め に は,了解覚書(Memorandum of. 書は,GEF に対して,COP と直接に協定を結. Understanding: MoU)という形式が利用され,. ぶための独立の法的能力を与えていないと結論. GEF 評議会と MEA の COP とを当事者として. づけたことにある123).そして,取り決めを結. 合意が取り交わされる.この MoU には,取り. ぶ場合には試行期間 GEF ではなくその親組織. 決めの目的,COP からのガイダンスの内容と. としての世銀と COP が締結する必要があると. その整合性確保の要請,GEF から COP への報. した124).また改組 GEF については未だ検討す. 告の実施,資金メカニズムの再検討,監視及び. べき段階になく,COP との間の取り決めがい. 評価の実施,資金拠出要件の決定,事務局間の. かなる法的性格を持つものになるかは,新規の. 協力と相互の会合への代表派遣,MoU の解釈. 改組 GEF 設立文書の地位と構造によると述べ. 基準,および MoU の効力発生,修正及び終了. た125).INC は暫定事務局に対して改組 GEF を. 117). などに関する了解が含まれる. .. 検討対象とした第二の国連法務部意見を求める よう要請した126).. Ⅴ―3.GEF の法人格. 第二 の 国連法務部意見 に お い て は,改組. 現在 GEF と MEA─COP と の 間 の 取 り 決 め. GEF 設立文書 が 検討 の 対象 と なった.法務部. として MoU. 118). が利用されているが,GEF の. 意見 に よ る と,「改組 GEF は 設立文書 に 定義. 改組交渉においては,かかる取り決めを法的拘. されるように,世銀と UNDP および UNEP の. 束力ある文書ですべきか,またそれに関連して. 活動を通じた国連とによって設立された実体を. GEF がそのような法的拘束力のある取り決め. 構成する.改組 GEF は,それ自体,世銀の試. を結ぶ権限を持った法人格を有するのかという. 験プログラムとして世銀の理事会決議 91─5 に. ことが問題となった119).この問題はとりわけ. よって設立された改組前の GEF とは明確に区. 各 MEA の途上国が有する世銀の GEF 支配へ. 別される新たな実体である127)」として,改組. の懸念とも相まって,対立が先鋭化した.途上. GEF が世銀と国連の共同により設立されたこ. 国は GEF を,COP と法的拘束力をもつ合意を. と,および試行期間期の GEF とは連続性を持. 取り結ぶことができる法人格を持った組織に改. たないことが明らかにされた.しかしながら,. 組すべきであると主張した.GEF に法人格を. 依然として改組 GEF は世銀および国連の補助. 与えることで,数で優位し途上国が支配権を有. 機関(a subsidiary body)で あ る と し,改組. する COP に対して,GEF が独立かつ公式に責. GEF の創設者達は GEF に対して法的拘束力を. 任を負うようにすることができるからである.. 有する取り決めを結ぶ法的能力を与えてはいな. こうすることで先進国が支配権を持つ世銀の影. いとして,その法的権限を否定した128).. 響力を排除し,COP の影響力のもとに GEF を. 改組 GEF 設立文書の文言によると,GEF の. 置くことができると考えられた120).. 設立は「GEF に参加する国家の代表によって. こうした背景のもと,気候変動枠組条約の政. 容認された(accepted)こと」および「実施機. 府間交渉委員会(INC)が,国連法務部に対して,. 関によって,それぞれの規則および手続に従っ. COP と GEF との間の協定がいかなる形式と法. て採択された(adopted)こと129)」に由来する.. 的性格をもつべきか,その選択肢に関する法的. ワークスマンはこの点に着目し,容認および採. 121). 意見を要請した. .しかしこの国連法務部意. 択という文言は,「各行為の背後にある公式さ.
(13) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). (393). 25. の程度や法的効力を反映させるために注意深く. 立性のある世界環境基金としての性格が強く,. 選択されたものであり,GEF が依然として法. …1994 年の新たな合意に基づき,GEF は一層. 的にはもっとも世銀と密接に結びついているこ. 独立性を強め,独立の国際機構としての性格を. とを示唆している」と指摘する130).. 強く持った恒久的な存在になった」とするもの. ま た ボ ワ ソ ン・ド・シャズ ル ヌ も GEF を. の,「た だ し,独立 の 法人格 は 持って い な い」. 創設させたのは,「これら 3 つの国際機構であ. として明確にその法人格を否定する135).. り,国家 が そ の 設立 に 同意 し て い る こ と で,. それに対してフェアヘイエンは,外見上,国. 政治的な正当性がそれに与えられている」と. 際機構 の 特徴 を GEF が 備 え て い る 点 に 対 し. 述べる131).そして, 「制度的なレベルでは,改. て,た と え ば MoU の 法的性質 に つ い て 紛争. 組 GEF の設立は世界銀行と(UNDP と UNEP. が生じた場合に,新たな国際機構を創設しな. に代表される)国連との間の共同行動の産物で. かったという設立文書の形式面が重視されるの. ある.この点で,世銀が設立に主要な役割を. か,それとも新たにできあがった実体の事実上. 果たしたパイロット・フェーズ期の GEF とは. の権限という実質面が優位するのかは,一義. 大きく異なる.正式には,世界銀行だけがこの. 的には決められないと述べ136),この点を重視. メカニズムを設立する法的能力を有する.その. し て い る.ワーク ス マ ン も,独立 し た 国際機. 趣旨 か ら,改組 GEF 設立文書 は GEF 信託基. 構と同様の特徴を多く備えている点に注目す. 金が世界銀行の事務局長の決議によって設立さ. るが,GEF の法人格の議論を通して,「明らか. れることを規定しているのである.UNDP と. なことは,GEF の試行期間および改組後にお. UNEP での決定の採択を通じたそれぞれの機. いても,国家の政治的なご都合主義(political. 関の関与は, 単に政治的な性質のものであって,. expediency)と 制度設計 の 巧妙 さ は,法律家. 制度を共に運用していくという共通の意欲を示. が自信を持って制度を分類するための彼(女). すものに過ぎない132)」とし,3 つの実施機関の. らの能力をしのぐ137)」として GEF の法的地位. なかでも世銀と GEF との結び付きが強いこと. を明確化することの困難を指摘する.そして,. を強調する.. このように組織の法的基盤について確固とした. ヘイも同様に GEF 設立の法的根拠となる規. 共通の理解が欠ける場合の問題について,ワー. 定は「世銀に新たな制度を創設する権限を与え. クスマンは,参加国が自らの関係性について異. た IBRD の協定に含まれる規定であり,それは. なった,そしておそらくは矛盾した期待を持ち. UNEP や UNDP には与えられておらず,これ. ながら,関係を作り始める恐れがあり,法的な. ら二つの制度は GEF を事実上(de facto)設立. 思考の支配が及ばないということは,結果とし. するものである」として,実施機関の中でも,. てその制度の発展に重大な影響を及ぼすと指摘. GEF を 設立 す る 法的根拠 は 世銀 に の み あ り,. する.. 他の二つの実施機関の行為は事実上のものとす. こうした懸念は,具体的には,GEF と MEA ─. る133).. COP との間で見解の不一致が生じた場合の解. このように,改組 GEF の設立根拠を世銀の. 決方法などで直接に問題となろう.たとえば,. 内部決議のみに求めることになると,GEF の. GEF と気候変動枠組条約との間の MoU には,. 単独の国際機構としての法人格,とりわけ法的. GEF のプロジェクトについて懸念がある場合. 拘束力を有する合意の締結権限については,否. COP は「評議会に対して特定のプロジェクト. 134). 定する論調が強いと言うべきであろう. .横. に対する決定のさらなる明確化と,相当な期間. 田教授も「厳密な意味での世界銀行の下部機関. をおいてその決定の再考を要求することができ. と言うよりは,世界銀行に管理が委託された自. る」と定めている138).しかしながら,見解の.
(14) 26. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). (394). 不一致が残る場合にいかなる手続が適用される. 本稿で明らかにしたように,南北間の較差を. べきかは明らかにされていない.第二の国連. 埋めるために差異ある責任に基づいて資金援助. 法務部意見も,GEF と COP の関係性の複雑さ. を行うことは,MEA の公正さを高める要因と. を認め,MEA の資金メカニズムとしての GEF. なる.また遵守を支援し MEA の普遍的参加を. の実効的な運営を確保するために「法的に拘束. 促進するという目的も公正さを高めることに資. 力のある条約文書」によって関係を確立するこ. するといえよう.しかしこうした規範的意義. とを提言している139).. は,遵守支援という目的を実現するための資金. Ⅵ.結 語. メカニズムの内容や運営形態によっては失われ かねない.MEA で資金援助が重視されるよう. 地球環境問題を引き起こしてきたことに対す. になった文脈を資金メカニズムがきちんと受容. る先進国の歴史的責任という観念が,共通だが. することが重要である.資金メカニズムの組織. 差異ある責任という形で,MEA のなかで規範. 構造を検討する意義はここにある.. 化されたことにより,能力に較差のある国々の. 本稿で検討したように,GEF は設立文書に. 衡平な待遇を実現する手段として,資金メカニ. 規定 さ れ た 独自 の 機関(事務局,総会,評議. ズムに注目が集まってきた.しかし,資金メカ. 会,被信託機関,実施・執行機関)と,その機. ニズムによる衡平実現のアプローチは,単に国. 関の役割を担う既存の国際機構(主に世界銀行,. 際社会の道義的な正義感を満たすためだけのも. UNDP,UNEP),および GEF を利用する複数. のではなく,より直接的に MEA の遵守確保を. の MEA(の締約国会議)が複雑に絡み合った. 促すという実際的な機能を担っている.資金メ. 複合的な国際制度である.GEF が単独の国際. カニズムが MEA の遵守を促すことができるの. 機構とされなかったことで,実体間の役割配分. は,直接的には能力不足を補うことによって実. や相互の取り決めなど,交錯の程度・態様は非. 施への技術的障害を取り除くからであるが,そ. 常に不定形で複雑なものとなっている.また,. の意義はこれに留まらない.MEA の法構造の. GEF のガバナンスにおける民主的な正統性に. なかで,資金メカニズムが生み出す衡平さその. ついても,議席選出枠や二重加重投票制など特. ものが MEA の規範性を高め,締約国の遵守を. 徴ある制度が導入されるに至った.. 促しているという側面があることを最後に指摘. このような制度構造は南北間の対立の中で妥. しておこう.. 協的に生じたものではあるが,しかしながら,. シェル ト ン は MEA で の 共通 だ が 差異 あ る. GEF の機動性を失わせるものではなく,むし. 責任 に 基 づ く 衡平的 ア プ ローチ は,公正 さ. ろ制度的な動態性や現実への応答性といった要. (fairness)と 正統性・正当性(legitimacy)を. 素を与える契機ともなったと評価すべきであろ. 反映するものであり,これが環境義務の遵守の. う.GEF 自身も,その組織構造を「ネットワー. 140). .これは法規範の. ク状の組織」と呼び,パートナー間の継続的な. 内容に着目して国家の国際法遵守を説明するフ. 意思疎通と自己規定の更新により,流動的な国. ランクの議論を意識したものと思われるが,彼. 際環境に対する柔軟な応答性を持つことができ. の理論に依れば,国際法が手続的な正統性と規. ていると評価するようになっている142).この. 範内容における公正さを備えることで,その法. 緩やかな制度間の結び付きが GEF の独自の創. 規範は遵守誘因力(compliance pull)をもつと. 造的展開をもたらしているといえよう.さまざ. いう.国際法が遵守誘因力をもつと,当該法規. まな環境ガバナンス・国際協調の結節点として. 範そのものの影響力として国家の遵守行動を誘. の GEF の緩やかな結合形態が,国際協力促進. 向上をもたらすと述べる. 発すると主張する. 141). .. のための有益な制度的視点を提供してくれてい.
(15) 多数国間環境協定における資金メカニズムの役割と組織構造の特徴(青木). ることは間違いない.地球環境保護という共通 利益の実現過程において,とくに南北間の文脈 の中で MEA がその目的の達成を模索するため の制度的枠組として GEF から得られる教訓は 少なくないであろう. 本稿では,GEF の組織構造に焦点を合わせ たため,その実際の活動形態やプロジェクト の 内容 の 分析143)は 扱 え な かった.MEA の 遵 守を促進するという機能や,運営過程における 各実体間の調整方法,および複数の MEA を扱 うことから近年注目されるようになってきた, MEA 間の抵触を調整するフォーラムとしての GEF144)の 能力 な ど は,実際 の GEF の 活動 の 分析を通じて検討しなければならない課題であ ろう.これらについては今後の課題としたい.. 注 1)P. Sands, Principles of International Environnd mental Law 2 ed. (Cambridge University Press, 2003), pp. 1031─1032. E. R. DeSombre and J. Kauffman, “The Montreal Protocol Multilateral Fund: Partial Success Story,” in R. O. Keohane and M. A. Levy(eds.), Institutions for Environmental Aid: Pitfalls and Promise(The MIT Press, 1996),pp. 89─126. 松 本 泰 子「地 球 環境保全のための資金メカニズムの在り方の検 討:モ ン ト リ オール 議定書多国間基金」『環境 と公害』第 30 巻第 2 号(2000 年),32─39 頁. 2)GEF の 概要 に つ い て は,小川晃範「地球環 境 ファシ リ ティー(GEF)」西井正弘編『地球 環境条約 生成・展開 と 国内実施』(有斐閣, 2005 年)341─356 頁を参照. 3)P. Birnie, A. Boyle, C Redgwell, International rd Law and the Environment 3 ed.(Oxford University Press, 2009),p. 82. 4)Sands, supra note 1. 5)D. French (2005), International Law and Policy of Sustainable Development(Manchester University Press, 2005),pp. 37─51. 6)環境と開発に関するリオ宣言原則 4. 7)森川俊孝「開発協力 と 国際法」森川俊孝,池 田龍彦,小池治編『開発協力の法と政治─国際 協力研究入門─』(国際協力出版会,2004 年), pp. 195─201. 8)D. French(2000), “Developing States and International Environmental Law: The. (395). 27. Importance of Differentiated Responsibilities,” , pp. 35─60. ICLQ, vol. 49 (January 2000) French(2005) , supra note 5, pp. 62, 87─91. P. Cullet, Differential Treatment in International , pp. 86 Environmental Law (Ashgate, 2003) ─90. L. Rajamani, Differential Treatment in International Environmental Law(Oxford University Press, 2006) . 9)N. Matz, “ Environmental Financing: Function and Coherence of Financial Mechanisms in International Environmental Agreements,” , pp. 473─534. 磯 Max Planck UNYB, vol. 6(2002) 崎博司『国際環境法』 (信山社,2000 年) ,218 ─224 頁.地球環境保護 を 目的 と し た 活動 へ の 資金援助 に は,従来,国際開発援助機関 や ODA などを通じた既存の開発協力の枠組のな かで行われてきた環境プロジェクトに対する資 金援助と,その限界を感じつつ新たに環境条約 に基づいて設置された国際基金による資金援助 の二つの類型が存在する.P. H. Sand, “Carrots without Sticks? New Financial Mechanisms for Global Environmental Agreements,” Max , pp. 363─388. P. Planck UNYB, vol. 3(1999) Sands, supra note 1, pp. 1020─1037. 10)Laurence Boisson des Chazournes, “Technical and Financial Assistance,” in D. Bodansky, J. Brunnée and E. Hey (eds.) , The Oxford Handbook of International Environmental Law (Oxford University Press, 2007) , pp. 957─969. 11)磯崎『前掲書』 (注 9)218─229 頁. 12)Boisson des Chazournes (2007) , supra note 10, pp. 957─969. Laurence Boisson des Chazournes, “Technical and Financial Assistance and Compliance: the Interplay,” in U. Beyerlin, P-T. Stoll, R. Wolfrum (eds.) , Ensuring Compliance with Multilateral Environmental Agreements: Academic Analysis and Views from Practice(Koninklijke Brill NV, 2006) , pp. 273─300. R. Wolfrum, “Means of Ensuring Compliance with and Enforcement of International Environmental Law,” RdC, Tome 272(Martinus Nijhoff, 1998) , pp. 122 ─133. W. Plesmann and B. Goller, “ Financial Mechanisms,” in F. L. Morrison and R. Wolfrum (eds.) , International, Regional and National Environmental Law (Kluwer Law International, 2000) , p. 888, 893.磯 崎 教 授 は, 資金メカニズムを「遵守確保のための手段」に おける「恩恵誘導的手法」の一つと位置づけて いる.磯崎『前掲書』 (注 9)247─248 頁. 13)Plesmann and Goller, supra note 12, p. 908. 14)Ibid., p. 908. 15)Plesmann and Goller, supra note 12. Matz,.
(16) 28. (396). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). supra note 9, pp. 479─482. Wolfrum, supra note 12, pp. 117─118. 16)Matz, supra note 9, pp. 482─487. A. Jordan and J. Werksman, “Financing Global Environmental Protection,” in J. Cameron, J. Werksman and P. Roderick(eds.) , Improving Compliance with International Environmental Law (Earthscan Publications, 1996) , pp. 247─255. 17)む ろ ん,伝統的 な 事後救済法 も,国際環境 法の遵守確保において意義を有する.しかし, MEA における環境紛争の特質などから,その 利用は制限され,遵守管理などの新しい手続 が そ れ に 代 わって 発展 し て き た.G. Ulfstein, “Dispute Resolution, Compliance Control and Enforcement in International Environmental Law,” in G. Ulfstein, T. Marauhn and A. Zimmerman(eds.), Making Treaties Work: Human Rights, Environment and Arms Control (Cambridge University Press, 2007), pp. 118 ─124. と く に 制裁的 な 手段 を 用 い た 対応 は,MEA レ ジーム で は 不 適 切 と す る 理 解 が 根 付 い て い る.A. Chayes, A. H. Chayes and R. B. Mitchell, “Managing Compliance: A Comparative Perspective,” in E. B. Weiss and H. K. Jacobson(eds.), Engaging Countries: Strengthening Compliance with International Environmental Accords(The MIT Press, 2000), pp. 39─62. 環境条約 で は 国際裁判 の 利用 を 定 め た 紛争解決条項 を 規定 す る の が 一般的 で あ る.と は い え そ の 意義 は 越境環境紛争 な ど の 限定的 な 場面 に お け る 利用 と,そ の 過 程 を 通 じ た 国際環境法 の 漸進的発達 に 対 す る「貢献(contribution)」に 留 ま る と い え よ う.国際環境法 に お け る 国際裁判 の 役割 と 妥 当 性 に つ い て は,T. Stephens, International Courts and Environmental Protection(Cambridge University Press, 2009), esp. pp. 10─16, 348─ 359. 18)こうした不遵守の原因に着目し,それを積極 的に解消するという不遵守の処理方法は従来の 紛争解決とは根本的に発想の出発点が異なると いえよう.MEA では,損害が生じてからの法 益回復 の 困難 な ど に よ り,事後的 な 紛争解決 よりも紛争の予防へと視点が移動してきてい る.紛争予防のためのメカニズムとして,報告 制度を基礎とした締約国の遵守状態の監視と適 切な是正措置による国際コントロールの利用が 増加してきた.国際コントロールは公衆の圧力 による遵守促進に優れた法技術であり,従来 の 紛争解決手続 と は 概念的 に 区別 さ れ る.環 境条約における遵守管理(compliance control, management)と呼ばれるものは,国際コント ロールを基礎に,不遵守への対応をその原因を. 考慮してより積極的な対応策を取り入れたもの で,報告制度と結びついた不遵守手続などがそ の中心的メカニズムとなる. 19)不遵守手続は不遵守国への対応措置として, 条約に基づく資金援助の提供と停止を決定する ことができる.各不遵守手続における不遵守へ の対応措置の規定を参照. 20)Boisson des Chazournes(2007) , supra note 10, p. 960. 21)柴田明穂「 「環境条約不遵守手続 は 紛争解決 制度を害さず」の実際的意義─有害廃棄物等の 越境移動を規制するバーゼル条約を素材に─」 島田征夫,杉山晋輔,林司宣編『国際紛争の多 様化と法的処理』 (信山社,2006 年)82 頁. 22)D. Shelton, “Equity,” in D. Bodansky, J. Brunnée and E. Hey (eds.) , The Oxford Handbook of International Environmental Law (Oxford University Press, 2007) , pp. 642─645, 647─656. 23)リ オ 宣言原則 7.GEF を 資金 メ カ ニ ズ ム と して利用する MEA では,気候変動枠組条約第 3 条,残留性有機汚染物質条約前文などにこの 文言が使用されている.また学説では生物多 様性条約などのように明文がない MEA におい て も,先進締約国 と 途上締約国 の 約束・義務 の差異化が行われており,それはこの原則よ り導かれるものであるとして文脈上明確にそ の存在が認められると一般的に考えられてい る.Birnie, Boyle and Redgwell, supra note 3, p. 133. Rajamani, supra note 8, p. 132. 24)Shelton, supra note 22, pp. 656─658. Cullet, supra note 8, pp. 21─56. Rajamani, supra note 8, pp. 150─155. 25)Sands, supra note 1, p. 56. Birnie, Boyle and Redgwell, supra note 3, pp. 132─136. 26) 「共通だが差異ある責任の原則は,少なくと も 次 の 2 つ の 意味 で,先進国 と 開発途上国 と の間の明示的な衡平な釣り合いを定義するもの であると考えられる.つまり,この責任は,開 発途上国にはより低い基準を規定し,そしてそ れ ら の 基準 の 履行 を,先進国 に よ る 連帯的支 援(solidarity assistance)の 提供 に 依存 さ せ ているということである. 」Birnie, Boyle and Redgwell, supra note 3, pp. 134─135. 27)Birnie, Boyle and Redgwell, supra note 3, p. 135. 28)リオ宣言原則 7 では, 「各国は,地球の生態 系の健全さと一体性を保存し,保護しかつ回復 するために地球規模のパートナーシップの精神 に基づいて協力しなければならない」と述べた 上で, 共通だが差異ある責任の原則を明示する. ま た,Boisson des Chazournes(2007) , supra note 10, p. 958..
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