企業変革のための業績評価システム : 各社での取り組み(<特集>新しいMBA教育の展望)
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(2) 20(294). 横浜経営研究 第24巻 第4号(2004). <図1> 企業経営と事業経営のモデル図. の尺度のみで判断できるものではないというと ころにある.複数の異なった事業を有するグル. ープ企業でも,GEのような「ポートフォリ オ・カンパニー」と,ソニーのような「バリュ ー・. `ェーン・カンパニー」がある.GEの場. 合,発電設備,防衛,家電,保険などの各事業 間の依存関係,因果関係が薄い.つまり事業の. 切り離しが比較的容易で,それゆえ事業の価値 は収益性,成長性といった成果で判断しやすい.. 一方,ソニーの場合,デバイス,情報家電,コ ンテンツなどの各事業問の因果関係は深い.ソ ニーのデバイスはその生産量のほとんどがソニ ー・. Oループ内向けであり,その意味は技術の. 流出防止とキーデバイスの安定供給にある.ま た,消費者にとってPC, DVDプレーヤー, CD. 「企業経営」とは,人・モノ・金・時間とい. プレーヤーといった製品の魅力は,ハードより. う有限な経営資源を活用し,企業全体の利潤を. 、もソフトにある.見たい映画があるからDVD プレーヤーが売れるし,聴きたい音楽があるか. 最大化する活動をいう.一方「事業経営」とは,. 「企業経営」を構成する個々の事業において, 配分された経営資源を活用し,利益の最大化を. らCDプレーヤーが売れるのである.したがっ て,ソニーの各事業は,それらが一体となって. 追求する活動である.. 1つのバリュー・チェーンを構成しており,そ. 3.企業経営を支える業績評価 システムに求められるもの. 「企業経営」における最大のテーマは,事業 ポートフォリオの最適化である.つまり「今儲. れがソニーの強みになっている.このような場 合,各事業の価値を単に収益性や成長性のみで は測れない.事業横断的に把握,コントロール していく必要がある.. 「ポートフォリオ・カンパニー」と「バリュ. けを生んでいる事業」と「将来儲けるための事. ー・. 業」のバランスを取りつつ,「企業にとってや. る視点や,それを活用した意思決定の内容こそ. っている意味のない事業」「今後も儲けを生ま. 異なるものの,企業経営にとって必要となる業. ない事業」の始末を付けることである.集中と. 績評価情報の内容や範囲,精度,鮮度には大き. 選択の判断を的確に行い,可能な限り身軽な所. な違いは無い.. `ェーン・カンパニー」.業績の数字を見. 帯で,現在および将来の収益を最大化できるよ うになることが,企業経営における変革である.. 3.1 業績評価情報の内容. とすると,「企業経営」の道具としての業績評. 業績評価情報の内容,つまり業績評価指標を. 価システムの役割は,事業の収益性や成長性な. 考えるときに重要なことは2点ある.. どといった尺度を用いて各事業の位置付けと, その位置付けなりの成果を明確に測ることにあ. 1点目は,業績評価指標のバランスという観 点である.P/L(損益)に重点を置き過ぎるあ. ると言えよう.. まり,在庫・借入金などの超過を生じてはいけ. しかし,実務上難しいのは,個々の「事業の. ないし,顧客に特化するあまり,スキルのある. 価値」というのが,単純に収益性,成長性など. 従業員がモチベーションを失うようではいけな.
(3) 企業変革のための業績評価システム(貫井清一郎). (295)21. <図2> 業績評価指標マップの例. 一r蜜登 堰桑 ‘. き ま. _書撫一 塵露囲幽盤躍翻一…縫一 翻 l l. ホヒ ぷ . 麟 隷 毎. 議・[壷コL一轟一・鷹轟.. =離離轍欝灘1認。一ぎ噺齢鰍磁滞再掌. 雛 競争力のある価格. 誠実な顧客対応 i. 圏競合他社価格 ■回答納期遵守率 比率. 華. 講;講。愚臓1 .回 国特許収支. J=漏出騨=讐瘤鑛饗 =離灘,、,. 将来成畏分野への. 種まき ■新規ビヅネス売上高伸長率. 〈凡例〉. 羅=全社基本方針 口i:目的/狙い 圏 1業績評価指標. い.BSC(Balanced Scorecard)はその名のと. 様第一主義」の達成目標値として,重点商品で. おり,バランスに配慮した業績評価指標の設定. 1.5位,汎用品で2位などのように「主要顧客. 手法の1つで,すでに多くの会社で導入・運用. 内サプライヤーレイティングの平均順位」を置. されている.商品の競争力とプロセスの競争力,. く.そしてこれを向上させるために,営業部門. 今日までのアチーブメントと将来のポテンシャ. では「誠実な顧客対応」を目的として,全商品. ルを全方位的に把握,評価するしくみとして,. 98%などのように「納期回答遵守率」を評価指. BSCは非常に有益かつ明解である.. 標として努力をしていく.. 2点目は,全社の基本方針(戦略)と業績評. ここで問題なのは,全社の基本方針というの. 価指標の整合性という観点である.全社の基本. はどうしても総花的になりがちであるというこ. 方針を各プロセスの目的/狙いにブレイクダウ. とである.「高品質な商品を低コストで提供す. ンし,その目的/狙いの実現度合いを測るよう. ることを通じてお客様の信用を勝ち得るととも. な数値を業績評価指標として設定する.そうす. に,社員には自信を持って生き生きと働いても. ることにより,指標は体系化され,かつ整合の. らい,ついでに環境問題にも貢献し… .」. 取れたものになる.各プロセスが,会社全体の. これでは何をやれば良いのか全く理解不可能で. 成功に向け,正しい事を行っていることが保証. ある.「種まき」する事業はどれで,「刈り取り」. されるのである.. する事業はどれなのか,また,シェアやコスト. 図の例では,社長が掲げた4つの全社方針に. をどこまで改善し,そのためにどのプロセスを. 達成目標値(全社指標)を設定し,さらにそれ. どこまで強化するのかということが具体的に語. を各プロセスの評価指標(個別指標)とその目. れなければ,経営者ではない.実務上,業績評. 標値にブレイクダウンしている.例えば「お客. 価システムのデザインの際に,まず最初に聞く.
(4) 22(296). 横浜経営研究 第24巻 第4号(2004). はこのことである.少なくとも,優先順位は付. が,販売会社では在庫の山となっている.この. けていくべきである.. ような事態が現実に起きている.当然のことな がら,これでは会社が成り行かないので,グル. 3.2 業績評価情報の範囲. ープの業績管理としては,販売会社の顧客への. 実務における業績評価情報のニーズは,グル. 実販を売上げとしてとらえるという販売連結,. ープ各社の「単独業績」からグループ「連結業. 製造子会社の実際の原価をコストとしてとらえ. 績」に完全に移った.このことは,会計ビッグ. た製造連結,このような連結ベースでの損益情. バン以降,会計基準そのものが「連結主義」に. 報が必要となる.. 変わったことや,国内外のディスクロージャ ー・ jーズが連結での情報提供と求めているこ. 製造子会社においてもっとも重要な業績評価. とと無縁ではない.しかし,より大きな動機と. 報は会社にとっての生命線であるので,グルー. しては,現在の企業の置かれている状況が,古. プ内で集約化・共有化されている場合が多い.. き良き時代の日本型グループ経営の存続を許さ. この場合,実際の物量とシステム上の在庫デー. ないということである.グループ全体で総力を. タが合っていさえいれば,イ可の問題も無い.一・. 挙げて市場や顧客ニーズに当たっていくと同時. 方,コスト情報については,各社とも苦戦して. に,経営資源を可能な限り有効活用する,ある. いるというのが現状である.全社のコスト情報. いは削減することで,初めて企業として存続で. を集めることはできても,実際には各会社でル. きるというところまで,グローバルの競争は激. ールや基準,管理レベルがまちまちであるため,. しくなっている.親会社の赤字や余剰人材,. 集めた情報を容易に横比較できないというケー. OBを吸収するのがグループ会社の役割で,そ れさえしていればうるさいことは言わないなど. スが多い.また,先ほど説明したようなバリュ. とは言っている余裕はなくなった.このような. ではグループ会社間取引の際には「内部振替価. 背景から,業績評価情報に求められる情報の範. 格」が使われるため,コストの内訳情報は混然. 囲は,「各社単独」から,「グループ全体」へと. となり,グループ全体としてのコスト競争力の. 広がっている.. 実態が把握できない.. 製造業における典型的なグループの形態とし ては,製造子会社,販売会社,本社という構成. 図3の例でいうと,グループ内のデバイス製 造会社,製品組み立て会社,本社,販売会社の. が多く見受けられる.そのほかにも設計・エン. 間での取引単価は,あらかじめ当事者間で決め. ジニアリング機能やロジスティクス機能を子会. られている内部振替価格を使う.各社は,前工. 社化している会社も少なくない.他には情報シ. 程の内部振替価格に自社での発生コストを加算. ステムや人材派遣業,社員教育などの子会社で. し,さらに単体利益(もしくは損失)を加減し,. あるが,多くの場合これらの会社はグループ経. 内部振替価格で後工程に渡す.そのような制度. 営上あまり大きな意味を持たない.. こうした形態の中で起こりがちなのが,本社. のなかでは,図3の網掛け部分の合計である商 品の「本当の原価」は不明であり,販売会社で. は販売会社にモノを引き渡した段階で売上げが. 実売価との差額で赤字が出た場合に,いったい. 立ち,在庫籍も販社に移るので,管理の範囲は. どこにその原因があるのかが非常にわかりにく. そこまで止まりとなり,販売会社から顧客への. い.原価についてよく言われる「(本当の原価. 「実販」はタイムリーに押さえられないという. を)現場はわかっているが,マネジメントはわ. ケースである.製造子会社は黒字化のために懸. からない」ということは,こうして起きている.. 命に生産し,本社はそれを販売会社に押し込む. グループ各社の利益管理や,取引の際の商流. 情報は,コストと在庫である.中でも,在庫情. ー・. `ェーン・カンパニーの場合,多くの会社.
(5) 企業変革のための業績評価システム(貫井清一郎). (297)23. <図3> グループ会社間:取引における原価情報. デバイス. 製造会社. 製品組み 立て会社. 販売会社. 本社. ””. も 1. [”…. @ 赤字. 麿㍉亭撃再硲野 購帰焙総”. モ維製鍵灘面. 単体利益 ‘,酔 野㌻争峠息高酔煽骨亀魯. 仕入原価 奪脚帝餌暗闇鼻歌勲岬面舘雪. 単体利益 ’帽嚇智餌・再鴛齢φ遡 “桃L鮎“. (. 原材料 熾柏U替価. 仕入原価. (. 柏U替価. j. 柏U替価. ). 売価. j. スピードアップという点では,内部振替価格の. 異なっているある半導体メーカーでは,社長が. 意味は大きい.しかし,真のコスト競争力を身. 「アジア地区におけるA社向けの売上高はいく. に付けるためには,グループ全体から各現場の. らだ」と聞いてから,実際にその数字が分かる. コスト情報を集約し,評価・分析するしくみが. まで14日間かかった.ここでもやはり,「現場. 必要なのである.. はわかってが,マネジメントはわからない」と. 販売会社においてもっとも重要な業績評価情. いう現象が起きるのである.. 報は,売上高である.ただし,売上高という数. このような,ルールやコードの不統一が起き. 字は,ただそれだけで見ていてもあまり意味が. ている理由は様々あるが,「企業の歴史」や. 無い.何が,誰に,いくらで売れたのかという. 「商習慣」に根ざすものが多く,これらを統一. 内訳が判明して,それをグループトータルで合. するという作業は一筋縄ではいかない.そこで. 算,分析して初めて経営管理上の意味が出てく. 経理部や経営企画部が人手をかけて,数字の読. る.ここで問題になりがちなのが「言語の違い」. み替えやコード変換を行って,なんとかレポー. である.ここでの「言語の違い」とは,「何が」. トを出しているというのが,多くの会社の現状. を表す商品コードや,「誰に」を表す顧客コー. である.. ドが,同じグループ内の各販売会社で異なって いるということである.このことはグローバル. 3.3 業績評価情報の精度. 企業においてはほとんど例外なく起きている.. 業績評価情報に求められる精度については,. たとえば顧客コードが統一されていないある携. 様々な考え方がある.ある経営者は「真剣に経. 帯電話部品メーカーでは,ある顧客の世界中の. 営に取り組もうとするならば,経営に関する数. 携帯電話部品の需要予測値を,コード読み替え. 字は,損益計算書や貸借対照表のすべての科目. など苦労して1ヶ月間かけて合算してみたとこ. とその細目の数字も,ひとつの間違いもない完. ろ,世界の携帯の総台数より多くなっていたこ. 壁なもの,会社の実態を100パーセント正しく. とが分かった.また,顧客コードが各国ごとに. 表すもので無ければならない.」と言っている..
(6) 24(298). 横浜経営研究 第24巻 第4号(2004). また,別のある経営者は,「3つの数字だけ見. 「明確さ」なのである.. えれば経営できる.顧客上位10社向けの売上, 設備操業度,重点商品のシェアである.」と言. 3.4 業績評価情報の鮮度. う.これは,良し悪しの問題ではなく,経営ス. ある大手精密機器メーカーでは,月次連結決. タイルの違いというだけでのことである.冒頭. 算の業績評価数値を出すために,月末日から20. でも述べたとおり,業績評価システムは経営の. 日間かかっていた.毎月5日に開かれる経営会. ための道具であるから,それにどの程度の精度. 議では,2ヶ月前の情報を元に議論していた.. を求めるかは,それを実際に使う経営者のニー. 「いい加減に死亡診断書を見ながらの経営は. ズ次第ということになる.. やめよう」という社長の号令のもと,経営情報. ただし,多くの場合,すべての数字について,. 改革プロジェクトを実行した.その結果,20日. 同じ精度が求められるということはない.パレ. 間を3日間に短縮することに成功し,経営会議. ートの法則(2:8の法則)に従って重点的に. では先月の情報を元に議論できるようになった.. 見るべきものを絞り込んだ上で,その部分につ. 近年,多くの会社で同様のプロジェクトが行. いて精度の保証された数字を継続的に観察・評. われている.その最大の狙いは,「経営情報把. 価するという,メリハリの利いたしくみが最も. 握の早期化」である.つまり,経営者が見たい. 効果的である.また,その精度についても,1. ときに最新の状態が見えるようにするというこ. 円単位まで正確であるということよりも,同じ. とを意味する.販売の前線や製造現場の状況が. 情報ソースから同じ基準で計算しているという. マネジメントに伝わって来るのには,どうして. 意味での「計算プロセスの精度」や,誰もが同. も時間がかかる.情報伝達の距離が長い(階層. じ数字を見ているという「データベースの精度」. が深い)し,あまり調子のよくない情報はギリ. のほうがより重要である.ビジネスは生き物で. ギリまで隠したいのが人情だからである.する. あるため,今の状態だけを見ていてもあまり意. と,月中は好調と思っていたものが,月末にブ. 味は無く,過去との差,計画との差,他社との. タを開けたら目標は未達,しかし時すでに遅し. 差の大小や,それが拡大・縮小のどちらの傾向. ということがしばしば起きる.この情報伝達の. にあるのかに注目するからである.たとえば,. 距離を無くし,前線・現場の情報を少しでも早. 先月の売上げが100億,今月が90億だとする. 100億,90億という数字が1円の誤差もなく正 確かということよりも,10億つまり,10パーセ. く,マネジメントが業績評価情報として可視化 変化が常に見えていれば,まだまだ手の打ちよ. ント減っているということのほうが重要な情報. うは多い.. である.もちろん,でたらめな精度では話にな. 業績評価情報を早期に収集するしくみを構築. らないが,ある程度の精度であるとすれば,90. するためには,社内で「業務都度完結」が実現. 億が90億1000万だったとしても,経営上の方策. している必要がある.「業務都度完結」とは,. が変わるわけではない.どの程度の差なのか,. 次の3つのことができているということである.. 差が拡大しているのか,横ばいか,縮小してい. るのかで打ち手が変わるのである.そのとき,. 1)現場で取引が発生した都度,その実績数 値(物量+金額)を現場業務系システムに. 差の理由を分析した結果が,「先月とは違う情. インプットする.(インプットの都度化). 報を使いました」とか,「いや,私の持ってい. る数字では今月も100億ですが」では,到底効. 2)確定した実績数値を,現場業務系システ ムから業績評価システムに,その都度イン. 果的な意思決定は出来ない.経営管理のための. ターフェイスする.(インターフェイスの. 業績情報に求められるものは,「正確さ」より. 都度化). できるようなしくみが求められている.状況の.
(7) (299)25. 企業変革のための業績評価システム(貫井清一郎). <図4> 業績情報把握早期化のイメージ. 標値. 月度締 time 寮 営業からは目標達成の 見込みが高いと聞いた. 翰 今月は売上が目標に 達していない1. 十度締 ・ tim・. 春型難ている・翰謄策を寮嚢講. 3)業績評価システムから,必要な都度,そ. する.これを「情報のドリルダウン」と呼ぶが,. の時点での最新情報を引き出せるようにす. このドリルダウンを成立させるためには,業績. る.(情報共有の都度化). 評価システムに膨大な量の詳細データを保持す. これらのうち,1)は業務改革のテーマであ. ることが求められる.そしてこのような膨大な. り,2)および3)はシステム構築のテーマで. 量の詳細データをリアルタイムもしくはデイリ. ある.多くの場合,金額1青報二経理の仕事=決. ーでハンドルするには,非常にハイボリューム,. 算というイメージがあり,販売,調達,製造,. ハイパフォーマンスのシステムが必要となる.. 物流等の現場業務系システムと経理システムは. そこで,本当に最新の状況を見たい情報と,週. 分断されている.現場業務系システムでは物量. 次,月次で十分な情報とを区分けし,必要十分. 情報は毎日確定しているが,金額情報は付いて. なサイズのシステムにする事が望ましい.もち. いない.そして経理システムへは決算にあわせ. ろん何を優先するかは事業特性によるが,本当. て月次で情報を渡している.「業務都度完結」. に最新で見たいのは売上高と在庫くらいのもの. は,こうした組織や業務,システム間の溝やタ. で,原価や操業度などは月次でも十分という会. イムラグを無くし,現場業務と経理を常に同時. 社がほとんどである.. 並行で行うということを意味している.. ただし,ここで注意しなければならないのは, どんな情報でもリアルタイムで,またはデイリ. 4.企業経営を支える業績評価 システム構築の実例. ーで更新すればよいというものではないという. 企業経営という観点での変革の最大のテーマ. ことである.情報をリアルタイムやデイリーで. は,「事業ポートフォリオの最適化」であり,. 更新するということは,情報システムに非常に. それを支える業績評価システムとは,グループ. 大きな負荷をかける.業績評価情報を見る際に. 連結での体系化された業績評価指標を,必要十. は,最初は合計値から入り,段々にブレイクダ. 分な精度で,経営者が見たいときに提供する仕. ウンしながら異常値を発見し,その原因を分析. 組みである.ここで「仕組み」,「システム」と.
(8) 26(300). 横浜経営研究 第24巻 第4号(2004). <図5> 業務都度完結モデル. 月末締め日. 現場業務. 、経理. i i G l. メ. 浦. 戟@ i 妻 浦. :経理’. 現場業務. 言っているものには,情報システムのみならず,. 協するか否かが,情報システム投資が経営的な. 仕事の分担やルール人のスキルや意識といった. 効果を生むか否かの「三途の川」である.. 要素も含まれる.. 情報システムよりはるかに複雑なのは,人の. これらのうち,情報システムは最も単純であ. 意識の部分である.もともと人は自分の持って. る.ERPパッケージソフトウエアは現場業務系. いる情報をオープンにしたがらない傾向がある.. のシステムと経理・経営管理のシステムが統合. 特にグループ子会社に情報を開示させるのは,. 化されており,詳細データのリアルタイム連携. 至難の業である.子会社設立の元々の目的が,. が可能である.逆にいうと,現場業務系と経 理・経営管理系の両方にERPパッケージを活用 して初めて,ERPパッケージの最大の利点を享. 「独立採算で生き抜けるよう自力をつける」, で作ってきただけに,子会社のマネジメントは. 受することができる.しかし,各現場にはすで. 非常に自立心が強い.このような子会社のマネ. に長年慣れ親しんだ現行システムがあり,仕事. ジメントに対し,グループ本社にすべての情報. の仕方を変えなければいけないERPパッケージ. を渡すよう説得するのであるから,一筋縄では. 化に現場は猛反対する.そこでERPパッケージ 化を一部機能だけに限定するという判断を下し. いかない.情報提供の見返りとして,子会社も. がちであるが,このことはERPの効果を大幅に 縮小してしまう.こういつた日和見に陥らない. システムに子会社の要件を優先的に盛り込む,. 限り,情報システムは必ず完成する.実際の ERP化プロジェクトにおいて,ここで安易に妥. いろな材料を持って,主要な子会社を1つ1つ. 「グループ外の仕事を取ってくる」ということ. グループ全体の情報を見られるようにする,新 または何らかの金銭的優遇措置を採るなどいろ 辛抱強く説得するのである.業績評価システム.
(9) 企業変革のための業績評価システム(貫井清一郎). (301)27. の構築に際しては,こうした「つぼ割り活動」. するという前提に立った時に,変化に追随する. が非常に重要な意味を持つ.. スピードこそが,事業経営上最も重要な要素だ. このように,決して安易に妥協せず,難敵を. からである.優i秀な人材も,高性能な設備も,. 辛抱強く説得するという活動を支えるのは,経. 魅力的な商品も,巨額の資金も,投入のタイミ. 営トップの改革への強い意志であることは言う. ングを間違えたら効果的ではないし,それどこ. までもない.これなくしては業績評価システム. ろか負の遺産になりかねない.また,最大の顧. 構築も,さらにその先の企業変革もありえない.. 客サービスは要求に応えるスピードであり,コ. しかし,経営トップといえども,強い意志を持. ストを下げるために最も効くのもスピードアッ. ち続ける一方で,実現可能性について不安を抱. プである.「事業の損益分岐点を下げる」とい. く時もある.これを払拭するためには,新しい. うことを言う経営者がいるが,余剰人員の解雇. 業績評価システムが出来上がった際には,何が. が俄かには困難だとすると,各プロセスをスピ. どんなふうに見えるようになって,自分の意思. ードアップして直接コストは減らすとともに,. 決定にどう役立つのかを,活動の早い段階から. その過程で余剰設備をあぶり出し,それを整理. 見せていくべきである.具体的には,グループ. していくのが正攻法といえよう。. での業績評価指標体系の案が出来た段階で,そ. 技術の進歩や市場は変化の情報を素早く捕ら. の各指標に実際の数字を入れこんだデモシステ. えるとともに,それに対応するために自分が素. ムを製作し,それを早い段階で経営層に見ても. 早く変化できるようになることが,事業経営に. らうのである.ここで入れる実際の数字は,各. おける変革である.とすると,事業経営の道具. 現場もしくは現場業務系システムにある情報を,. としての業績評価システムの役割は,個々のプ. 手足を使って収集したものであり,情報が存在. ロセスのスピードが,事業全体としてバランス. しないとか情報が出してもらえなかった部分に. 良く達成されていることを測るしくみというこ. ついては,あえて空欄のままにしておく.この. とになる.. デモシステムを経営層に見てもらうことにより,. 経営層は実際のイメージが湧いてきて,具体的. 5.1 個別プロセスのスピードアップ. な注文を出しやすくなると同時に,今のままで. 個別プロセスのスピードアップとは,開発設. は「見えない」ということを示すことで改革の. 計部門での開発リードタイム,販売部門での受. 困難さを認識し,トップダウンでの指示を促す. 注リードタイム,製造部門での製造リードタイ. ことができる.経営トップが活動実行中に「な. ム,物流部門での物流リードタイム,売掛管理. ぜ完成までにこんなに時間がかかるのか」とか,. 部門での回収リードタイムなどの,リードタイ. 活動終了時に「これでは意思決定には使えない」. ムを短縮することである.2時間かかっていた. というようなストレスを感じないようにする,. 工程を1時間で出来るように,3日かかってい た配送を1日で運べるようにするわけであるか. 1つの工夫である.. 5.事業経営を支える業績評価. ら,プロセスとしては自力がつく.. システムに求められるもの. しかしここで注意しなければいけないのは, 事業全体としてのバランスを考えて,個別プロ. 企業経営の目的が事業ポートフォリオの最適. セスのスピードアップの目標値を立てなければ. 化であるのに対し,事業経営の目的は,配分さ. いけないということである.あるプロセスのス. れた経営資源を活用し,利益を最大化すること. ピード向上のために別の部分で無駄が出ていた. である.これら経営資源のうち,最も重要なの. り,あるプロセスだけが突出してスピードを上. は時間であろう.技術は進歩する,市場は変化. げても,それが市場から見てオーバースペック. ’.
(10) 28(302). 横浜経営研究 第24巻 第4号(2004). であるということが起きてはならない.例えば. は神経を鍛えるということに似ている.筋肉と. ある企業では,物流リードタイムを短縮するた. 神経の両方を鍛えることにより,変化に対して. めに,もともと中央に集約してあった商品在庫. 素早く反応することができる.こういつた部門. を,全国数10ヶ所に分散させた.このため物流. 間の情報伝達・共有化の部分は,業績評価とい. リードタイムは1/3に短縮されたが,商品在 庫総量は2倍になり,却って事業リスクを悪化. うことからは少し外れるが,変革のための経営 情報という意味では重要である.. させた.また別の企業では,顧客は注文してか ら14日後に納入されれば十分と思っているにも. 5.2 情報伝達のスピードアップ. かかわらず,製造部門は現場改善と設備投資を. 事業を営んでいる会社であれば,その事業を. 行い,製造リードタイムを5日から1日に短縮. 行うために必要な情報は,必ず社内のどこかに. した.しかしこの商品は設置の際に電源工事ピ. はある.ただ,それが現場マネージャーの頭の. 電話工事を伴うため,この工事待ちで,工場か. 中や担当者の手帳の中,あるいは部門の中だけ. ら出荷されてから平均1週間は販売会社の倉庫. に閉じていて,社内で広く共有化されてないだ. に置かれていた.. けである.事業を行う上では,部門と部門,現. このような状態を避けるためには,まず会社. 場と現場をタイムリーかつ緊密につなぐことが. 全体として,どの程度のスピードを身につける. 必須である.しかし,多くの会社の場合,自部. ことが必要十分なのかを知ることがスタートで. 門で持っている情報のみを元にして,自部門の. ある.これには顧客の声や競合他社の分析をす. オペレーショナルな意思決定を行っている.先. るのが一番よい.実際のプロジェクトでは,そ. ほど,企業経営の部分で「現場はわかっている. の最初の段階で必ず,顧客ヒアリング,顧客ア. けど,マネジメントはわからない」という現象. ンケートを行う.こうして全体として身に付け. が起きていると書いたが,事業経営のレベルで. るべきスピード(トータルリードタイム)が設. いうと,「自分の現場はわかっているけど,隣. 定できた後に,それを各プロセスのパフォーマ. の現場はわからない」ということが起きている.. ンス目標に落としていくのである.パフォーマ. 社内の情報を広く共有化すれば,より効果的か. ンス目標設定の際には,先ほどの例のようなア. つタイムリーな判断が出来るはずである.. ンバランスが起きないように,リードタイムだ けでなく,コストや物量といった情報もバラン. 図6はあるPCメーカーの事例である. PCに 欠かせない半導体部品は,価格の下落が非常に. スよく入れておくようにする.そうすることに. 早く,かつ激しい.厳しい価格競争にさらされ. より,単独プロセスの個別最適に陥ることなく,. ているPCメーカーにとっては,資材価格の低. 会社全体としての全体最適に向かった方向付け. 減情報を踏まえて,出荷/調達タイミングを調. が可能となる.. ここまで述べてきた個別プ’ロセスのスピード. 整することが重要になる.製品Xの4月第1週 から5月第2週までの6週間の生産予定数と在. アップは,技術の進歩や市場の変化への対応の. 庫品が上段の表のとおりだったとする.その状. スピードを上げるということであるが,実はも うユつ重要なことがある.それは,技術の進歩. 況で,①4月の第2週からキーデバイスの価格 (256Mメモリー)の価格が1万円下がるという. や市場の変化をいち早く把握し,それを社内の. ことがわかった.②その時点から調達した部品. 全プロセスで共有するという「情報伝達のスピ. が完成品に組込まれるのは5月第1週からにな. ードアップ」である.人間の身体に置き換える. る.③在庫水準を500台から450台に下げても市. と,「個別プロセスのスピードアップ」が筋肉. 場での欠品を起こさないという前提のもと,4. を鍛えることに,「情報伝達のスピードアップ」. 月第4週の生産予定数を50台分だけ5月第1週.
(11) 企業変革のための業績評価システム(貫井清一郎). (303)29. 葱鰍準低灘磯会酬榊 5月. 月. 製品X 生産予定数. 1W. 2W℃. 3W. 100. 壌00. 100. 4W. 変更数量 在庫数. 5◎O. 500. 500. 1W. 2W 100. 50. 150. ▲50. 十50. 450. 500. 500. にずらしたとする.④すると,事業収支が100. いく.これが出来るようになることこそが,事. 万円向上するということがわかる.つまり在庫. 業の変革そのものなのである.. のバッファーを取り崩して原価低減を待って資 材を調達した場合の収益増と,その際の販売機. 6.事業経営を支える業績評価. 会ロスリスクを比較した上で,生産計画や調達. システム構築の実例. 計画を修正するか否かの判断が出来るのである.. 当り前のことのように思えるが,実際には, 組織の壁が障害となり,このような表が作成で きない.. この表を作るために必要な情報を持つ部署は, 以下のとおりである.. ・調達部門(キーデバイスの価格) ・本社営業/販社(在庫数,販売見込). ・生産(生産予定数,調達から完成までのりー ドタイム,生産量の変更可能幅) ・経理(事業収益). これだけの部門から詳細な情報をタイムリー に集め,分析・判断し,アクションにつなげて. 事業経営を支える業績評価システムの中身は,. 企業経営とあまり変わらない.グループ全体を 範囲として,各プロセスの詳細情報を,最もふ さわしいサイクルで収集し,それをグループ全 体で共有する.この部分については,全く同じ であり,別のシステムを作る必要はない.唯一 異なるのは,企業経営のための業績評価情報が どちらかというと「状況や結果に対するより明. 確な説明」を提供するのに比べて,事業経営の ためのそれは「意思決定に際してのより具体的 な洞察(ビジネスインサイト)」を提供すると. いうことである.つまり,体系化などあまり意 味がなく,よりアクションに直結するような形.
(12) 30(304). 横浜経営研究 第24巻 第4号(2004). での,ピンポイントな情報提供になるのである.. 事業特性により,その事業の儲かるしくみ,言. 7.まとめ. い換えれば利益のレバーは違う.PC産業であ. ここまで,経営管理を企業経営と事業経営と. ればキーデバイスの価格が利益のレバーである. いう2つに分類して,それぞれの変革のための. し,装置産業であれば設備の稼働率がそれにあ. 業績評価システムのあり方について述べてきた.. たる.そういった,事業の利益を左右する重点. 結局,それらは両方とも「見えないものを見せ. 項目にフォーカスした情報提供が求められるの. るための仕組み」という意味では同じ種類のも. である.このようなことから,事業経営のため. のなのである.企業変革の規模・レベルや,そ. の業績評価システムの特徴は,以下のように捕. のための意思決定の内容は異なるものの,業績. らえる事が出来る.. 評価システムの使命は,意思決定ための判断材. ①アクションに直結するような形での情報提. 料を提供するということに他ならない.. 供. 「現場はわかっているけど,マネジメントは. ②過去実績に加えて,計画値,予測値も含ま. わからない」とか「自分の現場はわかっている. れる. けど,隣iの現場はわからない」ということは,. ③社内の情報に加えて,社外や市場の情報も. 会社組織が大きくなる過程で,ある程度避けら. 含まれる. れない現象である.しかし,町工場の社長は自. このような特徴から,事業経営のための業績. 分の会社のことがすべてわかっている.顧客の. 評価のしくみは,相当柔軟なものにしておく必. 要求から生産キャパシティー,在庫,キャッシ. 要がある.企業経営の部分で述べた,グループ. ュ・フローまで,時には社員の健康状態まで,. 内の情報の集め方という点は不変であるが,そ. すべてを把握している.業績評価システムは,. の提供の仕方はその時々で変わるものである.. 大企業をあたかも町工場のように経営するため. したがって情報提供の機能については,ユーザ. の道具であるべきなのである.. ーが自分で情報を抽出,加工しやすいものにし ておく事が望ましい.. 〔ぬくい せいいちろう アクセンチュア株式会社・パートナー〕.
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