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<論説>集合的・公共的利益に対する私法上の権利の法的構成についての一考察(4)

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Academic year: 2021

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(1)集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の法 的 構 成 に つ い て の 一・ 考 察(4)***. 第一章. 澤. 俊. 召 田. 宮. 本 稿 にお け る考 察 の 目的 と構 成. 第一節. 本 稿 の 目的. 第二節. 集 合 的 ・公 共 的利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 の理 論 的 構 築 に向 けた 考 察 の 視 角 一 私 権 と して の 環 境 権 を め ぐる議 論 の 検 討 か ら. 第三節. 本 稿 の 構 成 一 「行 政 法 理 論 と の 関係 」 と 「 根 拠 とな る民 法 理 論 」 の 提 示. 第二章. 行 政 法 理 論 と の 関係 に お い て集 合 的 ・公 共 的 利益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の持つ意味. 第一節. 問 題 の 所 在 と本 章 の 構 成. 第二節. 民 法 理 論 と行 政 法 理 論 の交 錯 領 域 に お け る集合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の存 在 意 義 一 環 境 秩 序 に対 す る私 人 の 役 割 に 関 す る議 論 の 整 理 を 基 礎 にお い て. 第 三 節 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る私 法 上 の権 利 を 論 じる必 要 性 一 私 人 に よ る行 政 訴 訟 を 通 じた 秩 序 維 持 の 検 討 か ら(以 上54巻3号) 第三章. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 根 拠 とな る民 法 理 論. 第一節. 問 題 の 構 造 と本 章 の構 成 一 民 法 と憲 法 の 関 係 に つ い て の 理 論 的 枠 組 を 基 礎 と して. 第二節. 集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 思 想 的 ・哲 学 的 基 礎 一 民 法 学 と公 共 哲 学(以 上54巻4号). 第三節. 集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 法 的 構 成 一 法 技 術. 的 概 念 と して の 「私 法 上 の 権 利 」 を 基 礎 と して 一 .は じめ に 二.「 私 法 上 の 権 利 」と して 表 現 す る とい う こ との 意 味一 法 技 術 的 概 念 と し て の 「権 利 」(以 上56巻3号) 三.集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 法 的 構 成 一 そ の 要 件 と効 果 (1)は. じめ に. 31.

(2) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. (2)考 察 の 方 法 (3)第 一 次 的 権 利(地 位 的権 利)と. して の集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に. 対 す る私 法 上 の 権 利(以 上 本 号) (4)集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 に基 づ く第 二 次 的 権 利(道 具 的 権 利)(以. 下 次 号). (5)民 事 実 体 法 に外 在 的 な 視 点 か らの 考 察 第四章. 本 稿 の 結 論 と今 後 の 課 題. 第三章. 集合的 ・公共 的利益の維持 に対する私法上の権利の. 根拠 となる民法理論 第三 節. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 法技 術 的概 念 と して の 「私 法 上 の権 利 」 を基 礎 と して(承 前). 三.集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成. そ. の 要 件 と効 果 (1)は. じめ に. 本 節 三.で. は,こ れ まで の 考 察 を 基 礎 に お いて,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の. 維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を 明 らか にす る。 以 下,(2)に お い て,こ れ まで の 考 察 を 概 観 した後,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を 明 らか にす る た めの 考 察 の 方 法 を 示 し,(3)に お い て,具 体 的 な 考 察 を 行 い,そ の 要 件 と効 果 を 含 め た法 的 構 成 を 明 らか にす る。 (2)考 察 の 方 法 (a)集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 基 礎. これ まで の 考. 察の概観 本 稿 は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を 明 らか *本稿 は. ,科 学 研 究 費 補 助 金(研 究 課 題 番 号:16730059)お. よ び科 学 研 究 費 補 助. 金(研 究 課 題 番 号:20730082)に よ る研 究 成 果 の 一 部 で あ る。 **本 稿 に お い て は敬 称 を 略 させ て い た だ き ま した 。. 32.

(3) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(4). にす る こ とを 目的 と して い る㈹。 本 稿 第一 章 にお いて は,本 稿 に お け る考 察 の 視 角 を 導 きだ す た め に,私 権 と して の 環 境 権 に関 す る議 論 につ いて 検 討 を 加 え た㈹。 この 検 討 の 結 果,次 の 二 つ の 考 察 の 視 角 を導 き だ した。 第 一一 が,行 政 法 理 論 との 関 係 の 中で 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の持 つ意 味 を 明 らか にす る,と い う考 察 の 視 角 で あ る㈹。 この 視 角 か らの 考 察 は,次 の 二 つ の 論 点 につ いて 行 わ れ る必 要 が あ る。 一 つ 目の 論 点 は,個 人 に専 属 的 に帰 属 しな い集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 して,私 人 が 私 法 上 の 権 利 を通 じて 関 与 す る こ と を 根 拠 づ け る私 法 上 の 権 利 の 存 在 意 義 を,民 法 理 論 の み な らず 行 政 法 理 論 を も踏 まえ て,よ. り具 体 的 に法 体 系 の. 中で 示 す こ とで あ る㈹。 二 つ 目の論 点 は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の実 現 を, 行 政 訴 訟 を 通 じて で はな く,私 法 上 の 権 利 を 基 礎 と した 民 事 訴 訟 を 通 じて 行 う必 要 性 を 提 示 す る こ とで あ る㈹。 第 二 の 考 察 の 視 角 は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 根 拠 と な る民 法 理 論 を 明 確 に提 示 す る,と い う視 角 で あ る鱒。 この視 角 か らの 考 察 を 行 う に あ た って は,私 法 上 の 権 利 と は何 で あ るの か,そ. して そ の 私. 法 上 の 権 利 と認 め られ た場 合 にな ぜ 私 人 が 民 事 裁 判 を 通 じて そ の 実 現 を 強 制 で き るの か,と. い う問 題 を それ ぞ れ 根 拠 づ け る基 礎 理 論 に基 づ いて,私. 法 上 の 権 利 と して 認 め られ るか 否 か を 論 じる,と い う方 法 が と られ な けれ ばな らな い㈹。 本 稿 第 二 章 で は,前 述 の 第 一一 の 視 角 か ら行 政 法 理 論 との 関 係 につ いて の ⑳. 本 稿 第 一 章 第 一 節(宮. 澤俊昭. 「集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 対 す る 私 法 上 の 権 利 の. 法 的 構 成 に つ い て の 一 考 察(1)」 近 法54巻3号86(325)頁(2006年))参. 照。. ㈱. 本 稿 第 一 章 第 二 節(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲87(324)-99(312)頁)参. 働. 本 稿 第 一 章 第 二 節 二.(宮. ㈹. 本 稿 第 一 章 第 二 節 三.(2)(a)(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲101(310)頁)参. ⑳. 本 稿 第 一 章 第 二 節 三.(2)(b)(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲101(310)頁)参. 鋤. 本 稿 第 一 章 第 二 節 三.(3)(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲102(309)頁)参. ㈲. 本 稿 第 一 章 第 二 節 三.(3)(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲102(309)-103(308)頁)参. 澤 ・前 掲 注 ㈹100(311)頁)参. 33. 照。 照。 照。 照。 照。 照。.

(4) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 考 察 を行 っ た。 具 体 的 に は,ま ず,そ の 第 二 節 に お いて,民 法 理 論 と行 政 法 理 論 の 交 錯 領 域 に お け る集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 位 置 づ け お よ び そ の存 在 意 義 につ い て考 察 した。 こ の考 察 の 基 礎 と して,「 秩 序 形 成 に対 す る私 人 の 位 置 づ け」 と 「秩 序 維 持 に対 す る私 人 の 位 置 づ け」 と い う二 つ の 視 点 か らの 環 境 利 益 に関 わ る議 論 の 整 理 ・ 検 討 を行 った㈲。 そ して,本 稿 で 考 察 の 対 象 とす る 「集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 」 が,私 人 に よ る民 事 訴 訟 を 通 じた秩 序 維 持 にか か わ る議 論 と して 位 置 づ け られ る こ と(集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 ㈹),お よ び私 人 の 自 己の 私 的 利 益 の 擁 護 を 目的 と した既 存 の 私 法 上 の 権 利 で はな い こ と,を 導 き だ した㈹。 第 二 章 第 三 節 に お いて は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,行 政 訴 訟 で はな く, 私 法 上 の 権 利 を 基 礎 と した民 事 訴 訟 を 通 じて 実 現 され る必 要 性 につ いて 考 察 を加 え た㈲。 そ して,2004年 の 行政 事 件 訴 訟 法 の 改正 を通 じた 「義 務 付 け の 訴 え 」 の 法 定 化 に よ って 私 人 に よ る行 政 訴 訟 を 通 じた秩 序 維 持 が 達 成 さ れ る範 囲 が 飛 躍 的 に大 き くな るが,さ. らに義 務 付 けの 訴 え の 先 に あ る行 政. 上 の 強 制 執 行 制 度 が 十 分 に実 効 性 を 備 え て い るか と い う点 も問 題 とな る こ と㈹,お よ びそ の 行 政 上 の 強 制 執 行 制 度 に機 能 不 全 が 存 在 して い る こ と㈹, ⑳. 本 稿 第 二 章 第 二 節 二.(宮. 澤 ・前 掲 注 働106(305)-119(292)頁)参. 照。な. お,本 稿 で は 「秩 序 」 を 「実 現 さ れ な け れ ば実 力 と して の 強 制 力 を 通 じて 実 現 され う る と い う性 質 を 持 つ 規 範 の 集 合 」 と い う意 味 で,「 秩 序 形 成 」 を 「秩 序 に 含 まれ る規 範 の 内 容 を 決 定 す る こ と」 の意 味 で,「秩 序 維 持 」 を 「秩 序 違 反 が 生 じた 場 合 に その 違 反 を是 正 す る こ と」 の意 味 で,そ れ ぞ れ用 い て い る(宮 澤 ・ 前 掲 注 ㈲105(306)頁)。 ㈹. これ は,私 人 が,集 合 的 ・公 共 的利 益 に 関 して形 成 され た 秩序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を,そ の主 体 に対 す る民 事 訴 訟 を 通 じて 直 接 的 に実 現 す る とい う意 味 内 容 を 持 つ(宮 澤 ・前 掲 注 ㈲123(288)頁)。. ㈹. 本 稿 第 二 章 第 二 節 二.(宮. ㈲. 本 稿 第 二 章 第 三 節.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲120(291)-121(290)頁)参. 澤 ・前 掲 注 ㈲122(289)-163(248)頁)参. 34. 照。 照。.

(5) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. を それ ぞ れ 明 らか に した。 これ らの 考 察 か ら,少 な くと も現 在 の 状 況 にお いて は,私 人 に よ る行 政 訴 訟 を 通 じた秩 序 維 持 で は完 全 で はな く,私 人 に よ る民 事 訴 訟 を 通 じた秩 序 維 持 に よ って 補 完 され る必 要 が あ る,と の 結 論 を 導 きだ した醐。 続 いて,本 稿 第 三 章 に お いて は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 根 拠 とな る民 法 理 論 の 明 示,と. い う視 角 か らの 考 察 を行 っ. た働。 その 第 一一 節 に お いて,筆 者(宮 澤)の 提 示 した民 法 と憲 法 の 関 係 につ い て の 理 論 的 枠 組 ㈹ を 基礎 にお い て,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 を 根 拠 づ け る民 法 理 論 の 明 示 の た め に論 じな けれ ばな らな い論 点 はな にか,と い う意 味 に お け る 問題 の構 造 を示 す た め の考 察 を行 った㈹。 その 結 果 と して,ま ず,こ の 権 利 を 「私 法 秩 序 の 表 現 と して 当 事 者 に認 め られ る私 法 上 の 権 利 」 と して理 論 的 に 構 成 す る必 要 の あ る こ とが 示 され た鱒。 さ らに,こ の理 論 構 成 の も とで,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る こ とを 基 礎 づ け る規 範(以 下 「集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る規 範 」 と表 現)が,思. 想 的 ・哲 学 的 に正 当化 され う る こ と,お よ び,そ. の 規 範 が 「権 利 」 と 「義 務 」 の 関 係 と い う法 技 術 的 構 成 の も とで 私 法 上 の 鱒. 本 稿 第 二 章 第 三 節 四.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈹162(249)-163(248)頁)参. ㈹. 本 稿 第 二 章 第 三 節 四.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈹163(248)頁)参. 照。. ㈹. 本 稿 第 二 章 第 三 節 四.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲163(248)頁)参. 照。. ⑳. 本 稿 第 三 章 第 一 節 一.(宮. 澤 俊 昭 「集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 対 す る私 法 上 の 権. 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(2)」近 法54巻4号60頁(2007年))参 働. 詳 細 につ いて は,宮 澤 俊 昭 『国家 に よ る権 利 実 現 の 基礎 理 論 民 法 を 制 定 す るの か 」(勤 草 書 房,2008年)を. 照。. 照。 なぜ国家は. 参照。. ㈱. 本 稿 第 三 章 第 一 節(宮 澤 ・前 掲 注 働60-70頁)参. 働. 本 稿 第 三 章 第 一 節 三.(1)(宮. 照。. 澤 ・前 掲 注 働66-67頁)参. 照。本 稿 に お け る. 「私 法 秩 序 の 表 現 と して 当 事 者 に認 め られ る私 法 上 の 権 利 」の 持 つ 意 味 につ いて は宮 澤 ・前 掲 注 働61-66頁 を,よ. り詳 し くは宮 澤 ・前 掲 注 働 参 照 。. 35.

(6) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 権 利 と して 表 現 で き る こ と,が それ ぞ れ 示 され な けれ ばな らな い こ と も導 か れ た脚。 以 上 の 考 察 を 基 礎 と して,ま ず,第 二 節 に お いて,近 年 提 唱 され て い る 公 共 哲 学 の 議 論 の 整 理 ・検 討 を 通 じて,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 思 想 的 ・哲 学 的正 当化 の た めの 考 察 を行 った脚。 そ の 帰 結 と して,公 共 哲 学 に よ って 示 され る 「公 共 性 」 の 概 念,人 間 像,お. よび. 「間 発 的 思 考 」 と い う思 考 方 法 に よ って,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の実 現 を 基 礎 づ け る規 範 が 正 当 化 され うる と結 論 づ け た脚。 な お,こ の公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」 に よ って 基 礎 づ け られ,か つ 民 法 の 規 律 の 対 象 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 は,① 複 数 の 私 人 の 集 合 につ いて,そ の 集 合 に属 す る私 人 に も関 わ り,か つ その 集 合 全 体 に もか か わ る利 益 で あ る こ と,② 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら一 定 の 市 民 に対 して 個 別 に 利 益 が 割 り当 て られ て い る,と い う意 味 に お いて 市 民 個 人 の 私 的 利 益 の 個 別 性 が 維 持 され て い る こ と,③ 広 中俊 雄 の 示 す 市 民 社 会 論 の枠 組 に お け る 「競 争 秩 序 」 「生 活 利 益 秩 序 」 に含 まれ る利 益 で あ る こ と,と い う性 質 を持 って い る必 要 が あ る㈹。 さ らに,こ の よ うな 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る規 範 が 公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」 お よ び 「活 私 」 と い う概 念 に よ って 正 当化 され る こ とか ら,次 の 三 つ の 条 件 を 考 慮 す る必 要 も あ る。 それ は,① 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る に あ た って は,当 該 私 人 が,当 該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に含 まれ て い る個 別 の 利 益 を 保 持 して い る こ と,② 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 実 現 す る に際 して,問 題 とな って い る集 合 的 ・公 共 的 利 益 を 独 占的 に享 ㈱. 本 稿 第 三 章 第 一 節 三.(2)(宮. 脚. 本 稿 第 三 章 第 二 節(宮 澤 ・前 掲 注 働70-126頁)参. 澤 ・前 掲 注 働67-69頁)参. ㈲. 本 稿 第 三 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注 働124-126頁)参. 照。. 脚. 本 稿 第 三 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲124-126頁)参. 照。. 36. 照。. 照。.

(7) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 受 す る と い う結 果 の 導 か れ な い こ と,お よ び,当 該 義 務 を 当 該 私 人 が 自 ら も遵 守 して い る こ と,③ 公 法 と私 法 の 間 に立 って 「間 発 的 思 考 」 を 基 礎 と した思 考 様 式 を と る こ と,で あ る醐。 続 いて,第 三 節 二.に. お いて,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る. 規 範 が,私 法 上 の 権 利 と して 法 技 術 的 に表 現 で き るの か,と. い う問 題 意 識. の も と に,「私 法 上 の権 利 」と して 表 現 す る こ との 意 味 につ いて 考 察 を 行 っ た㈹。 こ こで は まず,私 法 上 の 「権 利 」 とい う 「こ と ば」 の意 味 ・機 能 に 関 す る検 討 を 行 っ た㈹。 この 検 討 か ら,従 来 の議 論 に お け る共 通 点 と して, 私 法 上 の 権 利 が,一 一 定 の 利 益 を 享 受 す る資 格 と して の 第 一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)と,そ. れ を 実 現 す る た め に発 生 す る第 二 次 的 権 利(道 具 的 権 利). と い う二 段 階 に 分 けて 考 え られ て い る こ とが まず 示 さ れ る㈹。 しか し従 来 の 議 論 に お いて,第 一一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)と. しう る法 的 地 位 に は,あ. くまで も一一 定 の 利 益 の 帰 属 な い し享 受 と い う性 質 が 求 め られ て い る。 この 点 につ いて は,ま ず,本 稿 の 前 提 とす る民 法 と憲 法 の 関 係 につ いて の 理 論 的 枠 組 お よ び本 章 第 二 節 の 考 察 か ら,「利 益 の 帰属 」 な い し 「利 益 の享 受 」 と い う要 素 の な い法 的 地 位 を 「権 利 」 と して 表 現 す る こ とを 肯 定 す るた め の 根 拠(根 拠 ①)の 存 在 が導 か れ る㈹。 他 方,「 利 益 の 帰属 」 な い し 「利 益 の 享 受 」 と い う要 素 の な い法 的 地 位 を 「権 利 」 と して 表 現 す る こ とを 否 定 す る た めの 根 拠(根 拠 ②)に つ い て は,民 事 実 体 法 理 論,民 事 訴 訟 法 理 論, 憲 法 理 論 の それ ぞ れ につ いて 考 察 を 加 え た結 果,二 つ の 留 保 を つ けた うえ で,そ. の存 在 が否 定 され る醐。 そ の第 一 の 留 保 は,民 事 訴 訟 法 理 論 の 考 察. ㈱. 本 稿 第 三 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注 ω126頁)参. ㈹. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(宮. 澤 俊 昭 「集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 対 す る私 法 上 の 権. 照。. 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(3)」近 法56巻3号41-115頁(2008年))参 ㈲. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(2)お よ び(3)(宮 澤 ・前 掲 注 ㈹44-60頁)参. ㈹. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(2)(b)(ガ(宮 澤 ・前 掲 注 働44-60頁)参. ㈹. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(3)(b)(宮 澤 ・前 掲 注 ㈲57-60頁)参. ㈲. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(4)(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈲61-115頁)参. 37. 照。 照。. 照。. 照。 照。.

(8) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. か ら示 され る もの で あ り,現 行 法 に お け る民 事 訴 訟 制 度 に お いて 「利 益 の 帰 属 ・享 受 」 と い う要 素 を も たな い法 的 地 位 の 実 現 が 可 能 か 否 か と い う技 術 的 視 点 か らの 考 察,さ. らに この 考 察 に よ って 実 現 の 可 能 性 が 否 定 され る. 場 合 に は,そ の 実 現 を 可 能 とす る制 度 の 立 法 的 導 入 と い う視 点 か らの 考 察 を必 要 とす る こ とで あ る。 第 二 の 留 保 は,憲 法 理 論 の 考 察 か ら示 され る も の で あ り,「紛 争 の解 決 の終 局 性 」 の要 件 に つ い て,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る規 範 」 か ら示 され る法 的 地 位 の 具 体 的 な 要 件 効 果 を 明 らか に した うえ で,現 行 の 民 事 訴 訟 制 度 との 関 係 で 別 個 の 考 察 を 必 要 とす る こ とで あ る醐。 (b)考 察 の 方 法 以 上(a)に示 した これ まで の 考 察 を 踏 まえ て,以 下 で の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を 明 らか にす る た めの 考 察 を 行 う。 この 考 察 に お いて は,本 節 二.(4)(a)で 示 した 通 り,「権 利 」の 語 を 「他 者 へ の強 制 力 の 行 使 を 是 認 さ れ る法 的 地 位 」 と定 義 す る㈹。 この よ うな 定 義 を用 い る こ と は,従 来 の 「権 利 」 の 定 義 か ら 「利 益 の 帰 属 ・享 受 」 と い う要 素 を 外 す こ との み を 意 味 す る。 しか し,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る権 利 は,利 益 の 帰 属 ・享 受 と い う要 素 を 持 つ 権 利 の 体 系 に は何 らの 影 響 を与 え る こ との な い よ う に,従 来 認 め られ て き た権 利 を 改 変 す る こ と な くそ れ と体 系 的 に接 合 す る よ うに構 成 され な け れ ば な らな い働。 この 点 を踏 まえ た考 察 を 行 う た め に,以 下 で は次 に示 す 五 つ の 内容 を もつ 方 法 を と る。 第 一 に,「 権 利 」 とい う 「こ とば」 を,「 他 者 へ の 強 制 力 の 行 使 を 是 認 さ れ る法 的 地 位 」 と して の 「第 一 次 的権 利(地 位 的 権 利)」 と,こ の第 一 次 ㈹. 以 上,二 112頁)参. つ の 留 保 に つ い て 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(4)(d)(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈹111-. 照。. ㈱. そ の 理 由 も 含 め て,本. ㈲. 本 節 二.④(a)(宮. 節 二.(4)(a)(宮. 澤 ・前 掲 注 働61-66頁)参. 澤 ・前 掲 注 ㈲61-66頁)参. 38. 照。. 照。.

(9) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 的 権 利(地 位 的 権 利)の. 内 容 を実 現 す る た め に発 生 す る 「第 二 次 的 権 利. (道具 的権 利)」 と い う二 段 階 に分 析 して 考 え る。 これ は,本 節 二.(2)に お いて 行 っ た 「規 範 」 と は切 り離 され た 「権 利 」 と い う 「こ と ば」 そ の もの の 持 つ 意 味 ・機 能 につ いて の 考 察 か ら,従 来 の 議 論 の 共 通 点 と して 導 き 出 した 内容 に従 う もの で あ る。 第 二 に,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を,現 在 の 議 論 に お いて 債 権 お よ び物 権 につ いて 示 され て い る法 的 構 成 と 同 じ構 造 の も と に示 す こ と,お よ び その 内容 を 債 権 お よ び物 権 につ いて 示 され て い る もの と 同程 度 まで 明 確 に示 す こ とで あ る。 既 述 の とお り,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る権 利 は,利 益 の 帰 属 ・享 受 と い う要 素 を 持 つ 権 利 の 体 系 に は何 らの 影 響 を 与 え る こ との な い よ う に,従 来 認 め られ て き た権 利 を 改 変 す る こ とな くそれ と体 系 的 に接 合 す る よ う に構 成 され な け れ ば な らな い㈹。 ま た,実 力 と して の強 制 力 を 独 占 して い る立 憲 主 義 国 家 に お いて は,私 法 上 の 権 利 は,司 法 権 の 属 す る国 家 機 関(裁 判 所)が 民 事 訴 訟 と い う手 続 にの っ と り国 家 の 強 制 力 を 行 使 す る こ と に よ って 実 現 され る㈹。 こ の民 事 訴 訟 手 続 は,従 来 の議 論 に お け る 「権 利 」 の概 念 に基 づ い て 組 み 立 て られ て い る民 事 訴 訟 法 理 論 に沿 って 進 め られ る。 この よ うな 現 状 に鑑 み れ ば,現 実 に国 家 の 強 制 力 を 通 じて 実 現 され る集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を 示 す に あた って は,民 事 実 体 法 体 系 との 関 係 に お いて も,民 事 訴 訟 法 体 系 との 関 係 にお いて も,現 在, 私 法 上 の 権 利 と して 異 論 な く認 め られ て い る債 権 お よ び物 権 の 法 的 構 成 と 同 じ構 造 の も とで,同 程 度 まで 内容 を 明 確 に示 さな けれ ばな らな い㈹。. ㈹. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(4)(a)(宮 澤 ・前 掲 注 ㈲64頁)参. 照。. ㈱. 本 稿 第 三 章 第 三 節 二.(4)(a)(宮 澤 ・前 掲 注 ㈲64頁)参. 照。. ㈹. 以 上 につ いて,本 節 二. ④(a)(宮 澤 ・前 掲 注 ㈲61-66頁)参. 39. 照。.

(10) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. と は いえ,現 在 の 議 論 に お いて は,債 権 及 び物 権 につ いて,そ の 定 義, 基 本 構 造,目 的,要 件,効 力,第 二 次 的 権 利(道 具 的 権 利)の. それ ぞ れ に. つ い て,学 説 上 争 い の あ る論 点 も多 くみ られ る㈹。 ま た,そ の 内容 に関 し て は,社 会 の 変 化,時 代 の 変 遷,あ. る い は理 論 の 進 展 な ど に よ る一一 定の変. 動 の 余 地 が 認 め られ て い る と も捉 え られ う る。 これ らを 考 慮 す る と,現 在 の 私 法 学 に お いて 権 利 と して 受 け入 れ られ る た め に は,未 来 永 劫 変 わ る こ との な い黄 金 律 と して 捉 え られ る ほ どの 妥 当性 及 び普 遍 性 を 示 す 必 要 はな く,少 な くと も現 在 学 説 上 正 当か つ 妥 当な もの と して 受 け入 れ られ て い る 債 権 お よ び物 権 の 法 的 構 成 と 同程 度 の 妥 当性 及 び普 遍 性 を 提 示 す る こ とが 要 求 され,ま. た それ で 十 分 で あ る と考 え られ る。. そ こで,こ の よ うな 妥 当性 ・普 遍 性 の 水 準 を 確 保 す る た め に,以 下 の 考 察 で は,次 の よ うな 方 法 を と る。 まず,私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ いて 示 さな けれ ばな らな い点 と して,第 一一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)の 定 義 ・基 本 構 造 ・目的(客 体)・ 要 件 ・効 力,お. よ び 第 二 次 的 権 利(道 具 的権 利). の 種 類 ・要 件 を 掲 げ,そ れ ぞ れ の 内容 を 明 らか にす る。 さ らに,こ れ らの 点 の う ち第 一一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)の 効 力,お. よ び第 二 次 的 権 利(道 具. 的 権 利)の 種 類 ・要 件 につ いて は,現 在 の 民 事 訴 訟 手 続 を 通 じて 実 現 され う るか,と. い う問 題 と特 に密 接 にか か わ る。 その た め,こ の それ ぞ れ の 内. 容 につ いて は,現 在 の 民 事 訴 訟 手 続 を 通 じて 異 論 な く実 現 され て い る債 権 と物 権 の それ ぞ れ で 示 され て い る 内容 と比 較 す る こ とを 通 じて 示 す 。 第 三 に,結 論 を 先 取 りす る こ と にな って しま うが,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 目的(客 体)の 検 討 の 基 礎 と して,国 家 ・. ⑳. 例 え ば,債 権 の定 義 お よ び基 本 構 造 に か か わ る議 論 の 展 開 に つ い て,奥 道 編 『新 版 注 釈 民 法(1①1債 筆 〕(有 斐 閣,2003年)参. 権(1)債権 の 目的 ・効 力(1)』2-32頁. 照。. 40. 田昌. 〔 潮見佳 男執.

(11) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 地 方 公 共 団 体 に よ って 形 成 され た秩 序,合 意 に よ って 形 成 され た 秩 序,慣 習 法 に よ って 形 成 され た秩 序 と い う三 つ の 類 型 を た て,そ れ ぞ れ につ いて その 構 成 を 示 す 。 債 権 及 び物 権 に関 して は一一 定 の 類 型 化 が な され,そ れ ぞ れ の 類 型 に対 す る要 件 が示 され て い る幽。 こ こ で 問題 とな るの が,債 権 及 び物 権 は,長 い 歴 史 の 中で 形 成 され て き た もの で あ る た め,こ の 類 型 化 は,理 論 的 な 側 面 か らの み で な く,具 体 的 適 用 事 例 の 歴 史 的 積 み 重 ね を 基 礎 と した 類 型 化 で あ る と捉 え られ う る点 で あ る。 これ に対 して,本 稿 で 考 察 の 目的 と して い る集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 は,未 だ 具 体 的 事 例 に お いて 問 題 と され て こな か っ た もの で あ る。 その た め,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る権 利 が 問 題 とな る具 体 的 事 例 を 列 挙 した うえ で,そ れ を 類 型 化 し,そ れ ぞ れ につ いて 個 別 に要 件 の 内容 を 考 察 す る と い う こ と は, 現 時 点 で は不 可 能 で あ る。 そ こで,以 下 に お け る集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 に関 す る考 察 で は,本 稿 第 二 章 第 二 節(2)にお いて 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 す る秩 序 形 成 につ いて 示 した三 つ の 類 型(国 家 ・地 方 公 共 団 体 に よ る秩 序 形 成,合 意 に よ る秩 序 形 成,慣 習 法 に よ る秩 序 形 成)㈹ の そ れ ぞ れ を 以 下 の 考 察 に お いて も一一 つ の 類 型 と捉 え,そ れ ぞ れ につ いて の 要 件 を 提 示 す る㈹。 も し,本 稿 の 考 察 に お い て示 す 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に. ㈹. 民 法 典 に規 定 され て い る もの だ けで も,所 有 権,地 上 権,永 小 作権,地 役 権, 留 置 権,先 取 特 権,質 権,抵. 当権 の ほ か,占 有 権 に つ い て の 規 定 が お か れ て い. る。 また,債 権 につ い て の第 三 編 に お い て は,契 約,事 務 管 理,不 当 利 得,不 法 行 為 につ いて の規 定 が お か れ て お り,契 約 に 関 して は,さ. らに 個 別 の 類 型 に. つ いて の 規 定 が お か れ て い る。 ㈹. 宮 澤 ・前 掲 注 ㈲106(305)-111(300)頁. ㈹. な お,本 稿 に お いて 「秩 序 」 の語 は 「実 現 さ れ な け れ ば実 力 と して の 強 制 力. 参照。. を 通 じて 実 現 され う る と い う性 質 を持 つ 規 範 の集 合 」 とい う意 味 で 用 い て い る こ と につ い て,本 稿 第 二 章 第 二 節 一・.(宮 澤 ・前 掲 注 ㈲105(306)頁)参. 41. 照。.

(12) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 が,仮. に正 当か つ 妥 当な もの と して 一般 に. 是 認 され,具 体 的 な 事 例 に適 用 され る こ と にな っ た と したな らば,そ の よ うな 具 体 的 事 例 につ いて 更 な る考 察 を 行 い,そ れ ぞ れ の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 特 徴 を 踏 まえ て 類 型 につ いて の 精 緻 な 検 討 を 行 って い くこ とを 今 後 の 課 題 とす る。 第 四 に,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 につ いて,以 下 に示 す 法 的 構 成 に限 定 され る,と い う こ と まで は正 当化 しな い。 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して は,環 境 法 の 分 野 な ど に お いて 考 察 が 深 め られ て お り,そ れ を 目的 と した私 法 上 の 権 利 につ いて も,さ ま ざ まな 見 解 が 示 さ れ て い る㈹。 以 下 で 示 す 法 的構 成 は,あ. くまで も,本 稿 の これ まで. の 考 察 に基 づ いて 私 法 上 の 権 利 と して 正 当化 され う る と考 え られ るの で あ り,そ れ 以 上 の 内容 は含 まな い。 す な わ ち,以 下 に示 す 法 的 構 成 以 外 の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 わ る私 法 上 の 権 利 は,そ れ が そ れ と して 正 当化 さ れ,か つ 以 下 に示 す 法 的 構 成 と矛 盾 しな い限 りに お いて,本 稿 に示 す 私 法 上 の 権 利 と並 列 の 関 係 に立 つ ㈹。 第 五 は,本 節 二.(4)(d)に 示 した民 事 訴 訟 法 理 論 か ら導 か れ た留 保,お. よ. び憲 法 理 論 か ら導 か れ た留 保 を,民 事 実 体 法 に 外 在 的 な 問 題 と位 置 づ け る劒。 そ して,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に 対 す る私 法 上 の権 利 の 法 的 構 ㈲. 本 稿 第 一 章 第 二 節 二.(宮. ㈲. な お,こ の よ う に複 数 の法 的構 成 の並 立 を認 め る と,債 務 不 履 行 責 任 と不 法. 澤 ・前 掲 注 ㈲87(324)-99(312)頁)参. 照。. 行 為 責 任 と の間 の関 係 の よ う に,請 求 権 競 合 の 問題 が発 生 し う る。 しか し,本 稿 執 筆 の 時 点 で 集 合 的 ・公 共 的利 益 に対 す る私 法 上 の権 利 は 未 だ 承 認 され て い な い 状 況 に あ るた め に,本 稿 で は この 問 題 につ いて は考 察 の 対 象 に含 まな い 。 ㈲. 民 事 訴 訟 法 理 論 か ら導 か れ た留 保 は,現 行 法 に お け る民事 訴訟 制 度 にお いて 「利 益 の帰 属 ・享 受 」 と い う要 素 を 持 た な い法 的 地 位 の実 現 が 可 能 か否 か とい う技 術 的 視 点 か らの 考 察,さ. らに こ の考 察 に よ って実 現 の 可 能性 が 否 定 され る. 場 合 に は,そ の 実 現 を可 能 とす る制 度 の立 法 的導 入 とい う視 点 か らの 考 察 が 必 要 とな る こ とで あ る。 憲 法 理 論 か ら導 か れ た留 保 は,司 法権 の 要 件 と して 示 さ れ る 「紛 争 の解 決 の 終 局 性 」 と い う視 点 か らの考 察 が必 要 とな る こ とで あ る。/. 42.

(13) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 成 を 示 した後 に,そ れ ぞ れ 現 在 の 日本 法 体 系 の も とで 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 解 釈 論 と して の 実 現 可 能 性 に関 わ る問 題 と して 考 察 を 行 う。 (3)第 一一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)と. して の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に. 対 す る私 法 上 の 権 利 (a)定. 義. 本 章 第 二 節 に お け る考 察 か ら,公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」 お よ び 「活 私 」 と い う概 念 を 思 想 的 ・哲 学 的 な 基 礎 と して,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を,そ の 主 体 に対 す る民 事 訴 訟 を 通 じて 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る こ とを 基 礎 づ け る規 範 (集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を基 礎 づ け る規 範)が 正 当 化 さ れ る,と の 結 論 を導 き 出 した㈹。 この 規 範 か らは,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 して 形 成 さ れ た秩 序 に よ って 一一 定 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 と,そ れ を 実 現 す るた め の私 人 の法 的 地 位 が 観 念 さ れ る㈹。 この 法 的 地 位 が,第 一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)と. して の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 と し. て 表 現 され る こ と にな る。 以 上 か ら,集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 は,「集 合 的 ・ 公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に基 づ いて 義 務 を 課 せ られ て い る主 体 が その 義 務 に違 反 して い る場 合 に,そ の 義 務 を 負 って い る主 体 に対 して, その 違 反 して い る状 態 の 是 正 を 求 め る こ との で き る地 位 」 と定 義 され る。. \ この 二 つ の 留 保 事 項 は,い ず れ も集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の 具 体 的 な 要 件 と効 果 が 明 らか に な らな け れ ば考 察 す る こ とが で きな い た あ に留 保 した 事 項 で あ る(以 上 につ き,本 節 二.(4)(d)(宮 澤 ・前 掲 注 ㈹111-112 頁)参 照)。 ㈹. 考 察 の 概 要 につ い て は本 章 第 二 節 五.(宮. ㈹. 本 章 第 三 節 二.(3)(a)ω(宮. 澤 ・前 掲 注 ω124-126頁)参. 澤 ・前 掲 注 ㈲58頁)参. 43. 照。. 照。.

(14) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. (b)基 本 構 造 前 述(a)に示 した よ うな 定 義 を もつ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の基 本 構 造 は,他 方 当 事 者(Y)が. 集 合 的 ・公 共 的利 益 の 実 現. を基 礎 づ け る規 範 に基 づ いて 何 らか の 義 務 が 課 せ られ て い る と き に,Yに 対 して 当該 義 務 の遵 守 を 求 め る権 利 を 一 方 当事 者(X)が. 得 る とい う関 係. で あ る㈹。 (c)目 的(客 体) 前 述(a)に見 た よ う に,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る規 範 に違 反 して い る状 態 の 是 正 を直 接 他 の 主 体 に求 め る権 利 で あ る。 そ こで,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 目的(客 体)は,「. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 し. て 形 成 され た秩 序 に基 づ いて 義 務 づ け られ る作 為 ま た は不 作 為 」 と い う こ と に な る㈲。 な お,こ の 規 範 に よ って実 現 され る集 合 的 ・公 共 的利 益 は, 公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」 に よ って 基 礎 づ け られ,か つ 民 法 の 規 律 の 対 象 にな る必 要 が あ る㈹。 (d)要. 件醐. Oり 定 義 か ら導 か れ る要 件 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 は,集 合 的 ・公 共 的 利 ㈹. な お,本 稿 に お い て,私 人 に よ る民 事 訴 訟 を通 じた秩 序維 持 の 実 現 を 基 礎 づ け る私 法 上 の権 利 と して の 「集 合 的 ・公 共 的利 益 に 対 す る私 法上 の 権 利 」 の 構 築 を 考 察 の 対 象 と して い た こ と につ いて,本 稿 第 一 章 第 三 節 四.(3)も 参 照 。. ㈹. な お,集 合 的 ・公 共 的利 益 の実 現 を基 礎 づ け る規 範 とは,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って他 の主 体 に課 せ られ て い る義 務 を,そ の 主 体 に対 す る民 事 訴 訟 を通 じて私 人 が直 接 的 に実 現 す る こ とを 基礎 づ け る規 範 」 を 意 味 す る。. ㈹. 本 章 第 二 節 五.(宮. ㈹. な お,本 稿 の 考 察 に お い て 「 要 件 」 と い う場 合 に は,山 野 目章 夫 「要 件 事 実. 澤 ・前 掲 注 働125頁)参. 照。. 論 の 民 法 学 へ の 示 唆(1)」大 塚 直=後 藤 巻 則=山 野 目章 夫 「要 件事 実 論 と民 法 学 との 対 話 」5-16頁(商. 事 法務,2005年)の. 44. い う と ころ の 「本 質 提 示 の た め の 制/.

(15) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(4). 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る規 範 に基 づ いて 義 務 を 課 せ られ て い る主 体 が そ の 義 務 に違 反 して い る場 合 に,そ の 義 務 を 負 って い る主 体 に対 して,そ の 違 反 して い る状 態 の 是 正 を 求 め る こ との で き る地 位,と 定 義 さ れ る醐。 この 定 義 か ら,「 集 合 的 ・公 共 的利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に 基 づ く義 務 が 存 在 して い る こ と」 が 要 件 と して 導 か れ る。 な お,本 稿 に お いて は,「 秩 序 」 を,「 実 現 され な けれ ば実 力 と して の 強 制 力 を 通 じて 実 現 され う る と い う性 質 を 持 つ 規 範 の 集 合 」 と い う意 味 で 用 いて い る㈹。 そ の た め,実 力 と して の強 制 力 を 通 じて 実 現 さ れ え な い 義 務 で あ るな らば,こ の 定 義 か ら導 か れ る要 件 を 満 た さな い こ と とな る。 (イ)思 想 的 ・哲 学 的 基 礎 か ら導 か れ る要 件 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 は,公 共 哲 学 の 「公 共 性 」 お よ び 「活 私 」 と い う概 念 を 思 想 的 ・哲 学 的 基 礎 と して い る。 まず,こ の 権 利 に よ って 実 現 され る集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」 に よ って 基 礎 づ け られ,か つ 民 法 の 規 律 の 対 象 とな る必 要 が あ る㈹。 そ の た め,対 象 と な る集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,① 複 数 の 私 人 の 集 合 につ いて,そ の 集 合 に属 す る私 人 に も関 わ り,か つ そ の 集 合 全 体 に もか か わ る利 益 で あ る こ と,② 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら一 定 の 市 民 に 対 して 個 別 に利 益 が 割 り当て られ て い る,と い う意 味 にお いて 市 民 個 人 の 私 的 利 益 の 個 別 性 が 維 持 され て い る こ と,③ 広 中俊 雄 の 示 す 市 民 社 会 論 の \ 度 記 述 」 と して の要 件 を意 味 す る。 個 別 の事 実 の主 張責 任 ・立 証 責 任 の 所 在 を 指 示 す るた めの 「訴 訟 実 践 の た め の制 度 記 述 」 と して の 要件 の 提 示 も重 要 とな る こ と も十 分 に 認 識 して い る が,未 だ 具 体 的 事 例 に お い て 問 題 と され て い な か っ た 私 法 上 の 権 利 を 新 た に 構 築 し よ う とす る本 稿 に お い て は,ま ず,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る権 利 の趣 旨 を 明確 に す る こ とを 目的 と して,本 質 提 示 の た めの 制 度 記 述 を行 う。 訴 訟 に お け る主 張 ・立 証 責 任 の 分 配 を 明 らか にす る訴 訟 実 践 の た め の 制 度 記 述 に向 けた 考 察 は,今 後 の 課 題 と した い 。 ㈹. 前 述(a)参照 。. ㈹. 本 稿 第 二 章 第 二 節 一.(宮. ㈹. 本 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈹105(306)頁)参. 澤 ・前 掲 注 ㈲125頁)参. 45. 照。. 照。.

(16) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 枠 組 に お け る 「競 争 秩 序 」 「生 活 利 益 秩 序 」 に含 ま れ る利 益 で あ る こ と, と い う性 質 を 備 え て いな け れ ば な らな い㈲。 これ らは,そ の ま ま 第一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)と. して の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の. 権 利 の 要 件 と して 位 置 づ け られ る。 さ らに,公 共 哲 学 の 「公 共 性 」 お よ び 「活 私 」 とい う概 念 を根 拠 と して, 次 の三 つ の条 件 を 考 慮 す る必 要 もあ る醐。 そ れ は,① 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る に あ た って は,当 該 私 人 が,当 該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 含 まれ て い る個 別 の 利 益 を 保 持 して い る こ と,② 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 実 現 す る に際 して,問 題 とな って い る集 合 的 ・公 共 的 利 益 を 独 占的 に享 受 す る と い う結 果 の 導 か れ な い こ と,お よ び,当 該 義 務 を 当該 私 人 が 自 らも遵 守 して い る こ と㈹,③ 公 法 と私 法 の 間 に 立 って 「間 発 的 思 考 」 を基 礎 と した 思 考 様 式 を と る こ と,で あ る㈹。 こ れ らの うち,③. に示 した 条 件 と して 採 用 が 求 め られ る 間 発 的 思 考 と. は,そ の 前 提 と して の 法 的 構 成 を 導 出す る に あ た って 求 め られ る思 考 様 式 で あ る。 その た め,こ の 条 件 は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 要 件 と して 実 体 化 され ず,特. に公 法 との 関 係 で 要 件 を 導 きだ す. に あ た って,間 発 的 思 考 に従 って 考 察 を 進 めな けれ ばな らな い,と い うか た ちで 現 れ る㈹。 ㈲. 本 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注 働125頁)参. 照。. ㈹. 本 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注 働126頁)参. 照。. ㈹. な お,当 該 私 人 が,当 該 規 範 を根 拠 とす る義 務 を 負 って い な い 場 合 には,こ の 点 は考 慮 の対 象 と な らな い(本 稿 第 三 章 第 二 節 四.(4)(c)(イ)ii)注 ㈹(宮 澤 ・ 前 掲 注 働122-123頁)参. ㈹. 照)。. 本 稿 第 三 章 第 二 節 五.(宮. 澤 ・前 掲 注働126頁)参. して は,本 稿 第 三 章 第 二 節 三.(4)(宮 ㈹. 照。 な お,問 発 的 思 考 に関. 澤 ・前 掲 注 ⑳95-97頁)を. 参照。. な お,公 法 と私 法 の関 係 につ い て,間 発 的思 考 は,公 法 と私 法 の い ず れ の 領/. 46.

(17) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(4). 他 方,①. お よ び② は実 体 法 的 に満 た され て い るか 否 か の 審 査 を 必 要 とす. る 内容 で あ り,こ れ を 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 要 件 と して 位 置 づ け る必 要 が あ る。 しか し,① の条 件 に つ い て は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 が,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 す る秩 序 の 形 成 の 形 態 ご と にそ れ ぞ れ 異 な る特 徴 を 持 ち合 わ せ て い る こ とが 重 要 な 意 味 を持 つ㈹。 そ の た め,ど の よ うな 形 で 個 別 の 利 益 を 保 持 して い る必 要 が あ るの か,と て,こ. い う点 につ い. こで 要 件 と して 示 す こ と は適 当で はな い。 この 条 件 につ いて は,後. 述(ウ)にお いて 考 察 の 対 象 とす る 目的(客 体)を 基 礎 づ け る秩 序 の 特 徴 と あ わ せ て,間 発 的 思 考 に従 っ た考 察 を 行 う こ と に よ って 要 件 と して 実 体 化 さ せ る。 これ に対 して,② の 条 件 につ いて は,そ の 内容 を 二 つ に分 けて 考 え る こ とが で き る。 一一 つ は,問 題 とな って い る集 合 的 ・公 共 的 利 益 を 独 占的 に享 受 す る と い う結 果 の 導 か れ な い こ と,も う一一 つ は,当 該 義 務 を 当 該 私 人 が 自 らも遵 守 して い る こ とで あ る。 この う ち,後 者 に関 して は,第 一 次 的 権 利(地 位 的 権 利)と. して の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る権 利 が 成 立. す るか 否 か と い う段 階 の 問 題 で あ り,そ の ま ま要 件 と して 認 め る こ とが で き る。 しか し,前 者 は,成 立 した後 の 効 力 お よ び第 二 次 的 権 利(道 具 的 権 利)の 段 階 に お いて,利 益 の 独 占的 享 受 が 認 め られ な い と い う 内容 と して 把 握 し う る。 そ の た め,こ の 内 容 に つ い て は,効 力 お よ び第 二 次 的 権 利 (道具 的権 利)を 論 じる 際 に考 察 の対 象 とす る こ とが望 ま れ る。 以 上 の 考 察 か ら,思 想 的 ・哲 学 的 根 拠 か ら しめ され る要 件 と して,① 対 \ 域 に お い て も,一 に,他. 方 が,自. らの体 系 内部 に お い て 矛盾 しな い 議 論 で あ る と同 時. 方 の 体 系 と の 接 合 も は か り,他. い う か た ち で 現 れ る(本 参 照)。 ㈹. 方 と も矛 盾 し な い 議 論 を 組 み 立 て る,と. 稿 第 二 章 四.(4)(c)(イ)iii)(宮. 後 述(ウ)参照 。. 47. 澤 ・前 掲 注 ⑱ID123-124頁).

(18) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. 象 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,複 数 の 私 人 の 集 合 につ いて,そ の 集 合 に 属 す る私 人 に も関 わ り,か つ その 集 合 全 体 に もか か わ る利 益 で あ る こ と, ② 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら一一 定 の 市 民 に対 して 個 別 に利 益 が 割 り当て られ て い る,と い う意 味 に お いて 市 民 個 人 の 私 的 利 益 の 個 別 性 が 維 持 され て い る こ と,③ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 が 広 中俊 雄 の 示 す 市 民 社 会 論 の 枠 組 に お け る 「競 争 秩 序 」 「生 活 利 益 秩 序」 に含 ま れ る利 益 で あ る こ と,④ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 実 現 しよ う とす る私 人 が 自 らも 当該 義 務 を 負 って い る場 合, 当 該 義 務 を 自 ら も 遵 守 して い る こ と,が そ れ ぞ れ 示 さ れ る。 さ ら に,「 集 合. 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 私 人 が 直 接 的 に実 現 す る に あ た っ て は,当 該 私 人 が,当 該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に含 まれ て い る個 別 の 利 益 を 保 持 して い る」 と い う条 件 に 関 して,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る秩 序 の 類 型 ご と に考 察 して 要 件 と して 導 きだ す 必 要 が あ る㈹。 また,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 独 占的 享 受 ㈹. この よ う な条 件 か ら導 か れ る要 件 を設 け る集 合 的 ・公 共 的 利益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 につ いて は,私 的利 益 と切 り離 す と言 い な が ら も実 際 には 切 り 離 され て い な い ので は な い の か,さ い きれ な い ので はな いか,と. らに は,私 的利 益 を 目的 と して い な い と言. い う疑 問 が提 示 さ れ うる(こ の 疑 問 は,富 井 利 安. 広 島 修 道 大 学 教 授 か ら ご教 示 い た だ いた 。 記 して 心 よ りの 謝 意 を 示 した い)。 特 定 個 人 の私 的 利 益 を 目 的 と して認 め られ る権 利 の場 合,そ の 私 的 利 益 の 性 質 ・内 容 に基 づ い て,そ の 権 利 の 法 的 構 成(定 義 ・基 本 構 造 ・目的(客 体)・ 要 件 ・効 力 な ど)が 定 ま っ て い く。 こ の こと は,あ. くま で も私 的 利 益 の 実 現 に資. す る権 利 と して 構 成 しな け れ ば な らな い た め,私 的 利益 を超 え る集 合 的 ・公 共 的 利 益 をそ の法 的 構 成 の な か に組 み込 む こ とは 困難 で あ る こ とを意 味 す る(だ か ら こ そ,こ れ まで 民 事 実 体 法 に お い て,集 合 的 ・公共 的 利 益 を 「権 利 」 の 枠 組 み の 中 で 捉 え る こ とが 困 難 で あ った)。 これ に対 して,特 定 個 人 の私 的 利 益 で は な く,集 合 的 ・公 共 的 利 益 そ の もの を対 象 と した 権 利 を 認 め るの で あ れ ば,そ の 権 利 の 法 的 構 成 は,そ の集 合 的 ・公 共 的利 益 の性 質 に依 存 す る。 こ こ で,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に は,「 純 然 た る公 益 」 とい う類 型 の 他 に,「 私 益 の 集 合 と して の 公 益 」 と い う類 型 と捉 え られ る場 合 が あ る,と い う こ とが 重 要 とな る(阿 部 泰 隆 「基 本 科 目 と して の行 政 法 ・行 政 救 済 法 の意 義(1)」自研77巻3号/. 48.

(19) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. \3-25頁(2001年))。. この 後 者 の 類 型 にお いて は,そ の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 性. 質 か ら私 的 利 益 の保 持 を要 件 と しな け れ ば な らな い とい う こ とが 正 当 化 され る の で あ れ ば,こ の利 益 に対 す る権 利 に つ い て は,「集 合 的 ・公 共 的 利 益 を 目的 と して い る」 と い う こ と も,「特 定 個 人 の 私 的 利 益 を 目的 と して い な い 」 とい う こ と も,そ れ ぞ れ 矛 盾 しな い もの とい え よ う。 しか し,こ の よ う な私 的利 益 と の つ な が りを維 持 す るの で あ れ ば,あ え て 集 合 的 ・公 共 的 利 益 そ の もの を対 象 とす る の で は な く,こ れ ま で の 体 系 に沿 って 私 的 利 益 を 起 点 と した私 法 上 の権 利 の構 築 を試 み れ ば十 分 で は な い か,疑 問 も 生 じるか も しれ な い。 しか し,次 の よ うな意 味 に お い て,集 合 的 ・公 共 的 利 益 そ の もの を 対 象 と した私 法 上 の権 利 の構 築 に 向 け た考 察 を行 な う必 要 性 が あ る と考 え て い る。 私 的 利 益 を 目的 とす る権 利 の体 系 しか存 在 して い な い現 状 に お い て は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 は,一 ・ 方 当事 者 の私 的利 益 の背 後 に 隠 れ,少 な く と も法 的 構 成 にお いて は正 面 か ら取 り扱 う こ と が で き な い。 そ の結 果,問. 題 の 解 決 に向 けた. 考 察 にゆ が み が 生 じる。 例 え ば,国 立 マ ン シ ョン事 件 最 高 裁 判 決(最 判2006(平 成18)年3月30日. 民 集60巻3号948頁)に. お い て は,「 良 好 な景 観 の 恵 沢 を 享 受. す る利 益 」 と して の 「景 観 利 益 」 の侵 害 が違 法 で あ る とい うた め には,侵 害 行 為 の 態 様 や 程 度 の面 に お い て社 会 的 に容 認 さ れ た行 為 と して の 相 当 性 を 欠 くこ とが 求 あ られ て い る。 こ の よ うな 法 的構 成 に よ っ て導 か れ る の は,「 原 告 個 人 に帰 属 す る私 的 利 益 」 と 「相 手 方 の主 張 す る利 益 」 との 間 の 利 益 衡 量 で あ る。 しか し,法 的 構 成 を超 え た社 会 的実 体 と して,こ の事 件 に お い て 問 題 とな って いた の は,自. らの享 受 す る利 益 の み な らず,地 域 全 体 に か か わ る集 合 的 ・公 共. 的 利 益 で あ っ た の で は な か ろ うか(吉. 田 克 己 「判 批 」 判 タ1120号70頁(2003. 年)参 照)。 そ うで あ る な らば,原 告 の 「良 好 な景 観 の 恵 沢 を享 受 す る利益 」 と して の 「景 観 利 益 」 は,こ の よ う な地 域 全 体 に か か わ る集合 的 ・公 共 的 利 益 と の 間 に量 的 な差 異 が 存 在 す る こ と は もち ろ ん,そ. こに は 質 的 な 差 異(例 え ば 将. 来 世 代 に対 す る配 慮 等)も 存 在 す る こ とと な ろ う。 前 述 した 通 り,私 的 利 益 の み を 対 象 とす る権 利 の体 系 に,こ の よ うな差 異 を 矛盾 な く内 包 させ る こ と はで きな い もの と考 え られ る。 社 会 的実 体 と して,現 在 の権 利 の 体 系 に内 包 させ る こ との で き な い規 範 が 存 在 す る の で あ れ ば,私 的利 益 を 対 象 とす る権 利 の 体 系 とな らぶ 形 で,集 合 的 ・公 共 的 利 益 そ の もの を対 象 とす る私 法 上 の 権 利 を 構 築 す る必 要 が あ る とい え よ う。 また,隣 接 諸 科 学 に お い て は,環 境 問題 に せ よ競 争 問 題 に せ よ 消 費 者 問 題 に せ よ,そ れ ぞれ に お け る集 合 的 ・公 共 的利 益 そ れ 自体 を 対 象 と して 分 析 され て い る(例 え ば,環 境 問 題 に 関 して,不 法 行 為 を外 部 不経 済 と捉 え る経 済 学 的 な 考 え 方 か らは,被 害 者 へ の賠 償 の み な らず,現. 存 す る個 人 へ の 被 害 に 帰 着 で き. な い環 境 の 原 状 回 復 費 用 も賠 償 に含 め る こ とが合 理 的 で あ る,と され る(常 木 淳=浜. 田 宏 一 「環 境 を め ぐ る 『法 と経 済 」」 植 田和 弘 ・森 田 恒 幸 編 「環 境 政 策/. 49.

(20) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. が 認 め られ な い」 と い う条 件 に関 して は,効 力 お よ び第 二 次 的 権 利(道 具 的 権 利)の 段 階 に お いて,考 慮 す る。 (ウ)目 的(客 体)か. ら導 か れ る要 件. 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 目的(客 体)を 基 礎 づ け る秩 序 は,当 然 の こ とな が ら,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 」 に関 わ る と い う意 味 に お け る性 質 を 共 通 して備 え て い る こ と が求 め られ る㈹。 しか し, 現 在 の 日本 法 体 系 の も とで は,民 法,憲 法,行 政 法 な どの 法 領 域 が,そ れ ぞれ 独 立 した理 論 体 系 を 持 つ もの と して 存 在 して い る。 この よ うな 状 況 に 鑑 み れ ば,す べ て の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 の 存 在 形 態 が 同一一 で あ る と い う こ と はで きず,ま. たす べ て が 均 一一 の性質を備えて い. る と い う こ と はで きな い。 その た め,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 さ れ た秩 序 の 存 在 形 態 ご と に,要 件 を 基 礎 づ け る要 素 が それ ぞ れ 異 な って 存 在 す る と考 え られ る。 この こ と は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 目的(客 体)の 性 質 か ら要 件 を 導 く前 提 と して,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 の 存 在 形 態 の 類 型 化 の 問 題 を 考 察 しな け れ ばな らな い こ とを 示 して い る。 この よ うな 考 察 を 行 う に あ た って は,本 来 で あれ ば,集 合 的 ・公 共 的 利. \ の 基 礎(岩 波 講 座 環 境 経 済 ・政 策 学 第3巻)」82頁(岩. 波 書 店,2003年))。. む. ろん,こ の よ う な指 摘 に対 して,現 実 に紛 争 解 決 の 基準 を導 き だ す 作 業 を 行 う (民)法 学 が そ の 固有 の理 論 に基 づ い て,隣 接 諸 科 学 の 知 見 を 採 用 しな い こ とを 正 当 化 す る こ と は認 め られ よ う。 しか しそ の 説 明 が,(民)法 益 の 帰 属 ・享 受 」 を契 機(本 質 的要 素)と. 学 にお い て は 「利. しな い 「 権 利」 は認 め られ な い,と. の 形 式 的 な 内容 に終 始 す る の あ れ ば,そ れ は十 分 に説 得 的 な 正 当 化 理 論 と はい え ま い(こ の 点 につ いて は,本 節 二.(宮. 澤 ・前 掲 注 ㈹41-115頁)に. お け る考 察. も参 照)。 実 質 的 根 拠 を 明 確 に示 した うえ で 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る(民) 法 学 固 有 の 理 論 を提 示 しな け れ ば,隣 接 諸 科 学 の知 見 を 適 切 に 受 け 入 れ る こ と が で きず,さ. らに は隣 接 諸 科 学 か らの信 頼 を得 られ な い こ とに す らな って し ま. うの で はな か ろ うか 。 ㈲. 前 述(2)参照 。. 50.

(21) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 が 問 題 と な る具 体 的事 例 を網 羅 的 に検 討 し,問 題 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た 秩 序 の 存 在 形 態 を 類 型 化 す る,と い う方 法 を と る こ とが 望 ま しい 。 しか し,本 稿 に お い て は, 未 だ 具 体 的 事 例 に お いて 問 題 と され て こな か っ た集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 の 可 能 性 を 考 察 す る もの で あ り,こ の よ う な方 法 を と る こ と はで き な い㈹。 そ こで 以 下 で は,本 稿 第 二 章 第 二 節 二.(1)に お いて 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 す る秩 序 形 成 につ いて 示 した 三 つ の 類 型 を そ れ ぞ れ 一 つ の 類 型 と捉 え,そ れ ぞ れ につ い て の要 件 を 提 示 す る㈹。 その 第 一 の 型 は国 家 又 は地 方 公 共 団 体 に よ る法 規(以 下,「 行 政 法 上 の 規 定 」 と記 述)の 定 立 を 通 じた秩 序 形 成,第 二 の 型 は合 意 を 基 礎 と して な され る秩 序 形 成,そ. して 第 三 の 型 は慣 習 法 の 形 成 と い う形 で の 秩 序 形 成. で あ る。 そ こで,以 下 で は,こ の 整 理 を 基 礎 に置 き,こ の 三 つ の そ れ ぞ れ に含 まれ る規 範 につ いて,そ の 特 有 の 性 質 を 踏 まえ,目 的(客 体)か. ら導. か れ る要 件 に考 察 を 加 え る㈱。 i)行 ①. 政 法 上 の 規 定 に よ って 形 成 され る規 範. 問題の所在. 既 述 の 通 り,現 在 の 日本 法 体 系 の も とで は,民 法,憲 法,行 政 法 な どの 法 領 域 が,そ れ ぞ れ 独 立 した理 論 体 系 を 持 つ もの と して 存 在 して い る。 行 政 主 体 を 名 宛 人 と して 設 定 され る行 政 法 上 の 規 定 は,行 政 法 の 領 域 に位 置. ㈹. この 点 につ い て,前 述(2)(b)を参 照 。. ㈹. な お,本 稿 に お いて 「秩 序 」 の語 は 「実 現 さ れ な け れ ば実 力 と して の 強 制 力 を 通 じて 実 現 され う る と い う性 質 を持 つ 規 範 の集 合 」 とい う意 味 で 用 い て い る こ と につ い て,本 稿 第 二 章 第 二 節 一.(宮. ㈱. 澤 ・前 掲 注 ㈲105(306)頁)参. 照。. な お,以 上 の よ う な考 察 を行 うこ と は集 合 的 ・公 共 的 利益 に 対 す る秩 序 が こ の 三 つ の 形 態 で のみ 存 在 しう る と い う こと を意 味 して い る わ け で は な い 。 本 稿 にお いて 行 った 環 境 法 領 域 に お け る議 論 の整 理 か らさ しあ た り この 三 つ の 存 在 形 態 を 考 察 対 象 とす る こ と が で き,か つ 考 察 す る必 要 が あ る,と い う こ と に過 ぎな い 。. 51.

(22) 近畿大学法学. 第57巻 第1号. づ け られ る一一 方 で,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 は, 民 法 の 領 域 に位 置 づ け られ る。 その た め,行 政 法 上 の 規 定 に よ って 形 成 さ れ た規 範 に,民 法 の 領 域 に お いて,民 法 上 の 規 定 と 同 じ位 置 づ けを 与 え う るか 否 か,と ②. い う問 題 を 考 察 す る必 要 が あ る。. 行 政 法 上 の 規 定 の 民 法 内在 的 な 位 置 づ けの 概 要. 現 代 立 憲 主 義 国 家 に お いて は,そ の 社 会 に お いて 既 に形 成 され て い る私 人 間 の 関 係 を 規 律 す る私 法 秩 序 を 司 法 権 の 属 す る国 家 機 関 で あ る裁 判 所 が 実 現 す る た め に,立 法 権 の 属 す る国 家 機 関 は その 私 法 秩 序 に含 まれ る規 範 の 内容 を 裁 判 規 範 と して の 国 家 法 と して,す な わ ち民 法 と して 制 定 す る こ とが 必 要 とな る綱。 他 方,近 代 立 憲 主 義 国 家 か ら現 代 立 憲 主 義 国 家 へ の 変 化 に伴 う国 家 の 役 割 の 変 化 に よ って,行 政 法 の 役 割 に,私 法 秩 序 か ら生 じる問 題 を 修 正 す る と い う役 割 が 加 わ る㈱。 そ して,現 代 立 憲 主 義 にお け る行 政 法 上 の 規 定 に よ る国 家 の 社 会 へ の 介 入 が 私 法 秩 序 か ら生 じる問 題 に対 して 修 正 を 加 え る た めの もの で あ る と考 え られ る こ とか ら,理 論 的 に可 能 な 限 りで,前 述 し た民 法 と行 政 法 の 重 な る部 分 の 範 囲 内 に お いて,私 法 秩 序 に対 す る修 正 で あ る と こ ろの 行 政 法 上 の 規 定 に裁 判 規 範 と して の 民 法 上 の 規 定 と 同 じ位 置 づ け を民 法 の 領 域 に お いて 与 え る こ と(行 政 法 上 の 規 定 の 民 法 内在 的 な 位 置 づ け)が 要 請 され て い る と考 え られ る㈹。 この よ うな 行 政 法 上 の 規 定 の 民 法 内在 的 につ いて は,既 に存 在 して い る ㈹. 宮 澤 ・前 掲 注 働61-75頁 参 照 。 以 下,行 政 法 上 の民 法 内 在 的 な 位 置 づ け に 関 して は本 書 を 基 礎 と して 記 述 を 進 め る。. ⑱6の宮 澤 ・前 掲 注 働81-83頁 参 照 。 な お,近 代 立 憲 主 義 国 家 か ら現 代 立 憲 主 義 国 家 へ の 変 化 に伴 う国 家 の役 割 の変 化 は,裁 判 規 範 と して の 民 法 へ の 国 家 の 介 入 とい うか た ちで もあ らわ れ う る(宮 澤 ・前 掲 注 働75-81頁)参 ㈹. 照。. 宮 澤 ・前 掲 注 働83-84頁 参 照 。 な お,こ の 帰 結 は,問 題 と な る 行 政 法 上 の 規 定 が,憲 法 理 論 及 び行 政 法 理 論 な どに基 づ い て正 当 ・適 法 とみ な され る こ とを 前 提 と して い る(宮 澤 ・前 掲 注 働84頁 参 照)。. 52.

(23) 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察 ④. 私 法 秩 序(あ. る い は それ が 国 家 法 と して 制 定 され た 民 法)の. も とで 生 じる. 諸 問 題 を 是 正 す る た め に,国 家 に よ る介 入 と して 行 政 法 を 通 じて そ の 私 法 秩 序 に修 正 が 加 え られ る,と い う関 係 に忠 実 な 枠 組 の な か で 法 的 構 成 が 示 され な けれ ばな らな い。 その た め,行 政 法 上 の 規 定 が 単 独 で そ の ま ま民 法 の 領 域 に お いて 民 法 上 の 規 定 と全 く同 じもの と して 位 置 づ け られ る と い う 法 的 構 成 で はな く,既 に存 在 して い る民 法 上 の 制 度 を 修 正 す る と い う形 で の 法 的 構 成 を と る こ とが 必 要 とな る㈹。 この よ うな 法 的 構 成 の も とで 行 政 法 上 の 規 定 の 民 法 内在 的 な 位 置 づ けの 条 件 を 導 くに あ た って は,規 律 の 対 象 とな る主 体 関 係,規 律 の 目的 とな る 利 益,規 律 を 実 現 す る主 体,そ. して 利 害 調 整 を 行 う制 御 方 法 の 相 違 と い う. 四 つ の要 素 を考 慮 しな けれ ば な らな い㈹。 この 四 つ の要 素 か ら,次 の 五 つ が,行 政 法 上 の 規 定 の 民 法 内在 的 な 位 置 づ けを 認 め るた めの 条 件 と して 導 か れ る。 それ は,① 問 題 とな る民 法 上 の 制 度 と行 政 法 上 の 規 定 の 規 律 の 対 象 とな る主 体 関 係 の 一致 す る こ と,② 行 政 法 上 の 規 定 の 規 律 の 目的 とな る 公 益 が 「私 益 の 集 合 」 と して 捉 え られ る こ と,③ 当該 民 法 上 の 制 度 の 規 律 の 対 象 とな る利 益 と行 政 法 上 の 規 定 の 規 律 の 対 象 とな る利 益 とが 同質 で あ る こ とを 示 す こ と に よ って,行 政 法 上 の 規 定 と民 法 上 の 制 度 の 間 に 「私 益 間 の 利 害 調 整 」 と い う場 面 で 機 能 す る と い う意 味 にお け る実 体 法 上 の 同質 性 が 認 め られ る こ と,④ 民 法 の 領 域 に お いて その よ うな 「私 益 の 集 合 と し て の公 益 」,す な わ ち集 合 的 ・公 共 的利 益 を 規 律 の 目的 とす る行 政 法 上 の 規 定 を 民 法 の領 域 に 位 置 づ け る こ とを 基 礎 づ け る民 法 理 論 の 示 さ れ る こ と,⑤ 既 存 の 民 法 上 の 制 度 に存 す る機 能 が 当該 行 政 法 上 の 規 定 に よ る修 正 に よ って 失 わ れ な い こ と,で あ る。. ⑳. 以 上 につ き宮 澤 ・前 掲 注 働85-86頁 参 照 。. ㈱. 以 下 の 記 述 につ い て は,宮 澤 ・前 掲 注 働86-95頁,. 53. 同101-102頁. を参照。.

(24) 近畿大学法学. ③. 第57巻 第1号. 行 政 法 上 の 規 定 の 民 法 内在 的 位 置 づ けか ら示 され る要 件. 前 述 ② に お いて 概 観 した よ う に,五 つ の 条 件 の 下 に,行 政 法 上 の 規 定 に は,民 法 内在 的 な 位 置 づ けが 認 め られ る。 この 条 件 が,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 要 件 を 基 礎 づ け る要 素 とな る。 た だ し,民 法 の 領 域 に お い て そ の よ うな 「私 益 の 集 合 と して の公 益 」, す な わ ち集 合 的 ・公 共 的 利 益 を 規 律 の 目的 とす る行 政 法 上 の 規 定 を 民 法 の 領 域 に位 置 づ け る こ とを 基 礎 づ け る民 法 理 論 の 示 され る こ と,と い う条 件 に 関 して は,本 稿 の 考 察 そ の もの が この 条 件 を 満 たす た め の もの とい え る。 その た め,こ の 条 件 に関 して は,以 下 で 行 う要 件 を 導 くた めの 考 察 に お いて は対 象 とな らな い。 他 方,残. りの 四 つ の 条 件 は,行 政 法 上 の 規 定 を. 民 法 内在 的 に位 置 づ け る た め に実 体 的 に満 た され な けれ ばな らな い条 件 で あ る。 その た め,こ れ らの 条 件 は,そ の ま ま集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利 の 要 件 とな る。 ④. 間 発 的 思 考 に基 づ く考 察 か ら示 され る要 件. 前 述(イ)にお いて 示 した通 り,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 思 想 的 ・哲 学 的 根 拠 か ら,特 に公 法 との 関 係 で 要 件 を 導 きだ す に あ た っ て は,間 発 的 思 考 に従 って考 察 を進 め な けれ ば な らな い㈹。 以 下 ④ で は,間 発 的 思 考 に基 づ いて 導 か れ る要 件 につ いて 考 察 を 加 え る。 (α)行 政 裁 量 との 関 係 前 述(のに示 した通 り,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 定 義 か ら,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 して 形 成 さ れ た 秩 序 に基 づ く義 務 が 存 在 して い る こ と」 が 要 件 と して 示 され る。 行 政 法 上 の 規 定 に よ って 形 成 さ れ た 規 範 を 根 拠 と して 義 務 づ け ら れ る 作 為 ま た は不 作 為 が 目的(客 ㈹. な お,公 法 と私 法 の関 係 につ い て,間 発 的思 考 は,公 法 と私 法 の い ず れ の 領 域 にお いて も,自. らの体 系 内部 に お い て矛 盾 しな い議 論 で あ る と同 時 に,他 方. と も矛 盾 しな い議 論 を組 み立 て る,と い うか た ち で現 れ る(本 稿 第 二 章 四.(4) (c)(イ)iii)(宮 澤 ・前 掲 注 ω123-124頁)参. 54. 照)。.

参照

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