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服薬コンプライアンスが悪い高齢患者が歯科治療時に胸痛発作を発症した1例

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Academic year: 2021

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(1)Vol. 24 No. 1. 33. 服薬コンプライアンスが悪い高齢患者が 歯科治療時に胸痛発作を発症した 1 例 秋 山 麻 美 1)・冨 田 優 也 1)・高 橋 靖 之 2) 高 田 正 典 3)・平 澤 貴 典 4)・佐 野 公 人 1) 要旨:今回我々は,歯科治療時に狭心症の胸痛発作を発症し,対応に苦慮した症例を経験した.患者は 82 歳 男性.冠攣縮性狭心症,陳旧性心筋梗塞,発作性心房細動があり,内服加療中である.患者が胸痛を訴えてい るとの緊急応援要請あった.患者は硝酸薬を内服したところで,意識清明,血圧 80/45mmHg,脈拍数 47bpm,経皮的動脈血酸素飽和度 98% であった.胸痛,呼吸浅速,顔面蒼白を認めたため,モニタリングと 酸素投与を開始した.徐々に胸痛は軽減し気分不快も改善したが,循環抑制が著明であったため,循環器内科 に救急搬送した.搬送時には諸症状が消失したが,その 1 週間後に入院下で心臓カテーテル検査を施行した. その後,本人が管理していた内服薬は用法・用量が遵守されていないことが判明した.高齢の患者は,必ずし も指示された通りに服薬しているとは限らない.術者ならびにスタッフは実際の服薬内容を確認し,その情報 を共有する必要性があることを再認識した症例であった. キーワード:胸痛発作,狭心症,硝酸薬,循環抑制. 緒. 言. 現在,日本では超高齢社会となり,複数の疾患を有す る患者の歯科受診が増加している.高齢者では,生理的. ・ニ コランジル(シグマートⓇ 5mg)4 錠 / 日(朝,就 寝前) ・硝酸イソソルビド(アイトロールⓇ 20mg)2 錠 / 日(朝, 就寝前). 老化に基礎疾患を伴い,全身的偶発症を発症しやすく,. ・バルサルタン(ディオバンⓇ OD 錠 40mg)1 錠 / 日(朝). 全身管理に注意を要する.歯科受診患者で,循環器疾患. ・プ ラバスタチンナトリウム錠(メバロチンⓇ 5mg)2. を有する患者の心不全や脳血管障害による死亡症例が報 1). 錠 / 日(朝) ・ピルシカイニド塩酸塩カプセル(サンリズムⓇカプセ. 告されている . 今回我々は, 歯科治療時に狭心症の胸痛発作を発症し,. ル 50mg)4 錠(心房細動発作時). 緊急対応に苦慮した症例を経験したので若干の考察を加. また,胸痛発作が発症した際の内服薬として硝酸薬 (ニ. え報告する.. トロペンⓇ 0.3mg)が処方されており,1か月に 1 度の 頻度で服用していた.. 症. 例. 家族歴:特記事項なし. 現 症:本院の総合診療科から,患者が胸痛を訴えて. 患 者:82 歳,男性.. いるので対応してほしいとの緊急応援要請があった.歯. 初 診:2009 年 10 月.. 科麻酔科医が到着した時,患者は座位で持参薬の硝酸薬. 主 訴:胸痛.. を内服したところであった.. 既往歴:冠攣縮性狭心症,陳旧性心筋梗塞のほか発作. 全身所見;身長 160cm,体重 50kg.. 性心房細動があった .. 処置および経過:胸痛を訴えたのは,印象採得時であ. 基礎疾患に対しての内服薬は以下の通りであった。 Ⓡ. り,気分不快等の訴えはなかったとのことであった.当. ・アスピリン(バイアスピリン 錠 100mg)1 錠 / 日(朝). 日は治療前にバイタルサインの測定は行っていなかっ. ・ジルチアゼム塩酸塩製剤(ヘルベッサーⓇ R カプセル. た.我々が到着した時は,意識は清明,呼吸浅速,顔面. 100mg)2 錠 / 日(朝,就寝前) Ⓡ. ・ニフェジピン(アダラート CR 錠 10mg)2 錠 / 日(朝, 就寝前) 1). 日本歯科大学新潟生命歯学部歯科麻酔学講座(主任:佐野公人 教授) 日本歯科大学新潟病院歯科麻酔・全身管理科(主任:大橋 誠 科長) 3) 日本歯科大学新潟病院歯科口腔外科(主任:水谷太尊 科長) 4) 新潟市口腔保健福祉センター 2). 蒼白で,バイタルサインは血圧 80/45mmHg,脈拍数 47bpm,経皮的動脈血酸素飽和度は 93% であった(表 1) . 患者を座位から仰臥位に体位変換し,モニタリングと.

(2) 日本有病者歯科医療学会雑誌. 34. Apr. 2015. 表1 症状経過と対応 時刻. 血圧(mmHg). 脈拍(bpm). SpO2(%). 症 状. 11:25. 80/45. 47. 93. 意識清明,呼吸浅速,顔面蒼白 座位 → 仰臥位,モニタリング施行. 11:30. 64/37. 48. 100. 11:35. 83/36. 51. 100. 11:40. 80/40. 57. 100. 11:45. 68/38. 45. 99. 11:50. 78/44. 51. 98. 11:55. 61/33. 45. 98. 12:00. 70/35. 57. 99. 12:15. 80/40. 50. 100. 胸痛消失. 循環器内科主治医に連絡. 循環器内科に救急搬送. 図 1 心電図(11 時 30 分頃,四肢誘導) ST の変化は認められなかった.. フェイスマスクによる酸素3L/ 分の投与を開始した.. とのことであった.さらに,その後,患者が自宅で意識. バイタルサインは,低値を示したが,経皮的動脈血酸素. 障害をおこし倒れているのを訪ねて来た親族が発見し,. 飽和度 100%で,心電図上では ST の低下は認められな. 救急車で病院に搬送され緊急入院となった.血液検査の. かった(図 1).徐々に胸痛は軽減し,気分不快も改善. 結果,空腹時は 28mg/dL であり,重度の低血糖状態で. し意識も清明であったが,血圧 61/33mmHg,脈拍数. あった.しかし,患者に糖尿病の既往はなく,調べたと. 45bpm と循環抑制が著明であったため,循環器内科主. ころ,家族の血糖降下剤を誤って内服していたことが判. 治医に連絡し,救急搬送した. 搬送時のバイタルサイ. 明した.. ンは,血圧 80/40mmHg,脈拍数 50bpm,経皮的酸素. 現在では,モニタリングによる監視下で歯科治療を. 飽和度 100%であった.. 行っているが,その後,歯科治療中の狭心症発作は出現. 後日,循環器内科の主治医から,救急搬送時には諸症. していない.. 状が消失し,心電図上の異常も認められなかったことか ら帰宅させたと連絡があった.しかし,その 1 週間後に 胸痛が再度発症したため即日入院となり,心臓カテーテ. 考. 察. ル検査を施行したとのことであった.その結果,冠動脈. 狭心症は冠動脈血流量の絶対的あるいは相対的低下に. 造影では異常所見はなく,左室造影では下壁の運動低下. より心筋が一過性の虚血状態に陥り,特有の胸痛発作な. を認めるが,駆出率 53%で心機能は保たれているとの. どの胸部不快感を主症状とする症候群である 2, 3).. 判断であった.. 本症例では,術者によって事前に循環器内科の主治医. その後の問診で,本人が管理していた内服薬は指示通. への対診が行われ,現在の状態および狭心症発作時には. りに服用されておらず,狭心症の発作時に服用する硝酸. 硝酸薬(ニトロペンⓇ)の舌下投与で対処可能であると. 薬は 1 錠の指示であったが,実際は 3 錠内服していたこ. 指示を受けていた.患者は循環器内科の主治医から,発. とが判明した.また,1 日の内服量が 1 錠の指示である. 作時に硝酸薬を 1 錠内服しても症状の改善がない場合. ディオバンを 4 錠内服しており,日常的に間違った服用. に,時間をおいてから 2 錠目,3 錠目を内服するように. 方法をしていたことから,内服薬を 1 包化して対応した. 指示されていた.しかし,実際は 1 度に 3 錠を内服して.

(3) Vol. 24 No. 1. 服薬コンプライアンスが悪い高齢患者が歯科治療時に胸痛発作を発症した 1 例. 35. いたことが判明した.また,1 日の内服が 1 錠であるディ. 低かっただけではなく,我々,歯科麻酔科医への対診を. オバンⓇを 4 錠内服していた.そのため,循環動態が強. 含めた対応が不十分であった感は否めない.また,患者. く抑制され,狭心症発作を引き起こし易い状態であった. は,1 か月に 1 度の頻度で胸痛発作が出現していたこと. ことが推察される.. から,歯科治療に対するリスクは高いと考えられる.さ. 本症例のように内服薬を自己管理している高齢患者で. らに,循環器内科の主治医も胸痛の原因としてジルチア. は,内服薬の用法・用量が遵守されていない場合がある.. ゼム塩酸塩を減量したことによる心房細動の悪化と考え. 高齢者の 7 ~ 10%が,日常生活の自立性を維持するの. ていたが,患者からの聴取により,間違った服薬であっ. 4). が困難な程度の認知症に罹患しているとされている .. たことを認識した.. また,認知症までに至らなくても 75 歳を超える高齢者. 術者ならびにスタッフが患者の状態および実際の服薬. では,何らかの程度の認知機能障害をもつ割合が高くな. 内容を適宜確認し,その情報を共有する必要性を再認識. 4). るとの報告がある .認知症の診断や病因の決定には,. した症例であった.. 詳細な病歴の聴取,診察,臨床検査および神経心理学的 検査を含む総合的な臨床評価が必要であるとしている.. 結. しかし,現在,高齢者の大多数が総合的な評価を受けて いないとの報告がある 5).したがって,患者が高齢な場 合,内服薬や病状の把握は初診時のみならず,診療の前 に必ず確認することを担当歯科医師やスタッフに周知徹. 語. 1)今回我々は,歯科治療時に狭心症の胸痛発作を発症 し,緊急対応した症例を経験した. 2)術者ならびにスタッフが実際の服薬内容を確認し,. 底する必要があると考えられた.本症例では,患者は認. その情報を共有する必要性を再認識した症例であっ. 知症の診断は受けておらず,家族の認識もなかった.. た.. 基礎疾患を有する患者では,歯科治療による精神的お よび身体的ストレス,局所麻酔薬の投与などにより重篤. 本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない.. な合併症を引き起こす危険性がある.歯科治療に伴うス トレスは,内因性カテコラミンの分泌量を増加させ,心 拍数,心筋の収縮力が増大し,血圧も上昇させる 6).ス トレスにより心臓の仕事量が増加したにも関らず,心筋 の酸素需要量の増加や心筋の酸素需要量に対する冠血流 量の増加が伴わず,心筋虚血により狭心症発作を引き起 こす原因ともなる. 本症例では,観血的処置と比較して侵襲が少ないと考 えられる印象採得時に狭心症の発作が出現している.過 去の報告にも印象採得時に狭心症発作を引き起こし,意 識消失した症例 7) があることからも,すべての歯科治 療が患者に与える精神的および身体的ストレスを再認識 する必要がある. また,歯科治療は患者を水平位の姿勢で行うことが多 いが,血圧調節機構の低下した高齢者では,歯科治療時 の体位変換により,生理的範囲を逸脱した血圧低下とな り,めまい,頭痛を引き起こす危険性が高い.特に,高 齢者では自律神経機能の低下により起立性低血圧が起き やすく,降圧剤の内服によりさらにその危険性は増すと の報告があることからも,循環動態の変化には細心の注 意が必要である 8). 本症例では,高齢であることに加えて,本人の病識が. 引用文献 1)加納美穂子,一戸達也,他:在宅要介護患者の歯科 診 療 時 に お け る 循 環 変 動. 日 歯 麻 誌 32: 328-344, 2004. 2)金子 譲:管理上問題となる疾患の病態,歯科麻酔 学.第 7 版,69-71 頁,医歯薬出版,東京,2011. 3)海北幸一,小川久雄:冠攣縮性狭心症.診断と治療 101: 79-84, 2013. 4)金子 譲:高齢者の麻酔管理,歯科麻酔学.第 7 版, 449-460 頁,医歯薬出版,東京,2011. 5)平野正雄,青野一哉:認知機能障害を有する高齢者 の臨床的管理,高齢者歯科学.第 1 版,189-197 頁, 永末書店,京都,2004. 6)西田百代:イラストでわかる有病高齢者歯科治療の ガイドライン.第 1 版,26-42 頁,クインテッセンス, 東京,2008. 7)岡田千のぶ,深山治久,他:印象採得中の狭心症発 作に血圧・心電図モニターにより迅速な対応ができ た 1 症例.日歯麻誌 31: 186-189, 2003. 8)渡 辺 誠:高齢患者の口腔外科学,高齢者歯科学. 第 1 版,329-333 頁,永末書店,京都,2004..

(4) 36. Apr. 2015. A case in which an elderly patient who did not comply with his course of medication suffered an episode of chest pain at the time of dental treatment Akiyama Asami 1)・Tomita Yuya 1)・Takahashi Yasuyuki 2) Takada Masanori 3)・Hirasawa Takanori 4)・Sano Kimito 1) 1). Department of Dental Anesthesiology, The Nippon Dental University, School of Life Dentistry at Niigata (Chief: Prof. Sano Kimito). 2). Dental Anesthesia and General Health Management Clinic, The Nippon Dental University Niigata Hospital (Chief: Oohashi Makoto) 3). Department Olal&Maxillofacial Surgery, The Nippon Dental University Niigata Hospital (Chief: Mizutani Masutaka) 4). The Niigata-City Dental Health Welfare Center. Abstract: We encountered a patient who suffered angina and whose treatment was difficult. The patient was an 82-year-old man who had vasospastic angina, spasm-related angina, old myocardial infarction, and paroxysmal atrial fibrillation, and was under oral medication for these diseases. An emergency call was made for the patient who complained of acute chest pain. After sublingual nitrate was administered by the emergency ambulance staff, the patient was lucid, his blood pressure was 80/45 mmHg, pulse rate 47 bpm, and his percutaneous oxygen saturation was 98%. On account of the unremitting chest pain, shallow and fast respiration, and facial pallor, we started hemodynamic monitoring and oxygen supplementation. The chest pain, as well as the unpleasant sensation, resolved gradually. However, the patient needed to be transported to an internal medicine ward, due to significant circulatory suppression. The symptoms completely resolved during transportation, and cardiac catheterization was performed one week after the patient was hospitalized. Thereafter, it was found that the patient did not adhere to his prescribed treatment regimen. In this case, the patient was elderly and did not always comply with his prescribed dosage regimen. This case highlights the need for physicians and other medical staff to confirm compliance with the prescribed medication, and to share such information between each other. Key words: chest pain,Angina pectoris,Nitric acid medicine,Circulation restraint.

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