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介護学生に「わかりやすい排尿のしくみ」を
教授するための模型の検討
−基礎的知識と倫理教育−
Study of a physical model for teaching the mechanics of “easy-to-understand urination”
to care work students: basic knowledge and ethics education
二木 恵子
Keiko FUTATSUGI ή足利大学看護学部■
KEY
WORDS
教材(teaching materials
) 模型作製(model making
)介護福祉教育(
care work education
) 教授方法(teaching methods
)倫理教育(
ethics education
) 要 旨 本稿は、自作した簡単で「わかりやすい排尿のしくみ」の教材模型が、介護福祉教育で活用されることを目 指すものである。そして、介護学生が専門職として生活支援を倫理的な原則をもとに実践することを期待する ものである。これは筆者が試用し、学生に興味・関心をもたせるよう教授した結果を検討し、さらに、本教材 模型の精度を向上させるため、産学医工連携促進支援事業で公表し、企業の技術提供を得て製品化を行った。 尿の流れがわかるように工夫し、講義を動画に撮り、振り返りと試作の検討に活用した。企業の製品化が近い 試作の教材模型を試用し、模擬的に尿の流れを見せることで、腎・泌尿器系のわかりづらい臓器の機能が明確 に関連づけられ、対象者の排泄に関する障害の根拠が理解できた。これにより、高い倫理性の保持の実現が求 められる介護福祉教育への寄与が期待される。SUMMARY
This paper demonstrates that the model of an easy-to-understand urination system invented by
the author can be used as an effective teaching material for care work education. And as care
work students become Certified care workers, this knowledge will help enable students to give
care & life support based on ethical principles. In order to achieve this goal a model was created,
demonstrated & taught to students, further modified to make it more attractive, presented at an
industry/university cooperation promotion event, and finally manufactured (and videoed) along with
the technical assistance of a corporate partner.
The function of the kidney is difficult for some students to understand, but by using this
uri-nary system model uriuri-nary flow becomes visible and students are able to see why some patients
experience problems in excretion. This is expected to contribute to care work education that is
re-quired to achieve high ethical retention.
Ϩ.はじめに
1)研究の背景 介護学生は、生活に密着した介護支援を目的に入 学しているため、解剖・生理に関する高校での「生 物」など理科系の科目を全ての学生が学んできてい るとは限らず、医学系の科目に対する理解のしづら さがある。また、養成校には高校卒業者、介護職員 養成研修には資格のない社会人、文化の違う外国人 留学生と、基礎学力の習得レベルは多様なため、専 門的知識と専門技術を身につけるための科目におい て、入学後の学生の知識獲得レベルにはかなりの差 が出る。平成 21 年の高等学校新学習指導要領の基 本的な理科教育の考え方は、「教育の理念を踏まえ 『生きる力』の育成・知識・技能のバランスを重視 する1)」と探求することが明確になったところであ るが、生物である「ヒト」について学んでいるとは 限らないのである。 学習者観を捉えるときに挟間は、「小学校・中学 校・高校に至るまでの教育で、人体についてどこま でのことを教えられているかを理解しておくこと2)」 という学生のレディネスを捉えたうえで教員は教え る必要性を示している。本研究の「排尿のしくみ」 に関するところは、既に理科 (小学 6 年) の「生命」 の単元『動物のからだのはたらき』の項目の「消 化、呼吸、循環、泌尿器」において、さらに中学校 の理科の『動物のからだのつくりとはたらき』の基 本事項の「排出のしくみ」において学んだことに なっている。また、聖路加国際大学からだ教育研究 会では、「腎臓だけの T シャツも作成したが、腎臓 をうまく表現できません3)」と尿として液が流れな いものを作っている。藤本らは、消化器系の授業展 開では、「単に機械的暗記を促すだけでは興味をも ち理解していない4)」と指摘し、介護福祉教育を受 けるときから「排泄に関連したしくみ」について興 味をもって理解するための教材の必要性を示唆して いる。 介護福祉士養成教育における科目「こころとから だのしくみ5)」の消化器系の単元「排泄に関連した しくみ」の項目「排便のしくみ」の解剖・生理の理 解について、加藤は「人の得る情報の八割から九割 は視覚に由来するが、科学的根拠に基づき記述され た教科書や専門書にも出典は明示されていない6)」 と指摘している。このように、視覚情報である消化 器系の解剖図は重要であるが、視覚情報だけではな く教材が求められている。食べる行為から排便の有 無として自分に重ね合わせて意識してはじめてイ メージができるものだからである。腎・泌尿器系の 「排尿のしくみ」については、羞恥心を伴うプライ バシーに関する部分でもあり、自分の身体に健康障 害の症状が出現しなければ解剖・生理について意識 することは難しい。そのため基本を十分に理解する ことで、排尿障害を有する対象者の頻回な排泄ケア について、生活支援技術の習得の際に根拠を示しな がら健康障害とケアを関連づけることを学ぶ重要な 単元である。それゆえ、排泄ケアに関する国家試験 問題にも、「こころとからだのしくみ」や「生活支 援技術」から毎年数問出題されているものと考えら れる。 介護福祉教育における、介護専任教員の教材作成 について、菊池らは「学生の基礎学力低下に伴い生 活支援技術の理解度にも大きな問題を抱えた現状を 改善する7)」ための実技チェックシートと DVD 教材 の作成を試みている研究や「介護過程」に関する研 究はあるが、介護福祉学や看護学においては、「排 尿のしくみ」の教材の開発に関する先行研究は見当 たらないとしている。「排尿のしくみ」を理解する ための模型教材には、理科教育用として開発された ものがあるが、模擬尿が流れるものではない。その ため模型教材として質向上のために小学校用の「保 健」の授業教材に関する文献を参考にし排泄ケアの 教材開発を行った。 筆者の経験知によれば、「こころとからだのしく み」を通して解剖・生理を教授する時に、テキスト やパワーポイント上の画像、または人体模型を活用 した講義への学生の反応と、試験の成績評価は必ず しも良いものであるとはいえない。これは、腎・泌 尿器系の基本的な解剖・生理を学んだ後に、小板橋 らは「様々な排尿障害を起こす疾患とコンチネンス の低下・障害が起きるとインコンチネンスとして尿 失禁のタイプを覚えなくてはならない8)」ことを示 し、対象者によっては治療としてストーマ造設から そのケアの仕方まで学ぶ必要があるが、基本的な内 容を理解できるように教授方法を検討すれば、その表1 模型作製と講義のプロセス 平成 28年度 11月:「排尿のしくみ」模型の自主作製 12月講義:科目「こころとからだのしくみ」単元 「排泄に関連したしくみ」大項目「排 尿のしくみ」で、介護学生18人に自作 模型使用 12月講義中:動画撮影 12月講義後:質問紙調査 H29 年 2 月:産学医工連携促進支援事業で公表 平成 29年度 随時:企業と動画をもとに試作品の作製開始 随時:企業と動画をもとに試作品 3 回目 12月講義:介護学生25人に 3 回目試作品模型使用 12月講義中:動画撮影 12月講義後:質問紙調査 H30 年 2 月: 7 回目の試作品をもとに産学医工連 携促進支援事業で成果報告 平成 30年度 模型の製品化 し、企業の技術提供を得て製品化を行うことによ り、広く介護福祉教育で活用されることを期待でき る。 ②模型を使用した講義のわかりやすさの評価 視聴覚教材を活用して講義を行なったうえで、筆 者が作製した「排尿のしくみ」について簡単でわか りやすい教材模型 (試作版) を試用した講義である かを、学生の興味・関心が高まり学習を促進できる ように創意工夫11)し、実際に排尿されるまでのし くみについて学生に教授した結果を質問紙調査によ り検討する。そして、排尿のしくみの理解ができ、 器質的・機能的な障害をとらえ、対象者の排泄ケア 時に根拠や配慮する点において倫理的な生活支援の 原則に関連づけられ、最終的に国家試験問題の科目 正解率も高くなることも期待できる。
ϩ.研究方法
1 )模型の作製と改良の過程を時系列で検討する。 (表 1 ) 2 )講義で模型を試用した結果について、質問紙調 査を受講生に実施する。講義の際に動画を撮る。 対象者は、A 大学の介護福祉コース 2 年生 43 名 (平成 28 年度 18 名、平成 29 年度 25 名) である。 データの解析方法は単純集計である。 まま講義が進んでも適切なケアに関連づけられるも のと考えられる。 介護福祉士養成課程において、特に排泄ケアでは どうしてこのような状態が起きているのか根拠を基 に判断できる知識の想起と、個人のプライバシーの 保護や配慮ある声かけから個人を尊重した適切な介 護の実践、個別性を重視した自立に向けた支援を可 能にする基礎教育が必要である。資格を持たない介 護職を指導しながら働く介護福祉士について中村 は、「介護福祉士の職業倫理も実際には生命倫理の 領域のなかで考えることになり、学習した知識や技 術をどのように提供すれば最も利用者や家族に役立 つだろうか9)」という生命倫理の視点から利用者の ニーズ・意向・価値観などをとらえ、人権や法の遵 守まで大切にかかわるという実践ポイントがあると 述べている。また、角田は、「介護現場に特徴的な トピックもあり、ある程度介護に焦点化された倫理 教育内容の構築も必要になってくる10)」と排泄の援 助場面を提示している。 この学生の基礎的知識が実習の際に介護過程の展 開で、その根拠となる現象をアセスメントし課題の 解決策を計画立案・実施するという問題解決の思考 過程にも影響を与えてしまうほど重要である。基本 的な「排尿のしくみ」の理解から生活支援に結び付 けることができるかが重要であるのに対し、適切な 教材が乏しい現状にある。このことから立体的な 腎・泌尿器系の模型の作製を行い、実際に模擬尿の 排泄を試みるような教授方法により介護学生の理解 を深め知識と技術に関連づけられるような質の高い 教材が求められると言える。 2)研究の目的 本研究の目的は、多様な学生の基本的な理解をよ り促進する教授方法の改善のために、効果的な模型 の開発と改良のプロセスを検討し、より良い教材活 用につなげていくことである。 ①模型の開発 作製した教材模型 (試作版) は、腎・泌尿器系に 相似する物品を低コストに抑えて収集し立体的に作 製し、擬似的に液体を流すため接続部からの漏れに 注意して接続した。さらに、本教材模型の精度を向 上させるため、産学医工連携促進支援事業で公表図1 「排尿のしくみ」塗り絵用 く臓器を示す絵があった方がわかりやすいという学 生の意見から、他社の人体模型の画像ポスターでは なく自作の腎・泌尿器系の絵として 2 枚描写した。 1 枚は白黒で塗り絵ができるもの (図 1 )、もう 1 枚 はカラー版 (図 2 ) である。授業最終日に 3 回目の 試作品 (図 3 ) を試用したことによる学生の評価と して、模型自体の精度についての意見はなかった が、模擬尿の色は後ろからも見えるように黄色より 青色の方が良いという意見があった。 ③教授しているところを動画に撮り、模型の活用状 況を確認した。毎回前回の講義を振り返っているた め動画を約 1 分間に編集し保存したことは、偶然に 欠席者がいたこともあり全員の目に触れた講義とな り、その回の学習内容を「理解できる」ことに関連 づけられ、試験前の確認にも役立てることができ復 習となった。 ①②③の過程において、介護福祉教育での人間の 解剖・生理における教材開発や工夫されている文献 がなく、企業との開発の途中で「わかりやすい教 材」を求めるに当たり り着いたのは、養護教諭を 養成するための小児保健分野であった。義務教育中 3 )産学医工連携促進支援事業 (別名:技術情報交 流会) で模型開発の経緯と自作模型の試用結果を 公表し、企業の技術提供を得て動画を撮影し不具 合の部分を共有しながら模型の精度を検討する。 (注釈:下野新聞、2018 年 2 月 21 日 「医工連携の 成果披露 国福大で技術情報交流会 大田原」)
Ϫ.倫理的配慮
本研究は、国際医療福祉大学の研究倫理審査会の 承認 (承認番号 15-Io-96) 後、質問紙調査を講義終 了後の時間外に行い、介護学生のプライバシー保護 のため無記名化し本人が特定されるものではない。 資料あるいはデータの管理は、外部に漏れることが ないよう施錠できる所に保管する。質問紙は研究終 了後、粉砕処理により廃棄する。この研究に協力す ることによる利益として、介護学生の排泄ケアの知 識と技術の向上が得られる。この研究に協力するこ とで、科目「こころとからだのしくみ」の成績は単 位を取得するためのものであり、不利益を被るもの ではない。これらのことを文書で説明し同意を得て いる。ϫ.結果及び考察
1)教材模型作製のプロセス ①平成 28 年度は、腎・泌尿器系の腎臓・尿管・膀 胱・尿道に相似する物品を収集するのに時間を要し た。模擬尿を流すにあたり、各部位に見立てた臓器 の接続状態によって漏れないように各部位を接着し た。模擬尿を溜めておく際に、喀痰吸引等研修で不 要になった経管栄養のイルリガートルを使い行った が、接続部から漏れることがあった。また、部品が どの部位を意味しているかわかりやすくするため に、背面に京都科学の人体模型の消化器系を外した 画像をポスターとしてクリアケースに入れ、人間の 身体の奥行きを出すため湾曲になるようにカゴにポ スターの下部を入れ込んだ。 模擬尿を表す液体の色は、教室の後ろにいる学生 からも見えるように青色としたことは細い尿管を通 る際にも見やすかった。 ②平成 29 年度に医工連携促進支援事業で自作模型 を発表し、企業の協力を得て 3 回目の試作品を用い て模擬尿の色は淡黄色で教授した。模型だけではな図2 「排尿のしくみ」カラー版 図3 「排尿のしくみ」二木モデル:3回目の試作品 最初に模擬尿を溜めておくために点滴ボトルを使用 し、腎臓の周囲に赤い紙を上から貼り付け、模擬尿 はアクリノール液を薄めた液を用い、腎臓に入る時 は赤色で、出る時は薄い黄色となるように工夫され ている。この工夫を参考に、身体の循環器系と泌尿 器系が関連していることで排尿となることが一目瞭 然にわかる教材であるため、試作品の改良として腎 臓に入る血管を赤色の管で示し、腎臓の中に青梅綿 を入れることなど「排尿のしくみ」に近づけるよう に技術情報の提供に活かすことができた。 2)質問紙調査の結果(排尿のしくみ) A 大学介護福祉コースの平成28・29 年度の 2 年 生を対象に、第 5 回目の講義「排泄に関連したしく み」終了後の時間に、調査方法として質問紙を用 い、出席者の回収数を有効回答数とした。回収率 は、平成 28 年度 18 人 (女性 8 人、男性 10 人)・29 年 度 25 人 (女性 18 人、男性 7 人) で合計 43 人 (女性 26 人、男性 17 人) の 100%であった (表 2 )。質問項 目数は設問 1 ∼13 であるが、設問番号順ではなく 「属性」「質問項目」「自由記載」に分けて表 2 で示 に教員が教材のあり方について検討し授業展開をし ていれば、人間の解剖・生理への興味からケアに関 連させることは容易であり、基礎的な技術から応用 へと関連づけられると考える。 小学校の保健教材において、全国養護教諭サーク ル協議会で編集した「からだといのちを感じる」保 健教材・教具集の中に「おしっこはどこでつくられ るの?―腎臓とそのはたらき― 12)」として「排尿の しくみ」の教材が示されていた。膀胱に見立てたプ ラスチック製の透明コップに細かく切った毛糸を コーヒーフィルターに入れ、尿管の役割をするシリ コンチューブを取り付け、膀胱に見立てたマヨネー ズ容器に接続した腎泌尿器系の模型の作り方があっ た。これは、赤い絵の具で血尿を、白色の絵の具で たんぱく尿を表すなど高度な実演教材である。コー ヒーフィルターを腎臓の濾過機能の役割として使用 しているのは、教材作製時に日常生活でわかりやす いものを使っているため理解しやすいと考える。 また、鈴木らの保健教材研究会において、「小学 校『授業書』方式による保健授業」では、「尿検査 は何のため?13)」に行うのかを理解させるために、
表2 質問紙調査結果 設問 設問内容 年度 はい 人数(%) いいえ 人数(%) どちらとも いえない 人数(%) 属性 回答 1 あなたの性別を教えてください。 28 女性 8 (44.4) 男性10 (55.6) 29 女性18 (72.0) 男性 7 (28.0) 質問項目 回答 2 大学で学ぶ以前に理科系の科目は好きでしたか。 28 8 (44.4) 6 (33.3) 4 (22.2) 29 7 (28.0) 13 (52.0) 5 (20.0) 3 大学入学後、科目 「こころとからだのしくみ」 に興味はありますか。 28 9 (50.0) 2 (11.1) 7 (38.9) 29 15 (60.0) 0 10 (40.0) 4 テキスト内の人体の解剖図に興味はありますか。 28 10 (55.5) 2 (11.1) 6 (33.3) 29 14 (56.0) 4 (16.0) 7 (28.0) 5 テキスト内の人体の解剖図を見て、学習に活かせていますか。 28 12 (66.7) 1 (5.6) 5 (27.8) 29 13 (52.0) 4 (16.0) 8 (32.0) 7 人体の解剖模型に興味はありますか。 28 9 (50.0) 3 (16.7) 6 (33.3) 29 11 (44.0) 5 (20.0) 9 (36.0) 8 講義中に「排尿のしくみ」の解剖模型を用いたシミュレーションを 見学して、学習に活かせていますか。 28 9 (50.0) 0 9 (50.0) 29 18 (72.5) 0 6 (24.0) 10 テキストの他に排尿のしくみの人体模型を用いたことで、学習内容 の「排尿のしくみ」は理解しやすかったですか。 28 16 (88.9) 0 2 (11.1) 29 20 (80.0) 0 5 (20.0) 自由記載 回答 6 5.で「①はい」と答えた方に質問です。人体の解剖図を見て、どの ように学習に活かせていますか。 28 自由記載 11 (61.1) 29 13 (52.0) 9 8.で「①はい」と答えた方に質問です。この「排尿のしくみ」のシ ミュレーションの見学前後で学習の学びの違いは、どのようなとこ ろにありますか。 見学前: 28 自由記載 9 (50.0) 29 18 (72.0) 見学後: 28 自由記載 9 (50.0) 29 18 (72.0) 11 10.で答えた理由を書いてください。 28 自由記載 17 (94.4) 29 24 (96.0) 12 今後、「こころとからだのしくみ」を学習する時に、どのような教 材があると理解しやすいと考えますか。 28 自由記載 16 (88.9) 29 22 (88.0) 13 講義の感想と今後講義に希望する内容を、教えてください。 28 自由記載 18 (100.0) 29 22 (88.0) はいえないため、教材試用の前後における自由記載 の内容に焦点を当てた。 ①模型によるシミュレーション見学前の自由記載内容 模擬尿が流れる「排尿のしくみ」のシミュレー ションを見学して学習に活かせたかの質問につい て、見学前では平成 28 年度は、9 名 (50%) が「は い」、9 名 (50%) が「どちらともいえない」、「いい え」と答えた学生が 0 人であった。「はい」と答え た学生の自由記載で見学前は、飲んだ物がそのまま している。筆者の学習者観として、平成 28 年度の 学生は普段の学習態度において消極的で意見や質問 もほとんどない学年であるが、平成 29 年度の学生 はわからないことがある場合に講義中に毎回質問が あり専門性のある介護福祉士の教育を学ぼうとする 行動が見られた。 質問紙では理科系の科目、解剖・生理、人体解剖 図、人体模型に興味があるかどうかを質問したが、 高校までに理解できている場合に必ず興味があると
の思考過程を経たものと考える。 ③模型を用いたことで学習内容の「排尿のしくみ」 は理解しやすかったかという質問とその理由につ いての自由記載内容 平 成 28 年 度 は、16 名 (88.9 %) が「 は い 」、2 名 (11.1%) が「どちらともいえない」、「いいえ」と答 えた学生が 0 人であった。理解しやすかった理由 は、立体で動いているものを見たため、実物に近い ものを見ることで頭に焼き付くため、実際に見たた め、観察できたため、学ぶ意欲が強くなったという ものだった。平成 29 年度は、20 名 (80%) が「は い」、5 名 (20%) が「どちらともいえない」、「いい え」と答えた学生が 0 人であった。模型を用いると 分かりやすい、静止画よりも確実に分かりやすい、 テキストやプリントでは想像しにくい、この模型は 体内のどこにありどう流れるのか分かりやすい、一 連の流れをつかむことができた、括約筋について分 かりやすかった、普段と異なる講義で印象に残ると いうものであった。 3)産学医工連携促進支援事業へ自作模型の使用結 果の公表 産学医工連携促進支援事業において、企業への技 術情報の提供から模型の開発・改良を重ね製品化直 前の 7 回目の試作に至ることになった (図 4 )。尿道 括約筋の役割として管に合わせたクレンメを準備し たり、模擬尿として尿管に見立てた細い管を液が流 れるため、各部位を外し水切れしやすいように乾燥 させ、接続可能となるように試作の回数を重ね、低 コストで作製できるよう協力を得られたことで完成 に向けられたと考える。
Ϭ.全体の考察
学生の自由記載の考察の際に学習者観をとして、 平成 28 年度のほとんどの学生が消極的な学年と平 成 29 年度の質問の多い学年のレディネスの違いの 把握は必要であった。平成 28 年度の学生の中に見 学前の知識において「飲んだものがそのまま膀胱に 溜まっている」と驚くような自由記載があったが、 そのような学生が模擬尿を流しながら行う講義を受 けたことで印象強く理解しやすくなったことは、単 純な模型であったからこそメカニズムを理解し正確 膀胱に溜まっていると考えていたり、腎臓や肝臓の 臓器を混同しており講義後であるが驚く内容もあっ た。講義の内容の振り返りとして再確認でき理解に 至ったケースであった。他には、尿が溜まるのは 知っていたが「どこに」「どのように」溜まるのか 知らなかったり、テキスト内の知識を知っただけで なんとなくしか分からなかったというものであっ た。平成 29 年度は、18 名 (72%) が「はい」、6 名 (24%) が「どちらともいえない」、「いいえ」と答 えた学生が 0 人であった。だいたいこのように動い ているだろうという大まかなことしか知らず、尿 管・尿道の長さや尿量などのイメージと臓器がどの ようにつながっているかわからないなど、排尿のし くみについてはっきり覚えていないという内容がほ とんどであった。平成 28 年度・29 年度共に尿が膀 胱に溜まって排尿するというくらいの曖昧な知識で あり、尿が溜まるのは知っていたが、文章や図で動 きを問われても具体的にわからず、テキスト等で見 ただけでは理解しづらかったという内容がほとんど で、講義上で解剖の説明があっても学生全員が理解 できるものではなかったと考える。 ②見学後の自由記載内容 見学後について、平成 28 年度・29 年度共に同人 数の回答を得ている。平成 28 年度は、実際に見る ことで濾過されるということを忘れていたため学び になったり、腎臓から尿管を通り膀胱に溜まってい く流れを実際に見ることができた、頭でイメージし やすくなり思い出しやすくなった、腎臓の機能を理 解できた、臓器の動きが具体的に視覚で感じたから わかりやすかったという内容が多かった。平成 29 年度は、排尿のメカニズムが分かった、どのように 流れていくのか器官の名前も覚えやすい、自分の体 でもこの様になっていると理解できた、動いている ものを見るほうが記憶に残る、印象に強く残った、 インプットされて覚えやすい、排尿の器官の位置と 働きが分かったという内容から、模擬尿を流す教材 は理解しやすいため覚えやすかったといえる。これ は、講義の際にテキストやパワーポイント上の画 像、木製の人体模型だけでは理解できる過程までに 至らず、学生が模擬尿の流れる単純な模型教材への 興味・関心もあったことで、学生自身が理解できて いなかったことを振り返って自覚し視覚から理解へ図4 「排尿のしくみ」二木モデル:7回目試作品 るもの15)」であると、尿失禁について「排泄行為に 伴う問題」として図式し、病態からアセスメント し、生活支援の環境調整として室内の臭気処理に配 慮することも重要な技術であると示している。筆者 の教材研究で立体的な模型を作製して教えたこと は、学生の質問紙の自由記載から学生の感じたこと を得られ、学生自ら意識して基本的なところを振り 返るなど学生がどう受け止めているかを把握でき た。基礎的知識の重要性から次の段階へと進み、介 護の質を向上させるという具体的な倫理教育につな げられるように教授内容を追加して行うことができ るものと考える。 介護を必要とする対象者について介護福祉士が身 体的、精神・心理的、社会的特徴や疾患、生活を支 える制度の知識が欠かせないことについて佐藤は、 「支援の根拠を明らかにすることは、専門性のある 支援を行なっていることの裏づけになる16)」とし て、あらゆる知識や経験を活用してアセスメントす ることの重要性を述べ、実践に関連づけている。ア セスメント事例 (アルツハイマー型認知症の女性) を基に末廣は、「羞恥心に十分配慮しながら排泄パ ターンを把握17)」することで失敗の頻度を減らす対 応ができると述べている。これは、マズローの欲求 段階説の生理的欲求を満たすという人間の幸福に貢 献するものと考えられる。基本的人権の尊重、自立 支援という介護の理念から介護職の専門性と倫理の 中で西村は、「介護職は感情労働という特質をもっ た専門職18)」であると感情労働についてホックシー ルドの概念から、介護職の感情のコントロールが介 護の質に関連することを述べている。しかし、感情 は目に見えないため、介護実践現場における倫理と して、介護の理念に反する行為にならないように判 断する行動が介護職に求められる。 介護福祉教育の課題として倫理教育について黒澤 は、「人間の尊厳,主体性などの尊重、健康で文化 的な生活の保障などを実習の過程で具体的に学ぶた めに実習指導・実習の特性を考慮した教育方法を検 討することが必要である19)」と実践現場における教 育が効果的であることを指摘している。しかし、介 護学生の実習において教員の巡回指導は 1 週間に 1 回以上を基準としているため、介護実践現場の実習 指導者の計り知れない倫理観に委ねられている現状 に覚えることができたものと考える。これは、今後 の知識の想起と応用に繋がるものと考える。立体的 で自分の身体においても生理的に起きている状態を 意識できたことは、模型を試用した講義は意義のあ るものといえる。 介護専任教員が学生に「排尿のしくみ」を通し て、単純でわかりやすい教材模型を試用し模擬的に 腎臓・尿管・膀胱・尿道の位置や働きを尿の流れを 見せることで、臓器の機能が明確に関連づけられた ものと考える。そして、介護学生が基礎的知識から 応用に向けた観察力を育み、対象者の排泄障害によ る不安や頻回のコールなどへ倫理的な配慮ができる 生活支援の対応が専門職として可能となる。角田 は、「教育現場でどのようなことが具体的に教えら れ、学生はどう受け止め学んでいるのかをリアルに 把握することは難しく、本研究の限界でもある14)」 と今後の介護福祉教育の検討を考えている。排泄の 介護について滝波は、「排泄の介護の特徴を❶回数 も多く、利用者と介護者ともに身体的・精神的負担 が大きい、❷対応の仕方によって生活の質の向上に 密接に関係する、❸プライド・羞恥心に直接かかわ
セスメントを行える思考過程にも多大な影響を与 え、具体的な介護実践につなげるためにも、倫理教 育を組み込んだ介護福祉士養成課程や教授方法の見 直しが求められる。しかし、今回の研究は、介護福 祉士を目指す学生や介護職、多様な介護現場で学ぶ 者に一般化できるものではなく、人間の解剖・生理 について学び始めることに限界がある。小さな子ど もの時から自分の身体に興味をもち、人間について 学習する機会があれば、自然に記憶に残るものであ る。そのため、小学校の理科の授業から教材として の活用を期待するものである。 引用文献 1) 文部科学省:新学習要領・生きる力,高等学校学 習指導要領(ポイント,本文,解説等),2009 2) 挟間章博:学校で人体について何を教えている か,日生誌,78,35−39(2016) 3) 聖路加国際大学からだ教育研究会:からだの知識 は 5 歳から,STARBOOKS,26−28(2017) 4) 藤本菜菜,四十谷寿子,本多優,他:小学校理科 におけるモデルの活用に関する実践的研究 ―第 6 学年「体のつくりとはたらき」単元を事例とし て―,日本科学教育学会研究会研究報告,30:7− 12 (2015) 5) 西村かおる:新・介護福祉士養成講座14こころと からだのしくみ第 3 版,中央法規出版株式会社, 210−212 (2014) 6) 加藤宏:「視覚は人間の80%説」の来し方と行 方,筑波技術大学紀要,25 (1),(2017) 7) 菊地誠,田中賢治,安藤博美,他:生活支援技術 の理解度向上を図る取り組み ―実技チェック シート,DVD教材の作成―,介護福祉教育,中 央法規,20:57−62 (2015) 8) 小板橋喜久代・松田たみ子:最新介護福祉全書12 こころとからだのしくみ,メヂカルフレンド社, 12,278 (2015) 9) 中村裕子:新・介護福祉士養成講座 4 介護の基本 Ⅱ 第3版,中央法規出版株式会社,33−43 (2018) 10)角田ますみ:シラバスからみる大学における介護 福祉士養成課程の倫理教育,生命倫理,26 (1), 43−44 (2016) 11) 藤岡完治・他:わかる授業をつくる看護教育法, 医学書院,76−84 (1999) 12)全国養護教諭サークル協議会:工夫がいっぱい! 実践事例付き からだといのちを感じる 保健教 がある。そのため、介護福祉士養成校における教育 内容の見直しにおいて求められる目指すべき介護福 祉士像にとして「社会状況や人々の意識の移り変わ り、制度改正から、高い倫理性の保持20)」の実現に 向け、倫理教育を徹底できるように養成校全体で改 善への取り組みが必要とされる。 介護学生は多様な基礎学力のレベルにあるため、 基礎的知識と倫理教育を関連づけるためにも教材 は、視覚教材も DVD をはじめ多種あるが、立体的 で実際に模擬尿を流すなど工夫したもの、模型や動 画など動きがあることで興味・関心が高まり、印象 的で理解しやすいものを開発した。そこで、視覚か ら学生の腎・泌尿器系の理解を得るために、産学医 工連携促進支援事業に自作模型を公表し、企業協力 のもとに 2019 年完成間近であり、社会貢献につな がるものである。
ϭ.結論
今回作製した教材模型は、基本的な解剖に焦点を 当てたものであった。そのため、疾患に関連づけて 付属品を取り付け、健康障害があるために尿失禁が 起こるなど、原因となる疾患の根拠を示すことで応 用編となる知識の想起と疾患への対応につながるこ とから、課題として付属品の開発が必要である。介 護現場では、介護職が「医療的ケア」を行っている 現状があるため、医療倫理の原則に則った倫理教育 も重要である。 そして、日本の介護職は介護福祉士、介護職員養 成研修修了者、文化の違う外国人介護士と、基礎学 力の習得レベルは多様であり、知識として「わか る」、技術として「できる」という介護人材能力を 伴う人材育成にも影響するものである。多職種協働 における専門性の発揮、介護職の個別介護計画や介 護支援専門員のケアプランへの反映が介護の質を担 保する支援の根拠と、客観的な評価にもつながるも のである。 厚生労働省は、介護の質の向上のために 2019 年 度のカリキュラム改正21)で、基礎的知識から根拠 に基づく技術に関連づけるために「介護過程」の展 開を重要視している。これは、観察力・判断力・実 践力を育成する教育現場のあり方が問われているか らである。介護学生が、情報収集をもとに的確なア第 3 版, 中央法規出版株式会社,21 (2015) 18)西村洋子:最新介護福祉全書 3 介護の基本,メヂ カルフレンド社,12,246−247 (2014) 19)黒澤貞夫:価値と倫理の教育的課題を考える,介 護福祉教育,10 (1),12 (2004) 20)厚生労働省,福祉人材確保専門委員会:「介護福 祉士養成課程における教育内容の見直し」につい て,資料 2 ,9 (2018) 21)厚生労働省:介護福祉士学校の設置及び運営にか かる指針,(2018) 【原稿受理: