• 検索結果がありません。

実践的指導力の育成 学習指導案の修正をとおして

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "実践的指導力の育成 学習指導案の修正をとおして"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

要旨  本研究では,授業科目「教育の技術と方法」において,学生が学習指導案を作成し,その 振り返りを通して教員としての資質・能力がどのように高まったのかを探った。学生は,授 業づくり(学習指導案の作成),模擬授業,そしてその振り返りを通して,「児童の立場」と 「教師の立場」とを重ね合わせて授業を構想することの重要性に気付いている。つまり,児 童観を踏まえた教材観,指導観等の授業観の育ちの一端が認められる。そしてこの資質・能 力の向上は,授業改善に結び付くものである。 Abstract

 This study discusses how students enhance their skills and attributes as a teacher through creating and reviewing lesson plans in the subject of “technique and method of education.” Students realize the importance of planning lessons from the standpoint of both a teacher and students after the process of planning lessons, demonstrating lesson, and then reviewing them, that is, they develop views of the course such as views of teaching materials and teaching based on the view of children, and the development makes a significant contribution to the improvement of the course.

キーワード

 実践的指導力,学習指導案,資質・能力,授業設計力,授業実践力 Keyword

 Practical leadership, Study guidance plan, Qualifications and competencies, Class design ability, Class practice ability

実践的指導力の育成

―学習指導案の修正をとおして―

生野 金三・伊澤 永修

Development of Practical Teaching Skills

- Through revision of Lesson Plans -

(2)

Ⅰ はじめに

 教員に求められる実践的指導力をめぐっては,平成18年の中央教育審議会の答申(「今後 の教員養成・免許制度の在り方について」)において次のように指摘する。 教員として求められる4つの事項(①使命感や責任感,教育的愛情等に関する事項②社 会性や対人関係能力に関する事項③幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項④教 科・保育内容等の指導力に関する事項)を含めることが適当である1) としている。これは,平成22年度より新設科目として教職課程の中に位置付けられた授業科 目「教職実践演習」の内容である。以下にその内容を掲げる。①には,「誠実,公平かつ責 任感を持って子供に接し,子供から学び,共に成長しようとする意識を持って,指導に当た ることができるか。」「教員の使命や職務についての基本的な理解に基づき,自発的・積極的 に自己の職務を果たそうとする姿勢を持っているか。」「自己の課題を認識し,その解決に向 けて,自己研鑽に励むなど,常に学びつつけようとする姿勢を持っているか。」「子供の成長 や安全,健康管理につけに配慮して,具体的な活動を組み立てることができるか。」等の内 容が含まれる。②には,「挨拶や服装,言葉遣い,他の教職員への対応,保護者に対する接 し方など,社会人としての基本が身に付いているか。」「他の教職員の意見やアドバイスに耳 を傾けるとともに,理解や協力を得ながら,自らの職務を遂行することができるか。」「学校 組織の一員として,独善的にならず,協調性や柔軟性を持って,校務の運営に当たることが できるか。」「保護者や地域の関係者の意見・要望に耳を傾けるとともに,連携・協力しなが ら,課題に対することができるか。」との内容が含まれる。③には,「気軽に子供と顔を合わ せたり,相談に乗ったりするなど,親しみを持った態度で接することができるか。」「子供の 声を真摯に受け止め,子供の健康状態や性格,成育歴等を理解し,公平かつ受容的な態度で 接することができるか。」「社会状況や時代の変化に伴い生じる新たな課題や子供の変化を, 進んで捉えようとする姿勢を持っていますか。」「子供の特性や心身の状況を把握した上で学 級経営案を作成し,それに基づく学級づくりをしようとする姿勢を持っているか。」等の内 容が含まれる。④には,「自ら主体的に教材研究を行うとともに,それを活かした学習指導 案を作成することができるか。」「教科書の内容を十分に理解し,教科書を介して分かりやす く学習を組み立てるとともに,子供からに質問に的確に応えることができるか。」「板書や発 問,的確な話し方など基本的な授業技術を身に付けるとともに,子供の反応を生かしながら, 集中力を保った授業を行うことができるか。」「基礎的な知識や技能について反復して教えた り,板書や資料の提示を分かりやすするなど,基礎学力の定着を図る指導法を工夫すること ができるか。」等の内容が含まれる。  この授業科目「教職実践演習」においては,教員として必要な資質・能力を確実に身に付 けさせるとともに,その資質・能力の全体を明示的に確認することが求められている。これ らの資質・能力の確認の方途として中央教育審議会の答申では,

(3)

役割演技(ロールプレーイング)やグループ討論,事例研究,現地調査(フィールド ワーク),模擬授業等を取り入れることが適当である2) と指摘する。ここでは,教職実践演習において模擬授業を導入するとしているが,これは単 元観,教材観,幼児児童生徒観,保育観,授業観等を基盤とした授業づくりより授業実践に 至る実践的指導力の基礎の育成についてはしっかりと体得せしめるということである。授業 づくりとは,教材研究,指導案・板書計画・発問計画・作業のプリント・教材等の作成のこ とであり,これらを基盤に実践を試み,将来実践の場で柔軟に活用できる力量を体得させる ことを教職実践演習では願っているのである。  以上のことを踏まえ,本研究では,教職に関する科目「教育の技術と方法」において,受 講者である学生が模擬授業を視野に入れ,学習指導案を作成し,そしてその振り返りを通し て,教員としての資質・能力(教材観,児童観,指導観等の授業観)が如何に高まったのか を探ることを目的とする。

Ⅱ 授業設計力と授業実践力

 授業設計(教材の研究,指導の研究)から授業の実施(模擬授業)まで自ら授業者として 体験を経ることによって授業の見方や考え方を構築することができる。授業設計をめぐって は,受講者である学生は教材の研究,学習指導(本時案),発問計画や板書計画等の作成, 教材の作成などその基盤について既に学修している故,このようなことによって受講生であ る学生は,実際の授業を行う際には,指導の研究を綿密にしておくことの必要性に気付くで あろう。  教師としての実践的指導力の基礎の育成を志向し,教育技術(指導技術)を確かなものに する授業づくり,つまり授業を設計する能力を育成することは極めて重要なことである。そ れは,「確かな学力」を育むためにもこの授業設計力は教師にとって必要不可欠なことであ る。斯様な把握の観点よりみると授業設計力と授業実践力とは不可分な関係にあることが分 かる。授業設計者が即授業実践者となり得ることを念頭に置くとき,両者の力量に多少の差 異は認められるもののそこには可成りの重なりが存在する。そうであれば,授業設計の力量 の低い指導者は,授業実施の力量も低く,全体としての授業はできの良くないものになろ う3)。したがって,「確かな学力」を育む授業を行うに当たっては,授業づくりの力量,つ まり授業設計力を可能な限り高いレベルで体得しておくことが前提となる。その授業設計力 は,単元や題材の研究,教材の研究,学習指導観等とその基盤となる力量,そしてそれを踏 まえた学習過程の組織,学習指導案の作成,板書計画の作成,発問計画の作成,ワークシー トの作成等の授業展開を構想する力のことである。本論では,選ばれた教材についての陶冶 価値の所在を見極め,そしてそれを基盤に教授=学習過程を構想するという学習指導案作成 の授業設計力について体得させるような授業を展開する。

(4)

Ⅲ 学習指導案の作成とその指導の方途

 受講者である学生は,解説に従ってグループ毎に学習指導案,発問計画,板書計画,ワー クシート,教材等を作成する。そして,それらを基に学習指導を如何に展開するか,つまり その授業の構想(模擬授業の準備状況も含めて)をグループ毎に検討し,それを報告し合う。 その報告に当たっては,まず作成した学習指導案,発問計画,板書計画,ワークシート,教 材等を基にプレゼンテーションのための発表原稿を作成する。そして,板書事項や挿絵等を 指導の流れに従って提示ながらプレゼンテーションを行う。斯様なプレゼンテーションにお いて受講者である学生は,授業を行う授業者(指導者)の立場,授業を受ける児童(学習 者)の立場のいずれも体験することになる。このことを通して受講者である学生はそれぞれ グループで作成した学習指導案,発問計画,板書計画,ワークシート,教材等が目標を達成 するのに適切であるか否かについて思索を巡らし,それに加筆・修正し,その後ティーム・ ティーチングで模擬授業を行う。ここでも受講者である学生は,授業を行う授業者(指導 者)の立場,授業を受ける児童(学習者)の立場のいずれも体験することになる。その後, 受講者である学生はグループ毎に作成した学習指導案や発問計画が適切であるか否かをまず 検討し,適切なものとなるように個々人で修正するのである。  以下に受講者である学生が修正した学習指導案の一部を掲げ,考察を加える。 1 授業設計の様相(学習指導案の修正を通して) ●受講者 TO が修正した学習指導案の一部(関西福祉科学大学 教育学部 一年次「教育の 方法と技術」) 学 習 指 導 案 備     考 修正前 修正後 【導入の段階】 (教師の支援) ・本時の学習内容を説明 し,挿絵や前時の学習 内容から花の様子を確 認させる。 (教師の支援) ・本時に学習する教材 「たんぽぽのちえ」を 板書する。時を表す言 葉「春になると」に触 れ,時間的順序を捉え させる。前時に学習し たたんぽぽの花の挿絵 を黒板に提示し,挿絵 を視覚に訴え,花の様 子を理解させる。 ・前時の内容を確認させる際,時を表 す言葉を確認させることで,本時の 学習内容との繋がりを理解させるこ とである。この内容は,国語科にお いて育成を目指す資質・能力「思考 力・判断力・表現力等」に示されて いる「C 読むこと ア時間的な順 序や事柄の順序などを考えながら内 容の大体を捉えること。」に相当す る。

(5)

【展開の段階】① (教師の支援) ・学習する場面を黙読さ せ,大事なところに線 を引かせる。 【展開の段階】① (教師の支援) ・黒板に提示した②③④ の学習する場面を音読 させる。その後,黙読 させ,たんぽぽの花の 様子を表す言葉には棒 線を,たんぽぽの軸の 様子を表す言葉には波 線を引かせる。 ・たんぽぽの花の様子を表す言葉とた んぽぽの軸の様子を表す言葉に同じ 線を引かせると,たんぽぽの花の様 子とたんぽぽの軸の様子との区別が つかなくなってしまうので,異なっ た線を引かせることが大事であると 思った。子供の黙読の実態を確認し たり,発表させたりする際,学習の 展開がスムーズに流れると思う。 展開の段階】② (主な学習活動) 二,三日たつと ・その花…しぼむ 黒っ ぽい色 ・じく…ぐったりと地面 に倒れる 【展開の段階】② (主な学習活動) 二,三日たつと ・その花…しぼむ 黒っ          ぽい          色      だんだん ・じく…ぐったり かわ る       かわる ・たんぽぽの変化を花と軸に分けて読 み取らせるとき,花の様子は「しぼ む」(動作化),「黒っぽい」(類似表 現)等の言葉に着目させ,思考活動 を導入しながら授業を進めることの 大切さに気付いた。そして,「だん だん」は,「春になると」から「二, 三日たつと」等の「時を表す言葉」 に着目させ,ゆっくり変化していっ たことを児童が理解できるようにし なければならないと思った。また, ここでは「黒っぽい」の類似表現を 提示することによって児童の様々な 語彙を習得することを目指すことが 重要であることも分かった。 【展開の段階】③ (教師の支援) ・「けれども」を強調する。 【展開の段階】③ (教師の支援) ・「けれども」は③の文と ④の文とが反対の意味 を表す言葉であること に気付かせる。 ・「けれども」をどのように強調する か,具体的に示すことの必要性に気 付いた。児童が「けれども」の用法 について,しっかり理解することが できるように,その前後の文から考  えさせることが重要であると思った。

(6)

考察

「導入段階での指導」  各教科における導入の段階は,学習への動機付けを重要視する観点より既習内容を確認し, それとの関連で本時の学習の目当てを設定するのが一般的である。斯様なこと念頭に置いて 模擬授業者 TO が修正した導入の場面に目を転じてみると「本時の学習内容を説明し,挿絵 や前時の学習内容から花の様子を確認させる。」としていたのを「本時に学習する教材「た んぽぽのちえ」を板書する。時を表す言葉『春になると』に触れ,時間的順序を捉えさせる。 前時に学習したたんぽぽの花の挿絵を黒板に提示し,挿絵を視覚に訴え,花の様子を理解さ せる。」と修正している。これは,前述した導入段階の前半に相当するが,ここでは既習事 項をしっかり確認させることにある。模擬授業者 TO が修正した内容に目を転じてみると, まず,取り扱う教材名を板書し,時間的順序を読み取るための重要な言葉,時を表す言葉 「春になると」を確認し,その後その時のたんぽぽの花の様子,つまり「黄色いきれいな花」 を挿絵によって確認させている。修正前は「……挿絵や前時の学習内容……確認させる。」 とあり,教師の支援の方途が抽象的で有り,具体的な指導の展開が分かり難い。修正後は指 導の様相が具体的であり,学習者である児童も分かり易い。この段階では,本時の学習の目 的,つまり新たな課題などへ如何に結び付けるかという点で極めて重要であるが,本時に学 習する部分が「二,三日たつと」の段落(時を表す言葉で「春になると」の次の段落)であ ることを念頭に置くとき,これは至当な方法である。このことをめぐって模擬授業者 TO は, 備考の欄において「前時の内容を確認させる際,時を表す言葉を確認させることで,本時の 学習内容との繋がりを理解させることである。」としている。模擬授業者 TO が指摘してい る如く,本時の学習との繋がりを児童に理解させることによって,児童は既習の知的経験を 基盤に新たな課題を意識し,知的好奇心を喚起し,学習への探究行動を行っていくであろう。 ・「…のです。」について 理解させる。 ・「…のです。」は,理由 を表す文末表現である ことを具体的を挙げて ( 例「 … の で す。」 を 「…からです。」言い換 えてみる。)理解させ る。 ・「…のです。」は,理由を表すときに 使う言葉であることをしただけでは, 児童の確かな理解は得られないと 思った。国語科の授業では,日常生 活に必要な言葉については,それを 理解し適切に使用することができる ようにすることを願っている。そこ で,一般的に理由を表す言葉「…か らです。」に変えて読むことで,児 童は理解し,「…のです。」は理由を 表す言葉であることが分かるであろ うと思った。

(7)

斯様に児童観に鑑みた指導法によって学習者である児童は,学習に主体的に取り組むであろ う。先に時を表す言葉「春になると」を確認するとしたが,これをめぐって模擬授業者 TO は「備考」の欄に「国語科において育成を目指す資質・能力『思考力・判断力・表現力等』 に示されている『C 読むこと ア時間的な順序や事柄の順序などを考えながら内容の大体 を捉えること。』に相当する。」としている。このアは,「C 読むこと」の指導事項であり, 国語で正確に理解する上で必要な資質・能力である。模擬授業者 TO は,1年次の前期に学 習した授業科目「国語」において学修した育成したい資質・能力の三者(「知識及び技能」 「思考力,判断力,表現力等」「学びに向う力,人間性等」)の内容を踏まえて「備考」の欄 に記している。ここでは,模擬授業の実践を志向した授業づくりの段階において,学生に対 して学習指導案の「本時の目標設定」及び「本時の展開の流れを作成」する際,予め学習指 導要領に掲げられている指導事項を確り踏まえるようにと指示したことが生かされている。 斯様な意味で授業内容とが学習指導要領との関連性は極めて重要である。 「展開段階での指導」  「展開の段階」の①は,「主な学習活動」3に相当し,次の学習活動(「主な学習活動」の 4)で読みを深めるための基礎となる場面である。模擬授業者 TO が修正している展開の場 面に目を転じてみると,「学習する場面を黙読させ,大事なところに線を引かせる。」として いたのを,「黒板に提示した②③④の学習する場面を音読させる。その後,黙読させ,たん ぽぽの花の様子を表す言葉には棒線を,たんぽぽの軸の様子を表す言葉には波線を引かせ る。」と修正している。前述した「主な学習活動」の4の場面で全体の読み深めが展開され るためには,その前段の一人学習の場面,つまり個々で叙述に即して主体的に読み取る場面 が充実することが前提となる。斯様なことに鑑み,模擬授業者 TO が修正した「教師の支 援」の部分に目を転じてみると,「……黙読させ,たんぽぽの花の様子を表す言葉には棒線 を,たんぽぽの軸の様子が表す言葉には波線を引かせる。」としている。ここで,模擬授業 者 TO は学習者である児童が作業をする際,混乱することなく一人学習を行い,読みを深め ることができると考えたのだろう。そのことは,模擬授業者 TO が「備考」の欄に「たんぽ ぽの花の様子を表す言葉とたんぽぽの軸の様子を表す言葉に同じ線を引かせると,たんぽぽ の花の様子とたんぽぽの軸の様子との区別がつかなくなってしまう」と指摘していることか らも理解できよう。これは,正に児童観を踏まえた指導の方途である。  「展開の段階」の②は,前述のした「主な学習活動」の4に相当し,「主な学習活動」の3 を踏まえて読みを深める場面である。模擬授業者 TO が修正している展開の場面に目を転じ てみると,「二,三日たつと ・その花…しぼむ 黒っぽい色 ・じく…ぐったりと地面に倒 れる」としていたのを「二,三日たつと ・その花…しぼむ 黒っぽい色(だんだん)・じく

(8)

…ぐったり かわる(かわる)」と修正している。   ここでは,「修正前」「修正後」のいずれも教材研究を生かした学習指導であることが分か る。就中,「修正後」の内容からは,児童観も踏まえて対処することの重要性に気付いてい ることが分かる。  まず,前者の内容(教材研究)について見てみる。「二,三日たつと」の段落では,言語の 上位概念語(二,三日たつと)と言語の下位概念語(たんぽぽの花と軸の様子)といった階 層関係で捉えることができ,言わばそれは抽象度の高い言葉と抽象度の低い言葉との関係で 整理することができる。読みを深める場合,斯様な言語の関係も十分把握しておく必要があ る。言語能力の育成という観点から見ると,「二,三日たつと」「たんぽぽの花と軸の様子」 (「花……しぼむ。」「じく……じめんにたおれる。」)等の言語の存在に気付かせたり,そして 「二,三日たつと」と「たんぽぽの花と軸の様子」との関わり,つまり言葉と言葉との結合能 力を育成したりすることが重要である。斯様な読みが「たんぽぽのちえ」を理解させ,そし て論理的なものの見方・考え方を深めることに結び付くのである。教材研究の重要性をめ ぐっては,模擬授業者 TO はポートフォリオにおいても指摘する。模擬授業者 TO は,「模 擬授業を実践するにあたり,学習指導案を作成するが,教師は教材研究をしっかりし,教材 の内容価値を理解しておくことである。教師の教材観によって,授業のおもしろさを組織し たり,児童の学習意欲を喚起したりすることができる。よって,教師が教材を分析し,その 内容を紐解くことは大切であると考える。」と述べ,教材研究の重要性について触れている。 言うまでもないことであるが,指導者である教師は,国語科の学習指導の媒体としての教材 について,それが蔵する陶冶価値にについて,内容的,言表的,能力的な観点より徹底的に 考察し基礎的理解を深める必要がある4)。   次いで,後者の内容(児童観を踏まえた対処)について見てみる。修正した内容に目を転 じてみると,そこでは重要な語句を短冊にして黒板に貼り,そして語句と語句との関わりを 線で結び,学習者である児童の視覚に訴え,分かり易いように指導している。加えて,重要 語句の意味を教師が一方的に教えるのでなく,動作化,類似表現等によって学習者である児 童に思考させる場面を設定している。前者の「しぼむ」の動作化であるが,模擬授業者 TO がグループで整理した逐語記録の様相を見ると,「T 皆さん,花の様子が分かるところと軸 の様子が分かるところに線を引きましたね。質問です。まず,花の様子が分かるところ,ど の言葉に線を引きましたか。発表してください。C『しぼんで』に線を引きました。C『黒っ ぽい』に線を引きました。T ありがとう。皆さんどうですか。『しぼんで』を『しぼむ』の 短冊にしたので,黒板に貼ります。そして,『黒っぽい』も短冊にしたので,黒板に貼りま す。T それでは,皆さん,まず『しぼむ』の意味を考えてみましょう。両方の手をこのよう に開いて(指導者が児童に見えるように両手を差し出し),『しぼむ』の恰好をしてください。 S さん上手ですね。皆さん,S さんの手の恰好を見てください。」としている。そして,こ

(9)

の「しぼむ」を一段落(春になると)の内容と関連付けて意味内容を捉えさせようとしてい る。具現すれば,一段落の「さきます」という文言と対比,思考させることによって「しぼ む」の意味内容を捉えさせている。さらに,そのことを挿絵によって確認させ,「T 開いて いた花が小さくなっていますね。」としている。さらに,「黒っぽい」をめぐっては,「T 三 枚の色画用紙(黒っぽい色,白っぽい色,青っぽい色)を黒板に貼りました。三枚の色画用 紙の色を言ってください。これは(『黒っぽい』色画用紙をさして)。C『黒っぽい』です。 T そうですね。これは T(『白っぽい』色画用紙をさして)。C『白っぽい』です。T そう ですね。これは T(『青っぽい』色画用紙をさして)。C『青っぽい』です。T そうですね。」 として,「T『黒っぽい』は,黒のような感じ」 としている。ここでは,「しぼむ」と「黒っ ぽい」等の理解能力の基礎となる言語に関する事項を取り上げて学習活動を展開している。 こうした活動によって,学習者である児童は,変わり方のだんだん」を理解することができ よう。ここでは,いずれの語句も学習者である児童の実態に即して,動作化をさせたり,類 似表現を考えさせたりして学習者の発達段階にふさわしい適切な言語活動を行っている。読 みを深めるための重要な語句の意味を,取り上げ指導によって理解させ,それを文脈の中で 考えさせようとしている。ここからは,言葉の存在に気付かせ後,文脈的意味の捉え方,つ まり読み深めの指導のあり様が浮き彫りになってくる。これも児童観を踏まえた指導の方途 である。斯様なことは,模擬授業者 TO がポートフォリオにおいて「模擬授業を行って,学 習指導案の作成や板書計画の作成などは,教師の立場からのみ考えるのでなく,児童の立場 に立って授業づくりを行い,指導を展開することの大切さに気付いた。」 と述べていること からも理解できよう。    「展開の段階」の③は,前述した「主な学習活動」4の後半に相当する。模擬授業者 TO が修正している展開の場面に目を転じてみると,「『…のです。』について理解させる。」とし ていたのを「『…のです。』は,理由を表す文末表現であることを具体的を挙げて(例『…の です。』を『…からです。』言い換えてみる。)理解させる。」 としている。ここでは,「たん ぽぽがたおれる」という事実の理由を読み取ることが主たるねらいである。それは,教材名 に掲げられている「たんぽぽのちえ」のその一つを読み取ることに結び付くのである。その 指導の方途をめぐって,模擬授業者 TO は文末の「のです。」に着目している。ここでは, 重要語句に「……のです。」,つまり言葉の存在に気付かせた後,その文脈的意味について思 考させる場面を設定している。それは,模擬授業者 TO が「教師の支援」の部分に「具体的 を挙げて(例『…のです。』を『…からです。』言い換えてみる。)理解させる。」としている ことからも理解できる。ここでは,日常生活における言葉を使用する場面を想起させ,教師 の「ゆさぶり」によって児童の知的好奇心をわきたたせ,言語能力を育成しようとする立場 である。模擬授業者 TO がグループで整理した逐語記録の様相を見ると,たんぽぽの花と軸

(10)

が地面に倒れている理由が叙述されている部分(花とじくをしずかに休ませて,たねに,た くさんのえいようを送っているのです。)を確認させた後,その,文末表現「…のです。」の 取り上げ指導を行っている。ここでは,文末表現「…のです。」に着目させ,「T 花のじくが じめんにたおれてしまいますね。なぜでしょう。」と問うて,児童に「C たねにたくさんの えいようをおくっているからです。」と発表させ,それを基に「…のです。」の部分を「…か らです。」にかえて読ませている。斯様な指導法によって学習者である児童が「…のです。」 が理由を表す文末であることに気付くであろう。語句に関する事項で表現力や理解力の基礎 的な言語については,特にそれだけを取り上げて児童の実態に即して繰り返し学習させるこ とが大切であるとされている5) 。斯様な学習によって学習者である児童は筆者が何かを説明 しようとする意識が強く表れるのは文末表現であるという意識を持つようになるであろう。

Ⅳ おわりに

 授業設計及び模擬授業を試み受講者である学生の実践的指導力が如何に高まったのか,そ の様相を見てみる。学習指導案の修正前後及び模擬授業者及びグル―プの学習指導案に対す る意識が如何に変容したのかという点を基に考えてみる。ここでいう実践的指導力とは,教 育実践に必要な教材研究,教授法,児童理解等を踏まえた学習指導案の作成,発問計画の作 成,板書計画の作成,ワークシートの作成の授業を構想する力等の授業を設計する力と,そ れに従って授業を実践する力(導入→展開→終末)のことである。この実践的指導力は指導 者である教師の単元観,教材観,児童観,指導観等の授業観が基盤となっている。  受講者である学生が修正した学習指導案の様相をめぐっては,考察の場面でも触れた如く, そこではいずれも学習者である児童の実態を意識して授業づくり,模擬授業を試みているこ とが分かる。そのことは,「TO・TA・THU・SU・MI」グループがポートフォリオにおい て,「『教育の方法と技術』の授業を受ける中で,学習指導案を作成し,それに基づいて模擬 授業を行った。私は,児童の立場になって物事を考えるようになった。授業をつくる中でど のような話し言葉が分かりやすいのかを考えることができた。」「今までの私は,授業を何も 考えないで受けていたが,授業を行う前には,教師が子供のためにいかに分かりやすく,楽 しく授業を行うことができるか,様々な工夫がなされていることが分かった。」「実際に模擬 授業を行ってみて,自分たちには分かる言葉であっても,授業を受けるのは,2年生には難 しく,言葉の使い方をやさしくしていかなくてはいけないということが分かった。とても苦 労しました。自分たちの目線でなく,児童の目線で考える必要があるということを強く感じ た。」「児童に教材を通して『どのようなことを学ばせ,どのような力を身に付けさせたい か。』という目標を教師自身がしっかり理解しておくことが大切であると思った。教材研究 を基に学習指導案を作成するが,ここでも目標のもとに児童にとってどのような指導の仕方 が一番知識や技能が定着するのかを考える必要があるが,その際児童の目線で考えることが

(11)

重要であると感じた。」「学習指導案の作成や板書計画の作成等を通じて,教師は教師の立場 からのみ授業づくりを考えるのでなく,児童の立場に立っても授業をつくり,指導すること が大切であるということに気が付いた。例えば,言葉の選び方,発問の仕方,板書の仕方等 のすべてにおいてそう思った。言葉の選び方について,『確認』ではなく『確かめる』とい うように学年に応じた言葉の選び方であったり,指導を行っている最中『間違えました』と 言うと『児童は先生が間違えた…』と不安になるのでその言い方をしないようにしたり等, 生野先生に教えていただいて初めて気が付いた。」と指摘していることからも理解できよう。 このような背景には,これまで「児童役」として模擬授業を体験したことが存在しているの だろう。それぞれのグループが「児童の立場」と「教師の立場」とを重ね合わせて授業を構 想していることは,「学習者に分からせるためには如何に対処すべきか。」「如何なる授業が 学習者に魅力があるのか。」「如何に学習者を主体的に学ばせるのか。」等について思いをめ ぐらしてのことであろう。  受講者である学生は,学習者である児童の実態を意識して授業づくり,模擬授業を試みる 中で,就中学び手である児童が如何にしたら興味や関心を抱いて主体的に取り組むか,また 学び手である児童に如何にして確かな学力を体得させるか等を中核に据えたのだろう。この ことは,「TO・TA・THU・SU・MI」グループがポートフォリオにおいて,「…児童の意欲 を高める授業ができる。…どのようなことを学ばせ,どのような力を身に付けさせたいか。 …知識や技能が定着するのかを考える」と指摘していることからも認められよう。以上は, 児童観に鑑みた指導の方途に関する内容である。  次いで,教材観をめぐっての様相を見てみる。いずれのグループも教材そのものの内容面 と言表面(言語面、形式面)を捉えた上で授業を設計していることが分かる。それは考察の 場面でも触れたが,例えば「TO・TA・THU・SU・MI」グループがポートフォリオにおい て,「授業を実際に実践するにあたり,学習指導案を作成することで,教師側が教材研究を しっかりし,内容価値を理解する必要があることが分かった。教師の教材観によって授業の おもしろさ,児童の意欲を高める授業ができる。よって,教師が教材分析をし,教科書の内 容を理解しておくことは大切であると考えるようになった。」「学習指導案を作成する以前に 教師自身がしっかり教材研究をしなくてはならないが,その段階からとても苦戦した。授業 づくりには教師の確かな教材観が必要不可欠であり,それが読みを深めるのに結び付くので ある。」と指摘している。学習者である児童が教材を主体的に,しかも批判的に捉えるため にはまず以て指導者である教師の教材研究への関わり方が極めて重要であると考える。授業 の成否を決定的に左右するのは教材の質であると言及されている。教材そのものを取り扱う 教師の教材解釈,教材研究の重要性はここに存在する。

(12)

[注]

1)中央教育審議会 答申 「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(『教育答申  資料集』所収)東京アカデミー 2006年(平成18)年 pp.206-208 文部科学省総合教育 政策局 教育人材政策課 『教職課程認定申請の手引き』(教員の免許状授与の所要資格を 得させるための大学の課程認定申請の手引き)(平成32年度開設用)pp.202-210参照 2)同上書 3)東洋他監『授業技術講座 基礎技術編 授業をつくる // 授業設計 //』ぎょうせい  1988(昭和63)年 p.68 4)飛田多喜男・国語教育実践理論の会『誰にもできる国語科教材研究法の開発』明治図書  1990(平成2)年 p.21参照 5)文部省『小学校指導書 国語編』株式会社ぎょうせい 1989(昭和64)年 p.121参照

参照

関連したドキュメント

○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

“〇~□までの数字を表示する”というプログラムを組み、micro:bit

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名だったのに対して、2012 年度は 61 名となり約 1.5

「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名、2012 年度は 61 名、2013 年度は 79 名、そして 2014 年度は 84

「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名、2012 年度は 61 名、そして 2013 年度は 79

2011