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樹木の寿命

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Academic year: 2021

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I. は じ め に  樹木の年齢(樹齢)や寿命については,一般の人から 大きな関心が寄せてられている.例えば屋久島の縄文杉 (図―1)と名付けられたスギ Cryptomeria japonica の樹齢 は 7,200 年が過大とか(小笠原 1991,鈴木 2002,屋久杉 自然館 2019 など),年輪で樹齢が確認された世界最高年 齢の樹木は米国のネバダイガゴヨウマツ Pinus longaeva の 4900 年である(鈴木 2002,クック・ジェンシェル 2017, Rocky Mountain Tree-Ring Research 2019など),といっ た話題はきわめて興味深い.さらに樹木医にとっては, 単なる興味だけではなく,取り扱う樹木がどの程度生き 続けるかは,管理上の大きな問題となる.ただし,こう した樹木の年齢や寿命については,正確な科学的知見が 定着しておらず,不確かな情報が拡散されることも多い ように感じる.もっとも顕著な例は,‘染井吉野’Cerasus ×yedoensis ‘Somei-yoshino’ が短命である(三好 1930, 上原 1961,平塚 1991 など),という誤解である(勝木 2015,2018;堀 2017 など).こうした誤解が広まる理由 の一つは,用いられる「寿命」の意味が異なっているか らではないだろうか.そもそも動物と植物の寿命を同様 に扱ってよいのか,きわめて疑わしい.そこで,本稿は 樹木の寿命の定義から詳細に検討し,樹木医が樹木の寿 命をどのよう扱うべきなのか考えてみたい.  なお,寿命は英語の life-span や longevity に相当する. life-span は単なる生存期間であることに対し,longevity は長寿とも訳され長期の生存期間が前提の言葉である. 後述するように,日本語でも寿命という言葉は多義的で あることから,本稿ではできるだけ誤解を招かないよう 言葉の選択に留意した. II. 寿命の定義 1. 平均余命と最高年齢  寿命という言葉がもっとも良く用いられている事例 は,人に対するものであろう.性別・年齢ごとに推定さ れたその後の生存年の期待値が平均余命で,日本人の平 均余命は国が推定した数値が毎年発表されている(厚生 労働省 2019).2018 年における 0 歳の平均余命は男性が 81.3 年,女性が 87.3 年とされる.この 0 歳の平均余命が 平均寿命とも呼ばれる.  ただし,この数字はあくまでも期待される平均値であ り,すべての日本人がこの年齢まで生きる,あるいは死 ぬということではない.また,乳児の死亡率が高いと, 平均値は大きく下がることになる.したがって,平均余 命は,人間のように初期死亡率が比較的低い生物の生存 期間を示す指標に適している.しかし,多くの野生生物 では誕生直後の死亡率が高いため,平均余命はきわめて 低くなり,繁殖するような個体の生存期間を示す指標と して適さない.  そこで,多くの生物の生存期間を示すもう一つの指標 として,最高年齢が用いられる.人の場合,現在確認され ている人の最高年齢は 122 歳であり(Guinness World Records 2019),この数字を人の寿命と考えることもある. 人以外の比較的信頼性が高い最高年齢としては,飼育記

樹木医学の基礎講座 樹木講座 II

樹木の寿命

勝 木 俊 雄1, * * 1 1

Toshio Katsuki1, *(2019)The life-span in trees and shrubs. Tree and Forest Health 23 : 239~247

責任著者(Corresponding author)E-mail:[email protected] 森林総合研究所多摩森林科学園 〒193-0843 東京都八王子市廿里町 1833-81

Tama Forest Science Garden, Forestry and Forest Products Research Institute. Todori 1833-81, Hachioji, Tokyo 193-0843, Japan

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録からアルダブラゾウガメ Aldabrachelys giganteaの152 年や,耳垢からナガスクジラ Balaenoptera physalus の 100 年を超える最高年齢が報告されている(鈴木 2002). 2. 生理的寿命と生態的寿命  平均余命や最高年齢は,それぞれの種がもつ特性に大 きく影響されるが,生育する環境によっても大きく変化 する.医療や生活環境で人の生存期間は大きく変化し, 日本人の 0 歳の女性の平均余命は 1947 年の 54.0 年から 2018 年の 87.3 年に大きく増加しており,国別で見ると 南アフリカの女性は 63.1 年で日本と大きな差が見られ る(厚生労働省 2019).  人だけではなく,多くの動物の平均余命や最高年齢 は,生育環境に影響を受ける.野生動物では,野生環境 と飼育環境において大きな差が見られるので,野生状態 での平均余命や最高年齢を生態的寿命,好適環境下での 数字を生理的寿命と呼び区別する(鈴木 2002).  動物の生理的寿命が生じる要因として,分化した細胞 における細胞分裂の回数制限が考えられている(鈴木 2002,森口 2007).できあがった神経や心臓の細胞は分 裂することはなく,分裂する細胞でもその多くは分裂回 数が有限である.細胞分裂時に,染色体の末端にあるテ ロメアと呼ばれる領域の長さが短くなっていき,短くな りすぎると細胞分裂ができなくなる.このテロメアに よって細胞分裂の回数が制限され,動物に生理的寿命が 生じる大きな要因となっていると考えられている. 3. 樹木の寿命  植物は,その年齢の数え方や個体の概念が動物と大き く異なる.春に発芽して秋の開花・結実後に枯死するよ うな一年草と異なり,多年草や樹木の場合,地上の茎と は別に地下の根茎が長年生き続ける.このため,地上部 と地下部との年齢が異なる場合も生じる.多年草の地上 部の年齢は常に 1 年未満であり,樹木でも発芽時に成長 した幹とは別にひこばえが伸びると,幹年齢と株年齢は 異なることになる(図―2).また,こうした植物体が地下 部で繋がっている場合だけではなく,むかごや不定芽な どによる栄養生殖や,親とまったく同じ遺伝子をもつ種 子をつくる無融合生殖によって,物理的に繋がっていな い場合もある.植物では,こうした同一クローンのまと まりをジェネットと表現し,ジェネットの生存期間をそ の樹木の年齢と見なすこともあるが,株が同じでも幹が 異なれば別個体と見なされる場合もある(小笠原 1991). 立場によって様々な解釈が可能で,誰もが納得できる個 体や年齢を定義することが困難である(鈴木 2002).そこ で本稿では,できるだけ単純に樹齢を考察したいので, 幹年齢を樹木の年齢として扱うことにする.  種子によって増殖する樹木は,ふつうその大部分が野 生環境では発芽して 1 年以内に枯死する(図―3).この ため,樹木の生態的平均余命は,限りなく 0 に近い.し たがって樹木の生存期間の指標としては,最高年齢を考 えるべきであろう.また,樹木は自然林などに生育する 野生状態のほか,公園や庭園などに植栽される場合があ る.野生状態における最高年齢とは生態的寿命である が,人の管理下における植栽環境での最高年齢は生理的 寿命として区別するべきである.  なお,英語では最大寿命が 100 年を超えるものを長命 の樹木 long-lived tree, 100 年に満たないものを短命の樹 木 short-lived tree と表現し(Vasek 1980, Larson 2001, Ally et al. 2010),日本でもしばしば用いられる(「広葉 樹林化」研究プロジェクトチーム 2010).ただし,100 年は科学的な根拠がある数字でなく,キリが良く,感覚 図―2. 低木のコウヤボウキ 地上部の幹は 2 年で枯れて入れ 替わるが,株は 10 年以上生存する 図―3. スギの当年生実生 天然林では大部分が発芽直後に 枯死する

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的に理解しやすい人の最高年齢を基準にしていると思わ れる. III. 樹木の最高年齢 1. 樹齢の測定  コウヤボウキ Pertya scandens(図―2)のように幹が 数年しか生存しない種は直接観察できるので,人が植え て育てた記録を参照することができる.しかし,多くの 樹木は 10 年以上生存し,長命の樹木は 100 年以上生存 する.さらに,樹齢を知りたいような高齢の樹木は正確 な記録が存在しない,あるいは記録があっても信頼でき ない場合も多い.したがって,記録だけではなく,なん らかの手法で樹齢を推定することになる.  もっとも正確な推定手法は,年輪を直接読むことであ る.樹木は,茎と根における二次肥大成長によって年々 二次木部を蓄積して肥大及び伸長成長を行う植物と定義 される(濱谷 2008).温帯の樹木は成長する期間と休眠す る期間を繰り返すため,木部にそれが反映された年輪が 蓄積される.したがって,この蓄積された木部の年輪を 読み取ることでその木部が成長した正確な年を推定する ことが可能となる(図―4;真鍋・川勝 1968,鈴木 2002).  なお,日本では,こうしたスギやヒノキの古い建築材 などの年輪の成長幅の変化を用いて,その年代を正確に 推測する年輪年代法が確立している(光谷 2007).この 手法によって歴史学をはじめ,古気候などの研究が進展 しており,生きた樹木に対しても,中心部の状態の良い 木部が得られれば正確な年代の推定が可能である.  しかし,実際に年輪を測定することは難しい.伐採し た幹の輪切り(円盤)から測定すれば良いのだが,今後 も生存させたい樹木は伐採するわけにいかない.成長錘 などを用いて部分的に木材を採取して測定することが可 能だが,文化財に指定されているような巨木・老木では 部分的な採取すら許可されないこともある.さらに中心 部が腐朽して空洞化していると,伐採しても年輪を読む ことができない.  また,近年では木材の14C を用いた放射性炭素年代測 定によって精度の高い暦年代の推定が可能となっている (中村ら 2012).ただし,どうしても数十年程度の測定誤 差が生じることに加え,年輪測定と同様に中心部の木材 を用いる必要があり,中心部が腐朽して失われていると 正確に測定することができない(大神 2003,三瓶 2018 など).また,測定に高額の費用がかかることも問題と なる.  このため,幹のサイズや現在の成長スピード,不要な 枝の年輪測定などの手法を利用した樹齢推定がしばしば 行われる(真鍋・川勝 1968,渡辺 1996,佐野 2003,堀 2018).ただし,こうした樹齢推定は誤差が大きく,信頼 性が低い.屋久島の縄文杉をめぐる樹齢推定の事例では, 縄文杉の胸高周囲長 16.4 m というサイズとそれまでの 年輪を測定した屋久杉のサイズを比較して樹齢 7,200 年 と推測されたが,縄文杉内部から採取された木材の放射 線年代の測定結果は 2,170 年であり,3,000 年もないと推 測されている(鈴木 2002,屋久杉自然館 2019).  したがって,実際には記録を含めて様々な手法を複数 組み合わせて,樹齢を推定することになる(小笠原1991, 大神 2003,佐野 2003,三瓶 2018).ただし,年輪測定と 放射性炭素年代測定以外,科学的に信頼性が高い推定は 困難であることに注意されたい. 2. 樹木の最高年齢  正確な年輪測定によって確認された最高年齢の樹木と は,米国カリフォルニア州のネバダイガゴヨウマツであ る.Prometheus と名付けられた個体は伐採され,実際 に年輪を測定することで,約 4,900 年の年輪が確認され た(Currey 1965).Methuselah という個体は一部の木材 の年輪を測定することで,樹齢約 4,850 年であることが 確認された(Rocky Mountain Tree-Ring Research 2019). これらが年輪測定された樹木として最高年齢であると考 えられる.他にも,パタゴニアヒバFitzroya cupressoides やギガントセコイア Sequoiadendron giganteum などで 3,000 年を超える樹齢が報告されている(Rocky Moun- Moun-tain Tree-Ring Research 2019).

 一方,ノルウェーから報告された Old Tjikko と名付 けられたドイツトウヒ Picea abies や,米国オレゴン州 にある Pando と呼ばれるアメリカヤマナラシ Populus tremuloides などが,さらに最高年齢の樹木とされるこ 図―4. 天然林において伐採されたミズナラの年輪 直径 40 cm 程であったが,測定された年輪は 113 年であった

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とがある(DeWoody et al. 2008, Mackenthun 2015, クッ ク・ジェンシェル 2017).Old Tjikko は,地上の幹は数 百年だが,根茎部を放射線年代で測定したところ,約 9,500 年と推定された.そこで,株年齢での最高年齢とさ れるが,この見解には異論もある(Mackenthun 2015). Pando は,根からの萌芽を繰り返して広がったクローン が 43 ha に広がり,根の成長速度からジェネットの年齢 は 80,000 年と推測された.いずれも興味深い報告であ るが,先に述べたように本稿では幹年齢を対象にするの で,これらは参考扱いとする.  ところで,日本の最高年齢の樹木はなんだろうか.科 学的な手法による測定としては,屋久島にある大王杉 が,木材の放射線年代測定から約 3,000 年とされている (鈴木 2002,屋久杉自然館 2019).また,屋久島産のス ギの円盤の年輪測定から約 2,000 年が報告されているほ か,ヒノキ Chamaecyparis obtusa にも樹齢 1,000 年を超 える年輪測定の記録がある(真鍋・川勝 1968,鈴木 2002, 吉田 2017,屋久杉自然館 2019).科学的な推定手法を用 いた生存樹木の年齢を明らかにした報告は少なく,さら に高齢の樹木が存在している可能性はあるが,これらを 大幅に超えるものはないと思われる.周囲長や樹高など の測定と異なり,樹齢の測定は困難であることに加え, 正確な樹齢の情報は必要とされていないように感じる. 観光客を引き寄せる巨樹・老木の情報は,伝承による不 確かな樹齢で十分なのかもしれない. 3. 森林における樹木の生態的寿命  天然林において伐採された木材の年齢を集計すると, 樹木の生態的最高年齢を知ることができる.通常の伐採 作業にともなって測定すれば良いので,いくつかの事例 が報告されている.北海道の天然林における最高年齢と して,ミズナラ Quercus crispula が 625 年,ハルニレ Ulmus davidiana var. japonica が 308 年など報告されて いる(梶 1999,渡辺 1994).本州の冷温帯天然林でもブ ナ Fagus crenata が 192 年,ミズナラが 230 年といった 最高年齢が示されている(玉井・天保 1990).また,北 米の落葉広葉樹林においても優占種の最高年齢は 300~ 400 年であることが示されている(Filippo et al. 2015). 過去数百年以上にわたる天然林への人為的影響を考慮す ると,これら極相林の優占種の最高年齢は,人手がまっ たく入っていない原生林だとさらに高かったかもしれな いが,数百年で一致していることは興味深い.  一方,パイオニア種や低木種などについては,シラカ ンバ Betula platyphylla var. japonica が 50 年(梶 1999), クロモジ Lindera umbellata var. umbellata が 30 年,コ アジサイ Hydrangea hirta が 10 年(玉井・天保 1990) など,概ね 100 年に満たない最高年齢が示されている. 森林の発達や再生の過程から推測すると,極相的な優占 種の最高年齢が 100 年を超えることや,パイオニア種や 低木種の最高年齢が 100 年以下であることは,納得でき るだろう(図―5).  ただし,これらは生態的寿命としての最高年齢である. 植栽環境下において,特にパイオニア種や低木種はさら に長期間生存することが観察されている.また,盆栽の ような特殊な栽培環境下でも,樹木は野生状態よりも長 期間生存することが知られている.したがって,生理的 寿命はさらに長いことが予想されるが,長期にわたる植 栽木の事例報告は少なく,今後の課題となっている. IV. 樹木の年齢の制限要因 1. 内的要因  樹木が枯死する原因は,様々な要因が相互に影響して 複雑だが,生理的寿命に関わるものを内的要因として考 察してみたい.巨樹や高齢の樹木は,若い樹木とは異 なった生理現象が見られ,これを老化 senescence と呼 ぶ(福田 2014).こうした生理的変化に樹齢とサイズが 影響していることが指摘されている(小笠原 1988,川口 2012).  樹齢が生理的変化に影響する仕組みとして,動物で見 られるような細胞分裂の回数制限はあるだろうか.樹木 は,多数の成長点や形成層などで新しい細胞が増殖され 続け,植物のテロメアはテロメラーゼという酵素によっ て修復されるため,細胞分裂の回数制限はないと考えら れている(鈴木 2002,Flanary & Kletetschka 2005, 森 口 2007).このため,樹木の生理的寿命は無限という考

図―5. 二次林伐採後に更新したアカメガシワ このまま放置 するとより高く生育する樹種に被圧され,20~30 年 ぐらいまでに枯死すると予想される

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えがある(淺田 1943a, 小笠原 1988).  また,高齢の樹木では生理的な障害が生じやすいこと から,加齢に伴う有害物の蓄積や植物ホルモンの変化な どによって,生理的な生存期間に限界が生じるという考 えもある(小笠原 1988,1996).また,ジェネットの年 齢が 1,000 年を超えるような高齢のクローン植物におい て,突然変異の蓄積が繁殖能力を低下させている事例が 報告されており(Ally et al. 2010),突然変異の蓄積が 生理的な障害の原因となっていることも考えられる.  一方,樹齢と異なり,樹高や樹冠面積,幹の太さなど のサイズが増加することによる生理的変化は明らかであ る(淺田 1943b, 川口 2012,Filippo et al. 2015).樹高が 高くなると,樹冠の葉は水ストレスを受け,主軸の伸長 よりも側枝の伸長が中心となる樹形に変化していく(八 田 1995).このため,樹種や環境によって,樹木の最大 高は限界が生じる(鍋島・石井 2008).  樹冠面積は,横枝に対する物理的な制約や個体間の競 合から,制限される.光合成を行う葉量は,樹高と樹冠 面積にほぼ比例し,いずれも成長過程の中で増加が止ま るので,光合成による総生産量は変化しなくなる.これ に対して,幹や枝のサイズは増加していくので,呼吸量 は増加し純生産量は減少することになる.この結果,樹 冠面積が増加しない個体は,やがて衰退していくと考え られる.  また,高くて重い幹は,幹折れや根倒れなどの物理的 な損傷の原因となる.(川口 2012,石井ら 2017).一方, 劣悪な環境下で生育するサイズが小さな樹木が,成長の 良い環境下で生育したサイズの大きな個体より,最高年 齢が高かった事例が報告されている(Larson 2001).  このようにサイズの増加は枯死リスクを高める要因に なっているので,剪定などによってサイズをコントロー ルし,新しい幹や枝を伸ばして樹木を再生する若返り法 が古くから行われている(淺田 1944,小笠原 1988,1996). 緑化樹の強剪定は,こうしたサイズコントロールの一つ と考えられる(図―6).盆栽のように,成長をさせないサ イズ管理によって長命化させる極端な事例も見られる.  基本的に樹齢とサイズの増加には強い相関関係がある ので,これらを切り離してそれぞれ評価することは困難 である.加齢にともなう生理的変化については,さらに 検証する必要があるだろうが,数十~数百年の樹齢にお いて,サイズなど他の要因よりも衰弱・枯死に大きく影 響する仕組みは明らかにされていない.加齢による変化 があったとしても,その影響は小さいのではないだろう か. 2. 外的要因  生態的寿命に関わる要因として,これまで述べた内的 要因に加え,他の生物や環境などの外的要因が大きく影 響している.まず,天然林での最高年齢を考える上で, 他個体との競合を含む森林の遷移はきわめて重要であ る.森林は同じように見えて,常に変化している.特に 森林の発達初期段階において光環境は大きく変化す る.発達初期の森林は樹冠層が高くなるが,その高さに 育つことができない個体は,充分な光を受けることがで きなくなる.パイオニア種であるクサギ Clerodendrum trichotomum が,樹冠層の上昇に伴い,撹乱によるギャッ プへの侵入後 13 年ですべて枯死した事例が観察されて いる(島田・勝木 2009).  こうした競合のほか,虫害や病害によっても樹木は衰 弱・枯死する.こうした樹木に対する病虫害は,定期的 に,あるいは偶発的に発生するので,病虫害を受けて衰 弱・枯死するリスクは常に存在することになる.その中 でも特に腐朽害の影響は大きい.腐朽害はさまざまな樹 種に発生し,多年にわたり拡大し,しばしば幹折れや根 倒れをもたらす(図―7;阿部 1999).多くの高齢木にお いて腐朽害は高い頻度で見られ,管理上の大きな問題と なっている.  物理的な生育環境の変化も枯死要因となる.火山活動 や地震,山火事などの大規模な災害は樹木の生育基盤そ のものを奪う.また,低温害や高温害,雪害,風害,潮 風害,津波害,干害,湿害,落雷害などの気象害によっ て樹木が衰弱・枯死することもある(吉武 2014).特に 気象環境は,長期的に大きく変動している.福井県水月 湖の花粉分析の結果では,過去 15 万年の間,平均気温 は 0~-10℃の範囲で変化してきたことが示されている 図―6. 強剪定が行われたケヤキ 古い枝を切断し,新しく枝を 伸ばすことで,若返りをはかる

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(中川 2011).個々の樹木に適した気候は長期的に安定 して継続するとは限らない.  土壌環境の変化も,樹木の衰弱・枯死する要因となる. 淺田(1943b)は忌地性を内的要因としているが,土壌 中の微量元素の欠乏や病害虫が原因ならば,外的要因と して扱うべきであろう.土壌環境は,森林中で適度に物 質が循環していれば安定していると考えられるが,表土 の流失や土砂の堆積などにより,変化することもある. また,微量元素の欠乏や過剰による生理障害も考えられ る(福田 2014).  このように樹木が育つ環境は,長期にわたって好適な 状況が保たれているとは限らない.また,病虫害や気象 害などにより,偶発的な枯死・衰弱も生じる.もちろん, こうした被害に対する耐性が高い樹種は,より長期間生 存することが予想される.特に幹の腐朽害への耐性が高 いと考えられる種は,比較的生存期間が長いことが示唆 されている(小池 1987,川口 2012).運良く腐朽などの 被害に遭うことがなかった恵まれた個体だけが,1,000 年を超えて生存するのであろう.しかし,様々な外的要 因によって,多くの樹種の最高年齢は長くても数百年程 度となるのではないだろうか. 3. 人為的要因  最高年齢を制限する要因として,これまで述べた内的 要因と外的要因のほか,人為的要因も考える必要があ る.人の影響は,外的要因の一つとして捉えることもで きるが,樹木医のように樹木の管理を考える立場からす ると,一般的な外的要因と人為的要因は区別して考える べきであろう.  現在,日本の国土の 66% が森林で,そのうち約 4 割 が人工林である(林野庁 2019).残りの天然林について も,なんらかのかたちで人為的な影響を受けており,い わゆる原生林は存在しないと考えられている(正木・相 場 2011).つまり,人工林だけではなく,天然林を含む すべての森林において,人が樹木の生死に大きく関わっ ているのである.さらに,地球規模での気候変動や大気 汚染などで示されているように,人の活動は想定以上に 大きな影響を環境に及ぼしている.  また,人工林や公園,庭園,街路などに植栽されてい る樹木は,植栽から伐採までが人によって管理されてい る.こうした植栽木に対しては,伐採だけではなく,灌 水や施肥,剪定,病虫害対策といった保護・保全のための 管理も行われている.この結果,人に有益な樹木は,天然 林よりも好適な環境を整えられることで,より高齢とな りえる.寺社等に高齢木が多い理由として,そうした人 為的な影響があることも指摘されている(淺田 1943b). 人の管理によって樹木の生存期間が大きく影響されてい ることに注意しなければならないだろう(図―8). V. ‘染井吉野’の最高年齢 1. 生理的寿命  樹木の寿命の扱いを検討するにあたって,樹木医に とってもっとも良い材料は‘染井吉野’であろう.‘染井 図―7. 幹の中心部が腐朽した‘染井吉野’ 図―8. 森林総合研究所多摩森林科学園に植栽されていた ヒマラヤスギ 健全な個体であったが,風害時の 周囲の建物へのリスクを考慮して伐採された

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吉野’は江戸時代末に江戸の染井村から広まったサクラ の単一クローンの栽培品種であり,明治時代になると広 く栽培されるようになった(勝木 2015,2018).北海道 と沖縄の一部を除く全国で観察することができ,樹木医 が取り扱うことも多い.  信頼性が高い記録によると,現在確認できる最古の‘染 井吉野’は 1875 年(明治 8 年)に植栽された小石川植物 園の高台の集団である(中井 1935).このほか,福島県 郡山市の開成山公園(図―9)の 1876~78 年(明治 9~11 年)や青森県弘前市の弘前公園の 1882 年の植栽記録な どがあり,明治時代以降に植栽された個体しか現存して いないと考えられる(勝木 2015,堀 2017,三瓶 2018). ただし,小石川植物園の高台の集団は,いずれも植栽年 に比較して幹の太さが小さく(勝木ら 2018),主幹の枯 損後に伸びたひこばえである可能性が指摘されている (池谷 2013).幹年齢においては,開成山公園が最古と なる.  すると,植栽時の苗木の年数を除いた 2019 年現在の ‘染井吉野’の最高年齢は,株年齢で 144 年,幹年齢とし ても 141 年となる.森林に自生していない栽培品種なの で,生態的最高年齢ではなく,生理的最高年齢となる. なお,上記の個体はいずれも比較的健全であるので,今 後もこれらの数字はさらなる増加が予想される.他にも 東京都の新宿御苑や岡山県新庄村などに樹齢 100 年を超 える個体が数多く確認され,‘染井吉野’は長命の樹木で あることが明らかである. 2. 短命説の誤解  一方,明治時代に広まって以来,‘染井吉野’は短命と の評価が根付いている.「大體二三十年位で木が傷み 四五十年もたてば多くは枯れる」(三好 1930),「短命で 20~30 年を最盛期とし,50~60 年は老衰期である」(上 原 1961)などとされている.このため,近年は「寿命 60 年説」が広まっている(平塚 1991).  ‘染井吉野’は,サクラの中では極めて成長が早く,10 ~20 年ほどで,10~14 m の最大樹高に達したあと,樹冠 を大きく横に広げる樹形に成長する.空間がなければ樹 冠は横に広がらないが,広い空間があっても樹冠幅には 限界があり,樹高の倍を超えることはないと思われる. この樹高と樹冠幅が増加する段階が,成長期である.そ の後は,好適な環境の場合,樹冠がほとんど変わらない 安定期が 10~30 年ほど続き,花見に最適な状態となる. その間も,幹は成長を続け,樹齢 60 年くらいで胸高直 径 1 m を超えるサイズに成長することもある(勝木ら 2018).安定期の後,枯れ枝が目立つようになり,樹冠 は減少し,花つきが悪くなる衰退期となる(図―10).た だし,衰退はするものの,枝の枯損と再生を繰り返し, 新たにひこばえが伸び,樹冠が再生することもある.枯 死する場合,幹腐朽などの病虫害や気象害などの外的要 因が確認されることが多いので,三好の「枯れる」とい う評価は,枯死ではなく衰退と捉えるべきであろう.  したがって,マスコミなどで用いられる‘染井吉野’ の寿命とは,生物としての生理的最高年齢ではなく,観 賞木としての耐用年数と考えるべきである.観賞木とし て植栽される木は,その機能が損なわれると,「寿命」 を過ぎたと判断される.人で例えると,スポーツにおけ る選手寿命といったものだろうか.また,‘染井吉野’の 場合,高齢になると幹腐朽など外的要因によって枯死す る個体も徐々に増加するが,管理費用や倒木リスクと いった人の都合から枯死前に伐採される場合もある(勝 木・岩本 2017). 図―9. 1876~78 年植栽と考えられる福島県郡山市の開成山 公園の‘染井吉野’ 図―10. 植栽後約 60 年の‘染井吉野’ 枯れ枝が見られるが,枯死していない

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3. 樹木医による管理  生育適地において適切な管理を行うことで,‘染井吉野’ の観賞木としての耐用年数は十分長くなることが示され ている(平塚 1991,堀 2017).青森県の弘前公園の樹齢 約 120 年の‘染井吉野’の状態を観察すると,適切な管理 によって健全度は保たれており,耐用年数がさらに長く なることが予想される(勝木ら 2018).ただし,生育不適 地で適切な管理をおこたると,観賞木としての機能が低 下し,短期間で伐採しなければならなくなる.特に関東 以西の暖地では,気温上昇などの気候変動によって‘染 井吉野’の生育不適地への変化が予想されており(丸岡・ 伊藤 2009),今後の植栽・管理計画には注意したい.  ところで,‘染井吉野’の誤った寿命説がさかんにマス コミなどで流布される要因に,‘染井吉野’に自分の人生 を重ねる心情があると思われる.‘染井吉野’の成長は, ちょうど人と同じような年齢で推移する.自分が生まれ た頃に植えられた‘染井吉野’が高齢化して衰退するこ とに,人はどうしても自分を重ねてしまうだろう.しか し,樹木医は人の平均余命と,樹木の最高年齢の意味を 取り違えないように留意されたい.高齢の‘染井吉野’ が衰弱・枯死する原因は,生理的な寿命ではない.なん らかの外的要因によるものなので,適切な管理によって 耐用年数を延ばすことが可能である.科学的な根拠がな い短命説に管理責任を転嫁してはならない. 謝辞 本稿は,2009~2010 年に本誌に連載された「樹 木医学の基礎講座 樹木 II 期」の一つとして企画された ものでした.編集委員としてテーマを決めたものの,諸 事情から自分が執筆することになりました.ところが, なかなか取りまとめることができず,構想段階から 10 年越しの原稿となってしまいました.これだけ大幅に提 出が遅れたにもかかわらず,長い間執筆を待って頂いた 樹木医学研究の編集部の皆さん,本稿で利用した調査を 手伝っていただき,原稿への有益なアドバイスをいただ いた森林総合研究所多摩森林科学園の長谷川絵里主任研 究員と岩本宏二郎主任研究員にはたいへん感謝いたしま す. 引 用 文 献 阿部恭久(1999)樹木の腐朽病害.228-244(鈴木和夫編,樹 木医学,朝倉書店)

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