氏 名 荒 井 哲 司 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第432号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 機能材料システム工学専攻 学 位 論 文 題 目 マイクロ波励起高密度ラジカルの 半導体製造プロセスへの応用について 論 文 審 査 委 員 主査 准教授 有 元 圭 介 准教授 山 中 淳 二 准教授 村 中 司 准教授 佐 藤 哲 也 教 授 鍋 谷 暢 一 山梨大学名誉教 授 中 川 清 和
学位論文内容の要旨
第四次産業革命はIoT(Internet Of Things)や AI(Artificial Intelligence)をコア技術 として進められている。これらの分野において、最も重要な構成部品として半導体が用い られている。IoT においては様々なセンサー類と通信デバイスをモノに取り付け、多様な情 報を得るため半導体が用いられる。また、AI においては情報を処理するために CPU (Central Processing Unit)や GPU(Graphics Processing Unit)が用いられている。半 導体分野の技術発展が第四次産業革命の解決を後押しすることは疑いの無いことであり、 更なる研究が望まれている。半導体デバイスの製造において、重要な要素技術の一つとし てプラズマ技術が挙げられる。プラズマは、真空中において基底ガスに高周波を照射する ことにより生成するものであり、電子やイオン、ラジカルを用いて微細加工や表面処理等 を実現する技術である。プラズマ発生のための装置は様々な形態が考えられているが、装 置構成に整合器が不要で、高効率なマイクロ波伝搬を実現しており、高密度なラジカル生 成を可能としている無限線路型マイクロ波プラズマ装置に、私は注目している。なぜなら、 無限線路型マイクロ波プラズマ装置よって生成される高密度ラジカルを半導体製造プロセ スに応用すると、従来型の装置では成しえないようなプロセスや品質を実現できる可能性
があるからである。そこで本論文では、無限線路型マイクロ波プラズマ装置の半導体製造 プロセスへの応用について研究することとした。 第 1 章では、研究の背景及び研究の目的について記述している。本研究は無限線路型マ イクロ波プラズマ装置を用いた半導体製造の新たなプロセス開発や半導体の高品質化を目 的としている。具体的には、無限線路型マイクロ波プラズマ装置を水素ラジカル源として 応用し、水素ラジカルの再結合反応による遷移金属の選択的加熱現象の半導体素子作製プ ロセスへの応用について研究を行った。また、無限線路型マイクロ波プラズマ装置を酸素 ラジカル源としたPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)装置による ゲート酸化膜形成についても知見を得ることを目指す。 第2 章では、研究に用いた装置の説明を行っている。 第 3 章では、無限線路型マイクロ波プラズマ装置を応用した水素ラジカル照射装置の半 導体プロセスへの応用を目指した研究について述べている。水素ラジカル照射による加熱 現象では、Ni などの遷移金属は高温まで温度上昇するが、Si や Al などでは加熱現象が起 きないことが分かった。この特徴を活かした半導体製造プロセスへの応用として、電極形 成プロセスに関して知見を得ることを目指した。具体的な事例として、Si 基板上に Ni を蒸 着した試料に水素ラジカルを照射することによりニッケルモノシリサイドの形成に成功し ている。その際の加熱温度プロファイルは水素ラジカル照射から5 秒以内に 450 ℃まで温 度上昇しているが、その時点で加熱現象は自動停止し、水素ラジカルを照射し続けても試 料の温度は下がり続けた。これは、水素ラジカル照射によって試料が加熱されNi と Si と が反応するニッケルシリサイド化が進んでいくが、試料表面までニッケルシリサイド層と なることにより、試料表面での水素ラジカル再結合反応確率が下がったため、加熱現象が 停止したためと考えらえる。つまり、水素ラジカル照射をSi 基板の電極形成プロセスに用 いると、自動停止機構を持つ制御性の良いプロセスが可能になることを示唆している。ま た、SiC 基板における電極形成プロセスについても検討している。SiC 基板上に Ni、つい でW を蒸着した構造を持つ試料を用いて電極形成実験を行った。その結果、15 秒の水素ラ ジカル照射でニッケルシリサイドが形成されることが分かった。更に、60 秒の水素ラジカ ル処理により良好なオーミック接合を得ることにも成功した。60 秒という処理時間はフラ ッシュランプアニールによる処理時間と同等であることから、選択的加熱のできる水素ラ ジカル照射加熱は、生産性を落とさずに信頼性を高める可能性を秘めた電極形成プロセス であると言える。 第 4 章では、無限線路型マイクロ波プラズマ装置を応用した PECVD 装置について、ゲ ート酸化膜形成への応用を目指した研究について述べている。Si におけるゲート酸化膜と
してはSiO2膜が広く用いられており、熱酸化による形成が行われている。これは、Si を酸 化することにより緻密で良質なSiO2膜をゲート上に形成できるためである。しかしながら、 次世代のパワー半導体として研究が進められているSiC や GaN においては、熱酸化によっ て良質な SiO2膜を得ることができていない。そこで、堆積 SiO2膜形成プロセスとして無 限線路型マイクロ波プラズマ装置をPECVD 法に応用することを試みた。PECVD 法におい て膜質は基板に依存しないことから、まずはSi 基板上で SiO2膜を堆積し、その知見を得る こととした。無限線路型マイクロ波プラズマ装置を用いたPECVD 装置によって Si 基板上 にSiO2膜を様々なプロセス条件で堆積させて試料を作製し、CV および GV 測定から界面 準位密度を求めた。また、ESR 測定を行い、SiO2膜内欠陥についても評価を行った。その 結果、無限線路型マイクロ波装置を応用したPECVD 装置によるプロセスは、RF プラズマ を用いたPECVD 装置によるプロセスと比べ、界面準位密度を下げることができ、SiO2膜 内の欠陥を減らすことができることが分かった。しかも、今回実験した条件の中で最も良 い条件で形成されたSiO2膜は、Si を熱酸化して得られる SiO2膜と同程度の界面準位密度
であった。このため、無限線路型マイクロ波プラズマ装置を用いた PECVD 装置は、次世 代パワー半導体向けゲート酸化膜形成装置の有力な候補となるポテンシャルを秘めている ことが分かった。 第5 章では、各章で得られた知見を要約し、本論文の総括とした。
論文審査結果の要旨
荒井哲司氏の学位論文「マイクロ波励起高密度ラジカルの半導体製造プロセスへの応用 について」では、新しいラジカル形成技術の半導体製造プロセスへの応用を目指し、その 有効性を実証したものである。 半導体デバイスの製造プロセスの重要な要素技術の一つとしてプラズマ技術が挙げられ る。プラズマは、真空中において基底状態のガスに高周波を照射することにより生成する ものであり、電子やイオン、ラジカルを用いて微細加工や表面処理等を実現する技術であ る。プラズマ発生のための装置は様々な形態が考えられているが、装置構成に整合器が不 要で、高効率なマイクロ波伝搬を実現しており、高密度なラジカル生成を可能としている 無限線路型マイクロ波プラズマ装置に荒井氏は注目し、研究を推進した。無限線路型マイ クロ波プラズマ装置よって生成される超高密度ラジカルを半導体製造プロセスに応用する と、従来型の装置では成しえないようなプロセスや品質を実現できる可能性があると期待 したからである。Si 基板上に Ni を蒸着した試料に水素ラジカルを照射することにより、ニッケルモノシリ サイドの形成に成功している。その際の加熱温度プロファイルは水素ラジカル照射から 5 秒以内に450 ℃まで温度上昇しているが、その時点で加熱現象は自動停止し、水素ラジカ ルを照射し続けても試料の温度は下がり、自動停止機構を持つ、すなわち従来プロセスと は異なり過剰の熱負荷をかけない制御性の良いプロセスであることを示している。この技 術は産業的に大きなインパクトを与えるものと期待される。 また、SiC 基板における電極形成プロセスについても検討している。まず SiC 基板上に Ni を蒸着して水素ラジカル照射による加熱を行った結果、シリサイド形成とともに加熱が 自動停止するが、オーミック接合とはならないことが分かった。これはシリサイド形成時 に炭素が析出して高抵抗層を形成しているためと考えている。加熱を持続し析出炭素分布 を変えることを目的として、SiC 上にまず Ni、その上に W を蒸着した構造を持つ試料を用 いて電極形成実験を行った。その結果、15 秒の水素ラジカル照射でニッケルシリサイドが 形成されることが分かった。更に、60 秒の水素ラジカル処理により良好なオーミック接合 を得ることにも成功した。すなわち、選択的加熱が可能な水素ラジカル照射加熱は、フラ ッシュランプアニールを用いる場合と同等の処理時間で良好なオーミック接合を実現でき る信頼性の高い電極形成プロセスであることが示された。 無限線路型マイクロ波プラズマ装置を用いた PECVD 装置によって Si 基板上に SiO2膜 を様々なプロセス条件で堆積させて試料を作製し、CV および GV 測定から界面準位密度を 求めている。また、ESR 測定を行い、SiO2膜内欠陥についても評価を行っている。その結 果、無限線路型マイクロ波装置を応用したPECVD 装置によるプロセスは、RF プラズマを 用いたPECVD 装置によるプロセスと比べ、界面準位密度を下げることができ、SiO2膜内 の欠陥を減らすことができることを明らかにしている。今回実験した条件の中で最も良い 条件で形成されたSiO2膜は、Si を熱酸化して得られる SiO2膜と同程度の界面準位密度で
あり、今後の半導体プロセスの低温化に対応できる技術であることを実証している。 以上の議論を通して、荒井氏は半導体作製プロセス全般に関する知識・学識も十分であ ることを確認した。研究成果は、査読付きである英文論文として 2 件公表され、研究成果 も認められている。