『日本福祉大学社会福祉論集』第 142 号 2020 年 3 月 要 旨 本研究は,現場に求められるコミュニティワークの方法論を究明する必要性に基づ き,リフレクションという方法を採用することで,現場の中で潜んでいる実践知が可視 化・言語化される可能性について探るものである.リフレクションにおいては,個人レ ベルにとどまらず,他者と共有可能な形で外化(アウトプット)されるように他者とと もにする「場(コミュニティワーク研究会)」を想定する. 研究の内容としては,研究会の場を介しながら,執筆者の永坂が自分が関わった事例 「鳩のフンから女子大生」をリフレクションし外化を進めた過程を示す.研究会の場で の相互作用の中で,永坂が進めたリフレクションの外化は,①他者との共有を進めるた めの物語としての事例の文字化,②コミュニティ組織化の 10 段階に沿った展開プロセ スの細分化,③フローチャートの作成による主体・プログラム等の関係のみえる化,で ある. この 3 つのリフレクションの外化過程の分析から,実践者の自己理解が進む中で実践 知が言語化されることと,その条件整備としてリフレクションの循環を促す場の組織化 について考察する.そこからコミュニティワークの実践知を言語化する,リフレクショ ンの外化のトレーニングの可能性を示す. キーワード:コミュニティワーク,リフレクション,場,実践知,言語化
1.研究の目的
コミュニティワークは従来から地域福祉を推進する方法論として位置づけられてきたが,いま や地域づくりや地域支援の政策化が進み,介護保険や生活困窮者自立支援等に関わるさまざまな 立場のワーカーにとっても関心が高まっている方法論である.地域住民の主体性に基づく地域リフレクションによるコミュニティワークの実践知の言語化
「場」を通した事例「鳩のフンから女子大生」の外化過程
朴 兪 美
永 坂 美 晴
(生活)課題の解決が多くあげられている,近年の制度・政策化の動きとコミュニティワークへ の関心が無関係ではないということである.例えば,介護保険制度の改正によって生活支援コー ディネーターが導入されているが,そこには地域づくりといったコミュニティワークとしての受 け止め方ができる仕事が求められている. こうした制度・政策の動向とも相まって,具体的な方法としてコミュニティワークが新たに注 目されているが,現場になじみやすい実践方法としての充実な内容が示されているとは言い切れ ない.理論的に統一された定義は未だになく,コミュニティワークの展開プロセスや用いる技術 等は必ずしも明確化されていない(池本・村山 2019).コミュニティワークをめぐった様々な曖 昧さの究明は,依然としてコミュニティワーク研究の課題となっている. コミュニティワークは輸入理論として導入されたものではあるが,長い年月の間,日本の文脈 に沿って実践されてきたことは間違いない.日本各地で,地域福祉実践として,地域組織化に代 表されるコミュニティワークがさまざまな形で展開されている1).ただし,上記に示したように, コミュニティワークをめぐったさまざまな現場の知識は実践者の経験内にとどまり,その方法論 としての明確化の難しさが指摘されてきた.つまり,現場で展開されている多くのコミュニティ ワークが「実践知」にとどまっており,充分言語化・可視化されていないということである. 「実践知」とは,経験を通して獲得し,実践者の実践行為に現れる,明示されていない知識 (暗黙知)を総称したものである(加藤 2018:61).今の日本の文脈で求められているコミュニ ティワークの展開をより究明していくためには,これまでの現場実践の中に蓄積されている「実 践知」の言語化を試みる必要がある.コミュニティワーク実践が展開されている事実に着目し, その「実践知」を抽出し,普遍的な知識として再構成することはコミュニティワークの研究課題 となっている(瓦井 2004:9). 実践者自身の記憶の中にある「実践知」の可視化を試みる上で注目されるのが,「リフレク ション(省察)」である.リフレクションは,コミュニティワークの実践に求められる技術とし ても示されるが,活動を取り巻くさまざまな文脈の理解だけではなく,実践者自分の価値観・先 入観等の自己認識・理解をしっかり持つことを進めるものとなる(ビルリー 2005:92-94)2) . リフレクションの活用性はコミュニティワークに限られるものではない.「省察的実践3)」と 言われ,専門職の教育・養成に求められる重要な技術として,リフレクションは幅広く受け止め られている.地域づくりや地域支援等の制度化に伴ってコミュニティワークの専門性が新たに注 目される中,リフレクションを用いて,長年の現場実践に蓄積されている実践知を可視化してい くことは,日本の文脈に応じたコミュニティワークの専門性を明確化することにつながる. 以上から,本研究では,現場に求められるコミュニティワークの方法論を究明する必要性に基 づき,リフレクションという方法を採用することで,現場の中で潜んでいる実践知が可視化・言 語化される可能性について探っていく.現場のコミュニティワーク実践が,リフレクションに よってどのように可視化・言語化されていくのか,事例を取り上げ,実践知がみえる化されるリ フレクションのプロセスを試みる.こうした試みを通して,コミュニティワークのリフレクショ
ンがもつ可能性を改めるとともに,今後のコミュニティワーク実践知の言語化に示唆することが できると考える.
2.研究の方法
1)リフレクションの装置としての場の設定 本研究は,実践知の可視化・言語化においてリフレクションがもつ可能性に着目する.ただ し,リフレクションは専門職一般の養成に求められる重要な技術として幅広く受け止められてい るものの,そのものの具体的な方策が示されているわけではない.他者と共有できる,リフレク ションの方法は明確に示されていない(加藤 2019:57).リフレクションを通じて,コミュニ ティワークの実践知の可視化・言語化を試みるためには,他者と共有可能な方法を工夫する必要 がある. それゆえ,本研究では,個人レベルで行われる主観的なものとしてのリフレクションにとどま らないように,他者の観点を通す,一種の客観的な観点を確保する装置として「場」を想定す る.「場」における複数の主体の相互作用から自分の観点や枠組みを相対化することによって, より正しい認識を得ることができる(朴・平野・穂坂 2013:246).「場」を通して,リフレク ションを実践者個人レベルのものからより拡大していくことは,実践知を可視化・言語化する上 での客観性の担保にもつながり得る. こうした場は,リフレクションを促すものとして機能する必要がある.実践者自身が今いると ころから離れるための場として,自分自身のことをオープンに語れるサポーティブな関係性の 場,さらには異なる視点・見方で揺さぶられる職場外の学びの場がリフレクションを促す条件と なる(浅野 2016).語るべき他者や応答してくれる他者がいるとき,自分の考えや感じ等が何ら かの形でアウトプットされる,リフレクションの「外化(externalization)」が起こり得る(中 原・金井 2009:144-145). 他者との共有ができる,安心して語れる支持的な場によってリフレクションが進み,そこから 促進されるリフレクションの「外化」が,実践知の言語化・可視化につながると考える.本研究 の取り組みは,コミュニティワークの実践知を,リフレクションの場を通じて外化(アウトプッ ト)する試みということができる. 2)リフレクションの場を通じた「鳩のフンから女子大生」の外化 本研究においては,リフレクションの外化を促す装置となる場として,「コミュニティワーク 研究会4)」を設定する.この場は,コミュニティワークの実践者をはじめ,コミュニティワーク のリフレクションに関心を持つ人々が寄せ集められ開始された研究会であり,執筆者の朴・永坂 はその参加メンバーである.本研究の分析では,2018 年 9 月から 2019 年 9 月までの研究会の場 でのリフレクションを巡った相互作用を対象とする.その場の中で,リフレクションの外化が進んだ事例として,永坂が提供した「鳩のフンから女 子大生」を本稿で取り上げ,実践知の可視化・言語化が進むプロセスを探る.「鳩のフンから女 子大生」という事例は,その名付けもリフレクションの外化によるものであるが,地域課題に応 じたコミュニティワークの実践事例である.近年,個別支援からつながる地域支援が強調される 傾向があるが,コミュニティワーク本来の地域課題に応じる地域支援のことは,コミュニティ ワークの最もベースとなる実践知といえる. 研究内容としては,場を介して行われた事例のリフレクションから外化される内容を時系列に 沿って紹介しつつ分析する.まず,執筆者の永坂は,場を介しながら,自分が関わってきた事例 のリフレクションを行い,他者と共有できるように外化を進める.その中で,永坂はリフレク ションの外化として 3 つを採用する.それは,①他者との共有を進めるための物語としての文字 化,②コミュニティ組織化の 10 段階に沿った展開プロセスの細分化,③フローチャートの作成 による主体・プログラム等の関係のみえる化,である. 以下では,この 3 つが外化されるリフレクションを示しながら,それを促進する装置としての 研究会の場との相互作用等を分析する.その後,リフレクションによる外化のプロセスを通じ て,コミュニティワークの実践知が可視化される可能性を探り考察を進める.一事例による限ら れたリフレクションの試みではあるが,本研究におけるコミュニティワークの実践知の言語化に 示唆することができると考える. なお,本研究の共同執筆は,事例を直接担当し場を介してリフレクションの循環やその外化を 進める永坂と,そのプロセスにおいての場を代弁する立場の朴との役割分担によるものである.
3.研究の内容
以下,リフレクションの主語は永坂であり,ワーカーや実践者も永坂のことを指す5) .永坂の 主観的なリフレクションが,場の複数の人々と共有されるために,どのように外化していくの か,そのリフレクションの外化作業を 3 つの内容で示す.また,永坂のリフレクションによる気 づきや思い等については,概ねイタリック体に表記する. 1)物語としての事例の文字化 研究会の場において他者との話し合いを進めるために,永坂は物語としての事例の文字化を進 める.コミュニティワークについて議論していた研究会では,人々の話し合いから地域のビジョ ンをつくることの重要性が話し合われていた.その話し合いから,永坂は「鳩のフンから女子大 生が生まれてね」と自分の実践を思い出した.研究会のメンバーから,「それは何ですか?」と 関心が示されると,より丁寧に共有する方法が必要とされた.それがきっかけとなり,永坂は自 分で思い出した事例を物語ることになる.つまり,他者が理解しやすい形として,物語をつくり 文字化(言語化)するということが選択された.―「鳩のフンから女子大生」の物語6)― ○地区には,「地域劇」という地域の課題を住民と一緒に演じる手法がある.その劇のシ ナリオづくりには住民座談会を開催して地域の課題を探す.最初の座談会で「この地域では 鳩のフンが大変!」と住民が話し出すと,その意見に他の参加者も「そうだ!そうだ!」と 賛同する.①座談会での話題をどうしようか.困った.鳩のフンは環境問題だから地域劇の ネタにならないと思った. でも,あまりにも住民が熱心に語るので「なぜそんなに鳩のフンが大変なのですか?」と 聞くと,「公営住宅の上層階に高齢者が住めなくなってハトが住みついてその糞害が大変だ」 と.②そうか,鳩のフンは,高齢化が進んだことによる地域課題だ.階段があがれないとい ういつもの高齢者の相談内容だと気が付いた.鳩のフンを今年の地域劇のテーマに入れた. この話題を地域実習の大学先生に話すと,「うらやましいです.うちの学生は高い下宿代 のためにバイトをして授業中に居眠りをするのです.公営住宅に入られたら…」.③家賃が 高くて大学生が困っているというつぶやきを聞いて,これも地域課題になるのではと.空い ている公営住宅と大学生のマッチングができないかと考えた.地域劇にもその話を落とし込 み,住民だけでなく,先生や大学生なども入った劇の練習を進めた. その中で,自治会長は関係者間の話し合いを続け,数か月後,市と学校が条例を結んで学 生が地域貢献を条件に公営住宅に住めるようになった.入居した学生は,自分の特技を生か す地域活動で,今はなくなった地域の盆踊りが復活し,敬老会や夏祭りに女子大生の声が響 くことになった.④若い人がいないと嘆いていた地域の住民にとって,女子大生が来たこと は,「鳩のフンから女子大生」が生まれるといった現代版地域わらしべ長者物語となった. 事例の場面々々を思い起こしながらリフレクションし,文字化した内容をもとに,研究会の場 で事例を共有し話し合うと,いくつかの新たな気づきが永坂に生じる.研究会の場から,「なぜ, ワーカーは「鳩のフン」の話が住民から出たとき,疑問に思ったのか」「自治会長はどのように 関わってくれたのか」等々の質問があり,さらなるリフレクションが永坂に求められた.このプ ロセスを通して「実践者としての思いや視点」が深められた内容を,永坂は上記の物語の①~④ に示し,次のようにふりかえる. ①座談会は地域の福祉課題を探すために開催していたため,座談会を開催すると,住民は高齢 化や孤立・認知症等の話をしてくれると信じ込んでいた.つまり,自分たちの仕事のための集ま りを望んでいたが,それとは関係ない話が出てきて戸惑っていた. ②相談とは明確に訴えがあるものだと思っていた.高齢化により「鳩のフン」が増えたという 状況の変化を,自分が地域課題として受け止められず,これまで見落としていたことに気が付き 愕然とした. ③鳩のフンが間接的な高齢化問題の現れであることに気が付くと,物事を直接的な訴え等だけ
でなく,その理由を深めて考えるようになった.バイトをする大学生は経済的な負担を抱えてい るのではないか.空き家だらけの公営住宅に大学生が家賃が安く住めるようになると,大学生の 経済的負担も減り,地域活動等にも参加できるのではないか. ④地域の住民は,自分たちで高齢化への対策を考えることは不可能だと思い込んでいた.しか し,地域の厄介者だった「鳩のフン」を互いに語ることで,人々の思いがつながり「女子大生」 がまちに住み込むということが起きた.住民は,あきらめず,話し合い,工夫することで,想定 外の夢のようなことが可能になるという体験をした. 研究会での思いもよらぬ質問が,永坂に新たな気づきを促した.質問された内容は,永坂に とってあまりにも自然で,特別な思いも考えもなく行動していたことであった.質問を通して, この事例にはまだ自分が知らない意味があるのではないかと思った永坂は,改めてリフレクショ ンを進めることになる.新しい気づきがさらなるリフレクションの動力となったのである. 2)コミュニティ組織化の 10 段階に沿った事例の展開過程の細分化 研究会の場での質問等によって,自分の中から湧き出る疑問に答えるために,永坂は「コミュ ニティ組織化の 10 段階7) 」というものさしを用いて,「鳩のフンから女子大生」の物語の事例を 10 段階に当てはめながらリフレクションを行った(表 1).10 段階は,90 年代にアジアのオーガ ナイザーや住民リーダーが集まり,組織化のステップや必要な要素として示したものである8) . ここでは,リフレクションを進める要素として,事例の文脈に合わせて 10 段階を主観的に解釈 し用いていることを断わっておく. 表1 コミュニティ組織化の 10 段階にみる「鳩のフンから女子大生」事例の展開 10 段階 事例の展開 1現場に入る ・現場の選択 ・予備調査 ○地区は公営住宅が多く,50 年前に入居した住民が一斉に高齢化し,独居, 孤立,認知症等の問題を抱えている.ボランティア中心に福祉活動は盛ん でいたが,後継者不足が課題となっていた.また,ボランティアと自治会 や高年クラブ等との関わりが希薄になる中,市が進めるまちづくり協議会 の編成により,自治会長が新しく就任した. 2住民と出会う ・関係づくり ・コミュニティ理解 これまで地域の活動や歴史を詳しく知らずに就任した自治会長とボラン ティアリーダーはこれまでの経験の違いから,お互いに戸惑う場面が多 かった.その中で,ボランティアがかかわってきた,地域活動の一環であ る「地域劇」を行うことが決まっていた.ボランティアリーダーは「自治 会長に今までのことをわかってもらいたい」とワーカーに訴えた. 3組織化のスケッチを描く ・課題の発掘 ・解決案の構想 ワーカーは,固い議論の場は柔軟な活動を伝えるには難しいと考え,この 町のことを知ってもらう物語の作成を進めることにした.それぞれの話を 引き出し,地域での役割やつながりを理解・共有するためである.自治会 長を含む住民等で,「地域劇」のシナリオづくりのために,座談会を開催 することにした.
4コミュニティリーダー シップを形成する ・場づくり ・学習 第 1 回の座談会で,ひとりの住民が「うちの地域では鳩のフンが一番の問 題や」と言い出し,座談会は他の住民も加わって「鳩のフン」で盛り上が る.福祉問題ではなく,環境問題が出てきたと思ったワーカーは困惑した. しかし,住民が何度か集まっていく中で,自治会長は○○大看護学部学生 の住宅事情を聴いたり,地域の居場所に足を運んだりして,さまざまな課 題を知ることになる.このことは自治会長のやる気に火をつけた.地域劇 の座談会が地域の深刻な課題のことを考えていることを理解すると,自治 会長の取り組みの姿勢も変わる. 5行動計画を立てる ・調査研究 ・計画作成 自治会長は,今まで参加しなかったまちづくり協議会の役員を「地域劇」 やワーカーの会議に参加させ,学校との交渉も自ら行った.高齢者から子 どもまでアンケートも行い,孤立や居場所の拡張等について意見を求めた. すると,神輿や地域の音頭の盆踊りの復活を望む意見が多数出る.これら の意見や大学生が市営住宅に入れたらという意見を物語に反映した.さら に,実現に向けて,みんなの気持ちが一つになるように,年 1 回の地域全 体の交流会で,その夢を語ることにした. 6住民を集める ・住民との対話 ・動機付け 交流会では,女子大生を公営住宅に呼ぶという目的が加わる.自治会長は まちづくり協議会の役員,PTA,副市長,小学校校長,大学の先生や学生, 社協等に声をかけた.住民と多団体が参加しての熱く語り合う大宴会とな る.これは多くの住民にとっても地域の課題と方向性を知る機会となる. 行政への糾弾や要望でもなく,夢を語り合うことも可能なことだと知る. 一番,嬉しそうに語っていたのは自治会長であった. 7住民が行動する ・住民の集い ・実践的な行動 「鳩のフン」からさまざまな課題を意識付け,地域の孤立,子どもの遊び 場,居場所等々の課題が盛り込まれたシナリオが出来上がり,約 2 か月間, 夜間遅く,休日返上で何度も練習を重ねて,地域劇を舞台にあげた.その 間,シナリオは何度も書き加えられた.特に,地域劇の第 3 幕はこれから の地域の方向性を白紙から検討しながらみんなで完成させた.そして,地 域は「地域劇」を絵に描いた餅にしないため,大学生を市営住宅に呼ぶた めの活動を始めた. 8評価する ・成果の確認 ・フォローアップ 数か月後に市と大学が協定を結ぶ.市営住宅の改築だけでなく,家賃,世 話役,入居後の世話役,地域での役割等々,地域は「わがまちに女子大生 がやってくる!」と明るい情報に歓喜した.そして 3 人の学生が来ると, 自治会長を始め,各団体の関係者が活気づく.しかし地域は女子大生への 期待から,学生の声を聞かずに役割を依頼しようとした.学生が自然に地 域になじめるようにワーカーは学生たちの得意なところを事前に聞き出 し,学生の特技と地域での役割がスムーズにつながるように調整した. 9省察する ・学びの確認 ・価値の共有 この活動は,地域の活動を知ることと,地域課題を共有することで,自治 会長を中心に住民がまとまっていく過程を生み出した.人と人がつながり, 夢を語り合い,力を合わせていくことでまちに新しい関係が出来上がって いく過程をみんなで共有する.そこで関係性が変わり,地域の方向性が定 まっていくというこれまで経験したことのない学びが自然に行われた.そ して,地域劇の練習は,会議と違い,誰もが役割があり,自分が地域の中 の一員であることを認識していく,住民の学びの場となっていく. 10 組織化の持続可能性 ・ビジョンつくり 新たな地域づくりに向き合い,危機を迎えていたこの地域は「鳩のフン」 から議論を避け,お互いが夢を語り,楽しみながら「女子大生」がくる過 程を経験し,地域の組織はまとまっていった.ある若いお母さんはつぶや いた.「夢が次々とかなう.次はどんな夢を見ようかしら」と.
10 段階に当てはめてみるふりかえりやそれの他者との共有から,永坂は今まで認識していな かったことを認識できるようになる.新たに進んだリフレクションの内容を,永坂は次の 4 つに 示す. ①住民へのかかわり方や関係づくりにおいて予備調査がもつ意味がある.地域に入るとき,予 備知識として地域のことを調べたり,聴き取ったりしていた.この段階がなければ,住民と出会 う時に住民同士の関係性や関係づくりへの思慮をもって,話を聞くことができなかったと思う. ②地域劇は課題や計画をスケッチしていく手法となり得る.地域劇では,「このまちの物語り (シナリオ)をつくる」と呼びかけ,生活者の視点として住民がまちを広く俯瞰的に見つめるよ うにする(永坂・竹下 2012).地域劇を進める中で,ワーカーは単に困り事だけでなく,まちの 歴史や大切にしているもの,これからどのように暮らしたいかという夢など,まちの全体像を知 ることができる.全体像を理解してから,地域にどのように働きかけるかをスケッチしていくこ とができる. ③住民間がつながっていくきっかけ(場面)を提供する必要がある.住民は多様であり,住民 間の不協和音,対立は互いのことを知らないことから始まる.鳩のフンがたまる公営住宅の高層 階に大学生を招致しようという実現し難い課題に,自治会長が「これまでの経験を生かせばでき そうだ」と言いつつ必死に努力する場面があった.そのことをみて,自治会長をよく理解してい なかった人も協力することになった. ④行動していく中で住民の強みや力が出てくる.住民は自分のできる範囲のことであれば,知 らなかった人と一緒に行動できる.その経過で,互いの人となりを知り,認め合い,強みだけで なく弱みも含め承認する機会が多数生まれる.事例では,多様な人々が語り合い,地域劇の練習 で力を合わせ,市営住宅への大学生の入居,さらに大学生の地域生活を支える役割の議論など, さまざまな行動をともに進めていた.その中で,住民同士が心通わせ,築き上げる信頼や仲間意 識,地域愛が生まれてくる経過があると感じる. 上記のようなリフレクションを行っていくと,永坂はこれまで知らなかった 10 段階という枠 組みを理解することができ,実践の枠組みとしても活用できるようになる.現場の実践がより段 階区分に沿ってみられるようになったのである.なお,10 段階というのが順序よく進むという より,現場の実践の中で,行きつ戻りつ段階が重複したり循環したりすることにも新たに気づく ことになる. 3)フローチャートの作成による関係のみえる化 10 段階に当てはめるリフレクションから,事例が段階通りに順序立てて進むわけではないと 感じた永坂は,事例の主体(地域住民,ワーカー,大学)や具体的な場・プログラムの有機的な 関係を,フローチャートで整理する作業を進める(図 1).リフレクションの新たな作業を進め ることで,事例が大きく 4 つの要素(①~④)で進行してきたことに気づく.
リフレクションによるコミュニティワークの実践知の言語化 8 わせ、築き上げる信頼や仲間意識、地域愛が生まれてくる経過があると感じる。 上記のようなリフレクションを行っていくと、永坂はこれまで知らなかった 10 段階とい う枠組みを理解することができ、実践の枠組みとしても活用できるようになる。現場の実 践がより段階区分に沿ってみられるようになったのである。なお、10 段階というのが順序 よく進むというより、現場の実践の中で、行きつ戻りつ段階が重複したり循環したりする ことにも新たに気づくことになる。 3)フローチャートの作成による関係のみえる化 10 段階に当てはめるリフレクションから、事例が段階通りに順序立てて進むわけではな いと感じた永坂は、事例の主体(地域住民、ワーカー、大学)や具体的な場・プログラム の有機的な関係を、フローチャートで整理する作業を進める(図 1)。リフレクションの新 たな作業を進めることで、事例が大きく 4 つの要素(①~④)で進行してきたことに気づ く。 時期 2018 年 2019 年 4・・5・・6・・7・・8・・9・・10・・11・・12・・1・・2・・3・・4・・5・・6・・7・・8・・9 主 体 地域 アンケート実施→シナリオ検討会―→交流会―――――――――→ まち協と福祉の協働 ――→ 「学生に入居してほしい」「副市長に頼もう」「絵に書いた餅にしない」 ワーカー 住民座談会実施→シナリオ作成→地域劇の練習――→地域劇支援―→住民活動支援――――――→ 「鳩のフン」 大学 大学の実習――――――――――――――――→市と大学の協定→女子大生入居→地域活動―→ 「学生が入居できたら」 場 プログラム 座談会 大学の実習 劇練習 交流会 地域劇 地域と学生の検討会 神輿 要素 (プロセス区分) ①地域スケッチ作成――→ ③地域の主体的リーダーシップ形成――→ ②住民の学習・相互理解――→ ④コミュニティ組織化――→ 図 1 主体と場・プログラムに沿った関係の分析 この地域には以前からかかわっていたため、地域の特性は理解できていたが、この地域 に向き合う段階で、住民の話を座談会で聞き、まず、この地域の中で何が起きているのか、 どこが問題でどのように住民が望んでいるのかを描き出した。つまり、地域の課題とその 解決案についてスケッチを始めた。とくに、この「①地域スケッチ作成」では、地域の高 齢化の課題や、地域リーダー(自治会長)と周囲の住民との関係性を留意した。 ワーカーとして、あえて地域リーダーに何度も関わり、これまでの経過等の情報を伝え た。地域リーダーは周囲の住民と活動する時間と考える機会を重ねることで、徐々にこれ までのことや方向性を理解し、積極的に動くようになった。同時に、周囲の住民もまとま 図 1 主体と場・プログラムに沿った関係の分析 この地域には以前からかかわっていたため,地域の特性は理解できていたが,この地域に向き 合う段階で,住民の話を座談会で聞き,まず,この地域の中で何が起きているのか,どこが問題 でどのように住民が望んでいるのかを描き出した.つまり,地域の課題とその解決案についてス ケッチを始めた.とくに,この「①地域スケッチ作成」では,地域の高齢化の課題や,地域リー ダー(自治会長)と周囲の住民との関係性を留意した. ワーカーとして,あえて地域リーダーに何度も関わり,これまでの経過等の情報を伝えた.地 域リーダーは周囲の住民と活動する時間と考える機会を重ねることで,徐々にこれまでのことや 方向性を理解し,積極的に動くようになった.同時に,周囲の住民もまとまり,地域リーダーは 地域住民を呼び込みながら学ぶ機会を増やしていった.この時期は「②住民の学習・相互理解」 が進むと同時に,「③地域の主体的リーダーシップの形成」が進んだと考える. その中で,自分はワーカーとしてスケッチの修正を繰り返しながら関わり方を変えていった. しかし,地域の課題や解決案を考える主体がワーカーから住民に移行していった頃には,ワー カーがかかわる機会も減って,住民が力を合わせていく「④コミュニティ組織化」が進んでいっ た. さらに,図 1 のリフレクションの内容の共有から,永坂が地域と大学・行政等をつなぐ役割を 行っていたことが明らかにされる.永坂はさまざまな場・プログラムを活用しつつ,それぞれの 主体がつながる地域づくりを進めていた.こうした関わり方において,永坂は「①地域スケッチ 作成」に着目しふりかえる. ワーカーは地域に取り組む際に,地域をスケッチしているのだろうか.地域に入るということ はもちろん,たとえ座談会等の話し合いの場があっても,話を聞くことに終始し,記録を書いて 終わりになっていないか.自分の中で地域環境や人間関係を咀嚼し,俯瞰的に眺めながらスケッ チしてみる.そうすると,よくわからないところが出てくる.そこをまた確認しに地域に入い
る.そしてさまざまな関係性を意識しつつ再びスケッチを続ける.地域に入るワーカーにこのス ケッチができていなければ地域への関わり方は定まらない.なお,こうしたスケッチ作成は,何 度も書き直しながら住民と夢を描き出す協働作業であった. こうしたリフレクションを通して,永坂は,地域に入る際,地域の情報や人と人の関係性を推 し量れる自分のアンテナ(枠組み)をもって,地域スケッチをしつつ,地域の新たな関係形成に 関わってきたことに気づく.さらに永坂は,そのプロセスは住民との協働作業であり,その中で ワーカーとしてのスケッチができるアンテナを研ぎ澄ましている自分のことを認識する.
4.考察
1)コミュニティワーカーの自己理解によって進む実践知の言語化 3 つのリフレクションの外化は,ふりかえりの繰り返しによって進んでいる.リフレクション が新たなリフレクションを招くといった形で,ふりかえりから出てくる疑問等に答えるために再 びふりかえるという循環が生じる.そのプロセスの中で,ワーカーの実践知が可視化・言語化さ れる可能性については,永坂のリフレクションを通じて意味づけられた,地域への関わり方に関 する実践知をもって示すことができる. ①地域への関わり方についての実践知の意味づけ・言語化の試み ワーカーが地域に出るとき,地域の情報を収集して分析する「地域全体像のアセスメント9) 」 が求められるが,それだけでは,現場に持ち込むには抽象的過ぎる.地域アセスメントを含んだ 地域への関わり方として言われる,「地域に出るときにはアンテナを高く持て」や,「地域のス ケッチ作成」も,現場にとって言葉としてはわかるが,実際の行動に移すには具体的でない実践 知となっている. 永坂は,リフレクションの循環を通じて,「鳩のフンから女子大生」という事例の展開には, 地域の生活課題(環境)と,人々の関係性をみるという 2 つのアセスメントの視点が大きかった と気づく.ワーカーは地域の関係性を壊さないように入りながら,地域の文化や環境を理解しつ つ,人の感情を伴う関係性等を見つめる.そこから新しい関係性を引き出す可能性をみる.関係 性を形成するといった視点をもって,地域が変えられるように仕組むことが,地域に関わるワー カーの役割である. 永坂の実践知であった「地域の人々の関係性の形成」というワーカーの関わり方の視点が,リ フレクションを通して明確に意味づけられた.また,地域のスケッチ作成については,ワーカー がその地域に入る前に地域の概略を理解し,何度もかかわることでスケッチし直し,書き足しな がら見立てて,地域にかかわる方向性を考えることであり,最終的には住民自らが描き出すよう に一緒に考え工夫するワーカーの関わり方として求められる.②リフレクションの循環から進むワーカーの自己理解 上記のような実践知の可視化・言語化は,リフレクションを通した永坂の気づきと,そこから の実践の意味づけによって進められている.ただし,そのリフレクションは一回限りではなく持 続的に繰り返されることで,実践知の可視化・言語化に至っている.リフレクションを持続させ る動力は,他者との共有プロセスから得ることができる.永坂は他者との共有のために,個人レ ベルのリフレクションを,物語をつくる,10 段階というものさしに当てはめる,フローチャー トを作成する等,さまざまな形で工夫し外化させている. リフレクションの外化においては,そのものを形づくることがゴールではなく,それをもって 自分の思いや視点等を他者と共有できるかが大事である.共有を通じて,思いもよらぬ質問等か ら得られる異なる視点や刺激は,ワーカーの新たな気づきにつながる.ワーカー自分にとって は,ごく当たり前で特別な思いも無く行動していたことが,他者の目線から改められ,その実践 の新たな意味づけにつながる. リフレクションの循環とともに生じる,「他者との共有→新たな気づき→新たな意味づけ」の ような過程は,ワーカーの自己認識・理解を改める機会を提供する.つまり,ワーカーのリフレ クションの外化と自己理解は同時に進むことになる.リフレクションの循環によって,物語や 10 段階・フローチャート等が修正されつつ外化の完成度も上げられていくが,その中でワーカー は自分の実践をさらに理解し自己理解を深めることができる. 2)リフレクションの外化の循環を促す「場の組織化」 リフレクションによって実践者の自己理解が進むことから実践知が言語化される可能性を示し たが,その条件整備としてリフレクションの循環を促す場の組織化に注目せざるを得ない.日常 的な実践の中では,現場の時間に追われリフレクションし難い.実践活動がワーカーの記憶の中 で断片的にしか残らない可能性が高い.当然言語化を進めることも難しくなるため,その引き出 し役として,場の設定が想定される. 永坂のリフレクションの循環のきっかけも研究会の場である.永坂にとっては,この場は日常 的な現場とは異なる非日常的な場であり,学びの場となっていた(図 2).まず,非日常的な場 というのは,物理的・心理的に実践現場から離れる場であり,利害関係なく語れるといった安心 してリフレクションが進む空間のことである.研究会のメンバーとともに話し合いをする中で, 何気なく自分の実践を思い出すと,他のメンバーから関心が示され,それをきっかけに自分の事 例をふりかえるリフレクションが進む. もう一つ,学びの場というのは,自分のリフレクションに基づく他者との共有から気づき等が 生まれ,自己の認識を改める場である.研究会の中では,他のメンバーから自分をふりかえる機 会が与えられ,自分が気づかず違和感なく過ぎていたことに新たに気づき,改めて考えるリフレ クションができる.自分のリフレクションした内容を共有するという場の相互作用から,自己認 識を改めながら自分を理解し学ぶ場である.
社会福祉論集 第 142 号 ―「場」を通した事例「鳩のフンから女子大生」の外化過程 朴兪美・永坂美晴 図 2 リフレクションの外化(アウトプット)を促す場の組織化 場 非日常的場:安心・支持 リフレクションの循環 (実践知の外化) 共有・対話 自己学びの場:異なる見方・刺激 図 2 リフレクションの外化(アウトプット)を促す場の組織化 こうしたリフレクションの場は評価の場ではないことが大事である.事例を出す場は多くある が,多くの場は事例の評価になりがちである.永坂のリフレクションの促進につながったのは, 場における共有のあり方が大きい.評価や問題探しではなく,聞いてくれる,承認してもらうと いった共有のプロセスによって,異なる視点や刺激が気づきにつながる対話が生まれる.その対 話が,ワーカーのリフレクションを外化させる. 安心して語れる支持的な非日常的場によって,他者との共有ができるリフレクションが進み, そこからリフレクションの「外化」が促進され実践知の言語化・可視化につながる.場を介した 外化の共有を通して,ワーカーは自分の実践について他者からの刺激を受けて新たな意味づけを 行うことができる.その意味づけのプロセスが,リフレクションの外化をさらに進め,ワーカー の実践知の可視化・言語化につながる. ただし,その他者との共有による外化の推進は,一回性の場によってというより,持続的な場 を介したリフレクションの循環によって生じるものである.その繰り返しのプロセスが,リフレ クションの外化した内容の客観性を高め,実践知の言語化を進める.つまり,実践知の可視化・ 言語化のためには,日常の自己を俯瞰できる「メタ現場」(朴・平野・穂坂 2013)のようなもう 一つの非日常的現場を,ワーカーが確保していく「場の組織化」が求められる. 5.結論―場を通したリフレクションの外化のトレーニング 日頃の活動は経験値によって意識化されずに行われることが多い.コミュニティワークは,地 域という多様な変数が働く舞台の上で行われており,さらにその活動は特定できないさまざまな 突発の変数にも直面しつつ,ワーカーの経験値,すなわち言語化されていない実践知に依拠して いることが多い.それゆえ,多様な活動に対する根拠や枠組み等が求められても人に伝わるよう に説明できないことが多々ある.ワーカー自分の中には枠組みがありながらも,言語化できない ことの弱さがあるということである. リフレクションの場は,ワーカーの中にある実践知(言語化されていない枠組み)が当てはま る言葉に出会う場である.今まで明確に意識していなかった自分の中の考えや認識が,他者との 共有・対話を経ながら外化が進み言語化されていくことである.言語化した枠組みは,ワーカー
の現場の実践活動に還元され,地域でのより多くの人々との共有を図ることができる.当然それ はコミュニティ形成を目指すコミュニティワークの推進につながるのである. こうしたリフレクションの外化を通したコミュニティワークの実践知の言語化は,実践現場と 非日常的な自己学びの現場とを循環する中で起こり得る.場を介したリフレクションの循環とい うことであるが,その循環のプロセスはリフレクションの外化のトレーニングであるといえよ う.リフレクションが自ずと行われることを期待するというより,トレーニングによってリフレ クションとその外化を進めるということである. リフレクショのトレーニングによって,ワーカーの自己理解が進み,そこからワーカー自身が 持っている実践知の言語化が進められていくと同時に,コミュニティワークそのものの省察も深 まる.それはワーカーのコミュニティワーク活動の向上につながり得る.コミュニティワークそ のものの開発やワーカーの自己開発において,リフレクションは欠かせないツールとなり得る. 謝辞:本稿は JSPS 科研費 JP16K04213(研究代表:朴兪美)・日本福祉大学 2019 年度公募型研 究プロジェクト(A 枠)(研究代表:朴兪美)・私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(研 究代表 : 平野隆之)の助成を受けたものである. 注 1)社会福祉協議会は「住民主体の原則」(1962 年の社会福祉協議会基本要項)に基づいて,活動の方法 論として地域組織化を採用し,学区(地区)社協の組織化をはじめ,さまざまな見守り支援活動やサロ ン活動などを各地で組織化し展開している.なお,日本地域福祉学会では,学会大会のプログラムとし て地域福祉優秀実践賞を選考しているが(2004 年から実施),その多くの事例において独自のコミュニ ティワークの展開が評価されている. 2)ビルリー(2005:92-94)によると,人々へと働きかけるコミュニティワーカーが,自己認識・自己 理解をしっかり持つことで,他人の理解にもつながり,コミュニティワークも進むという.ワーカー自 分の個人的な要求や偏見からの地域への働きかけではないことを理解すると,共に活動する人々に対し ても前向きな立場を取っていくことができるということである. 3)省察的実践(reflective practice)は,ドナルド ・ A ・ ショーンの『省察的実践とは何か―プロフェッ ショナルの行為と思考』(2007)によって広く知られている.現場で直面する課題は,技術的合理性で 割り切られることは案外少なく,専門職は予め持っていた知識や身についた考え方に基づいて解決しよ うとするのではなく,問題を自ら設定し解決し振り返るが,このプロセスが省察的実践である(中原・ 金井 2009:121). 4)2018 年 9 月にスタートしたコミュニティワーク研究会は,毎回概ね 10 名程度が参加しリフレクショ ン等について議論を交わしてきた.本研究の分析では,2019 年 9 月までの議論を参照している(2018 年度 4 回,2019 年度 3 回). 5)永坂は 24 年間,在宅介護支援センターの相談員(看護師・社会福祉士)兼ケアマネジャーとして勤 めてきた.現在,明石市社会福祉協議会の第 1 層生活支援コーディネーターとして勤めている.阪神淡 路大震災を契機に,地域支援の重要性に気づき,それ以来,地域支援に心がけてきた.とくに「地域劇」 という独自のツールを開発し,地域支援を進めてきた経緯がある(永坂・竹下 2012,竹下・永坂 2014).なお,永坂は,藤井博志編(2019)『地域福祉のはじめかた―事例による演習で学ぶ地域づくり』 (ミネルヴァ書房)の共著者として,多数の演習事例を提供し,その解説を担当した.
6)事例「鳩のフンから女子大生」の物語は,日本福祉大学福祉政策評価センター・アジア福祉社会開発 研究センターニューズレター『福祉社会の開発・政策研究』特集号(2019 年 3 月)に掲載されている. なお,兵庫県社協や奈良県社協の主催した 2018 年度研修にも用いられる等,公表されている事例であ る.詳細なことについては,上記のニューズレター特集号を参照してもらいたい. 7)『地域アクションのちから―コミュニティワークリフレクションブック』(平野他編訳 2018)に紹介さ れているコミュニティ組織化の 10 段階を参照しつつふりかえりを行った.10 段階というのは,段階ご とに進むことを示すより,組織化に必要な要素として示されている.なお,ここでの組織化は,地域課 題などへの人々の力を合わせることとして理解する.
8)その詳しい内容については LOCOA(Leaders and Organizers of Community Organization in Asia) のホームページ(www.locoa.org/)を参照できる. 9)地域全体像のアセスメントについては,地域福祉に関連して,地域の「文脈」,「事業の展開・波及性」 と「協議の場の形成」の関連性,「推進組織のマネジメント」等,4 要素の相互関連のアセスメントが示 される(朴・平野 2016). 参考文献 浅野貴博(2016)「ソーシャルワーカーとしての学びにおけるリフレクション:―「今いるところ」から 離れるために―」『ソーシャルワーク学会誌』33(0),13-25. ビルリー(武田信子・五味幸子訳)(2005)『地域が変わる社会が変わる 実践コミュニティワーク』学文 社.(= Bill Lee, 1999, Pragmatics of Community Organization, CommonAct Press.)
ドナルド ・ A ・ ショーン(柳沢昌一・三輪建二監訳)(2007)『省察的実践とは何か―プロフェッショナル の行為と思考』鳳書房. 平野隆之・穂坂光彦・朴兪美編訳(2018)『地域アクションのちから―コミュニティワークリフレクショ ンブック』全国コミュニティライフサポートセンター(=韓国住民運動教育院著(2010)『コミュニティ 運動の力,組織化―CO 方法論』) 池本賢一・村山浩一郎(2019)「わが国におけるコミュニティワーク理論の再構築に向けた試論:コミュ ニティワークの定義及び範囲に着目して」『福岡県立大学人間社会学部紀要』27(2),45-58. 加藤由衣(2019)「省察的実践の実践モデル構築に関する一考察―ソーシャルワーク実践の構成要素から の検討―」『高知県立大学紀要 社会福祉学部編』(68), 55-70, -03-02 瓦井 昇(2004)「コミュニティワークにおける理論的な差違を理解する」『福祉文化』(3),1-9.
LOCOA(Leaders and Organizers of Community Organization in Asia)のホームページ(www.locoa. org/) 永坂美晴(2019)「『鳩のフンから女子大生』の事例が進化するリフレクション」日本福祉大学 福祉政策評価 センター・アジア福祉社会開発研究センターニューズレター『福祉社会の開発・政策研究』特集号.6. 永坂美晴・竹下正哲(2012)「会議をやめて劇をしよう:明石市望海地区の地域劇の実際とその経過報告」 『アリーナ』(13), 347-361 中原淳・金井壽宏(2009)『リフレクティブ・マネジャー一流はつねに内省する』光文社. 朴兪美・平野隆之・穂坂光彦(2013)「方法としての『メタ現場』:研究と実践の協働空間」穂坂光彦・平 野隆之・朴兪美・吉村輝彦編『福祉社会の開発』ミネルヴァ書房.228-250. 朴兪美・平野隆之(2016)「計画的推進に求められる地域福祉アセスメントの基本的枠組み―2 つの社会福 祉協議会の事例分析から」『日本の地域福祉』日本地域福祉学会(29),31-41. 竹下正哲・永坂美晴(2014)「参加型開発の新たなツール:地域劇:―「つながり」と「信頼」を育てる 劇の力」『国際開発研究』23(1), 147-159.