病院で使用中のネブライザーの細菌汚染の実態
Bacterial Contamination of In-Use Hospital Nebulizers
河合 悦子
1), 田辺 文憲
2)KAWAI Etsuko, TANABE Fuminori
要 旨
病院で使用中のコンプレッサー型ネブライザー 34 台,超音波ネブライザー 5 台について細菌汚染に関する 調査を行った。コンプレッサー型ネブライザーの連結管については調査した 5 病院のすべての病院で再生利 用を行っており,嘴管の洗浄は 3 病院で食器洗浄機を使用していた。細菌汚染調査を行ったところ,コンプレッ サー型ネブライザーの連結管から 5 台(15%),エアロゾルから 11 台(32%)に一般細菌が検出された。超音波 ネブライザーでは作用槽から 9 台(100%),薬液槽から 7 台(78%),エアロゾルから 6 台(67%)に一般細菌が 検出された。エアロゾルの細菌汚染はコンプレッサー型ネブライザーでは嘴管の汚染,超音波ネブライザー では薬液槽の汚染が原因と考えられる。ガラス製嘴管は内部に細菌汚染が残りやすく,薬液槽は加温されて いるため細菌汚染を受けやすい。そのため,洗浄の前に次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒薬に浸漬すること が有効ではないかと思われた。We investigated bacterial contamination of 34 in-use hospital compressor nebulizers and 5 in-use hospital sonic nebulizers. Five of the hospitals we examined recycled the connection tubes of compressor nebulizers, and 3 hospitals used the tableware washing machine to clean the glass covers. Bacteria were detected in 5 connection tubes (15%) and 11 aerosol compressor nebulizers (32%), whereas it was detected in 9 outer reservoirs (100%), 7 drug reservoirs (78%) and 6 aerosol sonic nebulizers (67%). Bacterial contamination of aerosol compressor and sonic nebulizers may be linked to glass covers and drug reservoirs, respectively. It is suggested that soaking glass covers and drug reservoirs with disinfectants such hypochlorite before washing may be effective.
キーワード 超音波ネブライザー,コンプレッサー型ネブライザー,エアロゾル,細菌汚染 Key Words Sonic Nebulizer, Compressor Nebulizer, Aerosol, Bacterial Contamination
受理日:2010 年 7 月 16 日
1) 山梨大学大学院医学工学総合教育部:Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering (a Doctor’s course), University of Yamanashi
2) 山梨大学大学院医学工学総合研究部:Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering, University of Yamanashi
Ⅰ . 緒言
ネブライザーを用いた吸入療法は,エアロゾル化した 薬液や水分の粒子を吸気とともに吸い込むことにより治 療を行うことである。ネブライザーは,現在の医療にお いて呼吸器疾患や耳鼻科疾患の治療に欠かせないもので あり,また術後の患者の排痰や気道への加湿を目的とし ても広く使われている1)。病院関連肺炎は病院関連感染 全体の 15%を占めており,医療ケア関連肺炎の多くは 緑膿菌や他のグラム陰性桿菌,および黄色ブドウ球菌が 原因である。細菌は口腔咽頭の病原体の吸引や,汚染さ れた空気中の浮遊を吸い込むことにより下気道に侵入す る。そのため,ネブライザーは肺炎罹患の原因となる危 険性が非常に高く,感染防止の観点からネブライザー機 器の管理は注意深く行う必要がある2)。 勝井ら3)によるコンプレッサー型ネブライザーの試菌 を用いての実験研究や,超音波ネブライザーの薬液槽な どの細菌汚染調査の研究2,3,4)はあるが,病院で使用中 のネブライザーのエアロゾルの細菌汚染の研究はされて いない。そこで今回,コンプレッサー型ネブライザーの 連結管とエアロゾル細菌汚染状況,および超音波ネブラ イザーの作用槽,薬液槽,エアロゾルの細菌汚染状況を調査した。
Ⅱ . 目的
病院で使用中のコンプレッサー型ネブライザー,超音 波ネブライザーの使用方法や管理方法およびネブライ ザー機器とエアロゾルの細菌汚染の実態を調査し,ネブ ライザーのより適切な洗浄方法・管理方法を検討するこ とを目的とした。Ⅲ . 方法
1. 対象 Y 県内の 5 病院で患者に使用中で洗浄前のコンプレッ サー型ネブライザー 34 台と超音波ネブライザー 9 台を 対象とした。 2. 研究期間 平成 21 年 7 月∼ 10 月であった。 3. 倫理的配慮 本研究の研究計画については,山梨大学医学部倫理委 員会の承諾を得た後に実施した。本研究への参加は自由 であり途中での中断は可能であること,調査によって得 られたデータは研究以外の目的で使用しないことを説明 し,同意が得られた病院については許可書及び承諾書へ の署名を得た。データの処理については病院に不利が生 じないように,また病院が特定できないように努めた。 4. 調査および実験方法 口頭及び文書にて研究趣旨や方法を説明し本研究に同 意の得られた病院を訪れ,ネブライザーに関する聞き取 り調査と検体の採取を行った。 1) アンケートおよび聞き取り調査 病院で使用しているコンプレッサー型ネブライザーの 嘴管の種類,嘴管洗浄方法,嘴管の洗浄周期,嘴管の管 理,連結管の種類,連結管の使用期間,連結管の使用人 数,連結管の洗浄方法,稼働回数,使用中の管理,本体 の洗浄,管理について,また超音波ネブライザーの洗浄 周期,本体の洗浄,蛇管の使用期間,蛇管の使用人数, 蛇管の洗浄,稼働回数,薬液槽の内容,作用槽の使用水, 管理についてアンケートおよび聞き取り調査を行った。 2) 検体の採取 (1) コンプレッサー型ネブライザー 吸入液中に保存剤が使用されているため,一般細菌の 検出には不活性化剤を含む SCDLP 寒天培地(日水製薬) を使用した。まず,病院から提供された嘴管に滅菌生理 食塩水 1ml を注入しエアロゾルを発生させ,SCDLP 寒 天培地に 30 秒間直接噴霧させた。次に,連結管内の細 菌を採取するために,連結管内に 10ml の滅菌生理食塩 水をシリンジで注入し,3 回撹拌後滅菌スピッツに全量 を回収した。 (2) 超音波式ネブライザー まず,ネブライザーのエアロゾルを寒天培地に 30 秒 間直接噴霧させた。次に,薬液槽の薬液 5ml を採取した。 薬液槽を外し,作用槽内をシリンジで撹拌し内容液を 5ml 採取した。薬液槽の中に薬液が残っていない場合は, 滅菌生理食塩水を 1ml 入れ撹拌し全ての滅菌生理食塩 水を採取した。 3) 細菌の培養と菌種の同定 連結管,作用槽,薬液槽から採取した滅菌スピッツの 検体を試験管ミキサーで 30 秒間撹拌し,10 倍段階希釈 後,各々 100μℓを SCDLP 寒天培地に滴下した。コンラー ジ棒で培地に塗り広げた後,恒温器で 37℃,48 時間培 養しコロニーを数えた。コロニー数は colony forming unit(cfu)で示した。培地上の優勢なコロニーはフェイ バー G(日水製薬)を用いてグラム染色を行った。1000 倍の倍率の光学顕微鏡で観察を行い,グラム染色性,形 態,配列などを判定した。また,菌種を同定するため, グラム陽性菌はブドウ球菌用マンニット食塩培地(日水 製薬)に接種し,グラム陰性菌は NAC 寒天培地(日水製 薬),ドリガルスキー寒天培地(極東製薬)に接種し培養 した。マンニット食塩培地で,マンニットを分解せずに 白色コロニーを形成したものを表皮ブドウ球菌,マン ニットを分解し黄色コロニーを形成したものを黄色ブド ウ球菌と同定した。NAC 寒天培地で増殖したものを緑 膿菌,ドリガルスキー寒天培地に増殖したもの腸内細菌 と同定した。Ⅳ . 結果
1. アンケート調査結果 コンプレッサー式ネブライザーの洗浄と管理状況は表 1 に示す。A 病院,C 病院,D 病院では食器洗浄機にて 嘴管を洗浄していた。B 病院では中央材料部(中材)にて 管理され,70℃で 5 分の高圧洗浄を行っていた。連結管 については A 病院と B 病院では中材にて高圧洗浄を行っ ていたが,B 病院では 1 本の連結管を複数の患者が使用 していた。C 病院の病棟 1 では,次亜塩素酸ナトリウム に浸漬し自然乾燥を行っていた。しかし,同じ病院の C 病院の病棟 2 では中性洗剤で洗浄しその後に熱湯で内腔 を洗浄していた。また,D 病院では水道水で洗浄するの みであった。 超音波ネブライザーの洗浄と管理状況は表 2 に示す。 蛇管の使用人数はいずれも 1 人の使用であった。B 病院 では中材管理とされ滅菌処理がされていたが,洗浄周期表 3 コンプレッサー型ネブライザーより検出された一般細菌(cfu) A 病院 B 病院 C 病院 D 病院 検体 連結管 エアロゾル 連結管 エアロゾル 連結管 エアロゾル 連結管 エアロゾル ネブライザー 1 ND 0.2 × 101 ND 0.1 × 101 ND ND ND ND 2 2.8 × 103 3.4 × 101 ND ND 2 × 102 ND ND ND 3 ND 2.3 × 102 ND 0.2 × 101 ND ND ND 0.2 × 101 4 ND 0.1 × 101 ND ND ND ND 5 1 × 102 ND ND ND 3× 102 ND 6 1 × 102 ND ND 0.4 × 101 ND 4.1 × 101 7 ND ND ND ND ND ND 8 ND ND ND ND ND ND 9 ND 0.2 × 101 ND ND 10 ND ND 11 ND ND 12 ND ND 13 ND ND 14 ND 0.1 × 101 * ND:not detected エアロゾルの結果は 30 秒間培地に噴霧した結果を示す は不規則であった。E 病院では蛇管は中材管理だったが, 蛇管以外は 1 日 1 回病棟の水道水で洗浄が行われていた。 薬液槽の内容は B 病院では滅菌蒸留水を使用していた が,E 病院では滅菌生理食塩水を使用していた。作用槽 の使用水は E 病院では滅菌蒸留水を使用していたが,B 病院では病院の水道水を使用していた。 2. 細菌の検出結果 1) コンプレッサー型ネブライザー コンプレッサー型ネブライザーの一般細菌検出状況を 表 3 に示す。 (1) 連結管 A 病院の連結管から一般細菌が検出されたものは 3 台 表 1 コンプレッサー式ネブライザーの洗浄と管理状況 A 病院 B 病院 C 病院 病棟1 C 病院 病棟2 D 病院 嘴管 ガラス ガラス,プラスチック プラスチック プラスチック プラスチック 嘴管洗浄方法 食器洗浄機 高圧洗浄機 食器洗浄機 食器洗浄機 食器洗浄機 嘴管洗浄周期 1 回ごと 1 回ごと 1 日使用 1 日使用 1 日使用 嘴管の管理 食器かご カスト 蓋付きケース 蓋付きケース 食器かご 連結管の種類 酸素チューブ 医療用多目的チューブ 専用 専用 専用 連結管の使用期間 1 週間 最高 1 カ月 2 ∼ 3 週間 1週間 退院または吸入指示終了 連結管の使用人数 1 人 複数使用 1 人 1 人 1 人 連結管の洗浄方法 高圧洗浄機 高圧洗浄機 次亜塩素酸 ナトリウム液に浸透 中性洗剤 水道水で洗浄 稼働回数 1 日 2 回∼ 3 回 1 日3∼ 6 回を複数人 不明 不明 1 日 2 回∼ 3 回 ネブライザー使用中の管理 患者の床頭台の上 廊下に専用台 看護室 看護室 看護室 ネブライザー本体の洗浄 不明 界面活性剤にて清拭 不明 アルコールで清拭 不明 ネブライザーの管理 病棟 中材 病棟 病棟 病棟 表 2 超音波ネブライザーの洗浄と管理状況 B 病院 E 病院 洗浄周期 不規則 毎日 本体の洗浄 中材にて滅菌 水道水で洗浄後乾燥 蛇管の使用期間 不規則 1 週間 蛇管の使用人数 1人 1 人 蛇管の洗浄 中材にて滅菌 中材にて滅菌 稼働 24 時間稼働 1 日2∼3回 薬液槽の内容 滅菌蒸留水 滅菌生理食塩水 作用槽の使用水 水道水 滅菌蒸留水 ネブライザーの管理 中材 病棟
表 4 超音波ネブライザーより検出された一般細菌 B 病院 E 病院 検体 作用槽 薬液槽 エアロゾル 作用槽 薬液槽 エアロゾル ネブライザー 1 8.7 × 105 0.3 × 101 ND 4.3 × 104 5.5 × 104 2.3 × 102 2 6.9 × 104 3.2 × 103 ND 3 4.9 × 104 ND ND 4 2.2 × 104 ND 0.2 × 101 5 1.6 × 104 9.3 × 104 1 × 102 6 2.4 × 104 6.7 × 104 1.5 × 102 7 3.5 × 103 9.3 × 104 4.1 × 101 8 3.5 × 103 1.8 × 105 2.3 × 101 * ND:not detected エアロゾルの結果は 30 秒間培地に噴霧した結果を示す(単位:cfu) 作用槽,薬液槽の単位は cfu/ml とする 中 1 台で 2.8 × 103cfu であった。B 病院で一般細菌が検 出されたものは調査台数 8 台中 2 台で,C 病院では 14 台中 1 台で 2 × 102cfu,D 病院では 9 台中 1 台で 3 × 102cfu であった。 (2) エアロゾル A 病院で調査したエアロゾルは 3 台すべてから一般細 菌が検出された。最も多いケースで 2.3 × 102cfu の一般 細菌が検出された。B 病院では 8 台中 3 台,C 病院では 14 台中 3 台,D 病院では 9 台中 2 台から一般細菌が検 出された。 (3) 検出された菌種 連結管から検出された菌種は A 病院では緑膿菌,B 病院ではバシラス属と推定されるグラム陽性桿菌,C 病 院では黄色ブドウ球菌,D 病院では表皮ブドウ球菌で あった。またエアロゾルから検出された菌種は A 病院 と D 病院では腸内細菌,B 病院ではバシラス属と推定 されるグラム陽性桿菌,C 病院では表皮ブドウ球菌が検 出された。 2) 超音波ネブライザー 超音波ネブライザーの一般細菌検出状況を表 4 に示す。 (1) 作用槽 B 病院の調査台数は 1 台で,8.7 × 105cfu/ml の一般 細菌が検出された。また,E 病院では調査台数 8 台中す べてのネブライザーから 3.5 × 103∼ 6.9 × 104cfu/ml の 一般細菌が検出された。 (2) 薬液槽 B 病院の調査台数 1 台で,0.3 × 101cfu/ml の一般細 菌が検出された。また,E 病院では 8 台中 6 台から 3.2 × 103∼ 1.8 × 105cfu/ml の一般細菌が検出された。 (3) エアロゾル B 病院からは一般細菌は検出されなかった。また,E 病院では 8 台中 6 台から 0.2 × 101∼ 2.3 × 102cfu の一 般細菌が検出された。 (4) 検出された菌種 E 病院の作用槽から検出された菌種は,表皮ブドウ球 菌と腸内細菌であった。また,E 病院の薬液槽から緑膿 菌と腸内細菌が検出され,エアロゾルからは緑膿菌と腸 内細菌が検出された。
Ⅴ . 考察
1. コンプレッサー型ネブライザーについて コンプレッサー型ネブライザーの原理は霧吹きと同じ 原理で,コンプレッサーによるエアフィルターを通過さ せた空気を嘴管に送り,吸入液をエアロゾル化して外部 に送り出す。勝井ら3)は,コンプレッサー型ネブライザー はエアロゾルの粒径が超音波ネブライザーよりも大きい ため,それだけエアロゾル中に細菌汚染を包含しやすく なり感染に対する管理が重要であると述べている。今回 の調査で A 病院の連結管からは緑膿菌が検出され,エ アロゾルからは腸内細菌が検出された。緑膿菌はバイオ フィルムを形成する菌として知られており,連結管など の内部にバイオフィルムを形成すると洗浄が困難とな り,バイオフィルムが薬剤耐性としてはたらく可能性が ある。調査したすべての病院で連結管の再生利用をして いたが,連結管の内腔は狭いため洗浄を行っても緑膿菌 が残ってしまう危険が生じる。今回の調査で,緑膿菌が 検出された連結管に嘴管を連結させエアロゾルを発生さ せたケースがあった。連結管から緑膿菌が検出されてい ても,その先のエアロゾルからは緑膿菌が検出されずに 腸内細菌が検出された。そのため,今回の調査からは連 結管の細菌汚染がエアロゾルに直接影響を及ぼすとは言 い難い。また,C 病院の連結管からは黄色ブドウ球菌が 検出された。次亜塩素酸ナトリウム液は中水準消毒薬で あり,C 病院も次亜塩素酸ナトリウム液を使用していた。 安田5)は消毒薬を使用する基本条件として,薬物濃度, 作用温度,作用時間を厳守すべきだとしている。今回は いずれかが守られていなかったため,次亜塩素酸ナトリ ウム液の十分な効果が得られなかったと考えられる。ま た,仲松ら6)は院内感染の観点から連結管は患者専用とし,使用後の連結管は破棄し再使用はすべきではないと している。院内感染の予防のため連結管の使用は個人専 用とし再生をしないことが望ましいが,現在の再生をし ている現状から連結管の洗浄方法については早急に検討 する必要がある。 瀧川ら7)は嘴管のセパシア菌の汚染により,日本でも 4 名が死亡した重大な院内感染を報告している。コンプ レッサー型ネブライザーにおいては,プラスチック製嘴 管の場合は薬液が残ってしまうこともありガラス製嘴管 が使用される8)。CDC のガイドラインでは,呼吸器器 具は液体化学消毒薬に 30 分,また 70℃以上の低温殺菌 のいずれかを用いた高水準消毒を勧告している9,10)。今 回の B 病院の調査は小児科病棟であったが,ガラス製 嘴管とプラスチック製嘴管を用途により使い分けてい た。ガラス製嘴管の内部構造は非常に複雑なため,洗浄 がしにくく細菌が残りやすいことが考えられる。洗浄方 法は病院ごとに違うため一概には判断できないが,B 病 院では中材で 70℃,5 分の高圧洗浄を行っていても,8 台中 3 台にガラス製嘴管から細菌が検出された。今回の 調査では,プラスチック製嘴管に比べガラス製嘴管のほ うが細菌汚染率は高かった。コンプレッサー型ネブライ ザーは薬液を嘴管に注入しエアロゾル化するため,嘴管 が汚染されていた場合は患者に感染をもたらす危険があ る。今回の調査ではガラス製嘴管の高圧洗浄を行ってい ても,エアロゾルからグラム陽性桿菌のバシラス属と推 定される菌が検出された。エアロゾルの発生には滅菌生 理食塩水を使用していたので,エアロゾルから発生した 細菌は嘴管に付着していたと考えられる。高圧洗浄して いてもガラス製嘴管の内部に細菌汚染が残ってしまう可 能性があるため,洗浄の前に次亜塩素酸ナトリウム消毒 薬に浸漬するなどの検討が必要である。 2. 超音波ネブライザーについて 超音波ネブライザーは、超音波加湿器と同じ原理であ る。薬液を入れる槽とそれを取り巻くように外側の作用 槽があり,水槽が二重構造になっている。外側の作用槽 に滅菌水を入れ,超音波振動を作動させ薬液をエアロゾ ル化する。そのため,薬液槽や作用槽の中で親水性細菌 が繁殖しやすい3)。CDC のガイドラインでは,ネブラ イザー療法にはレジオネラ属の感染予防のために滅菌水 を用いることとしており,尾家ら11)は滅菌を開封しそ の後常温保存された滅菌水などは,シュードモナス属な どの一部のグラム陰性桿菌による汚染を受けやすいと報 告している。そのため,なるべく少用量のものを用いて 開封後 24 時間以内での使用が望ましい。 今回の調査では,9 台全ての作用槽に 103∼ 105cfu/ml 細菌汚染が認められ,コロニーの性状により腸内細菌の セラチア属と推定される菌とブドウ球菌が検出された。 薬液槽やエアロゾルからもセラチア属と推定される菌が 検出されたが,細菌汚染のレベルはエアロゾルや薬液槽 に比べ作用槽の方が高かった。勝井ら12)は,薬液槽は エアロゾルを発生させるために超音波の照射を受け続 け,長期間カップに負担がかかり薬液が少ない空焚のよ うな状態だと破損が生じることがあると報告している。 破損により作用槽の汚染菌が薬液槽に混入した場合は, 薬液槽の細菌汚染が高まるため作用槽の管理も重要であ る。しかし,作用槽は材質の関係で塩素系の消毒は行え ないため,土屋は2)作用槽の水を抜いた後乾燥させ 70% アルコールを注入し消毒を行うことで,作用槽の緑膿菌 を殺菌することができると報告している。アルコールは 中水準消毒であるが,今回の調査で作用槽から検出され たセラチア属と推定される菌にも効果がある。また,セ ラチア以外のグラム陰性桿菌にも効果があるため,作用 槽にはアルコールの消毒が有効と思われる。 E 病院では 8 台の超音波ネブライザーを調査したが, 2 台に薬液槽の汚染が認められなかった。調査前日の夜 勤者が通常の流水洗浄に加え,次亜塩素酸ナトリウム液 を使用し浸漬を行っていた。勝井ら13)は,ネブライザー 部品を毎日 0.1%次亜塩素酸ナトリウムに 1 時間浸漬さ せることで十分な殺菌効果が認められるとしている。ま た勝井ら14)は,試菌を用いた実験では,蛇管を十分乾 燥させることで試菌を死滅させることが可能と報告して いる。次亜塩素酸ナトリウム液の浸漬は手軽に実施が可 能であり,消毒効果も高く院内感染を防ぐうえでも有効 と考えられる。 薬液槽から緑膿菌検出されたがネブライザーからは, エアロゾルにも緑膿菌が検出された。同様に薬液槽から セラチア属と推定される菌が検出されたネブライザーか らは,エアロゾルにもセラチア属と推定される菌が検出 された。Reinhardt ら15)はネブライザーの水槽中の菌数 が 104cfu/ml 以上になるとエアロゾル中にも細菌が排出 されると報告している。今回の調査でも,104cfu/ml 以 上の細菌汚染があったネブライザーからエアロゾルに細 菌排出が認められた。今回は SCDLP 寒天培地培地に 30 秒間エアロゾルを噴霧して調査を行ったが,実際の患者 への吸入は 5 分以上行うため今回の調査以上の細菌数を 吸入することが考えられる。免疫力が低下している呼吸 器疾患患者や術後患者がこのような細菌汚染のエアロゾ ルで吸入を受けた場合,呼吸器疾患の悪化が予想され危 険である。CDC のガイドライン7)ではネブライザーは 気道に用いる器具とされ,Spaulding の分類システムの セミクリティカルに分類され高水準消毒が必要としてい る。エアロゾルを大量に発生させる超音波ネブライザー の薬液槽は毎日交換し洗浄することを推奨しているが, 超音波ネブライザーのエアロゾルの細菌汚染を防ぐため には,薬液槽の洗浄や管理が重要であると考える。
謝辞
本研究の調査に際しまして多大な配慮を頂きました各 協力病院の皆様に,心から感謝いたします。 文献 1) 有田清子,尾崎章子,他(2008)基礎看護技術Ⅱ(藤崎郁).医学 書院,東京 2) 土屋香代子(1997)超音波ネブライザーの作用水ならびに作用水 槽の清潔管理に必要な要因.看護総合,28:61-63 3) 勝井則明,真鍋美智子,他(2000)ネブライザーの微生物汚染防 止と適正使用.日本医学器械学会,70(7):311-316 4) 勝井則明,加藤信行,他(1998)ネブライザーによる院内感染と その対策.防菌防黴,26(6):321-326 5) 安田忠司(2007)感染制御専門薬剤師─消毒剤の適正使用に向け た取り組み─.東京都病院薬剤師会誌,56(2):109-116 6) 仲松美幸,佐久川広美,他(2008)院内感染パーフェクトマニュ アル,学研,東京 7) 瀧川圭一,藤田次郎,他(1993)免疫抑制患者におけるネブライ ザー嘴管を介した Pseudomonas Cepacia 呼吸器感染症.感 染症学会誌,67(11):1115-1125 8) 西牟田敏之,西間三馨,他(2008)小児気管支喘息治療・管理ガ イドライン.日本小児アレルギー学会,東京 9) 矢野邦夫(2008)CDC 最新ガイドラインエッセンス集 3.メディ カ出版,大阪 10)矢野邦夫訳(2004)医療ケア関連肺炎防止のための CDC ガイド ライン.メディカ出版,大阪 11)尾家重治,神谷 晃(1993)吸入療法に用いていた吸入液の細菌 汚染.防菌防黴,21(5):233-236 12)勝井則明,真鍋美智子,他(2009)病棟で使用中の超音波ネブラ イザーの微生物汚染対策.日本環境感染学会誌,24(1):15-20 13)勝井則明,澤 清美,他(2006)病棟で使用中のネブライザーの 微生物汚染とその対策.耳鼻咽喉科展望,49(1):3-7 14)勝井則明,真鍋美智子(2002)微生物汚染の観点からみたネブラ イザーの蛇管およびエアフィルターの危険性についての評価. 日本手術医学会誌,23(2):112-11615)D. J. Reinhardt, C. Kennedy, and B. Malecka-G(1980)Selective Nonroutine Microbial Surveillance of In-Use Hospital Nebulizers by Aerosol Entrapment and Direct Sampling Analyses of Reservoirs.Jounal of Clinical Microbiology,12(2): 199-204