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共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫の関わり

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共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫の関わり

中 島 久美子, 伊 藤 玲 子, 國 清 恭 子

荒 井 洋 子, 阪 本

忍, 篠 崎 博 光

常 盤 洋 子

要 旨 【目 的】 妊娠期にある共働き夫婦を対象に, 妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識を明らかに し, 妻が満足と感じる夫の関わりを高める看護援助への示唆を得る. 【対象と方法】 共働き夫婦 3組を対象 に, 妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識ついて半構成的面接法によりデータを収集し, 析は ベレルソンの内容 析法を参 に行った. 【結 果】 共働き夫婦において妻が満足と感じる夫の関わりに おける夫婦の認識は,【妊娠の知らせに対する喜び】【仕事の継続への理解と話し合い】【仕事や妊娠・出産に 伴う心身への気づかい】【家事の 担】【親になるための準備】の 5カテゴリーが抽出され,共働き夫婦の認識 の共通性および差異が明らかとなった. 【結 語】 共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫の 関わりにおいて, 5カテゴリーが抽出され, 共働き夫婦の認識の共通性および差異が明らかとなった. 妻が満 足と感じる夫の関わりを高める看護援助として, 夫婦の間で気持ちの共有と夫婦の協働的な作業や良好なコ ミュニケーションが強化されるように夫婦に働きかけることが重要であると示唆された.(Kitakanto Med J 2011;61:327∼340) キーワード:共働き夫婦, 妻の満足, 夫の関わり, 夫婦の認識, 妊娠期 緒 言 現代,女性の価値観の多様化を背景に,女性の「仕事と 育児の両立」志向が急増し, 専業主婦」型が急減してい る. また, 結婚後も仕事を続けながら妊娠・出産, および 育児を行う女性が増加している. 一方で, 女性が働きな がら妊娠期を過ごすことにより, 身体的疲労やストレス, 家 生活における役割 藤を生じる可能性が指摘されて いる. よって,共働き夫婦において,妻が仕事を継続しな がら,その後も出産・育児をしていくためには,家事・育 児の担い手としての夫の存在がより必要となり, 妊娠期 からの夫の関わりが重要になると える. 共働き夫婦では, 夫と妻が共に仕事と家事・育児の役 割を引き受けるため, 夫婦関係の特徴は, 夫と妻が担う 役割の代替性にあると指摘されている. つまり, 共働き 夫婦は, 夫が外で働き妻が家 生活を引き受けるという 性別役割 業の夫婦と相反し, 夫と妻がともに仕事と家 事・育児の役割を担う夫婦関係となる.そのため,共働き 夫婦は, 家 生活における役割を遂行するために, 夫婦 の良好なコミュニケーションや家 内の協働的な作業, 共通の体験を通して協力し合っているという確認が必要 になる. よって,妊娠期にある共働き夫婦では,妊娠前か らの家事 担に加えて, 妊娠中の妻が仕事を継続するこ とにより生じる身体的疲労やストレス, 家 生活におけ る役割 藤などの身体的・精神的影響に対して夫が支援 していく必要があるといえる. そして, 妊娠期にある妻 を夫が支え, 夫婦の相互理解を深めていくことが重要で あると える. 1 群馬県高崎市問屋町1-7-1 群馬パース大学保 科学部看護学科 2 東京都稲城市大丸1171 稲城市立病院 3 群馬県前 橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科看護学講座 4 群馬県吾妻郡長野原町大字大津746-4 西吾妻福祉病院 平成23年5月20日 受付 論文別刷請求先 〒370-0006 群馬県高崎市問屋町1-7-1 群馬パース大学保 科学部看護学科 中島久美子

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Scanzoni & Scanzoni の結婚生活理論によると, 夫婦 生活には, 道具的領域 (子育てや家事, 収入を得るなどの システム維持に不可欠な役割の領域)と,精神的領域 (役 割を超えたコミュニケーションや共通行動といった精神 的充足に重点がおかれた領域) の 2つがあり, 夫婦生活 を維持するためには, 家族システムの安定と夫婦の親密 性の発達が重要であるとしている. また, 妊娠期にある 初産婦の夫婦を中心とした家族関係は, Duvall の 8段 階の家族ライフサイクルにおいて,第 1段階 (新婚期)の 婚礼から第 1子の 生までの時期にあてはまる. つまり, 妊娠期は夫婦の 2者関係からお腹の子どもを含めた 3者 関係となり, 家族関係の広がりを見せることから家族シ ステムが発達する時期と えられる. この家族システム が発達する妊娠期において, 夫婦が新しい関係の中で生 じる 藤を乗り越えて夫婦の親密性を深め, 夫婦間での 役割調整を行いながら家族システムの安定を図ることは 重要と える. これまでの研究では, 妊娠期の夫婦を対象に妻が満足 と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識に焦点がおか れ, 妊娠期の夫婦の認識には差異が生じていることが指 摘されている. 妻が満足と感じる夫の関わりとは, 2人 の相互作用の上に成り立つことから, 夫の一方的な見方 による妻への関わりでは, たとえそれが真剣でも妻の満 足が得られなければ妻にとっては無効となる. 他方, 妻 への夫の関わりが夫の意図的な関わりではなくても, 妻 にとって満足と認識される場合もあると える. よって, 妊娠期の夫婦の認識の差異が大きく, そのことを認識し ない夫婦では, その後の出産, 育児期における夫婦の関 係性に影響を及ぼす可能性があり, 妊娠期にある共働き 夫婦においても同様と える. 以上のことから, 妊娠期にある共働き夫婦の認識に焦 点をあて, 妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の 認識を明らかにする必要があると えた. それにより, 妻が満足と感じる夫の関わりへの看護援助への示唆が得 られると えられた. 本研究の目的は, 妊娠期にある共働き夫婦を対象に, 妻が満足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識を明ら かにし, 妻が満足と感じる夫の関わりを高める看護援助 への示唆を得ることである. 【用語の操作的定義】 共働き夫婦 : 妻と夫がともに常勤で就労をしている妊婦 とその夫 妻の満足感 : 夫の関わりによる妻の喜びや安心感, ある いは助けられたという気持ち 夫の関わり : 妊娠期の妻に対する夫の言動や態度, ある いは感情や意思 夫婦の認識 : 妻が満足と感じる夫の関わりに対する妻の 理解, 妻が満足と感じると夫自身が感じて いる夫の関わりに対する夫の理解 研 究 方 法 1.研究デザイン 本研究は, 質的帰納的研究である. 2.研究対象 調査対象は, 第 1子妊娠期の共働き夫婦 3組であった. 本研究は, 勤労妊婦 25名に調査依頼をし, 夫の仕事によ り面接の協力が得られない, 夫が妊婦 診に同行できな いという理由から研究協力の同意が得られなかった 22 名を除き, 最終的に夫婦共に研究協力の同意の得られた 共働き夫婦 3組 (6名) に面接を実施した. 対象の条件として, 妻は正常な妊娠経過をたどり, 就 労形態は常勤 (パート, 非常勤は除く) で, 現在勤労中ま たは産前休暇中の妊婦とした. また, 本研究は, 妻が満足 と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識を捉えることを 目的とし, 感情や意思について面接を予定していること から, 夫婦のいずれかに精神疾患を有する場合には, 原 疾患に影響を及ぼす可能性があることを 慮し, 夫婦と もに精神疾患がないこととした. 調査期間は, 2009 年 8月∼12月であった. 3.調査方法 面接は, 県内の産科医療施設に来院した妊婦とその夫 に対して妊婦 康診査の待ち時間を って, 夫婦個別に 行った. 研究協力施設は, 研究者との関係性はなく, 県内 の正常な妊娠, 出産を多く扱う施設であり, 対象の協力 を得られやすいと えた. 調査対象の選定は, 研究者か ら本研究の主旨等を妊婦 康診査に携わる助産師に説明 し, 研究協力の同意が得られた助産師によって対象の条 件を充たしている夫婦が産科カルテから確認され, 研究 者に紹介された. 調査は半構成的面接法により実施し, 面接内容は対象 者の了解を得て録音し逐語録を作成した. 4.調査内容 属性として, 夫婦の年齢, 妻の就労状況, 結婚期間, 家 族形態, 妊娠の成立, 妊娠経過を妻の面接時に質問紙に 記入してもらった. 妻が満足と感じる夫の関わりについては, ①状況や場 面, ②満足と感じた夫の関わり (夫に対しては, 妻が満足 と感じていると夫自身が感じている夫の関わり), ③夫の 関わりは妻の就労と関連しているのか, について夫婦個 別に自由に語ってもらった. インタビューガイドは, 大 日向 の母性の発達変容に関する研究を基に, 中島 の研

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究により抽出された「妊婦が満足と感じる夫の言動や態 度」を構成する 5つのカテゴリー「情動への気づかい」 「仕事上の変 への理解と母親意識への評価」「 親とし ての自覚と子どもへの愛着」「出産・育児に関する夫婦の 話し合い」「直接的支援」の 5つを参 に作成した. 5.倫理的配慮 対象者に対して, 調査への参加は任意であること, 拒 否・中断をしても不利益を被ることはないこと, 研究へ の参加・不参加が医療サービス等に影響しないことを文 書および口頭で説明し, 研究参加への同意のサインを得 た. また, 本研究は, 群馬大学大学院医学系研究科臨床研 究倫理審査委員会の承認 (承認番号 9-14) を得て行った. 6. 析方法 析は, Berelson の内容 析法を参 に夫婦個別に 行った. この内容 析法は, 表 明 さ れ た コ ミュニ ケー ション内容を客観的, 体系的, 数量的に記述するための 調査技法である. 本研究は, 妊娠期の夫婦の認識を明ら かにすることを目的として言語的コミュニケーションを 析の対象とするため内容 析法が適していると え た. まず, 妻および夫の面接内容から逐語録を作成し, 妻 が満足と感じる夫の関わり (以下, 妻の認識する夫の関 わり」とする), 妻が満足と感じていると夫自身が認識す る夫の関わり (以下, 夫の認識する妻への夫の関わり」 とする) について語られた主語, 述語からなる文を 1文 章とし, 文脈単位を 1単位としてデータとし, それを記 録単位とした. 1つの文脈の中で, 妻の認識する夫の関わ りが複数あった場合には, その種類ごとに けて複数の 記録単位として扱った. その後, 夫婦の認識の比較検討 を行うため, 妻の認識する夫の関わりと夫の認識する妻 への夫の関わりの記録単位と照らし合わせて, 夫婦の認 識の共通性, および差異 (妻のみの認識, 夫のみの認識) に 類した. それらの記録単位を集め, 内容の類似性に 従って 類し, 抽象化の作業を得てコード化した. その 後,その意味表現の同質性,異質性に基づき集約, 類し, カテゴリー化を行った. また, 本研究において夫婦の認識の共通性とは夫婦の 語りから読み取ることができる夫婦に共通している内容 とした. 夫婦の認識の差異とは夫婦のどちらか一方の語 りから読み取ることができる妻のみ, あるいは夫のみに 語られた内容とした. 面接において夫婦のどちらか一方 から語られたが, その相手からは語られなかった内容は 妻が認識していないあるいは夫が認識していない内容と みなし, 夫婦の認識の差異 (妻のみの認識, 夫のみの認 識) とした. 析の過程では, 質的研究法を熟知した母性看護学の 研究者によるスーパービジョンを受けた. また, 結果の 信頼性を確認するために, 母性看護学の研究者 3名に 析を依頼し, スコットの式に基づく一致率を算出した. スコットの式 は, カテゴリーの一致率を算出するにあ たり, 偶然から生じる一致と加味しその頻度を補正した 一致率を得ることができ, 70%以上の一致率を示した場 合には得られたカテゴリーの信頼性が確保されていると 判断される. 本研究において, カテゴリーの信頼性を確 保するために有用であると判断し用いた. また, カテゴ リー 類の精度を上げるため, 析を依頼した 3名の研 究者の 類結果や意見を参 に, カテゴリー 類や命名 の精選を繰り返し, 信頼性の確保に努めた. 結 果 1.対象者の属性 妻の平 年齢は 28.3歳 (SD±9.7), 夫 32.7歳 (SD± 8.7) であった. 妻は正常な妊娠経過をたどる常勤の勤労 妊婦であった (表 1). 面接回数は, 妊娠期に 1回実施し, 面接時における妊 娠週数は, 2組が後期 (33週, 37週), 1組が中期 (20週) であった. 面接時間は, 妻, 夫ともに一人につき平 31.2 (SD±5) であった. 2.共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫 の関わり 共働き夫婦 3組の逐語録から, 妻が満足と感じる夫の 関わりにおける夫婦の認識は, 77記録単位が抽出され た. そのうち, 夫婦の認識の共通性 43記録単位, 夫婦の 認識の差異は, 妻のみの認識 14記録単位, 夫のみの認識 20記録単位が抽出された. これらの記録単位を 類した 結果, 最終的には夫婦の認識の共通性および差異におい て,【妊娠の知らせに対する喜び】【仕事の継続への理解 と話し合い】【仕事や妊娠・出産に伴う心身への気づかい】 【家事の 担】【親になるための準備】という 5カテゴ リーが抽出された (表 2). カテゴリー 類のスコットの一致率では, 夫婦の認識 の共通性 94.0%, 夫婦の認識の差異 89.7%となり, 信頼 性が確保された. 表1 対象の属性 妻 平 年齢 28.3歳 (SD±9.7) 就労形態 常勤 夫 平 年齢 32.7歳 (SD±8.7) 就労形態 常勤 妊娠時期 結婚後半年以内∼1年 妊娠経過 順調 不妊治療・流産既往歴 なし

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表2 共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫の関わり カテゴリ 記録単位 夫 婦 の 認 識 の 共 通 性 夫婦の認識の差異 妻 の み の 認 識 夫 の み の 認 識 サブカテゴリ 記録単位 夫 婦 の 認 識 の 共 通 性 夫婦の認識の差異 妻 の み の 認 識 夫 の み の 認 識 コード 記録単位 夫 婦 の 認 識 の 共 通 性 夫婦の認識の差異 妻 の み の 認 識 夫 の み の 認 識 3 ― ― 3 ― ― 妊娠の知らせに対し喜びを表現する 2 ― ― 妊娠の知らせに対する喜び 妊娠の知らせに対する喜び 妊娠の知らせに対し言葉では表現しないが内心は喜んでいる 1 ― ― 6 ― 1 2 ― ― 妻の仕事を継続したいという意思を尊重する 1 ― ― 仕事に対する気持ちの理解 妻の仕事に対する意識を理解する 1 ― ― 仕事の継続への理解と 4 ― 1 妊娠前から共働きについて話し合う 1 ― ― 話し合い 共働きや仕事の継続についての 体調に合わせて働けるように勤務時間の調整について話し合う ― ― 1 話し合い 産休の時期について話し合う 1 ― ― 仕事復帰について話し合う 2 ― ― 10 4 9 4 1 7 仕事上の大変さやストレスについて話を聞く 3 ― ― 仕事による疲労や痛みに対してマッサージをする ― 1 2 仕事による身体的・精神的影響に 対する気づかい 仕事による疲労を心配して体を休めるように声をかける 1 ― 3 通勤時に車を運転することを心配をする ― ― 1 仕事中の体調不良に対し対処法を一緒にえる ― ― 1 仕事や妊娠・出産に伴う 心身の気づかい 3 3 1 出産時の痛みへの不安や恐怖心について話を聞く 2 ― ― 妊娠中の体をえて一緒に外出する 1 2 ― 妊娠・出産に伴う心身の気づかい つわりによる体調不良の時にそばに付き添う ― 1 ― 妊娠中の体をえて間食を控えるように話す ― ― 1 出産への不安を気づかった 3 ― 1 出産への不安に気づかい出産に立ち会うことを同意する 1 ― 1 出産に付き添うことへの同意と調整 出産への不安に気づかい出産に付き添えるように仕事の調整をする 2 ― ― 家事の担 10 1 4 8 ― 1 妊娠前から食事作りや後片づけをする 4 ― ― 妊娠前からの家事担 妊娠前から掃除・洗濯をする 3 ― 1 結婚後は自然と家事の担をする 1 ― ― 2 1 3 妊娠中の身体を気づかい食事を作る 1 1 ― 妊娠中の身体を気づかった家事労働 妊娠中の身体を気づかい掃除・洗濯をする 1 ― ― 妊娠中の身体を気づかい意識的に家事労働をする ― ― 3 14 9 6 10 3 3 胎児の成長を楽しみにする 4 ― 2 お腹に触れて胎動を感じようとする 3 ― ― 胎児への関心 お腹の子どもに話しかける 3 ― ― お腹の子どもの性別に関心を示す ― 2 ― 子どもの生を楽しみにする ― 1 1 親になるための準備 4 6 3 子どもの名前を一緒にえる 1 1 ― 子ども用品を一緒に準備する 3 3 ― 子どもの生に向けた準備と話し合い 子どもの育て方について周囲や雑誌から情報を得る 1 ― 1 出産準備教室に一緒に参加する ― 1 ― 子どもが産まれたらどのように育てるかについて話し合う ― 1 2 合計 43 14 20

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以下,各カテゴリーについて,サブカテゴリー ( >で 示す)と,そこに含まれた記録単位 ( 」で示す)を用い て内容を示し, 共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足 と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性および 差異について特徴的な語りを抜粋して述べる. 1)【妊娠の知らせに対する喜び】 このカテゴリーは, 妊娠の知らせを受けて夫が喜ぶと いう妻への夫の関わりにおける夫婦の認識を示した. 夫 婦の認識の共通性 3記録単位が抽出され, 夫婦の認識の 差異は抽出されなかった (表 2). 妊娠の知らせに対する喜び>は,夫婦の認識の共通性 3記録単位が抽出された (表 2).妻からは「夫に妊娠した と知らせたら, 今までにない笑顔で喜んでいた」と語ら れ, 夫からは「妊娠したと聞いて実感がわかなかったが, (自 の) 表情がニコニコしていたみたい」と語られた. また, 妻からは「妊娠を知らせた時, あまり (夫の) 反応 はなかった. 主人はすぐに反応が出るタイプではないと よく知っているし, 子ども好きと聞いていたので心の中 で喜んでいるのだとわかった」と語られ,夫からは「妊娠 したと聞いてすごくうれしかったが,『あ, そうなんだ』 としか言わなかった. でも内心ではすごくうれしかっ た」と語られた. 2)【仕事の継続への理解と話し合い】 このカテゴリーは, 夫が妻の仕事に対する気持ちを理 解し,共働き夫婦として,妊娠・出産後も仕事を継続する ことについて夫婦で話し合うという妻への夫の関わりに おける夫婦の認識を示した. 夫婦の認識の共通性 6記録 単位, 夫婦の認識の差異では, 妻のみの認識は抽出され ず, 夫のみの認識 1記録単位が抽出された (表 2). 仕事に対する気持ちの理解>は,夫婦の認識の共通性 2記録単位が抽出された (表 2).妻からは「仕事を辞めて 社会から孤立したくない気持ちや夫と対等な立場でいた い気持ちを伝え, 結婚後も働いていきたい意思を尊重し てくれた」と語られ,夫からは「妻は仕事好きで責任感が 強く, 仕事を続けていきたい意思もある. 最後までしっ かりと仕事をするのが妻らしい生き方だと思っているの で, 共働きで一緒に頑張っていきたい」と語られた. 共働きや仕事の継続についての話し合い>は,夫婦の 認識の共通性 4記録単位, 夫婦の認識の差異では, 夫の みの認識 1記録単位が抽出された (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「本当は子どもが生 まれたらずっと (子どもと)一緒にいたいけど,仕事を続 けたい. 職場のこともあるので産休を 1年取り, 早めに 仕事復帰するつもりでいると (夫に) 話したら夫も賛成 してくれてよかった」と語られ, 夫からは「(妻は) 産休 を 1年しっかり取って, その後, 子どもがいるからフル タイムではなくて時間給で働こうかなと言っています. (私は) それでいいよって言ったので, 気持ち的にも楽に なったのではないかな」と語られた. 夫婦の認識の差異は, 夫のみの認識として「(妻から相 談されたとき) 体の具合を見て, (出勤の) 時間帯を少し 遅らせてもらうとか, 少し早めに仕事をあがらせてもら うようにすればいいと言いました」と語られたが, 妻か らは体調に合わせて働けるように勤務時間の調整につい て話し合うという夫の関わりは語られなかった. 3)【仕事や妊娠・出産に伴う心身の気づかい】 このカテゴリーは, 仕事に起因する疲労や痛み, ある いは仕事による大変さやストレスといった心身への影響 に対する夫の気づかいや, 妊娠・出産に伴う心身の気づ かい, また, 出産への不安を気づかい出産に付き添うこ とへの同意と調整という妻への夫の関わりにおける夫婦 の認識を示した. 夫婦の認識の共通性 10記録単位, 夫婦 の認識の差異では, 妻のみの認識 4記録単位, 夫のみの 認識 9 記録単位が抽出された (表 2). 仕事による身体的・精神的影響に対する気づかい> は, 夫婦の認識の共通性 4記録単位, 夫婦の認識の差異 では, 妻のみの認識 1記録単位, 夫のみの認識 7記録単 位が抽出された (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「職場で精神的にス トレスがたまって流産しちゃうのかなって思い, 主人に も話しました」と語られ,夫からは「仕事上の悩みが精神 的ストレスになって赤ちゃんに影響するのはかわいそう なので, 仕事上の話を聞くようにしていた」と語られた. 夫婦の認識の差異では, 妻のみの認識として「仕事が 忙しくなるとここで休んだら悪いかな, 産休に入るまで にやっておかないと, と思って無理したこともありまし た. でも, 帰ったら夫にマッサージしてもらいました. 足 や腰が痛いといえばやってくれるんですけど, 旦那も多 , 疲れているだろうから, 率先してではないですね. で も, 助かりました」と語られたが, その夫からは, 妻の仕 事による疲労や痛みに対してマッサージをするという夫 の関わりは語られなかった.夫のみの認識としては,「足 が痛いというので, 夜マッサージをします. 妻から言わ れてするときもありますが, 足のむくみがすごいときは, 『揉んでやるから横になってみて』ということはありま す.その時は,楽になったと喜んでいましたね」と語られ たが, その妻からは, 妻の仕事による疲労や痛みに対し てマッサージをするという夫の関わりは語られなかっ た. また, 夫のみの認識としては「仕事中, お腹が空いて 気持ちが悪くなるからどうしようって (妻から) 相談さ れて.『小さいおにぎりを持っていくとか, その時に食べ るようにしたら』と言いました. スナック菓子を食べる よりは,その方がいいと思って」と語られたが,妻からは 仕事中の体調不良に対し対処法を一緒に えるという気

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づかいについての夫の関わりは語られなかった. 妊娠・出産に伴う心身の気づかい> では,夫婦の認識 の共通性 3記録単位, 夫婦の認識の差異では, 妻のみの 認識 3記録単位, 夫のみの認識 1記録単位が抽出された (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「痛みに弱いので出 産の時に不安だということをいつも夫に言うと, 大 夫 だよと言ってくれる」と語られ, 夫からは「(妻は) 出産 そのものが怖い, 不安と言っていたのでずっと話を聞い ていた」と語られた. 夫婦の認識の差異では, 妻のみの認識として「つわり がひどくて立っていられない時も, ずっと付き添ってく れた」と語られたが,夫からは,つわりによる体調不良の 時にそばに付き添うといった夫の関わりは語られなかっ た. 夫のみの認識としては, 妊娠前, 妻はお菓子ばかり 食べていたから, 妊娠後は, 身体の事も えてストレス にならない程度に極力止めようと (妻に)伝えていた」と 語られたが, 妻からは, 妊娠中の身体を えて間食を控 えるように話すといった夫の関わりは語られなかった. 出産への不安を気づかった出産に付き添うことへの 同意と調整> では,夫婦の認識の共通性 3記録単位,夫婦 の認識の差異では, 妻のみの認識は抽出されず, 夫のみ の認識 1記録単位が抽出された (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「今まで産んだこと がないからすごく不安. 出産の予定日が決まっていて, 前日から夫がそばにいてくれるというので不安も少し違 う」と語られ,夫からは「出産は初めてなので,どうして 欲しいかわからないが自 にできることはしてあげたい と思い, 出産予定日の前の日から会社を休み付き添うこ とを妻に伝えている. 当日は不安だろうし, 妻に付き添 うつもり」と語られた. 夫婦の認識の差異では, 夫のみの認識としては, 出産 の時は立ち合えるものなら立ち合いたいと言いました. 私は何でもやってみたがりで好奇心があるから. 妻も上 半身のところにいるならいいと言っていました」と語ら れたが, 妻からは, 出産に付き添うことを同意すると いった夫の関わりは語られなかった. 4)【家事の 担】 このカテゴリーは, 妊娠前から夫婦が家事 担をして いることや, 妻の妊娠により妊娠中の身体を気づかい家 事労働をするという妻への夫の関わりにおける夫婦の認 識を示した. 夫婦の認識の共通性 10記録単位, 夫婦の認 識の差異では, 妻のみの認識 1記録単位, 夫のみの認識 4 記録単位が抽出された (表 2). 妊娠前からの家事 担>では,夫婦の認識の共通性 8 記録単位, 夫婦の認識の差異では, 夫のみの認識 1記録 単位が抽出された (表 2). 夫婦の認識の共通性は,妻からは「食事の準備では,先 に仕事から帰宅する夫が料理を作って待っていてくれる のでありがたい」,「夫婦でそれぞれ得意とする 野の家 事を自然と 担している」と語られ,夫からは「 (自 は) 料理好きなので結婚後からご飯作りをしている. しかし, 朝起きるのは苦手なので朝ごはんは妻が作っている」, 「結婚後から, 干してある洗濯ものをしまって片づける のは早く帰宅した方でやっている」と語られた. 夫婦の認識の差異では,夫のみの認識としては,「妊娠 前からお風呂は出る時に洗剤かけて軽くこすっていま す」と語られたが,妻からは,妊娠前から掃除をしている といった夫の関わりは語られなかった. 妊娠中の身体を気づかった家事労働>では,夫婦の認 識の共通性 2記録単位, 夫婦の認識の差異では, 妻のみ の認識 1記録単位, 夫のみの認識 3記録単位が抽出され た (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「妊娠してからはさ らに栄養バランスの良い食事を作ってくれるようになっ た」, つわりで辛い時に (夫は)今まで全然できなかった 掃除や洗濯をやってくれたのは助かった」と語られ, 夫 からは「ご飯は栄養バランスを えながら作っています. 鉄 やカルシウムも えて. 妊婦だからなおさら (やっ てあげたい)」, (妻は) まだ大 夫だよと言うけど, 妊娠 してからは布団を干したりもします. 産むのは代わって あげられないし, 男ができることは何かなと思って」と 語られた. 夫婦の認識の差異では, 夫のみの認識としては「意識 して家事, 洗濯するようになったのは妊娠したのがわ かってからです. それまで家事をしたことなかったので. それから自 でやるようになりました」と語られたが, 妻からは妊娠中の身体を気づかい意識的に家事労働をす るといった夫の関わりは語られなかった. 5)【親になるための準備】 このカテゴリーは, 夫が胎児への関心を抱いているこ とや子どもの 生に向けて夫婦で一緒に準備をしたり話 し合ったりするという妻への夫の関わりにおける夫婦の 認識を示した. 夫婦の認識の共通性 14記録単位, 夫婦の 認識の差異では, 妻のみの認識 9 記録単位, 夫のみの認 識 6記録単位が抽出された (表 2). 胎児への関心> では, 妻の認識 10記録単位, 妻のみ の認識 3記録単位, 夫の認識 3記録単位が抽出された (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「 診に一緒に来る と, (赤ちゃんが) 動いている様子も一緒に見られるから, それが楽しみのようで『動いたね,大きいね』とか言って いました」, (胎児が) お腹の中で動くと (夫がお腹を) 触って話しかける姿を見て, 夫も 親になるんだなと思

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う」と語られ,夫からは「 診にはほとんど一緒に来てい たので,ずっと一緒に (赤ちゃんの)様子を見ていた感じ です.『元気だね』って言っています」「『今, 動いている よ』と言われた時,お腹を触っている.妻もうれしそうに している」と語られた. 夫婦の認識の差異では,妻のみの認識としては「(夫は) 男の子か女の子か楽しみだなって言っています」と語ら れたが, 夫からは, お腹の子どもの性別に関心を示すと いった夫の関わりは語られなかった. 子どもの 生に向けた準備と話し合い>では,夫婦の 認識の共通性 4記録単位, 夫婦の認識の差異では, 妻の みの認識 6記録単位, 夫のみの認識 3記録単位が抽出さ れた (表 2). 夫婦の認識の共通性は, 妻からは「(性別が女の子と かり)旦那も会社の人から『女の子はこうらしいよ』って 聞いていたみたいで. また楽しみになりました」と語ら れ, 夫からは, 女の子ってどういうふうに育てていいか わからないから会社の人とかに聞いたりしましたね」と 語られた. 夫婦の認識の差異として, 妻のみの認識からは「周り の友達からいろいろ聞いたりして, (子どもに対して) 過 保護にしすぎないようにとか, 神経質になりすぎないよ うにしようねって話しています」と語られたが, その夫 からは子どもが生まれたらどのように育てるかについて 話し合うという夫の関わりは語られなかった. また, 夫 のみの認識からは, 男でも女でも厳しく育てたい. 曲っ た生き方をさせたくないです. 叱るのはいいけど感情に 任せて怒るのは止めようねって妻とも話しています」と 語られたが, その妻からは, 子どもが生まれたらどのよ うに育てるかについて話し合うという夫の関わりは語ら れなかった. 妻のみの認識としては「母親学級の日, ちょうど夫は 仕事が休みだったので,『一緒に行かない?』って聞いた ら (夫は)『いいよ』って言ってくれた」と語られたが,夫 からは, 出産準備教室に一緒に参加するといった夫の関 わりは語られなかった. 察 1.共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫 の関わり 共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫の 関わりにおいて 5カテゴリーが抽出された. 以下に, 共 働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫の関わ りについて夫婦の認識の共通性と差異から 察する. 1)共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫 の関わりにおける夫婦の認識の共通性 【妊娠の知らせに対する喜び】において,夫婦の認識の 共通性として, 妊娠の知らせに対する喜び> (3記録単 位) が抽出された. 妊娠の知らせは妻にとっても夫にとっても喜ばしい出 来事であり, 先行研究 と同様に, 本研究の共働き夫婦の 認識においても, 妊娠の喜びを夫婦で一緒に共有するこ とができていたと える. また, 本研究の共働き夫婦の 認識では, 妊娠の知らせに対し夫が喜びを言葉で表現す るという夫の関わりに加え, 妊娠の知らせに対し言葉で は表現しないが内心は喜んでいるという夫の関わりにお ける夫婦の認識が抽出された. このような夫の関わりに おける夫婦の認識について, 妻は夫が感情を言葉で表現 することが苦手だという性格を理解したうえで, 妻は夫 の態度から推察し, 内心では妊娠の知らせを喜んでいる と認識していたと推測される. 新道ら は, 妊娠の知らせに対して, 夫から期待どおり の反応を得られたときには, 妻の妊娠の喜びは大きくな り, 大日向 は, 子どもが生まれることに対する夫の喜び や期待, 夫の喜びに応えようとする妻の心のはたらきは, 女性が妊娠を肯定的に受容するうえで重要な要因である と述べている. よって, 本研究の共働き夫婦において, 妻 の妊娠の知らせに対し夫が喜ぶといった夫の関わりにお ける夫婦の認識は, 妻の妊娠の受容を促すうえで重要で あると えられる. 【仕事の継続への理解と話し合い】において,夫婦の認 識の共通性として, 仕事に対する気持ちの理解>(2記録 単位)と 共働きや仕事の継続についての話し合い>(4記 録単位) が抽出された. 夫婦に関する種々のコミュニケーション内容について 検討した門野 の研究では, 妻の就労」について,結婚前 から「話し合いで意見の一致」 (合意確認)が半数を占め るという結果を明らかにしている. つまり, 共働き夫婦 では, 妊娠前からの夫婦のコミュニケーションにより, 妊娠・出産後も仕事を継続したいという妻の意思を夫婦 で相互に確認し, 意見の一致が生じていると推測される. 本研究の共働き夫婦の認識においても, 結婚前から共働 きについての話し合いや産休・育休後の仕事復帰につい て話し合いがなされており, 夫婦の間で気持ちの共有が 図られていた. そして, 妻の妊娠を機に, 改めて仕事の継 続について話し合い, 仕事と家 生活について夫婦が互 いの意思疎通を図っていたと推測される. 平山ら は, 妻の就労や共働きに対する夫の肯定的な 評価が妻に対する共感的なコミュニケーション態度とな り, 妻の就労に対する夫の理解や評価する気持ちが高ま ることを指摘している. Wood は, 夫婦のコミュニケー ションを通して, 夫と妻, それぞれが自 と相手の家 生活・職業生活について意味・価値づけを行い, その意 味・価値を夫婦の間で共有することが良好な夫婦関係の

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維持に不可欠な課題であると述べている. 本研究の共働 き夫婦では, 妻は仕事を通じて社会と接点を保ち, 夫と 対等な立場でいたいという気持ちを夫に伝え, 結婚後も 働きたいという気持ちを夫から理解してもらっていると 認識していた. また, 夫も妻と同様に, 妻の仕事に対する 気持ちを理解し, 共働き夫婦として一緒に頑張っていき たいと認識しており, 妻の仕事に対する夫の理解におい て夫婦の気持ちの共有が得られていた. つまり, 妊娠前 から妻の仕事や共働きに対する夫の肯定的な評価によっ て, 妻への共感的なコミュニケーション態度に繫がり, 妻の仕事に対する理解や評価する気持ちが高まるという 好循環のプロセスが成立していたと えられる. また, 夫婦の対等性は, 今日の恋愛結婚による夫婦関 係においては極めて重要な要件であると指摘されてい る. しかし, 妻の仕事や共働きに対する夫の理解が得ら れず, 年齢・学歴などに差のない夫婦が性別役割 業体 制の夫婦関係となった場合には, 共働き夫婦の対等性は 崩れ, 妻が仕事を継続することで形成される女性として のアイデンティティは確立されず, 夫婦関係に軋轢が生 じる可能性が潜んでいる.岡本 は,女性の仕事に対する 社会的な意味, 働くことによる充実感や高い自己評価, さらには働く環境を含めた職業生活が, 個人のアイデン ティティ形成に大きな影響を及ぼすと述べている. よっ て, 本研究の共働き夫婦において, 妻が仕事を継続しな がら妊娠・出産,および育児を担うということは,家 生 活を担う上での妻という役割, 育児期における親として の役割だけでなく, 仕事に対する社会的な意味としての 女性のアイデンティティ形成に大きな影響を及ぼすであ ろうと えられる. 【家事の 担】において, 夫婦の認識の共通性として, 妊娠前からの家事 担> が抽出された (8記録単位). 夫婦に関する種々のコミュニケーション内容が結婚前 後で変化するかを検討した門野 の研究では, 妻の就 労」について,結婚前から「話し合いで意見の一致」が半 数を占める一方, 家事 担」については, 結婚後に「何 となく一致」という結果が明らかである. 本研究の共働 き夫婦においても, 夫婦双方が夫婦で得意な家事を自然 と 担していると認識しており, 結婚当時からの家事 担が自然と成立し, そのまま妊娠期の夫婦の家事 担に 移行していることが明らかとなった. このような家事 担における夫婦の認識の共通性をもたらせた理由として は, 仕事に対する気持ちの理解>, 共働きや仕事の継続 についての話し合い> で述べたように, 共働き夫婦であ ることに起因する夫婦の対等性の え方が基盤にあり, 夫婦の相互理解や協働的な作業によって, 共働き夫婦の 家事 担が成立することに繫がっていたと推察される. また, 共働き夫婦の対等性については, 諸井 により, 共働き夫婦において家事 担の衡平性と夫婦関係におけ る満足度の関連性について指摘されている. これは, 共 働き夫婦の対等性により, 家事 担が衡平であると認識 している共働き夫婦は, 夫婦関係における満足度が高い ということを意味している. 本研究の共働き夫婦におい ても, 妊娠前からの家事 担>における夫婦の認識の共 通性 (8記録単位) が抽出されていることから, 夫婦の対 等性により家事 担について夫婦が認識しており, 夫婦 関係における満足感が高いであろうと えられる. 一方,わが国では,他の先進国に比べて夫の家事・育児 参加が極めて少ないという現状があり, 夫の家事・育児 参加が少なければ, 就労の妻には仕事と家事・育児の二 重負担が生じやすいことが懸念される. しかし, 本研究 の共働き夫婦においては, 妊娠前からの家事 担におけ る夫婦の認識の共通性が抽出されている. このことは, 夫婦の協働的な作業によって, 家事 担における夫婦の 認識の共通性が高まり, 妊娠期から育児期を見据え, 妻 の仕事と家事・育児の二重負担の軽減が図られるであろ うという意識に繫がることが期待される. さらに, 夫婦生活を維持するうえで重要な要素の一つ に, 子育てや家事, 収入を得るなどのシステム維持に必 要な役割があり, 家族システムの安定を図ることが重要 であると指摘されている. 妊娠期の共働き夫婦において 家族システムの安定を図るには, 妊婦である妻の身体的 負担の軽減を図り, 精神的にも 康な妊娠経過を過ごす ことが重要であり, 夫婦の家事 担が必要不可欠である と えられる. 本研究の共働き夫婦においても, 妊娠前 から夫婦の対等性により家事 担における夫婦の認識の 共通性が得られており, 夫婦が相互に支えられていると いう実感が得られていると える. よって, 共働き夫婦 において, 家事 担における夫婦の認識の共通性が得ら れたということは, 妊娠期における家族システムの安定 を図る上で重要な要素の一つが満たされていると えら れる. 【親になるための準備】において,夫婦の認識の共通性 として 胎児への関心> (10記録単位) が抽出された. 川井ら は,中期以降で 親としての意識が現われ,児 への態度や意識が変化するが, 特にこの変化をもたらす ものは胎動であるとしている. 本研究の共働き夫婦の妊 娠時期は, 胎動の実感やお腹の増大により胎児の存在を 夫婦で確認することができる妊娠中期以降であり, 夫が 胎児の成長を楽しみにするといった夫の関わりや夫がお 腹に触れて胎動を感じようとしたり, お腹の子どもに話 しかけたりといった夫の関わりにおける夫婦の認識の共 通性が抽出された. 妊娠各期の妻が満足と感じる夫の関 わりにおける夫婦の認識を検討した先行研究 では, 妊 娠中期の夫婦の認識の共通性として, 胎児への関心にお

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ける夫婦の認識が最も多く抽出されている. 本研究の共 働き夫婦の認識においても, 先行研究と同様に, 妊娠中 期以降では胎動の実感やお腹の増大によって胎児への関 心といった夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性が明 らかとなった. 近年, 育児期の妻の育児不安や高いストレスが社会的 な問題となっているが, 夫の育児によって, それらの諸 問題を軽減することに繫がると指摘されている. また, 妊娠期における良好な夫婦関係が妻の母親となる意識の 否定的側面を緩和することが明らかとされている. 本 研究の共働き夫婦において, 胎児への関心といった夫の 関わりにおける夫婦の認識の共通性が抽出されたことか ら, 夫の 親となる意識の表れと妻が感じることにより, 妻の母親となる意識の発達が促進され, 夫婦で子どもを 育てるという意識の共有が強化されると推測される. ま た, 共働き夫婦において, 育児期の就労の妻の過半数は, 子どもは必ずしも母親でなくとも, 愛情を持って育てれ ばよいと え, 専業主婦の母親よりも子育てを楽しいと 肯定的に受け止めている. 本研究の共働き夫婦におい ては, 妻の妊娠中から, 夫が胎児の成長を楽しみにして おり, お腹に触れて胎動を感じようとしたり, お腹の子 どもに話しかけるといった夫の関わりにおける夫婦の認 識の共通性が抽出された. よって, 共働き夫婦の認識に おいて, 妊娠期から胎児への関心といった夫の関わりに おける夫婦の認識の共通性を高めていくことは, 妊娠期 の妻がこれから一人で仕事と育児を担っていくという不 安やストレスからの軽減が図られ, 育児期においても育 児を楽しいと肯定的に受け止めることに繫がることが期 待される. 以上, 共働き夫婦において, 妻が満足と感じる夫の関 わりにおける夫婦の認識の共通性からは, 妊娠前から妻 の仕事や共働きに対する夫の肯定的な評価が妻への共感 的なコミュニケーション態度に繫がり, 夫婦の間で気持 ちの共有が図られると えられた. 妻の妊娠の知らせに対し夫が喜ぶといった夫の関わり における夫婦の認識は, 妻の妊娠の受容を促すうえで重 要であると えられた. また, 妻の仕事の継続への理解 と話し合いにおける夫婦の認識は, 妻が仕事を継続しな がら妊娠・出産,および育児を担うことにより,女性のア イデンティティ形成に大きな影響を及ぼすと えられ た. 妊娠前から共働き夫婦の対等性により家事 担を夫 婦が認識することによって, 夫婦が相互に支えられてい るという実感が得られ, その実感は家族システム安定の 基盤に機能すると えられた. そして, 妊娠前からの家 事 担や妊娠期からの胎児への関心といった夫の関わり における夫婦の認識は, 妊娠期から育児期を見据えて, 就労の妻が夫婦の協働により仕事と家事・育児を担って いくことができるという前向きな意識に繫がることが示 唆された. 2)共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫 の関わりにおける夫婦の認識の差異 【仕事や妊娠・出産に伴う心身への気づかい】におい て,夫婦の認識の差異として 仕事による身体的・精神的 影響に対する気づかい> が抽出された (妻のみの認識 1 記録単位, 夫のみの認識 7記録単位). 新道ら は, 社会的には生きがいや自己実現を求めて 働く女性が増加しているが, 仕事との関係が妊婦のスト レスを生じさせることを指摘している. 勤労妊婦は, 妊 娠・出産に伴う体調不良や仕事と家 生活の二重労働に よる負担などから, 妊娠期に特有のマイナートラブルを 生じ, 仕事に伴う身体的疲労や腰痛, 足腰の冷えなどの 愁訴も多く, 数々の 康問題を抱えやすい. つまり, 妊 娠期にある就労の妻は仕事による身体的疲労や精神的ス トレスを抱えていることから, 仕事による身体的・精神 的影響に対する気づかいといった夫の関わりにおける夫 婦の認識が重要となる. 本研究の共働き夫婦の認識にお いては, 妻の仕事上の大変さやストレスから胎児に影響 を及ぼすのではないかという妻の不安に対して, 夫が話 を聞くといった夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性 が抽出された. 一方, 仕事による疲労を心配して体を休 めるように声をかける, 仕事による疲労や痛みに対して 夫がマッサージをするといった夫の関わりにおける夫婦 の認識は, 夫のみの認識に多く抽出された. つまり, 妻の 仕事上の大変さやストレスに対し夫が話を聞くといった 夫の関わりは, 就労の妻の気持ちに添った気づかいであ り夫婦の認識の共通性となるが, 夫のみの判断で就労の 妻を心配して体を休めるように声をかける, マッサージ をするといった夫の関わりは, 妻の気持ちに添わない気 づかいとなることがあり, 夫婦の間で気持ちの共有が図 られない場合は, 妻への夫の関わりは一方向の認識とな ると えられた. また, 夫婦の認識の差異として, 妊娠・出産に伴う心 身の気づかい> が抽出された (妻のみの認識 3記録単位, 夫のみの認識 1記録単位). 妊娠期にある就労の妻は, 仕 事による身体的疲労や精神的ストレスだけでなく, 妊 娠・出産に伴う身体的負担や精神的ストレスを抱えてお り, 妻の妊娠に伴う心身の気づかいにおける夫婦の認識 が重要となる. 本研究の共働き夫婦の認識においては, 出産時の痛みへの不安や恐怖心に対して話を聞くといっ た夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性が抽出され た. しかし, 妊娠中の身体を えて一緒に外出する, つわ りによる体調不良の時にそばに付きそうといった夫の関 わりにおける夫婦の認識は, 妻のみの認識に多く抽出さ れた. つまり, 妻の出産への痛みや不安の気持ちに対し

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て夫が話を聞くといった夫の関わりは, 妊婦である妻の 気持ちに添った気づかいであり夫婦の認識の共通性とな る. しかし, 夫の意図的な言動や態度でない場合であっ ても, 妻にとって満足と感じる夫の関わりも存在し, 仕 事による身体的・精神的影響に対する気づかい> におけ る夫婦の認識と同様に, 夫婦の間で気持ちの共有が図ら れない場合は, 妻への夫の関わりは一方向の認識になる と えられた. このような夫婦の認識のとらえ方による 違いから夫婦の認識の差異が生じるという結果は, 妊娠 初期の夫婦の認識を明らかにした中島の先行研究 にお いて, 妻の話を聞く・気づかう言葉をかける> といった 夫の関わりにおける夫婦の認識と同様の結果であった. このように共働き夫婦の認識において, 仕事や妊娠・出 産に伴う心身への気づかいといった夫の関わりにおける 夫婦の認識のとらえ方による違いから, 夫婦の親密性の 発達に支障が生じる可能性がある.平山 は,夫婦間のコ ミュニケーションを通じて, 夫婦の親密性が現わされる と述べている. よって, 共働き夫婦の認識においても, 夫 婦の良好なコミュニケーションを通じて気持ちの共有が 図られることが, 夫婦の親密性の発達にとって重要であ ろうと える. 夫からは妻の気持ちに添った仕事や妊 娠・出産に伴う心身への気づかいがなされ, 妻からは夫 の気づかいに対する感謝の気持ちを夫に伝えることによ り, 夫婦の認識の共通性が高まり, 夫婦の親密性の発達 が促されると えられる. 【家事の 担】において,夫婦の認識の差異として 妊 娠中の身体を気づかった家事労働> が抽出された (妻の みの認識 1記録単位, 夫のみの認識 3記録単位). 本研究における共働き夫婦の認識において, 妊娠して から夫が栄養バランスの良い食事をつくるようになっ た, つわりで辛い時に家事をしてくれたというように, 妊娠中の妻の身体を気づかい家事労働をするといった夫 の関わりにおける夫婦の認識の共通性が抽出された. し かし, 妊娠中の身体を気づかい意識的に家事労働をする といった夫の関わりは夫のみの認識に多く抽出された. つまり, 妊娠に伴う体調の不調などにより, 妻は夫から の家事労働の助けを望んでいることから, 妊娠中の妻の 身体を気づかった家事労働については, 夫婦の気持ちの 共有が図られ, 夫婦の認識の共通性となる. さらに, 妊 娠前からの家事 担> における夫婦の認識の共通性に よって明らかとされたように, 共働き夫婦では, 妊娠前 からの夫婦の対等性により家事 担の衡平性について夫 婦の認識の共通性となる. しかし, 妊娠前からの家事 担に加えて, 妊娠中の妻の身体を気づかい意識的に家事 労働をするといった夫の関わりについては, 妻に対して 夫の感情や意思を伝えない場合, 夫婦が気持ちの共有を 図ることは難しく, 夫の意図的な行為であっても夫の関 わりは一方向の認識になると えられた.

夫婦間の役割に関する研究で,Benin & Joan は,家事 労働に対する夫の貢献度が相対的に高く, 伝統的な女性 役割を多く行い, 一緒に家事を行う夫に対して, 妻は満 足感が得られやすいとしている. つまり, 共働き夫婦で は, 妊娠前からの家事 担が行われ, 夫の家事労働の貢 献度が高いこともあり, 夫が妊娠中の妻の身体を気づか い意識的に家事労働をしている状況があっても夫の家事 労働に対し妻の満足感が得られにくいと えられた. よって, 妊娠前からの家事 担に加えて, 妊娠中の妻の 身体を気づかい意識的に家事労働をしているといった夫 の気持ちを妻に伝えるとともに, 妻への気づかいが意識 的な家事労働として反映されていることに対し, 妻は夫 に好意的な評価を示すことにより, 夫婦の間で家 内役 割に対する共通の理解が得られると えられた. 【親になるための準備】において,夫婦の認識の差異と して 子どもの 生に向けた準備と話し合い> が抽出さ れた (妻のみの認識 6記録単位, 夫のみの認識 3記録単 位). 本研究の共働き夫婦において, 腹部の増大や胎動の実 感により子どもへの関心が向いてくる妊娠中期以降で は, 子どもの 生に向けた準備や話し合いをする機会が 増える. 子ども用品を一緒に準備するといった夫の関わ りは夫婦が行動を共にするため相互に理解しやすく, 夫 婦の認識の共通性となる. しかし, 意図的ではない夫の 関わりであっても妻の満足感が得られる場合もあり, 夫 婦で子ども用品を一緒に準備するといった夫の関わりに おける夫婦の認識は, 妻のみの認識として抽出された. また, 子どもが生まれたらどのように育てるかを夫婦 で話し合うといった夫の関わりについては, 夫婦の認識 の差異として抽出された (夫のみ認識 1記録単位, 妻の みの認識 2記録単位). 子どもが生まれたらどのように育 てるかといった養育についての話し合いは, 妻の母親と しての意識, 夫の 親としての意識の表れであると え ることができる. しかし, 子どもの養育について話し合 うといった夫婦の認識は, 育児期を見据えた親としての 意識における夫の関わりであり, まだ実際に育児に直面 していない妊娠期の夫婦では, 気持ちの共有が図られず, 妻への夫の関わりは一方向の認識となることがあると えられた. 柏木 は, 共働き夫婦について, 共に働くこと は, 共に子育てをすること, 両親による養育 (parenting) は, 忙しい共働きの生活の中で子どものためにはもちろ んのこと, 夫と妻の心身の 康と親自身の成長のために も必要であるとしている. 新道ら は, 妻の妊娠によって, 子どもに関する夫婦の会話が増加し, 妊娠後期には, 出 産後の児の世話や夫婦の役割 担などより具体的な会話 へと発展するとしている. つまり, 夫婦の間で子どもの

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生に向けた準備や話し合いを通して, 親としての気 持ちが次第に発達していくことが推察される. よって, 共働き夫婦では, 妊娠期から育児期を見据え て, 共働き夫婦として, 子どもの 生に向けた準備と話 し合いをする機会を持つことが重要であると える. さ らに, 妊娠期から子どもの 生に向けた準備と話し合い における夫婦の認識の共通性を高めることにより, 夫は 親としての気持ちが徐々に発達し, 一方, 妻も夫の 親としての意識を感じることによって, 共働き夫婦とし て親になるという安心感に繫がると推測される. また, 育児期の共働き夫婦に関する研究では, 共働き 夫婦の夫と妻のいずれも, お互いに育児の相談や調整の 期待を感じ取って夫婦の相互理解が促進され, 子どもの 世話等の役割を担う関わりが促進されることが明らかで ある. よって, 妊娠期から育児期を見据えて, 共働き夫 婦として, 子どもの 生に向けた準備や話し合いといっ た夫の関わりにおける夫婦の認識の共通性を高めること によって, 夫婦の相互理解を深め, 夫婦が育児の 担を することに繫がるだろうと推測される. このような共働 き夫婦の子どもの 生に向けた準備と話し合いにおける 夫婦の認識の共通性を高めるには, 仕事に対する気持 ちの理解>, 共働きや仕事の継続についての話し合い> で述べたように, 妻の仕事に対する夫婦の対等性や, 妻 の仕事を継続する上で女性としてのアイデンティティを 尊重した え方が重要であろう. 共働き夫婦の対等性や 仕事を持つ妻のアイデンティティを尊重した関わりにお いて夫婦が相互理解を示すことにより, 共働き夫婦が仕 事で多忙な生活を送る中でも, 夫婦の協働により夫婦で 共に育児を担っていこうという意識に繫がるだろうと える. 以上, 共働き夫婦において, 妻が満足と感じる夫の関 わりにおける夫婦の認識の差異からは, 夫婦が互いの気 持ちを理解することが難しい夫の関わりについて, 仕事 と家 生活の多忙な夫婦生活を送る中でも, 夫婦の協働 的な作業や夫婦の良好なコミュニケーションを図ること により, 夫婦の認識の共通性を得ることが重要であると えられた. 仕事や妊娠・出産に伴う心身への気づかいにおける夫 婦の認識からは, 仕事を継続しながら妻が身体的・精神 的に 康な状態で妊娠期を過ごすことができるように, 夫からは妊婦である就労の妻の気持ちに添った気づかい がなされ, 妻は夫からの気づかいに対して感謝の気持ち を夫に伝えていくことにより, 夫婦の親密性の発達が促 されると えられた. また, 妊娠中の身体を気づかった 家事労働における夫婦の認識からは, 夫は妊娠中の妻の 身体を気づかい意識的に家事労働をしていることを妻に 伝え, 妻は夫の意識的な家事労働に対して好意的な評価 を示すことにより, 夫婦の間で家 内役割に対する共通 の理解が得られると えられた. そして, 親への移行期 である妊娠期から育児期を見据えて, 共働き夫婦が子ど もの 生に向けた準備や話し合いといった夫の関わりに おける夫婦の認識を高めることは, 共働き夫婦としてこ れから親になるという意識の発達や夫婦の協働により育 児の 担が得られるという意識に繫がるということが示 唆された. 2.共働き夫婦が認識する妊娠期の妻が満足と感じる夫 の関わりを高める看護援助 本研究の結果より, 共働き夫婦が認識する妊娠期の妻 が満足と感じる夫の関わりにおいて,【妊娠の知らせに 対する喜び】,【仕事の継続への理解と話し合い】,【仕事 や妊娠・出産に伴う心身への気づかい】,【家事の 担】お よび【親になるための準備】の 5カテゴリーが抽出され た. 夫婦の認識の共通性と差異から, 共働き夫婦が認識す る妊娠期の妻が満足と感じる夫の関わりを高める看護援 助として, 妻の妊娠の受容を促すため, 妊娠の喜びを夫 婦で共有することができるように働きかけることが重要 であると える. また, 共働き夫婦が互いに就労し, 時間 的制約を生じる状況においても, 妻が仕事を継続しなが ら身体的・精神的に 康な状態で妊娠期を過ごすことが できるように, 夫婦の良好なコミュニケーションを基盤 に, 就労の妻の気持ちに添った夫からの気づかいや, 夫 に対する妻の感謝の気持ちの表出がなされるよう夫婦の 親密性に働きかけることが重要であろうと える. 共働 き夫婦の対等性により, 妊娠前から家事 担が得られ, さらに, 夫による妊娠中の妻の身体を気づかった家事労 働に対する妻の好意的な評価がなされることにより, 家 内役割に対する共通の理解が得られることから, 家族 システムの安定が図られるように働きかけることが重要 と える. また, 共働き夫婦の協働により, 妊娠期から育 児期を見据えて, 子どもを持つことで増大する家事・育 児の負担を想定しながら夫婦で話し合いと準備を行うこ とにより夫婦の相互理解が得られ, これから共働き夫婦 として育児期においても仕事と家事・育児を担うことが できるという意識の共有化が図られることから, 夫婦の 親となる意識に働きかけることが重要であることが示唆 された. 結 論 本研究では, 共働き夫婦が認識する妻が満足と感じる 夫の関わりについて,【妊娠の知らせに対する喜び】【仕 事の継続への理解と話し合い】【仕事や妊娠・出産に伴う 心身の気づかい】【家事の 担】【親になるための準備】

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の 5カテゴリーが抽出された. 共働き夫婦は, 夫が妻の 就労に対し評価する気持ち, あるいは夫婦が共働きして いることを評価する気持ちがあり, 妊娠前から妻の就労 や共働きに対する夫婦の話し合いにより夫婦の相互理解 が得られていると えられた. また, 妻が仕事を継続し ながら妊娠・出産,および育児を担うことにより,女性と してのアイデンティティ形成に大きな影響を及ぼすと えられた. 共働き夫婦が認識する妻が満足と感じる夫の関わりに おける夫婦の認識の共通性としては, 妻の妊娠の知らせ に対する喜び, 妻の仕事の継続への理解と話し合い, 妊 娠前からの家事 担, 胎児への関心といった夫の関わり における夫婦の認識が明らかとなった. 共働き夫婦の認 識の共通性からは, 妊娠前から妻の仕事や共働きに対す る夫の肯定的な評価が妻への共感的なコミュニケーショ ン態度に繫がり, 夫婦の間で気持ちの共有を図ることが 重要であると示唆された. 共働き夫婦が認識する妻が満 足と感じる夫の関わりにおける夫婦の認識の差異として は,仕事や妊娠・出産に伴う心身への気づかい,妊娠中の 身体を気づかった家事労働, 子どもの 生に向けた準備 や話し合いといった夫の関わりにおける夫婦の認識が明 らかとなった. 共働き夫婦の認識の差異からは, 仕事と 家 生活の多忙な夫婦生活を送る中でも, 夫婦の協働的 な作業や夫婦の良好なコミュニケーションを図ることが 重要であると示唆された. 共働き夫婦の認識する妻が満 足と感じる夫の関わりを高める看護援助として, 夫婦の 間で気持ちの共有と夫婦の協働的な作業や夫婦の良好な コミュニケーションが強化されるよう夫婦に働きかける ことが重要であることが示唆された. 本研究のデータは, Berelsonの内容 析法を参 に夫 婦の語りによって言語的に記述されたものを 析の対象 としている. よって, 共働き夫婦の認識とは夫婦の語り に基づく言語的に記述された内容を 析の対象としてお り, 夫婦から語られなかった内容については 析の対象 とはしていない. したがって, 実際には妻あるいは夫が 認識しているが面接において語られなかった可能性もあ ると えられる. 今後, 妻が満足と感じる夫の関わりを 高める看護援助として介入研究を行う際には, 本研究の 研究方法による限界を 慮し, 夫婦の語りにおいてどち らか一方の認識としてとらえる際には, 実際に夫婦の認 識の差異であるのか否かを確認しデータ内容の妥当性を 検証することが望ましいと える. 本研究の対象夫婦は, 1県内 1施設の 3組 (6名) の夫 婦を対象としているため, 一般化には限界がある. また, 今回は妻が常勤という共働き夫婦の認識に焦点を当てた が, 妻の就労状況の違いが妻への夫の関わりにおける夫 婦の認識にどのような影響を及ぼすのかについては検討 していない. 今後は共働き夫婦のサンプル数を増やすと ともに, 妻の就労状況も視野に入れた調査を進めていき たい. 謝 辞 本研究にご協力いただいた産科施設のスタッフの皆 様, 調査に快く参加いただいた対象夫婦の皆様に心より 感謝いたします. 本研究は, 第 57回北関東医学会にて発 表した. 参 文 献 1. 厚生労働省. 平成 21年版働く女性の実情 2010: 1-4. 2. 新道幸恵, 和田サヨ子 : 母性の心理社会的側面と看護ケ ア. 東京 : 医学書院 1990: 2-128. 3. 田茂樹 : 共働きが変える夫婦関係.永井暁子, 田茂樹 (編): 対等な夫婦は幸せか. 東京 : 勁草書房 2007: 1-11. 4. 山口一男 : 少子化の決定要因と対策について−夫の役 割,職場の役割,政府の役割,社会の役割. RIETI Discus-sion Paper Series 2004-J-045: 1-33.

5. Scanzoni LD, Scanzoni JA : Sociology of Marriage and Family. Men, Women, and Change. New York : Mc Gran Hill, 1988: 239-418.

6. Duvall E M. Marriage and Family Relationships, 5 Edition. Philadelphia: Lippincott. 1977.

7. 中島久美子, 常盤洋子 : 妊娠初期の妊婦が満足と感じた 夫の関わりにおける夫婦の認識.日本助産学会誌 2011; 25(11): 印刷中. 8. 大日向雅美 : 母性の研究. 東京 : 川島書店 1988: 71-105. 9. 中島久美子 : 妊婦が満足と感じた夫の言動や態度−妊娠 各期の特徴. 日本看護学会誌 2006; 6(1): 15-21. 10. Berelson B. (1952)/稲葉三千男訳 (1957). 内容 析. 東 京 : みすず書房. 11. 舟島なをみ : 質的研究への挑戦.東京 : 医学書院 1999 : 42-49.

12. Scott W A. Reliability of Content Analysis; The Case of Nominal Scale Coding, Public Opinion Quarterly 1995; 19 : 321-325. 13. 門野里栄子 : 夫婦間の話し合いと夫婦関係満足度. 家族 社会学研究 1995: 57-67. 14. 平山順子, 秋山泰子 : 夫婦の職業生活とコミュニケー ション. 日本家族心理学会 (編): 家族内コミュニケー ション. 東京 : 金子書房 2004: 53-66.

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北大路書房 1999 : 113-142. 18. 諸井克英 : 家 内労働の 担における平衡性の知覚. 家 族心理学研究 1996; 10(1): 15-30. 19 . 男 女 共 同 参 画 白 書 http://www.gender.go.jp/white-paper/h22/gaiyou/html/honpen/index.html[2011.01.11] 20. 川井 尚 : お産・育児をとりまく状況の変化−育児と 親の役割−. 周産期医学臨時増刊号 1990; 20: 538-541. 21. 中島久美子,荒井洋子,阪本 忍ら : 妊娠各期の妊婦が満 足と感じる夫の行為における夫婦の認識. 日本助産学会 誌 2009 ; 22(3): 347. 22. 牧野惠子 : 親の発達心理学. 東京 : 川島書店 1993: 29-60. 23. 佐々木くみ子 : 親となる意識の構造とその影響要因に関 する調査研究, 米子医学雑誌 2004; 55(2): 142-150. 24. ベネッセ教育研究所. 子育て生活基本調査 ベネッセ教 育 研 究 所 http://benesse.jp/berd/center/open/report/ kosodate/2008 youji/hon/index. html 2008. 25. 飯島美世子 : 働く女性の 康. 吉沢豊予子, 鈴木幸子 (編): 女性の看護学. 東京 : メヂカルフレンド社 2000: 212-219. 26. 平山順子 : 夫婦関係の研究が示す「新しい子育て」への 提言. 日本家族心理学会 (編): 子育て臨床の理論と実際. 東京 : 金子書房 2002: 63-76

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Analysis of Dual-Income Couple Awareness of Husbands

Support of Wife Satisfaction During a Pregnancy

Kumiko Nakajima,

Reiko Ito,

Kyoko Kunikiyo

Hiroko Arai,

Shinobu Sakamoto,

Hiromitu Shinozaki

and Yoko Tokiwa

1 School of Nursing, Faculty of Health Science, Gunma Paz College, 1-7-1 Tonya-machi, Takasaki, Gunma 370-0006, Japan

2 Inagi City General Hospital, 1171 Ohmaru, Inagi, Tokyo 206-0801, Japan

3 Department of Nursing, Gunma University Graduate School of Health Sciences, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8514, Japan

4 Nishi-Agatsuma Welfare Hospital, 746-4 Otsu, Naganohara-machi, Agatsuma, Gunma 377-1308, Japan

Purpose: We clarified a dual-income couple awareness of husband s support of wife satisfaction during a pregnancy. We discuss nursing activities enhancing such support. M ethods: Semi structured inter-views with three couples during a pregnancy were transcribed and qualitatively and inductively analyzed using Berelson s method. Results: We identified five categories of support showing (1)pleasure in the pregnancy; (2) understanding and discussing continuation of wifes work ; (3) empathizing with wifes feelings and health in work, pregnancy, and birth ; (4) sharing housework ; and (5) preparing for parenthood. Similarities and differences in awareness were clarified. Conclusions: Five categories were identified based on similarities and differences in awareness. A discussion of these similarities and differences indicated that nursing activities should focus on communication between spouses,cooperating

in housework, and having couples share their thoughts.(Kitakanto Med J 2011;61:327∼340)

Key words: dual-income couple, wife satisfaction, husband support, couple awareness, pregnancy.

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