「ハムレット」 : その論理的矛盾その他について
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(2) 2. 『ハムレット」一その論理的矛盾その他 について一. (1)一 幕 一場 ,ホ. レ ィ シ ョウは 「 われ われの故王 」 (`our last King'980). 柄 に見 えるマ ーセ ラ ス とバ ー ナ ー ドー に,物 情騒 然 た るデ ンマ ー クの 国状 を 説 明す る。 ハ ム レ ッ ト王 もよ く知 って お り,ノ ー ル ウェー王 と勝 負 を した と き王 が身 に着 けて いた 甲 冑 まで記憶 して い る。四幕 五場 ,ハ ム レ ッ トが英国 へ 向 かって 出帆 した後 ,彼 は宮廷 にあって王 妃 に仕 えて い る。同六場 ,海 賊 た ちの 手紙 を国王 に取 り次 ぐよ う計 ら う。最終 の場 ,主 人公 の 死後 ,フ ォー テ ィ ンブ ラ ス とその場 に居合 わせ る宮廷 人 た ちに 自分 の 話 に傾聴 す るよ う求 め る こ とがで きる。 しか るに,一 幕 工 場 と四場 では ,ホ レ ィシ ョウはデ ンマ ー ク生 まれで は な く,王 の 葬儀 に参列 す るため ウイ ッテ ンベ ル グか らや つて きたば か りの ,ハ ム レ ッ トの 学友 で あ る。(葬 儀 に参 列 した に も かか わ らず ,二 人 がニ カ 月間 一 度 も会 わなかった こ と に して,作 者 は思 いがけぬ 再会 の場 を出現 させ ,観 客 の注 意 を引 き付 け る。)ハ ム レッ トは彼 が国 を去 る前 に,大 酒 を飲 む こ とを教 えてや る とい う。 さ らに,彼 の知 らな い デ ンマ ー クの深 酒 の 悪 習 につ いて説 明す る。五幕 では道化 ヨー リッ ク,オ ズ リックは も ちろん, レアーテ ィーズ につ いて さえf可 も矢口らな い。 この 不 一 致 ,つ ま リホ レ ィシ ョウの二 重 人格 は ,『 ハ ム レ ッ ト』が改作 を重 ね た作 品 で あ り,そ の ため一貫性 が保 たれ えなか つたので あろ うとか, シェ イ クス ピアの 不注 意 さの ためで あろ うとか,従 来批 評 されて きた。 と こ ろが そ うで は な く, シェイ クス ピアは 万事承知 の 上 で矛盾 を犯 して い ると考 え ら れねば な らな い。物 語 や小 説 と違 って,劇 においてはす べ ての 事 実 はキ ャ ラ. クターの口 を通 して伝 えられねばならない。 そ こに (劇 的経済〉(`dramatic. economy')な るものが必要 となる。つ まり, シェイクスピアは前者 のホ レ ィ シ ョウにデ ンマー クの事情 に通 じさせ ることによって,観 客 に必要 な知識 を 提供す る作者 の代弁者 の役 目を果 た させ,ま たそ うす ることによって,彼 を その場 の他 のキ ャラクター よ り重要 な人物 に仕立 て上 げて いる。後者 のホ レ ィシ ョウには,同 様 に観客 に必要 な知識 の,今 度 は聞 き手 にさせ,受 け身 の. lJ ﹁ ︱ l l l l l■ ■ ■ ■ ■ ■ ヨ ■■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■■ ■ ︱ ︱ ﹁ ゴ ﹁. とか「 われ われ の 国」 (`our state',69)と い う表現 を用 い,旧 友 の よ うな間.
(3) 武. 並. 義. 和. 立場 に立 たせ て,主 人 公 を引 き立 て てい る (以 上 に述 べ た と こ ろは , Tん θ Pγ οbJθ πs. ο ノ 〃απJctの 中 で ブ ラ ッ ドビ ィ (GoF.Bradby)が 展 開 して い る. 説 と,そ れ に賛 同 して い るウ ィル ソ ンに負 うと こ ろが多 い。)3). (2)観 客 に必要 な知識 の提供 者 , 役割 と類似 す るが,作 者 は また,ホ. も しくは受 領 者 と してのホ レ ィ シ ョウの レ ィ シ ョウ に沈黙 を守 らせ るこ とによっ. て あ る種 の劇 的効 果 をあげて い る。 これは ,主 人 公 と彼 が三 カ 月間会 わなか った こ とに して再会 を印象的 な もの に した工 夫 と似 て い る。発狂 した オフ ィ ー リアが王 妃 に面会 す る場 面 (Ⅳ .v.)に. ,ホ レ ィシ ョウは同席 し,助 言 まで. して い る。 また,王 か らも彼 女 の 面倒 を見 るよ うに依頼 されて い る。 ところ. が,五 幕一場 ,(墓 掘 りの場 〉で,ハ ム レッ トは墓掘 り人 に「 その墓穴 は誰 の ものか」 と尋ね る。 ホ レィショウは沈黙 したままである。 さらにしば らくし て,王 と王妃た ちの埋葬 の行列 が進 んで きた とき,ハ ム レッ トはあの よ うな 整 わない儀式 か ら見 ると,故 人は自ら生命 を絶 ったに違 い ない,誰 だろ うと つぶや いている。 そばにい るホ レ ィシ ョウは黙 して語 らない。 ここで も作者 は,故 人 が誰 であるか を発見す るハ ム レ ッ トの驚 きを劇的 にす るために,百 も承知 のはず のホ レ ィシ ョウに しゃべ らせ ないの である。. (3)(劇 中劇 〉の あと,王 は英国王 にハ ム レッ トを処刑 させ ることを決意 し ギ ルデ ンス ター ンとローゼ ンクランツに英国行 きの同行 を命 じてい る。 それ か ら (祈 りの場 〉,ハ ム レッ トの独 自,(寝 室 の場 〉と途切 れずに続 く。そ して 母 と分 かれ際 に,ハ ム レッ トは突然英国行 きの こ とをご存 じかと聞 くQ王 妃 も忘 れていたが,そ う決定 したのだ と答 えている。両人 とも, とくにハ ム レ ッ トは知 っているはずはないのだが,作 者 はそん な こ とにおかまい な く筋 を 進展 させている。 この点 についてブラ ッ ドレーは,ハ ム レッ トは「何 かの こ 4). とで承 知 した ら しく見 える」 と述 べ るに とどまって い る。. (4)王 妃 によ るオ フ ィー リア溺死 の模様 の描写 は,ペ イ ソス をね らった詩 3)cfo Wilson,pp。 232∼ 35.. 4)Ae C.Bradley,Sん αんcspcα γθαηTγ αgθ dg,2d ed.(1905;rpt.LondOn: Macmillan,1952),p.140。.
(4) 4. 『ハムレット』一その論理的矛盾 その他 について一. 的表現 で あ る。 それほ どまで の描 写 がで きるの な ら,な ぜ 誰 かが救助 しなか った の か と問 う人 は あ るま い。作 者 の 筆運 び の おかげで ,主 人 公 の苦悩 を目 撃 して きた観客 は,そ れ以上 オフ ィー リアの死 に苦痛 や恐怖 の 感情 を抱 かず にす む の で あ る。. (5)二 幕 一場 ,オ. フ イー リアの 知 らせ で ,ポ ロー ニ ア ス はハ ム レ ッ トが発. 狂 した こ と を初 めて知 り,驚 く。 しか るに,次 の二 場 で ハ ム レ ッ トの 最近 の 奇行 につ いて話 して い る王 ,王 妃 ,ギ ル デ ンス ター ン らの 前 に出 ると,彼 は 発狂 の 知 らせ では な くて,狂 気 の 因 を探 り当 てた と言 う。作 者 の ね らいは こ うで あ る。 ハ ム レ ッ トの発狂 を初 め て知 った オ フ イー リア とポ ロー ニ ア スの 受 け る衝 撃 をまず印象的 な もの にす る。 そ して,そ の こ とによ リハ ム レ ッ ト の狂 気 の 装 いの (宣 言 )か ら,相 当 の 日数 が経過 して い るに も かかわ らず. ,. せ いぜ い数 日後 に彼 は宣 言通 りの 行動 に出 た と観客 に感 じさせ ,(宣 言 )後 の 短 い時 間 〉 で は プ ロ ツ トが進 時 間 の 中断 を感 じさせ な い。 けれ ども,こ の 〈 展 しな い (つ ま り,王 た ちが発狂 の 事 実 を知 って同 じよ うに驚 く場 面 が必要 とな る)し. ,だ か らとい つて,工 場 の 前 に数週 間 の 時 間 の経 過 を設 ければ. ,. 時 の 不連 続 ,間 延 びが生 じる。作 者 は プロ ッ トの渋 滞 と時 の 不連 続 の 両方 を 避 け るため に,ポ ロー ニ ア ス に矛盾 した こ と を言 わせ ,(長 い時 間 )の 中 に私 た ちを引 き入 れ るの で あ る。 観客 が気付 か な い こ と を承 知 の上 で ,シ ェイ クス ピアは意 図的 に論理 的 矛 盾 を犯 して, さま ざまな効 果 を あげて い る。 デ ンマ ー ク生 まれで な いホ レ ィ シ ョウは,知 らな いは ず なの に国状 その他 につ いて説 明 し,観 客 に必 要 な知 識 を提 供 す る。 また ,デ ンマ ー ク生 まれで も,高 位 の 人物 で もな い に も かか わ らず ,宮 廷 に 自由 に出 入 りし, と くに主 人公 の 死後 ,重 要 な役割 を演 じる こ とによ って観客 の ハ ム レ ッ トヘ の 共 感 とい う劇 的効 果 を,彼 の 親 友 と して 盛 り上 げ る。逆 に,デ ンマ ー ク生 まれで事情 に精 通 して い るホ レ ィシ ョウは 知 って い るはず なの に沈黙 す る こ とによって,観 客 に必要 な知識 の 受領 者 と な り,同 時 に主人 公 を引 き立 て る。 あ るい は,オ フ イー リア の 死 の場 合 の よ うにハ ム レ ッ トの驚 きを強烈 な もの にす る。.
(5) 武. 並. 義. 和. ハ ム レ ッ トは英 国行 きの こ とを知 って い る。作 者 は,彼 にその こ とを知 ら せ る場 面 と時 間 を節約 してプ ロ ッ トを進展 させ て い るの で あ る。観 客 が承 知 して い るこ とは,ハ ム レ ッ トも知 って いて おか しくは な い と言 わんば か りで あ る。確 か に,こ うい った心理 は観 客 に働 くもの で あろ う。 要 す るに, シェイ ク ス ピア劇 に見 られ る,観 客 の 気付 か な い矛盾 点 は,必 5). 要 な知識 の提供 ,特 定 の劇 的効 果 の獲 得 ,場 面 と時 間 の節約 によ るプ ロ ッ ト の進展 の ため とい えよ う。 Ⅱ .第 二 ,第 四 独 自 の 矛 盾 に つ い て. (1)第 二 独 自 (`0,what a rOgue and peasant slave am I.。. .')に おい. て,ハ ム レ ッ トは最初 数十行 に及 んで復 讐 に立 ち上 が らな い 自己 を,無 条件 に徹底 的 に非難 して い る。 と こ ろが,そ の あ と亡霊 の正体 を疑 い,「 ゴ ンザ ー ゴ ー殺 し」 を上演 させ て,よ り確 か な証拠 を求 め ると言 う。 自己叱責 は亡霊 とその 言葉 を信 じた れば こ そで あろ う。 とす れば ,自 己叱責 と亡霊 の正体 に 対 す る疑 惑 とは矛盾 す るこ とにな る。 これ をハ ム レ ッ トの 自己欺騎 ,遷 延 の 無 意識的 な 口 実 とす る見 方 は,ブ ラ ッ ドレー を初 め と して少 な くな い。 はた して そ う見 るべ きで あろ うか。 役者 の演 技 を見 て,感 情 を極 度 に高 ぶ らせ たハ ム レ ッ トは,彼 の 魂 の信 ず る と こ ろで は (`0,my prophetic sou1/'「 おお,予 感 に狂 いの な い わが魂 /」 )ほ ぼ 間違 い なくお こ なわれた父王 の殺 害 に対. して ,い まだ に復 讐 しな い. 5)『 オセ ロ ウ』 に も特定 の劇的効 果 をあげ るための工夫 がこ らされて い る。 一 幕 工 場 において,オ セ ロ ウの結婚 の こ とを全 く知 らな い キ ャ シオウは,イ アーゴ ウに将軍 は誰 と結婚 されたの か と驚 いて聞 いてい る (49-52)。 とこ ろが,三 幕 三場 ではデ ス デモ ウナ とオセ ロ ウの 言葉 か ら,キ ャ シオウはオセ ロウの彼女 に 対す る求婚 の事情 を初 めか ら終 りまで知 っていた ことに なる (70-101)。 一 幕 では副 官 キ ャ シオウが知 らな い ことによって,オ セ ロ ウの結婚 の意外 さが強調 され る。三幕 ではすで に求婚 の時 か らキ ャ シオウとデズデモ ウナが親 しい問柄 で あった こ とによ り,オ セ ロ ウの 心 に疑 念 が生 じやす くなる。 (有 名 な 「 二 重時 間」の構 造 につ いては割愛す る。).
(6) 『ハ ム レ ッ ト』一 その論理的矛盾 その他 について一. で い る自分 を激 しく責 め立 て る。 しか し,激 情 が静 ま り,冷 静 さを取 り戻 し た と き,当 然 の こ とと して,亡 霊 の 言葉 だ けでは不十分 で あ るこ と,よ り確 か な証拠 が必要 で あ るこ とを思 い 出す。 とい うの は,直 感的 にいか に亡 霊 を 信 じよ うとも,そ れ が実際 自分 を陥 れ よ うとす る悪魔 で あ るとい う可能性 を 否定 す る こ とはで きな いか らで あ る。 これは もっともな疑 念 で あ る。 しか し ,. ハ ム レ ッ トの卒 直 な気持 か らす れば ,亡 霊 に対 す る疑 念 か らとい うよ りは. ,. 言 いか えれば亡霊 を信 じた くな い か らとい うよ りは ,信 じた いか ら こ そ証拠 が必要 で あ ると言 うべ きで あろ う。 ハ ム レ ッ トは復 讐 に立 ち上 が らな い 自己 を非難 す るこ とに急 で ,必 要条件 ともい うべ き証拠 入 手 の こと を後 回 しに して い る。 これは激情 の発作 の 中 に あ るか らで あ る。 けれ ども,冷 静 に,論 理 的 に,彼 が 自己非難 を展 開す ると す れば ,何 一 つ しか るべ き手 を打 たず に,た とえば証拠 を担 も うともせ ず に 「夢 心地 の夢太郎 の よ うに」(`Like John―. a―. dreams')い たず らに 日を過 し. ,. 復 讐 を遅 らせ て い るとは,自 分 は何 とい うろ くで な しだ, とい うふ うになろ う。. (2)How all∝ casions. do inform against me,. And spur my dull revenge!. What is a man,. If his chief good and market of his tirne. Be but to sleep and feed? a beast, no more: Sure he that made us with such large discourse, Looking before and after, gave us not That capability and god‐ like reason. To fust in lls unusedo Now,whether it be Bestial oblivion, or some craven scruple C)f thinking too precisely on th'event― A thought which quartered hath but one part wisdonl, And ever three parts coward一 一一一I dO not know Why yet l live to say`This thing's to dol. `. Sith l have cause,and will,and strength,and means,.
(7) 武 並 義 和 To do't.。. .. ...How stand l then, That have a father killed,a mOther stained,. Excitements of my reason and my blood, And let all sleep?. . .. 。。.0,frOm this time forth, 市。32-66) 。. My thOught be bloody,or be nothing worth!(Ⅳ. 何 とい うこ とか,何 もか もす べ てがおれ を責 め立 て. ,. 鈍 った復讐心 を駆 り立 て るではないか /人 間 とは何 だ ? も しも,一 生 を費す主 た る利益 と仕事 が,た だ寝 て,食 う だけの こ とだ と した ら。畜生 だ,そ れ以上 の ものでは な い。 そ うだ,前 後 に 目を配 って物 を考 える大 きな力 を. ,. われわれ に授 けた も うた神 は,そ の能 力 を. ,. 神 に も似 た理 性 を,わ れ われが使 わない まま. ,. カ ビ させ るため に与 えられたのでは な い。 と ころが. ,. この おれは ど うか,畜 生 の物忘 れか,そ れ とも. ,. 事 の成行 きを細心 に考 えす ぎる臆病 なため らいか一― 考 えな どは四 つ に分 ければ,知 恵 は四分 の一 だけ. ,. 残 る三 は常 に臆病 とい うこ とか―― おれ にはわか らない. ,. 「 これだけは や らねば」と言 いつつ ,な ぜ生 きなが らえて い るの か. ,. それ をお こ な うべ き理 由 も,意 志 も,力 も,手 段 も そろって い るの に。 …… .…. …それではおれは ど うだ ?. 父上 を殺害 され,母 上 を汚 され なが ら. ,. 理性 も血 も煮 え くりか えらせ る理 由 があ りなが ら. ,. すべ て を眠 らせ てい るとは .… … …… おお,こ れか らさきは わが思 い を血 に染 め るのだ,で なければ三文 の値打 もな くなれ. .′. 内大 臣 ポ ローニ ア ス を殺 害 した ハ ム レ ッ トは,「 責 任 は 十 分 に 負 うつ も り です」 と王 妃 に言 った。 その 言葉 通 り,彼 はギ ル デ ンス ター ン と ローゼ ンク ラ ンツ に伴 われて港 に向 か う。 その途 中 ,フ ォー テ ィ ンブ ラスの率 い る軍勢.
(8) θ. 『ハムレット』一その論理的矛盾その他 について一. に出会 い,そ れ に刺 激 されて口 にす るの が,上 の 独 自で あ る。 第 二 独 自 と同 様 ,相 も変 わ らず復 讐 をな しとげ な い 自己 を,ハ ム レ ッ トは激 しく責 め立 て る。 そ して最後 には ,「 おお,こ れ か らさきは /わ が思 い を血 に染 め るの だ. ,. で な ければ三 文 の値 打 もな くなれ」 と叫 ぶ 。. これは ど うい うこ とであろ うか。〈 劇 中劇 〉の後 ,「 生 き血 で もすするこ とが で きる」 ほ どの殺意 にひた り,長 い不活動 か ら抜 け出 し,王 と間違 ってポロ ーニ アス を殺 してか ら半 日も経過 して いないはずである。 まるで恐 ろ しい殺 意 を覚 えたことも,人 をあやめた こともなかったかのよ うに,言 いか えれば 何 一つ しなかった全 くの不活動 の中 に埋没 して いたかのよ うに,「 おれにはわ か らない,/(こ れだけはや らねば〉 と言 いつつ, なぜ生 きなが らえて い るの か,/そ れ をおこな うべ き理由 も,意 志 も,力 も,手 段 も/そ ろってい るのに」 「畜生 の物忘 れか,そ れ とも,/事 の成行 きを細心 に考 えす ぎる臆病 なためらい か」 とつぶやいている。 これはは なは だ しい矛盾 とい うよ りほかはないであ ろ う。 1623年 の (第 一 フ ォリオー版)か らこの独自が肖J除 されたのは, この よ うに感 じられる矛盾 のためであるか どうかはわからないが,三 幕四場 〈 寝 室 の場 〉 のハ ムレ ッ トと四幕四場 の叱責 を繰 り返 すハ ム レ ッ トは どう考 えれ ばつ ながるのであろ うか。 また,こ れから乗船 してデ ンマー クを去 ろ うとい うのに, これか らは残忍 な思 いで心 を充 たすのだ, と言 いつつ国外 に去 って ぃ くハ ムレ ッ トに共感 を覚 えることは容易ではない。 なぜハ ムレッ トは,手 痛 い失敗 によって国外退去 をやむな くさせ られた不 運 を歎 かないのか。狂気 の あまり内大臣 を殺害 した とい う不利 な風評 を前 に して,彼 の頭 を占め るのは, さらに殺害 を重ね ることではな く,い かに責任 を取 るかの問題 であろ う。 とすれば,こ の よ うな立場 に追 い込 んだ運命の女 神 を呪 っても,自 分 を激 しく,第 二独 自 においてのよ うに責 め るのは理 に合 わないであろ う。 このよ うに考 えると,こ の独自の,あ るいは四幕四場 全体 の現在 の位置 を疑 いた くなる。〈 港 へ行 く途上)云 々の 卜書 を別 とすれば,こ の場 の本文中 に英国行 きの途上であるこ とを示す ものは何 一つ ない。 あるい はこの場 面 は,第 二独 自との重複 が大 きな問題 となるけれ ども,(劇 中劇 〉よ.
(9) 武. 並. 義. 和. り前 の どこか に位 置 していたの か も しれ な い。 あ るい は,最 終 的 な改作 がお こ なわれ る前 のハ ム レ ッ ト劇 の 中 で , しか るべ き位 置 を占めて いた もの か も しれ な い。 この よ うな不必要 か も しれ な い憶測 とは別 に, シェイ クス ピアの 意 図 が. ,. 問題 の 独 自 をあ くまで現 在 の位 置 にあ ら しめた と考 えよ う。 その場 合 には次 の よ うに考 えるべ きで あろ うか。 ハ ム レ ッ トに とっては何 時 間 か前 の殺 意 の 経験 も,殺 害 行為 も,復 讐 の 成就 とい う目的 か ら見 れば ,全 く無 に帰 した わ けで あ る。 いぜ ん と して未 達 成 の 結 果 だ け を念頭 に置 いた `should'に 憑 か れた男 ,「 わが思 い を血 に染 め るの だ」と無 意味 な こ とを国 にす る病 的 な人間 を,私 た ちは そ こに見 て い るの だ と考 えるべ きか。 この 独 自 には,ほ か に もあ い ま い な点 が あ る。一 体 ハ ム レ ッ トは,フ ォー テ ィ ンブ ラスの 行動 を真 実立派 な,な す べ き価 値 の あ ることと見 て い るの で あろ うか。. Two thOusand souls and twenty thousand ducats Will nOt debate the question of this straw ! This is th'imposthume of much wealth and peace, That inward breaks, and shows nO cause without. Why the man dies.… 。. (Ⅳ. 。市.25-29). 二 千 人 の 生 命 と二 万 ダ カ ッ トの金 を犠 牲 に して も こん な わ ら屑 の よ うな問題 を解 決 で きな い だ ろ う。 これ こ そ富 と平 和 の あ ま り生 じた吹 出物. ,. ど う して人 が死 ぬ の か,外 目 には わ か らな い が. ,. 内部 を腐 ら して い くや つ 。 ……. ここに見 られ る「 わ ら屑 の よ うな問題」,「 富 と平和 の あ ま り生 じた吹 出物」 と い う見方 は,そ の あ との独 自 の 中 で述 べ られて い る,次 の 内容 とどの よ う に関連 す るの か。.
(10) Iθ. 『ハ ム レ ッ ト」一その論理的矛盾 その他 につ いて一 . . .Rightly to be great. ls not to stir withOut great argument, But greatly to find quarrel in a straw. When honour's at the stake.(53-56) … … 真 に偉 大 で あ るの は 重 大 な事 由 もな く して立 ち騒 ぐ こ とで は な く. ,. 名 誉 が か か わ る と きには ,一 本 の わ ら に も争 いの 理 を 大 い に見 出 す こ とで あ る。. フ ォー テ ィ ンブ ラスの遠征 を,一 方 で は「 わ ら屑 の よ うな問題 」 に生 命 と費 用 をかけ る,い わば致命的 な「吹 出物」 と見 ,他 方 ,名 誉 がかかって い るの で「真 に偉 大 で あ る」 と見 て い る。 フ ォー テ ィ ンブ ラ ス には どの よ うな名誉 が かかって い るの か。戦 い に勝 った と こ ろで ,隊 長 の 言 うよ うに何 の価値 も な い土地 を得 るだ けで あ る。負 ければ ,莫 大 な人命 と出 費 を無駄 に した無 謀 な企 て と非難 され る。 それは浅 薄 な功名心 の 企 てで あ り,真 の 意味 での 名誉 がかかって い るわけで は な い。 ハ ム レ ッ ト自身 ,数 行 あ とで「幻 の よ うな. ,. つ ま らぬ名 声 の ため に」 (`for a fantasy and trick of fame')と. 言 ってい. る。 なぜ 彼 は,こ の よ うな矛盾 した ,あ い ま い な こ とを言 うの か。彼 の 考 え は, 自己叱責 の と きと同様 ,論 理性 を欠 いて い る。 それは, どん な こ とで も. 自分の不活動よりはましとする,彼 の思いつめた気持が,無 謀な企てをも美 化 させ るの で あろ うか。 (「 吹 出物 」云 々の 五行 を,ハ ム レ ッ トで は な く,隊 6). 長 のせ りふ と解釈 して,矛 盾 を取 り除 こ うとす る小 数意見 が あ るが,今 まで の 考察 によれば ,や は リハ ム レ ッ トのせ りふ と考 えるべ きで あろ う。). Ⅲ.ホ レ ィ シ ョウヘ の 賛辞 につ い て ハ ムレットはホ レィショウを次 の ように賞賛 している一―. 6)わ が国 では大山氏 が この説 に従 って い る。大山俊一訳 『ハ ム レ ッ ト』 文庫 ,1966)181頁 参照。. (旺 文社.
(11) 武. 並. 義. ff. 和. HoratiO,thOu art e'en as iust a man As e'er my conversation coped withal. . .. 。。. 。.thOu hast been. As One in suff'ring all that suffers nOthing,. A Inan that FOrtune's buffets and rewards Hast ta'en with equal thanks;and blest are those WhOse b100d and iudgement are so well co‐ meddled, That they are nOt a pipe fOr FOrtune's finger. To sOund what stop she please:give me that man That is not passion's slave,and l will wear hiln ln my heart's core,ay in my heart of heart, As l dO thee。. (Ⅲ. .H.52-72). ホ レ ィ シ ョウ,君 こ そぼ くが今 まで に 付 き合 った 中 で ,一 番 正 しい人 物 だ 。 …… ………あ らゆ る苦 難 に 会 い な が ら,何 一 つ 苦 に しな い人 の よ うに. ,. 運 命 の 翻 弄 も恵 み も,等 し く感 謝 の 念 を もっ て 受 け入 れ る男 だ 。 仕 合 せ な人 と い うの は. ,. 感 情 と理 性 が ほ どよ く調 和 して い て 運 命 の 女神 の 指 先 に操 られ て ,好 み の 音 色 を 出 す笛 に な らな い人 た ちだ。 ぼ くに とって 望 ま しいの は ,感 情 の 奴 隷 とな らな い男 だ 。 そ うい う人 を ぼ くは この 胸 の 中 に,そ うだ ,胸 の 奥 底 に しまっ て お くの だ. ,. 現 に君 をそ う して い る よ うに。. ここで二 つ の事柄 に注 意 しなければ な らな い。第 一 に,ホ レ ィ シ ョウは この よ うな賞賛 に値 す る人 格 で あ るこ とを裏付 け る行 動 を,劇 内 において何 一 つ お こ なって い な い。 な るほ ど,第 一 幕 と第五幕 において,彼 は プ ロ ッ トを進 展 させ る上 で か な り重 要 な役割 を演 じて い る。 しか し,ハ ム レ ッ トの苦境 に 対 して,危 機 に対 して協 力 を申 し出 る どころか,何 ら積極 的 な助 言 や忠 告 は お こ な って い な い。 ハ ム レ ッ トの 賛辞 と比較 す ると き,こ の事 実 は奇異 な感 じを与 える。 シェ イ クス ピア は,主 人 公 に賛辞 を言 わせ な が らもホ レイ シ ョ.
(12) 12. 『ハムレット』一その論理的矛盾その他 について一. ウの役割 を注 意深 く制 限 した と考 え られ る。 シ リル・ ターナ ー作 『復 讐者 の悲劇』 で は,復 讐者 ヴ ェ ンデ ィス (Vendice) 0キ は復 讐 の ため に弟 ヒポ リ ト(Hippolito)と 相 談 し,助 力 を得 る。 トーマ ス ッ ド作 『ス ペ イ ン悲劇』 では,息 子 ホ レ ィシ ョウ (Horatio)の 仇 を討 と うと す る主人 公 ヒエ ロニモ (Hieronim。 )は ,仇 敵 の ひ と りを自 らの 手 で殺害 す る が,今 ひ と りの仇 敵 はホ レ ィ シ ョウの 恋 人 ベ ル ーイ ンペ リア (Bel― imperia) が殺害 す る。 ジョン・マース トン作 『 ア ン トニ オ ーの 復 讐 』 で は,主 人公 の 復 讐 は数名 の協 力者 ととも に達 成 され る。 ボ ーモ ン トとフ レ ッチ ャーの共作 『乙女 の悲劇』では,主 人 公 メ ラ ンシアス (Melantius)は. ,. ,. 弟 デ イフ イラス. (Diphilus)の 助 力 を得 て復 讐す る。 ジ ョー ジ・チ ャ ップマ ン作 『 ビュ シ・ ダ ンボ アの 復 讐』 で は,殺 された ビュ シ・ ダ ンボ ア (Bussy d'Ambois)の 仇 を 討 と うとす る弟 の ク レルモ ン(Clermont)に は, 優 柔 不断 の彼 に代 わって復 讐 しょ うとす る勇 ま しい妹tシ ャー ロ ッ ト(Charlotte)が い る。 ハ ム レ ッ トは,こ れ らの復 讐者 とは類 を異 にす る特異 な存 在 で あ る。彼 は 第 一 に孤 独 で あ る。復 讐 とい う問題 をひ と りで かか えこみ ,考 え,行 動 す る。 何 人 とも相 談 せず ,協 力 も求 め な い。親友 ホ レ ィ シ ョウに父王 の 死 の 秘密 を 打 明 け るが, それは劇外 の こ とで しか な い。 それ に,ハ ム レ ッ トが その こ と か ら何 らかの助 言 を得 た とい うふ しは全 く見 られ な い。ベルフォレ(Belleforest). や. (第 一クオー ト版〉 に見られる,悔 悟 した王妃の協力の申し出も姿を消 し 7). て い る。 ヴ ェ ル ダー も言 って い るよ うに,作 者 はハ ム レ ッ トか らあ らゆ る助 力,あ らゆ る慰安 を取 り去 るこ と によって,彼 の 苦悩 を この上 な く強調 して い る。 この 点 に注 目せず に,ハ ム レ ッ トがホ レ ィシ ョウ とオ フ ィー リアの援 助 を求 め な かった こ とに,あ る いは,ホ レ ィ シ ョウは ともか く,オ フ イー リ 8). ア に協 力 を求 め な か った こ とに,悲 劇 の 因 を見 よ うとす る人 た ち がいるが θι's Mysι θγy,trans. cfo Karl Werder,動 θ 〃eα γιo/″ απ′. Elizabeth Wilder(1907;rept.Norwood EditiOns,1977),p.181。 cf.G.R.EH iott:Scο πγgeス 配 MJπ Jstcγ (1951;rpto New York:AM S press, 1965),p。. 45. Roy Walker:Tん. θTJπ c Js Oπ ιo/Jο. jη. London:FOlcrOft Library Editions,1971),pp.43-54。. ι (1948;rpt..
(13) 武. 並. 義. f3. 和. お よそ的 はず れの見 方 で あろ う。 ハ ム レ ッ トが偉 大 な悲劇 的効 果 を持 つ ため には,オ フ ィー リアはハ ム レ ッ トか ら遠 ざけ られねば な らな い。 また,ホ レ ィシ ョウは尊 敬 す べ き親 友 で あって も,常 にハ ム レ ッ トとの 間 に一 定 の距離 を保 たねば な らな いの で あ る。 ホ レ ィ シ ョウに対 す る賛辞 につ いて注 意 す べ き今 一 つ の 点 は,そ こで ハ ム レ ッ トが述 べ て い る理 想的人 間像 につ いて で あ る。彼 は 自分 を理性 と感 情 の 釣 り合 いが取 れず ,「 感情 の奴隷 」となって運 命 に振 り回 され る人間 だ と見. ,. そ うで な いホ レ ィ シ ョウの よ うな人 間 を賞賛 して い る。 けれ ども,ハ ム レ ッ トが置 かれて い るよ うな逆境 の 中 にあって,鬱 積 す る感 情 に圧 倒 され るこ と もな く活路 を見出 せ る人 間 がい る と した ら,そ れは人 間 ら しくない人 間 ,お も しろ くな い人 間 で あろ う。劇 的 アイ ロニー とい うべ きか,ハ ム レ ッ トカふ 瞳 憬 の 眼 を向 け るホ レ ィシ ョウの よ うな人 間 で は な く,ハ ム レ ッ トが 自己批 判 を加 えるハ ム レ ッ トの よ うな人 間 が描 かれて い るか ら こ そ, この劇 は生 き続 け るの で あ る。 ハ ム レ ッ トの 言葉 に誘 われて,彼 に批 判的 な 目 を向 け るこ と はで きない。 どこまで も自己 を厳 しく見 つ め ,自 らを責 めず には おか な い謙 虚 なハ ム レ ッ トに,そ の 真 摯 さと高貴 さに,私 た ちは感動 を覚 えるの で あ る。 Ⅳ. .ハ. ム レ ッ トの 残 忍 性 に つ い て. ハ ム レ ッ ト王 の殺 害 は,ク ロー デ ィア ス ひ と りの手 に な るもの で あった。 ポ ローニ ア ス や ギ ル デ ンス ター ンや ローゼ ン クラ ンツ らは,ク ロー デ ィア ス 体 制 の協 力者 で あって も,そ の殺 害 には無 関係 で あった。 と こ ろが,ハ ム レ ッ トは 自己 の責任 において起 こった彼 らの 死 に対 して,一 見 ,冷 酷無情 で あ る。 ハ ム レ ッ トに対 す るこの よ うな非難 は決 して少 な くは な い。 ハ ム レ ッ ト は彼 らの 死 につ いて ,そ れ ぞれ次 の よ うに言 って い る一― Thou wretched,rash, intruding fool,farewell! I took thee for thy better,take thy fortune,. ThOu find'st to be t00 busy is some danger.(Ⅲ. .iv。. 31-33).
(14) f4. 『ハム レット』一その論理的矛盾その他 について一 この忌 わ しい,あ さはかな,出 しゃば りの 愚 か者 め, さらばだ / お前 の 目上 の 者 と間違 えたのだ,運 命 だ とあ きらめ よ. ,. お前 もわ かったはずだ,お せ っかい もす ぎれば危険 だ とい うことが。. Why,Inan,they did make love to this employment, They are not near my conscience,their defeat Does by their Own insinuation gro、 v. '′. ris dangerous when the baser nature comes. Between the pass and fell incens6d pOints Of mighty opposites。. (V.H.57-62). そ うとも,彼 らは 自 ら求 めて この仕事 を買 って出 たのだ. ,. 二人 の こ とでぼ くの 良心 が痛 む ことは な い,す すんで 手 を出. tノ. たば か りに招 いた破滅 だ。. 強物 同志 が怒 りたけって斬 り結 ぶ 中 に 下郎 めが飛 び込 んで くるのは,危 険 きわま りない ことだ。. 誤 つて殺害 したポ ローニ ア スの場 合 は ともか くと して,ギ ル デ ンス ター ン と ローゼ ンク ラ ンツの場 合 ,ハ ム レ ッ トは「 ざん げす る い とま も与 えず に. ,. 即 刻死刑 に処 す る」 よ う英国王 に要 求 して い る。 そ こ まで の処 置 を取 る必 要 が あった の だ ろ うか, と疑 わ しく思 われ る。 残 酷 なハ ム レ ッ トと い う印象 を 与 えるか も しれ な い こ とにつ いて,作 者 は ど う考 えて いた か。 ここで思 い 出 され るの は,ク ロー デ ィア ス王 と ローゼ ン クラ ンツが述 べ て い る事柄 で あ る。. The head is not more native to the heart, The hand more instrumental to the mOuth,.
(15) 武. 並. 義. f5. 和 9). Than is the thrOne Of Denmark to thy father.(I.H.47-49) 頭 と心臓 は切 って も切 れ な い 問柄. ,. 手 は 口 に とって欠 かせ ぬ 有 用 な もの ,だ が. ,. デ ンマ ー クの王座 に対 して お 前 の 父 は それ以 上 の 存 在 だ 。. The cess of malesty E)ies not alone;but like a gulf dOth draw. What's near it with it.0,'tis a massy wheel Fixed on the sunlmit of the highest mOunt, To whose huge spokes ten thousand lesser things. Are mOrtised and adiOined,Which when it faHs, Each small annexment,petty consequence, Attends the boist'rous ruin。. (Ⅲ. .Hi。. 15-22). 国 王 の ご逝 去 は そ の こ とだ けで はす ま な いの で す 。 渦 巻 きの よ うに あた りの もの す べ て を巻 き込 む の で す 。 それ は 高 山 の 頂 きにす え られ た 巨 大 な車 輪 で あ ります 。. 9)注 意 して見 ると,こ の行 の主語 0述 語関係 は妙 で ある。頭 と手 に対応 す るのは ポ ローニ ア スの はずで ある。 お も しろ い ことに Warburtonの 版 (1747年 )で は `Than tO the ThrOne Of Denmark is thy father'と なって い る。 47行 日の `head'は `blood'に 変 えられてい る。 Johnson版 (1765年 )は ,Warburtonの 修正 に従 ってい るが,`head'は その ままであ る。意味 は,お 前 の父 はデ ンマー クの王座 に対 して,頭 がノ い臓 (知 恵 の座 と考 えられた)に 対 して持 って い る以上 の密接 な関係 を持 ってい る し,手 が国のため に働 く以上 に,お 前 の父 は王座 の ため につ くして くれた, とい うことで ある。最近 の版 はす べ て,私 の見 る限 り `throne'を 主語 に してい るが,そ の場合 で も Wilsonや Kittredgeの 説明 に 見 られ るよ うに,意 味 に変 わ りは な いは ずで ある。 これ を Steevensの ように ヽ 「頭 が′ じ 臓 に役立 つ よ うに作 られて い る以上 に,ま た,手 が国のため に働 く以 上 に,わ しの権 力 はお前 の父 のため に働 くのだ。 つ ま り,ポ ローニ ア ス は わ し に至上命令 を下す ことがで きる。 わ しの王権 力 を思 うよ うに動 かす ことがで き る」 と解 す ることは無理 で あろ う。「何 で も言 い な さい。 お前 の父 は私 のため にこの上 な くつ くして くれた のだか ら」 と受 け取 るべ きで あろ う。 この行 に見 ご,'' られ る矛盾 は,`The courtier's,soldier's,scholar's,eye,ι οttaC,Sω ογ い の の の い か oi.154)に しれな 。 見 られ る語順 狂 と同系統 も も (Ⅲ.
(16) f6. 『ハムレット』一その論理的矛盾その他 について一 その大 きな輻 には何万 とい う小 さな付属物 が はめこめ られ, とりつ けられてお ります,従 ってそれが転落すれば 小 さな付属物 , ちっぽけな付随物 はすべ て. ,. ,. その轟然たる落下 と運命 をともにす るのです。. ク ロー デ ィア スの 王座 と内大臣 ポ ロー ニ ア ス とは,心 臓 と頭 の よ うに切 って も切 れ な い関係 にあ る。心臓 が止 まれば頭 が機 能 しな くな るよ うに,王 座 の 崩壊 が内大臣 の 没落 を巻 き込 む こ とは必定 で あ る。 口 に奉仕 す る手 の よ うに 王 の ため に必要 不可 欠 な働 きをす る重 臣 は ,王 と運 命 をとも にせ ざる をえな い。 か りに,(寝 室 の場 〉でハ ム レ ッ トに誤 って殺 され な かった と して も,彼 の 死 は,出 す ぎた振 舞 い をす るだ け に,避 け がた い もの で あった ろ う。 今 ,ハ ム レ ッ トの 立場 か ら眺 め てみ よ う。 故王 の 長子 ハ ム レ ッ トが, クロ ー デ ィア ス体制 を築 いた 第 一 の 功労 者 ポ ローニ ア ス に,最 初 か ら否定的 反応 を示 す の は理 解 で きる。 ま して, クローデ ィア ス が父 を殺害 した犯 人 で あ る こ とが わかれば ,た とえ殺害 に手 を貸 して い な くとも,犯 人 の 強 力 な後 押 し で あ るポ ローニ ア ス を敵視 し,憎 悪 す るの は 当然 で あろ う。従 って,死 体 に 向 かって冷 酷 な言葉 を口 に しつつ も,結 局 は 自己 の 非 を知 り,責 任 を取 るハ ム レ ッ トは ,決 して独善的 とは い えな い,公 正 な態度 を示 した とい えよ う。 権 力は それ を支 える もの が芋 蔓式 につ な が って い るの権 力 の 崩壊 は最 高者 ひ と りの没 落 に とどま るもの で な い こ とを,先 に引用 した ローゼ ン クラ ンツ の 言葉 は教 えて い る。二 人 の忠 臣 は,自 らの運 命 をいみ じくも予 言 した かの よ うに,落 下 す る巨大 な車輪 の 付属物 と して死 に赴 い た と見 るべ きで あろ う。 や るかや られ るかの 敵対 関係 が繰 り広 げ られ る劇 全 体 の パ ースペ クテ ィブ に おいて,彼 らの 死 は 自然 な成行 きで あ る。作 者 は お そ ら くそ う考 えて,両 人 を死 に追 い や ったの で あろ う。 問題 をハ ム レ ッ トの視 点 か ら見 よ う。親書 を読 んだハ ム レ ッ トは,自 分 を 即 刻死刑 に処 す べ しとい う内容 を,両 人 の 死刑 に書 き変 えた。 も し両人 が元 の親書 の 内容 を知 らな い こ とが明 らかで あれば ,彼 らの処 刑 を要 求 す る必 要.
(17) 武. 並. 義. 和. は な かった か も しれ な い。 しか し,承 知 して い な い とい うイ 呆証 がない以 _上. ,. 承 知 を前提 と して計画 を立 てねば な らな い。彼 らが承 知 して い ると きに,ハ ム レ ッ トが な まぬ るい 内容 の もの に書 き変 えただ けで あれば ,英 国 に上 陸後. ,. 両 人 は ハ ム レ ッ トを苦境 に落 と し入 れ る恐 れ があ る。彼 は この 事態 を避 け る ため に,即 刻 の 死刑 を要求 した と考 え られ る。 そ して それは,承 知 して いた とす れば ,彼 らに とって 自業 自得 で あ る。 この よ うな回 りくどい考 え方 は ,必 要 な いか も しれ な い。 ハ ム レ ッ トは. ,. 悪 の 支配 に役立 つ もの はす べ て倒 さねば な らな い, とい う冷 酷 では あ るが. ,. 政 治世 界 の 鉄貝Jに 従 った まで の こ とで あろ う。. v.ハ. ム レ ッ トの. quibbleに つ い て. 行動 とい う点 で は,最 後 の 最後 まで邊巡 す るハ ム レ ッ トが,観 客 に決 して い らだた しさや退屈 さを感 じさせ な い とす れば ,そ れは,彼 が胸 中 につ の る 敵意 を間断 な く言葉 に表 わ し,敵 対 者 との 間 に緊張 関係 を作 り出す か らで あ ろ う。 けれ ども,敵 意 を表 わす 言葉 が単 刀直入 で 露骨 な もの で あれば,彼 の 身 が 危 な くな る。 そ こでハ ム レ ッ トは ,狂 気 の仮 面 の もと に敵意 を quibble(あ い ま い な表現 )の 中 に 包み込 む (例 外 は三幕 四場 )。 そ して,敵 の 困惑 と狼 狽 か ら,ま るで 自分 の 不行動 の 腹 立 た しさの償 い で もあ るかの よ うに,慰 め を得. ている。物理的な剣 に代 わる,鋭 い(知 性の刃〉 ,(言 葉の刃〉に,敵 対者は次 々と手傷を負い,後 退を余儀なくさせ られる。 このプロセスにハムレットの 魅 力 の 源 泉 の一 つ が あ る と言 って よか ろ う。以下 ,二 ,三 その例 を見 る こ と にす る。. 10)参 考 に した注 釈 者 は次 の 通 りである。 L.Theobald(1733),We Warburton(1747), S.JohnsOn(1765),E.Ma10ne(1790),C.Knight(1843),WoC.Wright(1865), J.0。. HaHiweH(1865),A.Schmidt(1874,Sん αんcspcα γcttLθ χJcο η),H.Ho Furness. (1877,ス Neω yarJθ γππ Eご Jι Jθ π),A.Dyce(1886),H.Ir宙 ng(1890),Ko Deighton. (1891),J.FOster(1908,Sん αたcspθ αγc Iダ θγd_Bο οん),E.Dowden(1911,Tん θ4rdθ π αγc),J.D.WilsOn(1936,Tん c New Sん αんcspθ αγc),G.Bo Harrison(1937, 7ん θ&η gajη Sん α んcsPcα γc),G.L.Kittredge(1939,Tん θκJι ι γθdge Sん αんcsPcα γcs), B.Grebanier(1960),E.Hubler(1963,7ん e Sjgη ct C′ αssjc),B.Da宙 es(1973,Tん c λcsPθ Sん α. ス′ θχαタ ガθγSん αんespeα γc),A.L.Rowse(1978,Tん θttπ ποι αι ed Sん αんθspθ αγc)..
(18) 『ハ ム レ ッ ト』一 その論理的矛盾 その他 について一. Iθ. (1). But now my cousin Hamlet,and my son―. Kjπ g. (〃 απ. A little more than kin,and less than kind.. κJη g.. How is it that the clouds still hang on you?. 〃απ. Not so,my lord,I am too much i'the sull). 王. と こ ろで ,わ しの甥 の ハ ム レ ッ ト,い や ,わ しの息 子 一―. .. .. (I.H。 .. (ハ ム 王. .. 近 親 関係 は濃 く,親 近 感 は薄 い 。 ど う した の だ. .. ハ ム。. 64-67). ?お 前 には まだ雲 が か か って い るが。. い や ,陛 下 , 日 に 当 た りす ぎで す。. 傍 自 `A little more than kin,and less than kind.'. は,ハ ム レッ ト自. 身 の こ とにつ い て 言 って い るの か,そ れ とも クロー デ イア スの こ とか。 その 前半 は,「 (お 前 が母 と結婚 した の で )親 類以上 の 者 となった」 とい うこ とで あ るか ら,主 語 は どちらで も か まわな い こ とにな る。 しか し,後 半 は主語 と. `kind'の 解釈 によって次 の 四 つ に分 かれ る (な お,マ ロー ンは,王 が呼 びか けたの だ か らハ ム レ ッ トは 自分 の こ と を言 ってい る と取 る。同 じ見方 をす る 者 に,ジ ョ ンソ ン,ナ イ ト,グ レバ ニ ア,ウ ィル ソ ン,ヒ ュ ー ブ ラー,ラ ウ ス らがい る。他 方 , クローデ ィア スの こと を言 って い ると取 る注 釈 者 に,ス テ ィー ブ ンズ (Ge Steevens), シ ンガー (S.Wo Singer), コー ル ドコ ッ ト(■. Caldecott),ハ ドソ ン(HoN.Hudson), ホ ワ イ ト(RoG.White),デ イ トン. ,. ダウデ ン らがい る)。 (a)「. お前 に情 愛 な ど感 じて い な い (近 親相 姦 の結婚 を した の だ か ら)」 ,そ. れ に「 お前 と性 質 も似 ては い な い (お 前 は息子 と言 うけれ ども)。 」 (`kind' を `kindly'と `natural'も しくは `nature'の 両義 に取 る。)(ナ イ ト ,. ヒュー ブ ラー,ラ ウ ス) (b)「. お前の息子なんかではない。 」 〔`cousin'と `kin', `son'と `kind'. 11)原 文 の 引用 はすべ て は例外。 Wilsonは を取 って い る。. λθspθ αγθ によってい るが, この筒所 だけ Tん θ Nc"Sん α Q2の `son'を 採 用 して い る。 われわれは F.の `sun'.
(19) 武. 並. 義. f9. 和. (ド イ ツ語 で「 子 供 」 の 意 ). ウ ィ ル ソ ン) (c)「. お前 には私 に対す る情愛 などない (血 が濃 くなれば情 が薄 くなる, と. い う意味 の諺的表現 があった)」 ,そ れに「人間 としての情. (人. 間性 )も お. 前 には ない。 」 (`kind'を 形容詞 として `benevOlent',名 詞 として `nature' の意 に取 る。 )(コ ール ドコ ッ ト,フ ォス ター,デ イヴ ィス) (d)「. お前 はわれわれの種 にふ さわ しくない,堕 落 して い る」 (`less than. kind'を 'out Of kind' と解す る)。. (シ. ンガー,ホ ワイ ト, デイ トン, ダ. ウデ ン). `too much i'the sun'は , `sun'の 解釈次 第 で次 の よ うに な る。 (a)「 結婚 の祝 い や酒 宴 な どの 宮廷 の陽気. さの まっただ 中 にい る (十 分喪 に. 服 して い な い)。 」. h. (b)「 国王 の愛顧 の 日を浴 びす ぎる一― 自分 が嫌 っているにもかかわ らず. (太 陽 が国王 の権 力 を連想 させ るのは普 通 の こ とであった。 ) (c)「 王位 を奪 われて零落 している。 当時, 」〔. `Out of heaven's blessing. into the warm sun'(「 神 の祝福 に見離 されて,野 ざらしの身」)と い う 諺 があった。 また, `in the sun'に は `out of house and home,out― lawed,disinherited'(「 家 を失 って,追 放 されて,相 続権 を奪 われて」)の 意味 があった。 〕 (d)「 息子呼ばわ りはた くさんだ。 」 (同. 音 の `sOn'に 解 して。 ). (e)「 無頓着でぼんや りしている。 」 (シ. ュ ミッ ト). 観客 が初めて見 るハ ムレ ッ トは,そ の時点 では, もちろん叔父 の過去 を知 らない。 に もかかわ らず,喪 服 に身 を包んだハ ムレ ッ トの,叔 父である国王 に対す る嫌悪 と敵意 の感情 は,あ い まいであるが,は っ きりと観客 に印象 づ け られる。後 ろめ いた過去 を持 つ クローデ ィアス としては,何 とかハ ム レッ トを手 なづ けて,二 人 の間 が順調 にい くよ うに願 うのは当然 であろ う。 それ をハ ム レ ッ トは拒絶す る。 クロー デ ィアスの ゲームに加 わることを拒否す る。 `too much i'the sun'(「 日に当 た りす ぎている」)と い う, 一見何 で もな.
(20) 『ハ ム レ ッ ト』一その論理的矛盾 その他 につ いて一. 2θ. い 言 葉 が ,幾 通 り も の あ い ま い な 意 味 を伴 っ て ,「 月 里に 傷 も つ 」 ク ロ ー デ ィ ア ス の 胸 に無 気 味 に迫 る の で あ る。. (シ ュ ミ ッ トの 解 釈 の う ち の 一 つ (e)は. ,あ. ま り適 切 で は な か ろ う。). (2)Pο Jo Do you know me,my lord? 「 月 απ. Pο. ′ 。. ExceHent weH,you are a fishmonger. NOt I,my lord.. 〃απ. Then l would you were so honest a man.. . Pο ′ 〃απo. Honest,my lord? Ay,sir,to be honest as this wOrld goes, is to be one man picked out of ten thOusand.. Pο. Jo. 〃απo. That's very true,Iny lord.. For if the sun breed maggots in a dead dog, being a good kissing carrion. .. . Pο ′. 。. have you a daughter?. I have,my lord.. 〃απ. Let her nOt walk i'th'sun. Conception is a 12). blessing,but. as your daughter may conceive,. friend look to't。. (Ⅱ. o ii。. 173-86). ポ ロ .私 がおわか りです かな ?殿 下。 ハ ム .よ くわ かってお る,お 前 は魚屋 だ。 ポ ロ .い や,そ うでは ご ざい ませ ん。 ハ ム .そ れ じゃ,魚 屋 てい どに正 直 な人間で あってほ しい。 ポ ロ 。 正直 ,で す か ? ハ ム .そ うだ,今 の世 の 中 では,正 直者 は一 万人 に 一人の割 だ。 ポ ロ .ま こ とにその通 りです な。 ハ ム .何 となれば,太 陽 が犬の死骸 に姐 虫 をわかせば. ,. 口 づ けに好 ま しき腐 れ肉で あるがゆ えに。 ……お前 には娘 があ るか ? ポ ロ .ご ざい ます ,殿 下。 ハ ム 。 日向 を歩 か さな いほ う力れヽい。妊娠 は結構 な ことだ. 12)F.で は. `but nOt as your daughter may conceive:―. なって い る。 ここでは. Q2に 従 つて い る。. ,. 一―Friend,look tO't.'と.
(21) 武 並 義 和. 2f. が,お 前 の娘 は父無 し子 をは らむ か も しれんか ら. ,. 気 を付 け ることだ な。. コー ル リッジによれば , `fishmOnger'は 「秘密 を探 り出す (fish out)者 」 の 意 で あ る。同様 に,こ れ を ferret(狩 り出 す 人,探 し出 す人 )と 取 る解釈 もあ る。 また「 日の 光 に堪 え られ な い商 L早 1を 扱 う者」,つ まり,す べ ての 女性 と同 じく不実 な娘 を,ポ ローニ ア ス が持 って い ること を指摘 す るもの とす る 解釈 もあ る。 しか し,定 説 は. bawd(女 郎屋 の 主 人)と. 解 す ることに落 ち着. くよ うである (女 郎 は fishと か fishmOnger's daughterと か呼 ばれた)。 ポ ローニ ア ス は,ハ ム レ ッ トの狂 気 は報 い られ ぬ恋 の ためで あ る と考 えて い る。 そ こで 娘 を「放 って」 (`loose'),ハ ム レットが娘 に言 い寄 れば ,自 分 の 説 の 正 しい こ とが証 明 され るこ とにな る。娘 を少 々危 険 な 目 に会 わ して も 二 人 の仲 を取 り持 つ こ・ とがで きれば ,首 尾 は上 々 で あ る。 こ うい ったポ ロー ニ ア スの 打算 は, も ちろんハ ム レ ッ トの 気 に くわな い。彼 か ら見 れば ,ポ ロ ー ニ ア ス は王 とい っ しょになつて,自 分 の 秘密 を探 ろ うと して い る。 その た め には罪 とが もな い娘 を利 用 し, ま るで女郎 で あ るかの よ うに,娘 と自分 の 仲 を取 り持 と うと して い る。甘 い,十 を吸 お うと して い る。 ハ ム レ ッ トが実際 このようにポ ローニ アスの打算 を知 って いた か ど うかは,第 二 義的 な問題 で あ ろ う。 ハ ム レ ッ トは ともか く,観 客 は十分 に知 ってい る状況 の 中 で ,浮 薄 に して安 易 なポ ローニ ア ス に対 して投 げつ け られ る `you are a fishmonger' は,こ の 上 な く穿 った 言葉 で あ り,愚 弄 の 効 果 を劇的 に発揮 す る. (な. お,こ. う言 いつ つ 悪臭 に顔 をそむ け る仕草 が考 え られ る)。 (ポ ロー ニ ア スの取 り持 ち役 は, クロー デ ィア ス と王妃 との結婚 につ い てで あった と考 える注釈 者 が い るが,コ ンテ キ ス トか ら見 て不 自然 で あ る。). `FOr if the sune… a good kissing carrion'に つ いて,ハ ドソン(1856) とダ イス (1857)は さま ざまな解釈 の 出現 に,も ともと,ま ともな意味 を持 つ た 文章 では な い と して投 げ出 して い る。 ス トー ン トン(H,Staunton,1860) は これ をハ ム レ ッ トが読 む,あ る いは読 むふ りを した文 で あろ うとい う。 こ.
(22) 22. 『ハ ムレットJ一 その論理的矛盾その他 について一. れ らの 意 見 に同 意 した くもな るが , と に か く代 表 的 な説 を紹 介 す る こ と にす る。. ウ ォーバ ー トンは,ク オー ト版 で も フォリオー版 で も採 用 され て い る `being. a good kissing carrion'. を解釈 不能 と して,. `Being a God, kissing. carrion'と 書 き変 えること を主張 した。彼 に よれば, ハ ム レ ッ トの一 連 の 思 考 は一― 正直者 は一 万人 に一 人 ,ほ とん どの人 間 が邪 悪 で あ る。 それ と い うの も「原罪 で死 んだ,い わば死 んだ腐 肉 で あ る人類 」 に,神 が いか に祝福 (日. の 光 り)を ま き散 らそ うと,人 間 は なす べ き務 め を果 た さず ,腐 敗 と悪徳. だ け を生 むか らで あ る。 その こ とは何 ら不思議 な こ とでは な い一― と い うこ とにな る。 そ してハ ム レ ッ トは,そ れ以上 この 論法 を続 ければ ,自 分 の 正気 で あ るこ とが半J明 す るか ら話題 を変 えるの だ とウォーバ ー トンは 言 う。`Being. a God'説 は ジ ョ ンソ ンに よって激 賞 され, 多 くの編集 者 も これ に従 った。 (そ. の ほ か,次 の よ うな修 正 が試 み られた。 `being a gOd kissing carrioni. `carrion― kissing godi `a good being'な どで あ る。). コー ソ ン(H.COrson,1873)は ,す べ ての 混 乱 の 源は `Kissing'の 解釈 一 つ に あ る とす る。彼 に よれば `a good kissing carrion'は at kissing'(「 口づ けの上 手 な腐 肉」)で は な くて,`a. `a carrion good. carrion good for. kissing,or tO be kissed,by the sun'(「 太 陽 の 口づ け に適 した,あ るい は口 づ け され るの に適 した腐 肉」)と 解 さなければ な らな い。 シェ イ クス ピア の 多 くの例 を引用 して, `kissing'は 現在分 詞 で は な くて,動 名詞 で あ るこ とを証 明 す る。 か くて `Being a God'説 は根 拠 な きもの とな る 〔コ リアー. (J.P.Collier,1843)は ,`good'が `God'の ミスプ リン トで あった とは 考 え に くい と述 べ て い る。 ウ ィル ソ ン も同様 ,む しろ逆 の場 合 の 方 がは るか に起 こ りやす い と言 って い る〕。 И/α γbarι ο2's Sん αたcspcarc, Ⅷ.(1747;rpto. New York:AMS press,. 1968),pp。 165-66。. 4. Jο γ zπ EJJι Jο π o/Sん α λθspθ αγθ ,Ⅲ .ed,H.Ho Furness " yaγ (Philadelphia:Lippincott, 1877),p。 149.. Ⅳθ.
(23) 武. 並. 義. 23. 和. コー ソ ン説 が出 お くれ た こ とに意外 な感 じがす るが,そ れは とも か くと し て,ウ ォーバ ー トン説 は読 み込 みす ぎの よ うに思 われ る。 では ,そ の あ との 四行 を含 めて いか に解 す べ きか。単純 な読 み方 は,太 陽 が腐 肉 に口 づ け して 岨 を わかせ るよ うに,自 分 もオ フ ィー リア に口づ け して罪 人 を生 ませ る こ と にな るか ら,日 向 を歩 かせ るな. (自. 分 に近 づ け るな)と い うこ とで あろ う。. ここで太陽 と王子 との 対応 を見 る こ ともで きよ う。 ダウデ ンは「 世 の 中 は悪 で あ る。太 陽 で さえ卑 しい傾 向 を持 って い る。 も し死 んだ犬 が太 陽 によって 腐敗 させ られ るな ら,お 前 の 娘 は私 によって どん な 目 に会 わ され るこ とだ ろ )と. うξ. 言 って い るが,王 子 の 身分 に とって オ フ イー リアの よ うな身分 の 女性. の 誘惑 はたやす い こ とで あろ う。 ハ ム レ ッ トか ら見 れば ,ポ ロー ニ ア ス は 自分 の 娘 を `fish'同 然 に,`carrion' 同然 に扱 って い る。 そん な こと を して いれば ,彼 女 が黎 む こ とは,岨 の よ う な「 罪 人 の 生 み手 」 (`a breeder of sinners,Ⅲ. .i。. 122)と な る こ とは 目 に. 見 えて い る。十分 に気 を付 け るが いい。 言 い変 えれば ,娘 を出 しに使 うこ と は止 め よ,腐 肉 の よ うに牛 む こ と に な るぞ, と警告 して い るの だ と考 え られ る。 (`conception'を. `understanding'と `pregnancy'の 両方の 意 に取 る. 注釈 者 が 多 い。 その と きは,「 知 るこ とは よ い こ とだ。 しか し,こ の まま に し て お くと娘 は お前 さん の 好 まな い こ とを知 るこ と に な るよ」 と「妊娠 は よ い こ とだ。 しか し,お 前 さんの娘 は父無 し子 を生 む か も しれ な い よ」 との 両方 の 意味 が含 まれ る こ とにな る。) 以上 の ご と く,そ れ とな く探 りに来 たポ ロー ニ ア ス に対 す る愚弄 と警告 の 中 に,狂 気 の仮 面 の 下 に隠 されては い るが,寸 分 の 隙 も見 せ な い主 人 公 の 知 性 が うかが えるの で あ る。. (3)κ j昭 〃απ .. .. HOw fares our cousin Hamlet? Excellent i'faith,of the chameleon's dish,I eat. 15)動 θTragedy o/〃 απ ι,ed.E.DOwden,3rd ed.(London:Methuen,1911), Jθ. p.71..
(24) 『ハ ムレット』―その論理的矛盾その他 について一. 24. the air,prOrnlse‐. crammed一 一一―you cannot feed capon so。 (Ⅲ. 王. ハム. oH.90-92). 甥 の ハ ム レ ッ トの 具合 は ど うかな ?. .. この 上な く結構 です よ. .. ,. カメ レオ ンの 食べ物 ,空 気 を食 べ て. ,. 空約 束 で腹一杯 一― ケ イポ ンで さえそん な餌 では飼 えないよ。. この場面 は,劇 中劇 の始 まる直前であ り,ハ ム レ ッ トはまだ クローデ ィアス の犯罪 の よ り確 かな証拠 を掴 んで い ない。 に もかかわらず,王 の `fares'. (isの 意)を eatsの 意 にとって答 える二行 には,含 蓄 ある内容が込められて い る。第一 に,ハ ム レ ッ トは 自分 がカ メレオ ン (空 気 を食べ て生 きて い ると heir 考 えられていた)で あるかの よ うに,空 気 の よ うに実体 の ない約束 〔 (後 継者)と. い う airな 約束〕 を与 えられてい ること,第 二 に,た っぷ り太 ら. せておいて殺 して食べ る去勢 された鶏 の よ うに,王 が自分 を扱 お うとして い ること,つ まり,空 約束 で いい気 にさせておいて,結 局 は間 にほ うむろ うと して い ること,そ んなことは百 も承知である。愚 か者の典型 ともい うべ きケ イポ ンで さえ, そんな見 えす いた餌 にひっかか りは しない ぞ。 ぴた りと胸中 を言 い当 て られた クローデ ィアスは 一―. I have nOthing. 'er, Harnlet. 'ith this ans、 、 、 、. vords are not rnine。 Tthese 、. (93-94). ハ ム レ ッ ト, そ の 返 答 は何 の こ とか わ か らん。 わ しと何 の か か わ り もな い 言葉 だ 。. ととぼ け,ハ ム レ ッ トの 挑発 をか わす よ りほ かは な い。. (4)κ jη g.. Now,Hamlet,、 vhere's Po10nius?. 〃απ. At supper。. κJηg。. At supper?. 〃απ. 'here a' is eaten― 一一― 、 vhere he eats,but 、 NOt 、. .. .. 、 vhere?. a certain convocation of public. 'orms are e'en at him: 、 、.
(25) 武. 並. 義. 25. 和. your 、 vorrn is your only emperor for diet, lⅣ e fat all creatures else to fat us,and we fat ourselves for maggots。 your fat king and your lean beggar is but variable service,two dishes,but to one table― ―一一that's the end. κJηg. Alas,alas! 「 月 απ. A man may fish with the worm that hath eat of a king,and eat Of the fish that hath fed Of that worm。 X「 Jπ g。. ヽ Vhat dost thOu mean by this?. απo NOthing,but to show you how a king may go 「 「Jη g。 バ 〃απo. a progress through the guts of a beggar. ヽrhere is Po10nius?. ∼ ln heaven― 一――send thither to see, if yOur messenger find him nOt there,seek hirn i'th'other place )70urSelf. . . . (Ⅳ. 王。. oHi。. 16-33). これ ,ハ ム レ ッ ト,ポ ロー ニ ア ス は ど こに い るの か ?. ハ ム .夕 食 中。 王.. 夕食 中. ?. ど こで ?. ハ ム .食 べ て い る と こ ろで は な く,食 べ られ て い る と こ ろに。 政 治屋 の 姐 虫 ど も が , うよ うよ と集 まっ て ,彼 にた か って い る最 中。 姐 虫 っ て奴 は 食事 に か けては天 下 無 類 の 帝 王 ,わ れわれ が ほ かの生 き 物 を太 らせ るの は ,わ が 身 を大 らせ るた め , と こ ろ が わ が 身 を太 ら せ るの は岨 虫 の た め 。 太 っ ち ょの 王 とや せ っぽ ちの 乞 食 とは同 じ食 卓 に 出 される違 った献 立 ,二 皿 の 料理 で しか ない―一 万 事 それで終 り。 王。. あ あ,lprと い うこ とか. .′. ハ ム .王 を食 った姐 虫 で魚 を釣 り,そ の 姐 虫 を食 った魚 を 食 べ る人 が あ るか も しれ な い。 王。. い った い何 を言 って い るの だ ?. ハ ム .王 が乞 食 の は ら わたの 中 を ご巡 幸 あ そば され る ご様 子 を申 し上 げ た まで の こ と。 王。. ポ ロー ニ ア ス は ど こ に い る ?. ハ ム .天 国 に一 一 確 かめ に そ こへ 使 い をや りな さ い , も しそ こで 見 つ か らな か った な ら,あ な た が ご 自分 で ほ か をあ た られ る と い い。 …….
(26) 26. 『ハムレット」一その論理的矛盾その他について一. 劇 中劇 によって クロー デ ィア ス を窮地 に追 いつ めたの も束 の 間 ,ハ ム レ ッ ト はポ ローニ ア ス を うかつ に も殺 す こ とによって,逆 に不利 な立場 に追 い込 ま れ る。 ク ロー デ ィア ス は 国王 と して の 威厳 をも って,ハ ム レ ッ トを厳 しく詰 問 しよ うとす る。 と こ ろ が,ハ ム レ ッ トは 負 い 目 を見 せ る ど こ ろか,王 を手 玉 に取 る。. quibbleと い うよ りは conceit(奇 想 )の あふ れ る,こ の対話 の部 分 を引用 したの は,愚 弄 と侮 蔑 の 矢 を矢継 ぎ早 に放 つ ハ ム レ ッ トの 知 力 に,勝 利 感 の よ うな もの がただ よ って い るか らで あ る。 デ イヴ ィス によれば ,ハ ム レ ッ ト が王 に言 いたい こ とは 「 お ま えは ,今 は 自分 をえ らい人物 ,強 力 な人間 と考 えて い るで あろ うが,全 然値打 の な くな る日がや って くる一一 ただの乞 食 の 方 が上 手 に出 るこ とになろ う」 とい うこ とで あ る。 ハ ム レ ッ トは ,単 に この よ うな遠 い将 来 の こ と を暗示 して い るだ けで は な い。彼 は まず ,王 と乞 食 を 等値 の 関係 に置 く。次 に,岨 に王 を食 わせ て,王 が乞食 の体 内 を巡 行 す る図 を描 く。 そ して,終 着 点 は地 獄 だ と い う。国王 の仮 面 をかぶ った卑 劣漢 の正 体 にふ さわ しい イ メー ジが駆 使 され る。 か くて,ハ ム レ ッ トの さげすみの 目 の 前 で ,寡 奪者 クロー デ ィアス は ,国 王 と しての輝 きも消 え失 せ ,そ の 重 み も剥 ぎ取 られ,卑 しい存 在 に な り下 が る。. 16)Tん cス Jθ χα γSん αんespθ αγθ 〃απ′θι,edo B.Da宙 es(LOndon and Glasgow: `":θ CoH ins publishers,1973),p.224。.
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