95 Ⅰ 問題と目的 「特別支援教育」の対象のうち、行動面・社会性に 課題があるAD/HDや広汎性発達障害は、周囲への 影響が大きいため対応が急がれてきた。しかし、『捉 えにくい障害』(海津、2003)と言われるLD児への 支援は、進んでいない。それは、LD児の学力困難が 「認知発達に関する部分的な遅れや偏りから生じてい る。」(海津、2003)ために、つまずきの本質が見極め にくいと考えられる。さらに、認知特性に合わせたL D児の「特別なわかり方」(別府ら 2003)には、それ に合わせた「特別な教え方」が必要となる。しかし、 玉木ら (2007) の研究によると「個別に対して行われる、 あるいは多くの準備時間やカリキュラムの変更を必要 とする支援の工夫は実施が困難」という担任の実情が ある。 LD児の特別なわかり方に対しては、通常の指導と の隙間を埋める教材・教具・教示が、大きな意味を持 つと思われる。そこで、『個のニーズ』を見極め『個 に応じた指導』を専門とする特別支援学校のコーディ ネーターが、通常学級担任に対して、『個のニーズ』 を見極める視点とそれに応じた支援(教材、教具、教 示)の提案方法を検討する。適切な提案は、通常学級 担任の特別支援教育への意識を向上させ、児童一人ひ とりの認知特性への気づきを引き出すことができるの ではないかと考えられる。特別支援学校の巡回相談の あり方の一考察を行う。 Ⅱ 方法 予備調査 センター的機能としての教材・教具支援の 現状と課題 目的)巡回相談における教材・教具提供の現状と課題 を把握し、意義を検討する 対象)H地域にある特別支援学校 6 校の地域支援担当 コーディネーター 内容)口頭質問による聞き取り調査 ①学校の概要 ②コーディネーター及び校内委員会の位置づけ ③コーディネーターの仕事内容 ④地域支援における教材・教具に関す相談の現状 ⑤校内の教材・教具の備蓄状況 研究1 通常学級の中で個に応じた教材・教具を提案 するには 目的) ①児童の認知特性への気づきを引き出すための教材・ 教具活用に関するコンサルテーション。 ②教材・教具活用を研究授業において提案する。 ③B小学校教員アンケートから担任の教材・教具に対 する意識・実践度を調査する。 期間)X年 4 月~ 11 月 対象)A市立B小学校 3 年生 3 学級 手続き) ①実態把握…簡易チェックリストの実施。 授業観察…授業観察記録シートの活用。 コンサルテーション …担任の指導スタイルや特別支援教育の認識度に 合わせた助言と教材・教具の提案。 ②アセスメント…簡易アセスメントの実施 事前検討会議…教材・教具・指導案の提案。 研究授業の観察。 事後検討会 …指導・支援について意見交流。 ③特別支援教育の意識度調査。 教材・教具の活用、個に応じた支援の必要性などに 関する意識と実践度調査。
認知特性への気づきを促す教材・教具の提案方法に関する検討
-特別支援学校のセンター的役割としてできること―
Method of Presenting Teaching Tools and Methods Based on the Cognitive Character
of a Child:Focusing on the Role of Special Schools as a Support Center
門 積 敦 子
Atsuko Kadodumi
96 研究2 共通教材『漢字クイズ』の試作と活用 目的)注意集中を促し、授業への意欲を高めるための 導入としての共通教材の試作と実践。 期間)X年 10 月 対象)学校 X市立Y小学校 2 年生 2 学級 手続き) ①実態把握…簡易チェックリスト 漢字アセスメント ②プレテスト ③漢字クイズ実施 ④ポストテスト ⑤実施学級の児童及び担任に漢字クイズに関するアン ケート Ⅲ 結果 予備調査 6 校の特別支援学校地域コーディネーターの、教材・ 教具の提供に関する考え方は以下の通りであった。 研究1 (コンサルテーション) チェックリストから見えた児童の認知特性への担任 の意識度、観察から見えた担任の指導スタイルに合わ せて、段階的に教材・教具の提案をコンサルテーショ ンした。 担任Cには、『良い支援を見つけて意味づける』こ とを手がかりに、認知特性への気づきと環境整備の大 切さを伝えた。担任Dには、工夫している視覚支援教 材について、児童の認知特性とのつながりを分析し、 また特に気になる児童への具体的な支援教材を提案し た。担任Eには、ユニバーサル型の授業を分析し、児 童の認知特性と結びつけて、全体への支援と個の支援 に分析、気になる児童の支援についても助言した。 担任CとDは、日ごろ自分が行ってきた教材・教具 の工夫を高く評価されたことで、安心感と自信を持ち、 さらに前向きに取り組み続けることができた。また、 今まで実践できなかったあるいは、気づかなかった支 援の工夫も取り入れるようになった。担任Eは、筆者 の助言をうけとめ、気になる児童の認知特性を受け止 め、個別的な支援を工夫した。 (研究授業) 筆者からの提案は、興味を引きつける導入教材と具 体物操作、児童が活動する授業であった。加えて担任 Cには、児童のニーズに基づいて環境整備と視覚支援 教材の必要性を提案し、担任Cは肯定的に受け止め、 教室環境を整え、教材の作成、指導案の改訂、教示の 工夫を実践した。担任D・Eとは、具体物操作教材の 活用や体験型学習について検討を重ね、担任Eはたく さんの活動と教材を盛り込み、担任Dは、さらに興味 付けや視覚支援の工夫の助言を筆者に求め、意欲的に 取り組んだ。事後検討会では担任Cの授業について、 児童の実態をふまえて意見交換会が行われた。「補助 支援教材の大切さを改めて感じた。」という感想が聞 かれた。筆者が作成・提案した具体物操作教材は「今 後も使える」と喜ばれた。 (校内アンケート) 特別支援教育の知識や意識は高く、個別支援や支援 教材の作成について必要性を感じているが実践となる と難しいことが伺われた。 研究2 チェックリストの結果から、学習面に特にニーズの ある児童と、注意集中に課題がある児童が確認できた。 その結果や漢字アセスメントをもとに漢字クイズを構 成し、実施した。 注意集中に課題のある児童は漢字クイズに熱心に取 り組めたが、漢字学習にニーズのある児童にとっては、 出題方法やタイミングなどに漢字クイズの課題が浮か び上がった。 アンケート結果によると、児童は漢字クイズに興味・ 関心を持ち、またやりたいという希望が多く、漢字ク イズが意欲付けに適していることが評価できた。担任 も児童の様子から漢字クイズの効果を認め、このよう 門 積 敦 子
97 な教材があればぜひ活用したいという意見だった。 Ⅲ 考察 予備調査では、教材・教具の提案について特別支援 学校コーディネーターの意見が分かれていたが、筆者 は、特別支援学校が得意とする個に応じた指導・支援 と個別の教材作りを提案することは、大きな意味があ ると考える。取り組みに際しては、特別支援学校にとっ ては児童や学校の実態を体験することで発達障害を学 び ( 木村ら、 2007)、通常学校は特別支援学校が強み とする個別支援を学ぶ場(橋爪、2006)として行った。 研究 1 から、教師の指導スタイルや特別支援教育の認 識度に合わせたコンサルテーションが、児童の認知特 性への気づきを促し、教材・教具の提案もしやすくな ると感じられた。アンケートからは、個別の具体的な 支援方法や教材・教具の見本があれば、意識はあるも のの実践は困難と感じている担任に活用してもらえる のではないかと思われた。また研究 2 で行った共通教 材の取り組みでも、支援を必要とする児童の視点で製 作したものが学級全体の意欲向上に役立つことが感じ られた。 認知特性への気づきを促す教材・教具の提案方法に関する検討