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地域に根ざした教師養成のためのプログラム開発 -「地域参加型マインド」から「地域創造型マインド」へ-

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(1)Title. 地域に根ざした教師養成のためのプログラム開発 −「地域参加型マイン ド」から「地域創造型マインド」へ−. Author(s). 宮前, 耕史; 添田, 祥史. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第44号: 19-26. Issue Date. 2012-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6866. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第44号(平成24年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.44(2012):19-26. 地域に根ざした教師養成のためのプログラム開発 -「地域参加型マインド」から「地域創造型マインド」へ- 宮 前 耕 史1・添 田 祥 史2 北海道教育大学釧路校:1地域文化研究室・2社会教育研究室. Program Development for Training Community Based Teachers -From Community-Participation Mindset to Community-Creation MindsetYasufumi MIYAMAE, Yoshifumi SOEDA Department of Community Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. はじめに. 示されているからとの理由だけで、その意義や目的を深く. 本稿は、 第3回「教育に関する環太平洋国際会議」(2012. 考える機会のないままに職場に出されている。. 年7月7~8日、北海道教育大学札幌校)でおこなった英. . 語による口頭発表の内容である。北海道教育大学釧路校・. 2 「地域参加型マインド」の限界. 地域教育開発専攻地域教育分野では、地域に根ざした教師. 「地域活用型マインド」を越えて、地域に学ぶという観. 養成のためのプログラム開発に取り組んでいる。これまで. 点から教師の育成をめざす試みもある。そうした機運は、. の「地域に根ざした教師」に関する議論の到達点と課題を. 総合学習の導入期にとくに高かった。こここにおいては、. 明らかにし、報告者らが取り組んでいるプログラムを紹介. 学校と地域社会との関係は、双方向的であり、教師が地域. した。. 参加する意義も理解できてきた。 理論と実践の往還型教員養成を意識して、報告者らの勤. 1 「地域に根ざした教師」再考. 務校においても、近隣小学校のPTAバザーの企画・運営. 北海道教育大学釧路校は、地域に根ざした教師の育成を. を学生たちが保護者と共同して行う体験型の実習講義を設. 目標に掲げている。とくに報告者らが担当する地域教育開. けてきた。学生たちには、そうした体験と並行して、「学. 発専攻地域教育分野は、そうした特色を強く打ち出してい. 校を基地にまちづくり」で知られる秋津コミュニティの実. る。しかし、そうしたコースを志望し、将来教師をめざす. 践等を紹介しつつ、教育コミュニティ論に依拠した座学を. 学生たちでさえ、集落の縮小・消滅が著しい地域の実状に. 提供してきた。その結果、学生たちは、たしかに「地域」. ついて驚くほどに現実を知らないし、関心がない。. を意識するようになった。しかしここで養成されるのは、. 近年、 「家庭・学校・地域の連携」が声高に叫ばれる中で、. 都市化に伴い希薄化した地域の関係性を学校が核となって. 学生たちも 「地域」 を意識してはいる。意識はしているが、. 再構築していく活動のリーダーである。. 地域の置かれている厳しさが見えていない。なぜか。それ. 報告者らは、 「地域参加型マインド」の今日的な意義は. は「家庭・学校・地域の連携」が、学校の教育機能の補て. 認めつつも、次の点で限界を感じた。. んや拡充のために「学校応援団」を組織化していくことを. 一つ目は、想定している「地域」像が都市型であるため. ねらいとしており、将来教師をめざす学生もそうしたまな. に、郡部の過疎化する「地域」には適応しづらい点である。. ざしで地域を見るからだと考える。成績優秀で教員採用試. 北海道における地域とは、札幌への一極集中が進む中で人. 験を難なくクリアできそうな学生ほどその傾向は強い。. 口流出が止まらない過疎化に悩む郡部の市町村である。そ. 【表1】は、そうした実感をもとに、教師の地域と向き. うした地域においては、教育コミュニティ論が提唱する学. 合う姿勢や意識を3つの理念型で示してみたものである。. 校を核としたまちづくりは成立しづらい。北海道の公立小. 学校支援地域本部事業や学校支援ボランティア事業等は、. 学校は、平均すると1年間に約30校ずつ数を減らしてい. 「地域活用型マインド」にもとづく発想だといえる。. る。たとえば、浦幌町では、90年代から現在までに人口が. 学校と地域社会との関係性は一方向性であり、学校側が. 半減し、13校あった小学校も現在では3校へと統廃合され. 地域社会に対して一方的に労力や知識の提供を求める。こ. た。これから先、近隣に学校がない地域の方が多数派を占. こにおいては、なぜ地域を題材とした教育が必要なのかに. めるようになる。. ついての合意が地域住民だけでなく、当の教師にもとれて. 二つ目は、地域と教育の位置をめぐる問題である。 「地. いない可能性が高い。学生たちの多くは、学習指導要領に. 域参加型マインド」では、学校教育の持続可能性のために. - 19 -.

(3) 宮 前 耕 史・添 田 祥 史 学校と地域の関係性を問い直す。他方、報告者らは、地域. 学校校区を地域教育における「地域」と規定した上で、そ. の持続可能性のために教育や学校のあり方を問い直す。こ. の教育力を「社会的諸規範」、「生活経験」、「地域諸集団」. の違いは、学生に求める視座や力量の違いとして現れてく. の3局面から捉えることで概念整理を試みた。. る。「地域参加型マインド」では、 「地域を巻き込んだ教育. 両者を結び付けることで、教育は、持続可能な地域づく. 実践」 ための 「技法」 の獲得にあるのに対して、 報告者らは、. りにむけて価値や文化を再創造していく営みを推進する手. 「地域に巻き込まれる教師」になるための「作法」の習得. 段として位置づけられる。子どもの教育のあり様や地域の. をめざす。そこで求められるのは、地域住民としてのメン. 未来像をめぐって、住民が集い語り合う。そうした地域の. バーシップの獲得や、町おこしに教育専門職として貢献し. 関係性に支えられて学校教育を軸としつつ、家庭教育や社. ていくフォロアーとしての自覚と力量である。. 会教育においても、大人と子どもの協同的実践が重層的に. . 展開されていく。. 3 「地域創造型マインド」へ 過疎化する郡部の市町村において、地域に新たな価値を. 4 開発したプログラム. 見出し、子どもに夢を、若者に誇りと雇用をどのように創. 4-1 プログラムの構造と実施体制. りだすか。そこに教育はどう位置づき、教師はどのように. 以上の問題関心から、報告者らは担当講義を「地域創造. 関わっていくのか。 「地域参加型マインド」に留まってい. 型マインド」の習得をめざしたものへと授業改善に取り組. ては、都市部の学校を舞台に子どもが育つ地域社会を再構. んでいる。本発表は、その一年目の経過報告である。受講. 築していく人材の養成には効果が見込めても、地域自体が. 生は2年生25名。毎週水曜日に「地域教育概論」と「地域. 消滅するやもしれぬ郡部の学校において、その再生のため. 教育活動Ⅰ」を連続で配置することで、毎回180分の時間. に住民と協働していく教師の姿は見えてこない。そこで、. を確保した。講義は宮前と添田が担当したが、他の地域教. 報告者らは、 「地域創造型マインド」への飛躍を求める。. 育分野教員にも全過程を通じて出席してもらい、意見や改. 「地域創造型マインド」の理論的基盤として注目するの. 善点等を述べてもらった。. が、地域教育計画論と地域教育論である。戦後教育学の黎. 【図1】は、本プログラムの構成を図に示したものであ. 明期、 「産業再建のための人材養成のための計画化」(宮原. る。プログラム構成の特徴は、地域教育に関する基本的な. 誠一)や「教育主体としての地域社会」 (大田尭)を鍵概. 視座や理論に関する学習と、現場での体験学習の機会を設. 念とした地域教育計画論が展開された。これらに通底する. け、最終的に理論と実践を学生自らが統合していくことを. 視座としては、①地域を教育の手段としてではなく、地域. めざした点にある。. を創る学びの援助として教育を位置づけている、②子ども. 前者の理論学習に関しては、二つの学習を提供した。. を地域づくりの主体として位置づけている、③子どもと共. ①映画を教材とした、地域における人の育ちへの感受性を. 同するためにおとなが学ぶという視座を含んでいる、とい. 高める学習と、. うことが挙げられる。. ②「地域教育」とその現代的課題に関する理論学習である。. 他方、地域教育論は、1980年代に集中して議論された。. 一方、後者の体験学習としては、. その背景には、急速に都市化する日本社会において、子ど. ③「うらほろスタイル推進地域協議会」と連携し、同協議. もが育つ場としての「地域」が消失しつつあるという問題. 会が北海道十勝郡浦幌町において推進する「うらほろスタ. 意識があった。矢野峻は、子どもの生活圏域である小・中. イルふるさとづくり計画」の体験学習を行った。. 【表1】 教師の地域に向き合う姿勢と意識の3類型 理念型 地域活用型 マインド. 背景にある理論モデル ・人材活用論 ・ 「家庭・学校・地域」の連携. 求められる教師の職能 ・学校教育の専門性 ・地域資源の発掘と活用方法 ・地域資源の教材化. 地域参加型 マインド. ・教育コミュニティ論 ・ 「開かれた学校」論. ・人間関係の再構築 ・地域資源としての学校という視座 ・協同的実践におけるリーダーシップ. 地域創造型 マインド. ・地域教育計画論 ・地域教育論. ・価値や文化の再創造 ・地域資源としての教育という視座 ・協同的実践におけるフォロアーシップ. - 20 -. 志向性. ・学校価値志向 ・都市的 ・学校教育の持続可能性. ・地域価値志向 ・農村的 ・地域社会の持続可能性.

(4) 地域に根ざした教師養成のためのプログラム開発 【表2】は、実際に実施した本プログラムの日程をまと. 返り、自らの一連の学びを図示した「学びのノート」 ( 【写. めたものである。授業の最後に学生たちは、現場における. 真1】 )を個々に作成させることで、知識と体験の統合を. 自らの体験を、座学による理論学習の成果を踏まえて振り. 促すようにした。. 【図1】プログラムの推進体制と概念図 【表2】プログラムの全体スケジュール(2011年度) 回. 年. 月. 1. 日. 学習内容. 概 要. 具体的内容 浦幌町および「うらほろスタイルふるさとづ くり計画」について. 5. オリエンテーション. 12. 山田洋次監督映画『十五歳-学校Ⅳ』① 「形成」と「教育」について考える. 3. 19. 山田洋次監督映画『十五歳-学校Ⅳ』② 「不登校」 「ひきこもり」について考える. 4. 地域における人の 26 「育ち」への感受性 山田洋次監督映画『十五歳-学校Ⅳ』③ を高める学習. 5. 9. 山田洋次監督映画『十五歳-学校Ⅳ』④. 「経験」と「成熟」 「老い」の意味について考 える. 16. 山田洋次監督映画『十五歳-学校Ⅳ』⑤. 地域における人の「育ち」について考える(「学 びのノート」①の作成). 2 10. 6. 2011. 11. 7. 30. 8. 7. 9. 12. 事前学習会(近江正隆氏による講演会). 体験学習. 「うらほろスタイルふるさろづくり計画」およ びその背景. 日程等最終確認、体験学習から学ぶため 浦幌町および「うらほろスタイルふるさとづ の視点 くり計画」から学ぶための視点とは. ~. ~. 20. 12. 21. 冬 休 み. 13 1. 15. 「地域教育」に関す「地域教育とは何か」 「今なぜ地域教育な 課題についてのブレインストーミング る理論学習 のか」. 14. 10. 14. 学校による学校的価値の再生産について考え る. 「浦幌民泊体験」当日(浦幌バスツアー、 「民泊体験」 ) 〔矢野・岩永編 1981〕 〔矢野・鐘ヶ江 1981〕の 精読と「学びのノート」③の作成、 「民泊体験」 ホスト・ファミリーへのお礼状、 「民泊体験報 告書の作成. 「地域教育」に関す 冬休みの課題 る理論学習. 事 後 学 習 会( 近 江 正 隆 氏 に よ る ワ ー ク「うらほろスタイルふるさとづくり計画」のも ショップ) つ教育的意義 学習成果に関するワークショップおよび発表 会. 理論と学習の統合 全体振り返り. 2012 2. 全体振り返り. 「学びのノート」③の作成. - 21 -.

(5) 宮 前 耕 史・添 田 祥 史. 【写真1】学びのノート 4-2 プログラムの詳細. 映画の視聴に際しては、エピソードごとに適宜映画を区. 4-2-1 理論学習. 切り、社会学や教育学、心理学等の知見を提供しつつ、ディ. (1)地域における人の「育ち」への感受性を高める学習. スカッションやグループワークを行ってエピソードを分析. 理論学習について詳述すると、第一に、映画の分析的な. し、登場人物らのやりとりに潜む教育的意義を考えた。. 視聴とこれに関する議論を通じ、 「学校の中」にとどまる ことのない、 「地域」における人の「育ち」 ( 「形成」 「成長」) に対する感受性を高めることを目的としたワークショップ 型の講義を行った。 教材として使用したのは、山田洋次監督による映画作品 『十五歳―学校Ⅳ』である。これは、学校に行くことの意 味を見いだせず、不登校になってしまった中学校2年生 の男子・大介を主人公とするロードムービーである( 【図 2】) 。不登校から半年が過ぎたある日、樹齢7000年という 鹿児島県・屋久島の縄文杉に触れれば自分も元気が出るだ ろうと、大介はリュックサック一つに寝袋を入れ、屋久島 を目指して一人ヒッチハイクの「冒険の旅」に出る。この 旅で、大介は自己とは異なる世界に生きる多様な他者との 「出会い」を通じてこれまで自らが生きてきた世界を相対 化し、成長を遂げる。映画の終わりに挿入される「久しぶ りに見る僕の町はなぜか少し小さく見えた」という大介の セリフは印象的である。. - 22 -. 【図2】山田洋次監督『学校Ⅳ~十五才』.

(6) 地域に根ざした教師養成のためのプログラム開発 (2) 「地域教育」とその現代的課題に関する理論学習. 4-2-2 体験学習. 第二には、「地域教育」に関する先行研究の精読を行っ. (1)「うらほろスタイルふるさとづくり計画」とその特色. た。取り上げた先行研究は【図3】の通りの3点である。. 次に体験学習について詳述する。 「うらほろスタイルふ. ①〔矢野・岩永編1981〕は「地域教育」における「地域」. るさとづくり計画」は、平成18年(2006)、地元唯一の高. の範囲を小・中学校校区と規定した上で、その「教育力」. 等学校・浦幌高等学校の廃校に町そのものの存続の危機を. を「社会的諸規範」 「生活経験」 「地域諸集団」の3つの次. 覚えた町内有志12名が、 「町の活性化」を目指したNPO法. 元ないし層においてとらえることで、その概念整理を試み. 人「日本のうらほろ」を設立したのを直接的な契機として. たものである。「地域教育」に関する概念整理として本邦. 開始されたものである(【図4】)。. では初めてのもので、かつこれ以降、 「地域教育」に関す. 現在では、町内に5つある小・中学校の教員を中心に、. る理論的検討は行われていない。②〔矢野1981〕は①の「地. 保護者、町・町教委、農協・漁協・森林組合・商工会等の. 域教育」に関する概念整理に基づいて、その現代的課題に. 町内各種団体、町内有志らによる「うらほろスタイル推進. ついて整理・検討したもの、③〔矢野・鐘ヶ江1981〕はこ. 地域協議会」を組織し、これを推進主体として、子どもた. れへの対処策として、学校が取りうる方策や、担っていく. ちが「自ら生活する地域を見つめなおし、魅力と価値を発. べき役割について整理・検討したものである。. 見することによって、町の発展に貢献する自発的意識を育. 学生たちは、これらの精読を通じ、地域教育論とその現. てる」ことを目的に、 「地域への愛着をはぐくむ事業」 、 「子. 代的課題に関する理解を深めていった。. どもの想い実現事業」、「農村つながり体験事業」の3つの 事業を展開している【図5】)。. 層. ①〔矢野・岩永編 1981〕 「地域教育」の概念. ②〔矢野 1981〕 「地域教育」の現代的課題. 地域住民の共住に基づく生活上の共同や連 第1層 帯の関数として結晶し、人々の行動や意識 を拘束し規制する「社会的諸規範」 社会規範に枠づけされながら展開される活 動体験や生活経験、身近な生活圏で自由・ 自発的に行われる「直接的な生活経験」 (自 第2層 然体験、労働体験、タテ社会の体験(異年 齢集団)、自発的欲求充足体験、社会参加 体験等). 社会規範の混乱. 生活体験の欠落 (自然体験・労働体験・タ テ社会体験・自発的欲求充 足体験・社会参加体験). 「地域諸集団」によって遂行される教育力 第3層 (PTA、子ども会育成会等). 地域集団の無力化. ③〔矢野・鐘ヶ江 1981〕 「地域教育」の現代的課題への対処策 ・地域(的個性)の教材化(郷土教育) ・日常生活体験の教材化(生活綴り方等) ・生活体験学習(家事・家業への参加、勤労 体験学習、地域ボランティア活動等) ・地域社会の住民運動、 学習活動との連携(社 会教育への参加、地域調査活動、学校教育 の地域への開放等) ・学校施設の開放、 「地域の学校」への方向 ・住民主体の地域教育計画づくり(学校教育 の計画づくりへの参加) ・住民の意思を学校教育に反映させる学校審 議委員会の制度化 ・学校教育を通しての地域人材の形成. ①〔矢野・岩永編 1981〕pp.25-27 ②〔矢野 1981〕pp.138-148 ③〔矢野・鐘ヶ江〕pp.57-66. 【図3】 「地域教育」に関する理論学習概念図. より具体的には、 「地域への愛着を育む事業」では、町 内小・中学校教員らが「うらほろスタイル教育プロジェク ト」を組織、授業の中で、 「町内バスツアー」や「民泊体 験」( 【写真2】 ) 、 「町おこしの企画提案」 ( 【写真3】)等、 義務教育課程9年間を通じて、上記課題を達成するための 様々な取り組みを行っている( 【表3】 ) 。 「子どもの想い実現事業」では、 「地域への愛着を育む事 業」の一環として取り組まれている町おこしの企画提案 を、大人たちが実現していく( 【写真4】 ) 。 「農村つながり体験事業」では、農林漁業家有志が「う らほろ食のプロジェクト」を結成、 「地域への愛着を育む 事業」の一環として取り組まれている町内全小学校5年生 を対象とする「民泊体験」への協力を行っている。. 【図4】「うらほろスタイルふるさとづくり計画」 (091104_01urahoro.pdfより一部改編). - 23 -.

(7) 宮 前 耕 史・添 田 祥 史 「うらほろスタイルふるさとづくり計画」の「地域づく. したのが人口と富の中央への一極集中であり、地方周辺部. り」計画としての最大の特色は、 ①子どもを「地域づくり」. の限界状況なのではなかろうか。. の中核的な「主体」と位置付けて、大人たちはそのサポー. これに対して「うらほろスタイルふるさとづくり計画」. ト役に徹するという「子ども」を中心とする推進体制と、. において教師と学校が目指すのは、学校を「場」とする子. ②「子ども」による「地域づくり」へ向けた取り組みが、. どもを主体とした地域づくりを通じた新たな価値の発見・. 「学校」を場として、小・中学校教員の主導により正規の. 創造と、その過程における「人づくり」 、そして地域社会. 教育課程の中で行われているという点にある。. そのものの存続が危機にあるという浦幌町をめぐる「地域 課題の解決」である。ここには、学校こそが地域社会に寄. (2) 「うらほろスタイルふるさとづくり計画」の先駆性. 与・貢献していかなければならないとの教員たちの主体的. ところで、「地域に根ざした学校」や「地域に根ざした. 意志の存在が読み取れる。. 教師」というそのあり方は、従来より主張されてきたもの. 「うらほろスタイルふるさとづくり計画」は、地域社会. である。しかし、こうした主張における学校や教師の立ち. そのものが存続の危機にある地方周辺部の地域社会におけ. 位置は、「地域資源の教材化」であれ「地域人材の活用」. る学校・教員の「地域に根ざしたあり方」の先進的な事例. であれ、地域社会に一方的に寄与・貢献を求めるものでは. なのであり、報告者らが「地域に根ざした教師」を目指す. なかったか。学校や教師による地域社会の側からの一方的. 教員養成の立場から、同「計画」に注目する理由もここに. な搾取と言い換えてもよい。そして、その結果として出現. ある。. うらほろスタイル推進 地域協議会 うらほろスタイル 教育プロジェクト (小・中学校/教員). 子どもの想い実現 ワークショップ (地域有志). うらほろ食のプロジェクト (農林漁業家有志). ①地域への愛着を育む事業 子どもたちが「地域の魅力」を発 見するための取り組み( 【図7】 参照) ・町内バスツアー(小・中) ・ 「町おこし」 (中学校「総合」 ). ②子どもの想い実現事業 中学校「総合的な学習の時間-町 おこし」における子どもたちの提 案を、大人たちが実現 ・浦幌弁当 ・町キャラクター(うらはとほろま). ③農村つながり体験事業 地域の農林漁家での生活体験 ・民泊体験(小5「総合」) etc.. 地域 へ の 自 信 と 誇 り、 愛 着 地域へ貢献しようとする意識 【図5】 「うらほろスタイルふるさとづくり計画」概念図 ( 〔うらほろスタイル推進地域協議会2011〕より作成). 【写真2】小学校5年生「民泊体験」. 【写真3】浦幌中学校「町おこし企画発表会」. - 24 -.

(8) 地域に根ざした教師養成のためのプログラム開発. 【写真5】浦幌バスツアー(パラグライダー発着場). 【写真4】 「子どもの想い実現事業」ワークショップ (3)体験学習のプログラム. なお、事前学習会として12月7日には「うらほろスタイ. 「浦幌民泊体験」実習は、12月20(水)~ 21日(木)に. ル推進地域協議会」会長・近江正隆氏を講師に迎え、 「う. 実施した。ここでは、 「うらほろスタイル推進地域協議会」. らほろスタイルふるさとづくり計画」の概要や、取り組み. の全面的な支援を得、 「町内バスツアー」と「民泊体験」. 開始の経緯について講演をいただいた。また、冬休みをは. を行なった。双方ともに、町内全小・中学校においてすで. さみ1月18日には、再度「うらほろスタイル推進地域協議. に授業の一環として実施されている取り組みである。 「民. 会」より近江正隆会長を招いて事後学習会を行った。事後. 泊体験」受け入れ先は浦幌町内の農林漁業家宅8軒、ここ. 学習会では、学生たちは、自らの「民泊体験」実習の体験. に3~4人ずつ8班に分かれ、 「民泊」を伴う農林漁業体. を踏まえ、 「うらほろスタイルふるさとづくり計画」が小・. 験を行った( 【写真5】~【写真9】 ) 。. 中学生に対してもつ教育的意義について検討を行った ( 【写 真10】【写真11】)。. 【表3】小・中学校における「地域への愛着を育む事業」に関する取り組み 学校. 学年. 中 学 校. 3. 目指す子どもたちの想い. 2. 地域開発. 取り組みの内容. 総合的な学習の時間-町おこし「 (町内バスツアー、 「町おこし」企画発表会). 地域貢献への意識 1 6. 町への提言. 小 学 校. 5. 地域への愛着. 4. 自信と誇りの芽生え. 外を見る. 地域食材(家庭科) 、町議会への要望(国語) 、修学旅行 「民泊体験」 (総合) 、浦幌再発見(特産品) (社会) 、水産・農・林業(社会) 町内歴史バスツアー(総合) 、昔のくらし(社会) 、町外との比較(社会)、 生産物の行方(社会). 3. 町探検(社会) 、浦幌の産業(社会・総合) 、砂糖づくり(総合・社会) 浦幌を知る. 2. 魅力発見 牧場・雪遊び(生活) 、留真温泉体験(生活・国語) 、釧路動物園(生活). 1 *うらほろスタイル推進地域協議会パンフレット『うらほろスタイル教育』 (作成中)を元に宮前作成。 *平成 23 年(2011)現在、学校内における取り組みを各学校で整理中。. - 25 -.

(9) 宮 前 耕 史・添 田 祥 史. 【写真6】浦幌バスツアー(浦幌発祥の地). 【写真9】ホストファミリーと昼食. 【写真7】酪農家での搾乳体験. 【写真10】協議会会長・近江氏による講演会. 【写真8】林業体験. 【写真11】協議会会長・近江氏を迎えての事後学習会. 5 小括および今後の課題. 参考文献. 以上、本報告では報告者らによる担当講義における「地. ・うらほろスタイル推進地域協議会2011『うらほろスタイ ルふるさとづくり計画』. 域創造型マインド」の習得をめざした授業改善の取り組み について報告を行った。本報告は、その一年目の経過報告. ・松原治郎・鐘ヶ江晴彦1981『地域と教育』 (教育学大全 集9)第一法規. であるため、その成果は目に見える形としてまだ現れては いない。今後、本プログラムを受講した学生たちの「地. ・矢野峻・岩永久次編1981『現代社会における地域と教育』 東洋館出版社. 域に根ざした教師」としての成長に注目していく必要があ る。また、その反省に基づき、 「うらほろスタイル推進地. ・矢野峻1981『地域教育社会学序説』東洋館出版社. 域協議会」との連携をさらに深め、プログラムの改善と発 展に努力していく必要がある。 . - 26 -.

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