たくましく生きる力を育てる実践
Practice of Mentalretarded Children for
Bringing up with Vital Power
熊畑允子 吉井昌美 植手徳子
NobukoKUMAHATA MasamiYOSHII NorikoUETE
大友貴雄 小俣恵 小田切利幸
TakaoOTOMO MegumiOMATA ToshiyukiOTAGIRI
坂本ちづ子
ChizukoSAKAMOTO
児童生徒が,社会に巣立って,毎日の生活を生き生きと豊かに生きていく力を育てていくための指 導を,小学部,中学部,高等部の一貫した教育課程の中で実践を通して探った. 小学部では,「からだづくり」を視点に身辺生活の処理,集団生活参加の基本的態度づくりをめざ し,社会的・情緒的・知的面の発達を促したいと考えた.中学部では,「集団生活への参加能力」の 育成を通して,進んで集団生活に参加する態度と基礎的能力の育成をめざした. また,高等部では,体験的に学習する「現場実習」を通して社会で人々と共に暮らすための社会参 加への基礎的な能力と働く意欲を育てる実践を試みた. 各学部の実践の中から,児童生徒は,将来の自立に向けて,「たくましく生きる力」を身につけて いることが報告された. キーワード:教育課程の一貫性,からだづくり,身辺処理能力,集団参加能力,社会参加能力,社会 的自立1 まえがき
本校では,児童生徒の実態の移り変わりへ対応しつっ 研究,実践を積み重ねてきた.1988年より1990年にわたっ て,「たくましく生きる力を育てる実践」と題して「個」 に焦点をあて,指導法の探求,意欲的な活動を育てる教 育課程の研究を進めた. 小学部では,学校生活を進めていくにあたっての課題 として,病気欠席や遅刻が多いことがあげられる.その 原因の一部分として,指先の力や目と手の協応動作の遅 れ等身体面,運動面の問題点が考えられる.手・足の発 達が未熟で,内・外反足や扁平足のためか歩き方・走り 方・姿勢の保持等不安定である.そのためか,動きが緩 慢で,運動量が非常に少ない児童が多い.また,二次的 な原因として自家用車による通学や,戸外での遊びが少 ないこと,偏食・小食・多食等の問題点があげられる. そこで,日常生活動作を支える基本的な力を高めるこ とが必要であり,「からだづくり」に取り組んだ.「から だづくり」は,身体面のみに焦点を置くのでなく,から だを動かす活動を通して社会的,情緒的,知的面等の総 附属養護学校 合的な発達を図ることを意図している. そこで,日常生活の基礎となる「からだづくり」を進 めることで,「たくましく生きる力」へと発展させたい と考えた. 中学部では,基本的生活習慣が未確立であったり,表 出言語は単音段階からコミュニケーションが十分に図れ る者まで,発達段階は幅広い.また,思春期で体の成長 発達も著しい.反面,精神的な発達が伴わなず,体と心 のアンバランスから情緒が不安定となる生徒もある.自 閉的な傾向をもつ生徒は,集団の中でも自分のこだわり に固執し混乱する.学校外の生活をみると,家庭ではやっ てもらう生活が多く,自主性を育てたり,最後までやり 通す経験が少ない.加えて経験の枠は狭く,生活そのも のが乏しくなる結果を生む. そこで,学校生活の中で,一人ひとりが精神的に安定 した状態で活動することができ,自己の責任や役割を果 たせる「集団生活への参加能力」に視点を当てて検討し ていくこととした. 生徒に「社会的たくましさ」を重点とした諸々のたく ましさを身につけさせ,社会的自立をめざす高等部へと 繋ぎたいと考えた. 高等部では,卒業後の社会的な自立に向けて,教育課程を編成している. 生徒は,有意味の表出言語が殆どないものから冗談を 交わすことができるものまで,知的能力の幅が広く在籍 する.社会生活力では,自己統制力に欠け自立心(自律 心)もまだまだ低い段階の者から自己を客観的に見るこ とのできる者まである.現場実習では,2時間程度の作 業が継続できず,周囲の状況に左右されやすく集中力を 欠き,対人関係を場に応じて図ることや自分から進んで 働く意欲の乏しさ等社会的な自立に向けて解決していか ねばならない問題が多くある. そこで,社会に出て人々と暮らしていく時にこれだけ は必要という最低の事柄のいくつかを身につけさせたい と考え,家庭と連携を図りつつ指導を進めた. 執筆分担 1 皿 小学部 皿 中学部 IV 高等部
V
熊 畑 允 子 吉 井 昌 美 植 手 徳 子 大 友 貴 雄 小 俣 恵 小田切 利 幸 坂 本 ちづ子 熊 畑 允 子 熊 畑 允 子 ll 小学部「歩行活動を通してのからだづくり」 1 小学部における「歩くこと」について 本校に入学してきた児童の多くは,歩き始めが3・4 才と遅く,入学時には,歩行の姿勢が不安定だったり, 少し歩くと座り込んだり止まってしまったりすることが 多い.また,歩く力が弱いだけでなく,歩こうとする意 欲が見られなかったり,目的地まで皆と一緒に同じ歩調 で歩くことが難しい者もいる. 子どもたちの発達の状況は,運動,社会性,言語の領 域別に見ると,移動運動が最も高く,発語が最も遅れて いる.そこで本校小学部では,まず,体を動かす事から 取り組んでみようと考え,その中でも「歩くこと」を取 り上げた.「歩くこと」は活動の基本と言え,活動量も 確保しやすい.また,本校に通う児童は,車の送迎によ る通学者が多く,歩く機会も少ない.そこで,校外を歩 く機会を積極的に多く取り入れることによって,歩行能 力を高めると共に,児童の全面的な発達も促されるので はないかと考えた. ここでは,現在中学部1年のM子が,小学部に在籍し た6年間(昭和61年度∼平成3年度)の歩行を取り入れ た学習活動を振り返り,その経過を事例として報告する.2 M子の実態
ダウン症.肥満.始歩は4才.筋肉に張りがないため 姿勢が悪く,歩行が不自然で,バランス感覚が未熟.下 り坂では立ち往生の状態で,上り坂では両手をついて這っ て歩く.注1 一人っ子.地域でも同年齢の遊び相手がいない.気分 に左右されやすく,気に入らないと攻撃的になったりす る.身辺処理等の能力は比較的高いが,簡単なことでも 自分でだめだと思うと行動が止まってしまう.水・砂遊 び,人形・ままごと遊び,音楽による遊び等が好きであ る。(S61.4 山梨県中央児童相談所長所見) 3 歩行を取り入れた活動 昭和61年度∼平成3年度の6年間に小学部で行われた 「歩行を取り入れた学習」は表1のとおりである.学部 行事,学部合同学習,学級活動がその主なものであるが, 長距離歩走大会(学校行事)や,家庭と協力して行われ た徒歩による登下校も大切な活動である. 以下では,年度をおいながら残された記録をたどるこ とにより,いくつかの実践を紹介すると共に,M子の成 長をおっていく. 〈昭和61年度 M子1年生〉 入学最初の校外歩行活動は,毎年行われている護国神 社での新入生歓迎会(往復3km)で,新入生にとって は力を試される機会でもあった.歓迎会の反省記録には, 「歩くこと,集合に時間がかかった」「脚力との関係で場 所の検討も…」「歩くのが精一杯という様子なので,歓 迎会でのゲームはやめた」と記されている. 次に,学級での取り組みを学級通信より紹介する. ・この日は,教育学部構内を歩きました.最初はいつも のように,中・高等部の門から出発して,梨大の生協 の前を歩きました.ところが,そのうち,いつもとは 違ったコースを子ども達が歩きだしました.どこに行 くのかな?と思っていると,先頭を切っていた子ども 達がトコトコと一番北にある校舎の方へ向かっていた ので「校舎に入って階段を上ってみよう」ということ になりました.(以下中略)途中で何度も座り込みな がらも,M子は校舎内の様子を興味深そうにながめな がら登っていました. (S61.9.20 No.22) 〈昭和62年度 M子2年生〉 学校行事である「長距離歩走大会」でのM子の6年間 の記録は表2の通りであり,年を重ねる毎に歩く距離が 延びたと共に,歩く速さも着実に速くなったことが わかる.この年のM子の様子を学級通信から紹介する. ・M子は,3km(武田神社東口)コースをA先生と手 をつないで悠然と大地を踏みしめて歩きました.途中,表1歩行をとり入れた学習
表中のA,B, Cはクルーフ名 M+ほAクルーソに所属 新入生歓迎会 春の遠足 つつじが崎学園 校内宿泊訓練 校外宿泊釧練 秋の遠足 学部合同学習 所属学級での学習 (4月) (5月) との交歓会(6月) (6月) (9月) (10月) 護国神社 遊亀公園 つっじが崎学園 大学寮から 小瀬スポーツ公園 梨大工学部構内 61 (路線パス) 徒歩 A 清泉寮 (招待バス) 八幡神社 B からまっ湖 全国身体障害者 雪の中を歩こう スポーツ大会 武田神社 八幡神社 国母公園 本校 大学寮から 池田公園 探検に行こう 62 (大学のマイクロパス) A 濯泉寮 (大学のマイ畑ドス) (大学構内) B からまっ湖 八幡神社 国母公園 つつじが崎学園 愛宕山 歩いて行こう 63 (大学のマ伽パス) 徒歩 A自家用車 (4月) B英和ロより徒歩 C八幡神社より徒歩 武田通り 国母公園 本校 遊亀公園 小瀬 八幡神社へ歩いて 愛宕山探検 H元 (騎馬行列見学) (大学のマイクロパス) 駅の見学 (甲府博専用パス) 行こう {4月) 中学年(9回) (路線バス) 八幡神社で宝探し (5月) 八幡神社 愛宕山 つつじが崎学園 千代田湖 大学寮から清泉寮 国母公園 A武田神社へ行こう 2 徒歩 往路 花園病院よ A全行程定歩3.7㎞ 国母駅まで往路 B冒険ランドで遊ぽう り徒歩 B美しが森までパス 徒歩 (校内) 復路 路線バス 4∼3月計17回 八幡神社 愛宕山 本校 大学寮から清泉寮 国母公園 A武田神社へ行こう 緑が丘へ行こう(4・3月) 3 A八幡神社から徒歩 A全行程徒歩3.7㎞ 電車と徒歩 緑が丘へ行こう 八幡神社へ行こう(5∼7月) B宝石学校から徒歩 B美しが森までオス 国母駅より往復 B八幡神社へ行こう 甲府駅へ行こう(9∼2月) 帰路 車 徒歩 4∼3月計18回 護国神社まで つつじが崎学園まで 愛宕山まで 千代田湖まで H2年度のみ公開 国母公園まで 備 1.5㎞ 2㎞ 八幡神社から2kn 1.6kロ 研のため7月に実 国母駅から片道1.6 考 八幡神社まで 宝石学校から14k皿 施 ㎞ 1㎞ 学校から 3kロ 表2 長距離歩走大会の記録 学年 コース タイム 速さ(m/s) 13㎞
63/27” 0.792
3㎞
45’07” 1.113
欠席4
5㎞
58/00” 1.445
欠席6
7k皿 74’25” 1.57 突然ウンチがしたくなったM子ちゃん.空き地にしゃ がんでウンチをしました.ちょうどウン良く,工事の ッルハシがそばにあり,A先生,あわててこっそり埋 めたそうな. (S62.11.14 No.28) ・16日もごきげんで大地を踏みしめました.あら,ウン チがしたくなっちゃた.今回はS先生とH先生がこっ そり学校の隅に埋めました.(S62.ll.21 No.29) この頃のM子は,排便の習慣が未確立だったこともあ るが,歩く度に排尿や排便を訴えて,歩こうとしないこ とが多かった. また,これまでは母親の自転車による通学が主だった が,2年生の2学期から,不規則ながら徒歩とバスによ る登下校を始めた.母親と一緒に徒歩通学を始めたころ の様子を,学校と家庭の連絡票からおっていく. 昭和62.10.13 昨日学校から岡島まで歩き,バスに乗っ て帰りました.バスから降りて家まで歩き,家につい たのが4時,2時間がかりでした.又,この頃太り気 味なので,歩いて帰ろうと思います. 昭和62.10.15昨日,学校の所で高1のKさんと一緒になり,3人で歩いて帰りました.M子も私と2人の時 は途中で座りこんでしまったり,おんぶしてください, というのですが,昨日はお姉ちゃんと3人で手をつな いで,歌をうたって帰りました. 昭和62.10.17昨日,トンネルを通って帰ってきました. 駅まで歩くよりトンネルを通ったほうが30分位早く, 家に帰れました.トンネルの中はマスクを2枚にして 歩いたりおんぶしたりして,休みながら帰りました. 昭和62.11.14最初の頃よりも歩くのが苦にならなくな りました.手をつないで話したり,歌ったりしながら, 帰るのが楽しみになりました.時々おんぶと言ったり しますが,駅が見えると嬉しいのか「ワー駅,バスに のる」と言いました.学校から家につくまで1時間か かりますが頑張っています. 〈昭和63年度 M子3年生〉 昭和63年度から3年間,本校では「たくましく生きる 力を育てる実践」という研究テーマのもと,小学部では 日常生活の基礎となる「からだづくり」に取り組んだ. それに関わって,歩行についても見直された.「からだ づくり」の考え方は,本校研究紀要16を参照されたい. ここでは,校外宿泊訓練で行われた「大学寮から清泉 寮を目指して歩こう」でのM子の様子について述べる. ・昭和63.9.8 10:30出発.F先生と歩いた。途中,座り こんだりねころんだりした.からまつ湖到着(2km) 11:45.帰りはN先生と.「足が痛い」「暑い」と座り こむこと3∼4回.「お風呂に入るんだよ」というと 立ち上がる事が多かった.道路に大の字になりおもら し.靴を脱ぎ,放り投げる.(当日の観察記録より) 〈平成元年度 M子4年生〉 「からだづくり」の研究も2年次になり,M子の所属 する中学年学級では「山道を歩くことによるからだづく り」として,「愛宕山探検隊」の実践が行われたが,詳 しくは本校研究紀要17を参照されたい.また,この年か らM子は本格的に徒歩による通学訓練を始めた. ここでも前年同様,校外宿泊訓練での様子を記す. ・Hl.9.13「疲れた?」と聞くと大きくうなずいたが, いやがらずによく歩いた.帰りは1時間で清泉寮から 大学寮まで(3.7km)歩いた.(当日の観察記録より) 去年は短い距離だがF先生の手をやかしたM子ちゃん. 山道では怖さで足が出ないことがあったけれど,「慣 れれば上手に歩ける」とM先生.(学級通信No.19よ り)
〈平成2年度 M子5年生〉
「からだづくり」の研究も3年次になり,いろいろな 面からの「からだづくり」が考えられる中,歩く活動も 非常に重要視された.学部としても,合同学習(縦割り A・Bグループ)としてM子の属するAグループにおい て「校外の自然を生かしたからだづくり」というテーマ で,武田神社までの歩行を含めた遊びの指導が展開され た.その活動内容とM子の様子については,本校研究紀 要18を参照されたい.また,5年生の2学期から,M子 は徒歩による一人通学(学校∼甲府駅)の練習を始める. ここでも,ひき続き校外宿泊訓練での様子を記す. ・平成2.7.1210:45出発.教師に補助されなくても 石が飛び出した坂道も比較的よく歩いた.教師が前を 歩いていくと,後ろから教師の名前を呼んだり余裕を 見せ,12:03清泉寮着.帰りは13:25出発.はしゃ ぎながら走ったり歩いたりした.石ごつの道も躊躇せ ず歩き,皆を励ましながら終始笑顔だった.14:33着. (当日の観察記録より)〈平成3年度 M子6年生〉
前年の成果を受け,学部合同学習としてM子の所属す るAグループでは,その活動の中で,歩く道のりをのば すことと同時に,周囲のものへの興味関心を広げること や社会性を伸ばすことをもねらうようになった.また, 学級においても年間を通して週1回,校外学習を行った. その様子について学級通信から紹介する. ・1学期は,八幡神社や緑が丘公園へせっせと足を運ん だ高学年ですが,今学期は思い切って甲府駅まで歩い てみようということになりました.距離も遠くなりま すし,坂道もあるし,車やお店もたくさんあるし,駅 へ行けば電車もある,というわけで,今回はとりあえ ず行けるところまで行ってみることにしました.毎日 甲府駅まで歩いているM子さんが一人で先頭をきって 歩きます.「ひとりで行くう」という意気揚々とした 顔,思いうかびますか? (H3.9.14 No.19) ・学校の門を出て南に下り,大学南の細い道を東に抜け, 武田通りに出ました.M子さんは一人で歩き,信号は 赤で止まり青で進み,早く歩き過ぎたときは後ろを振 り返り,待っている余裕も見せました. (H3.9.20 No.20) ・その名も高きカッパマン.今週は雨続きのおかげで, 水曜日には武田神社へ(合同学習)金曜日には甲府駅 へ(学級)と,カッパマン登場の場が与えられました. 甲府駅へ歩くこと25分.Y先生とM子さんは腕組みし ながら歌を歌ったりおしゃべりをしたりして仲良く歩 きます. (H3.10.12 No.23) ・2学期から始まった「甲府駅に行こう」もついに13日 に最終回を迎えました.思い出すは1回目.確か小雨 の降る中出発し,いちやまマートまでで引き返した記 憶があります.(中略)そんな甲府駅の活動も今では 時間内に駅まで歩いて行けるようになり,さらに駅の中を見学したり買い物したりという余裕まで持てるよう になりました. (H4.2」5 No.39) また,6年生になったM子は,一人で胸を張って甲府 駅まで下校するようになったが,学校と家庭との連絡票 からその一部を紹介する. 平成3.9.3 きのうもM子は,一人でどんどん駅まで歩 いていました.信号のない横道の場所は,何回も左右 を見てから手を上げて渡りました.そんなM子を遠く から追って歩きながら,未熟児で生まれたM子が駅ま で一人で歩くようになったことが夢のような気持ちに なり,幸せを噛みしめながら駅まで歩きました.駅で 座って私を待っているM子を見て,何とも言えない親 心を感じました. 4 まとめ 小学部卒業の日,M子は一人で壇上に上がり,礼をし て卒業証書を受け取り,一段一段踏みしめながら階段を 降りた.その堂々とした姿に,これまでのM子を思い出 しながら,心身共に大きくなったM子の成長を実感した. 図1のように,M子のu一レル指数は下降傾向にあり,溶 連菌による欠席がなくなったため,欠席日数も減っている. 6年生では特に,言語面の伸びが顕著で,周りの人と の会話が増え,大きな声で歌を歌うようになった.同じ 頃,自分の名前を平仮名で書けるようになり,家族や教 師の顔や駅で見るタクシーの絵を描くなど,知的面の成 長も大きかった. また,情緒が安定し,友達に噛みついたりすることや 排泄での失敗がほとんどなくなり,5年生の3月に始まっ 200 190 180 170 160 150 0 ()内は欠席日数 4 9 14 9 14 9 1 4 9 14 9 1 4 9 1(月) た生理の始末も自分でできるようになった. このような6年間の経過を通して見い出されるM子の 行動の変容は,諸発達へとつながる多くの萌芽と見るこ とができる.小学部の活動を通して得たものを基礎とし て,今後,中・高等部での活動を通してさらにその萌芽 が伸びていくことを期待する. 註 1)山梨大学教育学部附属養護学校研究紀要17. 皿 中学部 「宿泊訓練」 1 はじめに 中学部では,小学部で培われてきた「身辺生活の確立」 をより一層高め「集団生活への適応能力の育成」につと め,9年間の義務教育の最終段階として,また,高等部 への中間的学年部として,たくましく生活する力を身に つけさせてゆきたいと考えている.そのために,一人ひ とりの安定した集団参加に向け,基本的生活習慣を身に つけさせたり,生活経験の幅を広げさせていくための教 育課程を編成している.領域・教科を合わせた指導の代 表的な形態である生活単元学習をその中心に位置づけて いる.生活単元学習では,共通の目的課題にむけて,一 人ひとりの生徒が自分で考え行動し,人とかかわり,多 種多様な経験をすることにより活動終了後,満足感・成 就感を得ることができる. また,この学習における課題を解決する過程をとおし て生活上必要な知識・技能の獲得,望ましい習慣・態度 の形成をねらい,実生活の中で生かしていくことをめざ している.生活単元学習のねらいは,○集団づくり ○自 発性,自主性,協調性の伸張 ○生活経験の拡大 ○作業 態度・習慣・技能の育成である.その内容と授業形態は, ○作業的な活動を主体とする栽培活動に関するもの ○学校・学部行事に関するものを学部合同集団で ○季 節と暮らしに関するもの ○公共施設や公共物の見学・ 利用 ○自然の事物・現象に関するものを学級集団で行っ ている. 合同の生活単元学習の年間計画は,次のとおりである 「いも煮」に入れる 腐葉土を おいしい野菜を作ろ 作ろう つ 4月・畑づくり 5月・種まき・苗植え 6月・作物の手入れ 7月・作物の手入れ 8,9月・作物の手入れ 行事 単元 ・袋づめ ・販売 ・新入生歓迎会 ・修学旅行 ・市内交流会 ・宿泊訓練 図1 ローレル指数の推移
10月・収穫 11月・収穫 ・畑の整理 12月
1,2月
3月 ・運動会 ・秋の遠足 ・スペシャル スポーツ大会 ・落ち葉 ・収穫祭 あつめ ・長距離歩走大 会 ・クリスマス会 切り返し・学習発表会 ・おわかれ会 本稿では,生活単元学習「宿泊訓練」を通して,集団 活動に資する実践をまとめてみる. 2 平成4年度の「宿泊訓練」の実際 宿泊訓練は,宿泊活動を通して,次のことをねらって いる. ○基本的生活習慣の確立を図る. ○友達と協力して楽しく集団生活を行う. ○自然に親しみながら生活経験の拡大を図る. 本校の中学部開設以来継続してきた学習活動である. 今年度も,2泊3日の宿泊訓練を八ヶ岳少年自然の家で 行った. (1)生徒の実態1年生7名,2年生6名,3年生4名,合計17名が在
籍している.内訳は,男子9名,女子8名である 知的 発達は,測定不能の生徒が8名,IQ20∼50までの生徒 が7名,IQ55∼71までの生徒が2名である.てんかん, 心臓疾患,難聴を併せ持っている生徒も5名いる.着替 え・排泄・食事・睡眠・入浴などの基本的生活習慣は, 未確立の生徒が多く,確立している生徒でも,時間がか かったり,不十分な面があり,引き続きの指導を要する. 集団での活動に於いては,興味関心の幅が狭く集中して 取り組むことができない生徒が多い.また,自分から何 かをしようという意欲は,全体的に低く見通しを持って 活動できる生徒が少ない.人とのかかわりもグループを 意識して行動することが難しい生徒から,少しの援助に より小集団のリーダーとして行動できる生徒まで多様で ある. (2)活動の様子 第1日目……9月9日(水) 8:45 ・甲府駅北口集合……生単班 ・はじめの会…………集会係 9:22 ・甲府駅発(中央線) 10:08 ・小淵沢駅着 ・野外炊事の材料買い物…生単班買い物係 11:14 ・小淵沢駅発(バス) 12:02 ・清里駅着(徒歩) 12:30 ・自然の家着 ・昼食・………・・生単班 13:30 ・入所のつどい………集会係 ・荷物整理・着替え…各部屋 14:30 ・野外炊事………生単班 18:30 ・入浴・………・・各部屋 19:30 ・就寝準備・日記帳記入・歯磨き 21:00 ・就寝・消灯 第2日目……9月10日(木) 6:00 ・起床・身支度・洗面……各部屋 ・朝の会………・………・・…生単班 7:30 ・朝食・片づけ………食事係 ・出発準備 9:30 ・冒険ハイク…………・…・・生単班 15:30 ・自由時間 〈キャンプファイヤー……キャンプファイ 準備〉 ヤー係 17:00 ・夕食……・一…・…………食事係 18:30 ・キャンプファイヤー……キャンプファイ 20:00 ・入浴 ヤー係 20:30 ・就寝準備・日記帳記入…各部屋 ・ベッドメイキング ・歯磨き・トイレ 21:00 ・就寝・消灯 第3日目……9月11日(金) 6:00 ・起床・身支度・洗面…各部屋 ・朝の会………生単班・集会係 7:30 ・朝食………・・生単班・食事係 8:30 ・清掃………・………・・各部屋 9:00 ・荷物整理………各部屋 9:30 ・退所式………生単班・集会係 9:50 ・自然の家発…………生単班 12:19 ・甲府駅着 ・終わりの会…………生単班・集会係 12:30 ・解散 〈日常生活の指導〉 朝起きてから夜寝る時までの2泊3日の生活の中で 食事,排泄,寝起き,清潔,入浴,身なり,整理等の 指導をした.日常の学習で指導されている内容を,ま た,学校生活でなかなか出来ない内容をゆったりとし た生活の中で自分でする事を主眼に指導をおこなった. 〈野外炊事〉 キャンプ場での野外炊事を通して,次のことをねらっ た.○自然の中で協力しあい,自分の役割を果たしあっ て夕食をつくる. ○火のおこしかた,かまどを使った飯ごう炊飯の体 験をする. ○芋煮作りに興味を持ち作り方を覚える. ○野外で皆で楽しく食事をする. ○片づけをきちんとする. 調理については,家庭科で野菜の切り方や簡単な料 理の仕方を学習している.また,「いも煮」について は,昨年度の学級園単元「ほうとうに入れるおいしい 野菜を作ろう」で栽培したじゃが芋,かぼちゃ,さっ ま芋,里芋を使った「ほうとう作り」を宿泊訓練,収 穫祭で学習している.本年度も昨年度同様に「いも煮」 に使う野菜を栽培し,市内交流会,宿泊訓練の事前学 習や野外炊事で何度も「いも煮」を作っており,収穫 祭でも作る予定である. かまど係,ごはん係,野菜係に分かれて活動した. 班独自の材料は小淵沢駅周辺で買い物をした. つくった食事は,ちびまる子班は「芋煮・ふりかけ ご飯・プチトマト」トトロ班は「さつまあげ入り味噌 煮・納豆ご飯・いわしの缶詰添え」バナナ班は「芋煮・ ご飯に漬物・マミーの飲み物」だった.満足そのも のの顔だった. 〈冒険ハイク〉 オリエンテーリングとフィールドァスレチックを組 み合わせた,12のチェックポイントがある冒険ハイク では,次のことをねらいとした. ○自然に親しむ心を育てる. ○自ら考えて安全に注意しながら,精一杯課題に挑 戦する. ○助け合い,励まし合いながら身体を動かす. 友情のウオール,レインジャー,モンキーブリッジ ケーブルサーキット等,足もとのおぼつかない所を渡っ たり,高い所に登ったり,渡ったり,皆必死だった. 昨年怖がった生徒が今年はいろいろにチャレンジしク リァーしていた. 〈キャンプファイヤー〉 友達同士楽しく過ごし,仲間意識を高めることをね らいにキャンプファイヤーを行った. キャンプファイヤー係は,自由時間に薪つみをした. また,事前学習でインディアンの羽根飾りを作った一 人ひとりが頭に羽根飾りをつけ,顔にボスカ(ポスター カラーマーカー)でメイクをし,インディアンになっ た.インディアンの酋長と火の神様をお招きしてイン ディアンファイヤーを行った.火の周りでお話を聞い たり,踊ったり,火に映える顔は楽しそう,嬉しそう. その後,花火をして“今日の日はさようなら”を歌っ て終わった. 3 まとめ (1)基本的生活習慣の確立を図る 中学部では,基本的生活習慣の確立を図るために,日常 生活の指導に多くの時間をかけている.担任の観察や家 庭で記入する調査により,実態を把握し,生徒一人ひと りに応じた指導をおこなった. 寝食を共にした宿泊訓練をとおして,生徒の実態がよ くわかった.指示されても全くしようとしない生徒や言 葉かけ,先生の援助でやろうとする生徒等様々である. 着替え・排泄・食事は完全にできるが,自分の持ち物の 整理・整頓が全くできない生徒も数名いた. また,学校生活では全くわからない入浴・寝起きの習慣 についても実態が把握できた.朝食が食べられない生徒 もいた.折りにふれて,PTAの集まりで家庭の協力を 求めてきたが,生徒の様子を見て,一生懸命指導してい る家庭とそうでない家庭もわかった. そこで,宿泊訓練直後のPTAの例会において, VT Rで生徒の活動している様子を見ながら,今しなければ ならない事,家庭ですべき事を話しあった. (2)集団生活の参加能力を高める. 集団生活の楽しさを味わわせるために,野外炊事,冒 険ハイク,キャンプファイヤーの活動を行った. 中学部では,一人ひとりの生徒が持っている力を充分 に発揮できるように,学習の目的や内容によって様々な 学習集団を編成してきた. 宿泊訓練では,学部全体を3つの等質グループに分け た「ちびまる子班」,「トトロ班」,「バナナ班」で活動し た.リーダーを中心に友達同士の関わりを重視した活動 をした.また,能力差を生かす場の設定も心がけた. 班長には班長であることを意識させ,班員の掌握,話 し合い活動のリーダーをさせた. 野外活動は全て班を単位に活動し,次のことをねらっ た. ○友達と一緒にいることができる. ○自分から友達にかかわろうとする. 宿泊訓練の各係を全体で分担し活動した.冒険ハイク では課題に挑戦させた.尻込みしながらも自分で考え工 夫しながらチェックポイントをクリァーしていく喜びが 援助している我々に伝わってきた. これらの活動を通してグループのリーダーを中心に生 き生きと協力する姿や自発活動が見られた.また,毎年 同じ活動内容であること,事前学習,キャンプファイヤー の準備・練習,野外炊事の買い物計画・練習,各係の相
談などで生徒たちに見通しと期待感が持てたことも生き 生きと活動する要因になったと考える. 中学部を終えると殆どの生徒が高等部へ進学する.中 学部での集団活動で生き生きと取り組む態度が,高等部 でのたくましい自立的な生活の基礎となっていくであろ う.
W 高等部 「たくましい社会自立に向けて」
高等部では,小学部,中学部で育んできた力の上に, さらに,社会の一員としてたくましく生活していく力を 身につけさせたいと願っている. そこで,教育課程の中心に領域・教科を合わせた指導 とされる「作業学習」を据えている.「作業学習」は, 教科学習の「職業」および「家庭」の内容を基本に,他 の教科,領域の内容を合わせた指導である.本校高等部 では「将来の社会生活・職業生活に必要な基礎的知識・ 技能・態度の育成を意図し,体験的学習によってその目 的を達成しようとしている.」と概念規定をしている. 作業学習には日課表の3分の1近くの時間を占めるコー ス別作業学習(農耕・木工・窯業・リサイクル),現場 実習,農園実習が位置付けられている.本稿では,最も 体験的に学習する場である「現場実習」を通して,より 自立的な生活を求めた実践を述べることとする. 1 現場実習の概要 高等部では,卒業後の社会自立をめざし,在学中に年 2回の現場実習を実施しており(3年生は就労をめざし て数回),その概要を紹介する. (1)現場実習の意義 会社や作業所等での仕事や生活を通し,働くことの大 切さ,厳しさを学び,卒業後の社会生活への適応力を高 めること等にねらいがおかれている. (2)実習先の開拓 生徒一人ひとりの実態に合わせた実習先を確保するた めに,できるだけ多くの実習先を開拓しなければならな い.そこで,公共職業安定所の紹介,新聞雑誌等の求人 案内,教師や保護者からの情報を手がかりに実習先を開 拓している.現場実習の意義・生徒に対する理解はどう か,作業場所の環境,特に危険に対する配慮がされてい るか,通勤が無理なくできるか,といった点に留意して いる.生徒を受け入れていただいている実習先は会社, 施設(更生.授産),福祉作業所である. (3)実習前の指導 事前指導では,今までの現場実習の様子をVTRで視 聴したり,実習日誌への記入を通して,実習先の名称, 所在地,通勤方法等を理解させ,関心や意欲を高めてい る.また,激励会を開催し,意欲をもって実習に臨める ように,生徒一人ひとりが「頑張ること」を決意表明と して発表している. 併せて,実習の一ケ月前から休日等を利用して,実習 先までの通勤の訓練を保護者のもとで実施している.ま た,保護者説明会を開き,現場実習のねらい,実施方法 家庭でなすべきこと等,実習に関わることについて協力 を呼び掛けている. (4)実習中の指導 巡回指導として,生徒の実態によって異なるが,実習 先を数回訪問する.作業や休憩等の様子,生活の様子等 を観察し,指導者から話を聞き,必要に応じて,指導し たり,励ましたりし,巡回指導記録に残している.また 教師全員で共通理解を得るために報告会をもち,必要な 場合は,即時家庭に連絡を取る. (5)実習終了後の指導 終了後,事後学習として実習先にお礼状を書いたり, 報告会で全員が良かった点や今後努力すべき点を発表し 実習の反省を行っている.また,保護者と生徒との三者 懇談を実施し,実習を通しての成果や反省点について話 し合いをもち,今後の実習や学校・家庭での学習に生か している. (6)学習の成果 実習の終了後に総合的な評価を得るために,実習先に 評価表への記入をお願いしている. 平成4年度前期実習の成果を評価表から読むと次の良い 評価を得ることができた. ・注意や指示を素直に守ることが出来た ・時間いっぱい一生懸命頑張った ・係の人の言い付けを守った 反面,人間関係や積極性に欠けると以下が指摘された. ・言われればその通りにやるが,積極的に仕事をやろ うとしない ・きれいに仕上げるがのんびりしすぎて手早くない. 実習を通して,生徒の課題が明確になり,教師・保護者 共にあらためて生徒の問題点を再確認できた. 以上のように高等部現場実習の概要をまとめた.卒業 後の進路を見据えて,生徒の能力や適性を見極め,より 良い現場実習をめざして一層の充実を図っていかねばな らない. 2 実践例 周囲の影響を受けやすいE子の指導 (1)本生徒の実態 E子は,市内中学校の特殊学級を卒業し,本校に平成 4年に入学してきた生徒である.身辺処理は,確立して おり,理解力もあるが,精神的に弱く,少しのことで動揺し,腹痛を訴える.中学在学中は,大変おとなしく, 一#T3幸M乏thI,1,}.1i,11右十}、ア∼、ノ >lI着ア 1レ「1:・ #._ナ7ぬミ っト士吉 IAKコ=V/IX,N−. I IJ.VI」 V 、 V 、 一 V ノ ー 」 、 O「ノ ノ’一ノ)’, !」VL’1.K 入学後は,友達に声を掛けたり,友達の世話をやくなど 積極的な面がみられるようになった.しかし,友人との トラブルに影響されやすく,学習に集中できず,涙ぐん だり身体の不調を訴えることが何回かあった.精神的な 立直りは速く,腹痛を訴えた直後に,大きな声で友達と 遊ぶ姿がしばしば見られた.両親は,大変熱心で,E子 への理解もあり,学校にも協力的である. (2)現場実習先の決定と準備 今まで現場実習を全く経験してないことや,E子の実 態より,通勤の負担がなく,しかも,理解を得られる実 習先ということで,Fスーパーにお願いすることにした. 実習前に,まず,E子に現場実習の目的を繰り返し話 し,自覚を促した.また,家庭にも,日記帳を通じ,通 勤訓練や,実習に対しての担任の考えを伝え,家庭の理 解を得た.家庭からの通信には,実習への正しい理解と E子への熱心な指導の様子が書かれていた. また,実習先にも,E子の実態を詳しく伝えた.会社 側の返事は「大丈夫です.」と心強いものだった. (3)実習の様子 実習が始まり,慣れないながらも,E子のがんばりが みられた.家庭からも,頻繁に連絡が入った.実習先へ のあいさつの仕方等,細かいことにまで配慮してのこと だった.また,実習先でも,E子が働きやすいような環 境をつくる等配慮してくださった.周囲の方も,E子に あった作業を用意してくれたり,E子への励ましの言葉 をかけて下さった.教師の巡回時,E子の表情は,明る く,「楽しい.」「Fスーパーに就職したい.」というほど であった.一度,そうめんの箱を切るとき,中のそうめ んの袋も切ってしまい,落ち込んだことがあったが家庭 でお母さんが,E子に上手に対応して下さったり実習先 でも周囲の人からなぐさめられたりしたことで,乗り切 ることができた. (4)今後の課題 今回は,周囲の温かい理解と家庭の協力を得,やり通 すことができた.今後は周囲からの援助や評価に左右さ れず,E子が働くことそのものへの喜びや充実感を感じ て,実習をやり通すことが課題だと考える. 3 実践例 精神的に弱さを持つM男の指導 (1)生徒の実態 M男は現在高等部2年に在学している.身辺処理は確 立しており,一通りのことは自分で行うことができる. IQは48,療育手帳はB−1の判定を受け,中程度の精 神発達遅滞と認定されているダウン症候群児である.性 格は大変明るく,人なつこい.肥満傾向にあるため,動 〃ロ,十Jお、白延小鳳一六、 〃亡堂当羽」らノL↓_古ナP じ㌦斗虫ごヒ h♪「h卓アユ、ミ 1ドは、い限民\,け本丁口、−1⊥中鳳しはαノ(入ソ、vtノ’一M らない.学校ではのびのび生活しているが,新しい環境 に適応するまでには,大変時間がかかり,精神的に極度 な緊張状態に陥ることがある.そのような場合には,嘔 吐したり,大便等の失敗をするといった現象が時折見ら れる.また,両親への依存傾向も強く全て両親にやって もらうといった側面もある. (2)現場実習先の設定 1年生の時にY乳酸飲料会社とA電子株式会社に実習 に行った.2度の実習とも実習が始まる直前から精神的 に緊張した状態になり,朝,登校時に吐くといった現象 が見られるようになり,実習が始まって環境に慣れるま でそうした状態が続いた.実習先の雰囲気に慣れるに従っ て現象はおさまったが,その一方で緊張感がなくなるに つれて仕事の選り好みをしたり,午後になると座り込ん で仕事をしないといった状態が続くようになった.そこ で,今回実習先を設定するにあたって,M男のように障 害を持ち,話相手となってくれそうな従業員のいる職場, および,障害者に対して理解があり,温かく指導してい ただけそうな職場を選択し,A株式会社を実習先に設定 した. (3)今回の現場実習の様子 今回も実習が近付くにつれて緊張状態が見られるよう になり,登校時に吐くといった現象が始まってきた.そ こで,家庭との連絡を密に取りながら,M男に実習先の 様子を知らせたりして指導した.また,クラス全体の雰 囲気を実習に向けて「がんばろう」と盛り上げた.この ように,緊張状態を少しでも解きほぐすように指導した が思うほど効果は上がらず,結局,今回の実習では,極 度の緊張のため,初日から2日間実習を休むこととなっ た.ようやく3日目から母親と共に出社し実習が始まっ た.実習が2週目に入る頃になると,緊張もとれ,回り の人とも冗談が言えるようになり,仕事も次第に長い時 間取り組めるようになってきた.特に今回は機械を使っ て仕事をすることが多く,「機械操作」が本人の作業の 意欲を喚起することにもなり,仕事は以前の2回の実習 よりは持続して取り組むことができた. (4)今後の課題 ・就職に向けての実習先の開拓 ・新しい環境にスムースに適応できる精神力の育成 ・自分でできることの拡大 ・職場までの自力通勤 4 実践例 根強く現場実習に取り組んだJ男の指導 (1)生徒の実態
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高等部3年に在学している男子生徒で,IQ41,療育 手帳B−1の判定を受け,中程度の精神発達遅滞と認定 されている.性格は大変明るく,人なつこいが小心者で “オバケがいる”と信じて怖がるなど幼児性を残してい る.彼は誰にでも声をかけ,すぐ仲良しになってしまう. 通学中に出会うおじさん,おばさんに始まって,運転手 さん,駅長さん,ガソリンスタンドのお兄さん,お姉さ んなどに話かけ,顔馴染みの人は相当数に上る.学校で も同様で話しだすと際限もなく,制するとしばらくは止 むが,また始めるといった具合で話す事で安定感を保っ ているとも受け取れる.また,手指の巧緻性に欠け絶え ず周囲に気をとられ,集中力にも欠けるので色々な事に 取り組んでも雑な出来具合であったり,やり残しが目立 ち,それを認識する力にも欠ける. 家庭は大変温かく,彼の性格や所作を理解している. 自立の方向へ努力しているが,母親依存の傾向が強い. (2)現場実習先の設定 実態を学校と家庭で話し合う中で以下の実習を行った. 1年次…生活と作業の両面に渡って指導してくれる通所 型のM作業所へ2回行く. 2年次…働く事の意欲が少し見えてきたので,通勤可能 で体を大きく動かして仕事ができる,O木工所で実習し た.後期には「親にべったりでよそに泊まれない.」と いう欠点を克服するため入所型施設で,生活及び作業を 2週間行い,残り1週間は前期にお願いした0木工所へ 行く. 3年次…こじんまりとした家内工業的要素を持ちJ男を 仕込んでくれるような事業所ということで地域にあるT 製菓子店へお願いする.夏休み中,K精密機械株式会社 で手先を使った細かい仕事にもチャレンジする.秋口と 後期現場実習の両方を障害者に理解のあるN産業株式会 社へ.雑役に始まってダンボール箱の運搬,簡単な梱包 を結束機を使って行わせていただく. (3)実習の結果と就労に向けて J男は現場実習を嫌がらず,何回もチャレンジし,ど この職場でも可愛がられ受け入れて貰えた.おしゃべり の多さと仕事の不出来に,「もう明日から来なくていい よ.」と叱られると泣きべそをかきながら来させてくれ と言えるまでになった.しかし,意欲と人柄では就労に 結び付かない皮肉な一例でもある.将来のことを考える と指導者のいる通所の施設か,事業所でもよほど理解の ある所でないと無理であると考えた.家庭でも,親が年 取ることを考えたり,彼の成長をより以上に望むならば 施設入所で鍛えてからでも就労は遅くない,でも,家か ら通える所があったら…とずいぶん迷い,揺れた.後者 の願いが叶うべく,再度N産業株式会社に実習し「三つ の事さえ出来たら,工場の隅に2年や3年立っていても いいよ.」と,不況下で,家から通勤可能な所へ就労で きるかもしれないという状況までこぎつけた. 三つの条件とは,以下の通りである. ①一人で通勤出来ること ②身辺処理(とりわり,食事,排泄)が,まがりなりに も一人で出来ること. ③「○○してはいけない.」(例えば,この機械には絶対 にさわるな.)と禁止された事が守れること. 5 まとめ 現場実習の概要と3つの異なった視点からの実践例を 述べた. 養護学校の就学義務制がしかれて13年経過し,社会の 理解も少しずつ得られるようになってきた.福祉の面に 於いても,施設ができ,通所作業所が生まれ,また,国 際障害者年を契機として障害者雇用の面でも進歩が見ら れた.しかし,平成4年のように巷で不景気になると, 本校の生徒は卒業後に行き場を失ってしまうのが現実で ある.卒業後どのような生活の場に於いてもたくましく 生きぬいていく力を身につけるために,繰り返し,繰り 返し訓練していくことが一番大切なことである.それは, 特別なプログラムや事柄でなく,日常生活すべての中で の自立的な生活づくりであり,家庭と連携を図ることで より効果を上げることができるであろう.
V,まとめと今後に向けて
各学部の実践を通して「たくましく生きる力」につい て探ってきた. 小学部では,日常生活を支える基本的動作の力を高め ることの必要に迫られた.そこで,生活の基礎となる 「からだづくり」を目標に,活動の基本である「歩くこ と」を実践研究の内容の中心として取り上げた. 小学部入学より6年間の歩行に関する実践記録から, その活動は歩くことのみに止まらず,様々な事柄に波及 している様子がうかがえる.特にひとり通学に向けて, 母親とのたゆまない訓練が,M子の自立に向かって大切 な財産となっていくことだろう.また,M子と同様に小 学部児童の多くが,愛宕山登りや校外活動を通して,か らだを使う学習に進んで取り組んでいくようになった. 中学部では,生活経験の拡大を図りながら,集団生活 への参加能力に焦点をあてて「宿泊訓練」を取り上げた. 日常の生活に,さらに新しい生活経験が組み込まれ, 楽しさいっぱいの「宿泊訓練」を通して,興味関心の広 がりや,できることが増えていった様子がうかがえる.また,長時間の,活動ごとに形態の変わる集団活動の中 郭 植鰹惑de牛1,ア游テニ善}、ア 庄㍉庄ミ阜Lこ庄舌いアEv h 、, 0円η、目Utへ人仁) \作∫リ!口v 、,]Lcr]」C、Lf]5助.一叶入’ノ 組むことのできた様子が述べられた. 高等部では,社会的自立に向けて,体験的学習の場で ある現場実習での実践を報告した. 家庭や職場の温かな心配りの中で実習をやり遂げるこ とができたE子には,働くことの意義を理解し,喜びを もって働けるようにと望む.精神的な弱さをもち,働く 意欲の低いM男は,自分のことは自分ですることから始 まる自立への訓練が,大きな課題として示された.また 卒業後の職場を求めて,何度も実習に取り組んだJ男は 大変理解を示してくださる事業主に巡り合うことができ 就労に向けての三つの条件が示された. それぞれの学部での取り組みは様々であるが,各学部 は以下の育成をねらっている. 小学部の身辺生活の処理,集団生活参加の基本的態度 中学部の進んで集団生活に参加する態度と基礎的能力 宣埜立rr/hi↓△≠さ十†n^(宜石桃白ξ1ナ声台ft −fr L胤ノ音クW 同寸叩∨ノ1⊥zxw−’〃H wノ坐肥μγ胡ロノ」(.働\…臥 それは,小学部から中学部高等部へと一貫性をもって進 んでいる. 小学部のM子の「歩行を取り入れたからだづくり」の 実践でついた力は中学部平成4年度の「宿泊訓練」にお ける実践で報告されたように,のびのびと集団活動でき る力へと成長を見せているのではないだろうか.さらに 高等部になって,作業学習の中から学び,特に,家庭か ら学校から離れて現場実習の体験をすることにより,親 も子も自立に向けての厳しさを学びとっていくことがで きるであろう. このような実践を積み重ねていくことによって,「た くましく生きる力」つまり,社会に巣立って,毎日の生 活を生き生きと豊かに生きる力が,育っていくことを確 信している.