幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程 : 在園児保護者への「子育て支援」を考える 利用統計を見る
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(2) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. 第 17 巻 P153∼165. 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程 ─ 在園児保護者への「子育て支援」を考える ─ Process of Parents Participation in Kindergarten Activities 田 甫 綾 野* Ayano TAMPO 1.はじめに 現在の日本の「子育て支援」は、幼稚園や保育所入園前の専業主婦層への支援(子育て広場等の充実) と、「保育サービスの拡充」とが中心になっており、幼稚園や保育所に入園後の支援については充実し ているとはいえない状況である。2008年告示の保育所保育指針では、 「保護者支援」があげられており、 ①日々のコミュニケーション②保護者が参加する行事③保護者の自主的活動の支援④相談・助言とい う内容が示された。しかしながら、育児不安等の親に対する個別支援等も重要であり、実際には、保 護者の自主的活動の支援などについてまでは進んでいるとは言えない状況である。 また、筆者が保護者として保育園の見学をした際の印象も、「保護者の負担は出来るだけ少なくして いる」という園の姿勢を強調する傾向が強かった。このことは、保育園の保護者たちが、園のことに 対してなるべく「かかわらない」ことを望む傾向にあるということだろう。この傾向と保育サービス の拡充は関係しており、現在の親たちは、なるべく長時間子どもを預け、仕事や自分の時間を確保し たいという傾向にあることが推察できる。それは、子どもと共にいる生活よりも分離した生活の方が、 自己充実感が高いということでもあり、このような状況での少子化、子育て不安の解消は難しいので はないだろうか。 一方、諸外国では、保護者の保育への参加が注目されているという。池本(2014)は、OECDの2012 年の報告書において、日本では保育者の資格、研修、労働環境の改善に重点がおかれているが、家族 や地域の参画については、ほとんど話題になっていないことを指摘する。そして、親の意向を施設運 営に反映させることをねらった会の設置を義務付けたり、推奨したりしている国も多く、加えて、親 の交流や子どもの環境改善を目的とする組織を置く国もあるという。これは、子どもを育てる保護者 の責任として、保護者の主体性が保障されていることと考えられる。保護者が保育に参画するという ことは、保護者が保育所や幼稚園での子どもの育ちに興味をもつということであり、子育てを保育所 や幼稚園と共同して行っていくという意思の表れでもある。 本研究では、池本の指摘するような、対等な立場での民主的な保護者の園へのかかわりではなく、保 護者が主体的に園生活を支える一員となっていく中で、保育者と共に、園の子どもたちを育てていく という姿勢を築くことが可能になっていると思われるM幼稚園の実態を明らかにしたい。 2.研究目的 子育て世代が子どもの成長に喜びを見出し、子育てを通じて地域とつながり、子育てを楽しいと実感 できるようになることが、現在のストレスの高い育児環境や少子化の時代を脱却する一つの方策にな *社会文化教育講座. ─ 153 ─.
(3) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. 第 17 巻. ることは間違いないだろう。そのためには、親子を隔離していく方向に向かっていくのではなく、親 子が共に楽しみ、親子が共に仲間とのつながりをもち、地域とつながっていくことを助けていくこと こそが「子育て支援」の中核になるべきなのではないだろうか。保育所保育指針の保護者支援の②③ に書かれているように、保護者の自主的な活動を支えていくような支援ともつながっていると考える。 そこで、本研究では、保護者の行事等への参加や保護者の自主的活動の支援を積極的に行っているM 幼稚園の保護者参加の行事の分析を通して、そこでの実態を明らかにし、幼稚園や保育所の「子育て 支援」について具体的に考えることを目的としたい。 3.研究対象および研究方法 (1)研究対象 本研究は、千葉県にあるM幼稚園を対象としている。M幼稚園は、園児数約260人の私立幼稚園で、 2014年2015年度は3歳児3クラス2人担任、4歳児4クラス、5歳児3クラスの1人担任の学級編成 である。M幼稚園はまず教会が設立され、その後地域の要請によって幼稚園が作られ、創立60余年に なる。2世代、3世代で通っている家庭も多く、卒園児の保育者も多くいる地域に根差した幼稚園で ある。また、担任保育者の性別、年代が多様なことも特徴的である。 (2)研究方法 本研究では、M幼稚園における保護者の参加過程を明らかにするために、保護者参加の行事につい て観察した記録を分析することとする。 M幼稚園へは2013年度からフィールドワークを開始しており、2014年4月からは現在まで月に2∼ 3回の観察を定期的に行っている。観察に関しては、筆記記録およびデジタルビデオカメラでの撮影、 またビデオカメラの静止画記録機能を使用しての写真撮影を同時に行っている。 4.保護者の園活動(行事)への参加の様子―「カレーパーティー(5歳児バラぐみ) 」 (観察日: 2014年10月7日) 「カレーパーティー」はクラスごとに日にちが決められ、園庭のおおきなかまどで母親たちが朝から カレーを作り、親子で食べて遊ぶという内容である。文末〈事例1〉を参照されたい。 カレーパーティーの大まかな内容は以下のとおりである。 ① 係の母親によるカレー作り(朝から) ② お昼前に集まり親子でカレーを食べる ③ 母親たちの考えたゲームで遊ぶ(親子対抗ゲーム、宝探し等) 〈事例1・分析〉 カレーパーティーは、カレーの会食とレクリエーションの二部構成となっている。特徴的な点として、 第一に、この行事の運営を母親が行っているという点である。ゴシック部分が、会の進行に主体的に かかわっている発言や行動である。これを見ると一目瞭然であるが、ほとんどが保護者の欄に集中し ている。カレー作りに始まり、会食の場の準備、レクリエーションの運営とすべてが母親たちの手によっ て行われている。何人かの母親が中心となっており、その数名(Aさん∼Eさん)によって会が運営 されていることが分かる。また、波線部が主導権をもって、会の進行を担っている部分であり、Aさ んが中心となってレクリエーションが進行されている。 N保育者も運営にかかわっている部分はあるが、子どもたちが集まらない際の声掛けという進行の 補助的なものであり、主導権を握っていたのは、「いただきます」の歌とお祈りをする際の合図(これ. ─ 154 ─.
(4) 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程. (田甫綾野). も小さな声で「サンハイ」と言うのみで中心となって子どもたちを統制してはいない)、親子リレーの 審判(親子リレーについては、男児チーム対女児チームとなっているため、公平を期すためにN保育 者が審判役になっていると思われる)と、会の最後に子どもたちが母親たちにお礼を言う部分、また 運動会についての伝達と子どもの運動会に向けての様子を話す部分のみであった。幼稚園や保育所の 園行事でこれだけ保護者の主体性に任されているものは珍しい1。また係ではない母親たちも、テーブ ルを並べるのを自然と手伝ったり、競技に参加したり、宝探しの宝を隠す際に目隠しとなったり、応 援をしたりと係の母親たちほどではないが、「お客様」としてではなく主体的に会に参加しているとい える。 また、第二に、母親たちと子どもたちの距離の近さがあげられる。母親同士も非常に親しげにかかわっ ている姿が見られたが、点線部で示した部分を見てみると、自分の子ども以外の子に点線部(2)のよ うに「コウジコウジ2こっち」 「リョウスケ∼」 「マリン」 「ケンチャンケンチャン」や、点線部(3)のよ うに「がんばれハヤト∼」「がんばれジュンタ∼」などN保育者や子どもたちが日ごろ呼んでいる呼び 名(ほとんどが敬称をつけない名前)で呼んでいた。他の場面でも多くの保護者がこのような呼び方 で子どもを呼んでいる姿が見られ、どの子が誰の子か最後の親子リレーになるまで分からないという 状況であった。点線部(1)のマリンのように、非常に親しげなスキンシップを友達の母親に対してもっ たり、友だちの母親に寄っていったりするなど子どもの方も友達の母親に親しげに接している姿が見 られた。 〈事例1・考察〉 このように、年長児10月の段階で(入園から2年半程経ったところ)、M幼稚園の保護者(母親)た ちは主体的に園行事に参加し、楽しんでいるということが分かる。また、母親同士の横のつながりの みならず、母親と子どもという縦のつながりも親密であることが明らかとなった。このことは、バラ ぐみの親子関係が、 「母子」という閉じられた関係の中で完結するのではなく、集合体としての「母親」 、 集合体としての「子」としての関係性が作られていると考えられる。. 写真1−1:保育者Nがカレーを食べる前に讃 美歌とお祈りをうながす. 写真1−2:宝探しが終わり母親と宝物の入っ たカプセルを開ける. 筆者は、母親たちが楽しそうに生き生きと活動している姿を見て、このような母親たちの主体的な 園活動へのかかわりがどのように生じてくるものなのだろうかという点に興味をもった。そこで、こ こに至るまでの母親参加の他の園行事について明らかにするため、年度当初の母親参加行事について 見てみることとする。 5.年度当初の母親参加行事の様子 (1) 「お母さんと遊ぼう」 (3歳児スミレぐみ)観察日:2014年6月3日 「お母さんと遊ぼう」は、6月初旬に、3,4歳児と母親が1時間半程度、クラスごとに一緒に遊ん. ─ 155 ─.
(5) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. 第 17 巻. で楽しむ行事として毎年行われているものである。今回は、3歳児スミレぐみの様子を示す。文末〈事 例2〉を参照されたい。 3歳児の「お母さんと遊ぼう」は大きく分けて5つの内容で構成されていた。 ① 日常の生活や遊びの紹介(普段歌っている歌や礼拝、子どもたちの好きな遊びなど) ② 年長児の出し物(歌の披露「畑のポルカ」) ③ 親子での遊び(触れ合い遊び) ④ 親のゲーム(豆つかみ)と即興劇(「おおきなかぶ」 ) ⑤ 母親への感謝(母親の絵のプレゼントの贈呈) 〈事例2・分析〉 〈事例2〉についても会の進行に主体的に関わる言動はゴシック体で示している。これを見ると〈事 例1〉とは異なり、会の進行がほとんどすべて保育者によって行われていることが分かる。母親が会の 進行に主体的にかかわっているのは、即興劇と最後の感想の部分のみである。また波線は主導権をもっ ている部分であり、母親が主導権をもっているのは即興劇の部分のみとなっている。子どもと母親と の関係も〈事例1〉のように、自分の母親や子ども以外との親密なかかわりはほとんどないかわりに、 破線部に見られるように、母子の親密な関係がみられる。 また、わずかではあるが、下線部のようにクラス全体の子どもと母親がかかわる姿も見られた。それ は即興劇「おおきなかぶ」においてである。即興劇では、母親たちが主体的な演者となっており、その 中で母親同士が相談したり演じたりと交流する場となっている。また、 「うんとこしょ∼」の掛け声を ほとんどの子どもたちが唱和しており、演じ手と聞き手が一体となって楽しんでいる様子が見られる。 〈事例2・考察〉 このことから、3歳児の「お母さんと遊ぼう」では、保育者が子どもたちの園での様子を伝えたり、 子どもと母親が一緒に遊んで楽しんだりすることが目的とされていることが分かる。つまり「母子間 の親密性」が目的となっている。しかしながら、即興劇だけは、唯一、母親たちの主体的な参加を強 いるものとなっている。また、ここでは、全ての母親が参加しているわけではなく、母親の代表者が 演じているのだが、子どもたちはみんな集中して劇を鑑賞しており、自分の母親が出ているかいない かはさほど関係ない。つまり、この母親による即興劇は子どもたちにとって、 「お母さん」という集合 体による劇であり、ここでは「自分のお母さん」を超えた「クラスのお母さん」という認識をもって いるといえる。そして母親の方もまた、「自分の子ども」に向けて演じるのではなく、クラスの子ども 全員に向けて演じているのであり、自分の子どもも含めた「子どもたち」全体に対してのパフォーマ ンスを行っているのである。 このように、大部分が「母子間の親密性」によって進行される3歳児の「お母さんと遊ぼう」にお. 写真2−1:母親たちによる即興劇「おおき なかぶ」. 写真2−2:子どもたちの好きな遊び「ゾウさん クモのす」を母親たちの前で行う. ─ 156 ─.
(6) 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程. (田甫綾野). いても、即興劇という一部分では、母親の主体的参加の場が作られており、そこでは集合体としての「母 親−子ども」関係が築かれているといえる。 (2) 「親子遠足」 (5歳児3クラス)観察日:2015年5月28日 次に5歳児の「親子遠足」である。これは学年での活動となっており、理事長・園長も参加して行 われていた。例年は公園に遠足に行っているが、2015年度は園庭で行われた。 〈事例3〉を参照されたい。 主な内容は以下のとおりである。 ①歌「Mの子」母親入場/②理事長の話/③歌「もりのくまさん」 「サラスポンダ」 (子ども→親子) 「畑のポルカ」 (母親2人サプライズ出演)/④すもう大会(男女クラス代表2人ずつ、母親代表2 人ずつ、参加していた父親2人)/⑤ボール運びリレー(親子でペア)/⑥クラス対抗綱引き(子 ども→親)/⑦表彰式/⑧歌「Mの庭」/⑨クラスごとに写真撮影をして終了 〈事例3・分析〉 ここでも、カレーパーティーの事例と同様、会の進行に主体的にかかわっている部分をゴシック体 で記し、会の運営に関する言動を波線とした。事例を見て分かるように、会全体の進行や運営はすべ て保育者側にあり、母親たちが担っている部分はない。このことから5歳児の「親子遠足」についても、 〈事例2〉の3歳児の「お母さんと遊ぼう」と同様、園側の明確な意図のもと行事が行われていること が分かる。しかしながら、一部母親の欄にもゴシック体の部分が見られるように、尻相撲や綱引きの 出場者を決めることなどにおいては、母親たちの主体性が発揮されていた。尻相撲は代表が2人とい うこともあり、なかなか誰が出るか決まらず、クラスによっては役員さんが右往左往する姿も見られ たが(二重線部1) 、綱引きでは周りを見ながら積極的に出ていく人が多く、うまい具合に必要な人数 の代表が決まっていた(二重線部2)。 また、歌や「チクサクコール」など、子どもたちの活動部分でも、一部の母親たちは一緒に歌ったり、 掛け声をかけたりする様子が見られた(下線部4、下線部5) 。さらには、子どもたちに応援を促す母 親も見られたことから(点線部1、点線部2) 、主体的に参加しようとしている母親も少人数ではある がいることが分かった。これは〈事例2〉と大きく異なる点である。一方、「母子の親密さ」をもった プログラムは少なく、最初の「おかあさんの歌」を歌うところとペアでボールを運ぶリレーのみであ る(破線部) 。それよりも、クラス対抗の競技やクラスの代表が出てきて行うもの、子どもと母親とに 分かれて行うものが多くなっており、自分の子どものクラスやその代表者を一生懸命応援する様子が 会の進行と共に増えていった(下線部1、下線部2)。 本年度は、5歳児でクラス替えがあったこともあり、まだ母親同士、母親と子どもたちともそれほど 親しい関係は築けていない様子であったが、表彰式で母親の尻相撲優勝者が呼ばれた際には子ども以 上に大きな声援が起こるなど、母親同士の親しみの様 子も見られた(下線部3)。 〈事例3・考察〉 3、4歳児の「お母さんと遊ぼう」が日ごろ楽しん でいる遊びを保護者に見せ、 「母子の親密性」を基本と して会が進行していくのに対し、5歳児の「親子遠足」 では、「母親」と「子ども」が集合体として共に遊び、 楽しむということを目的としているといえる。担任の N保育者は、親子遠足について、 「子どもたちがやりた 写真3−1: 「親子遠足」で「はたけのポルカ」 を歌う5歳児 いことではなく、お母さんたちと一緒に楽しめるもの」. ─ 157 ─.
(7) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. 第 17 巻. を意識してプログラム構成を行っていると述べており、他の行事が幼児の主体性や思いを重視してい るのとは異なる意図をもっていると話してくださった。 このように、5歳児の「親子遠足」では、3歳児の「お母さんと遊ぼう」のように「母子の親密性」 の中で「自分のお母さん」と楽しむのではなく、子どもたちが「母親」という集合体と楽しむという プログラム構成になっているといえる。 また、少人数ではあるが、主体的にこの行事に参加している母親も見られ、3歳児の「お母さんと遊 ぼう」と比べて母親の参加への意識が変化していることもうかがえた。このように同じような春の保 護者参加の行事であっても、園の教育方針により、3歳児と5歳児ではそのプログラム内容が大きく 異なっていることが明らかでる3。 6.結論 (1)全体考察 以上M幼稚園の3事例から、幼稚園での3年間の生活を通して保護者の園行事や園活動への参加の 仕方が変化していることが明らかになった。第一に、園行事や園活動に保護者が主体的に参加するよ うになるという点である。保育に組み込まれた行事でこれほど完全に保護者主体で運営されるケース は珍しい。保護者自身が幼稚園の保育に主体的にかかわることが可能であり、それを園が保護者に求 めているということが分かる。そして、保護者のかかわり方も変化していることが明らかとなった。 第二に保護者同士また保護者と子ども同士が親密性を深めていく点である。保護者と子どもたちが 非常に親しい関係性を築いており、「自分の子」だけではなく、他の子ども全員をかわいがり、子ども たちも友達の「おかあさん」に対して自分の親のように甘えたり、親しみをもったりしている。これ は親子関係が自分たちの親子で完結したものではなく、集合体としての「親―子」関係が築かれてい るからであると考えられる。 そしてこの二つの側面は相互に助長されていくといえる。例えば、集合体としての双方の親密性が 高くなると、〈事例3〉の点線部(1) (2)のように一人の母親が母親の代表としてクラスの子どもたち を注意する姿が見られるようになる。母親たちが園生活を支える一員であるという自覚をもつという ことは、自分の子ども以外の子どもたちに対しても「クラスの子ども」「園の子ども」という意識をも つということだからである。 このことは、現在の親に見られがちな「自分の子どもさえよければ」という風潮に相反する姿であり、 冒頭に述べたように、親子が共に楽しみ、親子が共に仲間とのつながりをもち、地域とつながってい く、今求められている子育ての姿なのではないだろうか。これらをうながしているのは、園の教育方 針であり、保護者の存在こそが、保育に不可欠なものであると考えられていることと無関係ではない4。 M幼稚園の実践は、親子という縦のつながりと親子同士という横のつながりをつくり、 「地域の子ども」 として子育てを共に楽しむという広がりを目指した視点にたっていると考える。このような関係性は、 かつては自然に地域の中で行われていた。しかしながら、現在は誰かが意図的に仕掛けていかなけれ ば困難な状況である。 (2)公立保育園の保護者参加 比較のために公立H保育園での保護者参加の状況をみてみたい。H保育園では、保護者の参加でき る行事は年間5回のみ(6月2月の保護者会、秋ごろの保育参観と個人面談、10月の運動会、食育講 習会)で、運動会では子どもと一緒に参加できる競技があるものの、その他に園の行事や活動に参加 する機会はまったくない。 6月の保護者会は〈事例2,3〉と性格が類似しているので文末〈事例4〉に示した。. ─ 158 ─.
(8) 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程. (田甫綾野). M幼稚園と決定的に違うのは、親と子どもとのつながりや、子どもも含めた親子の横のつながりを つくるような要素はないということである(事例4参照)。子どもの平等性を重視するがゆえに、親と 子や親子同士をつなぐ支援は難しくなっており、保育所保育指針の保護者支援にあるような保護者参 加の行事や保護者の自主的活動の支援はほとんど見られないことが分かる。このことから、M幼稚園 のような保護者参加のあり方は当たり前のものではないといえる。 (3)まとめ M幼稚園の実践は、かつて話題になった「秋津コミュニティ」の実践と通じるところがある(岸 1999)。 「秋津コミュニティ」では、PTAを中心とする地域の大人が、地域の子どもたちみんなを見守 り、一緒に生活し、そして地域住民がつながっていくという実践であった。まさに「自分の子ども」だ けではなく、「地域の子ども」としての育ちを保障しようというものである。この実践は非常に意義深 いものと思われるが、基本的には一部の保護者と地域住民が主導して保護者の主体的参加を促していっ たものであり、熱心な地域住民とそれを支える仲間がそろわないと同様の実践を行うことは困難であ ろう。そういった意味で再現することはかなり難しいと言わざるを得ない。 それに対し、M幼稚園の場合は園が教育方針として保護者の主体的参加を奨励しており、他の園に再 現していく可能性をもっているのではないかと考える。もちろん、M幼稚園は60年以上の伝統ある地 域に根差した私立幼稚園であり、一般の公立園等にあてはめることは困難かもしれない。しかしながら、 様々な状況下でも園や学校がけん引していくことで、このような実践が可能になることも考えられる。 このような実践をモデルとし、幼稚園や保育所、また小学校や子育て支援センターが、 「親子支援」 「子 育て支援」を考えていくことができれば、親子がともに楽しみ、親子がともに仲間とのつながりをもち、 地域とつながっていくような「子育て支援」の新たな可能性が見えてくるのではないだろうか。 〈引用文献〉 厚生労働省「保育所保育指針」平成20年3月 池本美香(2014) 「日本の幼児教育・保育制度における親の参画の現状」池本美香『親が参画する保育をつくる』 勁草書房 岸裕司(1999) 「学校を基地にお父さんのまちづくり」太郎次郎社. 〈謝辞〉 調査に協力いただいておりますM幼稚園の理事長先生、園長先生はじめ、先生方、園児のみなさま、保護者の みなさまに心よりお礼申し上げます。また、資料整理をお手伝いいただいた、本学女性研究者支援事業キャリ アアシスタントの本山まりのさんにもお礼申し上げます。 *本研究は「科学研究費助成事業(若手研究B)」の助成を受けて行ったものである。. ─ 159 ─.
(9) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. ─ 160 ─. 第 17 巻.
(10) 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程. ─ 161 ─. (田甫綾野).
(11) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. ─ 162 ─. 第 17 巻.
(12) 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程. ─ 163 ─. (田甫綾野).
(13) 平成 27 年(2015年)度. 山梨大学教育人間科学部紀要. ─ 164 ─. 第 17 巻.
(14) 幼稚園における保護者の園活動への主体的参加過程. (田甫綾野). 註 カレーパーティーはすべてのクラスで行われている行事であり、また最後のまとめを保育者が行っているこ と、子どもたちに母親たちへお礼を言わせていることなどから、この行事自体が保護者の自主的なものではな く、園の行事として位置付けられているということが分かる。 2 幼児の名前はすべて仮名である。 3 4歳児も3歳児と同日に「お母さんと遊ぼう」が行われており、3歳児とほぼ同様の内容が行われている (2015年6月4日観察) 4 「子どもたちの幼稚園生活はお母さん方の活動に支えられてとても充実したものになっています。お母さん が充実しているから、子どもも充実するのです。 お父さんの活躍する場は 夏の○○まつりと秋の運動会で お 父さん方のものすごい迫力で すべてがとてもスムースに運営されます。子どもたちは人生の先輩にたいする 確かな尊敬の念と共に 僕も早くあんな大人になりたいという憧れの気持ちをもつようになります。 」 (M幼稚園 のホームページより) 1. ─ 165 ─.
(15) ─ 166 ─.
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