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「人権問題論ノート」~身近な人権問題から~

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Academic year: 2021

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KANSAI GAIDAI UNIVERSITY

「人権問題論ノート」∼身近な人権問題から∼

著者

明石 一朗

雑誌名

人権を考える

19

ページ

1-8

発行年

2016-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1443/00005703/

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「人権問題論ノート」

~身近な人権問題から~



短期大学部教授 

明石一朗

1.はじめに  人権問題を身近なこととして捉えることは意外と難しい。人権問題論を学 生に講義していてそう思う。その理由として、人権問題は大切な課題である ことは理解していても〈一部の同情すべき限られたマイノリティの人々の問 題〉、〈自分自身の生活と関係の無い問題〉等と考えられたり、学校教育等で 度々教えられてきた事によって、〈またか〉といった忌避意識も見受けられる。  しかし、人権問題は、私たちの暮らしの中にある「現実問題」であり、全 ての人々に関わる喫緊の問題である。国内はもとより、今日の国際社会の進 展の中で、多くの外国人が日本にやってくる時代にあって異文化理解をはじ め様々な人権問題への理解や積極的な行動が問われている。  では、人種・性別・宗教・習慣等への理解不足などからくる偏見や差別意 識を克服し、人権問題を積極的に自分の問題として捉えていくにはどうすれ ばいいのか。それには、日常生活に生起する身近な話題から考えていくこと が重要であると考える。  人権問題論の授業においては、日常の様々な出来事から具体的な事例を取 り上げ、グループ討議や学習発表を通じて意見交換を行い、学生たちの積極 的な姿勢を促した。その一例として、ミュージシャンのGACKTがパリで受 けた「人種差別」問題を取り上げ考えた。 2.GACKTの体験  本人のブログマガジンによると、GACKTは、今年(2015年)の3月末に 仕事でパリに立ち寄った際、1人で朝食を取ろうとホテル内のビュッフェに 入った。彼は入口近くの眺めのいい席に座ったが、しばらくして店員に奥の

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「人権問題論ノート」 ~身近な人権問題から~ 席へ行くよう告げられ仕方なく席を移った。  ところが、後から店に入ってきた白人客が、GACKTが座ろうとしたテー ブルに着席したにもかかわらず、店員は何も言わなかった。その後も店側は、 アジア系の客を奥の席に通し、白人客を景色のいい窓際の席に通していたた め、GACKTは人種差別だと確信したという。  その後、いったんビュッフェを出たGACKTは2分後に再入店。最初に座 ろうとした入り口近くの眺めのいい席に着いた。すると、店員がまた飛んで きて「向こうに座れ」と“アジア人席”を指差した。しかし、日本語以外に 英語、中国語、フランス語をしゃべれるGACKTは笑顔で「なんでだ?分か り易いように説明してくれ」と流暢なフランス語で要求した。店員が口の中 で何かモゴモゴつぶやいたので「大きい声で、わかりやすく言ってくれ」と 再び説明を求めた。すると、店員はあきらめて去っていったということであ る。 3.今回の出来事を通じて  この出来事を通じて学生たちと意見交流をした。  まず、著名人であるGACKT本人が自らの体験をブログに紹介しているこ とは「よほどの事である」との認識を持ち、多くの学生が興味・関心を抱い た。そして、国際都市であるパリでの出来事に驚いた。同じ日本人として身 近なことと受け止めた学生も多くいた。   また、関西外大という語学系の大学に学ぶ学生にとって、英語、中国語、 フランス語に精通しているGACKTに敬意を持つと共に、語学の持つコミュ ニケーション力の重要性を改めて理解した。特に、今回のような「トラブル」 を解決する上で言葉の持つ有用性は大きい。その場で黙して立ち去ったり、 忍従したり、怒りや暴力に訴えたりするのではなく、自分の考えをしっかり 相手に伝え、正しい理解を求め、説得と納得で物事の解決を図ろうとする 姿勢は、国際社会を生きる私たちに求められる力である。語学コミュニケー ション能力は異文化理解社会の基礎であるとの認識を深めた。

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4.学生たちの反応  GACKTの体験に対して多くの学生が感想や意見を持った。いくつかを紹 介する。 【共感系】 ・人権問題について今まで余り深く考えたことは無かったけれど、GACKT の話を知って人権問題は身近に起きることだと思った。自分も日本人とし て海外で同じようなことに遭遇するかも知れないし、もし、このような差 別的な言動に出会った時にきちんと対応できるかどうか自信がない。今回 のGACKTの行動から人権問題をしっかり考え正しい行動ができるように 学習しようと思った。 【体験系】 ・春休みに私はアメリカ旅行に行った。場所はバージニア州のある町。そこ には両親の知人の夫妻が住んでいて泊めてもらった。夫さんは中国系アメ リカ人で公務員。奥さんは日本人から帰化してアメリカ国籍を持っている。 ご家族と白人が経営するレストランに行ったときのことだ。店の窓際に広 い席があったのに、わざわざ壁際の狭い席に案内された。私たちの周りに は黒人の家族しかいなかった。今思えば、GACKTと同じように差別され たのかもしれないと思う。楽しく素敵な旅先の思い出も多いが、このよう に少し悲しくなる体験もあった。 【学習系】 ・実際、差別に出会ったときに知識や語学力を蓄積しておくことは役立つも のだと思った。私がその場で同じ日本人として差別言動に面したとき、腹 を立てても問題点を正しく指摘して相手に言い返すことができないと思 う。日本語で怒っても結局、相手に通じない。そう考えるとGACKTのよ うに語学力をつけていると「最大の武器」になる。大学で学んで身に着け

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「人権問題論ノート」 ~身近な人権問題から~ た知識や語学力は国際社会を生きる上で大切なことだと思う。語学を通じ てコミュニケーション力を高めれば人権問題も解決すると思う。 【自省系】 ・パリでは2015年2月にも、地下鉄に乗ろうとした黒人男性が白人サポーター たちに乗車を妨げられたことがあったが、今回のことも含めてフランスの 人がみんな人種差別すると考えるのは短絡的と思う。日本でも最近多くの 中国人が来日して観光したりショッピングしたりする光景に中国人の「爆 買い」と揶揄する報道がある。日本人の中に「中国人は行儀が悪い」とい う偏見があると思う。しかし、中国人であろうと日本人であろうと、フラ ンス人であろうとマナーの良い人も悪い人もいる。ステレオタイプで「○ ○人は」と決め付ける考えはおかしいと思う。その意味では、私たちは被 害者にも加害者にもなるという自覚が大切だ。 【告白系】 ・私の母は在日韓国人だ。アルバイトをするようになって周りの人が韓国人 を悪く思っていることを知り、とてもショックを受けた。父は日本人で、 笑顔の絶えないいい家族だ。同じ人間なのに国籍や住むところで人を差別 するのはおかしいと思う。私は父も母も尊敬している。私は日本人も韓国 人も両方の気持ちが分かるので、少しでも差別問題が解決するように自分 の思いを他の人に伝え、差別の無い住みやすい国にしたいと思う。 5.国際化の中でスポーツの世界でも  今回のGACKTの問題から海外で活躍する著名人、とりわけスポーツ選手 が受けた差別問題がクローズアップされている。以下は、ネット上で話題に なった事例である。 ①テニスの錦織圭選手は、世界ランキング上昇に伴って抜き打ちのドーピン

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グ検査を深夜や早朝に担当者が自宅やホテルに押しかけ、“アジア人がこ んなに強いはずがない”と言わんばかりの対応を受けたという。2014年12 月 ②イチロー選手のバットを米・野球解説者が「チョップスティック(箸)」 と評し、「アジア系の食文化を異質なものとして見下す差別的な不適切発 言」と非難された。2014年6月 ③松坂大輔投手の通訳に投手コーチが「チャイナマン(中国移民に対する差 別的な言葉)」と呼んだ。のちに謝罪。松坂選手は「誰もが誤りをする。 深く掘り返すつもりはない」とコメント。2014年3月 ④ダルビッシュ有投手に米国人アナウンサーが、試合中に英語が母国語でな い選手や英語圏以外の外国人選手を揶揄する差別的な発言をしたとして批 判を浴び、公式に謝罪する事態に発展した。2013年4月 ⑤中村俊輔選手に監督が〝お前は黄色だからな〟と言って黄色のビブスを渡 した。切れそうになったが「グラッツェ」(イタリア語でありがとう)と言っ て笑ってすませたという。2006年1月 6.何人も差別されない社会の実現をめざして  国際社会の進展の中で日本国内においても外国人旅行客が増え、観光地や 飲食店街で様々な人種の人々を見かける機会が多くなった。  GACKTのような体験を日本の飲食店で外国人がされたらどうだろう。温 泉を目当てに日本を訪れた外国人が、タトー等を理由に入浴を断られること がある。背景には日本における刺青への認識と外国人のタトーへの認識の違 いやそれぞれの国の文化や伝統の問題がある。今夏、イタリアに旅行したが、 彼の地では、興味があれば誰もが自由に体にタトーを入れる習慣がある。有 名ブランド店の従業員の腕や首に、さり気なく模様が彫られている様に驚い た。国際交流を図る上で異文化理解を深めることは大きな課題だ。  日本国憲法は『法の下の平等』を定め、人種等によって差別されない権利 を保障している。この権利は日本にいる外国人にも適応されると考えられる。

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「人権問題論ノート」 ~身近な人権問題から~ 来店した外国人に対して、人種によって異なった対応をすれば人権侵害にあ たる。たとえ、私人間の行為であっても基本的人権を保障する憲法の趣旨か ら、私人であってもその行為が、他の人の基本的人権を侵害するような場合 は民法上の不法行為になる。  フランスにおけるGACKTの場合も合理的理由なく人種等の違いをもっ て眺望のよい席に案内しないという店側の行為は、「人種差別行為」とし て指弾されても仕方がない。ことによっては、店側は差別的扱いを受けた GACKTの精神的苦痛に対して慰謝料を支払う義務が生じる。日本において も外国人をもって入浴を拒否した銭湯に慰謝料の支払いを命じた裁判事例も ある。 ※小樽温泉入浴拒否問題  1999年9月、小樽市内の入浴施設が外国人を理由に入浴拒否した事件。被告人が人 種差別として2001年2月提訴。2002年11月、札幌地方裁判所は、外国人あるいは外国 人にみえる者の入浴を一律に拒否するのは人種差別に当たるとして施設側に100万円 の賠償支払いを命じた。 7.最後に  では一体、人権問題が解決に向かう筋道や見通しは無いのだろうか。結論 として、次の3点を学習のまとめとした。  第1は、素敵な出会いや豊かなふれあいをたくさん経験することである。  「USJ(ユニバーサル スタジオ ジャパン)は怖いところ」と思ってい た小学5年生児童がいた。幼稚園の頃「お母さん、USJに行きたい!」と言っ たところ、お母さんは「あんな怖いところ、よう連れて行かんわ。誰一人行っ て帰ってきた子どもおらへんねんで。」と言ったという。帰宅したお父さん にも「行きたい!」と言うと、お父さんも「みんな騙されて行っているんや で。お金払って行ってるけど、みんな家に戻って来られへんのやて。怖い怖 い。」と話すので、彼は、ずっと「USJは怖いところ」と信じていた。

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 しかし、小学校に入学してから、周りの友だちが「啓発」してくれる。月 曜日の教室で、「土曜日にUSJに遊びに行ってきて楽しかった!」と、はしゃ いでいる友だちの姿を見て「USJは楽しいところや」と思うようになった のである。  人権問題も同じ事と思う。素敵な出会いや豊かなふれあい等の体験がない と「デマ」や「噂」に惑わされ、信じてしまう恐れがある。幼い子どもが「あ のへんは怖い所やから行ったらあかんで」と、同和地区を指して大人に言わ れたら、同和地区への偏見や予断が心に刷り込まれかねない。  第2は、自分自身の生活課題等に人権問題を重ねて考えることである。何 事も他人事だと興味や関心が薄い。病気になって患者さんの気持ちがわかる ように人権問題も自分のことと自覚されたときに意識と行動が高まる。地だん車じり 祭りで青年団長に推された若者が、祭りの反省会の場で「今年の祭りは良かっ たけど、なんであんな子に青年団長をさせたのか?うちの町の青年団長は、 代々地元の持ち家の子どもが担ってきたんや。それなのにあの子は『団地』 に住む“よそ者”やないか」と、ある役員が言ったことがあった。彼はその 言葉を聞き、「自分の役割の至らなさへの指摘なら反省もできるけど、たま たま、この町に引っ越してきて団地に住んでいることで“よそ者”と非難さ れるのは納得がいかへん。これって『人権問題』と違うか」と話したことが あった。  国籍や地域、家族の構成や経済状況、性別や思想・信条、障がいの有無、 持ち家か借家か、保護者の仕事等々で「人としての値打ち」を決め付けられ るのは辛く悲しいことである。そうした思いを共有し重ねていくことが人権 問題を理解する上で大切なことではないかと思う。  第3は、教育において正しい知識・理解を獲得することである。差別の加 害性は多様である。直接加害する者以外に「はやし立てる者」「見て見ぬ振 りをする者」「気づかない者」「知らなかった者」等も加害者である。「『花が 美しい』と思うだけの子どもは、花を摘み取る」という話がある。植物の種 から双葉が出、本葉が広がり、茎が伸び、花が開いて実が結ぶという「命の 育み」を学んだ子どもは「花を育てる」ようになる。物事の正しい知識理解

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「人権問題論ノート」 ~身近な人権問題から~ があれば問題解決策が浮かぶ。特に学校教育において、「今日の社会の中に なぜ人権問題が生起しているのか」「人権問題の歴史や取り組みはどうなっ ているのか」「今後、人権侵害問題を解決していくにはどうしていけばいい のか」など、《現状認識・歴史認識・将来展望》をしっかり学ぶことが人権 問題解決にとって大きな役割を果たすと考える。  私たちは足のサイズに合わせて好みの靴を履く。人権問題も私たちの現実 生活の中に課題解決の鍵がある。したがって、様々な人権問題を身近な話題 や出来事を通して学生の学習意欲や問題意識を喚起し、彼らの生活基盤に依 拠した「人権問題論」に取り組みたいと心新たにしている。 《参考文献資料等》 ・「人権問題論」講義資料 明石一朗 2015 ・GACKT ブログマガジン 2015 ・「ジャパニーズ・オンリー」小樽温泉入浴拒否問題と人種差別 有道出人 明石書 店 2003 ・「人権文化をみんなの手に」部落解放・人権研究所編 解放出版社 2005

参照

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