スペイン映画『靴に恋して』(2002)における衣服の
意味作用
著者
小阪 知弘
雑誌名
研究論集
巻
93
ページ
169-187
発行年
2011-03
URL
http://doi.org/10.18956/00006137
ス ペ イ ン 映 画 『靴 に 恋 して 』(2002)に
お け る衣 服 の 意 味 作 用
小 阪 知 弘
要 旨 本 稿 に お い て 、 ス ペ イ ン映 画 、 「靴 に 恋 して 』(2002)に 登 場 す る様 々な衣 服 、 と くに靴 を 衣 服 の 記 号 論 の 視 座 か ら分 析 した と ころ 、衣 服 が 性 差 を 明 示 す る記 号 と して 作 用 す る と同 時 に 、 社 会 的 記 号 として 機 能 して い る こ と も明 らか とな った 。 ま た、 衣 服 の 色 彩 が 「信 号 表 示 的機 能 」 を 発 揮 して い る こ とも確 認 で きた 。 本 稿 に お け る考 察 を 通 じて 、 『靴 に 恋 して 』 とい う映 画 は 、5人 の 女 性 主 人 公 た ちが 男 性 登 場 人 物 た ち に 支 え られ な が ら 自 らの 人 生 の 足 場 を 固 め 直 して 、純 粋 で 謙 虚 な 態 度 で 未 来 に 向か っ て再 び歩 き始 め る 物 語 で あ る こ とが 理 解 で きた 。 そ して、 靴 を 中 心 とす る数 々の 衣 服 が 登 場 人物 た ち の 属性 と行動 を 規 定 す る記 号 と して 作 用 す る こ とで、 物 語 内 容 とそ の 展 開 に 多 大 な 影 響 を 与 え て い る と結 論 づ け る こ とが で きた 。 キ ー ワ ー ド:ス ペ イン 映 画 、 衣 服 の 記 号 論 、 社 会 的 記 号 、 信 号 表 示 的機 能 、 意 味 標 識 0.は じ め に 映 画 とい う視 覚 芸 術 に お い て 、 ス ク リー ンの 中 で 登 場 人 物 た ち が 身 に 着 け て い る衣 服 が 大 き な 役 割 を 果 た す こ とが あ る。 衣 服 が そ の 人物 の 職 業 、 社 会 的 立 場 、 経 済 状 態 を 表 現 す る記 号 と して 作 用 し、 映 画 内容 そ の もの を も決 定 づ け る こ とす らあ る。 ク リス チ ャ ン ・メ ッ ツは 『映 画 記 号 論 の 諸 問題 』(1984)に お い て 、 ソ シ ュ ール 言 語 学 の 観 点 か ら映 画 の 意 味 作 用 を2つ に 区 フィギコ ル 別 して い る。 ひ とつ は 、 モ ン タ ー ジ ュの 文 彩 、 映 像 と音 、 映 像 と言 葉 の 配 列 な どの 意 味 作 用 で あ り、 も うひ とつ は 衣 服 が 映 画 の 登 場 人 物 に 及 ぼ す 意 味 作 用 で あ る。 メ ッツは 後 者 を 「衣 服 の 意 味 作 用 」 と命 名 し、 以 下 の よ うに 記 述 して い る。 フィルム 後 者 として は た だ1つ 例 を 挙 げ る とす れ ば 、 映 画 内に 現 わ れ 、 そ こで 非 常 に大 きな 役 割 を 果 た す 衣 服 の 意 味 作 用 の 総 体 が 見 出 され るだ ろ う。 映 画 の 登 場 人 物 の 心 理=社 会 的 な 所 属 は 当 の 人物 の 衣 服 の 着 方 に よ って 、 部 分 的 に で は あ るが 示 され うる。D ま た 、 ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン『 フ ァ ッ シ ョ ン の 文 化 社 会 学 』(1996)に お い て 、 衣 服 が 登 場 人 物 の 性 格 に 与 え る 役 割 を 指 摘 し て い る 。映 画 の キ ャ ラ ク タ ー作 りに お い て 今 も重 要 な 前 提 は 、 人 の 内面 と外 見に 強 い 関 連 を 設 定 す る こ とで あ る。 と りわけ 衣 裳 は 登 場 人 物 の キ ャ ラ ク タ ーを あ らわ す 映 画 的 な 仕 掛 け だ と い え よ う。2) メ ッツ とフ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ンの 指 摘 を考 慮 して 、 本 稿 で は ス ペ イ ン 映 画 、『靴 に恋 して 』 (2002)に 登 場 す る様 々な衣 服 、 特 に靴 を考 察 対 象 とし、 分 析 の具 体 的 な 方 法 論 と して は 衣 服 の 記 号 論 を 用 い る。 本 稿 の 目的 は 、 記 号 として の 衣 服 が そ れ を 着 用 す る登 場 人 物 た ち の 属 性 と 行 動 に どの よ うな 作 用 を 及 ぼ す の か を 考 察 す る こ とに あ る。 1.衣 服 の 記 号 論 記 号 として の 衣 服 を 分 析 す る ため に は 、 記 号 論 の 知 見 に 基 づ い た衣 服 の 読 み 方 を 知 る こ とが 要 請 され る。 ピ ョー トル ・ポ ガ トゥ イ リ ョフ(1893-1971)は 衣 服 の 記 号 論 の 先 駆 的 な 著 作 、 『衣 裳 の フ ォー ク ロ ア』(1937)に お いて 、 記 号 論 的 な 衣 服 の 読 み 方 の 必 要 性 を 以 下 の よ うに指 摘 して い る。 衣 裳 の 社 会 的 機 能 を 認 識 す る ため に は 、 わ れ わ れ が 他 の 言 語 を 学 ん だ り理 解 す る こ とを 学 ぶ の とお な じよ うに 、 これ らの 記 号(衣 裳)の 読 み 方 を 学 ぶ こ とが 不 可 欠 で あ る。3) ポ ガ ト ゥイ リ ョフは 、 記 号 論 の 視 点 か ら民 族 衣 裳 の 諸機 能 を 分 析 し、 記 号 として の 衣 服 の機 能 を 以 下5つ に区 分 して い る。 (1)実 用 的 機 能 (2)社 会 的 地 位 ・階 級 を 示 す 機 能 (3)美 的 機 能 (4)地 域 を 示 す 機 能 (5)年 齢 を 示 す 機 能4) 本 稿 にお け る衣 服 分 析 で は 、(2)社 会 的 地 位 ・階 級 を 示 す機 能 、(3)美 的機 能 、(5)年 齢 を 示 す 機 能 、 に着 目す る。 ポ ガ トゥ イ リ ョフが 展 開 させ た衣 服 の 記 号 論 は 民 族 衣 裳 に 限 定 され た も の で あ り、 衣 服 の 記 号 論 を モ ー ド と関 連 させ て 現 代 衣 服 の 記 号 分 析 の 具 体 的 な 方 法 論 として 確 立 させ たの は 、 ロ ラ ン ・バ ル ト(1915-1980)で あ る。
バ ル トは『 零 度 の エ ク リチ ュー ル 』(1953)の 一 部 を 成 す 「衣 裳 の 体 系 」 とい う断章 の 中 で 記 号 と して の 衣 服 に論 及 し、 衣 服 の 記 号 性 に 関 して 「記 号 性機 能 体 」 とい う概 念 を 提 起 す る。 「社 会 が 存 在 す る や否 や 、 す べ て の 使 用 は、 そ の 使 用 自体 の 記 号 に 変 換 され る」 とい う立 場 を とるバ ル トに と って、 「記 号 性機 能 体」 とは、 「実 用 的 、機 能 的 な性 質 か ら 出た 記 号 学 的機 能5)」 の こ とを指 して お り、 具 体 例 と して 、 「レイ ン コ ー トの 使 用 は、 雨 に 対 して 身 を護 る こ とで あ るが 、 同時 に この使 用 は あ る 天候 状 況 の 記 号 そ の もの`)」 で あ る と述 べ て い る。 そ して 、 バ ル トは『 零 度 の エ ク リチ ュール 』 の 中 で提 起 した記 号 論 の視 座 か ら読 む衣 服 分析 の方 法 論 を『 モ ー ドの 体 系 』(1967)に お い て完 成 させ 、 衣 服 を以 下3種 類 に大 別 して い る。 (1)写 真 や デ ッサ ン で 提 示 さ れ て い る 「イ メ ー ジ と し て の 衣 服 」 (3)記 述 さ れ こ とば に 変 形 さ れ て い る 「書 か れ た 衣 服 」 (3)「 現 実 の 衣 服 」7) 本 稿 で は バ ル トが 唱 え る3つ の 分 類 の う ち(1)の 「イ メ ー ジ と し て の 衣 服 」 を 考 察 す る 。 な ぜ な ら 、 本 稿 で 扱 う映 画 の 中 に 登 場 す る 映 像 と し て の 衣 服 は 、 写 真 や 絵 と 同 様 、 「イ メ ー ジ と して の 衣 服 」 で あ る と い う こ とが で き る か ら で あ る 。 ま た 、 本 稿 で は 、 バ ル トが 提 起 し た 衣 服 の 記 号 論 を 中 心 的 な 方 法 論 と し て 用 い る た め 、 バ ル ト以 降 の 衣 服 の 記 号 論 に お い て 一 般 的 と な っ て い る 記 号 と し て の 衣 服 を 、 「衣 服 の 記 号 」 と し て 捉 え る 立 場 を 採 択 す る 。 「衣 服 の 記 号 」(vestimentary sigh)8) とは 、 バ ル トの 唱 え る 「衣 裳 の 知 的 機 能 」(fonction intelectulle du costume)9)に 着 想 を 得 て 、 ブ レ ッ ド ・ミ ラ ー ・ロ ビ ン ソ ン が『 山 高 帽 の 男 』(1993)の 中 で 提 唱 し た 術 語 で あ る 。 従 っ て 、 バ ル トの 言 う 「衣 裳 の 知 的 機 能 」 を 明 ら か に し た 上 で 、 ミ ラ ー ・ロ ビ ン ソ ン の 言 う 「衣 服 の 記 号 」 の 概 念 に 言 及 す る 。 バ ル トは 『エ ッセ ・ク リテ ィ ッ ク 』(1964)の 中 に 収 め られ て い る 「舞 台 衣 裳 の 病 い 」(1955) の 中 で 記 号 論 的 観 点 か ら 「衣 裳 の 知 的 機 能 」 を 説 明 し て い る 。 衣 裳 は た だ 見 られ る ため の もの で は な く、 ま た読 まれ る ため の もの で あ り、 思 想 や 認 識 や 感 情 を 伝 達 す るた め の もの で もあ った 。 舞 台 衣 裳 の知 的 な 、 ま た は 認 識 し うる細 胞 、 そ の 基 本 的 要 素 、 そ れ は 表 示 〔シ ーニ ュ〕 で あ る。10, ミラ ー ・ロ ビ ン ソ ンは 「衣 裳 の 知 的機 能 」 に関 す る バ ル トの 定 義 を踏 襲 しな が ら、 「衣 服 の 記 号 」 とい う術 語 を 作 り出 して 次 の よ うに 述 べ て い る。 衣 裳 の ア イ テ ム は 読 む こ とが で き る し、 「衣 裳 の 知 的 あ る い は認 識 的 な 細 胞 、 そ の 基 本
的 要 素 は 、 記 号 」、 も っ と具 体 的 に い え ば 、 「衣 服 の 記 号 」 に な る 。11), ミラ ー ・ロ ビ ン ソ ンの 見 解 を 考 慮 して 本 稿 で は 、 映 画 内世 界 に 登 場 す る数 々の 衣 服 を 「衣 服 の 記 号 」 と見 倣 して 、 考 察 を 展 開 させ る。 2.女 性 主 人 公 た ち と靴 の 関 係 『靴 に 恋 し て 』(2002)の 原 題 は"Piedras(石)"で あ る 。 映 画 の 主 人 公 は マ ド リ ッ ドに 在 住 す る5人 の 女 性 た ち で 、(1)高 級 靴 店 で 店 員 と して 働 い て い る23歳 の レ イ レ 、(2)25歳 だ が7 歳 程 度 の 精 神 年 齢 し か 持 た な い 知 的 障 害 の ア ニ ー タ 、(3)堅 実 な タ ク シ ー ド ラ イ バ ー で43歳 の マ リ ・カ ル メ ン 、(4)高 級 官 僚 の 妻 で あ る45歳 の イ サ ベ ル 、(5)ア ニ ー タ の 母 親 で マ ド リ ッ ド の 郊 外 に あ る 娼 館 を 経 営 し て い る49歳 の ア デ ー ラ で あ る 。 映 画 の あ ら す じ に 言 及 す る 前 に 、 な ぜ"Piedras"と い う タ イ トル が つ け ら れ た の か を 明 ら か に して お く。 "Piedras(石)"は 人 生 の 土 台 と な る 基 点 の 比 喩 で あ る 。 人 生 で は 、 愛 情 、 友 情 、 家 庭 、 職 業 とい っ た 基 点 とな る 確 固 と し た 「土 台 」 を 設 置 し て い か な け れ ば な ら な い が 、 こ の 映 画 の 女 性 主 人 公 た ち は 、 そ の 基 点 とな る 「土 台=石 」 を 置 くべ き 「時 」 に 置 くべ き 「場 所 」 に 設 置 す る こ とが で ぎ な か っ た 人 物 た ち で あ る 。 そ れ 故 、 映 画 が 進 行 し て い く中 で 、 彼 女 た ち は 自 分 た ち の 「土 台 」 を 布 置 す べ き場 所 を 探 求 して い く こ とに な る 。 映 画 の 題 名 が 、 単 数 形 の"Piedra "「 ひ と つ の 石 」 で は な く 、 複 数 形 の"Piedras"「 い くつ か の 石 」 と表 記 さ れ て い る の は 、 「石 」 が5人 の 女 性 主 人 公 た ち の 存 在 を 表 象 し て い る か ら で あ る 。 こ の よ うな 理 由 か ら 、 映 画 内 世 界 に は 、 具 体 的 な 「石 」 の 映 像 は 一 度 も 出 て こ な い 。 映 画 内 世 界 に お い て 、 「石 」 と し て の 女 性 た ち が 具 体 的 に 人 生 の 「土 台 」 を 形 作 っ て い くの は 、 彼 女 た ち が 履 く数 々 の 「靴 」 で あ る 。 そ こ で 、 邦 題 は『 靴 に 恋 し て 』 と さ れ 、 日本 で2004年 に 公 開 さ れ た12)。 従 っ て 、 本 稿 に お い て も 『 靴 に 恋 し て 』 と い う題 名 を 使 用 す る 。 映 画 の 舞 台 は21世 紀 初 頭 の マ ド リ ッ ドで あ る 。 映 画 は ア ニ ー タ が 犬 の 散 歩 を して い る と こ ろ か ら 始 ま り、 カ メ ラ は 彼 女 の 黄 色 い ス ニ ー カ ー を ク ロ ー ズ ア ッ プ で 映 し 出 す 。 そ し て 、 ア ニ ー タ は 犬 の 散 歩 を 続 け な が ら 途 中 で 立 ち 止 ま り、 マ ド リ ッ ドの 目抜 ぎ 通 りで あ る グ ラ ン ・ビ ア を 遠 くか ら 見 つ め る 。 ア ニ ー タ の 母 親 の ア デ ー ラ は シ ン グ ル マ ザ ー で あ る た め 、 マ ド リ ッ ドの 郊 外 に あ る 娼 館 で 経 営 者 と し て 働 い て い る間 、 看 護 士 志 望 の 学 生 、 ホ ア キ ン を 雇 っ て 娘 の 世 話 を さ せ て い る 。 高 級 靴 店 の 店 員 で あ る レ イ レ は 靴 デ ザ イ ナ ー に な る 夢 を 抱 い て お り、 女 性 用 の 靴 の デ ッ サ ン を た く さ ん 描 き 留 め て い る が 、 靴 店 の ハ イ ヒ ー ル を 無 断 で 拝 借 し て 夜 は デ ィ ス コ で ゴ ー ゴ ー ガ ー ル と し て 働 い て い る 。 高 級 官 僚 の 妻 で あ る イ サ ベ ル は 裕 福 な 生 活 を し て い る が 、 夫 との 夫 婦 関 係 は 完 全 に さ め て お り、 家 庭 内 離 婚 の 状 態 に あ る 。 イ サ ベ ル は 自 分 の 足 よ り小 さ
い サ イズ の 様 々な 靴 を コ レ ク シ ョンす る こ とを 趣 味 に して い る。 彼 女 は 、 擬 似 恋 愛 を 楽 しむ た め 、 若 い 足 の 専 門 医(東 洋 医 学 に 基 づ い て 足 の ツボ を 刺 激 して 身 体 の健 康 の 促 進 を 図 る医 者 の こ とを 映 画 内世 界 で は 指 して い る)の 所 へ 頻 繁 に 通 い は じめ る。 タ ク シ ー ドラ イバ ーの マ リ ・ カル メ ンは 夫 と死 別 した 後 、 彼 が 残 して い った 血 の つ な が りの な い3人 の 子 供 の うち 、 家 に 留 ま って い る2人 の 子 どもに 愛 情 を 注 ぎな が ら育 て て い る。 映 画 内世 界 で は5人 の 女 性 た ち の 恋 愛 や 失 恋 が 織 り成 され て い く。 高 級 靴 店 に 勤 め る レ イ レ は 恋 人の ク ンに去 られ 、彼 女 は 悲 しみ の 中、 実家 を訪 れ る。 驚 い た こ とに、彼 女 の 実 家 はマ リ ・ カル メ ン と2人 の 子 どもの い る家 で あ り、 実 は レ イ レが 死 別 した マ リ ・カ ル メ ンの 夫 の 次 女 で あ る こ とが 映 画 を 見 て い る観 客 の 眼 前 で 明 らか とな る。 知 的 障 害 の ア ニ ー タは 自分 の 世 話 を し て くれ て い るホ ア キ ンに 恋 を す るが 、 彼 が ゲ イ男 性 で あ る ため 、 そ の 恋 が 実 る こ とは な い 。 タ ク シ ー運 転 手 の マ リ ・カル メ ンは 血 の つ な が りの な い2人 の 子 供 との い ざ こ ざに 心 を 痛 め る。 高 級 官 僚 の 妻 の イサ ベ ル は 足 の 専 門 医 と自分 の 家 の 靴 ク ロ ーゼ ッ トの 中 で 深 い 関 係 に な る。 娼 館 を 経 営 す るア デ ー ラは 店 に 客 を 連 れ て きた ア ル ゼ ンチ ン人 中年 紳 士 の レオ ナ ル ド と恋 に 落 ち る。 そ して 、 物 語 は5人 の 女 性 たち が 自立 す る方 向へ と進 ん で い く。 マ リ ・カル メ ンは レ イ レに 、 死 ん だ 夫(レ イ レに とって は 父)が 生 前 、 彼 女 を ポ ル トガ ル の リスボ ン に連 れ て行 く約 束 を して い た こ とを 話 す と、2人 は 意 気 投 合 し、 マ リ ・カ ル メ ンの タ ク シ ーで リス ボ ンま で 夫 の 遺 灰 を も って 出か け て 行 ぎ、 亡 ぎ夫 の 大 好 ぎだ った リス ボ ンの 海 に 遺 灰 を 撒 く。 マ リ ・カル メ ンは そ の 後 自分 の タ ク シ ーで マ ドリ ッ ドに 帰 って い くが 、 レ イ レは リス ポ ン とい う都 市 空 間 を 靴 デ ザ イナ ーに な る夢 を 再 び 追 い か け る ため の 起 点 と見倣 し、 そ の ま ま そ の 地 に残 って デ ッサ ンの 勉 強 を 我 流 で 再 開 す る。 イサ ベ ル は ア デ ー ラ と付 き合 って い る 高 級 官 僚 の 夫 、 レオ ナ ル ド との 離 婚 を 決 意 す る。 ア ニ ー タは た っ た1人 で 散 歩 コ ース か ら逸 脱 し、1度 ホ アキ ンが 連 れ て行 って くれ た こ とが あ る グ ラ ン ・ビ アへ と出か け て い く。 ア デ ー ラ も、 レオ ナ ル ドが 既 婚 男 性 で あ る こ とを 知 って 彼 と別 れ る。 別 れ た 後 も娼 館 と家 を しつ こ く尋 ね て くる レオ ナ ル ド と完 全 に 決 別 す るた め 、 ア デ ー ラは 娼 館 の 経 営 か ら引 退 し、 以 前 か ら住 み たか っ た リス ボ ン に アニ ー タを 連 れ て 移 住 す る。 ア デ ー ラは 、 リス ボ ンで 新 た な 生 活 を ス タ ー トさせ 、 昔 か らの 夢 で あ っ た女 性 の 性 生 活 に 関 す る執 筆 活 動 を 開 始 す る。 レオ ナ ル ド と離 婚 し 家 を 出た イサ ベ ル は 、 夫 、 ル イス か ら うけ る ドメス テ ィ ッ ク ・バ イオ レ ンス が 原 因 で 死 亡 した 親 友 で テ レ ビ番 組 の 司 会 者 で あ っ たマ ル テ ィナ の 墓 を 弔 い に 訪 れ る。 マ リ ・カル メ ンは 、 血 の つ な が りの な い 娘 と息 子 と和 解 し、 タ ク シ ー ドラ イバ ー として 堅 実 な 日々を 続 け て い く。 こ う して 、5人 の 女性 た ち は そ れ ぞ れ に 生活 の 足場 を 固 め 直 し人 生 を再 ス タ ー トさせ る。 『 靴 に恋 して 』 に登 場 す る衣 服 の 中 で 最 も記 号 として 卓 越 した機 能 を 表 示 す るの は 数 々の 靴 で あ る。5人 の 女 性 主 人 公 の うち4人 に は 具 体 的 な 記 号 と して の 靴 が 与 え られ 、 そ れ らが彼 女 た ちの 性 格 、 社 会 的 立 場 、 経 済 状 態 な どを 表 示 す る記 号 として 映 画 内世 界 に お い て 作 用 して い
る。5人 の 女 性 た ちの 特 徴 は各 々が 履 く靴 と関 連 して 映 画 の 冒頭 場 面 の 字 幕 に次 の よ うに表 記 され て い る。
Anita: la mujer de las zapatillas deportivas Isabel: la mujer de los zapatos pequenos Adela: la mujer de los pies planos
(ア ニ ー タ:ス ニ ー カ ー の 女)
(イ サ ベ ル 小 さな靴 の 女)
(ア デ ー ラ:偏 平 足 の 女) Leire: la mujer de los zapatos robados
Mari Carmen: la mujer de las babuchas
(レ イ レ:盗 ん だ 靴 の 女) (マ リ ・カ ル メ ン:ス リ ッパ の 女) 引 用 した 字 幕 に 留 意 す れ ば 、 〈 ア ニ ー タ=ス ニ ー カ ー 〉 、 〈 イ サ ベ ル=小 さ な 靴 〉 、<レ イ レ=盗 ん だ 靴 〉 、 〈 マ リ ・カ ル メ ン=ス リ ッ パ 〉 とい う構 図 が 浮 か び 上 が っ て く る 。 ア デ ー ラ の み は 「偏 平 足 の 女 」 と表 記 さ れ て い る が 、 偏 平 足 で あ る とい う こ とは 足 に な じ む 靴 が な い と 解 釈 す る こ とが で き る 。 3.性 差 を明 示 す る記 号 と して の 衣 服 服 飾 史の 観 点 か らみ れ ば 、 衣 服 は 根 源 的 に 男 性 と女 性 を 区 別 す る ため の 記 号 として の 役 割 を 担 って き た。 ア ン ・ホ ラ ン ダ ー は 『性 とス ー ツ』(1994)に お い て 、 衣 服 の 性 差 を表 現 す る機 能 を 以 下 の よ うに説 明 して い る。 近 代 フ ァ ッシ ョンに お いて は 、 性 的 要 素 は 衣 服 の 第1の 属 性 で あ る。 衣 服 は まず そ れ を 着 る個 人 に働 きか け る。 そ うして お い て 初 め て 社 会 に働 きか け るの だ 。 幼 い 子 どもは 、 衣 服 が 個 として の ア イデ ンテ ィテ ィを 与 えて くれ る こ とを 学 ぶ 。 衣 服 が 、 性 に まつ わ る さ ま ざま な 思 い か ら始 ま る 自分 の 身 体 に つ い て の ひ そ か な 認 識 を 明 確 に して くれ るの だ 。 そ の よ うな 認 識 の 経 験 を 重 ね て 大 人 に な った あ か つ きに は 、 男 と女 を 基 本 的 存 在 とす る社 会 で 、 性 的 な 身 振 りを や り取 りす る手 段 として 衣 服 が機 能 す る よ うに な るの で あ る。 男 女 が 同 じ よ うな 服 装 を す る こ とも多 い 現 代 で さ え、 異 性 の 衣 服 を 着 る とい うこ とに 多 くの 人 々が 興 奮 を 覚 えて しま うの は 、 私 たち が 無 意 識 の な か で は 衣 服 の 性 差 を 象 徴 的 に は っ き りさせ る べ きだ と信 じて い るか らに ほ か な らな い 。13) ホ ラ ン ダ ーの 指 摘 に留 意 す れ ば 、 衣 服 は 第1に 性 差 を 表 現 す る記 号 として 発 動 し、 第2に 社 会 的 記 号 として 機 能 す る こ とが わか る。 そ こで 、 本 稿 に お い て も、 まず 衣 服 の 性 差 を 表 現 す る機 能 に焦 点 を あ て 、 そ の 後 、 衣 服 の 社 会 的 記 号 として の 側 面 に 言 及 す る。
『 靴 に恋 して 』 には 性 差 を 明示 す る記 号 として の 衣 服 が2種 類 登 場 す る。 ひ とつ は 男 性 登 場 人 物 た ちが しめ て い るネ ク タ イで 、 も うひ とつ は レ イ レが デ ィス コで ゴ ー ゴ ーガ ール と して働 い て い る とき に履 く赤 い ハ イ ヒ ール で あ る。 ネ ク タ イは 男 性 が ス ー ツの 一 部 として 着 用 す る男 性 的 記 号 で あ り、 ハ イ ヒ ール は 女 性 が 女 性 ら し さを 強 調 す るた め に 履 く女 性 的 記 号 で あ る。 3.1.男 性 的 記 号 と し て の ネ ク タ イ ネ ク タ イ は 、 ズ ボ ン 、 ジ ャ ケ ッ ト、 シ ャ ツ と共 に 男 性 の ス ー ツ 姿 とい う衣 裳 体 系 を 構 成 す る 男 性 的 記 号 で あ る'4)。 よ り具 体 的 に 言 え ば 、 ネ ク タ イ は 「男 根 を 象 徴 す る 衣 服15)で あ る 。 ま た 、 レ ナ ー ト ・シ グ ル タ は 「セ ッ ク ス の シ ン ポ ラ イ ズ モ ー ドの 心 理 学 」(1972)と 題 し た 論 文 に お い て 、 ネ ク タ イ を は じ め とす る 幾 つ か の 衣 服 を 「性 を 語 る 服 装 」 の 一 部 と 見倣 し て 、 以 下 の よ う に 書 い て い る 。 性 を 連 想 さ せ る 特 徴 を か く し た り、 な く し た りす る ト リ ッ ク を 用 い な が ら 、 シ ンボ ル と な る 別 の も の の 口 を 通 じ て 語 ら せ て 、 性 の 特 徴 を 強 調 さ せ る の が そ の 場 合 で あ る 。 普 通 の ネ ク タ イ や 幅 の 広 い の や 狭 い ネ ク タ イ 、 鎖 とメ ダ ル の つ い た 懐 中 時 計 、 ス テ ッ キ 、 誘 う よ う に 閉 じ る 扇・・・・・・と い っ た も の が そ れ で あ る 。16) 物 語 展 開 に寄 与 す る主 要 人 物 の 中 で 、 ネ ク タ イを しめ て い る男 性 は3人 登 場 す る。 高 級 官 僚 で イサ ベ ル の 夫 で あ る レオ ナ ル ド とレオ ナ ル ドの 上 司 の 大 使 そ して 、 マ ル テ ィナ の 夫 の ル イス の 3人 で あ る。 レオ ナル ドが 着 用 して い る赤 色 の ネ ク タ イに 関 して は 、 ネ クタ イ そ の もの の 記 号 的 役 割 よ り も赤 色 とい う色 彩 記 号 が 交通 信 号 的 な役 割 を果 た して い るの で 、 「衣 服 の色 彩 の 信 号 表 示 的 機 能 」 と関 連 させ て 後 述 す る。 レオ ナ ル ドの 上 司 で あ る大 使 は 、 黒 色 の ネ ク タ イ姿 で 登 場 し、 他 の 政 府 の 高 官 た ち と共 に イ サ ベ ル の 家 で 行 われ る晩 餐 会 に 出席 す る。 レオ ナ ル ドが ア デ ー ラに 会 い に 行 って い るた め 、 主 催 者 が 不 在 とな っ た晩 餐 会 の 途 中 で 、 大 使 とイサ ベ ル の2人 は トイ レの 中 で 深 い 関 係 に な る。 そ の 際 、 大 使 は ズ ボ ンは 下 ろ して い るが 、 上 半 身 の ネ ク タ イは し っか り としめ た ま ま イサ ベ ル と男 女 の 関 係 を 共 有 す る。 ネ ク タ イの 黒 とい う色 彩 が 示 す 記 号 内容 に 関 して 、 ア リソ ン ・リュ リーは 『衣 服 の 記 号 論 』(1987)に お い て、 「黒 は 成 熟 を 表 わ す 。 つ ま る とこ ろそ れ は 悪 、 不 幸 、 死 な ど、 人 間 の 生 涯 の 闇 に 関 す る知 識 や 経 験 を さ して い る17)」 と説 明 して い る。 ま た 、 ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ンが『 フ ァ ッシ ョンの 文 化 社 会 学 』(1996)の 中 で 「普 通 の ネ ク タ イ は 、 伝 統 的 な 性 生 活 を アピ ール す る記 号 とな る18)」 と定 義 して い る よ うに 、 大 使 の しめ て い る ネ クタ イは 「性 生 活 を ア ピ ール す る記 号 」 と して も映 画 内世 界 で 作動 して い る。 リュ リー とフ ィ ン ケル シ ュ タ イ ンの 意 見 に 準 拠 す れ ば 、 大 使 が しめ て い る黒 色 の ネ ク タ イの 記 号 内容 は 、(1)
悪 、(2)不 幸 、(3)闇 、(4)性 生 活 の ア ヒ ール とい う4つ か ら成 り立 って い る こ とが わ か る。 イサ ベ ル の 親 友 で テ レ ビ番 組 の 司 会 者 で あ るマ ル テ ィナ の 夫 、 ル イス が しめ て い るの は シ ル バ ーが か った 茶 色 の ネ ク タ イで あ る。 マ ル テ ィナ は 夫 ル イス の ドメ ス テ ィ ック ・バ イオ レ ンス が 原 因 で 顔 に怪 我 を し、 そ の 怪 我 を 化 粧 で 隠 して イサ ベ ル の 家 に 逃 げ て きて 、 そ こで 数 日間保 護 され る こ とにな る。 イサ ベ ル の 家 で保 護 され て い るマ ル テ ィナ を 迎 えに 来 た 時 の ル イス は 少 しシル バ ーが か った 茶 色 の ネ ク タ イを しめ て 登 場 し、 結 果 的 に マ ル テ ィナ を 自分 の 家 に 連 れ て 帰 る こ とに成 功 す る。 この 場 面 で 、 ル イス が マ ル テ ィナ と観 客 に 向か って 発 信 して い る記 号 内 容 は ネ ク タ イの 色 彩 で あ る茶 色 で あ る。 リ ュ リ ーは 衣 服 に お け る茶 色 とい う色 彩 に 関 して 、 「上 司 、 同僚 、 顧 客 との 友 情 や 信 頼 関 係 を大 切 に し よ う とす る 人 が い るが 、 そ うい う人 々に 対 して 服 装 コ ン サ ル タ ン トは 、 茶 色 系統 を 着 な さ い とア ドバ イス す る。」 と指 摘 した上 で、 次 の よ うに説 明 して い る。 中 ぐらい の 濃 さの 茶 色 と焦 げ 茶 色 は 落 ち 着 い た 、 安 心 感 を 与 え る、 地 道 な 色 で あ り、 信 頼 性 と勤 勉 を 物 語 る。 ま た、 高 い社 会 的 地 位 を もつ 人に あ りが ち な 世 間 的 な 虚 栄 とは 無 縁 の 色 とされ て い る。19) ル イ ス は 身 に つ け た 茶 色 の ネ ク タ イ か ら 、(1)安 心 感 、(2)信 頼 性 、(3)勤 勉 、 とい う3つ の 記 号 内 容 を 発 信 し、 マ ル テ ィ ナ を 安 心 さ せ て 家 に 連 れ て 帰 る こ とに 成 功 す る 。 3.2.ハ イ ヒー ル の 両 義 性 F.モ ネ イ ロ ン は『 フ ァ ッ シ ョ ン の 社 会 学 』(2006)の 中 で 、1970年 代 末 に お け る ハ イ ヒ ー ル の 再 台 頭 に 注 目 し な が ら 、 そ の 「女 性 的 魅 力 」 に 言 及 し て い る 。 1970年 代 末 には デ ザ イナ ーた ち が 透 け る衣 服 で 競 い あ った が 、 続 く時 期 に は あ らゆ る形 の 身 体 の 線 を 見 せ る衣 服 が 影 を 潜 め 、 代 わ りに 多 くの 人 に とって 女 性 ら しさの 象 徴 で あ る ハ イ ヒ ール が 再 び 支 配 と隷 属 との あ い だ で 揺 れ 動 く洗 練 され た女 性 的 魅 力 の 象 徴 とな っ た 。20) ま た 、20世 紀 にお け るハ イ ヒ ール の 女 性 的 魅 力 を 強 調 す る役 割 に 関 して 、 山 田登 世 子 は『 モ ー ドの 帝 国 』(2006)の 中 で、 「歩 け な いほ ど高 い ヒ ール は 女 の か ら だの あ や うさを 強 調 して 誘 惑 力 を放 ち、 ヒー ル を履 い た あ らわ な脚 は、挑 発 的 に欲 望 を煽 りた て だ21)」と言 って い る。 フ ァ ッ シ ョン学 の2人 の 研 究 者 の 意 見 か ら、 ハ イ ヒ ール が 「女 性 的 魅 力 」 を 強 調 す る衣 服 の 記 号 で あ る こ とが わ か るが 、 ジ ョア ン ・フ ィ ン ケル シ ュ タ イ ンは 「女 性 的 魅 力 」 とい う記 号 内容 に加 え
て 、 ハ イ ヒ ー ル の も うひ とつ の 側 面 を 指 摘 し て い る 。 ハ イ ヒ ール の 魅 力 は 女 性 の か ら だの バ ラ ンス を 変 えて 官 能 的 に す る こ とだ とい う。 ヒ ー ル に よ って か らだ は す っ と伸 び 、 腰 は 斜 め に 突 き 出 され 、 お 腹 は ひ っ こむ 。 しか も ヒ ール そ の もの は 男 根 の 象 徴 とな る22) フ ィ ン ケル シ ュ タ イ ンの 指 摘 か ら、 ハ イ ヒ ール が 「女 性 的 魅 力 」 とい う記 号 内容 を 表 示 す る と 同時 に、 「男 根 」 とい う記 号 内容 も包 摂 す る両 義 的 な記 号 で あ る こ とが わか る。『靴 に 恋 して 』 にお いて 、 レイ レが 自分 の 仕 事 場 の 高 級 靴 店 か ら盗 ん で きて デ ィス コの お 立 ち 台 の 上 で 履 くハ イ ヒ ール も、 「女 性 的 魅 力 」 と 「男 根 」 を表 象 す る両 義 的 な記 号 で あ る。 レイ レは、 恋 人 の ク ン との 恋 が 破 局 し、 失 恋 を 紛 らわ す た め ドラ ッ グを 服 用 した 状 態 で デ ィス コの お 立 ち 台 の 上 で 踊 って バ ラ ンス を 崩 し、 右 側 の ハ イ ヒ ール の 踵 が 真 っ二 つ に 割 れ て ハ イ ヒ ール が 脱 げ 、 そ の ま ま 転 倒 し気 を失 って しま う。 ハ イ ヒ ール の 踵 が 割 れ る、 足 か らハ イ ヒ ール が 外 れ る、 とい う2 つ の 映 画 内事 実 か らハ イ ヒ ール が 物 語 に 与 え る両 義 的 な 記 号 内容 を 導 き 出せ る。 す な わ ち 、 ハ イ ヒ ール の 踵 が 破 損 し外 れ た こ とは 、 レ イ レに とって 恋 人 の ク ン との 「恋 愛 に お け る挫 折 」 を 意 味 す る と同時 に、 彼 女 が ク ン とい う 「男 根 」 を 象 徴 す る男 性 的 記 号 を 失 った こ とも表 象 して い る。 4.社 会 的 記 号 と しての 衣 服 『 靴 に恋 して 』 の 映 画 内世 界 に お いて 、 衣 服 は 社 会 的 記 号 として機 能 して い る。 具 体 的 に こ の 映 画 の 中で 社 会 的記 号 と して発 動 す るの は 、2人 の 医者 が身 に纏 って い る 白色 の 衣 服 とマ リ ・ カル メ ンの ス リ ッパ とブル ー ジ ー ンズ 、 の2種 類 で あ る。 従 って 、 これ ら2種 類 の 衣 服 を 順 番 に考 察 す る。 4.1.職 業 を表 示 す る衣 服 映 画 内世 界 に は病 院 の 医者 とイ サ ベ ル が 通 う足 の 専 門 医 とい う、2人 の 医者 が登 場 す る。 こ れ ら2人 の 医 者 には1つ の 共 通 項 が 存 在 す る。 そ れ は 両 者 ともに 映 画 内世 界 に お い て 名 前 が 明 か され な い 人 物 で あ り、 そ れ 故 彼 らは 「病 院 の 医 者 」、 「足 の 医 者 」 と呼 ば れ る。 名 前 や年 齢 、 性 格 まで 詳 細 に わ た って描 写 され る5人 の 女 性 主 人公 た ち と比 べ る と、2人 の 医者 は よ り記 号 化 され た人 物 だ と捉 え る こ とが で き、 そ の 記 号 内容 は 彼 らの 衣 服 に 表 示 され て い る。 ま ず 、病 院 の 医 者 の 服 装 か ら考 察 す る。 病 院 の 医 者 に関 して わ か る こ とは 以 下3点 で あ る。 第1点 は 『靴 に 恋 して 』 の 映 画 監 督 で あ
る ラモ ン ・サ ラサ ール 自身 が 病 院 の 医 者 を 演 じて い る とい うこ と。 第2点 は 、 この 登 場 人 物 は ゲ イ男 性 と して 設 定 され て い る こ と。 第3点 は 、 映 画 の 終 盤 に お い て 、 医 者 は レ イ レの 親 友 で 高 級 靴 店 店 員 の ゲ イ男 性 、 ハ ビエ ル と同棲 し始 め る こ とで あ る。 病 院 の 医 者 は 映 画 の 前 半 に、 マ リ ・カル メ ンの 血 の 繋 が りの な い 娘 で あ る ダニ エ ラが 麻 薬 中 毒 で 病 院 に 運 ば れ て きた 時 に 診 察 す る。 そ して 、 レ イ レが デ ィス コで ゴ ー ゴ ー ガ ール として 踊 って い る最 中 に 、 服 用 して い た ドラ ッ グの せ い で 転 倒 して 、 病 院 に 運 ば れ て きた とき も、 この 医 者 が 診 察 す る。 病 院 の 医 者 の 映 画 内世 界 にお け る特 徴 と機 能 を 表 示 して い るの は 、 彼 が 纏 って い る 白衣 で あ る。 白衣 は 彼 が 医 者 で あ る こ とを 指 し示 す 制 服 で あ る こ とか ら社 会 的 記 号 で あ る と言 え る。 型 として の 制 服 の 社 会 的 記 号 と して の 特 質 に関 して、 小 池 三 枝 は『 服 飾 文 化 論 』(1998)の 中 で 以 下 の よ うに 論 述 して い る。 社 会 か らの 規 制 が 顕 著 な 衣 服 に 制 服 と礼 服 が あ る。 前 者 は 制 度 に よ り、 後 者 は 慣 習 に よ り、 一 定 の 形 ・枠 が 決 め られ て い る。 これ らの 衣 服 は 、 ぜ ひ そ れ を 着 な け れ ば な らな い 場 、 た とえば 学 校 や 職 場 や 儀 礼 の 場 に お い て 、 着 る 人を ひ とつ の 型 に 入 れ て し ま う。 そ れ らは 個 々の 主 張 を 押 さ えて 集 団 を 統 制 す る衣 服 で あ り、 そ の 限 りで は 制 約 的 な 衣 服 で あ るが 、 逆 に個 々の 人 間 が 自己 を 集 団 に 紛 れ 込 ませ て し ま う隠 れ 蓑 ともな る。 た とえそ れ を 着 る人 間 の 実 態 が 衣 服 に ふ さわ し くな い 場 合 で も、 型 の 決 ま っ た衣 服 を 着 る こ とに よ って 、 そ れ ら し く取 りつ くろ うこ とが で き る。 した が って 制 服 や 礼 服 は 着 る人 を 型 の 中 に 入 れ て 制 約 す る と同時 に、 型 の 中 で 保 護 す る もの で あ る。 これ は 型 が 社 会 的 な 記 号 として の 役 割 を 果 す か らで あ る。23) 白衣 の 白 とい う色 彩 は 「医療 従 事 者 の 規 格 色24)」 で あ る。 イサ ベ ル の 足 を 診 て い る足 の 専 門 医 は 、 白衣 は 着 て いな いが 、 常 に 「医療 従 事 者 の 規 格 色 」 で あ る 白色 の 衣 服 、 具 体 的 に は 、 白い シ ャ ツ と白い ズ ポ ン とい う身 な りで イサ ベ ル の 足 を 診 察 す る。 つ ま り、 白 とい う色 彩 に統 一 さ れ た服 装 が 社 会 的 記 号 と して 機 能 し、 この 人 物 が 医療 従 事 者 で あ る こ とを 表 示 して い る。 ま た 、 シ ンボ リズ ム の 知 見 か ら2人 の 医 者 が 着 用 して い る色 彩 として の 白を 眺 め て み る と、 そ こ には 、 総 和 として の 白が 顕 在 化 し、 映 画 内世 界 に お け る心 の 病 ん だ 患 者 達(レ イ レ とダニ エ ラそ して イサ ベ ル)を 「無 垢 な 状 態 へ 回 復 」 させ る ため の 記 号 内容 が 白 とい う色 彩 に 内在 し て い る と推 察 で き る。 ハ ンス ・ビ ー ダ ーマ ン は『 図説 世 界 シ ンポ ル 事 典 』(1989)の 中 で 色 彩 と して の 白の シ ンポ ル 性 を 次 の よ うに 説 明 して い る。 白は 、 光 の ス ペ ク トル を 構 成 す るす べ て の 色 の 総 和 、 も し くは ま った くの 「無 色 」 を あ らわ す 。 この た め 白は 、 原 初 の 楽 園 に お け る、 ま だ何 に も染 ま って い な い 汚 れ な き無 垢 の
状 態 の シ ンポ ル で あ り、 あ るい は ま た 自己 を 浄 化 して そ の よ うな 無 垢 の 状 態 を 回 復 す る と い う最 終 目標 の シ ンポ ル で もあ る。 多 くの 文 化 圏 で は 、 聖 職 者 の 衣 服 とな り、 純 潔 や 真 実 を 象 徴 す る。25) ビ ー ダ ーマ ンの 言 説 か ら、 医 者 の 白衣 に 内在 す る 「神 格 化 され た存 在 」 とい う記 号 内容 は 、 聖 職 者 の そ れ に 由来 して い る こ とが わか る。 この よ うに 、 白衣 と白い 服 装 が 「聖 職 者 の 衣 服 」 の ニ ュア ンス を 伴 っ た社 会 的 記 号 として 映 画 内世 界 で 作 用 し、 病 院 の 医 者 と足 の 専 門 医 が 医療 関 係 従 事 者 で あ る こ とを 表 示 しな が ら、 レ イ レ とダニ エ ラそ して イサ ベ ル を 「無 垢 な 状 態 」 へ 回 復 させ る手 助 け を す る。 4.2.社 会 階 級 を表 示 す る衣 服 マ リ ・カル メ ンの 服 装 で あ る ブル ー ジ ー ンズ+ス リ ッパ も ま た、 社 会 的 記 号 として の 役 割 を 映 画 内世 界 にお い て 担 って い る。 ブル ー ジ ー ンズ に 関 して 、 バ ル トが 「青 い 作 業 服 《ブル ー= ジ ー ンズ 》 が 安 逸 な 暮 ら しの 記 号 に な って い る26)」 と判 断 して い る よ うに 、 この 衣 服 は 庶 民 階 級 の 「安 逸 な 暮 ら し」 を 表 現 す る社 会 的 記 号 として機 能 して い る。 ブル ー ジ ー ンズ とは 元 来 ふ だん 着 で あ る。 ブル ー ジ ー ンズ を 常 に 着 用 す るマ リ ・カル メ ンの 心 理 を 解 明 す るた め に 、 女 流 俳 人 、 細 見 綾 子(1907 1997)の 俳 句 に 焦 点 を あ て る。 ふ だ ん 着 で ふ だ ん の 心 桃 の 花 細 見 綾 子27) この 俳 句 を 引 用 した の は 、 この 句 の 中 に ふ だん 着 を 着 用 す る 人間 の 心 理 が うま く表 現 され て い るか らで あ る。 細 見は この 俳 句 の 中 で 、 〈普 段 着=普 段 の 心 〉 とい う構 図 を 詩 化 させ て い る。 〈普 段 着=普 段 の 心 〉 とい う構 図 は マ リ ・カル メ ンの 場 合 に も見 出せ る。 つ ま り、 庶 民 階 級 に 属 す るマ リ ・カル メ ンが 気 取 った り着 飾 った りす る こ とな く、 常 に 普 段 の 心 的 態 度 で あ るた め 、 普 段 着 で あ る ブル ー ジ ー ンズ を い つ も着 用 して い るの だ と判 断 す る こ とが で き る。 また 、 亡 く な った 夫 の 長 女 で あ る ダニ エ ラは 、 自分 の 父 が 残 し たア パ ー トや タ ク シ ー とい った 全 て の 財 産 を マ リ ・カル メ ンが 全 て 奪 った と見做 して 、 マ リ ・カル メ ンの 行 動 を 批 判 的 に 観 察 して い る。 マ リ ・カル メ ンは ダニ エ ラに 対 して 、 死 別 し た夫 か ら相 続 し た遺 産 を 無 駄 に使 って い な い こ と を 視 覚 的 に提 示 す るた め に 、 ス リッパ とブル ー ジ ー ンズ とい う庶 民 的 で 簡 素 な 衣 服 を 身 に 纏 っ て い るの で あ る。 ま た 、 彼 女 が い つ も履 いて い る ス リ ッパ に は 、 「ふ だ ん着 」 以 外 の 記 号 内容 も内包 され て い る と推 定 で き る。 一 般 的 に い って 、 ス リ ッパ は 、 家 の 中 、 す な わ ち 、 家 庭 内で の み 使 用 され る 衣 服 で あ る。 タ ク シ ー ドラ イバ ー として 外 で 働 い て い る時 や 、 亡 ぎ夫 の 息 子 を 小 学校 ま で 迎 え
にい く とぎ にス リ ッパ を 履 い て 人 前 に 現 れ るマ リ ・カル メ ンの 意 図 は 、 彼 女 が タ ク シ ー ドラ イ バ ーで あ りな が ら、 死 別 した 夫 の 子 供 た ち を 大 事 に して い る家 庭 の 主 婦 で もあ る こ とを 社 会 に ア ピ ール す る た め で あ る。 換 言 す れ ば 、 マ リ ・カル メ ン の ス リ ッパ は 、 「庶 民 階 級 」 と 「家 庭 の 主 婦 」 とい う2つ の 記 号 内容 を 有 す る両 義 的 な 社 会 的 記 号 な の で あ る。 4.3.衣 服 の色 彩 の信 号 表 示 的 機 能 記 号 論 的 観 点 か らみ れ ば 、 交 通 信 号 の3種 類 の 灯 火 は 特 定 の 記 号 内容 を伝 達 す る色 彩 記 号 で あ る。 バ ル トは 衣 服 の 記 号 論 の 視 点 か ら『 モ ー ドの 体 系 』 の 中 で 、 「赤 は 禁 止 の 記 号 で す 」 と 言 明 した上 で 交 通 信 号 の3種 類 の 灯 火の 記 号 内容 に 関 して 、 「私 の 前 に違 う色(赤 、 緑 〔青 〕、 黄)の3つ の 灯 火 が あ る。 そ れ らが そ れ ぞ れ違 う意 味(禁 止 、 自 由、 注 意)の 信 号 で あ る こ と を 理 解 す るた め に言 語 の 必 要 は な い28)」 と書 い て い る。 ま た 、 米 盛 祐 二 は 『パ ース の 記 号 学 』 (1981)に お い て交 通 信 号 の3種 類 の灯 火 が 表 意 す る記 号 内容 を説 明 して い る。 交 通 信 号 の 赤 色 、 青 色 、 黄 色 か ら直 接 感 受 す る生 の 印 象 何 ら判 断 も解 釈 も加 え られ な い 単 な る 感 じ に は い か な る意 味 も知 的 要 素 もな い 。 そ れ は 単 な る所 与 で あ り、 「現 れ 」 にす ぎな い。 しか しそ の 直接 的 経験 が それ 自体 の現 れ 以 外 の何 か を言 明す る よ うに な っ た と き、 た とえ ば 交 通 信 号 の3種 の 色 の 印 象 が そ れ 自体 を超 え て 、 「危 険 」、 「安 全 」、 「注 意 」 を 表 意 す る記 号 と して 働 く とき、 そ して そ の ときに 、 わ れ わ れ の 直 接 的 印 象 は 単 な る 所 与 性 か ら積 極 的 な 認 識 作 用 に 変 容 す るの で あ る。29) 交 通 信 号 は社 会 生 活 のル ー ル の 一部 を 成 して お り、3種 類 の 色 彩 信 号 の 記 号 内容 は 社会 が 恣 意 的 に決 定 づ け た もの で あ る。 そ こで 本 稿 で は 、 衣 服 の 色 彩 が 交 通 信 号 的 な 役 割 を 果 た す機 能 の こ とを、 「衣 服 の 色 彩 の信 号 表 示 的 機 能 」 と呼 ぶ こ とに し、 交 通 信 号 の 社 会 的 側 面 を考 慮 して 本 章 にお い て この 機 能 を 考 察 す る。 レオ ナ ル ドが 締 め て い る赤 い ネ ク タ イ とア ニ ー タが 履 い て い る黄 色 い ス ニ ーカ ーは 、 映 画 内 世 界 にお い て 交 通 信 号 の よ うに 機 能 し、 物 語 内容 に 関 与 して くる。 まず 、 レオ ナ ル ドの 赤 い ネ ク タ イか ら分 析 す る。 レオ ナ ル ドは ア デ ー ラの 前 で2度 ネ ク タ イを つ け た姿 で 現 れ る。 初 め て ア デ ー ラの 店 に現 れ た とき、 この 登 場 人 物 は 白地 に 赤 色 の ス トラ イ プの ネ ク タ イ を着 用 して お り、2度 目に彼 女 を デ ー トに誘 うため に単 独 で 現 れ た ときは 真 紅 の ネ ク タ イを しめ て い る。 す な わ ち 、 レオ ナ ル ド の2本 の ネ ク タ イは 赤 色 とい う色 彩 記 号 を ア デ ー ラに 向か って 発 信 して い る と捉 え る こ とが で き る。 アデ ー ラ に とって 赤 色 の ネ ク タ イは 交 通 信 号 の 赤 色 の よ うに 「信 号 表 示 的機 能 」 を 発 揮 して 「禁 止 」 を 表 す 記 号 として 作 用 す る。 な ぜ な ら、 レオ ナ ル ドは イサ ベ ル とい う妻 が あ る既
婚 男 性 で あ る が 、 そ の こ とを 隠 し て ア デ ー ラ に 交 際 を 申 し 込 ん で い る か ら で あ る 。 結 果 と し て 、 ア デ ー ラ は レ オ ナ ル ド と交 際 す る が 、 彼 が 既 婚 男 性 で あ る こ とを 知 っ て 別 れ る こ とに な る 。 ま た 、 ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン が 、 「赤 い ネ ク タ イ は 、 男 ら し さ と異 性 愛 の 象 徴 と 解 釈 さ れ う る20)」と指 摘 し て い る こ とに 留 意 す れ ば 、 レ オ ナ ル ドの 赤 い ネ ク タ イ が 、(1)男 ら し さ 、(2)異 性 愛 、(3)禁 止 、 とい う3つ の 記 号 内 容 を 発 信 す る 意 味 標 識 と し て ス ク リ ー ン 上 に 発 現 す る こ とが 明 ら か とな る 。 25歳 で7歳 程 度 の 精 神 年 齢 し か 持 た な い ア ニ ー タ とい う登 場 人 物 の 属 性 を 決 定 づ け て い る 色 彩 記 号 は 、 彼 女 が 履 い て い る 黄 色 い ス ニ ー カ ー の 黄 色 とい う色 彩 で あ る 。 衣 服 を 彩 る 色 彩 と し て の 黄 色 に 関 し て 、 ア リ ソ ン ・ リ ュ リ ー は 以 下 の よ うに 定 義 し て い る 。 黄 色 は光 、 歓 喜 、 若 さ、 希 望 を連 想 させ る。(中 略)黄 色 は 子 供 服 、 と くに新 生 児 や 乳 児 の服 に よ く使 われ 、 思春 期 が終 わ る まで 人気 が あ る。 年 齢 が上 が るに つれ て 人 気 は下 が っ て くる。3D 黄 色 い ス ニ ー カ ー は 、 ア ニ ー タ が 精 神 的 に 子 供 で あ る こ とを 象 徴 す る 記 号 で あ り、 彼 女 が 知 的 レ ベ ル に お い て7歳 で あ る こ とを 示 し て い る 。 同 時 に 、 こ の 靴 は 、 ア ニ ー タ が 常 に 「注 意 」 信 号 を 発 して い る 人 物 で あ る こ とを 明 示 す る機 能 も 担 っ て い る 。 こ の よ うに 、 黄 色 い ス ニ ー カ ー は 、(1)精 神 年 齢 の 低 さ 、(2)子 供 服 、(3)注 意 、 とい う3つ の 記 号 内 容 か ら 形 成 さ れ た 意 味 標 識 と して 映 画 内 世 界 で 作 用 す る 。 4.4.社 会 的 ・経 済 的 記 号 と して の ブ ラ ン ド ブ ラ ン ド とは 、 幾 つ か の 記 号 内容 を 内包 す る社 会 的 ・経 済 的 記 号 で あ る。 成 田康 昭 は 「衣 服 の 記 号 論 」(1982)の 中 で記 号 として の ブ ラ ン ドの 「美 的 機 能 」 と 「実 用 的 機 能 」 を 以下 の よ うに説 明 して い る。 ブ ラ ン ド とい う記 号 は 、 本 来 は 「何 か を保 障 す る」とい う意 味 を 持 って い た 。 す な わ ち 、 ブ ラ ン ドの マ ー クは 、 そ れ が 「本 モ ノ」で あ り「みか け だ おれ 」の 「ニ セモ ノ」と対 立 す るモ ノ で あ る こ とを 意 味 して い た。 た とえば 、 「シ ャネ ル 」の ス ー ツは そ の デ ザ イナ ーを 示 し、 し た が って 、 そ の 美 的 機 能 を 保 障 す る とい う意 味 作 用 を 持 って い た 。 男 性 用 衣 服 や カ バ ン、 靴 、 ベ ル トな どの 小 物 類 の ブ ラ ン ドは 、 本 来 は使 用 上 の 耐 久 性 とい った 実 用 的機 能 を保 障 す る記 号 で あ っ た。32) 引 用 した 言 説 の 中 で 、 成 田は ブ ラ ン ドの マ ー クが 「本 モ ノ」 と 「ニ セ モ ノ」 との 対 立 を 示 す ご
とを 指 摘 し て い る 。 ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン は 「本 モ ノ 」 と 「ニ セ モ ノ 」 の 対 立 を 表 現 す る ブ ラ ン ド とい う存 在 を 「区 別 す る 記 号 」 と定 義 し、 以 下 の よ うに 書 い て い る 。 現 代 社 会 で は 文 化 は 本 質 的 に 無 秩 序 な 世 界 で あ る。 この 世 界 で は 記 号 とイ メ ー ジが 氾 濫 し、 ごた ま ぜ とア イ ロニ ーを つ く り出 し、 人 々は 決 ま っ た意 味 の な い 不 安 定 な 状 態 にお き ざ りに され て い る。 たが い を区別 す る記 号 として使 われ る多 様 なス タ イル とブ ラ ン ドの フ ァッ シ ョン商 品 と、 一 時 的 な 秩 序 や 安 定 を も た らす 象 徴 の 体 系 は 、 この 混 沌 とした 社 会 を維 持 す る点 で 、 ま さに 同 じで あ る。33) フ ィ ン ケル シ ュ タ イ ンが 言 う 「一 時 的 な 秩 序 や 安 定 を も た らす 」 ブ ラ ン ド とい う存 在 は 、 そ の 安 定 性 か ら成 田が 指 摘 す る 「保 障 す る記 号 」 へ と変 貌 を 遂 げ 、 最 終 的 に 社 会 的 ・経 済 的 記 号 と して の 価 値 を獲 得 す る に至 った 。5人 の 女 性 主 人 公 の うち の1人 で あ る イ サベ ル は 、 高 級 官 僚 の 妻 で あ るが 故 に常 に モ ー ドの 最 先 端 の 靴 を 履 き 自 らの 社 会 的 ・経 済 的 な 立 場 を 提 示 して い る。 実 際 、 彼 女 の 足 元 を 飾 るス ペ イ ン ・カ タル ーニ ャ産 の 靴 ブ ラ ン ド、 トニ ー ・モ ラの 最 新 モ デ ル (2002年 度)の ブ ー ツ は彼 女 の 存 在 そ の もの を規 定 す る 「衣 服 の記 号 」 で あ る。 ブ ラ ン ド品 の 社 会 的 ・経 済 的 記 号 の 側 面 に関 して 、 小 池 三 枝 は『 服 飾 文 化 論 』(1998)に お いて 次 の よ うに 記 述 して い る。 近 年 の い わ ゆ る ブ ラ ン ドもの の 衣 服 や 持 ち 物 に デ ザ イナ ーの 名 前 や 商 標 を 付 け る風 潮 が あ る。 これ らの バ ッ ジや ブ ラ ン ド名 は 着 る人 の 社 会 的 位 置 や 経 済 的 レベ ル で の 所 属 を 他 人 に 明示 す る記 号 で あ る341) 「社 会 的 位 置 」 及 び 「経 済 的 レベ ル 」 を 表 象 す る記 号 として の ブ ラ ン ドの 在 り方 に 注 目しな が ら イサ ベ ル が 履 い て い る トニ ー ・モ ラの ブ ー ツを 観 察 して み る と、 この ブ ラ ン ド品 の ブ ー ツは 、 彼 女 の 富(経 済 状 態)を 表 して い るだ け で な く、 彼 女 が ス ペ イ ン社 会 に お い て 上 流 階 級 に 属 し て い る こ とを 明示 す る 「上 流 階 級 の 記 号 」 として も作 用 して い るの で は な い か と推 論 で き る。 筆 者 の推 論 の正 当性 を 証 明 す る た め に、 「上 流 階 級 の 記 号 」 に関 す る ジ ョア ン ・フ ィ ン ケル シ ュ タ イ ンの 言 説 に注 目して み る。 フ ィ ン ケル シ ュ タ イ ンは ア メ リカ合 衆 国 に お け る ラル フ ・ロ ー レ ンの 場 合 を 例 として あ げ な が ら、 「上 流 階 級 の 記 号 」 を以 下 の よ うに説 明 して い る。 ア メ リ カ で ラ ル フ ・ロ ー レ ン の イ メ ー ジ が 人 気 が あ る の は 、 新 し い 豊 か さ を 懐 古 的 に 演 出 す る 戦 略 の 勝 利 で あ ろ う。 そ の 成 功 の 秘 訣 は 上 流 階 級 の 記 号 を ア ウ ト ドア の ラ イ フ ス タ イ ル の イ メ ー ジ へ とお き か え た こ とに あ る 。 ラ ル フ ・ロ ー レ ン とポ ロ ・ラ ル フ の 服 を 着 れ
ば 、 社 会 的 地 位 が あ ろ う とな か ろ う と、 「上 流 階 級 の 記 号 」 を ア ピ ール で きる。 フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン の 見 解 に 立 脚 す れ ば 、21世 紀 初 頭 の ス ペ イ ン 社 会 に お い て 高 級 ブ ラ ン ド と して 認 知 さ れ て い る トニ ー ・モ ラ の ブ ー ツ を 履 く こ とで 、 イ サ ベ ル が 「上 流 階 級 の 記 号 」 を ア ヒ ー ル し て い る こ とが わ か る 。 ま た 、 トニ ー ・モ ラ の ブ ー ツ は 「相 互 了 解 的 な 記 号 」 と し て も 映 画 内 世 界 で 作 動 し て い る 。 足 の 専 門 医 は 足 を 診 断 す る 直 前 に イ サ ベ ル と会 話 を す る き っ か け に トニ ー ・モ ラ の ブ ー ツ に 言 及 し 、2人 は 会 話 を 始 め る 。 す な わ ち 、 トニ ー ・モ ラ の ブ ー ツ と い う ブ ラ ン ド品 は 、 他 の ブ ー ツ と 「区 別 す る 記 号 」 と し て 機 能 す る こ と に よ っ て 、2者 間 で 「相 互 了 解 的 な 記 号 」 と して の 役 割 も果 た して い る。 こ の よ うに 、 イ サ ベ ル の 足 元 で 輝 く トニ ー ・ モ ラ の ブ ー ツ は 映 画 を 見 て い る 観 客 に 対 し て 社 会 的 ・経 済 的 記 号 と し て 作 用 し て 、(1)美 的 機 能 、(2)実 用 的 機 能 、(3)区 別 、(4)保 障 性 、(5)富 、(6)上 流 階 級 、(7)相 互 了 解 性 、 とい う7つ の 記 号 内 容 を 発 信 す る 。 5.お わ り に 映 画 の 終 盤 に、 カメ ラは ク ロ ーズ ア ップで 連 続 的 に 女 性 主 人 公 た ち の 靴 を 映 し 出 して い く。 具 体 的 には 、(1)レ イ レの 素 足 、(2)簡 素 な サ ン ダル を 履 い たア デ ー ラに 見守 られ な が ら、 大 地 を 踏 み しめ て い る アニ ー タの 黄 色 い ス ニ ー カ ー、(3)マ ル テ ィナ の 死 を 弔 った あ と、 墓 場 か ら力 強 く歩 い て い くイサ ベ ル の 黒 い ハ イ ヒ ール 、(4)運 転 中 、 ア クセ ル を 勢 い よ く踏 ん だ 後 、 ブ レ ーキ を ゆ るや か に 踏 む マ リ ・カル メ ンの ス リッパ 、(5)レ イ レが 描 い て い るハ イ ヒ ール の デ ッサ ン、 の5つ の 映 像 で あ る。 これ ら5つ の シ ョ ッ トの 連 続 の 中 に 、 映 画 内容 と 「衣 服 の 記 号 」 と して の 靴 の 関 係 が 表 意 して い る と推 察 で き る。 従 って 、 これ ら5つ の シ ョッ トの 映 像 解 読 を お こな う。 5つ の 映 像 には 靴(レ イ レの 場 合 は 素 足)と 女 性 主 人 公 た ち が 一 対 に な って 映 し 出 され るが 、 アデ ー ラ に関 して は 、 彼 女 が く偏 平 足 の 女 〉で 足 に あ う靴 が な い た め 、 彼 女 が 履 い て い るの は す ぐに脱 ぐこ とが で き る簡 素 な サ ン ダル で あ る。 しか し、 彼 女 の 娘 で あ るア ニ ー タが 黄 色 い ス ニ ー カ ーで 大 地 を 踏 み しめ る姿 を ア デ ー ラが 遠 くか ら見 守 って い る こ と と、 娼 館 の 経 営 か ら引 退 した 後 、 ア ニ ー タ と2人 で ひ とつ の よ うに 生 きて い る こ と とを 考 慮 す れ ば 、 ア ニ ー タの 黄 色 い ス ニ ー カ ー にア デ ー ラの 存 在 が 内包 され て い る と捉 え る こ とが で き る。 (1)の レイ レの 素 足 の 映 像 に お け る 「素 足 」 は 何 事 に も拘 束 さ れ て い な い レイ レの 「無 垢 な 状 態 」 を 表 して お り、 ハ イ ヒ ール の 踵 が 破 損 して ク ン とい う 「男 性 的 記 号 」 か ら解 放 され て 以 降 、 彼 女 が 精 神 的 に 無 垢 な 状 態 を 回 復 した こ とを この 映 像 は 象 徴 して い る。 (2)の ス ニ ー カ ーが 地 面 を踏 み しめ て い る 映 像 は 、 靴 が 人 生 の足 場 固 め を して い る こ とを
表 象 し て い る 。 つ ま り こ の 映 像 を 媒 介 と し て 、 原 題 の"Piedras(石)"が 示 し て い る 「人 生 の 足 場 固 め 」 とい う主 題 を 靴 が 担 っ て い た こ とが 明 ら か に な る 。 同 時 に こ の 映 像 は 、 足 の 専 門 医 が イ サ ベ ル に 対 し て 述 べ る 発 話 内 容 を 想 起 さ せ る 。 足 の 専 門 医 の 発 話 内 容 は 以 下 の とお りで あ る 。"Dicen que hasta que cada persona no encuentra su calzado, o sea, con lo que se siente comodo y bello a la vez, justo hasta ese momento, nuestro caracter no se termina de definir."「 こ う 言 わ れ て い ま す 。 各 自 が 自 分 に 合 っ た 靴 を 見 つ け た 時 、 つ ま り、 そ れ を 履 い た 時 、 快 適 で 同 時 に 魅 力 的 に 見 え る 靴 を 見 つ け た 時 に 初 め て 、 人 は 自 ら の 人 格 を 完 成 さ せ る の だ 、 と。」(映 画 時 間63分32秒 か ら63分44秒 ま で の 発 話 引 用 者 註)足 の 専 門 医 の 発 話 内 容 を 考 慮 す れ ば 、 こ の 映 像 を 媒 介 と し 、 女 性 主 人 公 た ち が 人 格 の 完 成 に 向 け て 各 々 の 人 生 の 足 場 固 め を して い る こ とが 露 見 し て く る 。 (3)の イ サ ベ ル の 黒 い ハ イ ヒ ー ル が マ ル テ ィ ナ の 墓 石 の あ る 地 点 か ら 力 強 く歩 い て い く映 像 は 、 女 性 主 人 公 た ち の 再 ス タ ー トを 象 徴 し て い る 。 黒 い ハ イ ヒ ー ル の 色 彩 と し て の 黒 に 関 し て 、 マ イ ケ ル ・フ ァ ー バ ー が『 文 学 シ ン ポ ル 事 典 』(1999)の 中 で 、 「死 と哀 悼 の 色 で あ る 黒 は 、 キ リス ト教 徒 に と っ て は こ の 世 の 終 わ りの 象 徴 で あ り、 純 粋 さ や 謙 虚 さ の 象 徴 とな っ て い る36)」 と述 べ て い る こ とか ら 、 イ サ ベ ル の ハ イ ヒ ー ル の 黒 色 が 、 マ ル テ ィ ナ の 弔 い の た め の 慣 例 社 会 的 な 意 味 で の 「喪 服 の 黒 」 で あ る と 同 時 に 、 「純 粋 さ と謙 虚 さ」 を 象 徴 す る 両 義 的 な 色 彩 記 号 で あ る こ と が わ か る 。 ま た 、 ア ト ・ ド ・フ リ ー ス が 『イ メ ー ジ ・シ ン ポ ル 事 典 』(1974)に お い て 、 「靴 は 生 命 の 本 質 ま た は 魂 と関 連 す る と こ ろ か ら 、 靴 は 新 しい 門 出 の た め の 活 力 を 与 え る と さ れ る 」、 と表 記 し て い る こ と に 留 意 す れ ば 、 イ サ ベ ル を 含 め た 女 性 主 人 公 た ち が 人 生 を リセ ッ ト し て 、 無 垢 な 状 態 か ら 、 新 し い 生 活 に 向 け て 再 ス タ ー トを き っ た こ とを 示 し て い る と考 え る こ とが で き る 。 (4)の マ リ ・カ ル メ ン の ス リ ッ パ が ア ク セ ル を 踏 ん だ 後 、 ゆ る や か に ブ レ ー キ を 踏 む シ ョ ッ トは 、 彼 女 た ち の 人 生 が 速 度 を 速 め た り、 少 し ブ レ ー キ を か け た り し な が ら 、 ゆ る や か に 進 ん で い く こ とを 表 意 し て い る 。 (5)の 描 い て い る 最 中 の レ イ レ の ハ イ ヒ ー ル の デ ッサ ン の 映 像 は 、 人 生 を 再 ス タ ー ト さ せ た 女 性 主 人 公 た ち の 人 生 が 進 行 中 で あ る こ とを 表 示 し て い る 。 こ こ ま で の 映 像 解 読 は 、(1)無 垢 な 状 態 の 回 復 、(2)人 生 の 足 場 固 め 、(3)再 ス タ ー ト、(4)ゆ る や か に 進 み 始 め た 女 性 主 人 公 た ち の 人 生 、(5)進 行 中 の 女 性 主 人 公 た ち の 人 生 、 と ま とめ る こ とが で き る 。 ま た 、 服 飾 史 の 観 点 か ら 、 ア ン ・ホ ラ ン ダ ー は 男 女 の 衣 服 の 伝 統 的 な 様 式 が 定 型 化 し た 時 期 を ロ マ ン 主 義 以 降 、 す な わ ち 、18世 紀 か ら19世 紀 に わ た っ て で あ る と特 定 し な が ら 、 「女 性 が カ ラ フ ル な 服 飾 品 で 着 飾 り、 男 性 は シ ン プ ル で 飾 り気 の な い 地 味 な 衣 服 に 身 を 包 む とい う伝 統 の 幕 が 開 くの で あ る 鋤 」 と指 摘 し て い る 。 ホ ラ ン ダ ー の 指 摘 す る伝 統 的 な 男 女 間 の 衣 服 の 差 異 『 靴 に 恋 し て 』 に お い て も 観 察 さ れ る 。 タ ク シ ー ド ラ イ バ ー と し て 働 い て い る マ リ ・カ ル メ
ン以 外 の4人 の 女 性 は 各 々華 や か な 衣 服 に 身 を 包 ん で お り、 彼 女 た ち を 取 り巻 く男 性 登 場 人 物 た ちは 簡 素 で 地 味 な 衣 服 を 着 用 して い る。 そ して 、 男 女 間 の 衣 服 の 差 異 を 登 場 人 物 の 属 性 の 視 座 か ら捉 え直 して み る と、 華 や か な 衣 服 を 身 に纏 って い る女 性 登 場 人 物 た ち を 簡 素 で 地 味 な 衣 服 を 着 て い る男 性 登 場 人 物 た ち が 支 えて い る こ とが 見 えて くる。 他 の 男 性 登 場 人物 たち と比 べ て 、 レオ ナ ル ドだけ は 赤 い ネ ク タ イを し め て 、 派 手 な 服 装 を す る こ とが あ るが 、 レオ ナ ル ドが 派 手 な 衣 服 を 着 用 す るの は ア デ ー ラを 口 説 く2つ の 場 面 に限 定 され て お り、 そ れ 以 外 の 場 面 で は 、 簡 素 で 地 味 な 衣 服 を 着 て い る。 具 体 的 に 男性 登 場 人物 た ちが と った行 動 を確 認 して み よ う。 ク ンは 別 れ 際 に レ イ レが 描 い て い た デ ッ サ ンを 彼 女 に見 せ て 、 彼 女 に 靴 デ ザ イナ ーに な る夢 を 思 い 出 させ る。 ホ ア キ ンは 、 ア ニ ー タが い つ も眺 め て い る グ ラ ン ・ビア ま で 彼 女 を 連 れ て い ぎ、 新 しい 世 界 を 彼 女 に 見せ る。 マ リ ・カ ル メ ンの 死 ん だ 夫 は 、 死 ぬ 直 前 に 彼 女 を リス ボ ンに 連 れ て い く約 束 を して い た 。 レオ ナ ル ドは 娼 館 の 仕 事 とア ニ ー タの 世 話 で 閉 塞 的 な 生 活 を して い たア デ ー ラを タ ン ゴ ・レス トラ ン に連 れ て い き、 彼 女 に タ ン ゴを 教 えて 新 しい 世 界 観 を 提 示 す る。 足 の 専 門 医 は 、 イサ ベ ル の 足 を 治療 しな が ら、 彼 女 を 自立 へ と促 して い く。 この よ うに、5人 の 女 性 主 人 公 た ち は、 男性 登 場 人 物 た ち に支 え られ な が ら、 人 生 を 再 ス タ ー トさせ る こ とが で きた の で あ る。 衣 服 の 記 号 論 を 用 いて こ こま で 進 め て きた 考 察 を 総 合す れ ば 、 本 稿 を 以 下 の よ うに 結 論 づ け る こ とが で き る。 す な わ ち 、『靴 に恋 して 』 とい う映 画 は 、5人 の 女 性 主 人 公 た ちが 男 性 登 場 人 物 た ち に支 え られ な が ら、 自 らの 人 生 の 足 場 を 固 め 直 して 各 々の 人 格 を 形 成 しつ つ 、 純 粋 で 謙 虚 な 態 度 で 未 来 に 向か って 再 び 歩 き始 め る物 語 な の で あ る。 そ して 、 靴 を 中 心 とした 数 々の 衣 服 が 、 登 場 人 物 た ち の 職 業 、 社 会 的 立 場 、 経 済 状 態 を 表 示 す る記 号 として 作 用 す る こ とで 、 物 語 内容 とそ の 展 開 に 多 大 な 影 響 を 与 えて い る とい うこ とが で き るの で あ る。
註 1)ク リ ス チ ャ ン ・メ ッ ツ 「映 画 記 号 論 の 諸 問 題 』 浅 沼 圭 司 監 訳 、 書肆 風 の 薔 薇 、1987、155頁 。 2)ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ンrフ ァ ッ シ ョン の 文 化 社 会 学 』 成 実 弘 全 訳 、 せ り か 書 房 、1998、46 頁 。 3)ピ ョ ー トル ・ポ ガ ト ゥ イ リ ョ フ『 衣 裳 の フ ォ ー ク ロ ア 』 桑 野 隆 ・朝 妻 恵 美 子 訳 、 せ り か 書 房 、2005、 115頁 。 4)同 上 書 、57頁 。 5)ロ ラ ン ・バ ル ト 「衣 裳 の 体 系 」 『零 度 の エ ク リチ ュ ー ル 』 渡 辺 淳 訳 、 み す ず 書 房 、1997、134頁 。 6)同 上 書 、135頁 。 7)ロ ラ ン ・バ ル ト 『モ ー ドの 体 系 』 佐 藤 信 夫 訳 、 み す ず 書 房 、(第14版)、2004、13-17頁 。
8 ) Fred Miller Robinson, The man in the bowler hat, University of North Carolina 9 ) Roland Barthes, Essais critiques, Paris, Éditions du Seul, 1964, p. 58.
Press, 1993, p. 7. 10)ロ ラ ン ・バ ル ト 「舞 台 衣 裳 の 病 い 」 『エ ッ セ ・ク リ テ ィ ッ ク 』 篠田 浩 一 郎 訳 、 晶 文 社 、(第9版)、1997、 80頁 。 バ ル トは 細 胞 と し て の 衣 服 に 関 し て 説 明 し て い な い が 、 後 に『 モ ー ドの 体 系 』(1967)に お い て 衣 服 に お け る 最 小 の 単 位 を 「衣 服 素 」 と 命 名 し 、 理 論 化 さ せ て い る 。 「衣 服 素 」 の 概 念 に 関 し て は 、 ロ ラ ン ・バ ル ト 『モ ー ドの 体 系 』、 前 掲 書 、94頁 を 参 照 さ れ た い 。 11)ブ レ ッ ド ・ミ ラ ー ・ロ ビ ン ソ ン『 山 高 帽 の 男 』 赤 塚 若 樹 訳 、 水 声 社 、2002、35頁 。 12)映 画 の 情 報 は 日本 で 発 売 さ れ て い るDVDを 参 照 した 。『靴 に 恋 し て 』2002年/原 題:-P/Piedras/配 給: エ レ フ ァ ン ト ・ピ ク チ ャ ー/発 売 ・販 売 元:エ イ ベ ッ ク ス ・マ ー ケ テ ィ ン グ ・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン ズ 株 式 会 社 、2005年 発 売 。 13)ア ン ・ホ ラ ン ダー『 性 と ス ー ツ:現 代 衣 服 が 形 づ く ら れ る ま で 』 中 野 香 織 訳 、 白 水 社 、2005、12頁 。 14)同 上 書 、7頁 。 15)ア リ ソ ン ・リ ュ リ ー『 衣 服 の 記 号 論 』 木 幡 和 枝 訳 、 文 化 出 版 局 、1987、238頁 。 16)レ ナ ー ト ・シ グ ル タ 「セ ッ ク ス の シ ン ポ ラ イ ズ モ ー ドの 心 埋 学 」 『モ ー ドは 語 る 』 大 石 敏 雄 訳 、(G. ロ マ ッ チ ィ 編)、 サ イ マ ル 出 版 会 、1973、44-45頁 。 17)ア リ ソ ン ・ リ ュ リ ー 『衣 服 の 記 号 論 』、 前 掲 書 、179頁 。 18)ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン 『フ ァ ッ シ ョン の 文 化 社 会 学 』、 前 掲 書 、46頁 。 19)ア リ ソ ン ・リ ュ リ ー『 衣 服 の 記 号 論 』、 前 掲 書 、192頁 。 20)F.モ ネ イ ロ ン『 フ ァ ッ シ ョ ン の 社 会 学 』 北 浦 春 香 訳 、 白 水 社 、2009、124頁 。 21)山 田 登 世 子 『モ ー ドの 帝 国 』 筑 摩 書 房 、2006、70頁 。 22)ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン『 フ ァ ッ シ ョ ン の 文 化 社 会 学 』、 前 掲 書 、31頁 。 23)小 池 三 枝 『服 飾 文 化 論 』 光 生 館 、1998、19頁 。 24)ア リ ソ ン ・ リ ュ リ ー 『衣 服 の 記 号 論 』、 前 掲 書 、178頁 。 25)ハ ン ス ・ビ ー ダ ー マ ン 『図 説 世 界 シ ン ボ ル 事 典 』 宮 本 洵 子 訳 、(藤 代 幸 一 監 修)、 八 坂 書 房 、2000、
210頁 。 26)ロ ラ ン ・バ ル ト『 モ ー ドの 体 系 』、 前 掲 書 、364頁 。 27)『 鑑 賞 女 性 俳 句 の 世 界 激 動 の 時 代 を 詠 う 』、 第 三 巻 、 角 川 学 芸 出 版 、2008、10頁 。 28)ロ ラ ン ・バ ル ト 『モ ー ドの 体 系 』、 前 掲 書 、49-50頁 。 29)米 盛 祐 二 『パ ー ス の 記 号 学 』キョウ 勁草書 房 、(第1版 第10刷)、2006、15頁 。 30)ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン 『フ ァ ッ シ ョン の 文 化 社 会 学 』、 前 掲 書 、46頁 。 31)ア リ ソ ン ・リ ュ リ ー 『衣 服 の 記 号 論 』、 前 掲 書 、87頁 。 32)成 田 泰 昭 「衣 服 の 記 号 論 」 『講 座 ・記 号 論4一 日 常 と 行 動 の 記 号 論 』 勤 草 書 房 、1982、275頁 。 33)ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン『 フ ァ ッ シ ョ ン の 文 化 社 会 学 』、 前 掲 書 、140頁 。 34)小 池 三 枝『 服 飾 文 化 論 』、 前 掲 書 、109頁 。 35)ジ ョア ン ・フ ィ ン ケ ル シ ュ タ イ ン『 フ ァ ッ シ ョ ン の 文 化 社 会 学 』、 前 掲 書 、56頁 。 36)マ イ ケ ル ・フ ァ ー バ ー『 文 学 シ ン ポ ル 事 典 』 植 松 靖 夫 訳 、 東 洋 書 林 、2005、88頁 。 37)ア リ ソ ン ・ リ ュ リ ー 『衣 服 の 記 号 論 』、 前 掲 書 、181頁 。 38)ア ト ・ ド ・フ リ ー ス 『イ メ ー ジ ・シ ン ポ ル 事 典 』 荒 こ の み ・上 坪 正 徳 他 訳 、 大 修 館 書 店 、1998、577 頁 。 39)ア ン ・ホ ラ ン ダ ー『 性 と ス ー ツ:現 代 衣 服 が 形 づ く ら れ る ま で 』、 前 掲 書 、13頁 。 (こ さか ・と もひ ろ 本 学 大 学 院 博 士 課 程 前 期 修 了)