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判断・操作統合型運転行動モデルに基づく革新的運転行動支援の創出 タカタ財団助成研究論文集 ISSN 2185

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(1)

判断・操作統合型運転行動モデルに基づく

革新的運転行動支援の創出

― 平成 23 年度(本報告) タカタ財団助成研究論文 ―

ISSN 2185-8950

(2)

研究代表者

名古屋大学

工学研究科 教授

鈴木

達也

(3)

報告書概要

平成22年度はハイブリッドシステムモデルによる前方車追従行動のモデリングを行い, これを用いたモデル予測型運転支援システムを構築し,ドライビングシミュレータ上で検 証を行った.平成23年度はまず、より現実に即した検証を行うため,小型電気自動車に 提案した運転支援システムを搭載し,屋外において検証実験を行った.結果として,ドラ イバの判断・操作特性を考慮した個人適合型の運転支援が可能となることを実車走行にて 確認し,技術的優位性を検証した.今後はより多くの被験者を対象とした検証実験が必要 となってくる.次に,提案した運転行動モデルを用いて,カーナビやエアコン等の車内機 器操作による運転時の判断能力低下を定量的に評価する手法する手法の確立を目指した. 具体的には,平成22年度に提案した運転行動モデルを改良したProbability Weighted ARX (PrARX) モデルを新たに提案し,モデル中のパラメータから算出可能な判断エン トロピーに注目することで,基本運転動作の切り替えに現れる判断のあいまいさを定量化 する手法を開発した.ドライビングシミュレータの運転席上に設置したいくつかの異なる 車内機器を操作しながら前方車追従を行ったデータをもとに判断エントロピーを計算し, これによって各機器の操作が運転時の判断特性におよぼす影響を定量的に評価することが 可能となった.この評価手法は車内機器のレイアウト設計等、さらなる工学的応用につな がる可能性を秘めている.

(4)

目次

第1章 序論 7 1.1 研究背景 . . . 7 1.2 本年度の研究目的と概要 . . . 8 1.3 本報告書の構成. . . 8 第2章 個人適合型運転支援システムの実車検証 9 2.1 運転行動モデルを用いたモデル予測型運転支援システム . . . 9 2.1.1 PWARXモデルとその同定 . . . 9 2.1.2 モデル予測型運転支援システム . . . 10 2.1.3 アシスト量最適化問題. . . 11 2.2 実験車両の概要. . . 13 2.2.1 計測デバイス . . . 13 2.2.2 制御系 . . . 14 2.2.3 車両制御デバイス . . . 15 2.3 実験内容 . . . 18 2.3.1 走行環境 . . . 18 2.3.2 実験手順 . . . 18 2.4 実験結果 . . . 20 2.5 運転行動モデルの同定結果 . . . 21 2.5.1 モデルパラメータ推定結果 . . . 21 2.5.2 走行データのモード分類 . . . 22 2.5.3 普通自動車上の運転行動モデルとの比較 . . . 22 2.6 運転支援効果の検証 . . . 22 第3章 車内機器操作時の判断特性変化の定量評価 28

(5)

3.1 はじめに . . . 28 3.2 運転行動のモデル化 . . . 29 3.2.1 PrARXモデル . . . 29 3.2.2 モード切り替えの曖昧さを示すエントロピ . . . 29 3.2.3 エントロピを用いた判断特性評価手法 . . . 31 3.3 実験条件 . . . 31 3.3.1 実験装置 . . . 31 3.3.2 走行環境 . . . 35 3.3.3 運転行動のモデル化結果 . . . 36 3.3.4 エントロピを用いた判断特性評価 . . . 38 第4章 結論 42 4.1 まとめ . . . 42 謝辞 参考文献

(6)

図目次

2.1 モデル予測型運転支援システム . . . 10 2.2 モデル予測制御の流れ . . . 11 2.3 COMSの概観 . . . 13 2.4 ブレーキペダル駆動モーター . . . 15 2.5 COMSの構成図 . . . 16 2.6 走行環境 . . . 18 2.7 実験結果の一例. . . 20 2.8 小型電気自動車(KdB−車間距離) . . . 24 2.9 小型電気自動車(車間距離−相対速度) . . . 24 2.10 小型電気自動車(相対速度−ペダル操作量) . . . 24 2.11 普通自動車(KdB−車間距離) . . . 25 2.12 普通自動車(KdB−加速度) . . . 25 2.13 運転支援時(KdB−車間距離) . . . 26 2.14 運転支援時(車間距離−相対速度) . . . 26 2.15 運転支援時(KdB−加速度) . . . 26 2.16 運転支援下の走行データ抜粋1 . . . 27 2.17 運転支援下の走行データ抜粋2 . . . 27 3.1 モード切り替え確率とエントロピの関係. . . 30 3.2 HMIのレイアウト . . . 31 3.3 DSの構成図 . . . 33 3.4 DSの運転席 . . . 34 3.5 統合制御プログラムのコントロール画面. . . 35 3.6 前方車の速度パターン . . . 36 3.7 通常時走行データ(被験者A) . . . 38

(7)

3.8 通常運転時の走行データ . . . 39

3.9 A/C操作時の走行データ . . . 40

3.10 AUDIO操作時の走行データ. . . 41

(8)

表目次

2.1 COMSの諸元 . . . 14 2.2 COMSの構成 . . . 17 2.3 PWARXモデルパラメータ . . . 21 2.4 SVMパラメータ推定結果 . . . 21 3.1 DSの構成 . . . 33 3.2 二次タスク . . . 36 3.3 η(被験者A) . . . 37 3.4 θ(被験者A) . . . 37 3.5 エントロピ計算結果 . . . 39 3.6 アンケート結果. . . 40

(9)

1

序論

1.1

研究背景

従来の運転支援システム開発は平均的な運転者に合わせて設計されてきた.しかし今 後,より自動車交通の安全性を向上させると共に自動車交通利用者や社会が受容できる運 転支援システムの開発が重要となっており,個々の運転者に適合したシステム開発が求め られる.この実現のためには,運転者の行動の種々の特性を解析し,その特性をベースに 運転支援システムを開発・設計すること,つまり車を「人間−機械系」として総合的に捉 えることが一つの方策になる. 個々のドライバに適合した運転支援システムを開発するためには,ドライバの運転行動 を解析し,モデル化することが不可欠である.しかし,現状で実現されている運転支援シ ステムの多くはドライバの個人特性を明示的に考慮しているとは言い難い.この最も大き な要因は,ドライバの個人特性を定量的に反映したモデルが十分に整備されていない点に 起因していると考えられる. これに対し本研究では,人間の自動車運転行動はいくつかの基本的な運転動作とそれら の切り替え則によって成り立っているという仮説に基づき,連続/離散ハイブリッドシス テムとして運転行動を表現する方法を提唱し,その有効性を検証してきた[1][2].運転行 動モデルのパラメータは,実際の運転データをもとにシステム同定を通じて決定される. これにより,個々の運転者の特性を捉えた運転行動のモデリングおよび解析が可能とな る.さらに,同定された運転行動モデルを用いて運転者の将来の運転操作を予測し,これ に合わせた最適な支援を行うモデル予測型運転支援システムの構築が可能となる.これに より,“ドライバが危険だと感じる瞬間”や”加速を行いたいと感じる瞬間”を車両モデル が素早く感知し,ドライバにとって適切な支援を行うことが可能となる. 一方,自動車内において運転者は運転行動という一次的なタスク(作業)に加え,車内 機器の操作などの二次的なタスクを行う.人間が同時に処理することができる認知情報の 量(認知リソース)には限りがあるため,二次タスクを行うために認知リソースが消費さ れることで一次タスクである運転行動に使用される認知リソースが減少し,その結果安全

(10)

な運転を行うための判断能力が低下し,漫然運転が引き起こされる恐れが生じる.車内機 器のヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)や運転支援システムの設計においては このような二次タスクによる判断能力の低下を定量的に考慮に入れることが重要となる.

1.2

本年度の研究目的と概要

昨年度はハイブリッドシステムモデルによる前方車追従行動のモデリングを行い,これ を用いたモデル予測型運転支援システムを構築し,ドライビングシミュレータ上で検証を 行った.本年度はより進んだ実地検証を行うため,小型電気自動車に運転支援システムを 搭載し,屋外において検証実験を行う. また,車内機器操作による運転時の判断能力低下を定量的に評価する手法の確立を目指 す.具体的には,昨年度において提案した運転行動モデルの一種であるPrARXモデルの パラメータから算出可能な判断エントロピーに注目することで,基本運転動作の切り替え に現れる判断のあいまいさを捉える方法を提案する.ドライビングシミュレータの運転席 上に設置したいくつかの異なる車内機器を操作しながら前方車追従を行ったデータをもと に判断エントロピーを計算し,これによって各機器が認知リソースにおよぼす影響の度合 を比較検討する.

1.3

本報告書の構成

本報告書は,以下のように構成される.第2章では,運転行動モデルに基づく運転支援 システムの実車検証について,使用した小型電気自動車の構成および実験結果について述 べる.第3章では,運転行動時の判断能力を走行データをもとに定量的に求める方法につ いて述べ,これを用いて異なる車載機器の操作が判断能力の低下を引き起こす度合いを比 較検討する.第4章において,まとめと今後の課題を示す. 記法: 本稿ではスカラ量をイタリック体で,ベクトル量を太字のイタリック体で表記する. また,(·)T は転置を表す.

(11)

2

個人適合型運転支援システムの実車

検証

本章では,小型電気自動車上に実装された個人適合型運転支援システムについて述べ, その実験結果を示す.初めに2.1節において運転行動モデルのハイブリッドシステム表現 およびモデル予測制御に基づく運転支援システムの設計論について大まかに述べる.次に 2.2節では,小型電気自動車の特徴,構成を説明する.最後に2.3節において実験の条件, 手順および結果について説明する.

2.1

運転行動モデルを用いたモデル予測型運転支援システム

本内容については昨年度の研究報告書において詳しく述べているので,ここでは概要を 述べるにとどめる.

2.1.1

PWARX

モデルとその同定

PWARXモデルは離散的な状態遷移と連続的なモデル(ARXモデル)を組み合わせた モデルで,ハイブリッドシステムの中でも代表的な表現手法の一つである.ここでは前 方車追従運転行動のモデリングに焦点を絞って説明する.まずモデルの出力信号y(= 人間の運転操作)は車両の加速度と定義する.また,入力信号u(=人間の知覚情報)は u = [u1, u2, u3]T の3次元ベクトル値信号とし,各成分u1, u2, u3はそれぞれKdB(危 険度指標.昨年度報告書参照),前方車との車間距離,前方車との相対速度とする. PWARXのモード数は一般には任意であるが,ここでは2モードに限定して説明する. この場合時刻kの出力信号は次式で与えらえる. yk= { θ1Txk+ ek if ηTxk ≥ 0 θT 2xk+ ek otherwise (2.1)

(12)

+ ++ + + + + +

Assist optimizer based on MILP

Operation

Assistance

Human Driver

S

e

ns

or

y

inf

or

m

a

ti

on

Constraints

Environment and vehicles Driver model Physical and

Logical constraints Vehicle models

J

Objective function

Sensory Information and parameters

Given

図2.1 モデル予測型運転支援システム ここでykは時刻kにおける出力信号,xkは回帰ベクトルを表す.回帰ベクトルは前時刻 の入力信号と出力信号および定数を連結したものでありxk = [uTk−1, yk−1, 1] T で与えら れる.また,ek はノイズ項である. 本研究では,k-meansクラスタリング手法に基づくPWARXモデルのパラメータ推定 法[3]を採用する.これにより,収集された入出力時系列yk, uk (k = 0, 1, 2, . . . )をもと にPWARXモデルのパラメータが自動的に得られる.

2.1.2

モデル予測型運転支援システム

図2.1にモデル予測型運転支援システムの全体図を示す.本システムは,各制御周期に おいて後述するアシスト量最適化問題を計算し,得られたアシスト量を運転者のペダル操 作に足し合わせることで運転支援を実現する. 一般にモデル予測制御とは,プラントモデルをもとに最適な制御入力の時系列を計算 し,その先頭要素のみを実際にプラントに印加するという手続きを所定の制御周期でく り返す制御手法である [4].モデル予測制御の処理の流れを図2.2 に示す.環境情報を t, t + 1,· · · と1ステップごとに観測できるとし,現時点の時刻をtとする.まず,現時 刻tにおいて前方車の速度,自車の位置,速度,加速度といった環境情報を計測し,後述 する最適化問題を解くことによりN ステップ先までの最適アシスト量を求める.得られ たN ステップのアシスト時系列のうち,現時刻に相当するyas[t]だけを次のサンプル時 刻t + 1まで実際に系に加え続ける.1ステップ後の時刻t + 1において環境情報を再び 観測する.このとき,観測値はモデルの不完全さや外乱などの影響のため,時刻tで予測

(13)

2.1 運転行動モデルを用いたモデル予測型運転支援システム (a)時刻tにおける信号 (b)時刻t0 = t + 1における信号 図2.2 モデル予測制御の流れ した値とは必ずしも一致しない.そこで,時刻t + 1を新たな始点として,t + 1よりN ステップ先にわたる最適アシスト量を再計算する.このように,モデル予測制御はステッ プごとに予測区間,制御入力区間をスライドし,最適化問題を解くことにより,制御入力 を求める手法である.

2.1.3

アシスト量最適化問題

本節では,アシスト量を決定する最適化問題を定式化する.アシスト量最適化問題はお おまかに以下のような形をとる. Given ut, yt, find ut+1,· · · , ut+N, yt+1,· · · , yt+N, yas+t ,· · · , y as+ t+N, yast −,· · · , yt+Nas which minimize J = t+N k=t [ ω1ζk2+ ω2(u3,k− ˆu3)2+ yask 2 + ykas+2 ] (2.2) subject to (PWARXモデル), (アシストに関する制約), (自車モデル,前方車モデル)

(14)

ここでyas+, yasはそれぞれ加速アシストおよび減速アシストを表す.この最適化問 題は,KdB,車間距離,相対速度,加速度の現在値(初期値)を入力値とし,ドライバモデ ルや自車モデルなどを用いることで数ステップ後までの出力(自車加速度)を予測し,ス テップごとの最適アシスト量(m/s2)を求める. ここで,評価関数について説明する.ζ は危険度指標を表しており,TTC(Time To Collision)と呼ばれる指標の逆数を用いている(ζ = u3/u2).N は最適化の対象となる 時間区間の長さを表す.右辺の第1項は減速アシストに関するコストであり,危険度を低 減する効果を持つ.第2項は加速アシストのコストであり,相対速度u3を極力目標値uˆ3 に近づける効果を持つ.最後に第3項と第4項はアシスト量それ自体を節約するための コストである.ω1およびω2は重みであり,ω1に比してω2が大きい場合は,より相対速 度を目標値に近付けようとする効果が強まり加速アシストが働きやすくなり,逆にω2が 小さい場合は危険度を重視し減速アシストが優位となる. アシスト信号は加速度信号として運転者の操作により生じる自車加速度に加算される. したがってアシストが加えられた車両の加速度は,次のように表される. yttotal= yt+ ytas−+ y as+ t (2.3) 式(2.1)で表されたドライバモデルには論理条件が含まれており,またTTC は非線 形関数であるが,一連の近似を伴う変形を適用することにより混合整数二次計画問題 (MIQP)と呼ばれる最適化問題に帰着できる.MIQPに対しては優れたソルバが開発さ れているので,これらを用いて効率的に計算が可能である.

(15)

2.2 実験車両の概要

2.2

実験車両の概要

本研究では,トヨタ車体製の小型電気自動車COMS[5]を改造した車両を用いる.ベー スとなっているCOMSの車両概観を図2.3に示し,その主な諸元を表2.1に示す.COMS は電気モーター駆動であるためトルク性能が高く,加速度が急峻となるが,モータは定格 300W程度のものを使用しているため最高速度は50km/hと低く,カテゴリーは原動機付 自転車に分類される.次節以降では搭載した機器,その構成について述べる.構成の概要 は図2.5,表2.2に示す. 図2.3 COMSの概観

2.2.1

計測デバイス

環境情報計測デバイス 車両前方に,前方車との車間距離の計測を行えるようレーザーレンジファインダ(LRF) が設置されている.また,左右後輪にロータリーエンコーダが取り付けられており,自車 の速度を計測可能である.

(16)

表2.1 COMSの諸元 主要諸元表 COMS AK10E-PDAM 車両総重量 365[kg] 最高速度 50[km/h] 最小回転半径 2.60[m] 全長 2250[mm] 全幅 995[mm] 全高 1600[mm] 軸距 1280[mm] 駆動方式 後輪インホイール直接駆動 制動方式 前:油圧式 後:油圧&機械式 操作量計測デバイス ブレーキペダル,アクセルペダル,ステアリングにそれぞれ取り付けられたポテンショ メータより運転者の操作量を取得できる.加えてブレーキペダル,アクセルペダルには踏 力センサによる操作量の取得も可能である.

2.2.2

制御系

統合制御プログラム(PC1) プログラマブルロジックコントローラ(PLC)やその他デバイスとのデータの受け渡し を担う.USBを介してレーザレンジファインダ(LRF)の情報を取得する.また,PLC とはEthernetでつながっており,計測された車両,ドライバ情報を取得する.また,PC2 より受け取った最適アシスト量を実現するためにPLCに値を送信する.送信された信号 はPLCよりブレーキペダル駆動モータ,アクセル,ステアリングモータへ出力される. これら一連の処理は10[msec]ごとに行われる. 入出力プログラム(PLC) 計測デバイスから得られたデータの入力と,PC1から受け取ったアシスト量に応じた 値の車両制御デバイスへの出力を担う.PLCのA/D変換機能によりブレーキペダル,ア クセルペダル,ステアリングポテンショメータのアナログ電圧値を取得し,高速カウンタ 機能によりタイヤエンコーダ情報の収集を行う.また,PC1より受け取った最適アシス ト量を,DA変換機能により,アクセル信号出力回路,ブレーキペダル駆動モータドライ バ,ステアリングモータドライバに指令値を出力することでアシストを実現する.また,

(17)

2.2 実験車両の概要 各モータドライバ等へのスイッチ入力は,リレー回路を用いる. 最適アシスト量計算プログラム(PC2) 最適化計算を行うPC2は,RS-232Cを用いてPC1から環境情報を取得し,加減速, あるいは操舵のアシスト量についての最適化問題を解き,その最適解をPC1へ送信する. なお,PC1とのデータの受け渡しは200[msec]毎に行われる.

2.2.3

車両制御デバイス

減速アシスト機構 アシスト量に応じたトルク指令が車両前方に取り付けられたブレーキペダル駆動モータ に送られる.するとモータ軸に取り付けられたプーリがワイヤを巻きとり,その結果レ バーが物理的にブレーキペダルを押し下げる.トルク指令を0とすると,モータが脱力し バネの力によりレバーが押し戻され,その結果ブレーキペダルがリリースされる. 図2.4 ブレーキペダル駆動モーター

(18)

PC 1 Control Program Record / Control Device PC 2 MILP SOLVER RS232C USB RS232C

Right Tire Encoder Laser Range Sensor Inertia Measuring Unit

GPS Measuring Device (Car Information) Accelerator Brake Pedal Drive Motor Controled Device Ethernet PLC RS232C A/D 高速カウンタ Potentiometer(Accelerator) Potentiometer(Steering) Potentiometer(Brake pedal)

Right Tire Encoder Left Tire Encoder Measuring Device (Driver Information) Steering Brake pedal Drive Motor Steering Motor D/A 図2.5 COMSの構成図 加速アシスト アシスト量に応じたトルク指令がアクセル信号出力回路に入力され,左右後輪のインホ イールモーターに送られることで加速アシストを行う. 操舵アシスト ステアリングに取り付けられたモータにトルク指令を送ることで操舵アシストを行う. なお,本研究では加減速のアシストのみを目的とするので操舵アシストは使用しない.

(19)

2.2 実験車両の概要 表2.2 COMSの構成 情報統合,車両制御用 最適アシスト量演算用 下位制御用 PC1 PC2 PLC OS Windows 7 Windows XP professional professional CPU Core2 Duo P8600 Core2 Duo E8500

2.40GHz 3.16GHz メモリ 2.00GB RAM 1.99GB RAM 接続デバイス レーザ測域センサ ポテンショメータ(アクセルペダル) ポテンショメータ(ブレーキペダル) ポテンショメータ(ステアリングハンドル) ロータリエンコーダ(右後輪) ロータリエンコーダ(左後輪) 車両ECU モータドライバ(ブレーキペダル駆動用) モータドライバ(ステアリングハンドル駆動用)

(20)

図2.6 走行環境

2.3

実験内容

2.3.1

走行環境

本研究では,図2.6に示す長辺約100m,短辺約70mの片側一車線の長方形のコースを 使用する.車間距離や相対速度を容易に取得できる直線部のみをデータとして使用する. LRFの性能制約上,後方車は車間距離が30m以内となるよう走行する.また,前方車に は4人乗り普通乗用車を用い,時速5∼30km程度の速度で走行する.

2.3.2

実験手順

まず運転支援なしの通常状態で前方車追従を行いドライバモデルを構築する.その後運 転支援システムを搭載して運転を行い,運転支援の効果を考察する.以下に実験の手順を 示す. 1. 実車説明・実験内容説明 2. 平常走行

(21)

2.3 実験内容 3. 運転行動モデル構築 4. 運転支援下で走行 上記の実験手順の具体的な実施内容を順に記載する. 実車説明・実験内容説明 被験者に実車の操作,実験環境と走行手順について説明し,実験内容を理解してもらう. 平常走行 運転支援システムを搭載しない車で10分間程度の前方車追従を2回行う.前方車は, 前節で記述した速度範囲で走行する. 運転行動モデル構築 走行データを用い,平常時の運転行動モデルを構築する. 運転支援車走行 運転支援システムを搭載した車で走行に慣れた後,10分間の前方車追従走行を2回行 う.前方車は,前節で記述した速度範囲で走行する.

(22)

図2.7 実験結果の一例

2.4

実験結果

図2.7に,運転支援システムを搭載した小型電気自動車の走行時系列データを示す.各 軸のラベルが示すデータの意味を下記に示す. KdB u1 KdB[dB](危険度指標.昨年度報告書参照) Range u2 車間距離[m] Rangerate u3 相対速度[m/s] Pedal ペダル操作量[-] +Assist yas+ 加速アシスト量[m/s2] −Assist yas 減速アシスト量[m/s2] Acceleration ytotal 自車加速度[m/s2]

(23)

2.5 運転行動モデルの同定結果 表2.3 PWARXモデルパラメータ モード数 Mode θj1(KdB) θj2(車間距離) θj3(相対速度) θj4(出力再帰項) θj5(定数項) 4 Mode1 -0.0390 -0.1106 0.2137 -0.0538 0.0087 Mode2 -0.0331 -0.0463 0.2707 0.0807 0.0336 Mode3 -0.0573 0.1058 -0.0575 -0.0371 -0.0592 Mode4 -0.0692 -0.0067 0.0575 0.0912 -0.0428 2 Mode1 -0.0390 -0.1106 0.2137 -0.0538 0.0087 Mode2,3,4 -0.0224 -0.0224 0.0905 0.0648 0.0004 表2.4 SVMパラメータ推定結果 Modes η1 η2 η3 η4 η5 Mode[1]-[2,3,4] 7.85 14.24 -3.99 -18.27 -13.60 Mode[1,2]-[3,4] 6.56 1.08 -0.01 0.00 0.50 Mode[1,2,3]-[4] 9.97 10.81 0.69 11.96 4.68

2.5

運転行動モデルの同定結果

2.5.1

モデルパラメータ推定結果

収 集 し た 走 行 デ ー タ を 用 い て PWARX モ デ ル を 同 定 し た .初 め に モ ー ド 数 4 の PWARXモデルのパラメータを求め,次にこの内モード2,3,4を1つにまとめることで モード数を2に削減したモデルのパラメータを求めた.その結果を表2.3に示す(小数点 5位以下切り捨て).表中のθj1, θj2, θj3, θj4, θj5はモードj (j = 1, 2)のパラメータθj の 各成分を表す. 表2.3における各パラメータについて説明する.まずθj1θj2θj3の各パラメータは PWARXモデルのKdB,車間距離,相対速度の係数をそれぞれ表しており,出力に与え るゲインの大きさに相当する.θj4は出力の再帰項のパラメータであり,人間の応答の速 さを表している.一般に,θj4の値が小さいほど反応速度が速いことを意味する.各モー ド内でθj1θj2θj3の値を比較した場合,総じてθj3,すなわち相対速度に対する係数が 最も大きくなることが多い.これは運転行動の中で,ドライバが相対速度を注視している 事を裏付けている. 次に,表2.4にモード数を4とした場合におけるモード分離平面のパラメータηの推定 結果を示した.この結果において特筆すべき点は,危険モードとそれ以外のモードの分離 面でη2,η4,すなわち車間距離,加速度の係数が大きい値をとっている.つまりドライバ が危険と感じる要素にはそれら二つが大きく関わっている事を示している.

(24)

2.5.2

走行データのモード分類

モード数4のPWARXモデルを用いて改めて走行時系列データの各点が属するモード (1∼4)毎に色分けしプロットすると図2.8-2.10のようになる.走行データは多変量であ るため,図毎に異なる2変数を軸に選びプロットした.KdBの平均値の大きい順にモー ド1(赤),モード2(緑),モード3(青),モード4(黄)と定義した.これらの図から,運転 者がどのような状況で運転動作(モード)を切り替えているのか見ることができる.特 に,モード1では危険度指標KdBが大きく,負の加速度が生じていることから,運転者 が追突の危険を感じて強くブレーキ操作をしているモードであると解釈できる.

2.5.3

普通自動車上の運転行動モデルとの比較

上の図2.11,2.12は,筆者らの選考研究により得られた普通自動車での走行データに基 づくモデリング結果である.まず,データ分布に着目すると,車間距離の領域に大きな違 いがみられるのが図2.11と図2.8を比較して分かる.またモードの分割面に着目すると, 図2.12と図2.8から,図2.12ではモードの分割面がKdBの値によって大きく分かれて いるのに対して,図2.8では加速度の値によって大きく分かれている.このような結果が 生じた理由には,小型電気自動車では運用速度域が30[km/h]程度と普通自動車と比べて 低速であり,その結果前方車との車間距離も短くなることがある.そして電気自動車の大 きな特徴である高トルク応答性により加速度が急峻に変化することであると考えられる. これらより小型電気自動車におけるモードが分割にはKdBのみならず加速度までもが大 きく関わってくることが分かった.

2.6

運転支援効果の検証

前節で得られた運転行動モデルをもとにモデル予測型運転支援システムを構築し,運転 支援下における走行時系列データを収集した.以下にその結果を示す. 図2.15を図2.10と比較すると,運転支援下の方が小さなKdB値をとるデータ点数が 多いことが分かる.これは加速アシストが前方車との速度差が大きくならないように働 き,また,減速アシストが車間が短くなり危険な領域に入る前に働いたことによる結果で あると言える. また,時系列のデータを見ると,図2.16では加速アシストが働いている同時刻に相対 速度の減少が見られ,また,図2.17では減速アシストが運転者がブレーキペダルを踏む のとほぼ同時刻に働いており,その直後,危険回避モード(モード1)から脱出できてい る.これらより,最適な量のアシストがドライバモデルより予測された運転行動に基づい て働いていると言える.ゆえに本研究で用いた小型電気自動車でも個人に適合した運転支

(25)

2.6 運転支援効果の検証 援システムの効果が確認された.

(26)

−1000 −50 0 50 100 5 10 15 20 KdB Range 図2.8 小型電気自動車(KdB−車間距離) 0 5 10 15 20 −10 −5 0 5 Range RangeRate 図2.9 小型電気自動車(車間距離−相対速度) −3 −2 −1 0 1 2 3 Accel.

(27)

2.6 運転支援効果の検証

−100

0

−50

0

50

100

20

40

60

80

100

KdB

Range

図2.11 普通自動車(KdB−車間距離)

−100

−3

−50

0

50

100

−2

−1

0

1

2

3

KdB

Acceleration

図2.12 普通自動車(KdB−加速度)

(28)

−1000 −50 0 50 100 5 10 15 20

KdB

Range

図2.13 運転支援時(KdB−車間距離) 0 5 10 15 20 −10 −5 0 5

Range

RangeRate

図2.14 運転支援時(車間距離−相対速度) −3 −2 −1 0 1 2 3

Acceleration

(29)

2.6 運転支援効果の検証

図2.16 運転支援下の走行データ抜粋1

(30)

車内機器操作時の判断特性変化の定

量評価

3.1

はじめに

自動車に搭載される車載インターフェースは,車両の多機能化に伴い増加傾向にあ る.ユーザの利便性が向上する一方,ドライバが受け取る情報量や機器操作が増えたこ とによる不注意事故の増加が懸念されており,車載インターフェイス(Human-Machine Interface: HMI)の運転行動への影響評価手法が求められている.従来,アンケート調査

[6]や視界遮断法[7],Lane Change Test法[8]などが用いられているが,これらは機器そ のものの評価には有効であるものの,運転中に使用した場合の運転行動への影響評価とし ては不十分であり,実際の運転行動の観測に基づく評価を相補的に用いる必要がある. Probability-Weighted ARX(PrARX) モデルは,一連の運転行動を複数の単純な動作 と判断によるそれらの切り替えとして表現しつつ,ドライバの判断における確率的な曖昧 さを表現可能なモデルである.本章ではこの点に着目し,運転中にHMI操作を行うこと で引き起こされる運転行動中の判断特性の変化を,PrARXモデルにおいて定義されるエ ントロピを用いて評価する手法を提案する. 本研究では,まず被験者に機器操作を行わせながら,その際の運転データを収集する. 次に,その運転行動をPrARXモデルを用いてモデル化し,通常運転時よりどの程度判断 が曖昧になっているかを定量的に評価する.提案手法により,HMI操作が運転の判断特 性に与える影響を,客観的かつ定量的に評価することが可能となることから,判断に影響 を与えにくいHMI設計への応用が期待される.

(31)

3.2 運転行動のモデル化

3.2

運転行動のモデル化

3.2.1

PrARX

モデル

前章で導入したPWARXモデルでは回帰ベクトル空間がいくつかの領域に分割され, 各領域に異なる連続ダイナミクス(モード)が対応することで,いわば確定的なダイナ ミクスの切り替わりが表現される.一方で本章で用いるPrARX(Probability-weighted ARX)モデル[9]では,複数の連続ダイナミクスの重み付合成によって,モードの滑らか な切り替わりが表現される. PrARXモデルの出力は次式で与えられる. yk = si=1 Pi(xkiTxk (3.1) PrARXモデルはs個のARXモデルが確率Piによって重みづけされる形となっている. Piはモードiが選択される確率を表し,以下のようなソフトマックス関数によって与えら れる. Pi(x) = exp(η T i x)s j=1exp(η T j x) ηs= 0 (3.2) 確率Piはパラメータηによって決定され, 多項ロジスティック回帰モデルにおける出力 と同じ形式となっている. このように,PrARXモデルは多項ロジスティック回帰モデル とPWARXモデルを融合した形となっている. PrARXモデルのパラメータは,以下の誤差関数を最小にするθηを求めることに よって得られる.  = 1 N Nk=1 kyk− ˆykk2, ˆ yk= si=1 Pi(xkTixk (3.3) この目的関数はモデルによって推定された出力ykˆ と実際に観測された出力yk との誤差 のノルムの二乗和を表している. この最適化問題を最急降下法等を用いて解くことが可能 である.

3.2.2

モード切り替えの曖昧さを示すエントロピ

PrARXモデルにおいては,モードの切り替え条件が確率的な曖昧さを持つ.この確率 的な曖昧さの指標として,エントロピを導入する.エントロピは,情報科学や熱力学の分

(32)

図3.1 モード切り替え確率とエントロピの関係 野で用いられる情報源の不確かさの尺度であり,エントロピが大きいほどその情報源は不 確かである.本章で扱うPrARXモデルでは,観測されたあるデータ点が,モードiのダ イナミクスに従う確率Piを用い,次式のようにPrARXモデルにおけるエントロピHを 定義する. H =−D ( ∑ i Pi(x) log2Pi(x) ) dx (3.4) ただしDは回帰ベクトル空間中の有界な領域である.このエントロピH を用いること で,モデルのモード切り替えに関する曖昧さを評価することが可能となる. 図3.1はモード切り替え確率とエントロピの関係を模式的に示した図である.回帰ベク トルを1次元とし,モード数は2とする.図の上段は横軸を回帰変数uとしたモード切 り替え確率密度関数P1を示し,図の下段は同じく横軸をuにとり,エントロピの積分項 −ΣiPilog Piを示したものである.モード切り替え確率の変化が緩やかであるほど,これ に応じてエントロピ積分項の山の裾野が広がり,その結果エントロピの値自体も大きくな ることが見て取れる.

(33)

3.3 実験条件 図3.2 HMIのレイアウト

3.2.3

エントロピを用いた判断特性評価手法

PrARXモデルのエントロピを用いることで,運転行動中のドライバの判断特性を定量 的に評価する手法を提案する.ドライバが認知・判断に対して負荷を受けている場合,そ うでない場合に比べて認知・判断能力が低下し,選択する動作モードが確率的にばらつき, 曖昧になると考えられる.解析の手順としては,まず所望の条件にて観測した運転データ にもとづいてドライバの運転行動をPrARXモデルとしてモデル化し,動作・判断の数理 表現を抽出する.次に,同定したモデルのエントロピを求めることで,判断の曖昧さを評 価する.車内機器操作を頻繁に行う等,走行中に二次タスクによる外乱を伴う場合,同様 な走行状況であっても,ブレーキを踏む,加速を行う等の動作の切り替えがばらつくこと になり,それに伴ってドライバモデルのエントロピも上昇すると考えられる.また,ドラ イバにとって高負荷な二次タスクであれば,よりエントロピが高くなると期待されること から,運転行動データのみを基に,ドライバに対するHMI等操作時の負荷の定量的な評 価が可能となる.

3.3

実験条件

3.3.1

実験装置

本章で示すデータの取得には,ドライビングシミュレータ(以下DS)を用いた.一般 に,DSとは実際に道路を走行するのではなく,視覚情報,加速度情報および音情報を疑 似的に創り出し,その仮想世界で走行する装置のことをいう.そのため実車では行えない

(34)

ような危険,もしくは特殊な条件での走行データの収集を行なうことが可能となるが,一 方で,実際にアシスト系を運用する場合は,シミュレータだけではなく,実車を用いて安 全性の検証などを十分にすべきである. 本研究で使用する Driving Simulator (DS) のシステム構成を図3.3に示す.本システ ムは,3面スクリーンによる前方180の視覚呈示が可能な運転環境シミュレータであり, 以下のような特徴を持つ. • 3面,180スクリーンによる広い画像呈示 • 3面ミラーと後面による広い画像呈示 実車インパネを使用することによる実車の再現 反力呈示可能なステアリング 油圧システムのブレーキを持つペダル操作系 • 5.1chサラウンドシステムを使用した音響 物理シミュレータを使用することによる実車の挙動の再現 そして,シミュレータに使用しているPCの役割はそれぞれ • PC1:制御系(車両ダイナミクスの計算部) • PC2:スクリーン表示演算用 • PC3:最適アシスト量演算用 となっている.また,それぞれのPCはInterface社製Memolinkによってデータの受け 渡しが可能となっている.制御系と表示演算系の構成の詳細を表3.1に示す.制御系に用 いている接続デバイスは,ステアリング,アクセル,ブレーキ,スピーカである.シート は三菱自動車エンジニアリング社から購入した実車のものを運転席内に設置した.ステア リングは市販のものを用いており,左右にそれぞれ450回転する.アクセル, ブレーキ はステアリングとセットになっているものを用いている.インパネ内には速度メータが設 置されており,PC1により制御することでドライバは実際の走行速度を知ることができ る.ただし,本実験では速度メーターを使用していない. 以下に,それぞれのPCの詳細な構成とその働きを述べる. 制御系(PC1) 制御系のPCには,統合制御プログラムが実装されており,車両のダイナミクス計算や スピーカからエンジン音の出力,USBを介してのステアリング,アクセル,ブレーキ操作 情報の収集を行う.自動車への入力装置としてステアリング,アクセル,ブレーキをシー トとともに持ち込みコクピットを形成している(図3.4参照).

(35)

3.3 実験条件 MILP SOLVER Memolink 図3.3 DSの構成図 表3.1 DSの構成 制御系(PC1) 表示演算用(PC2) 最適化演算用(PC3) OS Windows XP Windows XP Windows XP

professional professional professional CPU Core2 DUO E8500 Core i7 950 Pentium 4

3.16GHz 3.07GHz 3.00GHz メモリ 3.00GB RAM 3.00GB RAM グラフィック NVIDIA GeForce ボード GTX 295 接続デバイス ステアリング プロジェクタ ×3 アクセル (前方3画面) ブレーキ スピーカ 速度メータ CarSim 車両ダイナミクスはCarSim(ver 5.15)と呼ばれる車両運動ダイナミクス計算ソフト ウェアを用いている.CarSimには様々な入力があり,これを自由に変えることでその条 件を満たす車両の挙動をシミュレーションすることができる.またタイヤを1本ずつ独立 に計算しているため,歩道への乗り上げ等もCarSimを用いることによって忠実に再現し ている.

(36)

図3.4 DSの運転席 (注:画面ははめ込み合成) 統合制御プログラム CarSim とその他デバイスのデータの橋渡しのために C++Builderにて作成した. CarSimとは共有メモリでつながっており,CarSimは統合制御プログラムが共有メモリ に書き込んだ情報を基に車両ダイナミクスを計算する.その計算結果は共有メモリに書き 込まれ,統合制御プログラムがメモリンクを用いて表示系のPC,および速度メータ制御 用のPCに送信する.またこのプログラムは対向車などの他車の制御もしており,図3.5 に示すコントロール画面により他車の位置・速度等の制御を行なっている.エンジン音は CarSimの計算結果であるエンジン回転数に応じて統合制御プログラムがDirectXを用い てエンジン音を生成し,スピーカより出力する. スクリーン表示演算用PC(PC2) 前方スクリーン映像の計算にPCを1台(PC2)割り当て,表示系プログラムを用意し た.仮想街環境の3次元モデル,車両の3次元モデル,各3次元モデルに描くテクスチャ 画像をあらかじめ用意しておく.表示系プログラムは,Memolinkを通してPC1から受 け取ったシミュレーション結果を基に,現時刻における3次元モデルを組み立てる.組み 立てた3次元モデルを基に,前方スクリーンに投影する映像を作成し,プロジェクターを 通して前方スクリーンに表示する.

(37)

3.3 実験条件 図3.5 統合制御プログラムのコントロール画面 最適アシスト量計算用PC(PC3) 運転支援量の最適化計算を行う.RS-232Cを用いてPC1から環境情報を取得し,最適 化問題をNU-OPTを用いて解き,PC1へとその解を転送する.ただし本章の実験では運 転支援を行わないため,PC3を用いない. 車内操作機器 今回使用する車内機器としては,ダッシュボードにカーナビ,エアコン,オーディオ (以下,それぞれNAVI,A/C,AUDIO)の3種類を用意し,図3.2の位置にそれぞれ設

置した.

3.3.2

走行環境

走行環境には直進のみの高速道路環境を用い,環境内には自車,および前方車を配置し た.なお,本実験では車線変更は考慮しない.前方車は,事前に作成された複数の速度パ ターンからランダムに選択し,走行する.前方車の速度パターンの一例を図3.6に示す. 被験者には,一次タスクとして前方車追従を行ってもらう.この際,「前方車と離れすぎ ず,しかし追突しないように」との指示を与える.同時に,被験者には二次タスクとして 表3.2に示すような機器操作の指示を画面上に表示し,車内機器の操作を行ってもらっ た.一回の走行実験中につき一種の機器操作を行い,5分間走行しながら,繰り返し操作 してもらう.21人の被験者それぞれに,DSに慣れるための練習走行の後,機器操作を伴 わない通常走行,3種の車内機器それぞれの操作を伴う走行,と計4回の実験を行った. ただし,慣れによる影響を排除するため,被験者ごとに,操作する機器の順序を変えて 行った.各実験の間に休憩時間を確保し,休憩時間にはアンケートの記入してもらった.

(38)

表3.2 二次タスク 表示内容  A/C エアコンの温度を22度(or26度)にしてください  外気(内気)に変更してください  エアコンの風量を2段階,減ら(増や)して下さい  AUDIO 音量を10(15,20)にしてください  AM(FM)ラジオのCH3(1)を選んでください  FM(AM)ラジオに切り替えてください  NAVI 地図を2段階,詳細(広域)表示にしてください 自宅を目的地に設定してください 0 50 100 150 200 250 300 350 0 20 40 60 80 100 120 140 time

Velocity of forward vehicle

図3.6 前方車の速度パターン アンケートは文献[6]に述べられているユーザビリティ項目,安全項目,あわせて26個の 質問からなり,各設問5点満点で評価をする.

3.3.3

運転行動のモデル化結果

先述のドライビングシミュレータ環境を用いて,20∼50代の運転免許保持者21名の協 力を得て実験を行った.例として被験者Aの取得データを図3.7に示す.図の横軸は時 間であり,図の縦軸は上から順に,KdB,車間距離,相対速度,ペダル操作量を表してい る.次に,実験で得られたデータを用いてPrARXモデルのパラメータ同定を行った.こ こでは,PrARXモデルの入出力変数を前章と同様に定義し,モード数を2とした.例と して,被験者Aのモデル化の結果得られたパラメータの値を表3.3, 3.4に示す.本章では

(39)

3.3 実験条件 表3.3 η(被験者A) η1 η2 η3 η4 η5 usual 3.67 -68.8 -74.6 -28.9 0.04 A/C 2.33 -42.7 -43.0 -5.73 -2.75 AUDIO 10.9 -45.9 -31.9 -20.5 -6.77 NAVI 8.91 -54.2 -14.4 -12.1 -1.24 表3.4 θ(被験者A) mode θj1 θj2 θj3 θj4 θj5 usual 1 -0.05 0.32 0.44 1.06 0.02 2 0.00 -0.07 0.27 0.86 0.01 判断特性を反映するηの違いに着目するため,パラメータθについては通常走行のみ示 した.パラメータθj1θj4は,それぞれPrARXモデルの入力であるKdB,車間距離, 相対速度,再帰項に対する係数であり,各々の入力から出力に対するゲインの大きさを意 味する.θj5は定数項である.パラメータη1∼η4は,PrARXモデルのモード確率を決定 するベクトルηの,それぞれKdB,車間距離,相対速度,再帰項に対する係数であり,η5 は定数項である. 運転行動の時系列データの各点におけるPrARXモデルのモード確率を図3.8∼3.11に 示す.図中の三角はモード1の確率が0.1を下回る(モード2の確率が0.9を上回る)点, 丸は逆にモード1の確率が0.9を上回る(モード2の確率が0.1を下回る)点を示す.ま た,四角はそれ以外の,中間的な確率を示す点である. モード1の確率が大きな値を示す領域ではKdBが大きく,かつ加速度が負の値を示し ている.したがって,モード1は運転者が危険を感じブレーキを踏んでいる状況,即ち危 険を回避しているモードだと考えられる.同様に考えると,モード2は加速,あるいは巡 航しつつ追従しているモードだと考えられる.さて,モード1とモード2がそれぞれ高確 率となる領域が重なり合う領域,つまりモード確率が反転する領域に着目する.この領域 における確率の変化が緩慢であるということはドライバが同じ状況であっても場合によっ て異なる操作をしていることを意味しており,認知,判断の明確さが低下していることを 示している.図3.8∼3.11の四角で示された点群(確率が曖昧になる領域)の広がりに注 目すると,車内機器操作なしの場合で曖昧な領域が一番小さくなっていることが視覚的に 確認できる.

(40)

0 50 100 150 200 250 300 -100 0 100 KdB 0 50 100 150 200 250 300 0 20 40 Range 0 50 100 150 200 250 300 -10 0 10 Range Rate 0 50 100 150 200 250 300 -20 0 20 Accelaration time 図3.7 通常時走行データ(被験者A)

3.3.4

エントロピを用いた判断特性評価

最後に,各ドライバの運転行動のPrARXモデルのエントロピを用いた判断特性の評 価を行う.式(3.4)におけるエントロピの領域Dは,取得したデータの分布からKdB: −60∼60,車間距離:0∼1208[m],相対速度:−20∼20[m/s],加速度:−20∼20[m/s2] ように定めた.例として被験者5人の各機器操作時のエントロピと,被験者21人全員の 平均値と標準分散を表3.5に示す.機器操作を伴う63試行中の55試行において,機器操 作を伴わない試行よりもエントロピが上昇することが確認された.また,エントロピの平 均値を見ると,

(通常走行) < (A/C操作時) < (AUDIO操作時) < (NAVI操作時)

となっており,機器操作が運転行動に加わるとエントロピの値が増加することがわかる.

AUDIOとNAVIのエントロピはA/Cのエントロピよりも高いが,これはボタンの操作 回数がA/Cよりも多く,また,機器の配置をA/Cに有利であったことから,結果として エントロピが増加したと考えられる.

一方で,表3.6は安全項目とユーザビリティ項目についてのアンケートの得点の平均値 と分散である.安全項目とユーザビリティ項目の平均値を見ると,共に

(41)

3.3 実験条件

−100

−50

0

50

100

−15

−10

−5

0

5

10

KdB

Accelaration

図3.8 通常運転時の走行データ 表3.5 エントロピ計算結果

subject usual A/C AUDIO NAVI A 1.02 1.78 1.88 1.90 B 1.50 1.57 1.98 3.12 C 1.24 2.09 2.80 2.79 D 1.27 1.57 1.76 2.45 E 1.54 1.66 2.09 1.84 average 1.24 1.67 1.76 1.83 standard deviation 0.35 0.38 0.45 0.55 となっており,エントロピの値が大きくなるにつれて安全項目とユーザビリティ項目のア ンケートの得点は下がる傾向が見られた.以上のように,本章で提案する評価手法によ り,直観的な操作の負荷や,主観的なアンケート結果とも符合する評価結果が得られた.

(42)

−100

−50

0

50

100

−15

−10

−5

0

5

10

KdB

Accelaration

図3.9 A/C操作時の走行データ 表3.6 アンケート結果

safety A/C AUDIO NAVI average 42.3 35.9 34.3 standard deviation 10.1 9.57 7.67 usability A/C AUDIO NAVI

average 38.6 33.7 31 standard deviation 12.4 8.94 9.72

(43)

3.3 実験条件

−100

−50

0

50

100

−15

−10

−5

0

5

10

KdB

Accelaration

図3.10 AUDIO操作時の走行データ

−100

−50

0

50

100

−15

−10

−5

0

5

10

KdB

Accelaration

図3.11 NAVI操作時の走行データ

(44)

結論

4.1

まとめ

本研究では個人の運転特性に適合した運転支援システムの実現に向けて,ハイブリッド システム理論にもとづいた運転行動解析およびそれを応用した運転支援システムの構築を 行った.はじめに,昨年度の研究においてドライビングシミュレータ上で検証を行った運 転支援システムを小型電気自動車に搭載し,屋外の走行実験を通じてより現実の走行環境 に近い状況で検証を行った.実験の結果,普通自動車と小型電気自動車の運転モデルを比 較すると,その速度域や加速性能の違いが運転行動モデルのパラメータの違いとなって現 れることが明らかとなった.また,適切なタイミングで加減速支援が作動することを確認 し,実車環境においても開発した運転支援システムの有効性がある程度確認された.今後 は運転支援の快適性評価や,操舵支援を含むより高度な運転支援への発展を見据えて開発 および実験を重ねていく必要がある. 次に,車内機器操作などの二次的タスクが運転行動に及ぼす影響を定量的に評価するた め,運転者の判断に含まれるあいまいさを運転モデルから抽出する手法の開発を行った. 具体的には,運転操作の切り替わりを確率的に表現するPrARXモデルを用いて運転行動 のモデリングを行い,モデルのパラメータを元に算出されるエントロピの値によって,運 転操作の切り替え判断にどの程度のあいまいさが含まれるかを測る方法を示した.実験の 結果,機器操作時は通常走行時と比較してエントロピの値が増加することが明らかとなっ た.今後の課題としては,提案手法に,アンケート評価や横方向軌跡のずれなどの従来手 法を加えた総合的な評価指標の確立,機器の種類や配置の変更に伴うエントロピへの影響 の詳細な解析などがあげられる.

(45)

謝辞

本研究を遂行するにあたり,名古屋大学の稲垣伸吉講師,三重大学の早川聡一郎准教授 には有益な助言を数多く頂いた.また,運転シミュレータの開発や実験遂行などの実質的 な作業においては名古屋大学の奥田裕之研究員,伊神範光氏,近藤悠太氏らの貢献が大 きい. 最後に,本研究のために貴重な研究資金を御提供頂いたタカタ財団に深い感謝の意を表 する.

(46)

参考文献

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[3] Ferrari-Trecate, G.and D.Mignone, and M.Morai. Moving horizon estimation for hybrid systems. In IEEE Transactions on Automatic Control, 2002.

[4] 大嶋,小河. モデル予測制御−1−基礎編:発展の歴史と現状. システム/情報/制御, Vol. 46, No. 5, pp. 286–293, 2002. [5] 超小型電気自動車コムス. トヨタ車体株式会社. [6] 溝渕佐知ほか. 表示操作系HMIの評価手法の研究(第4報). 2010. [7] 日本自動車工業会. 画像表示装置ガイドライン3.0版. 2004. [8] 大谷亮ほか. 機器操作負荷の推定法としての二重課題法の検討-車線変更テストを対象 として. 自動車技術論文集, No. 6, pp. 235–240, 2007. [9] 田口峻,鈴木達也,早川聡一郎,稲垣伸吉. 確率重みつき複数ARXモデルの同定と運 転行動解析への応用. 計測自動制御学会論文集, Vol. 45, No. 8, pp. 414–421, 2009.

表 2.1 COMS の諸元 主要諸元表 COMS AK10E-PDAM 車両総重量 365[kg] 最高速度 50[km/h] 最小回転半径 2.60[m] 全長 2250[mm] 全幅 995[mm] 全高 1600[mm] 軸距 1280[mm] 駆動方式 後輪インホイール直接駆動 制動方式 前:油圧式 後:油圧&機械式 操作量計測デバイス ブレーキペダル,アクセルペダル,ステアリングにそれぞれ取り付けられたポテンショ メータより運転者の操作量を取得できる.加えてブレーキペダル,アクセルペダルには踏
図 2.6 走行環境 2.3 実験内容 2.3.1 走行環境 本研究では,図 2.6 に示す長辺約 100m ,短辺約 70m の片側一車線の長方形のコースを 使用する.車間距離や相対速度を容易に取得できる直線部のみをデータとして使用する. LRF の性能制約上,後方車は車間距離が 30m 以内となるよう走行する.また,前方車に は 4 人乗り普通乗用車を用い,時速 5 〜 30km 程度の速度で走行する. 2.3.2 実験手順 まず運転支援なしの通常状態で前方車追従を行いドライバモデルを構築する.その後運
図 2.7 実験結果の一例 2.4 実験結果 図 2.7 に,運転支援システムを搭載した小型電気自動車の走行時系列データを示す.各 軸のラベルが示すデータの意味を下記に示す. KdB u 1 KdB[dB] (危険度指標.昨年度報告書参照) Range u 2 車間距離 [m] Rangerate u 3 相対速度 [m/s] Pedal ペダル操作量 [-] +Assist y as+ 加速アシスト量 [m/s 2 ] − Assist y as − 減速アシスト量 [m/s 2 ] Accelerati
図 2.16 運転支援下の走行データ抜粋 1
+4

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