Range
3.2 運転行動のモデル化 .1 PrARX モデル
3.3.2 走行環境
3.3 実験条件
図3.5 統合制御プログラムのコントロール画面
最適アシスト量計算用PC(PC3)
運転支援量の最適化計算を行う.RS-232Cを用いてPC1から環境情報を取得し,最適
化問題をNU-OPTを用いて解き,PC1へとその解を転送する.ただし本章の実験では運
転支援を行わないため,PC3を用いない.
車内操作機器
今回使用する車内機器としては,ダッシュボードにカーナビ,エアコン,オーディオ
(以下,それぞれNAVI,A/C,AUDIO)の3種類を用意し,図3.2の位置にそれぞれ設 置した.
表3.2 二次タスク 表示内容
A/C エアコンの温度を22度(or26度)にしてください 外気(内気)に変更してください
エアコンの風量を2段階,減ら(増や)して下さい
AUDIO 音量を10(15,20)にしてください
AM(FM)ラジオのCH3(1)を選んでください
FM(AM)ラジオに切り替えてください
NAVI 地図を2段階,詳細(広域)表示にしてください 自宅を目的地に設定してください
0 50 100 150 200 250 300 350
0 20 40 60 80 100 120 140
time
Velocity of forward vehicle
図3.6 前方車の速度パターン
アンケートは文献[6]に述べられているユーザビリティ項目,安全項目,あわせて26個の 質問からなり,各設問5点満点で評価をする.
3.3.3 運転行動のモデル化結果
先述のドライビングシミュレータ環境を用いて,20〜50代の運転免許保持者21名の協 力を得て実験を行った.例として被験者Aの取得データを図3.7に示す.図の横軸は時 間であり,図の縦軸は上から順に,KdB,車間距離,相対速度,ペダル操作量を表してい る.次に,実験で得られたデータを用いてPrARXモデルのパラメータ同定を行った.こ
こでは,PrARXモデルの入出力変数を前章と同様に定義し,モード数を2とした.例と
して,被験者Aのモデル化の結果得られたパラメータの値を表3.3, 3.4に示す.本章では
3.3 実験条件 表3.3 η(被験者A)
η1 η2 η3 η4 η5
usual 3.67 -68.8 -74.6 -28.9 0.04 A/C 2.33 -42.7 -43.0 -5.73 -2.75 AUDIO 10.9 -45.9 -31.9 -20.5 -6.77 NAVI 8.91 -54.2 -14.4 -12.1 -1.24
表3.4 θ(被験者A)
mode θj1 θj2 θj3 θj4 θj5
usual 1 -0.05 0.32 0.44 1.06 0.02 2 0.00 -0.07 0.27 0.86 0.01
判断特性を反映するηの違いに着目するため,パラメータθについては通常走行のみ示 した.パラメータθj1〜θj4は,それぞれPrARXモデルの入力であるKdB,車間距離,
相対速度,再帰項に対する係数であり,各々の入力から出力に対するゲインの大きさを意 味する.θj5は定数項である.パラメータη1〜η4は,PrARXモデルのモード確率を決定 するベクトルηの,それぞれKdB,車間距離,相対速度,再帰項に対する係数であり,η5
は定数項である.
運転行動の時系列データの各点におけるPrARXモデルのモード確率を図3.8〜3.11に 示す.図中の三角はモード1の確率が0.1を下回る(モード2の確率が0.9を上回る)点,
丸は逆にモード1の確率が0.9を上回る(モード2の確率が0.1を下回る)点を示す.ま た,四角はそれ以外の,中間的な確率を示す点である.
モード1の確率が大きな値を示す領域ではKdBが大きく,かつ加速度が負の値を示し ている.したがって,モード1は運転者が危険を感じブレーキを踏んでいる状況,即ち危 険を回避しているモードだと考えられる.同様に考えると,モード2は加速,あるいは巡 航しつつ追従しているモードだと考えられる.さて,モード1とモード2がそれぞれ高確 率となる領域が重なり合う領域,つまりモード確率が反転する領域に着目する.この領域 における確率の変化が緩慢であるということはドライバが同じ状況であっても場合によっ て異なる操作をしていることを意味しており,認知,判断の明確さが低下していることを 示している.図3.8〜3.11の四角で示された点群(確率が曖昧になる領域)の広がりに注 目すると,車内機器操作なしの場合で曖昧な領域が一番小さくなっていることが視覚的に 確認できる.
0 50 100 150 200 250 300 -100
0 100
KdB
0 50 100 150 200 250 300
0 20 40
Range
0 50 100 150 200 250 300
-10 0 10
Range Rate
0 50 100 150 200 250 300
-20 0 20
Accelaration
time
図3.7 通常時走行データ(被験者A)
3.3.4 エントロピを用いた判断特性評価
最後に,各ドライバの運転行動のPrARXモデルのエントロピを用いた判断特性の評 価を行う.式(3.4)におけるエントロピの領域Dは,取得したデータの分布からKdB:
−60〜60,車間距離:0〜1208[m],相対速度:−20〜20[m/s],加速度:−20〜20[m/s2]の ように定めた.例として被験者5人の各機器操作時のエントロピと,被験者21人全員の 平均値と標準分散を表3.5に示す.機器操作を伴う63試行中の55試行において,機器操 作を伴わない試行よりもエントロピが上昇することが確認された.また,エントロピの平 均値を見ると,
(通常走行)<(A/C操作時)<(AUDIO操作時)<(NAVI操作時)
となっており,機器操作が運転行動に加わるとエントロピの値が増加することがわかる.
AUDIOとNAVIのエントロピはA/Cのエントロピよりも高いが,これはボタンの操作
回数がA/Cよりも多く,また,機器の配置をA/Cに有利であったことから,結果として エントロピが増加したと考えられる.
一方で,表3.6は安全項目とユーザビリティ項目についてのアンケートの得点の平均値 と分散である.安全項目とユーザビリティ項目の平均値を見ると,共に
(NAVI操作時)<(AUDIO操作時)<(A/C操作時)
3.3 実験条件
−100 −50 0 50 100
−15
−10
−5 0 5 10
KdB
Accelaration
図3.8 通常運転時の走行データ 表3.5 エントロピ計算結果
subject usual A/C AUDIO NAVI
A 1.02 1.78 1.88 1.90
B 1.50 1.57 1.98 3.12
C 1.24 2.09 2.80 2.79
D 1.27 1.57 1.76 2.45
E 1.54 1.66 2.09 1.84
average 1.24 1.67 1.76 1.83
standard deviation 0.35 0.38 0.45 0.55
となっており,エントロピの値が大きくなるにつれて安全項目とユーザビリティ項目のア ンケートの得点は下がる傾向が見られた.以上のように,本章で提案する評価手法によ り,直観的な操作の負荷や,主観的なアンケート結果とも符合する評価結果が得られた.
−100 −50 0 50 100
−15
−10
−5 0 5 10
KdB
Accelaration
図3.9 A/C操作時の走行データ
表3.6 アンケート結果
safety A/C AUDIO NAVI
average 42.3 35.9 34.3
standard deviation 10.1 9.57 7.67
usability A/C AUDIO NAVI
average 38.6 33.7 31
standard deviation 12.4 8.94 9.72
3.3 実験条件
−100 −50 0 50 100
−15
−10
−5 0 5 10
KdB
Accelaration
図3.10 AUDIO操作時の走行データ
−100 −50 0 50 100
−15
−10
−5 0 5 10
KdB
Accelaration
図3.11 NAVI操作時の走行データ
第 章
結論
4.1 まとめ
本研究では個人の運転特性に適合した運転支援システムの実現に向けて,ハイブリッド システム理論にもとづいた運転行動解析およびそれを応用した運転支援システムの構築を 行った.はじめに,昨年度の研究においてドライビングシミュレータ上で検証を行った運 転支援システムを小型電気自動車に搭載し,屋外の走行実験を通じてより現実の走行環境 に近い状況で検証を行った.実験の結果,普通自動車と小型電気自動車の運転モデルを比 較すると,その速度域や加速性能の違いが運転行動モデルのパラメータの違いとなって現 れることが明らかとなった.また,適切なタイミングで加減速支援が作動することを確認 し,実車環境においても開発した運転支援システムの有効性がある程度確認された.今後 は運転支援の快適性評価や,操舵支援を含むより高度な運転支援への発展を見据えて開発 および実験を重ねていく必要がある.
次に,車内機器操作などの二次的タスクが運転行動に及ぼす影響を定量的に評価するた め,運転者の判断に含まれるあいまいさを運転モデルから抽出する手法の開発を行った.
具体的には,運転操作の切り替わりを確率的に表現するPrARXモデルを用いて運転行動 のモデリングを行い,モデルのパラメータを元に算出されるエントロピの値によって,運 転操作の切り替え判断にどの程度のあいまいさが含まれるかを測る方法を示した.実験の 結果,機器操作時は通常走行時と比較してエントロピの値が増加することが明らかとなっ た.今後の課題としては,提案手法に,アンケート評価や横方向軌跡のずれなどの従来手 法を加えた総合的な評価指標の確立,機器の種類や配置の変更に伴うエントロピへの影響 の詳細な解析などがあげられる.
謝辞
本研究を遂行するにあたり,名古屋大学の稲垣伸吉講師,三重大学の早川聡一郎准教授 には有益な助言を数多く頂いた.また,運転シミュレータの開発や実験遂行などの実質的 な作業においては名古屋大学の奥田裕之研究員,伊神範光氏,近藤悠太氏らの貢献が大 きい.
最後に,本研究のために貴重な研究資金を御提供頂いたタカタ財団に深い感謝の意を表 する.