音楽情報処理による障害者支援:2.音楽を楽しむ聴覚障害者 -情報処理技術でもっと楽しもう-
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(2) 音楽を楽しむ聴覚障害者─情報処理技術でもっと楽しもう─. No.2. とても嫌い 0%. 嫌い とても 10% 好き. 15%. どちらとも いえない 30%. 好き 45%. 図 -1 「音楽が好き?」という質 問に対する聴覚障害学生 20 名の アンケート回答結果. 調査項目. 回答(カッコ内は延べ人数). ジャンル. J-POP(13), クラシック(3), ジャズ,K-POP,ダンス,ロック. 頻度. 図 -2 難聴学生のダンスサークルによるライブパフォーマンス (筑波技術大学). 1 〜 3 時間/日(6), 10 分〜 30 分/日(3), 週 1 回(6). 聴取状況. 勉強中(5),暇な時(4),息抜き(3), 移動中(2),寝る前(2),朝. 聴取方法. YouTube +スピーカ(6) , iPod +イヤフォン(6). 音楽活動. カラオケ(2),ダンス(2), ミュージカル鑑賞. 音楽経験. ピアノ (8) , リコーダ(3) , 和太鼓(3) , 合唱(2),アコー ディオンなど. 表 -1 聴覚障害学生の音楽活動(n=20). また,歌詞の字幕がついていないと歌がうまく聞き 取れないといった,複雑な音の認知処理にかかわる ものが挙げられた.. 自信をもって音楽を楽しむために このように,聴覚障害者にとって,音楽は遠い存. の熱心なファンの学生のエピソードを紹介したい.. 在ではない.しかし,聴覚障害学生らの音楽への姿. 彼は,プロモーションビデオ(PV)を見るときに,. 勢を質問すると「音楽は好きだけれど,ちゃんと正. 歌を聞きながら,字幕を見つつ,読唇もする(パソ. しく楽しめているか自信がない」 「自分は健聴者と同. コンや iPod,テレビのステレオミニジャック端子か. じように音楽を楽しめているだろうか」という不安. ら直接音声を入力できる補聴器を使っている) .そ. げな反応が多い.. のままでも何回も聴くが,歌詞に追いつくのが難し. 自信の欠如の裏には,音楽よりも音声会話の習熟. いので,購入した CD 音源をパソコンで読み込んで,. に重きを置かざるを得ない特別支援教育の現状や,. ボーカル部分のみを抽出する Web サービスを利用. 絶対的な音楽聴取時間が不足しているために自信が. し,声だけ聞こえるようにして,歌詞カードと見比. 生まれないという現状がある.彼らが自由に音楽を. べながら,何が歌われているか聞き取りをする.そ. 楽しめる機会を増やし,親しみやすいかたちで音楽. してまた PV を見ると,読唇と字幕の違いから,ど. を提供することが,自信を獲得し,のびのびと音楽. こで口パクを間違ったか分かるという.このように. を楽しめるようになるために必要である.. 1 つの曲を深く多面的に聴いている姿,ユニークな. ここまでの章で取り上げたように,インターネッ. 音楽の楽しみ方に我々は感銘を受けた.. ト音楽配信,MIDI 楽器,カラオケといったテクノ. そのほかにも,カラオケが好き,ダンスが好き. ロジの活用によって,聴覚障害者と音楽の接点が増. (図 -2) ,音楽ゲーム(いわゆる音ゲー)が好き,ニ. えている.新しい技術と芸術の形を探求することで,. コニコ動画でボーカロイド曲を聴くのが好き,とい. このような接点がさらに増えていくのではないか.. ったさまざまな活動が見受けられた.これらの活動. たとえばインタラクティブな音楽の領域では,どの. に共通する悩みとして,カラオケでいつ歌い始めた. ような事例があるだろうか.. ら良いのか分かりにくい,ダンスでリズムをつかむ のが難しい,といったリズムの知覚にかかわるもの,. 情報処理 Vol.57 No.3 Mar. 2016. 255.
(3) 小特集. 音楽情報処理による障害者支援. 1.0. Mean F-Measure. 0.8. 図 -3 “Small Fish” の一場面.植物オブジェクトをドラッグ操 作で動かすと,その合間を虫が飛び回り,音楽を奏でる. 1st trial 3rd trial. 0.6 0.4 0.2 0.0 Music Only Condition. インタラクティブメディアを用い た音楽体験. Music and Visual Condition. 図 -4 タッピングゲームにおけるトレーニングの効果 (左:音楽のみ条件,右:映像あり条件,*は 5% 有意を示す). Small Fish 5). 東京芸術大学の古川らは Small Fish (映像を操作. 3 回タッピングを行う.(a)3 回ともすべて映像な. して音楽を変化させるインタラクティブ作品,図 -3,. しの場合(音楽のみ条件)と(b)1 回目と 3 回目. 現在は iPhone アプリバージョンを配布中)を用いて. は映像なしだが 2 回目だけ映像をつけた場合(映像. 聴覚障害者に新たな音楽の楽しみ方を提供するワー. あり条件)で,1 回目と 3 回目でタッピング精度が. クショップを 2001 年に開催した.ワークショップは. どれだけ向上したかを測定した.その結果,映像あ. 聴覚障害者団体トライアングルとの共同事業として,. り条件の場合に,タッピング精度の向上が見られた. 2001 年 4 月から 6 回行われ,同年 7 月に成果発表の. (図 -4) .. コンサートも行われた.ワークショップでは,聴覚 障害児童らが,自ら録音した音や,自ら描いた絵を. 触覚を用いた聴覚支援. パソコンに取り込み,Small Fish のソフトウェアを用. 金箱らの提案する Vibracion Cajon. いて作品製作を行った.情報処理技術と音楽と聴覚. 刺激を用いて,カホンという打楽器を多感覚化する. 障害の歩み寄りが見られた先駆的な例である.. 取り組みを行っている(図 -5) .打楽器音は聴覚障. 6). では,触覚. 害者でも聴き取りやすい音ではあるが,一緒に演奏. タッピングゲームによる聴力トレーニング. する相手の音に対応させて楽器自体を振動させ,触. 聴覚障害学生は音楽ゲームを楽しむことからイン. 覚を通じて相手の状況に気付きやすくする.それに. スピレーションを得た,タッピングゲームを用い. 加えて映像を投影し,光のオブジェクトのやりとり. 4 た聴力トレーニングに関する研究が進行中である .. によって,音のやりとりを効果的に演出して主体的. この研究では,音楽に合わせてタッピングをするこ. な参加を促している.音のみでは,アンサンブル演. とで,リズム認知を向上させること,また複数の音. 奏における「やりとり」の楽しさを味わうことが難. が複雑に組み合わされた聴覚刺激を聴く機会を増や. しいが,こういった多感覚化の工夫により,聴覚障. すことを狙っている.. 害者でも臨場感あふれるアンサンブル演奏を楽しめ,. 実験では,聴覚障害を持つ学生を対象に,シンプ. 好評を博している.. ). ルなタッピングゲームの短期的学習効果を検討し た.J-POP の短い抜粋を提示され,それに合わせて. 256. 情報処理 Vol.57 No.3 Mar. 2016.
(4) 音楽を楽しむ聴覚障害者─情報処理技術でもっと楽しもう─. No.2. る.聴覚障害を持つ人も,そうでない人も,ともに 安心して主体的に楽しめるシステムを作っていくこ と,旧来の音楽の形にこだわらず,さまざまなタイ プの新しい音楽を探求していくことが発展のカギで あろう. 参考文献 1) 文部科学省:特別支援教育について(聴覚障害教育),http://. 図 -5 Vibracion Cajon を用いてアンサンブル演奏を楽しむ聴 覚障害者. 今後の展望:音楽のユニバーサル デザイン. www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/002.htm 2)厚生労働省:平成 18 年身体障害児・者実態調査結果 (2008), http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/ dl/01_0001.pdf 3)Music and the Deaf Web サイト , http://www.matd.org.uk/ 4) Matsubara, M., Terasawa, H. and Hiraga, R. : The Effect of Musical Experience on Rhythm Perception in Hearingimpaired Undergraduates, Proc. IEEE Conference on System, Man and Cybernetics, pp.1666-1669, San Diego (2014). 5) 古川 聖,藤幡正樹,Münch, W. : Small Fish, ZKM, Karlsruhe, Germany (1999). 6) 金箱淳一:Vibracion Cajon 2.5: 視覚と触覚で体感可能な打楽 器,デザイン学研究作品集 , pp.10-15 (2014). (2015 年 11 月 14 日受付). 本稿では,聴覚障害者が音楽に親しむ際に,どの ような実態があり,ICT を用いてどのような取り組 みがなされているかを紹介した.高齢化社会におい ては,加齢による難聴も多くなり,耳が悪くても音 楽を楽しみたい,耳が悪い人と一緒に音楽を楽し みたいというニーズは,どんどん大きくなるだろ う.今後注目すべき方向性としては, (1)マルチメ ディア技術を用いた多感覚化, (2)参加型音楽のフ レームワーク(特に複数名を対象としたもの) , (3) 評価実験によるエビデンスの提供,などが挙げられ. 寺澤洋子(正会員)■ [email protected] 電 気 通 信 大 学 電 子 工 学 科 修 士 課 程 修 了, ス タ ン フ ォ ー ド 大 学 CCRMA 博士課程修了.(Ph.D. Music).筑波大学 TARA センター研 究員,東京藝術大学非常勤講師などを経て,現在,筑波大学図書館 情報メディア系助教.プライベートでは 2 歳のぼうやのママ. 平賀瑠美(正会員)■ [email protected] 日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所,文教大学を経て 2007 年 より筑波技術大学教授.博士(工学).聴覚障害を持つ学生との日々 を通じ,音楽聴取の多様性を知り聴覚障害者の音楽聴取の研究にの めりこむ.本会音楽情報科学研究会前主査,同アクセシビリティ研 究グループ主査.. 情報処理 Vol.57 No.3 Mar. 2016. 257.
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東京大学 大学院情報理工学系研究科 数理情報学専攻. [email protected]
情報理工学研究科 情報・通信工学専攻. 2012/7/12