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人工知能技術と産業応用 : 2.電力分野と人工知能技術

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Academic year: 2021

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(1)特集. 人工知能技術 と 産業応用. 電力分野における 人工知能技術の 過去・現在・未来. 02 02. 電力分野と人工知能技術の過去,現在. テムの研究開発を盛んに行ってきた.最盛期には,数十 の知識ベースシステムの研究開発が行われてきた.この.  人工知能技術は,その技術が誕生したときから,社会. システム開発の中から,実運用に資するものが数システ. のあらゆる領域でその活用が進められてきた.電力分野. ムでてきた.1990 年代に入ってからは,新たに研究開. においても,さまざまな諸問題に対処するための支援技. 発される知識ベースシステムの数は急激に減少している. 術として,人工知能技術の活用に大きな期待がよせられ. 状況にあり,1993 年の文献 1)では,4 つのシステム. てきた.. のみが紹介されている..  電力分野は,電気エネルギーの生産から輸送,分配.  本稿では,電力分野と人工知能技術との関係につい. にいたる大規模なシステムの運用・保守事業である.. て,代表的な過去と現在の人工知能技術応用例を紹介し,. 1980 年代から 1990 年代初頭は,電力需要の増大を想. 電力分野における人工知能技術の課題と将来像について,. 定した電力系統設備の大規模化が進められてきた.この. 筆者が感じていることを述べる.. 電力系統設備の大規模化を進めながら,高品質な電力を 安定して供給するため,設備の自動化,高機能化を積極 的に進めてきた.. 1980年代の電力分野と人工知能技術.  また,1990 年代後半から 2000 年初頭には,電力需.  この年代は,電力分野における知識ベースシステム開. 要の伸びが鈍化する中で, 「電力自由化」の導入に向け. 発の最盛期である.ここで言う知識ベースシステムとは,. た制度の見直しが進められてきた.この「電力自由化」. 基本的には,専門家の経験・知識を知識ベース化し,そ. を受けて,電力分野では,コスト削減とサービスの向上. の知識ベースに基づいて推論を行うシステムである.代. を目標に,事務業務および設備運用・保守の効率化,均. 表的な事例として,水力鋼構造物の評価診断システム. 質化に従来にも増して精力的に取り組んできた.このよ. について,以下で紹介し,1980 年代の電力分野と人工. うに設備の高機能化,計算機システムの導入によるコス. 知能技術との関係を概観する.. 2). ト削減,サービスの向上等に取り組んできた電力分野で はあるが,次のような,人工知能技術に解決を期待した. システム概要. い問題点をまだ残している..  水力発電所建設の最盛期から,すでに 40 年以上を経. 1. 設備の自動化,高機能化に伴う設備に関する技術ノ. 過したダムゲート,水圧鉄管,水路橋,スクリーンなど. ウハウのブラックボックス化の解消.. 2. 高度情報化社会に与える設備事故時の影響の増大を 考慮したリスクマネジメントの確立.. 3. 設備の信頼性向上による異常・事故の減少に伴う現 場担当者の経験不足の解消.. の水力鋼構造物が増えてきている.これらは電力会社の 保守担当者の手で,十分な検討のもとに適宜,補修され, 取り替えられつつあるが,近年,特に安全性診断,余寿 命の予測技術がクローズアップされてきた.そこで, (財) 電力中央研究所は,過去 20 年以上にわたる既設の鋼構.  この 3 つの問題点の解決に向けて,電力分野では,現. 造物の調査実績をもとに,1984 年から水力鋼構造物の. 場の専門家の経験・知識・ノウハウを蓄積し,活用でき. 診断技術を体系化し,その診断技術を人工知能技術に. るように,1980 年代に , 人工知能技術を応用したシス. よってシステム化した. 2). .. IPSJ Magazine Vol.47 No.7 July 2006. 711. 電力分野 における人工知能技 術 の過去・現在・未来. 小野田崇((財)電力中央研究所 システム技術研究所):[email protected].

(2) 特集. 人工知能技術 と 産業応用 ピアー側上段脚柱フランジ断面 ピアー側中上段脚柱フランジ断面 ピアー側中下段脚柱フランジ断面 ピアー側下段脚柱フランジ断面 中央側上段脚柱フランジ断面 中央側中上段脚柱フランジ断面 中央側中下段脚柱フランジ断面 SECTIONS. 中央側下段脚柱フランジ断面 上段主桁中央部フランジ断面 上段主桁端部フランジ断面 中上段主桁中央部フランジ断面 中上段主桁端部フランジ断面 中下段主桁中央部フランジ断面 中下段主桁端部フランジ断面 下段主桁中央部フランジ断面 下段主桁端部フランジ断面 TRUSSES. TRUSS 上段主桁ウェブ 中上段主桁ウェブ. WEBS. 中下段主桁ウェブ 下段主桁ウェブ 上段脚柱ウェブ. STRUCTURES. 中上段脚柱ウェブ 中下段脚柱ウェブ CROSS BEAMS. 下段脚柱ウェブ CROSS BEAM 上段主桁フランジ 中上段主桁フランジ. SYSTEMUNITS. 中下段主桁フランジ FLANGES. 下段主桁フランジ 上段脚柱フランジ 中上段脚柱フランジ 中下段脚柱フランジ. CORROSIVES GATES MAIN GIRDERS. 下段脚柱フランジ GATE 上段主桁 中上段主桁 中下段主桁 下段主桁. SKIN PLATES. SKIN PLATE. STRINGERS. STRINGER 上段脚柱. ARMS. 中上段脚柱 中下段脚柱 下段脚柱. システムにおける人工知能技術. 図 -1 ラジアルゲートに関する フレーム構造知識ベース. 構造物の評価システムを開発した..  従来の計算機技術では,知識を一度定量的な数値情報.  人工知能技術を用いて表現されたのは,ダムゲートに. やプログラムに変換して,数値を中心とした処理を行う. 関する知識である.ダムゲートの物理的な構造を表す知. ため,利用者に理解しやすいかたちの知識表現となって. 識と,データ項目値を表す知識については,フレーム表. いなかった.この問題を解決するため,プロダクション. 現を用いて整理した.図 -1 に物理的な構造を表現した. ルール(「もし X ならば,Y をせよ」のように if-then 型. フレームを示す.図 -1 で,ラジアルゲートとは,ダム. の記述をルールと呼び,それらの集合が知識ベースとな. に付随している扇形のゲートのことであり,扇を中心に. るもの)とフレーム表現(百科事典の項目のように, 「X. ゲートが開閉されるのである.また,フランジとは,ダ. とは Y である」のように,項目ごとにその定義を宣言. ムゲートなどを支える部材を強化するためにつけられた. 的に記述したものをフレームとよび,それらの集合が知. 部分のことである.. 識ベースとなるもの)を用いて知識を整理した,水力鋼.  また,if-then 形式のプロダクションルールで表現さ. 712. 47 巻 7 号 情報処理 2006 年 7 月.

(3) 外観. 操作性. 環境その他. 経過年数. 判定. 良い. 良い・おおむね良い. 良い. 良くない. 40 年未満. 現状のまま使用可 現状のまま使用可. 良い. 良くない. 40 年以上. 補修が必要. 良い. かなり悪い. 良い・おおむね良い・良くない. 良い. かなり悪い. かなり悪い. 40 年未満. 補修が必要. 良い. かなり悪い. かなり悪い. 40 年以上. 取替え. おおむね良い. 良い. おおむね良い. おおむね良い. 40 年未満. 現状のまま使用可. おおむね良い. おおむね良い. 40 年以上. 補修が必要. おおむね良い. 良くない. おおむね良い. かなり悪い. 40 年未満. 補修が必要. おおむね良い. かなり悪い. 40 年以上. 取替え. 良くない. 良い・おおむね良い・良くない. 40 年未満. 補修が必要. 良くない. 良い・おおむね良い・良くない. 40 年以上. 取替え. 良くない. かなり悪い. かなり悪い. 良い. 良い・おおむね良い. 40 年未満. 補修が必要. かなり悪い. 良い. 良い・おおむね良い. 40 年以上. 取替え. かなり悪い. 良い. 良くない・かなり悪い. かなり悪い. おおむね良い. 良い・おおむね良い. 40 年未満. 補修が必要. かなり悪い. おおむね良い. 良い・おおむね良い. 40 年以上. 取替え. かなり悪い. おおむね良い. 良くない・かなり悪い. かなり悪い. 良くない・かなり悪い. 補修が必要. 現状のまま使用可. 02. 取替え. 取替え. 取替え 取替え. 表 -1 経験的診断ルール. れたダムゲートに関する知識は,以下の 4 つのルール. 検証結果および運用状況. 群から構成されている..  システム動作の検証のために,試験利用を実施した.. ① データの信頼性を判定するルール群. 検証の目的は以下の 4 点である.. ②各種の物理定数をセットするルール群. (1)インタフェースの向上に関する具体的改善事項の. ③構造力学的情報に従って診断を行うルール群 ④ 経験的診断ルール群(ヒューリスティックルールと も呼ぶ). 抽出と,対策の検討. (2)システムの運用上の問題点の抽出と,対策の検討. (3)さまざまな試験利用による構造解析システムの機.  表 -1 に④の経験的診断ルールの一部を示す.  本システムでは,最初に上述①,②のルール群に前向. 能確認. (4)知識ベースにおけるルールの改善.. き推論( 「もし X ならば Y をせよ」のように,推論を繰.  1990 年度までの試験利用による,本システムの実行. り返す方法)を適用し,ダムゲートを構成する部材ごと. 件数は,1987 年度ダムゲートに関して 15 件,1988 年. の定量的な情報(測定値, 解析値) の補正・信頼性のチェッ. 度ダムゲートに関して 15 件,水圧鉄管に関して 2 件,. クを行い,補正値と解析値のどちらを診断処理で用いる. 1989 年度ダムゲートに関して 15 件,1990 年度ダム. かを定める.その後,③および④のルール群に後ろ向き. ゲートに関して 15 件,水圧鉄管に関して 30 件となった.. 推論(「X という目標を満足するためになすべきことを. 1991 年 3 月末までに,上記の試験利用中に抽出された. せよ」のように,問題の分割を繰り返しながら推論を繰. 問題点を解決して,すべてのシステム開発作業を終了し,. り返す方法)を適用し,診断・寿命評価を行う.. 同年 4 月より電力分野での本格的運用に入った..  また,表 -1 のルールにあるように,本システムは 不 確 実 な 情 報 を 扱 う 方 法 と し て,Analytic Hierarchy. 電力分野と人工知能技術の過去. Process(AHP:意思決定を数値で表現する方法)を適.  1980 年代の電力分野における人工知能技術とは,知. 用し,知識の重要性を決定している.これにより,専門. 識ベースシステムそのものであったと言っても過言では. 家の経験とよく合致する推論結果を得ている. あるまい.本章で紹介した 1980 年代の電力分野におけ. 3). .. る代表的な知識ベースシステムのシステム概要を見ると, マニュアル化されるべき調査結果や現場経験を,人工知 IPSJ Magazine Vol.47 No.7 July 2006. 713. 電力分野 における人工知能技 術 の過去・現在・未来. 補修が必要.

(4) 特集. 人工知能技術 と 産業応用 図 -2 配電柱上の腕金. 腕金. 図 -3 判定用 10 段階色見本の例. 能技術である知識表現と推論を用いてシステム化してい. システム概要. ることが分かる..  中部電力(株)配電部では,配電線の架線に使用す.  また,本章で紹介したシステムで主に利用されてい. る腕金(図 -2 参照)の撤去品再利用によるコスト削減,. る知識表現であるフレーム表現(図 -1)やルール表現. および,廃棄物の削減による環境への影響の軽減を試み. (表 -1)を見ると,普通の文書で表現されており,読み. ている.現在は,腕金に発生した錆の色と錆の進行程度. やすい面があるものの,専門家の経験的知識はこんなも. との分析結果に基づき, 「再利用」 「めっき後再利用」, , 「廃. のかと感じられるのではないだろうか.一方,表 -1 に. 棄」に配電柱から撤去してきた腕金を分類している.具. 示したようなルール表現を整理した専門家らの立場から. 体的には,各腕金錆色写真の判定見本(図 -3 参照)と,. すると,自らの経験に基づく知識を表 -1 の形式にまと. 腕金上の錆の一番ひどい個所の錆色と,判定見本の色と. める労力に対し,自らは知っていることなので,あまり. を見比べることによって,人間が視覚により撤去腕金の. メリットを感じられなかったのではないだろうか.また,. 分類を行っている. 現場で実際に専門家が感じている経験と当時の知識表現. する感じ方が異なるなどの理由により,再利用判定結果. 能力にはギャップがあり,専門家は,自分の感覚的な経. が現場担当者に依存し,均質でなくなっている.中部電. 験的知識と,知識表現された知識との間に,何とも言い. 力(株)配電部と(財)電力中央研究所システム技術研. がたいギャップを感じていたのではないだろうか.. 究所では,ディジタル画像データと専門家の錆画像に対.  専門家の有する経験的知識の知識ベース化,その整理. する経験的な感覚との関係に基づいた,腕金再利用判定. の難しさなどの理由からか,1990 年代以降,電力分野. システムの研究開発に取り組んできた. 5). .専門家と現場担当者では,色に対. 6). .. において,知識ベースシステムの開発は,ほとんどなく. システムにおける人工知能技術. なった..  ここで紹介する腕金再利用判定システムでは,ディジ タル画像と専門家の錆に対する経験的な感覚との関係を,. 現在の電力分野と人工知能技術. パターン識別の一手法であるサポートベクターマシン.  最近は,ディジタル家電機器を初めとする情報化技術. (以下,SVM)で表現している.この SVM に基づく腕. が最も急激に進展した一時代であると思われる.電力. 金再利用判定システムは,学習システム部分と判定シス. 分野では,現在,この進展した情報化技術と専門家の経. テム部分より構成される.学習システムでは,腕金の錆. 験的知識,感覚とを人工知能技術によって関係付けたシ ステムの開発が目立つ.本章では,代表的な事例とし て,錆画像を用いた腕金再利用判定システム. 4). について,. 画像とその錆画像に対する「再利用」 「めっき後再利用」, , 「廃棄」の判定ラベルの組で与えられる学習データ中よ り,計算機にとって判定が難しいデータを探し出す.最. 以下で紹介し,現在の電力分野と人工知能技術との関係. 終的にはすべての学習データが,付加されている判定ラ. を概観する.. ベルの通りに判定できるという条件の下に,最も判定の 難しいデータを探し出す.たとえば,腕金の錆画像に対. 714. 47 巻 7 号 情報処理 2006 年 7 月.

(5) 識別関数. 判定の難しい画像. 再利用. 廃棄. 手法. 総合. 再利用. 再めっきor 廃棄. SVM. 99.0%. 99.0%. 99.0%. kNN. 96.5%. 96.8%. 96.4%. MLP. 96.6%. 95.4%. 97.2%. RBF. 98.1%. 98.8%. 97.2%. 表 -2 2 クラス判定精度の比較. 図 -4 SVM による識別関数の生成. 計735枚. 585枚. 総合. 再利用. 廃棄. めっき後. 97.2%. 98.4%. 96.2%. 97.0%. kNN. 91.9%. 96.8%. 88.0%. 91.0%. MLP. 92.7%. 93.2%. 92.0%. 92.8%. RBF. 96.9%. 97.2%. 95.8%. 97.6%. 表 -3 3 クラス判定精度の比較. 学習データ. 150枚. タセットを学習データとして計算機に学習させた.次に,. テスト データ. 各クラスで抽出しておいた 50 枚ずつ,計 150 枚をテス 10試行. 図 -5 判定精度評価手順. トデータとして計算機に与え,その判定精度を求めた. この試行を 10 回行い,その平均で判定精度を評価した (図 -5 参照).  表 -2,3 に判定精度の評価結果を示す.精度評価のた め,表 -2,3 には,SVM とは異なるパターン識別手法. する判定ラベルが「再利用」と「廃棄」の 2 クラス判. である k-Nearest Neighbor(kNN),階層型ニューラル. 別の場合を考える.この場合,ラベルが「再利用」にも. ネットワーク(MLP),RBF ネットワーク(RBF)の判定. かかわらず「廃棄」と判別しやすい錆画像データと,ラ. 精度も記載してある.表 -2 より錆画像と SVM によって,. ベルが「廃棄」にもかかわらず「再利用」と判別しやす. 2 クラスで 99.0%,表 -3 より 3 クラスで 97.2%の判定. い錆画像データが,判定の難しいデータとなる.. 精度が得られていることが分かる.これは,専門家の判.  図 -4 に示すように,SVM ではすべての学習データが,. 定精度に匹敵する精度であり,十分実用的な性能になっ. 付加されている判定ラベルの通りに判定できるという条. ている.. 件の下に,探し出された最も判定の難しいデータとの距.  本システムは,2004 年度に現場担当者によるフィー. 離を最大にするように,識別関数(判別基準)を決定す. ルドテストを経て,現在,実用化を検討中である.. る.計算機内では,錆画像データと判定ラベルとのセッ トから,識別関数(判別基準)を決定する.  判定システムは,学習システムで決定した識別関数を. 電力分野と人工知能技術の現在・将来. 有しており,ディジタルカメラで撮影された錆画像デー.  前々章で述べた 1980 年代の電力分野における人工知. タをこの識別関数に入力して,出力として判定ラベルを. 能技術とは,知識ベースシステムそのものであったと. 戻す.. 言っても,過言ではないだろう.しかし,前章で紹介し たシステムは,専門家の経験的な知識・感覚をフレーム. 検証結果および運用状況. 表現,ルール表現して利用するものではなく,専門家が.  中部電力(株)配電部では, 現在, 「再利用」または「廃. 通常見ている状況を計算機に持たせ,その状況と専門家. 棄」の 2 クラス判定が行われており,今後は「めっき. の判断を正確にリンクしたシステムである.このシステ. 後再利用」を含めた 3 クラス判定を導入する予定であ. ムは,1980 年代の人工知能技術に基づくシステムと異. る. そこで, 「再利用」データ 200 枚, 「めっき後再利用」. なり,専門家が通常見ている,感じている状況とその状. データ 200 枚と「廃棄」データ 200 枚を評価用データ. 況における専門家の判断との関係を,分かりやすく表現. として用意した.2 クラス判定の場合には, 「めっき後. したものではない.しかし,専門家が通常見ている,感. 再利用」データ 200 枚と「廃棄」データ 200 枚を同じ. じている状況がひとたび入力されれば,専門家と同等以. 「廃棄」のクラスとした.評価では,まず評価用データ. 上の精度の判断を計算機が高速に行う.また,1980 年. から各クラスからランダムに 50 枚を抽出し,残りのデー. 代のシステムは,専門家はそのユーザになり得なかった IPSJ Magazine Vol.47 No.7 July 2006. 715. 02. 電力分野 における人工知能技 術 の過去・現在・未来. 「再利用」 「めっき後再利用」 「廃棄」. 手法. SVM.

(6) 特集. 人工知能技術 と 産業応用. が,現在のシステムでは,専門家もそのユーザの対象と. の中で,人工知能技術は,ある状況と判断とを精度良く. なっており,専門家が経験的な知識・感覚を提供する動. 関係付けることに利用されていくことだろう.. 機付けともなっている.  1980 年代のシステムと現在のシステムとでの一番大. おわりに. きな相違は,1980 年代から現在にかけての情報化技術 の急激な発展にある.ディジタルビデオ,カメラをはじ.  本稿では,電力分野における過去,現在の人工知能技. めとする安価で精度の高い電子機器の登場と高速 PC の. 術に基づく代表的なシステムを紹介し,その相違点を述. 低価格が,専門家が経験的な知識・感覚を適用する際の. べるとともに,電力分野における人工知能技術の将来像. 状況を格段に収集,蓄積しやすくした.そのため,専門. について,私見を述べた.. 家は経験的な知識・感覚を利用する際の状況を,言葉で.  人工知能の産業応用を考えるとき,筆者は人工知能技. 記述する必要がなくなった.特に,設備の運用・保守を. 術と実用化の間には本質的なギャップというものはない. 主な仕事とする電力分野においては,その時々の設備の. と考えている. 情報を安価で,高精度に収集,蓄積できることのメリッ. の経験的な知識や感覚に基づき,その知識・感覚と同等. トは大きい.一方,発展した情報化技術の導入により,. 以上のパフォーマンスを示すのなら,その技術は人工知. 1980 年代の人工知能技術に基づくシステムに比べ,現. 能技術と呼んでよく,この考えの下では,さまざまな人. 在は実用性の高いシステムが実現できるようになったも. 工知能技術が実用化されていると考えられるからである.. のの,システムにおける人工知能技術の存在感が薄れて.  一方,電力分野は,設備運用と保守に関する専門家の. いる.. 経験的知識・感覚の蓄積,利用,検証が今後,非常に.  1980 年代と現在の人工知能技術に基づくシステムと. 重要になる.この分野の経験的な知識・感覚は,フレー. を比較したとき,もう 1 つの大きく異なる点は,開発. ム表現やルール表現のような形式的な表現が困難である. コストと利用頻度との関係である.. 場合が多い.そのため,電力分野では,特に,以下の.  1980 年代のシステム開発は,専門家が意識していな. 3 つの人工知能関連技術が重要であると考えられる.. い経験的な知識・経験をフレーム表現,ルール表現など. 1. 専門家が判断材料としている状況情報を計測,蓄積. の知識表現で整理するために,専門家に多大な労力を課 していた.そして,一度ある知識表現形式で整理された 経験的知識・感覚は,システムとしてではなく,マニュ アルとして見ることができた.言い換えれば,通常は使. 7). .なぜなら,どういう形式であれ,人間. する情報技術.. 2. ある状況と,その状況下での専門家の判断を正確に 関連付けるパターン識別などの技術.. 3. 蓄積された状況情報とその状況下での判断の組から. われず,いざという際に紐解く情報としての要素が強く,. 判断に至る過程を抽出するデータマイニングなどの. 使用頻度は決して高いものではなかった.一方,現在の. 技術.. システム開発では,専門家は各状況において,自分の判.  今後は,電力分野,特に,電力設備の保守業務におい. 断を示すだけの,通常の作業と同等の労力をかけるだけ. て,上記 3 つの技術が融合したかたちで,人工知能技. ですむ.また,通常作業をシステム化するため,利用頻. 術の実用化が図られていくと推測される.. 度が高い.  電力分野は,設備運用と保守が要となる分野である. この分野の専門家の知識は,設備そのものの知識という より,長年の設備運用と保守の繰り返しで得られた経験 的知識・感覚が重要となる.この種の経験的知識・感覚 は,知識として記述することは困難であるが,ある状況 とその状況下での判断という一対の組で,経験的知識を 蓄積することは可能である.  1980 年代の人工知能技術は知識表現に重きを置く傾 向があり,現在の人工知能技術は専門家の判断精度を計 算機上に実現するといった傾向がある.このことと,繰 り返し作業で得られる設備運用と保守に関する電力分野 の経験的知識・感覚の特徴を考えると,これからしばら くは,「ある状況とその状況下での判断という一対の組」 での知識の蓄積,利用が行われていくと考えられる.そ. 716. 47 巻 7 号 情報処理 2006 年 7 月. 参考文献 1)坂内広蔵,小野田崇:電力産業と AI,人工知能学会誌,Vol.8, No.6, pp.42-49 (1993). 2)中村秀治,松浦真一,寺野隆雄,篠原靖志:水力鋼構造物の寿命 予測エキスパートシステムとその適用,土木論文集,No.374・I-6, pp.513-521 (1986). 3)寺野隆雄,篠原靖志,松井正一,中村秀治,松浦真一:ダムゲート 診断エキスパート・システムと AHP,オペレーションズ・リサーチ, Vol. 31, No. 8, pp.500-504 (1986). 4)山名美智子,村田博士,小野田崇,大橋 徹,加藤誠二:パターン 識別手法を用いた錆画像による腕金再利用判定法の性能評価,平成 16 年電気学会 電子・情報・システム部門大会特集号,pp.1049-1054 (2005). 5)大橋 徹:配電用架線金物類の再利用技術,中部電力技術開発ニュ ース 110 号 (2004). 6)山名美智子,村田博士,小野田崇,大橋 徹,加藤誠二:パターン 識別手法を用いた錆画像による腕金再利用判定の精度向上,平成 17 年度電気学会 電子・情報・システム部門大会予稿集 (2005) 7)小野田崇:AI 技術と実用化のギャップ,人工知能学事典,人工知能 学会編,785p. (2005). (平成 18 年 6 月 5 日受付).

(7)

参照

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