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Academic year: 2021

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近年の複雑な天然有機分子の構築(天然物の合成)における際 立った特徴は,その斬新かつ合理的な合成戦略にあるといえるであ ろう.一般に複雑な化合物を合成しようとするとき,まず目的に そった合成経路についてさまざまな角度から逆合成解析を行い,そ れによって考えられる経路はできるだけ単純で,一般化しうるもの であることが望まれる.そしてもちろんのことであるが,実行に移 しうる反応の裏づけがなければならない.しかし,往々にしてすで に知られている反応にのみ頼ったのでは適切な経路のデザインが困 難なことが多い.そのときは新たに目的に沿った新しい反応を開拓 する必要がある.この本は主として有機化学の基礎をすでに学んだ 学部学生諸君や大学院生が天然物合成について興味をもつようにな ることを期待し,いくつかの歴史的な天然物合成例からなる入門書 を意図して書き下ろした.今日の天然物合成の研究には目を見張る ものがある.これら最前線の研究についてはすでに多くの優れた成 書がある.本書を読むことによって,今日までの天然物合成がいか に進展してきたのかその価値を知り理解が深まる一助になることを 願っている. 本書ではいまや膨大な数にのぼる天然物全合成のなかから,エ ポックメイキングな合成(独創的な全合成)のいくつかを取り上げ る.天然物の構造決定,とくに絶対構造の確証,すなわち,立体特 異的あるいは立体選択的(p.9 の用語解説参照)に合成した化合物 が天然物と同一であることを明らかにすることにより,初めて天然 物の絶対構造を確証する.天才 R. B. Woodward は 20 世紀中盤の 化学の要点シリーズ 【26】巻 天然有機分子の構築―全合成の魅力― 日本化学会 編・中川 昌子・有澤 光弘著 http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320044678

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有機化学界を一人で牽引してきたといっても過言ではないであろ う.のちに述べるように,非常に多くの天然物が Woodward によっ て全合成されている.いずれも緻密な合成計画や戦略に基づいてお り,それぞれ新しい反応や方法論を含んでいる.その合成は芸術的 な美しさを感じさせるとさえいわれている. 本書ではまず序章で天然物合成の歴史を,第 1 章で Woodward の数々の天然物全合成のなかから,多数の不斉点をもつレセルピン の全合成を取り上げ,それらの不斉点をいかに完全に制御し,立体 選択的に合成したのか Woodward の考案した新しい概念(立体選 択的合成)を学ぶことにする.今日では当たり前のように思われて いる概念であるが. 続く第 2 章では現代の合成化学においては不可欠な E. J. Corey による逆合成解析について方法論の概略を学び,簡単な天然物合成 例を紹介する.その後の天然物合成がいかに進展してきたのかを見 るのに,今や膨大な天然物合成例からいくつかを選択するのは容易 ではない.そこで第 3 章ではインドールアルカロイドのストリキ ニーネを取り上げ,その全合成の変遷を眺めることによって,全合 成という学問の歴史と進歩を俯瞰することにしよう.新反応の開発 がいかに天然物の全合成に反映されているか,とくに 20 世紀後半 に爆発的な進展をみせた有機金属反応がいかに巧みに全合成に導入 されたのか,いくつかの例を紹介する. 第 4 章では天然物全合成がいかに医薬品創製に重要でありかつ 貢献してきたのかを述べたい.今や新しい医薬品を開発し世に送り 出すためには,膨大な経費と長い年月を要する.近年日本発の大型 医薬品は次々と特許切れになり,その多くがジェネリック医薬品に 置き換わりつつある.またワクチンや抗体医薬品など海外発の医薬 品輸入が増え,日本の医薬品産業は輸入超過の状況にあるといわれ vi はじめに 化学の要点シリーズ 【26】巻 天然有機分子の構築―全合成の魅力― 日本化学会 編・中川 昌子・有澤 光弘著 http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320044678

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ている.しかし,このように時代が変わっても,生物活性化合物を 合成する価値は変わらない. なお,本書では構造式中の および は相対構造を, および は絶対構造を示す. 本書を読んで天然有機分子合成(構築)の意義と重要性さらには 面白さの一端を知り,生命科学研究に興味をもち関わってみたいと 思われることを願っている.天然物の合成は膨大な数となっている 今日では,すべてを網羅することは本書では限りがある.さらに詳 しく知りたい方々は以下の文献を参考にしていただきたい. 大倉一郎ほか,『天然有機化合物の全合成』,日本化学会 編,化 学同人(2018). 田中克典,現代化学,10,34―39(2017). 井澤邦輔,林 雄二郎,福山 透,『医薬品の合成戦略』,有機合成 化学協会 編,化学同人(2015). はじめに vii 化学の要点シリーズ 【26】巻 天然有機分子の構築―全合成の魅力― 日本化学会 編・中川 昌子・有澤 光弘著 http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320044678

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