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PDF作成用 A5/表紙①③④など A5

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(1)

地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

著者

津田 和之

雑誌名

法と政治

72

1

ページ

239(239)-291(291)

発行年

2021-05-31

URL

http://hdl.handle.net/10236/00029739

(2)

地方公務員による飲酒運転と

懲戒処分について

目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 飲酒運転に対する規制や刑罰などについて 1 飲酒運転とその危険性などについて 2 飲酒運転に対する道交法の規制及び罰則とその推移 Ⅲ 地方公務員に対する懲戒処分と処分指針について 1 懲戒処分の種類と事由について 2 懲戒権者の裁量と処分指針 3 飲酒運転において考慮されるべき個別事情 Ⅳ 飲酒運転に対する懲戒処分を巡る自治体や裁判例の動向について 1 2006年8月の福岡市職員事件以前 2 2006年8月の福岡市職員事件から2009年9月の加西市職員最高裁 判決まで 3 2009年9月の加西市職員最高裁判決以後 4 まとめ Ⅴ おわりに Ⅰ は じ め に 2006年8月25日に,福岡市職員の飲酒運転による交通事故(以下「福 岡市職員事件」という。)によって3人の幼児の命が奪われるという痛ま しい事件が発生した。この事件を契機に,飲酒運転に対する社会的非難が 高まり,飲酒運転をした公務員に対する厳しい処分を求める声が全国的に 拡がった。 論 説

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このような流れを受けて,道路交通法(以下「道交法」という。)の改 正による飲酒運転に対する厳罰化が行われるとともに,全国の多くの自治 体において,飲酒運転をした公務員は,原則一律懲戒免職とするなど,従 来の懲戒処分の指針(以下「処分指針」という。)が処分を重くする方向 で見直されることとなった。 確かに,飲酒運転自体が住民の生命や財産を脅かす重大な事故に繋がり かねない危険性のある行為であり,公務員にとって重大な非違行為である ことは否定できない。ただ,他方で,飲酒運転といっても,事故(人身, 物損)を伴う場合,他に交通法規の違反を伴う場合,事故自体発生しな かった場合,前日のアルコールが残っていた場合(いわゆる「二日酔い事 案」)などがあり,事案によりその悪質性に差があることも事実である。 また,飲酒運転について一律に免職処分とすることは,法定制限速度を 50km 超える速度違反や死亡又は重傷の人身事故など飲酒運転以外の交通 法規の違反と比較しても,処分内容として重きに失するのではないかとい う批判もあった。 こうした中で,2009年9月19日の最高裁判決(判例集未搭載)におい て,兵庫県加西市職員の飲酒運転に対する免職処分の取消しが確定(以下 「加西市職員最高裁判決」という。)して以降,過去に処分歴がなく,一切 の事故を発生していない飲酒運転については,裁判所において免職処分を 取消す判断が相次いで出されている。 このような動きを受けて,全国の多くの自治体においては,人身事故又 は物損事故を起こしたか否かで量刑に軽重の差を付けるなど,一律に免職 とする処分指針を再度見直す動きが拡がるなど,飲酒運転をした公務員に 対する懲戒処分のあり方が改めて問われている。 そこで,本稿においては,まず飲酒運転に関する交通法規やそれに伴う 刑罰などを踏まえたうえで,地方公務員に対する懲戒処分の制度,公務員 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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の飲酒運転における懲戒処分に関する判断の枠組みや考慮要素などを検討 し,飲酒運転を理由とする懲戒処分に関する裁判例や自治体の状況につい て,2006年以前,2006年から2009年,2009年以降の3つに分けて分析を行 い,あるべき量定のあり方などについて検討を行うこととする。そして, このような検討が,行政法学で論じられている問題(裁量基準と個別的審 査義務をめぐる問題)にも一定の示唆を与えることができるのではないか と考えている。 なお,公立学校の教員は,教育者という立場や職務内容などから,一般 の地方公務員とは異なる面が多いため,本稿では,教員を除く一般の地方 公務員を対象として検討を行うこととする。 Ⅱ 飲酒運転に対する規制や刑罰などについて 1 飲酒運転とその危険性などについて 飲酒運転に対する規制を検討する前提として,飲酒運転の定義やその危 険性について確認しておこう。 飲酒運転とは,飲酒後にそのアルコールの影響がある状態で自動車など の車両を運転する行為をいうと定義することができる。 アルコールには麻痺作用があり,一般に「酔う」とは,血中のアルコー ル濃度が高くなることにより,大脳皮質(理性や判断をつかさどる部分) の活動をコントロールしている大脳下部の「網様体」が麻痺した状態を言 う。 酒に酔うと,顔が赤くなる,多弁になる,視力が低下するなどの変化が 現れ始め,さらに知覚や運転能力をつかさどる部分が抑制されることによ り,同じ話を繰り返したり,足元がふらついたりする。 このように,飲酒時には,安全運転に必要な情報処理能力,注意力,判 断力などが低下している状態になる。具体的には,「気が大きくなり速度 論 説

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超過などの危険な運転をする」,「車間距離の判断を誤る」,「危険の察知が 遅れたり,危険を察知してからブレーキペダルを踏むまでの時間が長くな る」など,飲酒運転は交通事故に結びつく危険性を高めるとされてい(1)る。 飲酒運転による死亡事故数は,2004年までは,年間1000件を超えていた が,刑罰の強化などにより,年々減少する傾向にあり,2019年には176件 となっている。 なお,警察庁の調査では,飲酒運転の死亡事故率(死亡事故率=死亡事 故件数÷交通事故件数×100%)は,飲酒なしの場合と比較して約7.9倍と 極めて高く,飲酒運転による交通事故は死亡事故につながる危険性が高い とされてい(2)る。 また,飲酒をした場合,酔いが醒めるまでには,一定の時間がかかる。 具体的には,体重約 60kg の成人男性で, 1 単位(ビール中びん 1 本,日 本酒 1 合,焼酎0.6合)のアルコールが体内から消えるまでに約3~4時 間かかるとされている。2単位では,約6~7時間,3単位では,約9~ 10時間,4単位では,約12~13時間かかるとされてい(3)る。 したがって,前日の夜10時ごろまで飲酒して,3単位(ビール中びん 3本程度)のアルコールが体内に残っている場合,翌日の午前7時~8 時頃まではアルコールが身体から抜けていないことになる。 そのため,飲酒した翌日の朝に,飲酒運転により検挙されるケースがあ るが,このような二日酔いのケースでは,本人には,飲酒運転の自覚がな いことが多いという問題がある。 (1) 警察庁 HP(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html) (2) 警察庁 HP(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html) (3) 公益社団法人アルコール健康医学協会 HP(http://www.arukenkyo.or. jp/health/prevention/index.html) 本文中の数値は,あくまでも目安であり,体格,体質,性別で異なる。 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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2 飲酒運転に対する道交法の規制及び罰則とその推移 道路交通法(以下「道交法」という。)は,飲酒運転について,「酒気帯 び運転」と「酒酔い運転」に分けたうえで,規制を行っている。 すなわち,前者は,基準値以上のアルコールを保有する状態で車両を運 転した者をいい(道交法117条の2の2第3号),後者は,基準値以上の アルコールを保有する状態で車両を運転した者で,その運転した場合にお いてアルコールの影響により正常な運転ができない状態にあったものとさ れている(道交法117条の2第1号)。 このように,「酒酔い運転」は,アルコールの影響により,まっすぐに 歩けない,受け答えがおかしいなど,客観的に見て酔っており,正常な運 転ができない状態であり,身体に残っているアルコールの量とは関係はな い。 そして,「酒気帯び運転」よりも,「酒酔い運転」の方が,事故の危険性 が高いことなどから,道交法は,前者と比較して後者を重く罰している。 なお,公務員の飲酒運転に対する懲戒処分においても,同様の理由で, 「酒気帯び運転」と比較して,「酒酔い運転」の方が,より厳しい処分が下 される傾向にある。 次に,道交法の飲酒運転に対する規制及び罰則は,飲酒運転の増加とと もに,その根絶を目指して,段々と強化されてきたという経過がある。 すなわち,1960年の道交法の制定当初は,飲酒運転について,基準値以 上のアルコール(呼気1リットル中のアルコール量が0.25ミリグラム) (以下において,ミリグラムは,呼気1リットル中のアルコール量を指 す。)を保有する場合に運転を禁止する規定はあったものの,酒酔い運転 以外は違反した場合の罰則の規定はなかった。 その後,1970年に,上記の基準値に関係なく,飲酒運転は全面的に禁止 される(道交法65条1項)とともに,0.25ミリグラム以上の場合には,以 論 説

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下のとおり罰則など科されることとなった。 2002年に,飲酒運転による事故の増加などに伴い,罰則の対象が0.25ミ リグラムから0.15ミリグラムまで引き下げられるとともに,罰則自体も強 化された。 その後,2007年には,福岡市職員事件を受けて罰則が強化されるととも に,2009年にも違反点数が引き上げられるなど規制が一層強化されている。 なお,2009年以降の飲酒運転の違反点数や罰則は,以下のとおりである。 Ⅲ 地方公務員に対する懲戒処分と処分指針について 1 懲戒処分の種類と事由について (1)懲戒処分の種類について 懲戒処分とは,勤務関係の秩序維持のため公務員の個別の行為に対しそ の責任を追及し,公務員に制裁を課すものであ(4)る。 内 容 行政処分 罰則 酒酔い運転 15点 2月以下の懲役または10万円以下の罰金 酒気帯び運転 6点 3月以下の懲役または5万円以下の罰金 内 容 行政処分 罰則 酒酔い運転 35点 免許取消し3年間 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 酒気帯び運転 (0.25ミリグラム以上) 25点 免許取消し2年間 3月以下の懲役または50万円以下の罰金 酒気帯び運転 (0.15以上~ 0.25ミリグラム未満) 13点 免停60日間 3月以下の懲役または50万円以下の罰金 (4) 塩野宏「行政法Ⅲ(第4版)」(有斐閣)334頁 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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地方公務員法(以下「地公法」という。)29条1項には,懲戒処分とし て,戒告,減給,停職,免職の4種類が規定されている。 このうち,戒告は,職員の規律違反の責任を確認し,その将来を戒める 処分である。 減給は一定期間,職員の給料の一定割合を減額して支給する処分であ(5)る。 停職は,職員を懲罰として,一定期間,職務に従事させない処分であり, この期間中は給与が支給されな(6)い。 免職は,懲戒処分として,職員の身分を剥奪し,公務員関係から排除す るものである。免職を受けた場合,処分の日から2年間は当該地方公共 団体の職員となることができない(地公法16条2号)ほか,各自治体の 条例の定めにより,当該職員に対する退職手当が全額不支給となるケース が多く,退職年金も一部支給制限を受けるなどの不利益を被ることとなる。 そして,免職処分については,被処分者である職員にとって著しい不名 誉となる上,公務員たる地位を失わせて以後の収入を閉ざす,極めて重大 な結果を与えるものであるため,懲戒権者は,免職処分を選択するに当 たっては,他の懲戒処分に比して特に慎重な配慮を要するとされてい(7)る。 (2)懲戒処分の事由について 地公法29条1項には,1号から3号までの懲戒事由が定められており, 懲戒処分を行うためには,これらの各事由のいずれかに該当すること,す (5) 減給の期間や額は,条例で,「6月以下の期間,給料の月額の10分の 1以下に相当する額を給料から減じる」という定めを置いている自治体が 多い(地公法29条4項)。 (6) 停職の期間は,条例で,「停職の期間は,6月以下とする。」という定 めを置いている自治体が多い(地公法29条4項)。 (7) 福岡地判平成26年11月12日判例秘書登載,神戸地判平成25年1月29日 労判1070号58頁,水戸地判平成24年11月29日判例秘書登載など 論 説

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なわち,それぞれの結果が発生したことが必要であり,また,その結果の 発生について職員に主観的要件,すなわち,故意または過失があったこと が必要であ(8)る。 懲戒処分の事由として,まず,地公法29条1項1号は,「この法律…又 はこれに基づく条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の 定める規定に反した場合」と規定している。これは,いわゆる法令違反を 懲戒事由しているのであるが,具体的には,地公法第3章第6節に定め られている服務に関する規程やそれに基づく条例・規則等に違反した場合 を指す。 また,地公法は,32条で職員が職務の遂行に当たり,各種の法令に従わ なければならないことを規定しているので,地公法以外の法律であっても 職務の遂行に関する法令に違反した場合には,結局は,ここでいう地公法 に違反したこととなる。 次に,地公法29条1項2号は,「職務上の義務に違反し,又は職務を 怠った場合」について規定している。職務上の義務又は職務は,法令又は 上司の命令によって定められているので,職務上の義務違反は常に地公法 32条にも違反することとなる。 したがって,職務上の義務違反は,常に1号の法令違反の事由にも該 当することとなる。もっとも,これに対しては,2号に該当する場合が すべて1号に該当するとすれば2号を置いた意味がないとして,職務に 関する法令違反行為(例えば地公法36条)は2号,それ以外は1号とす る見解もあ(9)る。 また,地公法29条1項3号は,「全体の奉仕者たるにふさわしくない非 (8) 橋本勇「新版 逐条地方公務員法(第4次改訂版)」(学陽書房)628~ 629頁 (9) 中村博「公務員懲戒法」(日本評論社)108頁 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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行のあつた場合」と規定している。これは,憲法15条2項から導かれる 「全体の奉仕者」という公務員の理念ないし本質に反する非行を懲戒事由 として規定したものである。 そして,職員が全体の奉仕者としてふさわしくない非行を行ったときは, それは地公法33条の信用失墜行為の禁止の規定にもふれることとなるの で,この事由に該当するときは同時に1号の事由にも該当することとな る。なお,何が非行であるかは健全な社会通念によって客観的に判断され ることになるが,全体の奉仕者としての公務員にふさわしくない行為であ る限り,必ずしも違法な行為に限定されないとされている。 (3)飲酒運転事案について 飲酒運転の多くは,職務遂行とは関わりのない私生活上の行為である。 しかし,私生活上の行為であっても,飲酒運転は,「その職の信用を傷つ け,又は職員の職全体の不名誉となるような行為」として地公法33条違 反となり,地公法29条1項1号に該当する行為である。 また,同時に,飲酒運転は,それ自体が反社会的で,住民の生命や財産 を脅かす重大な事故に繋がりかねない危険性のあることなどから,「全体 の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」(地公法29条1項3 号)に該当する行為である。 2 懲戒権者の裁量と処分指針 (1)懲戒処分と懲戒権者の裁量 地公法は,公務員の懲戒処分に関しては,29条1項において懲戒処分 の種類や懲戒事由について規定しているが,どのような非違行為に対しど のような懲戒処分をすべきかについては,27条1項が,すべての職員の 懲戒について「公正でなければならない」(公正原則)と規定し,13条が, 論 説

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すべての国民は,この法律の適用について,「平等に取り扱われなければ ならない」(平等原則)と規定するほかは,何ら具体的な基準を定めてい ない。 このような地公法の規定を受けて,懲戒権者である地方公共団体の長は, 懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を 選択すべきかについての裁量権を有していると解される。 この点,判例においても,「懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認めら れる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の 上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の 公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべ きかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを 決定する裁量権を有している。」とされている(最判平成24年1月16日・ 民事239号253頁)。 そして,地方公務員の懲戒処分が争われた多くの裁判例では,上記判例 に続けて,「もっとも,その裁量も全くの自由裁量ではないのであって, 決定された懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であるとか,著 しく不平等であって,裁量権を濫用したと認められる場合,公正原則,平 等原則に抵触するものとして違法となると解される。」(大阪高判平成21 年4月24日労判983号88頁など)としている。 (2)懲戒権者の裁量と処分指針 ア 処分指針の趣旨と法的位置づけ 地公法上,公務員の懲戒処分について,懲戒権者において,どのような 非違行為に対しどのような懲戒処分をすべきかについては,一定の裁量権 が認められている中で,多くの自治体においては,懲戒処分の対象となる べき事由を類型化して類型毎にいかなる処分の対象とするかを定めた処分 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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指針を定めている。 この処分指針は,裁量権行使の内部基準,すなわち裁量基準であるので, 行政規則としての性格を備えたものである。そして,その設定には法律上 の根拠を必要とはしない反面,あくまで行政内部の基準であるので,法規 としての性格は持たない。 また,公務員に対する懲戒処分は,行政手続法(以下「行手法」という。) が適用されないとはいえ(同法3条1項9号),その性格上,同法に定め る不利益処分であり,処分指針は,同法12条の処分基準と共通の性格を 有するものといえる。 このような処分指針を定めて公表することは,公正かつ平等な取扱いな どの適正手続きの観点,被処分者の権利保護のほか,懲戒権者及び職員の 双方にとって予測可能性が高まるとともに,住民に対する説明責任という 観点からも望ましいものといえる。 イ 処分指針の定め方と内容について 公務員の懲戒処分に関する処分指針の定め方は,各都道府県の処分指針 を見ると,以下の2つのタイプに大きく分けることができ(10)る。 処分指針は,その定め方により,同じ飲酒運転は免職とするという定め であったとしても,個別の事情を考慮して停職などに処分を軽減する余地 があるかどうかなどの差異があるため,タイプに分けて分析することには 一定の意義がある。 まず,一つ目のタイプは,「職員の懲戒処分に関する指針」などの名称 を付けた規定を策定して,懲戒処分の量定にあたっての基本的な考え方 (考慮すべき個別の事情など)を示したうえで,想定されうる職員の非違 (10) 安藤高行「判例にみる公務員・教員の飲酒運転と懲戒免職処分(最終 回)」判例自治381号106頁 論 説

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行為のすべてについて標準量定を定め,飲酒運転もこうした非違行為の一 つとして挙げ,免職や停職という標準量定を定めるもの(以下「Aタイプ」 という。)である。 次に,もう一つのタイプは,「職員の飲酒運転に係る懲戒処分の基準」, 「交通事故を起こした職員の懲戒処分等の基準」等の名称を付けた飲酒運 転や交通事故に特化した規定を策定して,飲酒運転についての標準量定を 定めるもの(以下「Bタイプ」という。)である。 なお,Bタイプは,2006年の福岡市職員事件の後,全国的に,公務員の 飲酒運転に対する厳しい処分が求められる中で,従来からあった懲戒処分 の指針(Aタイプ)とは別に,新たに飲酒運転や交通事故に特化した規定 として策定されたものが多い。 全国の都道府県について,Aタイプが23都道府県,Bタイプが22県と, ほぼ同数である(資料3参照)。なお,人事院の定める国家公務員及び警 察庁の定める警察職員の処分指針は,いずれもAタイプである。 そして,AタイプとBタイプの違いとしては,Aタイプは,懲戒処分の 量定にあたっての基本的な考え方として,考慮すべき個別の事情を挙げて おり,標準量定はそれらの事情により,加重ないし軽減されることがある と定められていることが多い。 これに対して,Bタイプでは,人身又は物損事故の有無などで量定が区 別されているものもあるが,基本的には,一律に量定が定められており, 個別の事情が反映される余地が少ない定型的なものであることが多い。 ただ,Aタイプにおいても,一部の自治体においては,飲酒運転を一律 免職とする標準量定の定めは,通常予想される個別の事情をすべて考慮の うえ,定められたものであるとして,標準量定を機械的に適用するという 運用を行っているケースが見受けられる。このような運用が行われる場合 は,AタイプとBタイプの実質的な差異はなくなることとなる。 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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ウ 処分指針の定めに従った処分は適法といえるのか 懲戒権者は,自らが処分指針を定めて公表した以上,基本的にはその定 めに従った処分をすることが要請されるが,上記のとおり,処分指針は, 行政内部の裁量の基準に過ぎないものであるから,それに従った処分を 行ったからといって,その懲戒処分が,裁判所において直ちに適法と判断 されるという関係にはない。 この点について,最近の学説では,行手法12条の裁量基準である処分 基準が設定・公表されている場合には,そのような裁量基準は,関係者に 対して行政処分の予測可能性を与え,行政活動の恣意・独断を防ぐことに 役立つなど,裁量の法的統制手段として有効である。そのため,裁量基準 が,行政庁に与えられた裁量の範囲内で定められた合理的なものであれば, 原則として,裁量基準に従ってなされた行政処分は適法である。しかし, 裁量基準が合理性を欠く場合には,裁量基準に従ってなされた行政処分も 違法となると解されてい(11)る。 そして,公務員の懲戒処分に関する裁判例においては,「本件(処分)指 針は,懲戒処分の公正・平等を保持する目的で定められたものであるが, あくまでも行政組織内の規範ではあって,ある具体的な懲戒処分が違法か どうかの司法判断の基準ではない。したがって,懲戒処分の適否の判断は, …本件指針における酒気帯び運転の標準量定の当否の判断を通じて行うの ではないから,本判決においては,その点の当否は判断しない。」(神戸地 判平成20年10月8日・労判974号44頁(資料1(末尾参照)の「1」事件), 神戸地判平成20年11月26日・判例秘書登載(資料1の「3」の事件など) として,その適否などを審査しないとするものもある。 ただ,多くの裁判例は,上記の学説の同じ立場に立って,裁量基準であ (11) 曽和俊文「行政法総論を学ぶ」(有斐閣)212頁 論 説

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る処分指針が設定・公表され,かつ,懲戒権者がその定めに従って処分を した場合には,裁判所の審査は,まず,処分指針の定めに不合理な点があ るかどうかについてなされている(大阪高判平21年4月24日・労判983号 88頁(資料1の「1」事件),大阪高判平成21年12月3日・判例集未登載 (資料1の「2」事件)など)。 この立場に立てば,処分指針は,その定めの内容が,懲戒権者に与えら れた裁量の範囲内で定められた合理的なものであれば,原則としてそれに 従ってなされた懲戒処分も適法であるが,その定めの内容が合理性を欠く 場合には,それに従ってなされた懲戒処分も違法となるものと位置づけら れる。 では,次に,飲酒運転は,一律に免職処分とする処分指針が定められて いる場合に,このような処分指針の定めは,合理的なものであるといえる のであろうか。 この点について,人身又は物損事故の有無などの個別の事情を一切考慮 することなく,一律に免職処分とする処分指針の定めは,硬直的に過ぎる ものであり,合理性を欠くとも十分に考えられる。 しかし,飲酒運転を一律に免職とする処分指針の定めに関して,大阪高 裁(資料1の「18」の事件)は,「…事故等の重大な結果が発生しなくて も,飲酒運転行為自体に一定の強い非難に値するものであり,これに対し て厳罰をもって臨むことには,一定の合理性があるとしたうえで,処分指 針の定めは,標準的な処分量定を掲げたものであり,個別の事案の内容に よって,標準量定以外の処分とすることもある」と判断している(大阪高 判平成21年4月24日労判983号88頁)。 また,飲酒運転は停職又は免職処分とするとしたうえで,停職は,二日 酔いの場合に限定するという処分基準の定めをしている場合において,鳥 取地裁(資料1の「18」の事件)は,処分指針の定めは,「二日酔い事案 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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と同程度に,事案としての悪質性があるとは認め難い場合には,懲戒処分 として停職を選択すべきものと解することができる」として,処分指針の 定めには不合理な点はないと判断している(鳥取地判平成29年1月20日・ 判例秘書)。 このように,裁判所は,一律に免職処分などとする処分指針の定めにつ いて,あくまでも原則を定めたものであると捉えて,個別の事案の内容に よって,それにより難い「特段の事情」がある場合(言い換えれば,いわ ゆる「個別的審査義務」が必要とされる場合)には,停職処分を選択する ことができるものと解釈することにより,処分指針の定め自体には合理性 があるとしている。なお,処分指針がAタイプの場合は,標準量定は,原 則を定めたものとして個別の事情を考慮するという上記の解釈になじみや すいだろう。 裁判所がこのような解釈を行う背景には,飲酒運転に対する処分指針に 関しては,事故(人身,物損)の有無,動機・態様や発覚後の態度,過去 の勤務状況や処分歴など,処分量定を選択する際に考慮すべき個別事情が 多く存在するにもかかわらず,これらを一切捨象して,一律に規定するこ とが難しいという面があるとともに,懲戒権者の定めた処分基準を不合理 なものと排斥することにより,処分基準が不存在となってしまう事態を避 けようとする意図があるものと思われる。 このような立場に立てば,裁量基準を機械的に適用すると妥当性を欠く 場合に求められる個別的審査義務は,裁量基準の定めと対立関係にあるも のではなく,元々,裁量基準の定めの中に,内在しているものと解するこ ともできるだろう。 エ 処分指針の定めと異なる処分をすることについて 裁量基準である処分指針が設定・公表されている場合に,裁量権を有す 論 説

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る懲戒権者が処分指針の定めと異なる処分をすることが許されるかという 問題がある。 この点については,過去の判例では,裁量基準は,あくまでも裁量権行 使の内部基準に過ぎないものであるから,処分がこれに違背して行われた としても,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,当然に違法にな るものでないとするものもあ(12)る。 これに対して,最近の学説では,行手法12条の裁量基準である処分基 準が設定・公表されている場合には,通常は,裁量基準に従って行政処分 が行われる。したがって,特段の事情なく裁量基準に従わない行政処分は, 平等原則あるいは相手方の信頼保護の原則からみて,違法性の推定を受け るものとされてい(13)る。 また,判例では,行政庁が,自ら定めて公表した処分基準の定めと異な る処分を行った場合に,「行手法12条1項に基づいて定められ公にされて いる処分基準は,単に行政庁の行政運営上の便宜のためにとどまらず,不 利益処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し,その相手方の権利利益 の保護に資するために定められ公にされるものというべきである。した がって,行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において, …当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば,裁量権の行使におけ る公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等 の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認め るべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又 (12) 最大判昭和53年10月4日(民集32巻7号1223頁)。ただ,この最高裁 判決は,外国人の出入国に関する特殊な事件であるとともに,かなり以前 の判例であるので,現在において,どの程度,先例的な価値があるかは疑 問がある。 (13) 曽和俊文「行政法総論を学ぶ」(有斐閣)212頁 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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はその濫用に当たることとなるものと解され,この意味において,当該行 政庁の…処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきこと がき束されている」としている(最高裁平成27年3月3日判決・民集69 巻2号143頁)。 この判例は,裁量基準による「き束」を明言した初めての最高裁判決で あり極めて注目され(14)る。なお,以下では,この裁量基準による「き束」を 「裁量基準の自己拘束性」と呼ぶこととする。 なお,この判例は,行手法12条1項に基づいて行政庁が定めて公表し た処分基準に関するものであり,地方公務員に対する懲戒処分は,行手法 が適用除外とされていることから(同法3条1項9号),この判例の射程 は及ばないとも考えられる。しかし,懲戒権者が自ら定めて公表した懲戒 処分の処分指針は,行手法12条の不利益処分の処分基準と共通する性格 を有するものであることから,上記判例の趣旨は,処分指針にも十分に当 てはまるものであると認められる。 そして,この判例の指摘する裁量基準の自己拘束性を論ずるにあたって は,不利益処分の相手方である被処分者の権利保護の観点から,処分基準 よりも重い処分の行った場合と,軽い処分を行った場合に分けて論ずるこ とが有益かつ必要であると考える。 そこで,以下においては,処分指針が設定・公表されている場合に,裁 量権を有する懲戒権者が処分指針から離れた処分をすることが許されるか という問題について,懲戒権者が,処分指針の定めよりも,重い処分を 行った場合と処分指針の定めよりも,軽い処分を行った場合に分けて検討 することとする。 (14) 中原茂樹「基本行政法(第3版)」(日本評論社)158頁 論 説

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(ⅰ)処分指針より重い処分を行った場合 この場合に,懲戒処分が不利益処分であることを考慮すると,上記判例 の趣旨がそのまま当てはまり,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱 いの要請や指針の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,処分指針 の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限 り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると解す るべきであると考える。 そして,非違行為の内容に応じて点数を付けて,一定の基準点に達した 場合に免職処分をするという処分指針を定めていた事案(資料1の「20」 事件)において,仙台高裁(平成29年11月29日・判例秘書搭載)は,「本 件基準の懲戒免職処分の基準点に達せず,それにもかかわらず本件懲戒免 職処分がなされた場合には,本件基準が被控訴人自らが懲戒処分の公平を 図るために定めた基準であることに照らし,原則として,裁量権を逸脱ま たはこれを濫用したことを強く推認させる事情になるというべきである。」 としており,これは上記と同様の立場に立つものといえるだろう。 なお,上記の「特段の事情」は,懲戒処分が職員に対する不利益処分で あり,処分の相手方である職員の信頼保護や適正手続の観点からは,通常 想定できないような極めて例外的な事情があると認められる場合に限られ ると解するべきであろう。 この点,公務員の飲酒運転に対する社会的な批判の急速な高まりによる 情勢の変化が急速で指針の改正が間に合わなかったのであれば,応急的に 指針の定めと異なる取扱いをすることには,相当と認める「特段の事情」 に当たると解されるとする立場があ(15)る。 しかし,飲酒運転が反社会的な行為であり,住民の生命や財産を脅かす (15) 中原茂樹「基本行政法(第3版)」(日本評論社)158頁 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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重大な事故に繋がりかねない危険性のあることは従前と変化はないことな どを考えると,社会的な批判の急速な高まりによる情勢の変化は,通常想 定できないような事情とは言えず,「特段の事情」には該当しないものと 認められる。 (ⅱ)処分指針の定めよりも,軽い処分を行った場合 この場合に,懲戒処分が職員に対する不利益処分であり,処分の相手方 である職員の信頼保護や適正手続の観点などの問題は生じないと考えられ る。 したがって,処分指針の定めよりも軽い処分を行った場合には,住民に 対する説明責任という問題はあるものの,それ自体が裁量権の範囲の逸脱 又はその濫用に当たることはないものと認められる。 (ⅲ)まとめ 以上によれば,懲戒権者が予め設定・公表した処分指針の定めと異なる 懲戒処分を行うことは,懲戒処分が職員に対する不利益処分であり,処分 の相手方である職員の信頼保護や適正手続の観点などの点から,処分指針 の定めよりも,重い処分をすることは許されない一方で,軽い処分をする ことは当不当の問題は別にして,違法とされる余地はないものと認められ る。 そして,このような考え方に立つと,最高裁平成27年判決は,行手法12 条により設定・公表した不利益処分に関する処分基準の定めに関して,利 益処分の相手方である被処分者の権利保護や適正手続の観点から,その定 めよりも重い処分を行う場合には,裁量基準により「き束」されること, すなわち,「裁量権の自己拘束性」が認められることを述べたものであり, その射程は,必ずしも,行政庁の裁量権の行使全般に及ぶものではないと 論 説

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解することも可能であると思われる。 3 飲酒運転において考慮されるべき個別事情 裁判において,飲酒運転による免職処分の妥当性が争われる場合には, 懲戒権者の定めた処分指針を踏まえた上で,個別の事案の内容(個別事情) を考慮して,懲戒権者の判断に裁量権の逸脱・濫用があるかどうかが審査 されることとなる。 そして,飲酒運転の事案において,多くの裁判例で考慮されている個別 の事情としては,①所属や管理職・非管理職の区別,②公務・公務外の区 別,③四輪車・原付などの区別,④酒気帯びの程度,⑤逮捕の有無,⑥飲 酒運転の動機・態様,走行距離及び走行予定距離など,⑦人身・物損・自 損の有無,⑧交通違反の有無(酒気帯び以外),⑨罰金額,⑩事件後の報 告,⑪反省の態度,⑫懲戒処分歴,⑬勤務態度・成績,⑭前科前歴,⑮そ の他などを挙げることができる(資料1参照)。 そこで,以下において,上記①~⑮の個別の事情について,具体的に, どのような点が考慮されているかを検討することとする。 ①「所属や管理職・非管理職の区別」については,住民や職員に対する 交通安全の啓発や指導を行う立場であった場合や管理職職員(課長以上) であった場合には,不利な事情として考慮されることが多い。なお,監督 職(係長級)は,自治体側から管理職に準ずる地位であるという主張がさ れることもあるが,裁判例では,管理職手当の有無などに基づいて,管理 職の地位については厳格に判断されている。 ②「公務・公務外の区別」については,飲酒運転は公務外で行われるこ とが多いが,公務中であった場合には,大きな不利な事情として考慮され ることとなる。 ③「四輪車・原付などの区別」については,四輪車の方が,事故が発生 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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した場合の危険性が大きいとして不利な事情として考慮されることとなる。 ④「酒気帯びの程度」は,呼気から検知されたアルコールの数値が基準 となるが,一般に,0.25ミリグラム未満は有利な事情,数値が大きい(概 ね0.5ミリグラム以上)場合は不利な事情として考慮されることとなる。 ⑤「逮捕の有無」は,アルコール量が少なく,前科がない酒気帯び運転 の場合は,逮捕されないことも多いため,事案の悪質さを判断する事情と して考慮されることとなる。 ⑥「飲酒運転の動機・態様,走行距離及び走行予定距離など」について は,飲酒運転の動機は,軽率と非難されるものが多いが,悪質な場合が不 利な事情として考慮され,酌むべき事情がある場合には,有利な事情とし て考慮されることとなる。 また,飲酒運転の態様として,検挙されるまでに実際に走行した距離や 走行を予定していた距離などが長いなど,事故の危険性が高かったと判断 される場合は,不利な事情として考慮されることとなる。 ⑦「人身・物損・自損の有無」については,人身又は物損事故により, 実際に,第三者に被害が発生している場合は,大きな不利な事情として考 慮されることとなる。なお,自損事故は,その状況にもよるが,事故等の 危険性を示すものとして,不利な事情として考慮されることが多い。 ⑧「交通違反の有無(酒気帯び以外)」については,酒気帯び運転以外 の交通違反があった場合には,不利な事情として考慮されることとなる。 特に,「酒酔い運転」と認定された場合は,大きな不利な事情として考慮 されることとなる。 ⑨「罰金額」は,罰金額が多いほど,事案が悪質であったとして,不利 な事情として考慮されることとなる。 ⑩「事件後の報告」については,事件後,速やかに上司に報告している 場合は有利な事情,事件後,報告を怠っていた場合は不利な事情として考 論 説

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慮されることとなる。 ⑪「反省の態度」については,職場の事情聴取に対して,事実を正直に 認めて真摯に対応するなど反省の態度が認められる場合には有利な事情, そうではない場合には不利な事情として考慮されることとなる。 ⑫「懲戒処分歴」及び⑭「前科前歴」については,過去に懲戒処分歴や 前科前歴がある場合は,不利な事情として考慮されることとなる。ただ, 前科前歴が軽微なものであれば,特に不利な事情とはならないことが多い。 ⑬「勤務態度・成績」については,勤務年数が長く,勤務成績が良好で ある場合は有利な事情,勤務成績が不良の場合は不利な事情として考慮さ れることとなる。 ⑮「その他」については,公務や地域社会への悪影響があった場合には, 不利な事情として考慮されることとなる。他方で,被処分者に特に酌むべ き事情があれば,有利な事情として考慮されることとなる。 上記①~⑮以外で,考慮されるべき個別の事情としては,同種の事件の 裁判例や他の自治体の懲戒処分の状況との比較を挙げることができる。 これらは,当該の飲酒運転の事案とは,直接関係はないようにも思える が,身分保障を受ける公務員間の衡平や平等原則の観点から,他の自治体 や国の職員に対する類似事例の処分と比較することは,処分量定の妥当性 を判断するうえで重要であると認められる。 そして,裁判例(資料1の「10」事件)においても,「国家公務員と地 方公務員の間,あるいは異なる自治体の公務員の間では,それぞれの依っ て立つ処分指針が異なるため,処分指針自体や処分内容を単純には比較で きず,それらに差異があることは特段不合理なものとはいえないけれども, 身分保障を受ける公務員間の衡平の観点から,公務員に対する懲戒処分の 妥当性について社会観念を推知する上で他の自治体や国の職員に対する類 似事例に対する処分との比較は軽視できないというべきである。」(神戸地 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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判平成25年1月29日・労判1070号58頁など参照)とされている。 以上によれば,懲戒権者は,飲酒運転についての懲戒処分の量定を決定 する場合には,処分指針の定めを踏まえつつも,特に,免職処分を選択す る場合には,その判断過程において,処分指針の定めを機械的に適用する のではなく,上記①~⑮の個別の事情などを十分に検討・考慮することが 求められているといえる。 Ⅳ 飲酒運転に対する懲戒処分を巡る自治体や 裁判例の動向について 地方公務員の飲酒運転に対する懲戒処分を巡る自治体や裁判例の動向は, ①2006年8月の福岡市職員事件以前,②福岡市職員事件とその後の自治 体の処分指針の厳罰化,③2009年9月の加西市職員最高裁判決以降とい う3つの時期に大きく分けることができる。 そこで,以下においては,この3つの時期に分けて,地方公務員の飲 酒運転に対する懲戒処分を巡る自治体や裁判例の動向を見ていくこととす る。 1 2006年8月の福岡市職員事件以前 (1)自治体の動向 この当時,各自治体においては,職員による飲酒運転を根絶するために, 職員に対して,飲酒運転をした場合には,懲戒処分の対象となる旨を周知 するなど飲酒運転をしないように指導するとともに,実際に,飲酒運転を した場合には,懲戒処分を行うなどの対応をしていた。 このような中で,高知県が,1997年11月に,飲酒運転の根絶を図るため, 原則として免職処分をもって対処する旨の処分指針を定めて公表していた が,2006年8月の福岡市職員事件以前において,このような処分指針を 論 説

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定めていた都道府県は,全国的にわずか5県にとどまってい(16)た。 そして,多くの自治体では,飲酒運転をした場合の懲戒処分は,減給や 停職処分にとどまることが多く,人身又は物損事故を起こしたケースでも, 免職処分となることは少ないという傾向にあった。 (2)裁判例の動向 公務員の飲酒運転の懲戒処分は,上記(1)のとおり,減給又は停職処 分にとどまることが多かったため,免職処分が裁判で争われた例は,わず か3例にとどまる。 これらの3例は,○ア京都府の職員が,飲酒運転により傷害を負わせる 人身事故を起こしたもの(京都地判昭和48年4月13日・判時719号99頁)), ○イ札幌市の現業職員が,飲酒運転中に,警察官に停止を求められたが,逃 亡し,立木に衝突する物損事故を起こしたもの(札幌地判昭和54年12月18 日判決・判時959号128頁),○ウ東京都の消防庁の管理職の職員が,飲酒運 転により歩行者を轢いたうえ,救護措置と警察官への連絡を怠り,死亡さ せるという人身事故を起こしたもの(東京地判昭和59年3月29日・判時 1109号132号)であり,いずれも免職処分の妥当性が争われた事例である。 そして,これらは,いずれも人身または物損事故を発生させたものであ るが,○ア及び○イは,免職処分が取り消されている。 そして,上記の3例のうち,以下において,人身事故を起こしたにも かかわらず,免職処分が取り消された○アの事例について見ることとする。 この事例は,京都府の職員が,府職員互助会主催のリクリエーション行 事である「なし狩り」に参加し,食堂で昼食をとった際,日本酒約2合 を飲んだほか,帰路のバス車内で4合入り日本酒を同僚と回し飲みし, (16) 読売新聞2006年9月29日朝刊 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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さらに解散後,同僚とともに飲酒店2軒に立ち寄ってビール約1本と日 本酒1合ほどを飲み,その直後に,1.5ミリグラムのアルコールを身体に 保有した状態で,自動車を運転して帰宅途中に,自転車と衝突事故を起こ し,女性に加療約40日間を要する傷害を負わせたというものである。 この事例について,京都地裁は,①被害者の障害が完治し,被害弁償が 行われていること,②原告の職員が反省と悔悟の情を現しており,刑事処 分が罰金刑にとどまっていること,③原告の職員が,一事務職員にとどま り,管理職でないこと,教員,教員などのように府民に対する交通事故防 止の教化指導をその職責とするものではないことなどを理由として,府知 事の免職処分は,処分の選択について裁量を誤った違法があるとして,こ れを取消す判断をし(17)た。 ただ,この事例については,上記①~③の事情があるとしても,加療40 日間という人身事故を起こしていることやアルコールの数値が非常に高い こと(現在の基準値の10倍)などに照らせば,現在であれば,免職処分 が重きに失するとは必ずしもいえない面がある。 これは,この当時,裁判例において,自治体の状況と同様に,人身事故 を起こした場合でも,職員の側に情状や酌むべき事情などがあれば,被害 が重大または事案が悪質でない限り,免職処分は重きに失するとして取り 消される傾向にあったことを示している。 2 2006年8月の福岡市職員事件から2009年9月の加西市職員最高裁判 決まで (1)自治体などの動向 2006年8月25日の福岡市職員事件では,同市職員が,飲酒運転を行い, (17) 控訴審(大阪高裁昭和49年11月7日判決・判時771号82頁)も同旨の 理由で,京都府の控訴を棄却している。 論 説

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市内の海の中道大橋を走行中に,衝突した前方車両を海に転落,水没させ, 前方車両に乗っていた両親及び幼児3人のうち,幼児3人が死亡すると いう事故が発生した。 この事件では,幼児3名が死亡するという結果の重大性だけでなく, 福岡市職員が相当酔った状態で,制限速度 50km を大幅に超える時速 100 km で走行していたこと,衝突事故後,現場から逃走し,救護・報告義務 を怠ったこと,大量の水を飲むなどして飲酒運転の発覚を免れようとした ことなど,非常に悪質な事案であったことから,大きな社会問題となった。 そして,この事件をきっかけに,飲酒運転に対する社会的非難がこれま でになく高まるとともに,飲酒運転をした公務員に対する厳しい処分を求 める声が全国的に一気に拡がった。 この事件後の2006年9月15日,内閣府に設置された交通安全対策会議 交通安全対策本部は,公務員の飲酒運転が頻発していることなどを受け, 飲酒運転に対する国民の意識改革を進め,その根絶を図ることとした。 そして,国及び地方公共団体に対しては,飲酒運転の根絶に向けた活動 を一層強化するとともに,所属職員に対し,他の模範となるよう安全運転 の指導を強化するとともに,飲酒運転に対しては同乗者を含め厳正に対処 することを求める決定を行っ(18)た。 こうした中で,全国の自治体において,飲酒運転に関する懲戒処分の指 針の見直しが進み,福岡市職員事件の後,全国47都道府県のうち,28府 県において,新たに飲酒運転は免職(原則を含む)とする規定が設けられ ることとなった。また,3県において,指針自体の見直しは行わないも のの,飲酒運転について,免職(原則を含む)とするなど,従来よりも厳 しく処分する運用を行うことを決定し(19)た。 (18) 内 閣 府 HP(https:// www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/inshu/inshu_01. html) 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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そして,福岡市職員事件以前から,飲酒運転は免職としていた5県と 合わせると,合計36府県,4分の3以上の都道府県において,飲酒運転 をした場合には,免職(原則を含む)とする処分指針や運用が定められる こととなった。 また,このような動きは,政令指定都市や市町村にも波及し,全国的の 自治体において,飲酒運転は免職(原則を含む)とする動きが急速に拡 がっていった。 このような動きに対しては,飲酒運転自体が住民の生命や財産を脅かす 重大な事故に繋がりかねない危険性のある行為であり,公務員にとって重 大な非違行為であることは否定できない事実であるが,他方で,飲酒運転 といっても,事故(人身,物損)を伴う場合,他に交通法規の違反を伴う 場合,事故自体発生しなかった場合,前日のアルコールが残っていた場合 (いわゆる「二日酔い事案」)などがあり,事案によりその悪質性に差があ ることを考えると,飲酒運転について一律に免職処分とすることは,処分 内容として重きに失するのではないかという批判があった。 また,これらの自治体の多くは,処分指針の見直しの際に,飲酒運転に ついてのみ厳罰化する見直しを行ったため,例えば,法定制限速度を 50 km 以上超える速度違反が停職にとどまることや飲酒以外の死亡又は重篤 な傷害の人身事故でも,停職や減給の選択の余地があること,痴漢行為が 停職にとどまることなど,他の非違行為と比較して,明らかにバランスを 欠くという指摘もあった。 そして,この当時,静岡県知事が「酒を飲んだらすべて免職というのは 日本の雇用慣行からすると死刑判決に等しい。オートマチックに免職とす るのはいかがなもの(20)か。」,兵庫県知事が「飲酒運転で検挙されたら,直ち (19) 読売新聞2006年9月29日朝刊 (20) 朝日新聞2006年9月27日夕刊 論 説

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に免職とするのはいかがなものか。即免職にしたら,他の事案とのバラン スが保てなくなる。事案ごとにどのような処分をするか検討すべきで あ(21)る。」などの行き過ぎた厳罰化に疑問を投げかける意見も出されていた。 (2)裁判例の動向 福岡市職員事件の後,多くの自治体において,飲酒運転は免職(原則を 含む)という処分指針が設定され,実際にその指針に沿って免職処分とな る事例が増加したことに伴い,裁判所に対して,免職処分の取消しを求め る訴訟が増加した。 このような中で,下級審の裁判例では,人身又は物損事故などを発生さ せていないものや前日のアルコールが残っていたもの(いわゆる「二日酔 い事案」)については,免職処分は重きに失するとして取消す判決(資料 1の「1」,「2」,「3」の下級審の裁判例)が出された。 ただ,他方で,静岡地判平成20年8月7日(判例秘書搭載)では,人 身又は物損事故を発生していない事案において,飲酒運転は免職とする市 の取扱要領について,「福岡市職員による事故以降における酒気帯び運転 について懲戒処分指針を原則免職と定める地方自治体が増加したことは, 本件飲酒運転当時においても内在していた危険性が,福岡市職員による事 故以降,世論の意向により認識されたことの結果であって,本件取扱要領 は,他の地方自治体に先駆けてその危険性を認識したものであるとも評価 できる」としたうえで,「平成18年9月以降は,静岡県内,県外の地方自 治体において,酒気帯び運転について,懲戒免職処分を科した事例が多数 存在することを併せ考えれば,本件処分が,本件飲酒運転当時の他の処分 状況と比べ,著しく均衡を欠いた,著しく平等原則に反する不合理な処分 (21) 毎日新聞2006年9月26日朝刊 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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であるとまでいうことはできない。」などとして,免職処分を適法するも のもあった。 この事案については,当該職員が管理職であったことなど不利な事情は あるものの,人身又は物損事故を発生させていないこと,勤務態度は良好 で,事件後に退職届を提出するなど十分に反省していることなどに照らせ ば,免職処分は重きに失する面があることは否定できず,当時の飲酒運転 の厳罰化を求める世論や社会的背景などが判決の結果に一定の影響を及ぼ した可能性は否定できないものと思われる。 3 2009年9月の加西市職員最高裁判決以後 (1)加西市職員最高裁判決 2009年9月19日に,最高裁において,兵庫県加西市職員の飲酒運転に よる免職処分の取消訴訟について,大阪高裁の処分を取り消した判決(大 阪高判平成21年4月24日・労判983号88頁)に対する市側の上告が棄却さ れ,免職処分の取消しが確定した。 この事件は,加西市職員が,飲酒後に,自家用車を運転して,酒気帯び 運転で検挙されたところ,免職処分となったというものであるが,この事 件では,①当該職員が管理職,②公務外,③四輪車,④アルコール量は基 準値ギリギリの0.15ミリグラム,⑤交通検問で検挙,⑥飲酒後40~50分経 過しており,1.5km 走行予定で,約 400m 走行したところで検挙された こと,⑦事故なし,⑧他に交通違反なし,⑨罰金20万円,⑩翌朝に上司 に報告,⑪反省の態度あり,⑫過去に処分歴なし,⑬約38年間勤務して おり,勤務態度に問題なし,⑭前科前歴なしという事情が認められた(資 料1参照)。 この事件では,大阪高裁は,「…昨今,飲酒運転に起因する悲惨な交通 事故が少なからず発生しており,飲酒運転に対する刑事罰も強化され,社 論 説

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会全体の飲酒運転に対する非難の感情が高まっているところであり,この ような社会情勢の下にあっては,社会全体の奉仕者である地方公務員が, より高い規範意識の下,厳に飲酒運転を慎まなければならないことは当然 であり,…徒歩で帰宅できるのに安易に飲酒運転に及んだ被控訴人には, 地方公務員としての自覚が足りないと厳しく叱責されねばならないし,本 件酒気帯び運転を重大な非違行為と受け止め,これに厳罰をもって対処し ようとした市長の判断は,理解できるところではある。」として,飲酒運 転に対して厳罰で臨むことについては理解を示している。 そのうえで,「しかしながら,免職という懲戒処分は,公務員にとって 著しい不名誉であるだけではなく,直ちに職を失って収入の道が閉ざされ, 退職金さえ失うのであって,これによって被処分者が被る有形・無形の損 害は甚大である。特に,…38年間も…真面目に勤務し,退職が間近に迫っ ていた職員にとっては,なおさらそうである。このような免職処分の結果 の重大性に…照らせば,懲戒権者が免職処分を行うに際しては,…当該非 違行為との均衡を失することのないよう慎重な対応が求められるというべ きところ,…本件酒気帯び運転における諸事情,すなわち,非違行為の性 質・態様・結果における悪質さの程度の低さ,原因・動機における非難可 能性の低さ,職務上の地位等から考え得る他への影響の重大さの低さ,過 去の非違行為の不存在や日頃の勤務態度,非違行為後の対応の良好さなど を考慮すれば,未だ現時点においては,本件酒気帯び運転に対し,直ちに 免職処分をもって臨むことは,社会通念上著しく妥当性を欠いて苛酷であ り,裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したものと評価すべきで ある。」として,市の免職処分を取り消している。 このように,大阪高裁は,飲酒運転について,免職処分を含む厳罰化で 対処することに対しては,理解を示しつつも,他方で,免職処分という結 果の重大性を考慮して,本件の酒気帯び運転における個別の事情(上記 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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①~⑮など)を考慮して,本件では,免職処分は重きに失すると判断した ものと認められる。 (2)裁判例の動向 加西市職員最高裁判決以降,過去に懲戒処分歴のなく,人身又は物損事 故を発生しておらず第三者への被害がなかった酒気帯び運転については, 裁判所において免職処分を取消す判決が相次いでいる(資料1参照)。 これを具体的に見ると,加西市職員最高裁判決以降,同事件を含めて, 裁判所で地方公務員の酒気帯び運転に対する免職処分の取消しが争われた 事件は,判例集などで確認できるものとして,21件あり,このうち,処分 が違法とされ取り消されたものが15件,適法とされたものが6件である。 すなわち,加西市職員最高裁判決以降,訴訟で,飲酒運転の免職処分の 取消しが争われた場合は,全体の7割以上において,免職処分が取り消 されるという結果になってい(22)る。 そして,これらの裁判例は,飲酒運転が反社会的な危険な行為であるこ とを十分に踏まえた上で,自治体における飲酒運転を行った職員に対する 行き過ぎた厳罰化の動きを是正するものであったと評価することができる。 これらの裁判で免職処分が争われた21件について,判決に影響を及ぼ したと思われる個別の事情として,①所属や管理職・非管理職の区別,② 公務・公務外の区別,③四輪車・原付などの区別,④酒気帯びの程度,⑤ 逮捕の有無,⑥飲酒運転の動機・態様,走行距離及び走行予定距離など, ⑦人身・物損・自損の有無,⑧交通違反の有無(酒気帯び以外),⑨罰金 額,⑩事件後の報告,⑪反省の態度,⑫懲戒処分歴,⑬勤務態度・成績, (22) 最高裁の統計資料(最高裁判所事務総局行政局調べ「行政事件に関す る統計資料(平成14年)」)では,行政訴訟全体の原告勝訴率(一部勝訴を 含む)は,20%以下にとどまっている。 論 説

(33)

⑭前科前歴,⑮その他を挙げて整理したのが資料1である。 これを見ると,人身又は物損事故を発生していないもの(⑦)が14件 あり,そのうち,11件で免職処分が取り消されている。 そして,人身又は物損事故を発生していないにもかかわらず,免職処分 が適法とされた3件を見ると,「14」の広島県職員の事案では,過去に飲 酒運転で停職処分の処分歴があること(⑫)や事件後上司への報告を懈怠 したこと(⑩),「16」の三重県職員の事案では,約12時間近く断続的に飲 酒運転を繰り返したこと(⑥)や1年近くの間,酒気帯び運転で検挙さ れた直前に飲酒していた事実を秘匿していたこと(⑩),「19」の名古屋市 水道局技師の事案では,過去に始末書の提出や厳重注意があるほか,行動 等に注意を要する人物として特に言及されるなど勤務態度に問題ありとさ れていたこと(⑬)や排水管工事の立会い業務等を主な職務としており, 職務上,公用車を運転することが多く,検挙により公務の遂行に支障が生 じたこと(⑮)などが考慮されたものと認められる。 また,人身又は物損事故を起こした7件においても,半数以上の4件 で免職処分が取り消されている。 そして,免職処分が取り消された4件のうち,「3」の神戸市消防職員 の事案と「8」の千葉県職員の事案は,いずれも前日のアルコールが身体 に残っていたいわゆる二日酔い事案であること(⑥),「6」の根室市職員 の事案はアルコール量が基準値以下であったこと(④),「20」の米沢市病 院企業職員の事例では,人身事故を起こしたが軽傷であったこと(⑦)な どの事情に加え,勤務成績に問題がなかったこと(⑬)などが考慮され免 職処分が取り消されている。 他方で,免職処分が適法とされた3件を見ると,人身又は物損事故を 起こしたことに加えて,「4」の高知県職員の事案では,酒酔い運転で (④),罰金刑が法定刑の上限に近い80万円科されていること(⑨),「17」 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

(34)

の札幌市職員の事案では,自動車の停車中及び運転中にも飲酒に及んでい ること(⑥)や上司からの事情聴取の虚偽の説明を繰り返し行っていたこ と(⑩),「21」の鳥取県警察職員の事案では,警察職員であること(①) や物損事故のあと,当て逃げをしていること(⑧)などの事実があり,こ れらの事実により,免職処分が適法とされたものと認められる。 これらの21件の裁判例を見ると,人身又は物損事故の有無を中心に上 記①~⑮の個別の事情を踏まえた上で,特に,対象職員が管理職かどうか, 人身・物損事故の有無,交通違反の有無,公務に及ぼした影響,勤務態度, 過去の処分歴などの具体的に考慮したうえで,免職処分を取り消すかどう かを判断していることが認められる。 そして,人身又は物損事故を起こしていない飲酒運転について,裁判で 免職処分が争われた場合には,免職処分は取り消される可能性が高く,特 に飲酒運転以外に職員側に不利な事情がない場合には,免職処分は,ほぼ 全て取消される傾向にあるということができる。 (3)自治体の動向 加西職員最高判決後,人身又は物損事故を発生しておらず第三者への被 害がなかった酒気帯び運転については,裁判所において免職処分を取消す 判決が相次いだことから,全国の自治体において,飲酒運転は免職(原則 を含む)とする処分指針の見直しが進んでいる。 そして,全国の都道府県に情報公開請求をして調査をしたところ,2020 年1月時点の全国の都道府県の職員の酒気帯び運転に対する懲戒処分の 指針を見ると,人身事故又は物損事故を起こしたか否かで処分の量定に軽 重の差を付けているものが多く,多数の都道府県では,免職(原則を含む) は人身事故等を発生させた場合に限定している。 このような飲酒運転についての都道府県の酒気帯び運転の懲戒処分の指 論 説

(35)

針を事故の有無などにより整理したのが資料2である(都道府県の個別 の状況は資料3(末尾)参照)。 これを見ると,免職(原則を含む)としている都道府県の数は,「人身 事故あり」は24(全体の約50%),「物損事故あり」は15(全体の約30%), 「事故なし」は11(全体の約23%)となっている。 そして,「事故なし」の酒気帯び運転については,懲戒処分の指針にお いて,免職(原則を含む)とされているのは11,免職又は停職とされてい るのが24,免職又は停職又は減給とされているのが5,停職とされてい るのが3,停職又は減給とされているのが2,減給とされているのが1 である。 また,人事院の定める国家公務員及び警察庁の定める警察職員の処分指 針では,「事故なし」の酒気帯び運転については,免職又は停職又は減給 とされて(23)いる。(24) こうしてみると,全国の都道府県のうち,「事故なし」の酒気帯び運転 について,免職(原則を含む)とされているのは全体の約23%にとどまっ ていること,免職とするものから減給というものもあり,都道府県の間で, 処分の量定に大きな違いがあることがわかる。特に,「事故なし」の場合 には,停職以下とする都道府県が6県あり,減給とする県も1県あるこ とが特徴的である。 ただ,処分指針では,免職(原則を含む)としている都道府県において も,上記(2)の裁判例の動向などを踏まえて,実際の運用では,後記の とおり,人身又は物損事故の有無などを総合に判断して,停職などにとど (23) 人事院 HP「懲戒処分の指針について」(https://www.jinji.go.jp/kisoku/ tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html) (24) 警察庁 HP「懲戒処分の指針の改正について」(http://www.npa.go.jp/ laws/notification/kanbou/jinji/jinji20200601.pdf) 地方公務員による飲酒運転と懲戒処分について

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