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疲労回復手段としての運動直後の静的ストレッチ、筋の冷却および加温の比較検討 [ PDF

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Academic year: 2021

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背景 激しい身体活動 (運動) や長時間の運動を実施すると 疲労が出現する.疲労は,運動パフォーマンスの低下を 引き起こし,エネルギー源の不足,筋への疲労物質の蓄 積,筋線維の損傷,神経筋協調の低下などの多くの原因 によって起こると考えられる.しかし,「疲労」を明確に 定義することは難しい (秋葉,1956).疲労は結果として 人間の行動の能率を低下させる.疲労の影響は,運動実 施直後だけでなく,翌日や翌々日に残る可能性がある. 競技者において,疲労の早期回復は翌日の試合や練習 に高い運動パフォーマンスを発揮するために重要である. また,競技者だけでなく一般の人においても,筋の疲労 は筋の疼痛を伴い不快感をもたらし,運動や動作を制限 することになる.したがって,疲労からの早期回復を目 的として,主運動後にクーリングダウンが様々な方法で 多く実施されている.宮本 (2010) によると,競技レベ ルが高いほど,積極的にクーリングダウンを行っている ことを示した.高い競技レベル,すなわち高い競技パフ ォーマンスを発揮するために疲労回復手段を用いること は重要であると考えられる. 一般的に行われている疲労回復手段として,静的スト レッチ,アイシングやアイスバスなどによる冷却,温浴 や医療現場で用いられているホットパックによる加温が 挙げられる.静的ストレッチは関節可動域の増加,柔軟 性の向上,さらに運動パフォーマンスの向上,障害や故 障の予防・防止を目的として行われる.冷却は疼痛の寛 解,二次的な組織破壊の阻止による組織治癒の促進,筋 緊張の抑制を目的として行われる.また,加温について は血行改善,疼痛の寛解,浮精神的緊張の緩和の効果が 期待される.このように,筋の疼痛を引き起こすような 筋疲労回復の手段については種々の方法が提唱されてい るが,本当に効果的であるのか,あるいは科学的検証が 行われているかは疑問の余地がある. 疲労困憊に至る筋収縮から回復する効果的な手段を探 ることは重要である.冷却や加温は特殊な装置や大きな 設備を用いた方法が多い.市販のアイスパックやホット パックを用いた方法については検討されておらず,より 簡便な方法を用いた疲労回復手段の比較検討が必要であ ると考えられる. 目的 本研究の目的は,疲労困憊までスクワット運動をした 後に,疲労回復促進の手段である,筋の (1) 静的ストレ ッチ,(2) 冷却,(3) 加温, (4) 安静保持の 4 条件の実験 を行い,脚筋力,筋の伸展パワー,筋痛の回復について 検討することであった. 方法 1) 被験者 被験者は,健常男性8 名 (年齢; 25 ± 3 歳, 身長; 173.0 ± 5.6 cm, 体重; 65.1 ± 7.3 kg) であった.彼らには本研究の 目的,方法,危険性等を説明し,被験者全員から実験に 参加することに同意を得た.本研究は,九州大学大学院 人間環境学研究院健康・スポーツ科学講座の倫理委員会 の承認を得て実施した. 2) 実験手順 予備測定および本実験ともに,室温 25℃の条件で実施 した. (1) パックの温度経時変化測定 本実験に先立ち,実験で使用するアイスパックによる 冷却,ホットパックによる加温の持続時間を把握するた めに,パックの温度の経時変化を測定した.市販のソフ トアイス&ホットパック (32.5×18.5 cm,イマムラ社製) を用いて,大腿部の冷却および加温を行い,アイスパッ クは10〜12℃に冷却,ホットパックは 40〜42℃に加温し た.アイスパックは6 分を超えると 12℃を上回り,ホッ トパックは5 分を超えると 40℃を下回った (Fig 1.).こ のことから、本実験ではアイスパックは6 分毎,ホット パックでは5 分毎に交換した.これらの予備測定は,実 験条件と同じ空調設備のある実験室で実施した.

疲労回復手段としての運動直後の静的ストレッチ、

筋の冷却および加温の比較検討

キーワード:疲労回復,静的ストレッチ,冷却,加温 行動システム専攻 入部 祐郁

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Fig 1. アイスパックおよびホットパックの温度変化 (2) 本実験 実験プロトコールをFig 2. に示す. 静的ストレッチ (ST 試行),冷却 (Cl 試行),加温 (HT 試行),安静保持 (UN 試行) の 4 条件を,それぞれ別の 日にランダムに実施した.この4 条件の手順は同じとし た. 各被験者は,実験前日より激しい運動,飲酒,カフェ インの入った飲物や薬物の服用を行わないように依頼さ れ,実験の2 時間前までに食事を済ませ,それ以降は絶 食した状態で実験室に来室した.半袖シャツと短パンツ に着替えた後に,身長,体重,安静時血圧および心拍数 を測定した.さらに,脚筋力,脚伸展パワーの前値測定 を行った (pre).その後,体重の 3 分の 2 に相当するバー ベルを両肩に保持し,スクワット運動を疲労困憊に至る まで行った.スクワット運動は電子メトロノーム (60 bpm) のリズムに合わせて行い,そのリズムに追従でき なくなった時を疲労困憊とした.疲労困憊のスクワット 運動直後,20 分間の ST 試行,CL 試行,HT 試行の 3 つ の回復処置と,何も実施しないUN 試行を実施した.さ らにその10 分後,すなわち疲労困憊運動後 30 分に脚筋 力,脚伸展パワー,筋痛の測定を行った (post).被験者 は24 時間後 (翌日) にも来室し,脚筋力,脚伸展パワー, 主観的筋痛の測定をした (post2).各被験者は 4 条件全て の試行を1 ヶ月以内に実施した.生理的な日内変動の影 響を除外するため,同一被験者が同一時刻に実験に参加 した. 入 室 後 5 分 間 安 静 身 長 ・ 体 重 ・ 血 圧 ・ 心 拍   測 定 脚 伸 展 パ ワ ー ・ 脚 筋 力   測 定 脚 伸 展 パ ワ ー ・ 脚 筋 力 ・ 筋 痛   測 定 静的ストレッチ 冷却 加温 安静保持 ス ク ワ ッ ト 運 動 Day 1 Day 2 脚 伸 展 パ ワ ー ・ 脚 筋 力 ・ 筋 痛   測 定

For 20 min After 30 min

post post2 pre Fig 2. 実験プロトコール iii) 測定項目 脚筋力についてはデジタル筋力測定装置 -九大式- (ト ーヨーフィジカル社製) を使用し測定した.筋の伸展パ ワーは脚伸展力測定装置 (TP-778, トーヨーフィジカル 社製) で測定し,脚伸展最大パワー,脚伸展平均パワー, 体重1 kg あたりの脚伸展パワーを記録した.筋痛は,Fig 3. に示す日本語版 Talag Scale を用いて測定を行った.

Fig 3. 日本語版 Talag Scale

iv) 統計処理 結果は,平均値±標準偏差で示した.脚筋力,脚伸展 最大パワー,脚伸展平均パワー,体重1 kg あたりの脚伸 展パワー,筋痛の変化は繰り返しのある2 要因(介入× 時間)分散分析を用いて検討した.有意水準は5%未満 とし, 10%未満を有意傾向として示した. 結果 運動開始から 4〜5 分で疲労困憊に至った. 1) 脚筋力 全条件のpre に比べて post の平均値が,有意に低下し ていたことから,疲労していたことが確認された.条件 別では,ST 試行では,pre が 73.5 ± 12.0 kg,post が 61.8 ± 16.0 kg,post2 が 68.4 ± 13.7 kg で有意な変化は認められ なかった.CL 試行では,pre が 70.6 ± 13.1 kg,post が 56.6 ± 10.6 kg,post2 が 62.4 ± 11.8 kg で有意な変化は認めら

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れなかった.HT 試行では,pre が 69.2 ± 8.1 kg,post が 58.5 ± 9.1 kg,post2 が 62.4 ± 9.0 kg で有意な変化は認め られなかった.UN 試行では,pre が 67.9 ± 13.3 kg,post が58.1 ± 14.2 kg,post2 が 63.8 ± 17.6 kg で有意な変化は 認められなかった.全ての試行において,介入,交互作 用の有意な差は認められなかった. Fig 4. 各試行の脚筋力の変化 2) 脚伸展パワー 脚伸展最大パワー,脚伸展平均パワー,体重1 kg あた りの脚伸展パワーにおいて,有意な差異は認められなか った. 3) 筋痛 遅発性筋痛の運動30 分後 (post),運動 24 時間後 (post2) の変化を, Fig 5. に示した. ST 試行と CL 試行 において有意傾向のある (p<0.1) 交互作用が認められた. Fig 5. 各試行の筋痛の変化 考察 本研究の主な知見は,運動後に疲労回復手段を行った 全ての条件間で脚伸展パワー,脚筋力において,有意な 疲労回復は認められなかったこと,筋痛においては,冷 却を行った場合,静的ストレッチを行った場合よりも筋 痛が低かった傾向があったことの2 つである. これらの結果は,運動後30 分および 24 時間において, 冷却は静的ストレッチ,加温,安静保持よりも,筋痛に 対して有効である可能性が示唆された.筋力および筋パ ワーにおいては,疲労回復手段が影響するのではなく経 過時間による疲労回復の影響が大きいのではないかと考 えられる. Robey ら (2009) は運動後の温冷交代浴,静的ストレ ッチング,対照条件を比較し,どの試行においても主観 的疼痛感,膝関節伸筋群の最大筋力に有意差はなかった と報告している.一方,本研究では筋力,パワーにおい て差はなかったものの,筋痛において,冷却は静的スト レッチよりも有意に低い傾向が認められた.この結果か ら,運動後に静的ストレッチをするよりも冷却を実施す ると筋痛に対し効果的であることが示唆された.本研究 では冷却および加温はそれぞれ単独に実施し,加温は筋 痛に対し有意な影響がなかったことから,温冷交代浴は お互いの影響を打ち消しあったのではないかと考えられ る.また,先行研究より冷却は15 分以上必要であったこ とから,本研究では20 分間の冷却時間を確保したことも, 筋痛の抑制に繋がったのではないかと考えられる. 静的ストレッチは疲労回復における筋痛において,痛 みを増幅させることも示唆された.反応性充血により血 流量が増加する (永澤ら,2010) とされ,疲労物質や痛 み物質を押し流す効果があると考えられた.しかし,筋 痛は他の痛みとはメカニズムが異なるため,運動による 筋の損傷に対する影響は通常の痛みに対する影響とは異 なると考えられる.静的ストレッチにより筋の伸長を行 うと損傷を増加させてしまい,筋痛が抑制されなかった ことが示唆された.一方,運動直後のアイスパックによ る冷却は筋温を低下させ血管収縮を引き起こし,筋損傷 からの回復に貢献したと考えられる.冷却により血流量 を抑え,組織の損傷を最小限に留めることができた (理 学療法ハンドブック,2000) ことから,痛み物質の蓄積 が他の試行と比較して少なかった可能性も考えられる. また,冷却後には血流が増加し,疲労物質や痛み物質を 押し流したと考えられる.加温においては,血流を促進 させる効果があるとされ,運動直後に30 分間の加温を行 い,最大筋力が増加したこと (稲見ら,2010) が報告さ れている.近年注目されている加温により合成されたヒ

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ートショックプロテインは自由神経終末に作用し,痛み を抑制する効果があるとされている.そのため,加温は 筋に対し良い影響があることが考えられたが,本研究で は運動直後の筋の損傷に対し良い影響を与えなかった. また,先行研究では30 分間の加温を実施しており,本研 究では20 分間の加温では筋対して良い影響がなかった ことが考えられる. 本研究では,冷却と比較して運動直後に静的ストレッ チングを行うと,筋痛を増加させる可能性が高いことが 示された.また,有意差はなかったが,加温や安静保持 の筋痛は静的ストレッチと近値を示したため,筋痛を増 加させる傾向がある.したがって加温は運動直後に実施 しても,筋力回復や筋痛抑制に対し良い影響はないと示 唆された. スクワット運動での疲労困憊までの運動後,大腿四頭 筋にのみ疲労回復手段を実施したが, 実際にはハムスト リングスや大臀筋も働くため,疲労回復手段を実施しな かった部位の疲労の影響があった可能性も考えられる. 本研究での冷却は先行研究に準拠し,10〜12℃のアイス パックで行ったが,異なる温度設定で効果的な影響をも たらす研究報告 (Buchheit et al., 2008: 大垣ら, 2014) も あるため,様々な温度での更なる検討を行い,疲労回復 により効果的な温度を研究する必要がある.また,被験 者は男性のみであったので,皮下脂肪が多い女性では冷 却時間が異なるのかどうかについても検討が必要であろ う. 筋痛は競技に限らず,日常生活に支障を来すこともあ る.筋痛は関節運動を制限し,作業能率を低下させるた め,疲労として認めることができると考えられる.運動 直後,静的ストレッチングを行うと筋痛を増加させ,冷 却を行うと筋痛増加を抑制する傾向があることから,冷 却は疲労に対して有効であることが示唆された.また, 競技現場において,競技レベルが高いほど疲労回復手段 を積極的に行っていたことが示されている (宮本,2010). 疲労回復は質の高い練習を維持するためにも重要であり, できる限り疲労が取り除かれた状態で競技会に臨むこと ができれば,高いパフォーマンスを発揮することにも繫 がる。 本研究では市販のソフトアイス&ホットパックを使用 したため,実際の練習や競技会でも簡便に用いることが できる.また,家庭用冷蔵庫で10〜12℃に冷やしたのア イスパック,40〜42℃に温めたお湯にパックを浸すとホ ットパックを準備できるので,特別な装置や器具等は必 要がないため,取り入れやすい方法であると考えられる. 結論 本研究において,運動直後に大腿四頭筋を20 分間冷 却すると,静的ストレッチや筋の加温を実施した場合に 比較して,筋痛の増加を抑制した.一方で,筋力,パワ ーにおいて各条件間で有意な差はなかった.運動直後に は筋の冷却を実施すると,筋温の低下により血管収縮を 引き起こし,筋損傷からの回復につながったと考えられ る.運動直後の疲労回復手段としてアイスパックによる 冷却が静的ストレッチや加温より有効であることが示唆 された. 主要引用文献 1) アメリカスポーツ医学会編,米本恭三・栗原敏監修 (1996) 『運動処方の基礎と実際』,廣川書店 2) 朝比奈一男,中川功哉 (1969) : 運動生理学 第 26 版,大修館書店 3) Bob Anderson. 高橋由美・羽鳥裕之訳(2002)『スト レッチング』,ナップ

4) Buchheit et al.. Effect of cold water immersion on postexercise parasympathetic reactivation. AJP-Heart Circ Physiol, 296: 421-427, 2008

5) Cheung et al.. Delayed onset muscle soreness. Sports medicine, 33 (2): 145-164, 2003

6) Enwemeka et al.. Soft tissue thermodynamics before, during, and after cold pack therapy. Medicine and science in sports and exercise, 34 (1) :45-50, 2002

7) 細田多穂・柳澤健 (2000):理学療法ハンドブック

第2 巻 治療アプローチ,共同医書出版社

8) Lund et al.. The effect of passive stretching on delayed onset muscle soreness, and other detrimental effects following eccentric exercise. Scand J Med Sci Sports, 8: 216-221, 1998

9) 宮本晋一:クーリングダウンがバスケットボール選 手に及ぼす効果 –実践者の意識と実態について−. 地域研究,7: 105-114,2010

10) Robey et al.. Effect of postexercise recovery procedures following strenuous stair-climb running. Sports Med, 17: 245-259, 2009

11) 大垣ら: 運動後の冷却が組織温度及び血行動態に及

ぼす影響. 筑波大学体育系紀要, 37: 123-127, 2014

12) 下井ら:遅発性筋痛における4 種類の疼痛測定法の 信頼性.理学療法科学, 22(1): 125-131, 2007

Fig 3.  日本語版 Talag Scale

参照

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