局地的豪雨を伴った平成 16 年河川災害の概要
愛媛大学工学部環境建設工学科 門田章宏・伊福誠・渡邊政広・鈴木幸一 国土交通省四国地方整備局大洲河川国道事務所 中川達郎 愛媛県土木部河川港湾局河川課 井上眞三 ㈱荒谷建設コンサルタント 白石 央 1.はじめに 平成 16 年 9 月末の時点で計 9 つの台風が日本を上陸し,過去最大数を記録した.気象庁によると南 海上の対流活動が北にずれた影響で太平洋高気圧の中心が平年に比べ北寄りになっていること,日本 列島への張り出し方の変化が大きいなど,上陸しやすい条件が重なったことが原因とされている.こ れらの台風の中,5 つが四国を通過,また愛媛県に被害をもたらしたものは台風 15 号,16 号,21 号 の 3 つの台風である.台風 15 号および 21 号は,これまで殆ど災害経験の無かった愛媛県東予地域に 河川土砂災害が発生し,多くの物的人的被害をもたらした.特に瀬戸内海性気候に属する新居浜市や 周桑郡小松町では,隣接する山地部において過去に記録のないほどの局地的で短期的な豪雨が発生し た.この結果,山地斜面が崩壊し,流木とともに中小河川に土石流が流れ込み,橋梁を塞ぎ越水し, 周辺家屋に甚大な浸水被害をもたらした.また,台風 16 号では,愛媛県西部を流れる肱川流域に平成 7 年洪水を上回るほどの流量が河道内に流れ浸水被害をもたらしたが,激甚災害対策特別緊急事業(激 特事業)と東大洲地区における二線提の整備による効果によって平成 7 年と比較して被害は減少してい た.本報告では,これら 3 つの台風によって引き起こされた数々の河川災害の中から,台風 15 号では 「新居浜市多喜浜地区周辺の土石流による浸水被害」に関して,台風 16 号では「東大洲地区における 平成 7 洪水と比較した治水効果の検証」と題して,また台風 21 号では「周桑郡小松町妙之谷川におけ る土石流の流動形態」に関する河川災害についてそれらの概要を述べる.なお,以降に示す写真や図 の一部分は,大洲河川国道事務所ならびに愛媛県より提供して頂いたものを使用している. 2.台風 15 号による新居浜市多喜浜地区周辺の土石流による浸水被害 2.1 被害の概要と調査の目的 愛媛県新居浜市は瀬戸内海の中央,燧灘に面したところにあり,元禄 4 年(1691 年)の別子銅山の開 坑により近代化を推し進め,後の住友関連企業群を中心とした工業都市への生成発展の礎となったと ころである.今回河川災害を受けた多喜浜地区(図-1)は,新居浜市内より東に約 10km 進んだところに あり,新居浜東港の南側に位置している.この地区を流れる白浜川は東港から通じて船着き場にもな る小河川であり,地域の住民の生活には欠かせない大切な川である. 平成 16 年 8 月 18 日午前 10~12 時の間,新居浜市において時間最大雨量 56mm を記録する集中豪雨 が発生し,様々な河川土砂災害をもたらした.この多喜浜地区も例外ではなく,白浜川上流山地部か ら斜面崩壊が起き,流木ととともに流出した土石流が左岸側に溢れ出し深刻な浸水被害を受けた.ま た,浸水区域はその他にも楠崎川右岸側にも及び,上流から流出した土石流によって家屋が浸水被害 を受けた.この浸水被害の主な特徴として,JR 予讃線を挟んで上流側では,大きな礫を伴った土石流 が家屋を崩壊させるほどの甚大な被害であったこと,また下流側では主に細土砂からなる泥流が家屋 への浸水被害を招いたことである. 今回行った調査の目的は,多喜浜地区における浸水・河川災害の状況把握と原因究明を念頭に,な ぜ浸水被害が大きくなったのかについて,降雨・気象状況,越水した後の流況の把握,排水機能,泥 流の痕跡,被害に遭った住民の話からの調査データをもとに解明することである.また,楠崎川で起 きた土石流の流動と河岸浸食現象について,流路内の浸食状況やその右岸側への土砂流入状況について現地の状況を調査した.以下では,これらの調査結果の概要を写真ととともにその状況を述べる. 2.2 豪雨発生時の降雨気象状況 平成 16 年 8 月 18 日に新居浜市にもたらした集中豪雨の原因として,太平洋高気圧の周囲にある湿 った南からの風と沖縄近海から東シナ海を北上中の台風 15 号が合わさって四国山地に吹いたことに ある(図-2).20 日までの総雨量として銅山川流域にある富郷地点において 600mm が記録されている. 図-3は,新居浜市における 18 日の時間雨量を,総雨量で最も雨量の多かった銅山川沿いの観測所のデ ータも併せて示している.後に詳述するが総雨量こそ少ないものの新居浜市からわずか 16km ほど離 れた上猿田(富郷ダム付近)と比較しても大きな時間雨量の差があること,午前 10~12 時までの間に局 地的な集中豪雨(最大時間雨量 56mm)を記録していることが分かる.いかに短期的で局地的な豪雨であ ったかがこの図から認められる.この台風 15 号によって記録した全国各地の雨量データのランキング を総雨量,日雨量,時間雨量について示したものがそれぞれ表-1,2 および3 である.総雨量に関して はやはり四国中央市の富郷が 1 位,三島が全国で 8 位となっており,新居浜市は 20 位以内にはない. ところが表-2および表-3 の日雨量,時間雨量ではそれぞれ 18 位,13 位と短期間になるほど上位に登 っており,8 月 18 日の記録で比較すると時間雨量 56mm で山口県下松(時間雨量 59mm)に続いて全国 で 2 位に位置することになり,これらのデータからも短時間で集中した豪雨が発生したことが確認で きる.この集中豪雨によって,主に多喜浜地区周辺の神郷地区,郷地区で土石流に巻き込まれ 3 名死 亡,1 名重傷の人的被害をもたらした.また,多喜浜地区については泥流による浸水や土石流による 家屋の被害が相次いで発生している. 2.3 現地調査項目および調査地点 多喜浜地区の河川災害調査項目は,(1)白浜川多喜浜橋上流からの越水状況,(2)多喜浜橋左岸側の周 辺地域の泥流を伴った浸水の状況,(3)排水ポンプの故障による浸水被害の増大に関する調査,(4)楠崎 川からの土石流による河岸浸食および周辺家屋の崩壊,(5)楠崎川の土石流による河岸浸食,右岸側の 泥流による下流地区への浸水被害の 5 つである.これらの調査項目を念頭に行動した調査地点の概要 が図-4に示されている.主に,白浜川・多喜浜橋の周辺とその左岸側への浸水状況,楠崎川からの土 石流の流動による河岸浸食と右岸側への土砂流入状況の 2 つに大別できる.以下,図-4に示されてい る地点に沿って調査を行った内容を写真ととともにその状況を述べる. 2.4 調査地点の被害状況 調査地点①~⑤:白浜川多喜浜橋周辺と西側区域 写真-1は,白浜川多喜浜橋から上流に向かって撮影したものである.左に東白浜川,右に西白浜川 の二つの川が橋の地点で合流し下流に流れている.泥流を伴った浸水氾濫は西白浜川の左岸側に起き た.当時の状況としては東・西白浜川の両川から大量の流木を伴った泥流が流れ,合流地点直上流に ある橋を塞ぎ,主に西白浜川の左岸を泥流が乗り越え,道路をつたってさらに低地である西側の家屋 や遊水池に向かって流出した.写真-2はその遊水池と周囲の家屋の状況を撮影したものである.遊水 池の中も泥流で堆積しているが,被害が起きた 18 日午後には遊水池対岸の堤防を乗り越え,周辺の家 屋は半壊状態になった.また,写真右側に遊水池に溜まった水を排水するポンプがあるが,当時ポン プを始動させるために必要な電力の供給部である配電盤そのものが水に浸かって漏電していたこと, またポンプを稼働させるための必要な燃料が欠けていたことが原因で動かず,その結果遊水池周辺の 浸水被害を増大させたと考えられる.また,汲み上げた水を白浜川に注ぐためのポンプの排水口の先 は泥流で堆積し排水できる状況ではなかった.浸水深は周辺の家屋の泥流の痕跡を調査したところ, 低いところで浸水深約 1m の床上浸水であり,調査した時の状況は畳が剥がされ骨組みの状態であっ
た. 次に,その遊水池南側に沿った道路(県道壬生川・新居浜・野田線)を西に進むと泥流が流れた跡(写 真-3)や付近の家屋も床上まで泥流が流れた状態(写真-4)であった.また,復旧活動の状況も見受けら れ,消防車が出動して道路を清掃している様子や,土砂の埋め立て作業をする状況もあった(写真-5). 調査地点⑥~⑧:楠崎川上流部と下流部右岸側 写真-6は,楠崎川で JR 予讃線より上流 300m地点の湾曲部の様子を示している.上流地点の山地斜 面の崩壊によって流木とともに流れてきた土石流が,流路が上流から見て右岸側に屈曲しているため, 流れの緩くなった右岸である内岸部に流木が堆積する.この結果,右岸側が堰き止められるようにな り,流れが左岸側に集中する.その結果左岸の河岸浸食が起きることとなる.また河岸浸食によって 発生した新たな土砂が上流から入ってきた土石流に巻き込まれ,下流側にある家屋に押し寄せ被害を もたらせたと考えられる.写真-7は,その河岸浸食が起きた地点より 50m ほど降りたところにある家 屋であるが礫や細砂などが大量に入り込んで全壊状態である.さらに下流に進み JR 線付近に進むと復 旧活動している状況とともに,周辺の土砂は泥流の占める割合が大きいことが分かる(写真-8).また, 別の角度からみると周囲の崩壊した家屋への土砂流入状況も泥流が大きく占めていることが分かる (写真-9).すなわち,JR 線付近に至ると勾配が緩くなるためこの付近で大きな礫や流木が停止し,粒 径の小さな粘性土や細砂は緩い流れによる掃流力で遠くに運ばれたものと考えられる.事実,JR 線を 越えて楠崎川右岸側へ進むと堤防を乗り越えて入ってきた土砂(写真-10)も泥流による堆積であり,周 辺の水路(写真-11)を流れる土砂も浮遊砂が占めていた. 調査地点⑨~⑪:その他河川災害地点 写真-12は,写真-11よりさらに東側に進み体育館のグランドの泥流の堆積状況である.このグラン ドはもともと写真より 20~30cm 低いところにあったが泥流が押し寄せ堆積した状況であった.さら に東に進み白浜川と県道 13 号の交差点付近にある排水ポンプ設備を撮影したものが写真-13である. この排水ポンプは,先述した多喜浜橋左岸側遊水池にあったポンプとは異なり当時正常に稼働してい たが,上流地点にある多喜浜橋左岸側付近の浸水氾濫を軽減するほどの効果は無いと考えられる.一 方,県道 13 号を西に進んで行くと楠崎川と本川が合流する地点で柳川の上流端にある多喜浜新田橋の 崩壊現場を見た.周囲の泥流を伴った越水や土石流によって崩壊したと考えられる. 2.5 土砂流動特性の傾向,浸水・河川災害に関するまとめと今後の被害軽減対策 台風 15 による集中豪雨による多喜浜地区の浸水・河川災害を調査した結果,土砂の流動特性は,JR 予讃線を挟んで上流側では細砂~巨岩の粒度分布で大きな砂礫を含む土石流であったこと,一方 JR 線 を挟んで下流側では主に粘性土や細砂を含む泥流であったことが明らかとなった.すなわち,勾配に 比例して砂礫を動かす力となる掃流力が変化し,このため小さな粒径ほど遠くに運ばれるということ, JR 線を境に勾配が緩くなっているため,このような土砂の流動傾向が発生したものと考えられる.さ らに浸水氾濫への大きな影響として流木がネックになっており,流木が河川の各所を堰き止め越水し 氾濫を起こしている大きな要因であると考えられる.また,白浜川多喜浜橋左岸側の遊水池にある排 水ポンプが浸水時,燃料不足や配電盤が浸水していたこと,排水口が土砂によって塞がれていたこと が原因で不具合が起きていた.今後,大量の流木による河川の閉塞が起きてきたことから,上流側の 山地部どの様な斜面崩壊が起き,流木がどの程度河川内に流れ込むか,河川内に流れ込んだ流木がど こで堰き止められるか,堰き止められた箇所から浸水する領域はどこか,これらの観点から流木のせ き止めを考慮したハザードマップ作成やあるいは危険箇所の特定,これに応じた避難のタイミング, 避難箇所の特定と住民への周知徹底など地域全体を踏まえた総合治水対策が必要とされる.
図-1 新居浜市多喜浜地区 図-2 8 月 18 日午前 6 時の天気図
18日午前6時
県道13号 白浜川 JR予讃線多喜浜
新居浜東港0
10
20
30
40
50
60
1時 3時 5時 7時 9時 11時 13時 15時 17時 19時 21時 23時
時間(hr)
時間雨量(
m
m
)
新居浜
柳瀬(銅山川)
新宮(銅山川)
上猿田(銅山川)
図-3 新居浜市と周辺の降水量の時間変化 表-1 総降水量(8/17-20) 表-2 日降水量 順位 府県支庁地点名 (mm) 順位 府県支庁地点名 (mm) 月 日 1 愛媛県富郷(四国中央市) 610 1 愛媛県富郷(四国中央市) 398 8 月 17 日 2 高知県本川(本川村) 602 2 宮崎県神門(南郷村) 338 8 月 17 日 3 宮崎県神門(南郷村) 487 3 高知県池川(池川町) 297 8 月 18 日 4 高知県船戸(東津野村) 445 4 高知県本川(本川村) 289 8 月 18 日 5 高知県池川(池川町) 424 5 高知県船戸(東津野村) 273 8 月 18 日 6 宮崎県中小屋(北郷村) 362 6 神奈川県箱根(箱根町) 264 8 月 17 日 7 宮崎県諸塚(諸塚村) 351 7 兵庫県洲本(洲本市) 257 8 月 17 日 8 愛媛県三島(四国中央市) 337 8 徳島県太竜寺山(阿南市) 252 8 月 17 日 9 大分県宇目(宇目町) 331 9 愛媛県三島(四国中央市) 236 8 月 17 日 10 高知県本山(本山町) 328 10 大分県宇目(宇目町) 224 8 月 17 日 11 高知県佐川(佐川町) 324 11 山形県鳥海山(遊佐町) 219 8 月 18 日 12 山形県鳥海山(遊佐町) 323 12 宮崎県中小屋(北郷村) 209 8 月 17 日 13 徳島県太竜寺山(阿南市) 300 13 渡島支庁南茅部(南茅部町) 200 8 月 20 日 14 宮崎県見立(日之影町) 292 14 新潟県相川(佐渡市) 200 8 月 18 日 15 神奈川県箱根(箱根町) 277 15 大分県出羽(野津町) 200 8 月 17 日 16 大分県出羽(野津町) 274 16 宮崎県諸塚(諸塚村) 195 8 月 17 日 17 高知県梼原(檮原町) 271 17 香川県財田(財田町) 192 8 月 17 日 18 兵庫県洲本(洲本市) 261 18 愛媛県新居浜(新居浜市) 189 8 月 18 日 19 徳島県福原旭(上勝町) 251 19 高知県佐川(佐川町) 187 8 月 17 日 20 香川県財田(財田町) 243 20 新潟県弾崎(佐渡市) 183 8 月 18 日表-3 時間降水量 順位 順位府県支庁地点名 降水量(mm) 月 日 時分(まで) 1 宮崎県神門(南郷村) 123 8 月 17 日 22 時 10 分 2 神奈川県箱根(箱根町) 96 8 月 17 日 18 時 40 分 3 兵庫県洲本(洲本市) 82 8 月 17 日 18 時 10 分 4 愛媛県富郷(四国中央市) 70 8 月 17 日 16 時 10 分 5 高知県本川(本川村) 64 8 月 17 日 15 時 40 分 6 石川県輪島(輪島市) 63 8 月 17 日 20 時 40 分 7 兵庫県南淡(南淡町) 63 8 月 17 日 14 時 50 分 8 宮崎県諸塚(諸塚村) 61 8 月 17 日 22 時 20 分 9 和歌山県友ヶ島(和歌山市) 60 8 月 17 日 20 時 20 分 10 山口県下松(下松市) 59 8 月 18 日 2 時 20 分 11 渡島支庁南茅部(南茅部町) 57 8 月 20 日 5 時 40 分 12 徳島県太竜寺山(阿南市) 57 8 月 17 日 15 時 40 分 13 愛媛県新居浜(新居浜市) 56 8 月 18 日 11 時 20 分 14 静岡県三島(三島市) 54 8 月 17 日 18 時 00 分 15 愛媛県三島(四国中央市) 54 8 月 17 日 16 時 00 分 16 静岡県本川根(本川根町) 53 8 月 17 日 23 時 00 分 17 香川県多度津(多度津町) 53 8 月 18 日 11 時 30 分 18 鹿児島県大隅(大隅町) 53 8 月 18 日 15 時 00 分 19 京都府舞鶴(舞鶴市) 52 8 月 17 日 14 時 20 分 20 高知県池川(池川町) 51 8 月 18 日 10 時 00 分 21 宮崎県中小屋(北郷村) 51 8 月 17 日 22 時 40 分
図-4 調査地点の概要 写真-1 調査地点①:白浜川・多喜浜橋周辺 白浜川 楠崎川 13号線 JR線 ①白浜川・多喜浜橋 ②多喜浜橋左岸側 の遊水池 ③排水ポンプ設備1 ⑤復旧作業の様子 ⑥土石流による 河岸浸食 ⑦家屋崩壊と 復旧活動 ⑧ 楠 崎 川 右 岸 側 への土砂流入 ⑩排水ポンプ設備2 本川 ④浸水の痕跡調査 ⑨本川右岸側への土 砂流入 ⑪楠崎川・本川合流地点の橋桁の崩壊 ⑫右岸側 浸水・崩壊状況 柳川 1.土砂・流木が 上流から流出 2. 流木が橋を塞ぎ 堰き止める 3.堰き止められた橋から土 砂が左岸へ流出 4.左岸の道路をつたって大 量の土砂が流出
写真-2 調査地点②:多喜浜橋左岸側の遊水池 写真-3 調査地点④:浸水の痕跡調査 3. 浸水した区域 (古い家屋は半壊に 近い状態) 2.遊水池に溜まった水を 排水するポンプ設備 1.白浜川左岸側の道路を 乗り越え,遊水池に土砂 が流入・堆積 泥流が流れた跡
写真-4 調査地点④:泥流が流れ込んだ家屋
写真-6 調査地点⑥:土石流による河岸浸食(楠崎川) 写真-7 調査地点⑦:家屋の崩壊 3. 川で無かった部分が浸食さ れ新しい流路が形成 1.河道内右岸側に流木が堆積 4.上流からの供給に加え大 量の土砂が流出 5.下流の家屋への被害 2.流向が左岸側へ偏る
写真-8 調査地点⑦:JR 川付近の下流部の堆積状況
写真-10 調査地点⑧:楠崎川右岸側への土砂流入状況
写真-12 調査地点⑨:体育センター隣のグラウンド
3.東大洲地区における平成 7 洪水と比較した治水効果の検証 3.1 肱川流域の概要と調査の目的 肱川は愛媛県南部(南予)の大洲平野を貫通する一級河川であって,流路延長は 103km,流域面積は 1210km2である.流域の形状は図-5に示すように放射状(扇状)であり,比較的大きな支川が流域の中央 部で合流し,盆地である大洲平野に集まって急に大河となる.すなわち,肱川本川は稲生川,黒瀬川, 野井川,船戸川,河辺川などの支川から流れを集め,中山川,田渡川の水を集めた小田川と流域のほ ぼ中央で合流し大洲平野へ流れ込む.大洲平野を貫流した肱川は五郎地点で矢落川と合流するが,五 郎から河口の長浜間は山脚が両岸に迫り峡谷の様相を呈する.ただ,この間に春賀,八多喜などの平 野部に集落が形成されている.中流域が盆地で,下流域が狭窄部となっている特性は規模こそ違うも のの,広島県の三次盆地から島根県江津に流れ出す江の川によく似ている.また,肱川流域の特徴と して,肱川を注ぐ支流の数が 474 と全国で 5 番目に多く四国で 1 番多いこと,源流地点の標高が低く(標 高 460m)山地部にもかかわらず河床勾配が緩いということ,さらに先行性河川によって先述したよう に河口部が狭窄部になっており,このため河口における潮位の影響も受けやすい.また,源流地点か ら河口までの直線距離が 18kmと非常に短いことが挙げられる.これらの肱川の独特の特徴により, 水が溜まりやすく捌けにくい流域になっており,これまで肱川流域は幾度となく浸水被害を受けてき た.河口は瀬戸内にあるものの流域の一部は太平洋岸式気候区に入り,降雨は夏期に集中し梅雨前線 や台風によってもたらされ、年平均降雨量は 1600~2000mmである. 平成 16 年 8 月 30 日未明から 31 日にかけて中国地方の日本海側を横断した台風 16 号によって,肱 川の上流域で約 300mmを越える豪雨を記録し,肱川本川に最大流量 3800m3 /s(推定)もの出水によって 流域内の各所で浸水被害をもたらした.しかしながら,大洲市中心部の東大洲地区では,大洲市によ って整備された二線提や国土交通省によって行われた激甚防災対策緊急事業(激特事業)による効果で, H7 当時の洪水を上回る大出水でありながらも浸水面積・被害が激減していた.本報告では今回発生し た台風 16 号による降雨気象状況や出水の状況を述べるとともに浸水状況を平成 7 当時の洪水と比較す ることで,これら 2 つの治水事業の効果について検証する. 3.2 浸水被害時の降雨気象 肱川流域に豪雨をもたらした原因は台風 16 号である.鹿児島県串木野市付近に上陸した台風 16 号 は,その後九州を縦断し山口県防府市付近に再上陸し中国地方の日本海側を横断した(図-6).平成 16 年 8 月 30 日未明から 31 日 3 時にかけて降雨が続き,総雨量が上流の小田で 239mm,上影で 331mm, 大洲市内で 168mm もの記録的な雨をもたらした(図-7).今回の豪雨の特徴として肱川源流の鳥坂峠付 近は少なく,東側の小田,河辺,上影地点に集中豪雨をもたらしたことである.この付近に降った雨 により小田川,河辺川,船戸川の流入量が本川上流からの流量と比較して大きいものと推測される. 図-8(a), (b)および(c)は,それぞれ大洲地点,鹿野川地点および小田川上流にある坊屋敷地点の時間雨 量の変化を平成 7 年洪水当時の降雨状況と比較したものである.なお,平成 7 年と平成 16 年の二つの 降雨データは大洲第 2 観測所で記録された水位ピークの時間を一致させて併示している.図(a)~(c) の全ての降雨状況に関して,平成 7 年の降雨状況と比較して平成 16 年の降雨は短期間に降雨が集中し ていたことが分かる.大洲地点(a)の 12 時間連続雨量は平成 7 年洪水の 1.6 倍であり,時間雨量 15mm 以上の降雨が 5 時間継続していた.肱川上流域の鹿野川地点(b)においては,その傾向が顕著であり, 12 時間連続雨量は平成 7 年洪水の 1.9 倍であり,上流側ほど急激な雨であった.この鹿野川地点では 時間雨量 15mm 以上の降雨が 6 時間継続していた.一方,小田川上流域の坊屋敷地点(c)の降雨は,集 中豪雨の傾向がさらに大きくなっており流域東側山地部に局所的・短期的な雨が降った様子が窺える が,総雨量と比較すると平成 7 年洪水の梅雨前線による長時間にわたる降雨に比べて小さいことが分 かる.
3.3 東大洲地区における出水状況 出水状況について 8 月 30 日 1 時から 31 日 23 時までの大洲第 2 水位観測所における水位の時間変化 を図-9 に示している.また,大洲雨量観測所の時間雨量の変化も併示している.8 月 30 日午後 3 時 30 分指定水位を超え,その約 1 時間 40 分後の午後 5 時 10 分に警戒水位 3.8m を越えた.その後,約 2 時間 30 分後の午後 7 時 40 分に危険水位 5.2m を超え始め,その約 1 時間半後に矢落川の暫定堤防を 越えて二線提内を流れ始める.さらに翌朝 8 月 31 日の午前 0 時 40 分に最高水位 6.85m に達し,危険 水位を 1.65m も上回る状況であった.その直前の 0 時 28 分に二線提の越流が始まり,その約 4 時間 後の午前 4 時 40 分頃に二線提と暫定堤防からの越流がほぼ同時刻に終わっている.今回の出水状況に 関して平成 7 年当時のものと比較した図が図-10 である.前出した雨量データの図と同様に水位ピー クを揃えて比較しているが,この図から短期的な集中豪雨のパターンに応じてハイドログラフの形も 鋭利であることが分かる.また,ピーク水位も約 1m 高いことから平成 7 年よりも大きな水位(流量) 規模の洪水であったことが推測される. 3.4 激甚防災対策事業(激特事業)と二線提整備事業の概要 激特事業(激甚防災対策特別緊急事業)は,平成 7 年 7 月の水害を受け,同規模の災害を今後防ぐ ために採択された事業である.平成 7 年~平成 12 年度の 6 年間で,東大洲地区など 10 地区で築堤な どを実施している.激特事業実施箇所を図-11 に示している.河川沿いに黒で示した部分が平成 7 年 当時すでに完成した堤防であり,赤で示した部分が激特事業で行われた箇所であり,東大洲地区の矢 落川の合流点付近,春賀地区の右岸側堤防,伊洲子・岡地区の左岸側堤防,八多喜,白滝,田淵地区 の右岸側堤防,豊中,柿早,大和地区の左岸側堤防である.なお,矢落川との合流地点,春賀,伊洲 子,八多喜,豊中,白滝の 6 地区は暫定堤防としている. また,二線提の整備は大洲市によって整備され,東大洲地区の暫定堤防(矢落川左岸)を越水して市 街地に氾濫する洪水を軽減する目的,氾濫開始時刻を遅滞させ,避難するための時間を多くとる目的 で整備された.また,洪水後河道内の水位が低下した後に排水するための古川樋門を建設している. 図-12 には矢落川暫定堤防と二線提および古川樋門の状況が示されている.二線提は,肱川本川や矢 落川上流部の堤防高さと同じ天端標高 T.P.+12.2m の高さに整備されている. 3.5 平成 7 年の浸水被害状況と比較した治水効果の検証 図-13 は,それぞれ東大洲地区の浸水面積と浸水被害状況を示したものである.浸水面積について は,平成 16 年 8 月の浸水面積を赤で,平成 7 年 7 月のものを半透明の白塗り赤枠で囲っている.平成 7 年当時の浸水面積と比較して,矢落川沿いの暫定堤防からやや上流部と二線提の外側で大きく減少 していることが分かる.浸水戸数に関しても床上,床下ともに約 1/5~1/6 減少していることが分かる. 平成 7 年から行われた暫定堤防などの激特事業と大洲市が整備した二線提の効果が現れていることが 分かる. 次に,これらの効果に関して出水時の状況を振り返りながら考える.図-14 は,浸水被害が起きた 当時の写真に,大洲平野内の浸水状況を併せて示したものである.8 月 30 日午後 10 時 15 分に暫定堤 防の越流が始まり,暫定堤防からの河川水が大洲平野内を流れ込む,その翌日 31 日の午前 0 時 28 分 に二線提内が満水となり,越流を開始する.さらにその約 4 時間後に水位が暫定堤防とほぼ同じ高さ になる頃に越流が終了する.したがって,これらの状況から分かるように暫定堤防と二線提とで囲ま れる遊水区域内で 2 時間 13 分貯留することができ,この時間分で避難する時間の確保ができたと言え, 激特事業と二線提の効果がこの図からも確認できる.図-15 は二線提内に実際どの程度の貯留効果が あったのかを示した模式図である.まず,矢落川の暫定堤防から越流してきた水が溜まり,さらに二
線提からの越流が起き東大洲地区が浸水する.当時の最大浸水位がT.P.10.79mであるから,二線提内 の湛水量が 60 万m3の中で,東大洲地区の最大浸水位と同じレベルの 10 万m3の上の 50 万m3が貯留さ れたことになる.また,この貯留分 50 万m3がもし流出していたら東大洲地区の水位は 22cm上昇した と算定されており,この僅かな差が床上・床下浸水を大きく左右することは当然のことながら認識さ れるべきことである.また図-16 は,もし激特事業や二線提の整備を行わなかった場合に起きたと想 定される東大洲地区の浸水面積・浸水戸数の推定値である.まず浸水面積について,平成 7 年洪水後 に起きた浸水面積は 370haである.平成 7 年洪水後以降,もし激特事業と二線提の整備の二つの治水 対策を行わないで今回の洪水を迎えた場合 450haに増加したと推定されている.また,激特事業のみ を行った場合,300haまで減少,さらに激特事業および二線提の整備を行った今回の浸水被害は 230ha となった.つまり,何も対策をしなかった場合の 450haから今回の結果 230haを差し引いたものが,二 つの治水事業の効果であったと言える.また,浸水戸数についても平成 7 年洪水後に被害を受けた家 屋は,床下 240 戸,床上 384 であった.同じく平成 7 年洪水後以降,二つの治水対策を行わず今回の 洪水を迎えた場合,全部で 1050 戸まで増加したと推定されている.また,激特事業を行い今回の洪水 を迎えた場合 350 まで減少,さらに今回の洪水による結果は床下 119 戸,床上 78 戸で計 197 戸であっ た.すなわち,治水対策無しの推定値 1050 戸から激特事業のみを行った場合の推定値 350 戸を差し引 いたものが激特事業の効果であり,また激特事業のみを行った場合の推定値 350 戸から今回の結果 197 戸を差し引いたものが二線提の整備による効果であると考えられる.写真-14は,今回の台風 16 号に よる洪水後の二線提の様子である.越水時の流れによるせん断と水圧によってのり面の浸食が起きて おり,二線提そのものの安定性を低下させているように思われる.今後起きる可能性のある洪水に耐 えうるかが懸念されるため今後も早急に修復が必要であると考えられる. 3.6 平成 7 洪水と比較した治水効果の検証に関するまとめ 以上の調査結果より,平成7年の洪水を教訓として行われた激特事業・二線提の整備により,より 大きな今回の洪水に対しても,浸水面積・戸数の減少,避難時間の確保など効果を得ることができた と言える.今後の対策として二線提の修復作業を早急に進めるとともに,今回浸水被害が顕著であっ た地域についての治水事業を進める必要がある.さらに,今後予想される東大洲地区の市街化による 浸水氾濫の影響も考慮する必要がある.
図-5 肱川流域 図-6 8 月 30 日午後 3 時の天気図 流域面積:1210km2 幹線流路延長:103km 本川 源流: 東宇和郡鳥坂峠(標高460m) 標高1000mを 越す四国山地
30日15時
図-7 等雨量(2 日間(8/29-30)の総雨量)線図 図-8(a) 降雨状況(大洲地点) 300mm超 (東側上流に偏った 集中豪雨) 168mm (大洲の中心部) 0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 -49 -44 -39 -34 -29 -24 -19 -14 -9 -4 1 6 11 16 21 26 31 36 41 46
時間(hr)
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H7.7雨量(大洲)
H16.8雨量(大洲)
水位ピーク0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 -49 -44 -39 -34 -29 -24 -19 -14 -9 -4 1 6 11 16 21 26 31 36 41 46
時間(hr)
雨量(
m
m
)
H7.7(鹿野川)
H16.8(鹿野川)
図-8(b) 降雨状況(鹿野川地点) 図-8(c) 降雨状況(坊屋敷地点) 0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 -49 -44 -39 -34 -29 -24 -19 -14 -9 -4 1 6 11 16 21 26 31 36 41 46時間(mm)
雨量(
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m
)
H7.7雨量(坊屋敷)
H16.8雨量(坊屋敷)
図-9 出水状況(水位ハイドログラフ) 図-10 出水状況(平成 7 年洪水との比較)
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8/30PM3:30 指定水位 8/30PM7:40 危険水位 8/30PM5:10 警戒水位 8/31AM0:40 最高水位(6.85m)8/31AM0:28
二線提越流
8/31 AM4:35 二線提越流終了 AM4:44 暫定提越流終了 降雨が小さくなる頃に 洪水が発生 指定水位2.8m 警戒水位3.8m 危険水位5.2m 危険水位を 1.65m越える 水位(m) 雨量(mm)0.00
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4:00
7:00
10:00 13:00 16:00 19:00 22:00
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4:00
7:00
10:00
H7水位(m)
H16水位(m)
H7ピーク水
位
H16ピーク水位 6.85m 約1m高い 降雨状況に応じて ハイドロの形も鋭利図-11 激特事業実施箇所 図-12 二線提と古川樋門 肱川本川 支流矢落川 延長500m 周辺の堤防より3.6m低い 延長1180m 天端標高TP+12.24m
図-13 東大洲地区の浸水面積と浸水被害状況の比較(赤が H7,赤枠白線が H16) 図-14 大洲平野内の浸水状況
①東大洲地区
H16 H 7 床上浸水戸数 33 231 住宅 床下浸水戸数 44 217 合計 77 448 非住宅 120 176 浸水戸数合計 197 624 浸水面積(ha) 230 370 8/30PM10:15 暫定堤防越流開始矢 落
肱
2時間13分間 二線提内部で浸水 8月31日AM0:28 二線提越流開始 8月31日AM4:44越流終了 水位=暫定堤防高 激特事業と二線提により2時間 13分間の避難時間の確保図-15 二線提による浸水位の低減 図-16 浸水面積・戸数(大洲盆地) 矢落川
暫定堤防からの越流
二線提からの越流
T.P.12.24m 二線提湛水量:60万m3 最大浸水位 T.P.10.79m 東大洲地区 約50万m3 約10万m3浸水面積
浸水戸数
H7 激特前 (実績) H16 激特前 (想定) H16 激特後 (想定) H16 激特 +二線提後 (速報) H7 激特前 (実績) H16 激特後 (想定) H16 激特 +二線提後 (速報)370
450
300
230
384 床上 1050 240 床下 350 119 78 激特の効果 二線提の効果 H16 激特前 (想定)4.周桑郡小松町妙之谷川における土石流の流動形態 4.1 台風 21 号による河川災害の概要と調査の目的 平成 16 年 9 月 21 日にグアム島の西で発生した台風 21 号(図-17)は,その後発達を続け南西諸島に接 近し,さらに宮古島北東で速度を落として停滞していたものの,9 月 28 日には北東方向に動き始めた. 9 月 29 日午前 8 時半頃鹿児島県・串木野市付近に上陸し,この時鹿児島市では最大瞬間風速 52.7m/s を記録した.また,台風中心からまだ遠い三重県・尾鷲で既に時間雨量 130mm/以上の豪雨を記録, その後南九州を通過し,午後 3 時すぎ高知県宿毛市付近に再上陸した.豪雨の主な原因は秋雨前線を ともなった台風 21 号の通過によるものであり,西日本各地に様々な土砂・河川災害をもたらした.ま た,愛媛県東予にも午後 4 時半頃,各地で土砂・河川災害が発生した.特に河川災害については,周 桑郡妙之谷川,新居浜市阿島川および西条市の渦井川において,上流山地斜面の崩壊によって流出し た流木による橋梁断面の堰止め効果によって河川周辺の越水・浸水被害を引き起こした.本報告では, 台風 21 号による降雨状況と愛媛県東予における河川災害箇所の概要について述べるとともに,特に上 流山地部の崩壊により流木を伴った土石流が発生し,これによる越水被害が大きかった周桑郡小松町 にある妙之谷川について,土石流の流動形態の観点から調査・考察した内容を述べる. 4.2 降雨状況と愛媛県東予における河川災害箇所の概要 図-18は,土砂災害・河川災害が相次いで発生したとされる 9 月 29 日午後 4 時頃のレーダ雨量であ る.小松町,西条市,新居浜市を中心とする東予地域の上流山地部では時間雨量 40~100mm までの 非常に強い雨が降っていることが分かる.図-19は,これらの市町周辺の雨量観測所(新居浜,玉川, 丹原,伊予三島)から,9 月 29 日の時間雨量,累積雨量のデータを抽出したものである.また,東予 周辺で最も雨量が大きかった銅山川流域の上猿田および富郷地点の雨量データも併示した.秋雨前線 を伴って台風 21 号が四国を通過する時間に対応する午後 4 時から 6 時までの間に,時間雨量 40mm 前後をこの東予地域に記録している.累積雨量に関しても平均で約 200mm に至っていることが分か る. 上述の強い降雨により発生した東予各地の河川災害に関する被害の状況(愛媛県調査)を小松町,西 条市,新居浜市に分けて図-20(a)~(d)に示した.図(a)の小松町に関しては,中山川の支流である妙之 谷川の国道 11 号が交差する地点右岸側で流木が詰まり氾濫し,人的被害も受けた.図(b)の西条市に おいては加茂川の東側を流れる室川において河川の増水により護岸崩壊した.また室川の支流である 長谷川では橋梁に流木が詰まり溢水,さらにその下流にある渦井川も同様に流木が詰まり,近くにあ る飯積神社付近において両岸が越水した.図(c)の西条から新居浜にかけての地域では,松山自動車道 裏山からの土砂流入で被害が大きかった大生院より西側にある早川において,同じく土石流・流木に より浸水した.また,大生院から下流側にある新居浜市桜川において河川氾濫により溢水している. 最後に,図(d)の新居浜市中心部から東側の地域においては,阿島地区にある阿島川が同様に流木を伴 う越水被害が各所で発生し,また,国領川の西側 1km を流れる尻無川では,流木が橋梁に詰まり越水, 橋梁も崩壊した.次節では,これらの被害箇所の中で特に顕著であった妙之谷川の河川災害について, 土砂の発生原因と発生した土砂がどの様に流れてきたかについて状況を調査するとともに,従来行っ た土石流の実験的研究から得られた知見をもとに流動形態を考察する. 4.3 周桑郡小松町妙之谷川に発生した土石流の流動形態に関する考察 先述した豪雨によって.妙之谷川では上流山地部が崩壊し,流木とともに大量の土砂が流出し,土 石流が橋梁を塞ぎ越流させ,あるいは橋梁そのものを崩壊させた.このような土石流の流動形態がど のようなものであったかについて,現地で調査した状況をもとに以下に考察することする. 図-21 は,妙之谷川沿いの調査ポイントを示したものであり,それぞれのポイントに沿ってその状
況を述べる.写真-15 は,周桑郡小松町大頭の国道橋と妙之谷川が交差する地点にある国道橋(妙之谷 橋)の様子である.当時の状況としては,まず橋脚に流木が詰まり,次に上流からやってきた流木を伴 う土石流が堰上げられ流木が両岸に流出,特に上流の湾曲流路の影響で右岸側への流出が顕著であっ たと考えられる.その結果,右岸側の家屋(写真-16)を破壊し物的被害を及ぼした.この土砂流出は右 岸側の家屋のさらに奥まで進んでいた.また,国道橋より上流 200m の地点の様子を写真-17に示して いる.この地点は,以前向こう岸まで渡る橋があったが土石流によって全て流された.流された橋脚 は国道橋から約 50m 下流地点にあった(写真-18).すなわち橋梁があった地点より 250m 流されたこと になり,土石流の及ぼす強さが窺える.さらに国道橋上流 300m 地点の石土神社橋(写真-19)において は,流木が橋を遮った後,橋を乗り越えたと思われる状況が見られた.また下流右岸側において河岸 浸食が広範に起きていることが分かった(写真-20).さらに上流にある松山自動車道妙口トンネル出入 口付近にある橋では,上流側の湾曲流路から流出した土石流によって右岸側の護岸が崩壊,さらに橋 梁を乗り越えガードレールを折り曲げ(写真-21),さらに右岸側護岸の上を崩壊とともに流木を乗り越 えた(写真-22).一方,国道橋より上流 800m 地点にある香積橋では橋脚がないことから,他の橋梁よ りも流木の詰まりが少なく被害も比較的少なかった. 次に,国道橋より約 1.2km 上流を進むと,最も下流側にある土石流の発生源があった(写真-23).こ の斜面の直ぐそばに妙之谷川が流れており,崩壊した土砂が崩壊とほぼ同時に河道内に入ったようで あった.その他にも上流側では 6 箇所(写真-24),全部で土砂崩壊箇所は 7 箇所となり,これらの崩壊 箇所から河道内に流れ込み,下流側の越水被害を引き起こしたと考えられる.この崩壊現場よりさら に上流に行くと梅ヶ瀬橋下流側(写真-25)で河岸浸食が見られ,さらに上流の山ノ神橋付近の上流(写真 -26)においても水衝部のところで護岸が崩壊し,その左岸側ではやや低地になっているため越水市流 出した様子(写真-27)が見られた.その地点から下流にある県道石鎚・丹原線沿いの家屋は土砂流入に よる深刻な浸水被害を受けていた. 土石流の流動は,一般的に上流山地部の斜面崩壊によって土砂が生産され,渓谷部の河川に堆積し 上流からの水の堰上げによって水圧が上昇し決壊し流出する.すなわち,斜面崩壊によって河道内に 堆積した土砂は自然にできた堆砂ダムのような形になり,そのダムの上流から流れてくる水あるいは 土石流によって堰上げられ,堆砂ダム上流部の水圧が上昇し,堆砂ダム内の水も浸透し,その結果ダ ム先端部や表層部から浸食が起き下流へ流出する.既存の実験的研究では,このダムの崩壊流出パタ ーンは構成土砂によって異なるとされている(図-22).まず一つめのパターン(pattern 1)として細砂・粘 性土がこの堆砂ダムを占める場合,このダムの存在によって表面より上に堰上げられ先端部で水が浸 透する.その後しばらくの時間をおいて表面の浸食と先端部の崩壊による土砂流出が起きる.比較的 大きな粒径砂礫と細砂が混じる混合砂礫の場合もこのパターンに属する.一方,二つめの崩壊流出パ ターン(pattern 2)として,大きな粒径砂礫が堆砂ダムを占める場合,堆砂ダム内の間隙をぬって水が浸 透し,その直後に堆砂先端部から流出する(堆積から崩壊までの時間が短い).このような土石流の流 動傾向から妙之谷川に起きた土石流の発生流動傾向を考えると,大量の流木が土石流の中に混在して いたこと,河道内には比較的大きな粒径礫もあったことから,間隙率が多く浸透性がある土塊が流れ てきたものと考えられ,pattern 2 の流動形態であると考えられる.また,川沿いに住む住民からの話 では,山地斜面崩壊とほぼ同時に流出が起きたという状況であったことから,この流動形態に近いも のと考えられる.山地斜面崩壊からどの程度の時間で下流まで流れてくるかを予測することは非常に 重要であると考えられる.これには上流からどの様な雨が降って山地部からどの程度の水量が流れる かといった算定についての流出解析も重要である.また土石流が流れてきた後,橋の流木による閉塞 によってどのような浸水被害が起きるかを予測することも重要と考えられる.
4.4 妙之谷川における土石流の流動形態に関するまとめ 小松町妙之谷川においても,他の新居浜市,西条市における河川災害同様,山地斜面の各崩壊箇所 から大量の流木・土砂が流出し下流の家屋への越水による被害をもたらした.その特徴として流木が 橋脚によって堰き止められ,河の通水断面を減少させ,流木も越えるような浸水被害が発生したこと である.四国の瀬戸内海側にある中小河川は,平野部が狭く山地部が迫ってきており,今後も土石流 による浸水などの河川災害が甚大となる可能性があると考えられる.今後も台風や秋雨前線の影響に より,土砂災害,河川災害が起きる可能性があるため,現時点の対策として降雨気象状況を見て,は やめに避難することが大切であると考えられる.また,斜面崩壊から堆砂ダムになり,それが土石流 に流出するプロセスを,流木などを考慮し検討する必要があると考えられる. 5.おわりに 本報告では,愛媛県に被害をもたらした台風 15 号,16 号,21 号の 3 つの台風による河川災害につ いて降雨気象状況や出水状況について調査するとともに,新居浜市および周桑郡小松町における山地 斜面崩壊による土石流の流動形態,浸水被害状況に関して,大洲市東大洲地区の浸水状況を平成 7 年 洪水との比較でこれまで行われてきた治水事業の効果に関して報告した.以上調査を行ってきた様々 な河川災害について,上述したような検討課題を踏まえて引き続き今後調査研究を行っていきたい.
図-18 レーダ雨量(9/29 16:00) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 上猿田 富郷 新居浜 玉川 丹原 伊予三島 0 50 100 150 200 250 300 350 400 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 上猿田 富郷 新居浜 玉川 丹原 伊予三島 図-19 小松・西条・新居浜周辺の雨量(9/29) 時間雨量 累積雨量
図 20(a) 被害箇所(小松町) 図 20(b) 被害箇所(西条市) 松山自動車道 加茂川 JR予讃線 国道11号 西条市大久保 土石流により民家の裏山が崩壊 ③ 西条市(条)長谷川 橋梁に流木が詰まり溢水 ② 西条市(二)室川 河川の増水により護岸崩壊 ④ 西条市(条)渦井川 飯積神社付近 流木が詰まり両岸越水 ①小松町(二)妙之谷川 国道橋(妙之谷川橋)に流木が詰まり氾濫 75歳の女性が流され死亡 中山川 妙之谷川 いよ小松IC 国道11号
図 20(c) 被害箇所(西条市→新居浜市) 図 20(d) 被害箇所(新居浜市) ⑤ 西条市早川(はいかわ) 土石流・流木により浸水 ⑥ 新居浜市(二)桜川 河川氾濫により溢水 新居浜市大生院 松山道裏山崩壊 松山自動車道 国道11号 いよ西条IC 国領川 JR予讃線 国道11号 JR予讃線 ⑦ 新居浜市久保田町(二)尻無川 橋梁に流木が詰まり越水,橋梁も崩壊 ⑧新居浜市(二)阿島川 安城寺前の橋梁に流木が詰まり越水 路側兼用護岸が約10mにわたり崩壊 ⑨新居浜市(二)西ノ郷川 阿島川合流点の県道橋に流木が詰まり越水 ⑩新居浜市(二)長谷川 土石流により河川が埋塞し越水 ⑪新居浜市(二)阿島川 土石流・流木により河川が埋塞し越水
図-21 妙之谷川沿いの調査ポイント
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
写真-15 周桑郡小松町大頭の国道橋(妙之谷橋)付近 (調査ポイント①)
写真-17 土石流により橋梁すべてが流された跡 (調査ポイント②)
写真-19 石土神社橋(国道橋より約 300m) (調査ポイント③)
写真-21 松山自動車道妙口トンネル付近にある橋 (調査ポイント④)
写真-23 最下流端の土石流発生源(調査ポイント⑥)
写真-25 梅ヶ瀬橋下流側の河岸浸食(調査ポイント⑦)
写真-27 山ノ神橋上流左岸側からの越水し流出した痕跡(調査ポイント⑧) 図-22 堆砂ダムを構成する粒径砂礫によって起きる土石流の流出パターンの違い 河床 河床 pattern 1:細砂・粘性土が堆砂ダムを占める場合 pattern 2:大きな粒径砂礫が堆砂ダムを占める場合