判例評釈
〔行政判例研究〕
早稲田行政法研究会
4 神奈川県の法定外税条例が地方税法の法人事業税規定に 違反するとして違法・無効とされた事例
⎜⎜ 神奈川県臨時特例企業税通知処分取消等請求事件 ⎜⎜
(横浜地方裁判所2008[平成20]年3月19日判決、
判例時報2020号29頁、判例地方自治306号29頁)
岡 田 正 則
《事実の概要》
被告Y(神奈川県)は、2001(平成13)年、臨時特例企業税条例(以下「本件条 例」という)を制定した。本件条例が創設した臨時特例企業税(以下「企業税」と いう)は、地方税法4条3項および259条以下の規定に基づく道府県法定外普通 税であり、県内に事務所または事業所を有する資本金5億円以上の法人を課税の 対象とし、法人事業税の課税標準である所得の金額の計算上繰越控除欠損金額を 損金の額に算入しないものとして計算した場合の所得の金額に相当する金額(当 該金額が繰越控除欠損金額を超える場合は繰越控除欠損金額に相当する金額)を課税 標準とし、税率を原則100分の3(2004[平成16]年4月1日以降は100分の2)とす る税である。この企業税の課税対象となった原告Xは、法人事業税につき欠損金 額の繰越控除を定めた地方税法の規定を本件条例が潜脱して課税するものである から本件条例は違法・無効であるなどと主張し、Yを被告として、主位的に、
2003年度・2004年度分の企業税に相当する金額の還付等を、予備的に、上記各年 度分の企業税の更正決定の取消し等を求めて出訴した。
これに対し、Yは、①近年の地方分権改革の趣旨をふまえれば、法定外税の創 設についても地方団体の自主性を尊重した法解釈が採られるべきである、②企業 税は、法人事業税(法定税)が企業の応益負担分を的確に捕捉していない部分に ついて法定外税の形式で課税するものであるので、二重課税には該当しないし、
また地方税法の法人事業税規定の趣旨に反するものでもない、③法定外税は総務 大臣の同意という法定税よりも格段に重い手続を経るものとされており、企業税
はこの同意を得て、適法だと認められた、④したがって、地方税法は企業税のよ うな法定外税を禁止してはいないし、本件条例は適法である、などと反論し、本 件条例とこれに基づく課税処分は適法である旨を主張した。
《判旨》
Xの主位的請求を認容。
(1)地方団体の課税権、法定外税の趣旨、総務大臣との協議制度の趣旨につ いて。「地方団体の課税権が地方自治の不可欠の要素として憲法上保障されてい ると解されることに照らし、地方税法上の規定もこのような地方団体の課税権の 趣旨に即して解釈、運用するようにしなければならないとしても(地方自治法2 条12項参照)、当該課税権は……あくまでも地方税法上の具体的準則に従って行 使されなければならないものというべきである」。「法定外税の趣旨は、道府県に おいて、第一義的には法定税を課する一方で、道府県の自主的な課税権に基づ き、その実情に応じて法定税の課税を補充するため、法定税以外の課税をするこ とにあるということができる」。「法定外税の新設又は変更に係る総務大臣との同 意を要する協議(地方税法259条1項、261条)は、異なる行政主体間において経済 施策等の施策の整合性を確保するという、行政目的の下にされるものであって、
当該法定外税の適法性を審査する性質のものではないから、企業税の適法性は、
総務大臣の同意の判断如何にかかわらず、本訴において別途判断されるべき問題 である」。
(2)法定税に係る規定と法定外税との関係について。「法定外税という形式を 採ることにより、法定税に係る法定の準則と関わりなく課税できるとすれば、道 府県は、法定外税の形式を用いることにより、法定税に係る法定の準則を回避 し、いわばこれを潜脱して、実質的に当該準則に反する課税をすることも可能に なりかねないが、このことが、法定税の課税の準則として詳細な規定を設け、そ の定めるところによって地方団体が地方税を賦課徴収することができる(地方税 法2条)こととした地方税法の趣旨に反することは、明らかというべきである」。
「総務大臣との同意を要する協議は、……法定外税につき国の経済施策等の施策 との整合性を確保するという行政目的の下にされるものであって、地方税法が、
このような手続を経ていることの一事をもって、当該法定外税と法定税に係る法 定の準則との法的な整合性を不問に付す趣旨であるとは解することができない」。
「むしろ、法定外税の制度は、当該枠の趣旨に抵触しない限度で、地方税法が具 体化した以外の課税を可能とするもので、その場合に、同法261条に規定する事 由の下、総務大臣において国の施策との整合性を確保する手段を設けたものと解 すべきであり、法定外税の創設によって、その枠自体をも変更することは予定さ
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れていないものというべきである」。「地方税法は、第2章第1節ないし第10節に 並列的に規定する法定税について、それぞれが同時に課されることを予定してい る以上、それぞれが相互に整合的な内容となるように規定しているものと解され る。そして、法定外税もこれらの法定税と並列的な節において規定されているの であるから、法定税に係る規定と両立し、相互に整合的な内容となることが予定 されているものというべきである」。
(3)企業税の趣旨・目的について。「企業税は、実質的には、欠損金額の繰越 控除によって法人事業税の課税対象である所得から控除される部分の当期所得を 課税対象とし、繰越控除欠損金額を課税標準として課税する効果を持つものとい うことができる」。また「企業税及びその規定の趣旨・目的は、法人事業税にお ける欠損金額の繰越控除のうち一定割合についてその控除を実質的に遮断し、当 該部分に相当する額を課税標準として法人事業税に相当する性質の課税をする効 果を意図しつつ、この割合を税率の設定に反映させ、課税標準を繰越控除欠損金 額に相当する当期所得額として、同性質の課税をすることにある」。そして、企 業税の課税は「実質的には、法人事業税における欠損金額の繰越控除のうち一定 割合についてその控除を遮断し、当該控除によって法人事業税の課税対象である 所得から控除される部分の当期所得を課税対象とし、当該部分に相当する額を課 税標準として、法人事業税に相当する性質の課税をする効果を持つものというこ とができる」。
(4)企業税が法人事業税に係る規定の趣旨に反するか否かについて。「課税の 根拠ないし性格という意味での企業税の租税としての趣旨・目的は、上述のとお り法人事業税と共通するものというべきである」。「法人事業税は課税客体を『法 人の行う事業』としているところ(改正前地方税法72条1項、改正後地方税法72条 の2第1項)、企業税は課税客体を『法人の事業活動』としており(本件条例5条 1項)、その表現に若干の差を設けているが、いずれも、行政サービスの対象と しての法人の事業を課税客体にしているものと解され、両税の課税客体について 実質的な差異があるものとは解されない」。「そうすると、法人事業税における欠 損金額の繰越控除と、企業税の課税とは、その目的及び効果が相反するものであ り、法人事業税と企業税が同時に課せられる法人については、企業税の課税によ り、法人事業税の課税標準につき欠損金額の繰越控除を定めた規定の目的及び効 果が阻害されることになるといえる」。そこで、企業税が法人事業税に係る規定 の趣旨に反するかどうかについて検討する。まず、一定の範囲で法人事業税に外 形標準課税が導入されたことの経緯に照らしてみると、「改正前地方税法下では、
限定された要件の下で初めて、欠損金額の繰越控除を含めた法人事業税の課税標 準の特例が認められていたことからすれば、当該特例の要件を満たす場合以外は
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常に、改正後地方税法下では、当該特例の適用外とされた法人については常に、
欠損金額の繰越控除を含めた地方税法所定の法人事業税の課税標準の規定を全国 一律に適用すべきものとする趣旨であると解される」。また、「法人事業税が予定 するところの租税としての趣旨・目的及び課税客体に係る租税については、地方 税法が法人事業税について定めた課税標準の規定に従い、その規定の目的及び効 果を実現したところによって課すべきものとする趣旨であると解される」。「そう すると、少なくとも、法人事業税と租税としての趣旨・目的及び課税客体が共通 する法定外税の創設によって、全国一律に適用すべき法人事業税の課税標準の規 定の目的及び効果が阻害されることになることは、当該課税標準の規定を定めた 地方税法の趣旨に反するものといわなければならない」。したがって、「法人事業 税と租税としての趣旨・目的及び課税客体が共通する法定外税の創設によって、
法人事業税の課税標準の規定の目的及び効果が阻害されることになることは、地 方税法が当該租税の負担の程度を制限するため当該課税標準を前提に制限税率を 設けていることからしても、同法の趣旨に反するものというべきである」。
(5)結論。「以上のとおり、企業税の課税は、法人事業税の課税標準である所 得の計算につき欠損金額の繰越控除を定めた規定(改正前地方税法72条の14第1 項、改正後地方税法72条の23第1項)の趣旨に反し違法であるから、これを定める 本件条例は違法である」。「そして、地方団体は、法令に違反しない限りにおいて 条例を制定することができ(地方自治法14条1項)、地方税法の定めるところによ って地方税を賦課徴収することができるとされていること(同法2条)に照らせ ば、上記のような地方税法に違反する租税を創設する条例を制定することは、地 方団体の有する条例制定権を超えるものであるから、本件条例は無効というべき である」。
《評釈》
はじめに
本件は、都道府県初の法定外税として2001年に神奈川県(Y)が創設した企業 税について、課税対象となった企業(X)が争った事案である。本件では、地方 分権改革後のしくみの下で、地方団体の自主的な課税権がいかなる範囲で認めら れるのかが争点となった。このため、本判決は、地方税制度に関する多岐にわた る論点を検討した上で、法定外税をめぐる法律と条例との関係についての判断を 示し、本件条例を無効とした。係争額が20億円近くに及ぶことや自治体の課税権 に与える影響の大きさから、本判決は社会的な注目を集めた。
最初に、本件条例が制定されるに至った背景的な事情を見ておくことにした い。
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1999(平成11)年の地方分権一括法によって、法定外普通税許可制度の廃止や 法定外目的税の創設などを内容とする地方税法の改正も行われた。この当時、旧 自治省は法人事業税について全国一律の外形標準課税の導入を検討していたが、
諸種の批判を受けて、実際の導入ヘの道筋を見出せない状況にあった。2000年4 月、東京都は、これを先取りする形で、改正前地方税法第72条の19の法人事業税 の課税標準の特例の規定に基づいて「東京都における銀行業等に対する事業税の 課税標準等の特例に関する条例」(いわゆる銀行税条例)を制定した。周知のよう に、課税対象とされた銀行側から同条例および課税処分に対する訴訟が提起さ れ、第一審・控訴審とも同条例を違法・無効と判断した。同じころ、Yは、企業(1) 税構想の具体化を進めていた。すなわち、深刻な税収不足を補うことを目的とし て、国の制度改正を待つことなく、全国一律の外形標準課税が導入されるまでの 臨時的かつ特例的な措置として企業税を創設することとし、2001年3月に本件条 例を制定したのである。この後、2003年の地方税法改正で外形標準課税が導入さ れたが(実施は翌年4月)、Yは、2004年3月、本件条例を廃止するのではなく、
企業税の税率を3%から2%に変更する等の修正を内容とする本件条例の改正で これに対応した。部分的修正にとどめた理由は、従前の税収分を確保することに あった。つまり、たしかに外形標準課税は導入されたが、所期の税収を得られる 程度のものではなかったため、Yは企業税を存続させることとし、一定部分の改 正にとどめることによって、従前の税収分を確保しようとしたのである。以上の ような事情の下で、2003年度分と2004年度分の課税についてXが還付の請求と課 税処分取消の請求の訴えを提起したのである。
本件の主たる争点は、地方税法と税条例との抵触に関する問題であり、本判決 も判断部分の多くをこれにあてている。そこで以下、この問題について、おおむ ね《判旨》の構成に沿って考察を進めることにしたい。
(1)地方団体の自主的な課税権、法定外税の趣旨、総務大臣との協議制度の趣 旨
地方分権改革にともなって国と地方の関係が抜本的に見直され、1999年の地方 自治法改正において国の関与を限定する規定が大幅に挿入された(同法245条以
(1) 東京地判2002(平成14)・3・26判時1787号42頁、判タ1099号103頁、判自226号16頁、
東京高判2003(平成15)・1・30判時1814号44頁、判タ1124号103頁、判自236号9頁。前者 は、同条例が改正前地方税法72条の19に違反するとして、また後者は、同条例が同法72条の 22第9項の均衡要件に適合しているとは認められないとして、これを無効とした。なお、同 事件は、最高裁での審理中に東京都(上告人)が和解の申し入れを行ったことにより決着し た。
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下)。また同時に、同法の解釈指針に関する条項の修正も行われた。具体的には、
現行の同法2条12項前段は「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本 旨に基づいて、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを 解釈し、及び運用するようにしなければならない」という条文であるが、これ は、上記改正に際して「かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえ て、」という文言が挿入されたことによって、地方公共団体の自主性を⎜⎜法令 制定の段階(同条11項)だけでなく⎜⎜法令の解釈・運用の段階でも尊重すべき 旨を明示したものだと解されている。それゆえ、地方公共団体の条例制定権につ(2) いても、「当該立法で特別の趣旨が明確でない限り、『適切な役割分担』の解釈を 通じて、条例の定める範囲が広く解釈されることはあり得る」ということができ(3) ようし、同様のことは、本件で問題とされている地方税法の解釈(あるいは地方 団体の自主的な課税立法権の解釈)にもあてはまるといえよう。
しかし他方で、住民の権利を規制する条例については、単に「国と地方公共団 体との適切な役割分担を踏まえ」るだけでは足りず、住民の権利保護などとの関 係もふまえなければならない。本件に即していえば、地方団体は、税条例を定め るに際して、国との関係だけではなく、憲法や法律によって保護された住民の権 利や他の地方公共団体の課税権との関係も考慮に入れた法令の解釈をしなければ ならないのである。憲法94条が条例制定権の範囲を「法律の範囲内で」という制 約を設けているのも、あるいは地方自治法14条1項が「法令に違反しない限りに おいて」と定めているのも、条例制定に際してこうした多面的な法律関係の全体 を考慮する必要があるからである。それゆえ、地方団体が自主的な課税立法権を 有するといっても、それは当然に「枠法」(Rahmengesetz)としての地方税法に 反するものであってはならず、この意味で、「当該課税権は……あくまでも地方 税法上の具体的準則に従って行使されなければならない」という本判決の説示 は、法解釈の常識に叶ったものだといえる。
そこで問題となるのは、税条例が服すべき地方税法上の「枠」(制約)とは何 か、であろう。これまでの学説等をごく大まかにまとめれば、第一に、憲法94条 から生じる地域的限界および事項的限界、第二に、憲法84条の課税要件条例主 義・課税要件明確主義、憲法14条の平等原則、憲法31条の適正手続といった制度 設計の原則に関する限界、第三に、一国内の制度的整合性を確保するために法律
(地方税法等)に留保されるべきだという理由で課される限界(地方団体間の調整、
私法上の債権との関係、争訟手続など)がこれにあたる。本件においてとくに検討(4)
(2) 松本英昭『要説地方自治法[第五次改訂版]』学陽書房、2007年、188‑189頁。
(3) 塩野宏『行政法
III[第3版]』有斐閣、2006年、172‑173頁。同旨の解説として、田村
達久『地方分権改革の法学分析』敬文堂、2007年、259‑260頁など。272
されるべきなのは、このうちの事項的限界および地方団体間の調整に関わる限界 だと考えられる。というのは、地方税法の法人事業税規定が規律対象の事項的性 質からして「全国一律の規制を施す趣旨」だとすれば、⎜⎜法定税条例であろう と法定外税条例であろうと⎜⎜条例でこれに抵触する規定を設けることは許され ないし、その判断にあたっては、当該規定が「複数の地方公共団体と不可分に関 連する事項」か否かが重要な要素となるからである。事項的限界の論点について は本判決《判旨》(3)および(4)での検討をふまえて、後述(3)で論じる こととし、地方団体間の調整等の論点については、《判旨》(2)に関連づけなが ら、後述(2)で論じることとしたい。
なお、総務大臣との協議制度の趣旨について付言すると、法定外普通税の新 設・変更に際しての総務大臣との協議手続を経ることは適法要件の一つである が、当該手続を経た場合であっても実体的な適法性が必ずしも確保されるわけで はない。たとえば、審議会等の手続を適法に経て行われた許可処分が訴訟におい て違法と評価されることは稀ではないし、法令上違法な支出が、議会の承認を経 たからといって適法な支出となることはない。これと同様に、総務大臣との協議(5) 手続を経たことによって条例の違法性が治癒されることはないのであって、条例 の実体的な適法性・違法性は司法審査に服する事項なのである。したがって、本(6) 判決が「企業税の適法性は、総務大臣の同意の判断如何にかかわらず、本訴にお いて別途判断されるべき問題である」と判示したのは当然だといえよう。本件に おいてYは、一方で、「総務大臣が地方税法261条各号に掲げる事由のいずれかが あると認めて不同意とし……ない限り、地方税法上違法の問題は生じない」と主 張しながら、他方で、「ただし、上記主張は、事後的な司法審査の可能性を一切 排除するわけではない。すなわち、地方税法261条所定の要件の存否について、
地方議会の政策的判断に誤り(裁量権の逸脱濫用)があったかどうか及び総務大 臣の同意の判断に誤りがあったかどうかという問題については、事後的に裁判所 の司法審査の対象となるものと解される」と述べている
(7)
ので、結局は、本判決が 示した上記のような協議制度の位置づけに同意せざるを得ないと思われる。
(4) 詳細については、岡田正則「税条例と地方税法」日税研論集46巻(地方税の法的課題)
(2001年)30頁以下参照。
(5) 後者の例として、最大判1962(昭和37)・3・7民集16巻3号445頁。
(6) 従前の許可制について岡田・前掲注(4)27頁、現行制度については、同論文28頁・注 68および18頁・注33参照。
(7) 本判決の第6、2、 被告の主張>、(4)、エ(判時2020号44頁、判自306号46頁)。
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(2)法定税に係る規定と法定外税との関係
本判決は、法定外税という形式を採ることによって法定税に係る法定の準則と 関わりなく課税しようとする税条例は地方税法に反する旨の判断を示した。その 例として、本判決は法定外税の形式による制限税率規定の回避という手法を挙げ ている。すなわち、「地方税法は、法人事業税につき、制限税率を標準税率の1.1 倍(改正前地方税法72条の22第8項)ないし1.2倍(改正後地方税法72条の24の7第8 項)と規定するところ、仮に、法定外税として法人事業税と課税客体及び課税標 準が全く同じ租税をいかなる税率においても課することが許されるとすれば、道 府県はこれにより法人事業税の制限税率の規定の適用を実質的に回避できること になるが、これが法人事業税につき制限税率を設けた地方税法の趣旨に反するこ とは明らかである」と説示している。
上記の制限税率が、全国一律の規制を意図して定められたものであることは、
1975年の地方税法改正におけるその導入の経緯をみれば、容易に理解できる。本 判決中にこの点に関する言及はないが、本判決の理解に資すると思われるので、
以下、この経緯を瞥見しておこう。
第一次石油ショック後、経済状況は低成長期に入り、財政健全化が地方財政の 必須の課題になっていた。東京都は、1974(昭和49)年4月から法人事業税につ いて超過課税を行うこととし、その税率を地方税法に定める標準税率の6%・9
%・12%から7%・10.5%・14%へと引き上げた。この時期、事業税の税率は標 準税率として定められており、道府県がこれと異なる税率で事業税を課す場合に は、あらかじめ自治大臣にその旨を届けるだけでよいとされていた。しかし、都 の超過課税が国と他の地方公共団体の財政に対して大きな影響を及ぼすものであ ったため、政府税制調査会は、同年12月の税制改正答申の中で「事業所税の創 設」という項目の一節として、次のように答申した。
「最近大都市地域の地方団体において法人関係の超過課税を行う動きが顕著 となってきているが、特に法人事業税の超過課税が行われた場合において は、法人の税負担に大きな影響を与えるのみならず、他の地方団体に対して もきわめて大きな影響を与えることにかんがみ、租税体系の秩序維持及び法 人の総合的な税負担の適正化を図る見地から、法人事業税に新たに制限税率 を法定する等適切な措置を講ずべきである」。(8)
すなわち、大都市の地方団体が法人事業税の超過課税を行うと法人の負担およ び他の地方団体に極めて大きな影響を与えるので、法人事業税に制限税率を設け るべきだとしたのである。これを受けて、1975年の地方税制改正において、法人
(8) 税制調査会『昭和50年度の税制改正に関する答申』1974年12月、11頁。
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事業税について標準税率の1.1倍に相当する制限税率が設けられた(当時の地方税 法72条の22第8項)。当時の自治省地方税制担当者は、この改正を次のように解説 している。
事業税の税額は、法人税又は所得税の課税所得の算定上損金又は必要経 費に算入されるため、事業税について標準税率を大幅に超えた税率で課税を 行った場合には、その措置により増加した事業税相当額だけ所得が減少する こととなる結果、他の地方団体の住民税、事業税、さらに、法人税及び所得 税の減少を通じて地方交付税額の減少を来すことになり、国、地方の財政に 大きな影響を及ぼすことをまぬかれない。事業税の超過課税から生ずるこの ような可能性は、昭和49年度に東京都が法人事業税について超過課税を行っ たことによって現実のものとなった。……現実に問題とされたのは、超過課 税の適否に関する理論上の争点ではなく、先に述べたような超過課税がもた らす財政上の波及効果であった。この効果については、例えば次のような推 計が行われた。……ようするに、東京都の法人事業税の超過課税による増収 500億円に対して、約295億円の減収が生ずる結果となる」。(9)
また、制限税率を標準税率の1.1倍とした理由について、政府は国会答弁で次 のように解説している。
法人事業税の超過課税をいたします場合に制限税率を1割増しにとどめ たことの理由でございますが、ご案内のように大体超過課税を行います場合 の制限税率の設定は、平均的に申しますと2割程度のものが制限税率になっ ておるわけでございます。ところが、この法人事業税の場合は、……この税 収が経費に算入されるという関係上、他団体の税収に非常に大きな影響を及 ぼすわけでございまして、私どもとしては自主性を制限するというつもりは 毛頭ないのでございますけれども、制限税率まで超過課税をする場合に、他 団体へ非常に大きな影響の及ぶ税目であるから、通常の税目の半分ぐらいの ところで勘弁をしていただけないか、こういう意味で1割増しの制限税率を 設定させていただいたわけでございます」。(10)
すなわち、法人事業税の超過課税が国と他の地方団体の財政に大きな影響を及 ぼすことを考慮して、ほかの制限税率の場合は1.2倍とするところを、法人事業 税の制限税率の場合には1.1倍という厳しい制約を置いたのである。
(9) 小坂紀一郎ほか「昭和50年度地方税制改正の概要」自治研究51巻6号(1975年)86‑87 頁。同様の解説として、同「昭和50年度地方税法改正の改正案解説⎜⎜道府県税」税30巻4 号(1975年)31頁、逸見幸司「問答解説昭和50年度地方税法の改正」税30巻5号(1975年)
31‑32頁など。
(10) 『第75回国会衆議院地方行政委員会議録』第6号(1975年3月4日)13頁。
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以上の経緯から次の二点を確認することができる。第一に、1975年地方税法改 正における法人事業税への制限税率の導入は、事業所税の創設と密接に関連して いること、つまり、市町村の自主課税権を保障する趣旨を含んでいること、第二 に、事業税の超過課税が、納税者の税負担のほか、国および他の地方公共団体の 財政に大きな弊害を及ぼす可能性があるため、かかる弊害の防止を目的として法 人事業税に制限税率が導入されたことである。したがって、立法者がこのような 制限税率を導入した趣旨は全国的な視点からの税財源の調整ということにあり、
それゆえ法人事業税の制限税率が全国一律規制の性質をもつことは明らかであろ う。そして、本判決も指摘するように、仮に、法定外税として法人事業税と課税 客体および課税標準が全く同じ租税をいかなる税率においても課することが許さ れるとすれば、道府県はこれにより法人事業税の制限税率の規定の適用を実質的 に回避できることになってしまう。このような手法は、地方税法が法人事業税に 制限税率を設けた趣旨を没却することは明らかである。以上のところから、本判 決の「法定外税の制度は、当該枠[法定税に係る法定の準則]の趣旨に抵触しな い限度で、地方税法が具体化した以外の課税を可能とするもの」という判断は、
妥当だといえよう。
(3)企業税の趣旨・目的、本件条例と地方税法(法人事業税に係る規定)との抵 触関係
本判決は「本件条例が創設した法定外税たる企業税が、法定税たる法人事業税 に係る規定の趣旨に反するかどうか」を審査するに際して、「法定外税が法定税 に係る規定の趣旨に反するかどうかの検討には、当該法定外税及び当該法定税並 びに各関係規定の、趣旨、目的、内容及び効果を比較対照することが必要であ る」という立場を採用している。これは、徳島市公安条例事件において最高裁が(11) 示した定式を本件でも用いるという立場である。(12)
(11) 本判決の第7、1、(4)、キ(判時2020号57頁、判自306号59頁)。
(12) 最大判1975(昭和50)・9・10刑集29巻8号489頁、判時787号22頁。この判決は、「条例 が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それ ぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこ れを決しなければならない」とした上で、具体的には、①「ある事項について国の法令中に これを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当 該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解される ときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反する」とする一方、②「特 定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の 目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効 果をなんら阻害することがないとき」及び③「両者が同一の目的に出たものであつても、国
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この点に関して、同最判は「法律に基づかない条例」の制定の可否が問題とな った事件に関する判断であったのに対して、法定外税条例の場合には「法律に基 づく条例」の制定の可否が問題となるので、事案が異なり、後者については上記(13) の判断枠組を用いることが不適切ではないか、という疑問が生じうるかも知れな い。しかし、条例の一般的制定権限が法律上で承認されているからといって、無 制限に上乗せ・横出しが許されているわけではなく、当該権限も当然に憲法や法 律の制約の下で行使されるべきである。したがって、具体的な税条例ごとに、関 連する憲法や法律の目的・効果を阻害しないかどうかを検討する必要があるとい うことが理解できれば、このような疑問は氷解するであろう。つまり、「法律に 基づく条例」についても、個別具体的な条例が、「法律の目的や効果を阻害する のであれば、……徳島市公安条例事件最高裁判決に照らして、違法と
(14)
なる」とい うのが、常識的な理解なのである(地方税法3条1項に基づく法定税条例も、同法 4条3項に基づく法定外税条例も、当然このような制約の下で定められる)。付言して おくと、今日では、「地方自治の本旨」にかんがみて、地方税法4条3項は権限 創設規定ではなく、確認規定だと解されているので、この規定の有無に関わらず 法定外税条例の制定は可能であり、したがって、法定外税条例は「法律に基づか ない条例」と本質的に異なるところはないのである。換言すれば、法定外税条例 についても、法定税条例と同様、個別具体的な条例ごとに、関連する地方税法の 規定等の目的・効果を阻害しない範囲でその効力が認められる、ということにな るのである。
さて、本判決は、おそらくは以上のような徳島市公安条例事件最高裁判決の定 式の位置づけを前提として、企業税と法人事業税の課税標準・趣旨目的・効果の 比較を行っている。その結果、(ア)企業税の租税としての趣旨・目的は法人事 業税と共通する、(イ)両税の課税客体について実質的な差異があるものとは解 されない、(ウ)そうすると、法人事業税における欠損金額の繰越控除と企業税 の課税とは、その目的及び効果が相反するものであり、「法人事業税と企業税が 同時に課せられる法人については、企業税の課税により、法人事業税の課税標準 につき欠損金額の繰越控除を定めた規定の目的及び効果が阻害されることになる
の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、そ れぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容 認する趣旨であると解されるとき」は、「国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はな く、条例が国の法令に違反する問題は生じえない」という判断枠組みを提示している。
(13) 法律に基づく条例」は、さらに「法律の委任を受けた条例」(委任条例)と「法律によ り制定を授権された条例」とに分類することができるが、法定外税条例は後者にあたる。
(14) 北村喜宣「委任条例の法理論」同『分権改革と条例』弘文堂、2004年、185頁。
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といえる」、という暫定的な結論に至る。そして、「地方税法はこのような結果も(15) 許容しているか」という問題の解明に進む。本判決は、2003年改正前の地方税法 と改正後の地方税法の双方を分析し、法人事業税の欠損金額の繰越控除に関する 地方税法の規定を「全国一律に適用すべきものとする趣旨である」と解し、こう した欠損金額を対象とする課税は法人事業税の規定に基づいて行われるべきもの であって、「少なくとも、法人事業税と租税としての趣旨・目的及び課税客体が 共通する法定外税の創設によって、全国一律に適用すべき法人事業税の課税標準 の規定の目的及び効果が阻害されることになることは、当該課税標準の規定を定 めた地方税法の趣旨に反するものといわなければならない」という最終的な結論 を得ている。これに加えて、本判決は、補論的に、企業税の創設が法定税の課税(16) 標準の変更ともいえる点を指摘している。すなわち「企業税は、法人事業税と一 体として、実質的には、法人事業税に係る課税標準の規定を変更し、新たな課税 標準において法人事業税を課する効果を持つものということもできる」し、「こ のような法定税の課税標準の変更は、Y自身が本件条例の制定過程において当初 から第一義的に意図していたように地方税法自体の改正によって行われるか、そ うでなければ、同法が法人事業税の課税標準の例外を一定の要件の下に唯一認め ていた改正前地方税法72条の19の規定に基づいて行われるべきものであって、法 定外税の形式によってこれを実質的に実現しようとすることは、地方税法の趣旨 に反するものといわなければならない」と、Yの脱法的行為を指弾しているので
(17)
ある。
以上のように、結論に至る本判決の分析手法は周到であり、またその結論も妥 当だと評価できよう。「臨時特例企業税は、法的に見た場合に、事業税とは直接 的に何の関係もない租税」だといえないことも、上記のところから明らかだと思(18) われる。
(4)本件に関連するいくつかの論点の検討
本件条例の違法性については以上のとおりであるが、これに関連するいくつか の論点も検討しておく。
第一に、法人事業税が応能課税か応益課税か、という問題がある。Yは、法人 事業税が応益課税であると性格づけることによって、「応益的地方税制の下では、
法人の所得の経理上の処理をそのとおりに扱わないことは応益課税として当然の
(15) 本判決の第7、1、(8)、ア・イ・ウ(判時2020号66‑67頁、判自306号68‑69頁)。
(16) 本判決の第7、1、(8)、エ・オ(判時2020号67‑68頁、判自306号69‑70頁)。
(17) 本判決の第7、1、(8)、カ(判時2020号68頁、判自306号70頁)。
(18) 中里実「最近の地方団体の新税案について」税56巻6号(2001年)20頁。
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ことであり、行政サービスの対価としての必要性を考慮した場合には、欠損金額 の控除を暫定的に停止することも租税政策的に許容される」として、法定外税を 用いて繰越控除欠損金額を課税の対象とすることは地方税法の「枠」に抵触しな い、という主張の根拠としているものと思われる。これに対して、本判決は、一(19) 方で、法人事業税を「応益原則と応能原則の混合タイプ」と理解し、「明治11年 に府県税として創設された営業税」以来の法人事業税の沿革を用いてこの点を論 証するとともに、他方で、企業税も応能課税・応益課税の両面をもっていること
(納税者を資本金5億円以上の法人に限定することによって担税力に配慮していること)
を指摘し、両税の同質性と抵触関係を分析している。本判決の分析は正しいとい(20) えるが、応益課税の許容性について、理論的にはもう少し検討すべき余地がある と思われる。
地方税については、応益課税の原則に立っているという(必ずしも根拠がない)
理解や「財政支出があれば受益がある」という誤解がしばしば見られる。サービ スと受益との関係が不明でも、住民は受益者とみなされて、負担を求められるの である。こうした理解や誤解の問題点については別の機会に論じたことがあ
(21)
るが、本件との関係で検討されるべきは、法定税と法定外税が同じ論理で「受 益」に対する課税を行ってよいか、ということであろう。法人事業税は、応益的 な性格を(も)有する税として、つまり都道府県の行政サービスによって企業の 経済活動が利益を受けることの対価として課される税だと理解され、それゆえ法 人事業税は都道府県の基幹税目とされているのである。換言すれば、法人事業税 は、いわば都道府県という一国の地方自治制度を支える基幹的な税源であるか ら、行政サービスと受益との関連が不明確でも、法律によって課税が認められて いるのである。しかし、法定外税として応益性を根拠として税を創設しようとす る場合には、事情が異なると考えられる。法定外税の場合には、まさしく受益に 着目して税を創設するわけであるから、行政サービスと受益との関連がこのよう に抽象的なままで創設することは許されないので
(22)
ある。地方公共団体が法定外税 を創設するためには、当該地方公共団体固有の必要性⎜⎜つまり地域性⎜⎜がそ
(19) 本判決の第6、2、 被告の主張>、(7)、ウ(判時2020号47頁、判自306号49頁)。
(20) 被告Yが企業税に応能課税の面があることを認めている点(「企業税の課税の対象は、資 本金が5億円以上で当期利益が出ている法人であり、相当程度担税力がある」と主張してい る)については、本判決の第6、2、 被告の主張>、(6)イ(ア)(判時2020号46頁、判自 306号47頁)。本判決の認定としては、第7、1、(5)、ア、(オ)(ク)(判時2020号60頁・61 頁、判自306号61頁・63頁)、および第7、1、(7)(判時2020号64‑66頁、判自306号66‑68頁)。
(21) 岡田・前掲注(4)4‑13頁。
(22) この点については、岡田・前掲注(4)11‑12頁参照。
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の根拠になければならないが、本件企業税条例にそのような固有の必要性を見い だすことはできない。「地方団体の課税権の範囲を考えるならば、地方税として 望ましいのは、地域との結びつきの明確なもの(たとえば、不動産や、小売)で
(23)
ある」というのが正論であって、地域との結びつきが不明確なままで本件企業税 のような法定外税の課税を行うことは許されない。このように考えると、企業税 については、地域性も受益の特殊性も認められないのであるから、本件条例は自 主的な課税立法権の範囲を逸脱するもの、あるいは自主的な課税立法権を濫用し て納税者の財産権を侵害する違憲な定め、ということができよう。
第二に、国が法定外税の新設変更について同意を拒否すべき場合として、地方 税法261条1号は「国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負 担が著しく過重となること」を挙げているが、Yが指摘するように、この条項を 根拠として、「地方税法は、法定税と課税標準が同一の法定外税でさえも、税負 担が著しく過重であるとか、国の経済施策に照らし適当でない(同条3号)とい った事情がなければ、適法として自ら明文で許容している」という解釈が成り立(24) つ余地もある。ところで、この条項の趣旨は、法定税の課税標準と法定外税の課 税標準とが重なることを⎜⎜国の政策的観点から⎜⎜場合によっては許容する、
ということであって、どのような法定外税の課税標準をも許容するという趣旨で はない。この点を本件についてみてみれば、次のように考えられる。すなわち、
地方税法は、法定税の課税標準たる所得を算定する際に、欠損金を含む法定の損 金および費用項目を控除するものとしているのであるから、ここには、当該控除 項目に相当する当期所得を地方税の課税対象外とすべきだとする法律の明示的な 意思が存在する。このような所得に対しては、法定税であれ法定外税あれ、もは や地方団体は課税をすることが許されないと解さざるを得ない(そうでなければ、
たとえば、地方税法34条によって控除された障害者控除等に相当する当期所得金額に対 しても法定外税条例を用いて課税することが可能になってしまうが、このような不合理 な課税が許されないことは明らかであろう)。したがって、「法定税と課税標準が同 一の法定外税」が許容されるとしても、それは、上記のような法律の明示的な意 思が存在しない場合、つまり、地方税法が地方税の課税対象外と位置づけている 法定の損金や費用項目には当たらないものを当該法定外税が課税標準としている 場合に限られることになろう。本件のような事情の下で、法人事業税と同一の課 税対象に対して同一の課税標準について課税を行うのであれば、やはり改正前地 方税法72条の19のような例外規定に基づいて、その範囲で行うべきだと解するの
(23) 中里実「地方税における企業課税」岩波講座『現代の法8・政府と企業』岩波書店、
1997年、254‑255頁。
(24) 本判決の第6、2、 被告の主張>、(5)ウ(判時2020号44頁、判自306号46頁)。
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が、地方税法の妥当な解釈であり、Yの主張には無理があると思われる。
第三に、地方税法の規定が「きわめて不合理な結果やあるいは憲法違反といえ るような状態」を招来している場合には「憲法の下で自主課税権に基づいて対応 することが可能」だとする見解がある。つまり、地方議会が地方税法の一定の規(25) 定を不合理または憲法違反だと考える場合には、地方税法に反する税条例を定め ることができる、というのである。しかしこの見解は、法理論上、次の点で問題 があると思われる。まず、この見解によると、一定の法規定が「憲法違反といえ るような状態」にあると認定してこれを変更する権限を地方議会に付与すること になるが、違憲法令の審査と変更の権限を地方議会が有するという憲法解釈を採 用することは⎜⎜たとえ自主課税権に限定したとしても⎜⎜現行憲法の下では困 難であろう。次に、この見解によれば、条例制定の目的は不合理な結果や違憲な 状態をもたらしている法規定の是正であるが、その是正方法として提案されてい るのは、当該法規定に対応する条例(本件でいえば法定税条例)ではなく、それと は無関係と見せかけた条例(本件でいえば法定外税条例)の制定である。後者のよ(26) うな条例で違憲法規定の是正を行おうとしても、是正に関する規定上の対応関係 が不明なままであるから、法制度として整合的な対応策とはいえないし、また恣 意的な是正策に陥る危険性が高いといえよう。さらに、この見解によれば、「憲 法の下で自主課税権に基づいて対応することが可能」なのは地方税法の規定が
「きわめて不合理な結果やあるいは憲法違反といえるような状態」を招来してい る場合なのであるが、本件はこの場合に該当しない。Yは本件において、法人事 業税の欠損金額控除が「きわめて不合理」とも「憲法違反」とも主張していない からである。法律上で課税標準の変更が認められている改正前地方税法72条の19 と必ずしもそうした変更が認められていない「きわめて不合理な結果やあるいは 憲法違反といえるような状態」とをひとまとめにして「条例化が可能な領域」
(=「白紙領域」)とみなしている点に、この見解の無理があるように思われる。
第四に、Yの主張の整合性にも疑問がある。Yは、一方で、危機的な財政状況 に対応するために本件条例を制定したと主張し、他方で、県税全体に占める企業
(25) 占部裕典「課税自主権の行使に伴う地方税条例主義の課題⎜⎜神奈川県臨時特例企業税 条例判決の検討を通じて」税2008年7月号15頁以下。
(26) この見解に即して本件におけるYの対応策を考えれば、Yは、地方税法の法人事業税欠 損金額繰越控除規定が違憲または著しく不合理であることを理由として、当該繰越控除の一 部遮断および法人事業税の課税標準の変更を内容とする法人事業税条例(法定税条例)の改 正を行うべきことになろう。それにもかかわらず、この見解は法定税条例の改正を提案せず に法定外税条例の創設を支持しており、その理由は不明である。これは、「憲法違反状態」
と「白紙状態」とを同一視してしまったために生じた理論的混乱ではないかと思われる。
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税の割合は1%前後であるから「過重な税負担を課すものでない」と主張してい る。県税に占める企業税の割合の少なさを強調するのであれば、企業税は危機的 な財政状況への対応策としてはあまり意味がない、ということになりそうであ る。「税収としてわずかだから住民の負担は軽いはずだ」という発想は、「たくさ ん支出しているのだから住民の受益は大きいはずだ」という発想の裏返しであっ て、そのいずれも、根拠のない、住民不在の論理だといわざるを得ないであろ う。
おわりに
以上のように、本判決による各論点の検討は的確であり、その結論も妥当だと 評価できる(また、上記《判旨》では省略したが、本判決が法定外税および法人事業 税の沿革を概観している点は、学術的にも有意義だと思われる)。本件条例は、危機 的な財政状況に対応するための地方団体の対応策だとされるが、本判決の検討に あるように、本件条例に基づく企業税と法定税たる法人事業税の外形標準課税と の同質性は否定できず、後者の代用として企業税という法定外税を創設すること には制度上の無理があったように思われる。地方財政危機への対応策としては、
安易な受益の認定に基づく住民への負担強化ではなく、国から地方への税源移譲 を含む抜本的な税財政制度の見直しによるべきであろう。