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The Japanese Society for Dental Health 口腔衛生会誌 J Dent Hlth 65: 35 42, 2015 報 告 歯科診療所を対象としたフッ化物局所塗布に関する質問紙調査結果 (2) 1) 荒川浩久 1) 川村和章 2) 大澤多恵子 宋 1) 文群 中野 1

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(1)

はじめに

 フッ化物歯面塗布は歯科専門家によるフッ化物局所応 用として確立し1),平成 18 年からう蝕多発傾向者の C 管理中のフッ化物局所応用加算として,歯科診療報酬に 80 点が算定された.一般社団法人日本口腔衛生学会フッ 化物応用委員会では,歯科医院を対象に本制度の利用状 況ならびにう蝕多発傾向者の基準値についての意見等を 把握するとともに,問題点を検討することになり,某市 歯科医師会会員を対象とした調査(前回調査とする)の 結果を報告した2).しかしながら,対象人数が 44 名と 少なく,他地域においてより大規模な調査を行う必要性 が指摘された。  そこで今回は,静岡県歯科医師会に調査を依頼して同 様な質問内容で調査(今回調査とする)を実施し,前回 調査結果との比較を行った.また前回調査より対象人数 が増加したことから,歯科医師の年代別の特徴を分析し た.さらに,平成 23 年 10 月に今回調査と同じ静岡県歯 科医師会会員を対象に実施した「う蝕予防に関する診療 状況などの調査3)」(同様調査とする)と 2 年 5 か月が 経過した時点における今回調査との比較を行った.  なお,フッ化物応用委員会の本来の調査目的は,歯科 診療所におけるフッ化物歯面塗布の現状を把握するとと もに,C 管理中のフッ化物局所応用加算におけるう蝕多 発傾向者の基準の見直しを図ることであったが,後者に ついては,調査中に「平成 26 年度の歯科診療報酬の見 直し」が行われ,う蝕多発傾向者の基準の改正が決定 されたため4),改正直前の状況把握にとどまるものであ る. 1) 神奈川歯科大学大学院口腔衛生学講座 2)神奈川歯科大学 3)神奈川歯科大学短期大学部歯科衛生学科 4)鶴見大学短期大学部歯科衛生科

歯科診療所を対象としたフッ化物局所塗布に関する質問紙調査結果(2)

荒川 浩久

1)

大澤多恵子

2)

中野 貴史

1)

堀   穣

1)

荒川 勇喜

1)

川村 和章

1)

宋  文群

1)

中向井政子

1,3)

石田 直子

1,3)

石黒  梓

1,4)  概要:歯科診療所におけるフッ化物局所塗布に関する質問紙調査を実施し,244 名から回答を得た(回収率 14.6%). 別の対象で実施した前回調査との比較,ならびに 2 年 5 か月前に静岡県歯科医師会会員を対象に実施した同様な調査との 比較を行った.  フッ化物局所塗布を小児に実施しているのは 89.0%,成人および高齢者は 52.4%と前回調査ならびに 2 年 5 か月前の同 様な調査より増加したものの,成人期以降の実施率は低く,乳幼児期から高齢期まで生涯を通じてのフッ化物応用の必要 性をさらに周知し,実践していくことが必要である.また,使用している塗布剤の中に,生産中止から 3 年以上経過して いるものやフッ化物配合歯磨剤等があり,院内における医薬品管理の徹底が必要である.  小児へのフッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法では,「フッ化物局所塗布の診療費の請求をしない」が 59.5%で最も 多く,「自由診療として請求する」が 43.7%,「う蝕多発傾向者として保険で請求する」が 14.0%,「C 選療として請求す る」が 1.9%であり,本保険制度は利用しづらい状況にあった.フッ化物局所塗布のカルテへの記載について「診療費の 請求はしない(無料サービス)ので記載しない」が 28.4%あったが,医療行為であるため,カルテにその内容を記載する ことは必須である.  平成 26 年 4 月からう蝕多発傾向者の基準が半分以下に改正されたことから,今後の利用増加が期待される.  索引用語:歯科診療所,フッ化物局所塗布,質問紙調査,診療報酬,カルテ記載 口腔衛生会誌 65:35-42, 2015 (受付:平成 26 年 10 月 2 日/受理:平成 26 年 11 月 4 日)

報  告

(2)

対象および方法

 静岡県歯科医師会会員 1,738 名のうち歯科医業に従事 している 1,671 名に県歯科医師会事務局から調査の依頼 文書と調査票(図 1)を郵送し,平成 26 年 3 月末まで に回答を FAX で事務局に返信していただいた.依頼文 書には,プライバシーを厳重に保護すること,集計結果 を学術的に発表すること,回答されなくても不利益が生 じないこと等を明記するとともに,回答は任意であり, 回答が得られたことで研究への協力に同意したものとし た.  回収された質問紙は当講座にて PC に入力し,JMP8 (SAS 社)にて集計分析した.未記入の質問項目は不明 扱いとして各集計の分母に含めなかった.統計的検定に は独立性の検定を用い,有意水準は 5% とした.今回は 図1の質問項目について単純集計およびクロス集計した 結果,ならびに前回調査と同様調査との比較を報告す る.歯科医師の年齢は 10 歳代ごとの年齢階級(70 歳以 上は 70 歳代以上に一括)としてクロス集計したが,問 1 の②,③および問 2〜6 については,歯科医師の年齢 階級ごとの特徴を認めなかったので単純集計だけとし た.さらに,歯科医師の性別による差も認めなかったの で男女総合で集計した.  本研究は,学校法人神奈川歯科大学研究倫理審査委員 会の承認(250 号)のもとに実施された.

結  果

 244 名(性別判明者 241 名中男性 215 名,女性 26 名) から回答が得られた(回収率 14.6%).分析対象者は 40 歳代と 50 歳代で約 71%を占めていた(表 1).  1.フッ化物局所塗布について  質問 1 の「小児に対してう蝕予防を目的としたフッ化 物局所塗布を実施していますか」の結果を表 2 に示す. 「実施している」が全体の 89%と多く,歯科医師の年齢 階級が低いほど実施割合が高い傾向にあった(P<0.05).  質問 3 の「成人および高齢者に対してフッ化物局所 図 1 調査票 表 1 分析対象者の年齢分布 年齢階級 人数 割合(%) 30 歳代 18 7.5 40 歳代 69 28.9 50 歳代 100 41.8 60 歳代 45 18.8 70 歳代以上 7 2.9 合  計 239 100 年齢未記入の 5 名を除く 239 名に対する割合を示す. 表 2  小児へのフッ化物局所塗布実施の有無(歯科医師の年齢 階級別) 年齢階級 実施している 実施していない 30 歳代 18(100.0) 0( 0) 40 歳代 62( 92.5) 5( 7.5) 50 歳代 88( 88.9) 11(11.1) 60 歳代 38( 84.4) 7(15.6) 70 歳代以上 4( 57.1) 3(42.9) 合  計 210( 89.0) 26(11.0) (  )内は各年代における割合(%)を示す. 未回答者がいたため合計は 236 名になっている. 独立性の検定結果:P<0.05

(3)

塗布を実施していますか」の結果を表 3 に示す.「実施 している」が全体の 52.4%であり,小児と同様に歯科医 師の年齢階級が低いほど実施割合が高い傾向にあった (P<0.05).  質問 1 の①「使用しているフッ化物局所塗布剤の商品 名をすべてお書きください」の結果を表 4 に示す.全 体ではフルオールゼリーが 73.8%と最も多く,次がバト ラーフローデンフォームの 18.6%であった.フッ化物局 所塗布剤ではないフッ化物配合歯磨剤,洗口剤,歯面研 磨材を塗布に用いている者もいた.  質問 1 の②「フッ化物局所塗布の診療報酬は」の結果 を表 5 に示す.215 人名 263 件の回答が得られ,「診療 費の請求はしない(無料サービス)」が 59.5%と最も多 く,次いで「自由診療として請求」が 43.7%,「う蝕多 表 6  フッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法(複数回答) カルテへの記載 件数 割合*(%) 診療費の請求はしない(無料サービス)ので記載しない 61 28.4 診療費の請求はしない(無料サービス)が記載はする 72 33.5 保険で請求するので記載する 35 16.3 自由診療として請求するので別のカルテに記載する 88 40.9 自由診療として請求するので記載しない 3 1.4 その他(別の管理票に記載) 8 3.7 * 小児にフッ化物局所塗布を実施している 215 名に対する割合を示す.年齢不詳を含めたため表 2 より 5 名多い. 表 5 フッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法(複数回答) フッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法 件数 割合*(%) 診療費の請求はしない(無料サービス) 128 59.5 う蝕多発傾向者として保険で請求 30 14.0 う蝕罹患患者の指導管理に関する選定療養費(C 選療) として請求 4 1.9 自由診療として請求 94 43.7 その他 7 3.3 * 小児にフッ化物局所塗布を実施している 215 名に対する割合を示す.年齢不詳を含めたため表 2 より 5 名多い. 表 4 使用しているフッ化物局所塗布剤の内訳(複数回答) 商品の通称など 件数 割合*(%) フルオールゼリー 155 73.8 バトラーフローデンフォーム 39 18.6 フローデン A 18 8.6 フロアゲル 16 7.6 フッ化物配合歯磨剤 14 6.7 サホライド 13 6.2 フッ化ナトリウム「ネオ」 12 5.7 フルオール N 液 10 4.8 フッ化物洗口剤 4 1.9 フッ化物配合歯面研磨材 3 1.4 他(海外塗布剤製品など) 5 2.4 * 使用中のフッ化物局所塗布剤の回答があった 210 名に対する 割合を示す. 表 3  成人・高齢者へのフッ化物局所塗布実施の有無(歯科医 師の年齢階級別) 年齢階級 実施している 実施していない 30 歳代 11(61.1) 7(38.9) 40 歳代 43(65.2) 23(34.9) 50 歳代 43(43.4) 56(56.6) 60 歳代 23(53.5) 20(46.5) 70 歳代以上 2(28.6) 5(71.4) 合  計 122(52.4) 111(47.6) (  )内は各年代における割合(%)を示す. 未回答者がいたため合計は 233 名になっている. 独立性の検定結果:P<0.05

(4)

発傾向者として保険で請求」が 14.0%であった.  質問1の③「フッ化物局所塗布の診療記録(カルテ) への記載は」の結果を表 6 に示す.215 名中 267 件の回 答が得られ,「自由診療として請求するので別のカルテ に記載する」が 40.9%と最も多く,次いで「診療費の請 求はしない(無料サービス)が記載はする」が 33.5%, 「診療費の請求はしない(無料サービス)ので記載し ない」が 28.4%,「保険で請求するので記載する」が 16.3%であった.  表 5 のフッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法を表 側,表 6 のカルテへの記載方法を表頭としてクロス集計 した結果を表 7 に示す.フッ化物局所塗布の診療費の請 求はしない 128 名中では「診療費の請求はしないがカル テに記載する」が 54.7%と最も多く,次いで「診療費の 請求はしないのでカルテに記載しない」が 46.9%であっ た.う蝕多発傾向者として保険で請求している 30 名中 「保険で請求するので記載する」が 96.7%と最も多く, 次いで「診療費の請求はしない(無料サービス)がカル 表 7  フッ化物局所塗布の診療報酬別のカルテへの記載方法の内訳(複数回答) 診療費の請求はしない 128 名の内訳 件数 割合*(%) 診療費の請求はしないので記載しない 診療費の請求はしない(無料サービス)が記載する 保険で請求するので記載する 自由診療として請求するので別カルテに記載する その他 60 70 16 16 6 46.9 54.7 12.5 12.5 4.8 う蝕多発傾向者として保険で請求する 30 名の内訳 件数 割合*(%) 診療費の請求はしないので記載しない 診療費の請求はしない(無料サービス)が記載する 保険で請求するので記載する 自由診療として請求するので別カルテに記載する 自由診療として請求するので記載しない その他 3 11 29 9 1 2 10.0 36.7 96.7 30.0 3.3 6.7 C 選療として請求する 4 名の内訳 件数 割合*(%) 診療費の請求はしない(無料サービス)が記載する 保険で請求するので記載する 自由診療として請求するので別カルテに記載する 1 3 2 25.0 75.0 50.0 自由診療として請求する 94 名の内訳 件数 割合*(%) 診療費の請求はしないので記載しない 診療費の請求はしない(無料サービス)が記載する 自由診療として請求するので別カルテに記載する 自由診療として請求するので記載しない 保険で請求するので記載する その他 7 13 86 3 12 3 7.4 13.8 91.5 3.2 12.8 3.2 * 各項目の回答人数に対する割合を示す. 表 8 う蝕多発者の判定基準に対する考え う蝕多発者の判定基準に対する考え 人数 割合*(%) 妥当な数値だと思う 66 28.3 数値が高すぎると思う 57 24.4 数値が低すぎると思う 13 5.6 わからない 84 36.1 その他 13 5.6 * 不明を除く 233 名に対する割合を示す.

(5)

テに記載はする」が 36.7%,「自由診療として請求する ので別カルテに記載する」が 30.0%であった.C 選療と して請求している 4 名中では「保険で請求するので記載 する」が 75.0%と最も多く,次いで「自由診療として請 求するので別カルテに記載する」が 50.0%であった.自 由診療として請求している 94 名中では「自由診療とし て請求するので別カルテに記載する」が 91.5%と最も多 く,次いで「診療費の請求はしない(無料サービス)が カルテに記載する」が 13.8%,「保険で請求するので記 載する」が 12.8%であった.  質問 2 の「保険請求のう蝕多発傾向者の歯冠修復終了 歯数に対するお考えをお聞かせください」の結果を表 8 に示す.回答が得られた 233 名中「わからない」が 36.1% と最も多く,次いで「妥当な数値だと思う」が 28.3%, 「数値が高すぎると思う」が 24.4%であった.  表 5 のフッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法を表 側,表 8 のう蝕多発傾向者の判定基準に対する考えを表 頭としてクロス集計した結果を表 9 に示す.診療費の請 求はしない 123 名中では「わからない」が 35.0%と最も 多く,次いで「数値が高すぎると思う」が 30.4%,「妥 当な数値だと思う」が 24.4%であった.う蝕多発傾向 者として保険で請求している 29 名中では「妥当な数値 だと思う」が 34.5%と最も多く,次いで「数値が高す ぎると思う」が 27.6%,「わからない」が 24.1%であっ た.C 選療として請求する 3 名中では「妥当な数値だと 思う」,「数値が高すぎると思う」,「その他」がそれぞ れ 1 件ずつであった.自由診療として請求する 92 名中 では「妥当な数値だと思う」が 32.6%と最も多く,次い 表 9 フッ化物局所塗布の診療報酬請求方法別のう蝕多発傾向者の判定基準に対する考えの内訳 診療費の請求はしない 123 名(除く未記入)の内訳 件数 割合*(%) 妥当な数値だと思う 30 24.4 数値が高すぎると思う 38 30.4 数値が低すぎると思う 7 5.7 わからない 43 35.0 その他 5 4.1 う蝕多発傾向者として保険で請求する 29 名(除く未記入)の内訳 件数 割合*(%) 妥当な数値だと思う 10 34.5 数値が高すぎると思う 8 27.6 数値が低すぎると思う 1 3.4 わからない 7 24.1 その他 3 10.3 C 選療として請求する 3 名(除く未記入)の内訳 件数 割合*(%) 妥当な数値だと思う 1 33.3 数値が高すぎると思う 1 33.3 その他 1 33.3 自由診療として請求する 92 名(除く未記入)の内訳 件数 割合*(%) 妥当な数値だと思う 30 32.6 数値が高すぎると思う 22 23.9 数値が低すぎると思う 5 31.5 わからない 28 30.4 その他 7 7.6 その他 7 名の内訳 件数 割合*(%) 数値が高すぎると思う 3 42.9 わからない 3 42.9 その他 1 14.3 * 各項目の回答人数に対する割合を示す.

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で「数値が低すぎると思う」が 31.5%,「わからない」 30.4%,「数値が高すぎると思う」が 23.9%であった.  2.フッ化物洗口とフッ化物配合歯磨剤について  質問 4 と 5 の「小児,成人および高齢者に対してフッ 化物洗口指導と処方指示をしていますか」の結果を表 10 に示す.小児に対しては 35.5%,成人および高齢者に 対しては 14.7% が実施していた.小児に対する勧めでは 有意差はなかったが,成人および高齢者では歯科医師の 年齢階級が低いほど実施割合が高い傾向にあった.  質問 6 の「フッ化物配合歯磨剤の使用は何歳から勧め ていますか」の結果を表 11 に示す.3 〜4歳が 45.3% と 最も多く,6 歳以降は 3.4% と少数であった.しかし 0 歳と 1〜1 歳 6 か月と早期の勧めが,それぞれ 21.8%と 23.1%存在した.歯科医師の年齢階級で有意差はなかっ た.

考  察

 1.フッ化物局所塗布について  フッ化物局所塗布は,年 2 回の実施でう蝕予防効果が 期待できるとされている5,6).今回調査の結果では,小 児に実施しているものは 89.0%,成人および高齢者には 52.4%であり(表 2,3),前回調査2)の小児の 81.8%な らびに成人および高齢者の 45.5%を上回っていた.2 年 5 か月前の同様調査3)では,幼児,小学生の小児患者に フッ化物局所塗布を実施あるいは推奨している歯科医師 は,それぞれ 83.3%,79.2%であり,今回調査のほうが 増加していた.また 30 〜 59 歳と 60 歳以上の成人およ び高齢の患者には,それぞれ 15.8%,16.0%であり,同 じく今回調査のほうが増加していた.これは平成 24 年 に告示された「歯科口腔保健の推進に関する基本的事 項7)」の乳幼児から高齢期のすべてのライフステージの う蝕予防方法の普及計画に「フッ化物の応用」が明記さ れたこと,ならびに静岡県歯科医師会による成人および 高齢者患者へのフッ化物応用の推奨3)の影響によるもの と思われる.一方では,今回調査も含めこれらの数値 は,フッ化物局所塗布を実施している者が多く調査に協 力したというバイアスがあり,母集団の実施状況はさら に低率であると推測される.従前の「年少者のう蝕抑 制のためのフッ化物応用についての考え方8)」において は,年少者のう蝕抑制対策の一つにフッ化物局所塗布が 挙げられていたり,「フッ化物歯面局所塗布実施要領1) の塗布対象として,1,2,3,6,7,12 歳児が挙げられ ていたりというように,成人や高齢者の塗布は考えられ ていなかった.しかしながら,最近では「フッ化物応用 についての総合的な見解9)」において,フッ化物局所塗 布は成人および老人を含めての応用として位置づけられ ている.さらに Griffin ら10)の成人のう蝕予防に対する フッ化物の有効性に関するメタ分析において,専門家に よるフッ化物応用は歯冠部と歯根部のう蝕予防に有効で あると報告されている.今後は,乳幼児期から高齢期ま で生涯を通じてのフッ化物応用の必要性をさらに周知 し,成人および高齢者にも子どもたちと同じ程度にフッ 化物局所塗布を実践していくことが望まれる.また,歯 科医師の年齢階級ごとのフッ化物局所塗布実施率の特徴 として,小児ならびに成人・高齢者への実施率は若い年 齢階級ほど高かった.これは先ほどの「年少者のう蝕抑 制のためのフッ化物応用についての考え方8)」等が 1977 年に発行されたことの影響と思われる .  使用しているフッ化物局所塗布剤(表 4)は,フル オールゼリーが 73.8%で最も多く,前回調査の 72.2%と ほぼ同程度であった.しかしながら,フッ化物配合歯磨 剤,洗口剤,歯面研磨材および生産中止から 3 年以上経 表 10  小児,成人および高齢者へのフッ化物洗口指導と処方の 指示は 実施している 実施していない 小児へ 83 (35.5) 151 (64.5) 成人・高齢者へ 34 (14.7) 198 (85.3) 30 歳代 1 ( 5.6) 17 (94.4) 40 歳代 14 (20.6) 54 (79.4) 50 歳代 11 (11.2) 87 (88.8) 60 歳代 6 (14.3) 36 (85.7) 70 歳代以上 2 (28.6) 5 (71.4) (  )内は各行における割合(%)を示す. 未回答者がいたため合計は「小児」が 234 名,「成人・高齢者」 が 232 名になっている. 成人・高齢者については独立性の検定結果で有意(P<0.05)で あったため歯科医師の年齢ごとの結果を示す. 表 11  フッ化物配合歯磨剤の使用は何歳から勧めているか 年 齢 勧めている人数 割合(%) 0 歳 51 21.8 1 〜 1 歳 6 か月 54 23.1 3 〜 4 歳 106 45.3 6 歳以降 8 3.4 勧めない 15 6.4 合  計 234 100 不明を除く 234 名に対する割合(%)を示す.

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過しているフロアゲルを使用している者がいた.高濃度 フッ化物の局所塗布剤は,歯磨剤,洗口剤および歯面 研磨材とは異なるものであるという情報を周知するとと もに,医薬品には使用期限があり,医薬品の管理責任者 のもとに業務手順を整え,安全管理を徹底する必要があ る11)  診療報酬(表 5)については「請求しない」が 59.5% で,前回調査の 69.4%と同様に半数以上を占めていた. フッ化物局所塗布を保険扱いするには,う蝕治療終了後 に継続してフッ化物応用の希望があり,かつう蝕多発傾 向者の判定基準を満たしているものに限られ,う蝕多発 傾向者の基準を満たさないものは,C 選療として,通常 の保険診療と自費診療としてのフッ化物局所塗布料金を 徴収するものである12).今回調査でう蝕多発傾向者とし て保険診療で請求しているのは 14.0%であり,C 選療で 請求しているのは 1.9%であった.前回調査では,それ ぞれ 22.2%と 5.6%であることから利用しにくい歯科診 療保険制度と判断される.また,う蝕経験がない,ある いはう蝕多発傾向者の基準までう蝕がない,および患者 が継続した口腔管理を希望しない場合には自費診療で行 うことになり,今回調査で自由診療は 43.7%,前回調査 で 36.1%と保険請求よりも高い値になったものと思われ る.  フッ化物局所塗布のカルテへの記載(表 6)について 「診療費の請求はしない(無料サービス)ので記載しな い」が 28.4%であった.無料であっても局所塗布という 医療行為を実施したならば,その内容をカルテに記載す る義務があり,この点についての周知徹底が必要であ る.一方では,前回調査と同様に「診療費の請求はしな いがカルテに記載する」や「自由診療として請求するの で別カルテに記載する」等,カルテ記載が良好に行わ れている者もいた(表 7).この表 7 について,たとえ ば「診療費の請求はしない」という 128 名に「保険で請 求するので記載する」や「自由診療として請求するので 別カルテに記載する」者がいるという一見矛盾した結果 が示されている.これは図1の質問紙票の問 1 の②(複 数回答)のb,c,dを選択し,かつ③(複数回答)の c,dを選択していることに起因するものである.これ らの歯科医師は,前回調査同様に,う蝕多発傾向者で フッ化物局所塗布を希望する患者には保険で請求してカ ルテに記載し,う蝕多発傾向者に該当しない患者で希望 のある場合は C 選療にて,保険部分はカルテに記載し 自費部分は別カルテに記載しているものと思われる.さ らに,希望しないまたはう蝕経験のない患者には,フッ 化物局所塗布を自由診療として扱って別カルテに記載し ているものと解釈され,保険制度を十分に理解している ものと推測される.ただし,質問の配置や回答形式から は,どのような組み合せかは判断できないため,あくま でも推測であり,前回調査同様に今回調査の限界であ る.C 選療の利用率が低いのは,保険診療部分と自由診 療部分の双方でカルテ記載が必要であるという手続きの 煩雑さが一因となっているのかもしれない.  う蝕多発傾向者の判定基準(表 8)については「妥当 な数値だと思う」が 28.3%,数値が高すぎると思うが 24.4%で,前回調査の 57.1%と 26.2%よりも低かった. しかし,その内訳(表 9)をみると,う蝕多発者の判定 基準について「数値が高すぎると思う」と回答した 57 名のうち,多くは「診療費の請求はしない(無料サービ ス)」に 38 件,「自由診療として請求する」に 22 件と偏 在していた.つまり,改正前のう蝕多発傾向者の基準で は該当する患者が少ない等の理由から利用しづらい状況 にあったものと推測できる.しかしながら,今回の改正 によって,各年齢階級のう蝕多発傾向者の歯冠修復終了 歯数が半分以下となったため4),今後の利用増加が期待 できる.  2.フッ化物洗口とフッ化物配合歯磨剤について  小児,成人および高齢者に対するフッ化物洗口の指 導と処方指示の状況(表 10)については,小児に対し て 35.3%,成人および高齢者に対して 14.6% が実施して いた.この質問は同様調査の「歯科臨床でフッ化物洗口 の実施あるいは推奨をしているか」に該当するものであ り,幼児と小学生に対しては,それぞれ 26.5%と 27.9% が実施し,30 〜 59 歳と 60 歳以上の患者には,それぞ れ 4.0%と 3.5%が実施していた.このことから,同様調 査から 2 年 5 か月経過し,小児に対する実施率の増加よ り成人および高齢者への実施率の増加が上回っている傾 向がうかがわれる.これは,歯科口腔保健法の推進に 関する法律の基本的事項7)ならびに静岡県歯科医師会の 推奨3)の影響と思われる.フッ化物洗口ガイドライン13) の対象年齢にも,4 歳から成人,老人まで広く適用され るとあり,今後ますますの上昇が期待される.  また,歯科医師の年齢階級ごとのフッ化物洗口の指導 と処方指示実施率の特徴として,成人・高齢者への実施 率は若い年齢階級ほど高かった.これは 1977 年に発行 された「年少者のう蝕抑制のためのフッ化物応用につい ての考え方8)」等の影響が残っているからと思われる. また小児についての実施率で有意差がなかった点と実施 率の増加が低かった要因は,静岡県が集団フッ化物洗口 を推進していることから,個人への働きかけが少ないこ とが考えられる.

(8)

 フッ化物配合歯磨剤の使用を何歳から勧めているか (表 11)については,3〜4 歳が 45.3% と最も多く,6 歳 以降は 3.4% と少数であった.平成 24 年度 4 月以降に公 布された母子健康手帳の保護者の記録(1 歳 6 か月の頃) の項目に「歯にフッ化物(フッ素)の塗布やフッ素入り 歯磨きの使用をしていますか」が追加され14),1 歳 6 か 月児は使用していることが推奨されている.今回の調査 では 23.1%が 1〜1 歳 6 か月時点で勧めを開始していた が,さらに多くが開始するようにシフトするべきであ る.相田ら15)はフッ化物配合歯磨剤の使用が 1 歳 6 か 月以降の場合,3 歳児のう蝕を増加させると分析してい る.また,0 歳児から使用を勧めているのが 21.8%存在 した.これは「乳歯の萌出が開始したらフッ化物配合歯 磨剤の使用を開始する」という推奨16)によるものと思 われる.萌出時期は個人差が大きく,1 歳前から使用を 開始する場合もあるものと思われる.  以上,静岡県歯科医師会会員を対象に実施した結果を 報告し,今後のフッ化物応用の進展を期待するものであ る.本調査にご協力いただいた関係諸氏に深甚な謝意を 表します. 文  献 1)厚生省医務局歯科衛生課:弗化物歯面局所塗布実施要領,厚生 省医務局歯科衛生課,東京,1966,1–3 頁. 2)荒川浩久,大澤多恵子,中向井政子ほか:歯科診療所を対象 としたフッ化物局所塗布に関する質問紙調査結果(1).口腔 衛生会誌 64:291–295,2014. 3)静岡県歯科医師会:う蝕予防に関する調査結果とフッ化物応 用,静岡県歯科医師会地域保健部学校歯科保健推進委員会 , 静 岡,2013,1–13 頁. 4)厚生労働省保険局医療課長,厚生労働省保険局歯科医療管理 官,保医発 0305 第 3 号(平成 26 年 3 月 5 日):歯科診療報酬 点数表に関する事項,診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実 施上の留意事項について,2014,11 頁. 5)高江洲義矩監修,中垣晴男,眞木吉信編著:21 世紀の歯科医 師と歯科衛生士のためのフッ化物臨床応用のサイエンス,永末 書店,京都,第1版,2002,30 頁. 6)日本口腔衛生学会 フッ素研究部会編:口腔保健のための フッ化物応用ガイドブック,財団法人口腔保健協会,東京, 第 1 版,1994,28 頁. 7)厚生労働省医政局長,医政発 0723 第 1 号(平成 24 年 7 月 23 日):「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の制定につい て,2012,5–6 頁. 8)日本歯科医師会:年少者のう蝕抑制のためのフッ化物応用につ いての考え方,東京,1977,20–22 頁. 9)日本歯科医学会:フッ化物応用についての総合的な見解,東 京,1999,4 頁.

10) Griffin SO, Regnier E, Griffin PM et al.: Effectiveness of fluo-ride in preventing caries in adults. J Dent Res 86: 410–415, 2007. 11)厚生労働省医務局総務課長,厚生労働省医薬食品局総務課長, 医政総発第 0330001 号,薬食総発第 0330001 号(平成 19 年 3 月 30 日):医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュア ルについて,東京,2007,1–2 頁. 12) 歯科保険研究会編:全科実例による社会保険 歯科診療 2013 平成 25 年 4 月版,医歯薬出版,東京,第 1 版,2013,237 頁. 13)厚生労働省医政局長,厚生労働省健康局長,医政発第 0114002 号,健発第 0114006 号(平成 15 年 1 月 14 日):フッ化物洗口 ガイドラインについて,東京,2003,1 頁. 14)社団法人日本歯科医師会会長 大久保満男,日歯発第 2139 号 (平成 24 年 1 月 25 日):母子健康手帳の様式の改正について, 東京,2012,30 頁. 15)相田 潤,森田 学,新見 完ほか:地域社会が 3 歳児のう蝕 経験に及ぼす影響─マルチレベル分析を用いた検定─.口腔衛 生会誌 56:458,2006. 16) フッ化物応用研究会編.う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤 応用マニュアル,社会保険研究所,東京,2006,11 頁.  著者への連絡先:荒川浩久 〒 238-8580 神奈川県横須賀 市稲岡町 82 神奈川歯科大学  TEL & FAX:046-822-8862  E-mail:arakawa@kdu.ac.jp

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