プロ野球における各チームの育成の分析
07D8104018I庄野正人
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2011年
3月
あらまし:本研究では,ドラフト制度によって入団 した後チームの中心となって活躍している選手に 注目し,選手の成長や能力評価,球団ごとの育成の 取り組みについて分析を行う.
キーワード:プロ野球,クラスタ分析,DEA
1はじめに
クラスタ分析を用いて打者をいくつかのタイプ に分類し,入団後の選手の成長を分析する.同時に,
DEA
を用いて事業体ごとの投手・野手の効率性評 価や各チームの育成の効率性評価を行う.
2
主力選手について
本研究では,チームの中心となって活躍する選手 を「主力選手」と呼ぶことにする.主力選手を以下 のように定義する.
対象:2000 年から
2008年にドラフト制度によっ て入団した選手のうち,2001 年から
2009年に一度でも以下の条件を満たした選手(投 手は二つのうち一方を満たせばよい)
投手
・ 先発投手として
20試合以上登板した選手
・ リリーフ投手として
50試合登板した選手 野手
・ 年間
100試合以上出場した選手 (途中出場含む)
3
クラスタ分析を用いた打者の分類
3.1クラスタ分析の概要
クラスタ分析とは,様々な性質をもつものが混在 している集合の中で,類似度や非類似度といった指 標に基づき,類似性の高い要素を部分集合に分類す る方法である.本研究では,類似性を測る指標とし て,以下のユークリッド平方距離を用いる[1].
そして,分類手法として,以下の最長距離法を用い る[1].
また,使用データとして
2005年~2009 年まで に
200回以上打席に立った全打者の打撃成績(安 打・盗塁・打率・本塁打・打点)を用いて各年にお ける打者分類を行い,主力野手の成長の分析を行う.
3.2
打者の分類
クラスタ分析を用いて 打者分類をしたところ,
以下の
6つのタイプに打者を分類した.
a)
主軸タイプ(本塁打・打点が非常に高い)
b)
中軸タイプ(本塁打・打点が高い)
c)
巧打タイプ(安打数が多い)
d) HR
少ない・俊足タイプ(本塁打が少なく,盗 塁が多い)
e)
シーズン途中活躍タイプ(b や
cのタイプ程で はないが安打や本塁打,打点が高い)
f)
守備重視型タイプ(各成績の値が低い)
表
1には過去
5年間における主な主力野手のタ イプの推移を示す.青木選手は
2008年までは盗塁 や安打が多い選手として活躍していたが,チーム内 の外国人選手の不振や長打力が備わってきたこと から
2009年には打線の軸として成長している.内 川選手は,2007 年まではレギュラーとして完全に 定着していなかったが,2008 年の安打量産を機に 打線の軸として成長している.中村選手は,2008 年にチームの監督や打撃コーチが変わってから,大 きく成長している.持ち味でもある本塁打が増加し たことから主軸選手としてチームに欠かせない存 在となったと思われる.
表
1 過去5年間における主力野手のタイプの推移
4 DEA
のプロ野球への適用
4.1 DEAの概要
DEA
は多入力,多出力系のシステムの相対的な 効率性を求める手法である. 本研究では,投手・
野手の効率性を主力選手,セ・リーグ全体,12 球 団全体の
3つの事業体で評価する.また,各チー ムの打撃や投球,投手・野手の育成の効率性評価も 行う.
DEA
では,以下のような線形計画問題を解くこ とで効率値が求められる[2].
< L >
max.
s.t.
,
はそれぞれ入力,出力を表し, , はそれぞれ 入力・出力に掛かる重み(ウエイト)を表す.ウエ イトは,選手評価の際に選手が最も得意とする項目 が大きな値になると考えられる.また,上記の最適
選手 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 青木(ヤ)
HR少な
い・俊足
巧打 巧打 巧打 中軸
内川
(横)
シーズン 途中
シーズ ン途中
守備重視 巧打 中軸
中村
(西)
シーズン 途中
シーズ ン途中
守備重視 中軸 主軸
解 が
1であるときは効率的と呼び,
1未満である ときは非効率的と呼ぶ.
4.2
選手の評価
本節では,
DEAを用いて
200回以上打席に立っ た主力野手
48人の事業体で効率性を評価した場合 を紹介する.打者の評価は,入力を打席,出力を安 打・本塁打・盗塁・長打・出塁の
1入力
5出力の 項目を用いる.
表2 効率的な主力野手
表
2には,効率
的となった主力野 手を示す.パ・リ ーグ最高出塁率の 中島や盗塁王の片 岡,本塁打王の中 村選手らタイトル を獲得した選手,
各項目でトップク
ラスの成績を残した選手
8人が効率的となってい
る.
一方,非効率的な選手は自分とウエイトの取り方 が近い選手の成績に値を近づけることで効率的な 選手へ成長できると考えられる.このようなお手本 となる事業体のことを参照集合と呼ぶ[2].
表
3には,主な非効率的な主力野手を示す.坂 口選手は安打や盗塁のウエイトが大きく,似たよう なタイプとして盗塁が優れている片岡・赤星選手を 参照集合としている.阿部選手は安打や本塁打のウ エイトが大きく,本塁打が優れている中村選手を参 照集合にしている.
表3 非効率的な主力野手
選手名 効率値 重視された項目 参照集合 坂口(オ) 0.9927 安打・盗塁 片岡・赤星 藤井(中) 0.9924 安打・盗塁 片岡・糸井・鉄
平 阿部(巨) 0.9832 安打・本塁打 中村
4.3
育成の効率性の評価
本節 では各チームにおける投手・野手の育成の 能力について評価を行う.ここで,各チームが育成 を行った対象を
2000年から
2008年にドラフト制 度によって入団した若手選手(入団してから
9年 以内)とする.ここでは,評価する育成の能力を「各 チームの若手選手育成の効率性」と定義する.
評価を行うにあたり,入力を入団者数,出力を現 役選手数(入団者数-退団者数)及び選手
3項目 合計(主力選手数+タイトル数+記録回数)の
1入力
2出力とする.出力項目に出てくるタイトル 数は,2001 年から
2009年までに対象選手が以下 のタイトルを獲得した回数の合計を表す.
野手タイトル
・首位打者 ・本塁打王 ・打点王
・最多安打 ・最高出塁率 ・盗塁王 投手タイトル
・最優秀防御率 ・最多勝利 ・沢村賞
・最高勝率 ・最多奪三振 ・最多セーブ
・最優秀救援投手
同様に,記録回数(野手記録回数,投手記録回数)
は
2001年から
2009年までに対象選手が以下の記 録を達成した回数の合計を表す.
野手記録回数
・ 規定打席に到達して打率
3割
・ 30HR
・ 30 盗塁
・ 150 安打
・ 100 打点 投手記録回数
・ 規定投球回到達して防御率
3点台以内 (先発)
・ 50 試合登板・防御率
2点台以内(リリーフ)
・ 先発
10ケタ勝利
・ 150 奪三振
・ 30 セーブ
上記の
1入力
2出力の項目で各チームの育成の効 率性の評価を行うと,表
4と表
5の結果を得る.
野手では西武のみが効率的となっている.西武は入 団者
25人に対して,1 人しか野手を戦力外にして いない.さらに,他球団と比べるとタイトルを稼げ る打者,難易度の高い記録を達成する打者(中島・
中村・片岡選手ら)を多く育てていることから,他 球団を大きく引き離しして効率的となっている.投 手では,ソフトバンクのみが効率的となっている.
ソフトバンクは他球団と比較すると,タイトルを稼 げる投手・難易度の高い記録を達成する投手(杉 内・馬原選手ら)を多く育てていることから効率的 となっている.
表4 野手育成の効率値 表5 投手育成の効率値
球団名 効率値 ソフトバンク 1
日ハム 0.9972
楽天 0.9966
西武 0.9836
阪神 0.9584
オリックス 0.9266
ロッテ 0.8281
中日 0.8129
広島 0.7777
巨人 0.7756
ヤクルト 0.7413
横浜 0.6781
5
まとめ
12
球団全体で選手評価を行った際,野手では中 島・中村・青木選手らが,投手ではダルビッシュ・
武田久・山口鉄投手らが効率的となっており,彼ら は近年球界を代表する選手に成長していると考え られる.また,野手の育成では西武,投手の育成で はソフトバンクがそれぞれ近年において成功を収 めているのではないかと考えられる.
参考文献
[1]
木下栄蔵:わかりやすい数学モデルによる多 変量解析入門(第
2版) ,近代科学社,2009.
[2]
刀根薫:経営効率性の測定と改善,日科技連,
1993.
選手名 重視された項目 中島裕之 出塁 片岡易之 盗塁 中村剛也 本塁打 糸井嘉男 安打・盗塁・長打 赤星憲広 盗塁 青木宣親 出塁 内川聖一 安打 鉄平 安打
球団名 効率値 西武 1 ヤクルト 0.7858
ロッテ 0.6009
横浜 0.5564
楽天 0.5035
ソフトバンク 0.4573
広島 0.4366
阪神 0.4364
日ハム 0.4303
オリックス 0.4057
巨人 0.4054
中日 0.3097