乳腺の組織学
乳腺は皮膚付属腺が皮下組織の中に落ち込んで発達した器官である。
乳腺の末梢には、複合管状胞状腺である小葉があり、小葉は乳管に繋が り、多数の乳管が集合して集合管となる。集合管は十数本存在し、乳頭 に開口数する。
Terminal duct-lobular units (TDLU):
終末乳管から、末端の腺房まで の組織を指し、乳癌は基本的にこの部分から発生すると考えられている。乳腺はどの部分も(乳管~腺房)、腺上皮細胞
(luminal epithelial cell)と
筋上皮(myoepithelial cell)の2種類の細胞で構成されている。
乳腺の輸出リンパ流の2/3は腋窩リンパ節に、1/3は胸骨傍リンパ節にそ そぐ。時に乳腺内にリンパ節が存在することがある。
男性乳腺: 乳管と膠原線維、脂肪組織があるが、小葉形成はない。
【年齢および生理的変化】
思春期: 成長ホルモン、プロラクチン、インスリンの 存在下でエストロゲンが乳管の延長・増生を担い、エ ストロゲンとプロゲステロンが小葉・腺房の分化を促 す。
性成熟期: 月経周期に伴う間質の浮腫や血流のにより 乳房の容積が変化する。
妊娠時: 小葉内の腺房が増加・拡張する。授乳期は腺 上皮でアポクリン分泌が盛んにおこなわれる。
閉経後: 乳管や腺房は小型化し、一部は消失して膠原 線維や脂肪組織で置換される。
TDLU
終末乳管 小葉
非腫瘍性乳腺組織
軽度の閉塞性腺症と周囲の 線維化を伴っている。
乳癌の要点 (1)
乳癌の発生・増殖進展様式基本的にTDLU上皮から上皮内癌が発生し、一部が乳管 壁を破り、間質へ浸潤するという様式を取ると考えられ ている。即ち、間質に浸潤する癌があっても、乳管内に 止まる癌成分も共存しており、肉眼的に認識できる浸潤 癌結節の外まで、乳管内を伝って癌が広く進展すること も少なくない。乳管内の癌は肉眼あるいは画像診断デバ イスで認識できるものもあるができないこともあり、丁 寧な切り出しと検鏡が必要となる。癌の広がりを分かり 易くするため、手術検体の切り出し図上に癌の分布を書 き込んでいくマッピングという作業も必要になる。
ER, PgR, HER2の評価
乳癌の病理診断では、免疫染色を用いてホルモンレセプ ター(ER およびprogesterone receptor, PgR)と
HER2(Human Epidermal Growh Factor Type 2) の発現 状態も必ず診断する。ER, PgR, HER2の組み合わせを基 に、術後補助療法の方針が検討されるためである。
乳癌サブタイプと乳腺病理株式会社 アトムスp.6より 一部改変
乳癌の要点 (2)
浸潤癌か非浸潤癌かの判別乳癌は進展度合いに応じ1.~3.に分ける。
1.
非浸潤癌2.
微小浸潤癌(間質浸潤の大きさが1mm以下)
3.
浸潤癌癌細胞巣の周囲に既存の乳管の筋上皮が残存していれば、乳 管内にとどまっていると考え、非浸潤癌とする。
癌細胞巣の周囲に筋上皮がなく、間質の線維化やリンパ球が あれば、浸潤癌である。ただし、間質の反応が見られない浸 潤癌もあり、筋上皮の有無の判定が難しい症例もある。その 場合は筋上皮に陽性となる免疫染色
(p63染色など)を用いて
判断する。
浸潤癌の病理学的グレード分類予後予測に有用とされる。元は浸潤性乳管癌のための分類で あったが、組織型を問わず評価する傾向にある。
核グレード分類: 核異型と、400倍10視野での核分裂像の数を それぞれ3段階にスコアリングする。
Nottingham組織学的グレード分類: 核グレード分類に加え、
腺管形成の量的割合を3段階にスコアリングする。腺管形成成 分が少ないほど、癌の分化が悪いと考えられる。
乳癌診療ガイドライン2018年版http://jbcs.gr.jp/guidline/2018/index/byouri/s3/より
次頁参照 乳癌治療Update 最新診療コンセンサス】最新研究トピックス 非浸潤性乳管癌の基礎と病理 最新知見 医学のあゆみ(0039-2359)230巻1号Page115-120より
乳管癌 ductal carcinoma
非浸潤性乳管癌(Ductal carcinoma in situ, DCIS)
乳癌全体の20%程度、非浸潤癌の80%程度を占める。Van Nuys prognostic indicator (VNPI)
(前頁下図参照)DCIS病変のグレード分類で、核異型度とcomedo壊死の有無、
DCISの大きさ、断端までの距離により、スコア化する。治療
方針の検討材料になる。
浸潤性乳管癌(Invasive ductal carcinoma)
浸潤癌の80%程度を占める。腺管形成型, 充実型, 硬性型の3つに亜分類するが、混在するこ とも多い。
乳癌取り扱い規約 第18版 金原出版株式会社p.43, 46, 47より
小葉癌
非浸潤性小葉癌(Lobular carcinoma in situ, LCIS)
浸潤性小葉癌(Invasive lobular carcinoma)
乳癌全体の5-15%程度, 浸潤癌の10%程度である。亜型があるが、基本像はクロマチンに乏しい繊細な核を有す る小型~中型の均一な腫瘍細胞が、線状、個細胞性、あるい は散布状に浸潤するものである。
乳管癌か小葉癌かの判別E-cadherin染色を用いると、乳管癌は陽性、小葉癌は基本的
に陰性になる。つまり 細胞接着分子であるE-cadherinや関連 蛋白であるcateninが消失しており、小葉癌の細胞接合性は緩 い。小葉癌は乳癌全体としては低頻度であるため、乳癌全例にE-
cadherin染色を施行することはないし、また、小葉癌でも陽
性例もある。まずは形態学的に小葉癌の可能性を示唆する所 見をつかむことが重要である。小葉癌は、間質反応を伴わずに広範囲に浸潤する傾向があり、
その場合画像診断ではとらえきれないため、画像診断での癌 の広がりよりも実際は広く進展していることがある。そのた め、乳管癌に比し断端が陽性になりやすい。予後は乳管癌と 変わらないとされるが、病期別では乳管癌より5年疾患特異的 生存率は良好である。
乳癌取り扱い規約 第18版 金原出版株式会社p.45, 48より
その他の癌
管状癌、粘液癌、分泌癌、アポクリン癌、浸潤性微小 乳頭癌、腺様嚢胞癌など、多種がある。
パジェット病
乳頭の表皮内に腺癌成分が見られる状態を指すが、
DCISあるいは微小浸潤癌が乳管を経て乳頭や乳輪の 表皮内に進展したものである。
乳癌取り扱い規約 第18版 金原出版株式会社p49, 54, 55より
センチネルリンパ節生検
画像診断にて臨床的に リンパ節転移陰性cN0と判断された症例 の70-80%は、切除されたリンパ節の病理診断結果も転移陰性 である。逆に言えば、20-30%は病理検査を行うと転移が見つ かるということになる。ならばcN0の患者にも腋窩リンパ節郭 清を施行して転移の可能性のあるリンパ節を一掃した方が良い と思ってしまうが、腋窩リンパ節郭清には合併症があり、腋窩 リンパ節郭清を受けた患者の半数以上に上肢機能障害
(筋力低
下、可動域制限、リンパ浮腫など)が生じるとされている。よっ て、不必要なリンパ節郭清は避けなければならない。そこで有 用なのが、センチネルリンパ節生検である。センチネルリンパ節とは、がんが転移し得るリンパ節の中で、
最も早期に転移すると推定されるリンパ節のことである。セン チネルリンパ節生検とは、乳癌手術中に、センチネルリンパ節 を同定して切除して術中迅速病理検査に提出することで、病理 医がセンチネルリンパ節の癌の転移の有無を診断して外科医に 報告し、外科医が腋窩リンパ節郭清の必要性を判断する。(なお、
センチネルリンパ節の同定方法を各自学習せよ。)
センチネルリンパ節生検の精度は90-95%程度とされている。
非浸潤癌であると考えられる癌の場合、センチネルリンパ節生 検は行う必要はない。ただし、術前に確実に非浸潤癌であると いえるかどうかは難しく、術前にDCISと診断された例の8-38%
が、最終病理診断で浸潤癌にアップグレードされる。
JA岐阜厚生連 中濃厚生病院のサイㇳhttp://www.chuno.gfkosei.or.jp/images/g-geka/image001-1.jpgより
良性病変 線維腺腫
小葉内間質の過剰増殖による結節状病変である。増生 した間質に圧排された小葉内乳管を伴う。
好発年齢: 30歳台.
25歳以下に生じる乳腺病変では最も多い。
ごくまれ (0.5%)に、線維腺腫内に癌が併発すること
がある。その50%がLCIS, 25%がDCIS, 残りが浸潤癌 である。
病理学的所見: 肉眼的には1-3cm程度の白色調の結節 である。組織学的には、間質は正常乳腺間質と同様で、
豊富な気質の中に異型のない線維芽細胞や筋線維芽細 胞がまばらに存在する。乳管成分は、腺上皮と筋上皮 の2層性を保持しており、増生する間質により、種々 の程度に変形する。変形のパターンによって、管周囲 型、管内型、類器官型などに亜分類される。
乳癌取り扱い規約 第18版 金原出版株式会社p.56より
葉状腫瘍 Phyllodes tumor
線維成分と上皮成分がともに増生する腫瘍であり、
大半は良性であるが、境界悪性あるいは悪性のふ るまいをすることもある。
好発年齢: 40-50歳台
病理学的所見: 肉眼的に平均して4-5cmの結節 であるが、10 cm以上の大きさになるものもある。
組織学的には、線維成分と上皮成分の増生で、線 維性間質が細胞成分に富み、間質の細胞に多型性 や核分裂像が見られる。
良性葉状腫瘍では、間質成分が腫瘍辺縁で圧排性 に増生するのに対し、悪性葉状腫瘍では辺縁で浸 潤性に発育し、間質に細胞の異型が一見して高度 で肉腫と判断できる。境界悪性は、辺縁のパター ンも異型も両者の中間的である。上皮細胞は過形 成を呈することはあるが悪性像を示すことは極め てまれである。
※葉状構造: 植物の葉に葉脈が走る様に似た形態
乳癌取り扱い規約 第18版 金原出版株式会社p.57より
乳癌の病理診断報告の一例
腫瘤占拠部位: Lt. [AC]
腫瘤の大きさ: 浸潤癌の拡がり28x20x15 mm, DCIS を含めた拡がり70x24x24 mm.
組織型: Invasive ducal carcinoma, tubule forming > scirrhous DCIS の組織型: comedo, solid
浸潤の範囲: g (+) f(+) s(-) p(-) w(-) 脈管侵襲: ly0, v0.
断端の判定: 頭(-, 26 mm), 尾(-, 45 mm), 内(-, 6 mm), 外(-, 25 mm).
Extensive intraductal component (EIC)の有無: なし 癌の乳管内伸展巣(ductal spreading)の有無とその程度: 1+
N・SAS-BCによる核異型の評価 (核グレード分類): A (3) + B (1) = Nuclear grade = 2 Nottingham grade (組織学的グレード分類): 腺管形成スコア2 + 核異型スコア3 + 核分裂ス コア1 = 6, Grade II
免疫組織化学: ER (+), AS (8) = IS (3) + PS (5), J-score 3b; PgR (+), AS (8) = IS (3) + PS (5), J-score 3b. HER2 Score 1+. Ki67 index, about 12%, EGFR (-), CK5/6 (-).
http://www.toukaisaibou.co.jp/cmsdesigner/dlfile.php?entryname=byo&entryid=00025&fileid=00000001&/ER%
A1%A6PgR.pdf&disp=inline より
ER, PgR免疫染色の判定基準
HER2免疫染色の判定基準
http://pathology.or.jp/news/pdf/HER2-150213.pdfより 乳癌取り扱い規約 第18版
金原出版株式会社p.69より