集合論の基礎
– 確率論 I– 参考資料
2009/01/03,
西岡• 確率論では, 集合とその演算を利用すると理解が容易になる.
• 論理の展開に集合論を効果的に使うことができる.
• そこで,集合論の基礎を論じ,次に確率論の準備とする.
1
用語と記号I. 範囲を確定した物の集まり を集合set と呼ぶ. じつはこの説明は明確ではなく,集合ははっきり定 義できない. 集合A を構成する物を元elementaと呼び, 次のように表記する:
(1) a∈A (xがAに属する).
また, (1)の否定を次のように書く:
(2) a̸∈A (xがAに属さない).
いかなるものも元として含まない集合(これも集合と考える)を,空集合 empty setといい,
∅ (空集合) とあらわす.
II. 集合A, B にたいし,
A=B
とは,Aに属する元とB に属する元とがまったく一致することをいう. 集合A が,元a, b,· · ·, cから構成されているとき,
A={a, b,· · · , c} と書く. なお{a} は唯一つの元aからなる集合である.
「集合Aの元がすべて 集合B に属する」とき (これを論理式で a∈A⇒a∈B と表す), A はB の部分集合 A⊂B
という.
2
集合の演算• 集合A.Bの和集合 unionA∪B とは,A またはB に属する元から構成された集合のことである. つ まり
x∈A∪B ⇔ x∈Aもしくは x∈B.
• 集合A.Bの共通部分 intersectionA∩B とは,Aおよび B に属する元から構成された集合のことで ある. つまり
x∈A∪B ⇔ x∈Aかつx∈B.
• 集合A.Bの差集合 differenceA−B とは,Aには属するがB に属さない元から構成された集合のこ とである. つまり
x∈A−B ⇔ x∈Aかつx̸∈B.
• とくに 集合Bが 集合Aの部分集合であるとき,差集合A−Bを BのAに関する補集合complement とよぶ.
もし. 考えている集合が,すべてある決まった 集合X の部分集合となっているとき. X を全空間とよ び,X−B を単に B の補集合 といい,下のように表記する:
Bc.
問題1. A={1,2,3,4}, B={2,4,6} のとき,
A∪B, A∩B, A−B, B−A
を求めよ. ♠ [解答]
A∪B={1,2,3,4,6}, A∩B={2,4}, A−B={1,3}(= B のAに関する補集合), B−A={6}(= AのB に関する補集合).
定理2. 任意の集合A, B, C にたいし,つぎの等式が成立する: (i) A∪A=A, A∩A=A,
(ii) A∪B =B∪A, A∩B=B∩A, (iii) (
A∪B)
∪C=A∪( B∪C)
, ( A∩B)
∩C=A∩( B∩C)
, (iv) (
A∪B)
∩C=( A∩C)
∪( B∩C)
, ( A∩B)
∪C=( A∪C)
∩( B∪C)
, (v) A∪ ∅=A, A∩ ∅=A, A− ∅=A, A−A=∅. ⋄
練習問題 3. 定理2 の(iii)を使い,次の等式を証明せよ. ((A∪B)
∪C
)∪D=( A∪B)
∪( C∪D)
=A∪( B∪(
C∪D)) (( .
A∩B)
∩C
)∩D=( A∩B)
∩( C∩D)
=A∩( B∩(
C∩D)) .
問題4. 20人から成るグループに10円硬貨および5円硬貨を持っているか尋ねた. その結果 10円硬貨を所持する者=15人, 5円硬貨を所持する者=10人, どちらの硬貨も所持しない者=3人
であった. 10円硬貨および5円硬貨を共に所持している者の数を答えよ. ♣ [解答] 集合論の記号を導入する:
10円硬貨を所持する者の集合をA, 5円硬貨を所持する者の集合をB と表し, #AでAに属する要素の数を表す.
A A ∩ B B
図1 集合の関係図
すると
全体の要素の数= 20, # A =Aの要素の数= 15, #B=B の要素の数= 10,
#(Ac∩Bc) =Ac∩Bcの要素の数= 3 となるので
#(A∪B) = 20−#(Ac∩Bc) = 20−3 = 17.
ここで 図1 より
#(A∪B) = #A+ #B−#(A∩B) となることが判る. つまり
#(A∩B) = 15 + 10−17 = 8人. 2
前問より複雑な場合を考える.
問題5. あるクラスの50人に,サッカー,野球,テニス のどれが好きかを調べ,次の結果が得られた: (i) サッカーが好きなものは35人, (ii) 野球が好きなものは30人,
(iii) テニスが好きなものは 15人, (iv) サッカーと野球が好きなものは 20人,
(v) サッカーとテニスが好きなものは10人, (vi) 野球とテニスが好きなものは8 人, (vii) どの種目も好きでないものは4人.
3種目とも好きなものの人数を計算せよ. ♣
[解答] サッカー好きなものをS,野球好きをB,テニス好きをT で表すと,
#(S∩B) = 20, #(S∩T) = 10, #(B∩T) = 8,
S
B T
x
となる.
また, #(Sc∩Bc∩Tc) = 4だから, #(S∪B∪T) = 50−4 = 46である. #(S∩B∩T) =xとおくと, 46 = #(S∪B∪T)
= #S+ #B+ #T−#(S∩B)−#(S∩T)
−#(B∩T) + #(S∩B∩T)
= 35 + 30 + 15−20−10−8 +x= 42 +x.
つまり,
x= 46−42 = 4. 2
つぎの問題はかなり捻っている.
問題6 (国家一種). 50人の学生について,英数国の3 科目中で得意な科目を調べた. (i) 英語が得意なものは30人, (ii) 国語が得意なものが 25人, (iii) 数学が得意なものが20人, (iv) 3 科目とも得意なものが5人, (v) 1科目だけ得意なものが20人.
3科目とも不得意なものは何人か? ♣
[解答] 英語が得意なものを E,国語が得意なものをJ,数学が得意なものを M で表す. 英語だけが得意な ものは,
#E−{
#(E∩J) + #(E∩M)−#(E∩J∩M)} .
同様に,国語だけが得意なものは,
#J−{
#(E∩J) + #(J∩M)−#(E∩J∩M)} .
数学だけが得意なものは,
#M −{
#(E∩M) + #(J∩M)−#(E∩J∩M)} .
つまり1 科目だけが得意なものは,これらを足し併せて
#E+ #J+ #M −2{
#(E∩J) + #(E∩M) +#(J∩M)}
+ 3 #(E∩J∩M) この式に数値を当てはめて
20 = 30 + 25 + 20−2{
#(E∩J) + #(E∩M) + #(J∩M)} +3×5 = 90−2{
#(E∩J) + #(E∩M) + #(J∩M)} .
これより {
#(E∩J) + #(E∩M) + #(J∩M)}
= 35.
一方
#(
E∪J∪M)
= #E+ #J+ #M
−{
#(E∩J) + #(J∩M)−#(E∩J∩M)}
+ #(E∩J∩M)
= 30 + 25 + 20−35 + 5 = 45 だから
#(Ec∩Jc∩Mc) = 50−#(
E∪J∪M)
= 50−45 = 5人. 2
3
一般化前節の議論は一般化でき,大変有用である.
定理7. 集合A1, A2,· · · に対し,次が成立. #AでAに属する要素の数を表す. (i) #(A1∪A2) = #A1+ #A2−#(A1∩A2).
(ii) #(A1∪A2∪A3) = #A1+ #A2+ #A3
−{
#(A1∩A2) + #(A2∩A3) + #(A3∩A1)}
+ #(A1∩A2∩A3).
(iii) #(A1∪A2∪A3∪A4) = #A1+ #A2+ #A3+ #A4
−{
#(A1∩A2) + #(A2∩A3) + #(A3∩A4) + #(A4∩A1)} +{
#(A1∩A2∩A3) + #(A2∩A3∩A4) + #(A3∩A4∩A1) +#(A1∩A2∩A4)} −#(A1∩A2∩A3∩A4).
...
♣
定理 8. n個の集合 A1, A2,· · ·, An に対し次が成立する. ただし#Ak で 集合 Ak に属する要素の数を 表す.
#(A1∪A2∪ · · · ∪An) = ∑
1≤k≤n
#Ak− ∑
1≤j<k≤n
#(Aj∩Ak)
+ ∑
1≤i<j<k≤n
#(Ai∩Aj∩Ak) +· · ·
(つまり−と+が交互に現れる). ⋄
前述の 定理8 を使うと,「出会い確率」=(カップル成立の確率が最も高いのは, 何人の合コンか?)の問 題が解ける:
問題9 (出会い確率). (i) 1,2,· · ·, nの数字が1文字書かれたカードを左からランダムに並べる.
(ii) 並べ終わったとき,kの数字を書かれたカードが,左からk番目にあるとき「マッチング成立」という. ここで,すくなくとも1 組以上のマッチングが成立する確率を求めよ. ♣
[解答] 確率論の講義中に詳しい証明を与えるので,ここでは結論のみを述べる.
「n組のなかで少なくとも1組以上マッチングが成立する確率Q(n)」は次の通り. (e= 2.718· · · は ネイ ピア数,基礎数学 I )
n組のなかで少なくとも1組以上マッチングが成立する確率
≡Q(n) =n×1 n−nC2
(n−2)!
n! +nC3
(n−3)!
n! − · · ·+ (−1)n nCn
(n−n)!
n!
= 1− 1 2!+ 1
3!− · · ·+ (−1)n 1 n! → 1
e zas n→ ∞.
n 1 2 3 4 5 6
Q(n) 1 0.5 0.667 0.625 0.633 0.631
2 4 6 8 10
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
以上から判るように,合コンで 1組以上のカップルが誕生する確率は (i) 3:3のとき最大, 2:2のときに最小,
(ii) n→ ∞としても,カップルが誕生する確率は増えない,実際 lim
n→∞Q(n) = 1−1
e ∼0.632· · · 2
注意10. この[出会い確率]の計算は「机上の空論」との印象がある. しかし,本学部での講義中に
「合コンで,成功率が最も高いのは何人対何人か?」
との質問をしたところ,「経験上3:3」 との解答が圧倒的に多かった. 具体的には,対面で座るとき 男 幹事 愉快キャラ イケメン
女 ○ ○ ○
との配置がもっとも望ましいそうである*1. やはり,確率法則は実社会に応用できる!
*1 2年生のM/ Mさん,御教唆ありがとう.