厚生労働科学研究費補助金(長寿科学政策研究事業)
分担研究報告書
高齢者における地域の運動グループ参加者割合と個人の抑うつ傾向の関連
―横断的マルチレベル分析―
研究分担者 辻 大士(千葉大学 予防医学センター 特任助教)
研究協力者 宮國 康弘(千葉大学 予防医学センター 特任研究員)
研究協力者 金森 悟(東京医科大学公衆衛生学分野)
研究要旨
目的: 高齢者の運動グループ参加者割合が高い地域に住む高齢者の抑うつ傾向は、個人の参加 状況を調整した後でも低いのかを明らかにする。
対象と方法: JAGESプロジェクトが2010年8月から2012年1月にかけて高齢者を対象に実施した 郵送調査から、うつ尺度(15項目版Geriatric Depression Scale: GDS)と運動グループへの参加 状況への回答が得られた64,872名(小地域数: 531)を分析対象とする横断研究である。GDS5 点以上の“抑うつ傾向あり”をアウトカムとした。運動グループへの参加頻度が月1回以上を
“参加あり”とし、説明変数は地域レベルの参加者割合(10%単位)、個人レベルの参加、地 域レベルの参加者割合×個人レベルの参加(クロス水準交互作用)とした。年齢、治療中の疾 患、婚姻状況、家族構成、教育歴、等価所得を調整したマルチレベルポアソン回帰分析を男女 別に実施した。
結果: 男性の28.4%が抑うつ傾向を有し、21.7%が運動グループに参加していた。女性はそれぞ れ28.5%、23.9%であった。小地域ごとの平均参加者割合は22.6±6.5%であった。マルチレベル ポアソン回帰分析の結果、抑うつ傾向ありの割合のprevalence ratioと95% confidence intervalは、
男性では地域レベルの参加者割合(10%単位)で0.91(0.88–0.94)、個人レベルの参加で0.80
(0.63–1.02)、交互作用項は0.88(0.80–0.97)であった。女性ではそれぞれ、0.94(0.91–0.97)、
0.63(0.50–0.79)、0.98(0.89–1.07)であった。
結論: 男女いずれも、個人の参加状況に関わらず、運動グループに参加する高齢者が多い地域 に住んでいる高齢者は、抑うつ傾向を示す者が少なかった。また、参加している男性個人が、
参加者の多い地域に住んでいることは、抑うつ傾向を有するリスクがさらに低くなることが示 唆された。
A. 研究目的
介 護 保 険 法 の 改 正 に 伴 い 、 地 域 づ く り に よ る介護予防 の推進が図 られている 。 運動グル ープへの参 加は、参加 した高齢者 個人に対し て、他のグ ループ への 参加 よりも 特に優れた 介護予防効果が示唆されている1)。しかし、運 動グループ への参加者 割合が高い 地域に暮ら
すことが、 参加してい ない高齢者 の健康にま で関連する のかはほと んど明らか になってい ない。本研究では、介護予防の6つの重点項目 の一つであ り、運動実 践により予 防・緩和が 期待される “抑うつ” に着目した 。そこで、
高齢者の運 動グループ 参加者割 合 が高い地域 の高齢者の 抑うつ割合 は、個人の 参加状況を 調整後も低 いのかを明 らかにする ことを目的
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とした。
B. 研究方法
日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study: JAGES) プ ロ ジ ェ ク ト で は
2010年8月 から2012年1月にかけ て、全国25保
険者31自治 体の要介護 認定を受け ていない65
歳以上の高 齢者を対象 に自記式郵 送調査を実 施 し112,123名 か ら 回 答 を 得 た ( 回 収 率
66.3 %)。本研究では、うつ尺度(15項目版
Geriatric Depression Scale: GDS)と運動グルー プ へ の 参 加 状 況 へ の 回 答 が 得 ら れ た64,872名 を分析対象とする横断研究を実施した。GDS5 点以上の“ 抑うつ傾向 あり”をア ウトカムと した。運動グループへの参加頻度が月1回以上 の場合“参 加あり”と し、30名以 上の分析対 象 者 が 得 ら れ た531の 小 地 域 ご と に 参 加 者 割 合を算出し た。説明変 数は地域レ ベルの参加 者 割 合 (10%単 位 ) 、 個 人 レ ベ ル の 参 加 、 地 域 レ ベ ル の 参 加 者 割 合 × 個 人 レ ベ ル の 参 加
(クロス水 準交互作用 )とし、年 齢、治療中 の疾患、教 育歴、婚姻 状況、家族 構成、等価 所得を調整 したマルチ レ ベルポア ソン回帰分 析を男女別に実施した。
(倫理面への配慮)
本 研 究 で 用 い た デ ー タ が 収 集 さ れ た 、 JAGESプ ロ ジ ェク ト が 実 施し た 調 査 は、 日本 福祉大学「 人を対象と する研究」 に関する倫 理審査委員 会の承認を 受けておこ なわれた。
( 大 規 模 コ ホ ー ト に よ る 老 年 学 的 評 価 研 究
(J-AGES)プロジェクト、申請番号10-05、2010 年7月27日承認)
C. 研究結果
分析対象者の記述統計を表1に示す。男性で は28.4%が抑うつ傾向を有し、21.7%が運動グ
ループに参加していた。女性はそれぞれ28.5%、
23.9%であった。また、小地域ごとの平均参加
者割合は22.6±6.5%であった。
表1. 記述統計
個人レベル
n % n %
抑うつ傾向あり(GDS>=5) 9,172 28.4% 9,281 28.5%
n % n %
運動グループ参加あり 7,009 21.7% 7,762 23.9%
地域レベル
運動グループ参加者割合
男性(n = 32,337) 女性(n = 32,535)
平均 標準偏差
22.6% 6.5%
地域数(n = 531)
全 共 変 量 を 調 整 し た マ ル チ レ ベ ル ポ ア ソ ン 回 帰 分 析 の 結 果 、 抑 う つ 傾 向 あ り の 割 合 の prevalence ratioと95% confidence intervalは、男 性 で は 地 域 レ ベ ル の 参 加 者 割 合 (10%単 位 ) で0.91(0.88–0.94)、個人レベルの参加で0.80
(0.63–1.02)、それらの交互作用項は0.88(0.80 –0.97)であった(表2)。女性ではそれぞれ、
0.94(0.91–0.97)、0.63(0.50–0.79)、0.98(0.89 –1.07)であった(表3)。
表2 地域レベルの運動グループ参加者割合 と個人レベルの抑うつ 傾向(GDS>=5)の関連:
マルチレベルポアソン回帰分析 (男性)
PR 地域レベル要因
0.91 0.88 0.94 個人レベル要因
運動グループ参加
(ref. なし) 参加あり 0.80 0.63 1.02 クロス水準交互作用
0.88 0.80 0.97
個人レベル調整変数
70-74 0.97 0.92 1.02 75-79 1.01 0.95 1.07 80-84 1.08 1.01 1.16 85- 1.12 1.02 1.23 治療中の疾患(ref. なし) あり 1.48 1.40 1.56 家族構成(ref. 同居) 独居 1.29 1.17 1.41 死別 1.22 1.13 1.33 離別 1.33 1.17 1.51 未婚 1.52 1.32 1.75 10-12年 1.05 0.99 1.11 9年未満 1.20 1.13 1.27 200-399万円 1.40 1.28 1.53 199万以下 2.06 1.89 2.26 PR: prevalence ratio
婚姻状態
(ref. 配偶者あり)
等価所得
(ref. 400万円以上)
教育歴
(ref. 13年以上)
年齢
(ref. 65-69)
男性(n=32,337)
運動グループ参加者割合(10%単位)
参加者割合(10%単位)×参加あり
95%信頼区間
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表3 地域レベルの運動グループ参加者割合 と個人レベルの抑うつ 傾向(GDS>=5)の関連:
マルチレベルポアソン回帰分析 (女性)
PR 地域レベル要因
0.94 0.91 0.97 個人レベル要因
運動グループ参加
(ref. なし) 参加あり 0.63 0.50 0.79 クロス水準交互作用
0.98 0.89 1.07
個人レベル調整変数
70-74 0.97 0.92 1.03 75-79 1.04 0.98 1.10 80-84 1.10 1.03 1.18 85- 1.31 1.21 1.43 治療中の疾患(ref. なし) あり 1.41 1.33 1.50 家族構成(ref. 同居) 独居 1.06 0.99 1.13 死別 1.04 0.99 1.10 離別 1.25 1.13 1.38 未婚 1.13 0.99 1.29 10-12年 1.10 1.03 1.18 9年未満 1.22 1.14 1.31 200-399万円 1.27 1.16 1.40 199万以下 1.82 1.66 1.99 女性(n=32,535)
95%信頼区間 運動グループ参加者割合(10%単位)
参加者割合(10%単位)×参加あり
年齢
(ref. 65-69)
教育歴
(ref. 13年以上)
婚姻状態
(ref. 配偶者あり)
等価所得
(ref. 400万円以上)
PR: prevalence ratio
D. 考察
ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル が 豊 か な 地 域 は 、 人々のつな がりが多く 、助け合い や協調行動 が盛んな地 域と考えら れる。こ の ような 地域 レベルの要 因が個人の 健康に関連 する経路 と して「他人 への影響」 、「非公式 な社会 的統 制」、「集 団行動」、 「ストレス の低減」が 想定される2,3)。運動グループに参加する高齢 者多い地域 では、周り につられて 運動を始め たり(他人 への影響) 、他の住民 の目がある から自ずと 地域の運動 のイベント に参加した り(非公式 な社会的統 制・集団行 動)、その ような活動 を通してス トレスの低 減がなされ たりしやす い環境 が整 い、個人へ の抑うつ予 防効果がもたらされているのかもしれない 。
ま た 、 運 動 グ ル ー プ に 参 加 し て い る 男 性 個 人が、参加者の多い地域に住んでいることは、
抑うつ傾向 を有する危 険性がさら に低いこと
が確認され た。 地域の 組織に役割 を持って参 加すること は、特に男 性において 抑うつ予防 効果がもた らされやす いことが報 告されてい る4)。運動グループが盛んな地域では 、グルー プに役割を 持って携わ る 男性も多 く なり、よ り一層の抑 うつ予防効 果 がもたら されている のかもしれない。
今 後 の 課 題 と し て 、 都 市 度 ( 可 住 地 人 口 密 度)を考慮 した分析 や 、縦断分析 や地域介入 研究により 、 運動グル ープが増え ることで、
地域の高齢 者の抑うつ が予防され るか検証 が 必要である。
E. 結論
男女いずれも、個人の参加状況に関わらず、
運動グルー プに参加す る高齢者が 多い地域に 住んでいる 高齢者は、 抑うつ傾向 を示す者が 少なかった。また、参加している男性個人が、
参加者の多 い地域に住 んでいるこ とは、抑う つ傾向を有 するリスク がさらに低 くなること が示唆された。
F. 研究発表
1.論文発表 なし2.学会発表
辻大士, 宮國康弘, 金森悟, 近藤克則. 高齢者 における地 域のスポー ツグループ 参加者割合 と 個人 の 抑 う つ傾 向 の 関 連~JAGESプ ロジ ェ ク ト に お け る 横 断 的 マ ル チ レ ベ ル 分 析 ~. 第
19回日本運動疫学会学術総会, 東京, 2016.(一
般口頭発表O1-2,抄録集P26)
(発表誌名巻号・頁・発行年等も記入)
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G. 知的財産権の出願・登録状況(予定を含 む)
1.特許取得 なし
2.実用新案登録 なし
3.その他 なし
<参考文献>
1) Kanamori S, Kai Y, Aida J, Kondo K, Kawachi I, Hirai H, Shirai K, Ishikawa Y, Suzuki K, JAGES Group. Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese: the JAGES cohort study. PLoS One 9(6): e99638, 2014.
2) Kawachi I, Berkman L. “Social Cohesion, Social Capital, and Health” in Social Epidemiology: ed. by Berkman L, Kawachi I.
Oxford University Press, 2000.
3) 相 田 潤, 近 藤 克 則. ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル と 健 康 格 差. 医 療 と 社 会 24(1): 57-74, 2014) Takagi D, Kondo K, Kawachi I. Social participation and mental health: moderating effects of gender, social role and rurality. BMC Public Health 13: 701, 2013.