4.5 結果と考察
4.5.1 実験での応力-歪み曲線
図4.5.1にJ55・L80のケーシングの標点区間200 mmの荷重をかけてから破断にいたる 平均歪み-応力曲線を示す。この曲線は降伏点にいたるまでほぼ直線で上昇するが、降伏 点近傍で曲線となる。上降伏応力 A 点を越すと下降伏応力に降下し、その降伏値を保ちな がら、しばらく伸びる。その際ケーシングの表面にはうろこ状の滑り面模様が現れる。そ の後ケーシングが伸びるにつれてM点までは応力は上昇する。M点まではケーシングは一 様に伸びるが、M点から括れを生じZ点に至って破断が起きる(図ではp-J55-3の曲線に プロットしている)。この図では MからZ の括れの部分は試験片のサイズが小さいために 大きな歪みとなるが、実際のケーシングでは括れは基本的に1つのケーシングで 1つしか 生じないため1 %程度である。括れの部分の伸びは試験片の長さ、断面積により異なるので これ以後は最大荷重までの応力-歪み曲線を掲載する。
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
標点間平均歪み
公称応力 [psi]
p-J55-3 p-L80-2
M
A Z
B
図4.5.1 管状試験片破断までの平均歪み-応力曲線(J55・L80)
4.5.2 実験データ
表4.5.1に引張試験結果を示す。また図4.5.2と図4.5.3に引張試験片の破断後の写真を 示す。以上の結果を表4.4.1 の値と比べると、降伏強度、引張強度共に、おおよそ API 規 格の各グレードの値の範囲を満たしていることがわかる。H40に関しては2種用意したが 結果に大きな差があり、単純に一括りでは判断できない。
表4.5.1から降伏強度と引張強度の関係に注目すると、H40・J55・K55は降伏強度と引 張強度に大きく差があり、降伏後も約 40~70%以上の応力に耐えられることがわかる。一 方、高グレードになるにつれて、降伏強度と引張強度の差は小さくなる。L80 に関しては 降伏してから更に約11~15%、P110・Q125は約6~7%、V150では4%程の応力にしか耐 えられない。引張強度だけに限れば、H40の一部、J55はL80に並ぶ値が出ていることが わかる。引張強度に至るまでの歪みに関しては、H40については25% にも及ぶ値を示すも のと10数%しか示さないという極端な結果になった。H40というグレードに関しては、そ の製造過程上、API 規格で定められるグレードの指標である降伏強度以外の物性が製造ロ ットごとに大きく異なる可能性が高い。P110の3.84%(最小値)、Q125の4.74%に比べ、
L80はそれの 2倍近い7.99%(最小値)を示し、J55・K55は3倍近い10%以上の一様伸び を示している。基本的に高グレードになるにつれて脆性が増し、歪みの値が小さくなるこ とがわかる。一方、P110・Q125・V150 を比較するとグレードが上がるにつれ、引張強度 までの歪みが大きくなっている。この結果から、単純に高グレードにすると延性が下がる わけではないこともわかる。
表4.5.1 引張試験結果
(a)全体 (b)破断部
(c)上部破断面 (d)下部破断面 図4.5.2 p-L80-2 試験後の試験片
(a)全体 (b)破断部
(c)破断面(c-L80-1) (d)破断面(c-L80-2) 図4.5.3 c-L80 試験後の試験片
4.5.3 形状の違いによる比較
図4.5.3と図4.5.4に示すように形状による剛性の違いはあるが、結果としてはJ55・L80 における管状14C号試験片と円弧状14B号試験片に大きな違いは見られなかった。したが って以後データの検証には14B号試験片を用いる。
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14
歪み
公称応力 [psi]
p-J55-1 p-J55-3 c-J55-1 c-J55-2
図4.5.3 管状・円弧状試験片の応力-歪み曲線の比較(J55)
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1
歪み
公称応力 [psi]
p-L80-1 p-L80-2 p-L80-3 c-L80-1 c-L80-2
図4.5.4 管状・円弧状試験片の応力-歪み曲線の比較(L80)
4.5.4 公称応力-歪み曲線
図4.5.4に円弧状試験片である、14B号試験片における引張強度までの応力-歪み曲線を、
図4.5.5に同様のものを破断まで示す。H40・J55・L80に関しては、降伏後に一時的に応 力が減少し、一定応力で歪みのみが進展していく下降伏区間が見られるが、P110・Q125・
V150には下降伏区間は見られず、なだらかな応力の上昇が続く。一般に高グレードになる ほど下降伏は観察されない。これは前者に比べて後者の滑る量が小さくすぐに塑性変形領 域へと移行したためだと考えられる。表4.5.1 を参照すると、P110・Q125・V150は降伏 強度と引張強度の差がH40・J55・L80に比べて小さく、図4.5.4よりP110・Q125・V150 には滑りの進展による下降伏区間の歪み部分が見られない。最も滑りの進展による下降伏 区間が長くグラフ上に表れているのはL80 である。H40-B・J55・K55よりも長く表れて いて、P110・Q125・V150では確認できないことから、延性や降伏強度とは直接関係がな いことがわかる。滑りの進展歪み量は、化学成分値や焼鈍しなどの製造過程に影響を受け るものだと考えられる。図4.5.5の破断までのデータからは破断時の括れ具合や破断箇所の 影響が引張強度の点から破断に至るまでの歪みには大きいことが分かる。これは試験片の 寸法や試験状態に依存するもので、グレードごとの特徴を表しているわけではない。
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 180000
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
公称歪み
公称応力 [psi]
c-H40-A1 c-H40-A2 c-H40-B1 c-H40-B2 c-J55-1 c-J55-2 c-K55-1 c-L80-1 c-L80-2 c-P110-1 c-P110-2 c-Q125-1 c-Q125-2 c-V150-1 c-V150-2
H40-A
H40-B J55&K55
L80 P110
Q125 V150
図4.5.4 引張強度までの応力-歪み曲線
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 180000
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4
公称歪み
公称応力 [psi]
c-H40-A1 c-H40-A2 c-H40-B1 c-H40-B2 c-J55-1 c-J55-2 c-K55-1 c-L80-1 c-L80-2 c-P110-1 c-P110-2 c-Q125-1 c-Q125-2 c-V150-1 c-V150-2
H40-A
H40-B J55&K55 L80
P110 Q125
V150
図4.5.5 破断までの応力-歪み曲線
4.5.5 引張強度までの歪みとグレードの関係
図4.5.6にグレード毎の引張強度までの歪みと降伏強度をプロットしたものを示す。これ により傾向として高グレードになるにつれ、引張強度までの歪み(即ち、形状の変化しな い一様伸び)は小さくなることがわかる。
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 180000
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
引張強度における歪み
降伏強度 [psi]
p-J55 p-L80 c-H40-A c-H40-B c-J55 c-K55 c-L80 c-P110 c-Q125 c-V150
図4.5.6 引張強度までの歪みと降伏強度
4.5.6 局部伸び
引張強度に至るまでは形状に大きな変化を伴わず標点距離内で一様に伸びるのに対し、
引張強度を超えると大きな塑性流動が発生し、試験片の一部が括れることによって歪む局 部伸びが起こる。表4.4.1 で示したように API 規格にはグレード毎に、試験片引張試験に よる最小伸びが定義されている。実験的なデータを元にAPI規格では、最小伸びについて、
式(4.5.1)を与えている(これ以降、API 規格では歪みを伸びとして%で表記しているため、
それに合わせて%での比較を行うことにする)。
9 . 0
2 . 0
625000 0 B
A
(4.5.1)
:最小伸び[%]、A
0:試験片原断面積[inch²]、
B:引張強度[psi]表4.4.1の最小伸びの値は
A
0=0.75 inch2 と
Bは最小引張強度を代入することで得られる。しかし、この値は単位長さ2 inchの試験片の、破断するまでの伸びとして定義されて いる。従ってこの伸びは、一様伸びと局部伸びが含まれた全伸びである。一様伸びは試験 片寸法に依存しない値であるが、局部伸びが全伸びに与える影響は試験片の長さによって 変動する。また局部伸びは断面積に依存する値である。図4.5.7に一様伸びと全伸び(一様 伸び+局部伸び)の性質の違いについて示した。引張強度に至るまでの歪みは、全て一様伸 びによるものなので、同じ材質であれば、試験片の長さや断面積によらず、常に等しい値 を示す。一方、破断に至るまでの歪みは、一様伸びと局部伸びを合わせた全伸びによるも のなので、同じ材質でも、試験片の長さや断面積によって違う値を示す。一般的に、長さ が短く断面積が大きい試験片ほど、破断までの歪みは大きな値を示す。それは、試験片が 長くなっても局部伸びの大きさに影響がなく、断面積が大きい試験片ほど局部伸びが大き いからである。従って、API 規格に定義される最小伸びは、破断するまでの伸びであるか ら試験片の長さによって変動する可能性がある値と考えられる。断面積の変化に対する伸 びの変動は、式(4.5.1)に試験片原断面積の変数が含まれているため考慮されている。このこ とから実験結果を用いて図4.5.8に原断面積の平方根と局部伸びの相関を示す。これより局 部伸びは断面積が大きいほど大きいことが分かる。但し線形近似に関してはV150のデータ は用いていない。これはc-V150-1は括れが2箇所で発生したこと、c-V150-2は破断が標点 距離圏外で起きたためである。
図4.5.7 一様伸びと全伸び(一様伸び+局部伸び)
y = 0.4685 x + 1.7627 R
2= 0.9458
0 5 10 15 20 25
0 5 10 15 20 25 30 35 40
原断面積の平方根
局部伸び [mm]
p-J55 p-L80 c-H40-A c-H40-B c-J55 c-K55 c-L80 c-P110 c-Q125 c-V150
図4.5.8 原断面積の平方根と局部伸び
4.5.7 フィールドへの応用
4.5.7.1 フィールドでの伸び
伸びはAPI 規格に定められているが、これは試験片の引張試験結果の基準であり現状の セメンチング技術では、実際のフィールドで意味を成す値ではない。地層の伸縮は数十 ft にも範囲が及ぶと予測され、地層との間に滑りをきたすケーシングの長さの範囲も、最低 でも1本のケーシング約40 ftを超すと考えられる。4.5.6で述べたようにAPI規格の伸び 値はフィールドの長いケーシングに使用しようとしても意味を成さない。フィールドでは 数十ft に及ぶ長い範囲で合計どれくらいの伸びに耐えられるのかということを示す値が、
ケーシングの伸びに関してより実用的に意味を成す値であると考えられる。そこで、ケー シングそのものの引張試験結果から、伸びの性質を把握して実験データを用いてフィール ドでのケーシングが耐えうる実際の最小伸びを予測する。
4.3節で述べたUnwin-Barbaの式より、
0
100
0L
A
(4.5.2)
:伸び[%]、
:定数、
:定数、A
0:原断面積[inch2]、L
0:標点距離[inch]と表される。式(4.5.2)は全伸びを一様伸びと局部伸びに分け、後者を断面積と標点距離(フ ィールドに応用する場合は伸びの発生するセクション毎の長さ、即ちケーシング 1 本の長 さとする)から求めるものである。ここで
は各グレードでの一様伸び、
は図 4.5.8 で 得た線形近似の比例定数 0.469 に相当する。一様伸びは、試験片の長さや断面積に依存し ない値だと考えられるので、引張強度に至るまでにケーシングが耐えられる最低限度の伸 びは、今回の実験の複数の結果の最小値(但しH40については2種で差があるので最小値 の平均とする)とした。次に実際のケーシングについて、原断面積とケーシング長さの関 係から、想定されうる0
0 L
A を考えてみる。長さをケーシング1本に取った理由は、ケー シングの接続部はカップリングによって固定されているため外径が管体部分より大きくな ることからセメントとの間に滑りを起さない可能性があるが、逆に外径が小さくなる管体 部分でセメントとの間に滑りを生じる可能性が高い。従って、1本のケーシングに1つの括 れができる可能性があり、長さをケーシング長さに設定した。1 本のケーシング長さを 27
~40 ft、原断面積に関しても同様に外径4.500 inch内径4.090 inch~外径20.000 inch内 径18.730 inch を想定し、このケーシング長さと原断面積の関係から、最大の A0 L0であ る
1 . 92 10
2を算出した。これにより 1 本のケーシングで起こりうる最大の局部伸びが求 められる。これらを踏まえて表4.5.2 にグレード毎の API 規格での伸びとケーシング長さ に対して想定される伸びを示す。但しセメントと地層間で滑りが生じる場合は数本のケー シングに1つの括れができる場合であるが、この場合には表4.5.2で示したケーシング1本 の全伸びは、さらに一様伸びに近づくことになる。表4.5.2 API規格と本研究で予測される伸びの比較
図4.5.9はAPI試験片の伸びとフィールドでのケーシング 1本当たりの伸びを比較した ものであるが、フィールドでの伸びをケーシング 1 本単位で考える場合においては、意味 をなす伸び値は引張強度に至るまでの伸び値(表4.5.2より破断までの伸び値と 0.9%しか 差がないため)に近いことがわかる。またケーシングはセメンチングにより地層にある程 度固着されるため地層の伸縮とともに伸びることから、高グレードケーシングであっても 伸びにより破壊されてしまう。最大応力に至るまでは、降伏応力を超えてもケーシングは 安定的で一様に伸びを生じ、括れは生じないため、元の原型を保ち本来の機能を保持して いる。従って、引張強度に至るまでの歪みにはケーシングは耐えることができ、それまで は使用可能であると考える。
図4.5.9 試験片の伸びとフィールドでの伸び
4.5.7.2 伸び強度に基づく設計
ここまで伸びの可能性について考察してきたが、実際に要求される伸びの値はどの程度 なのかということを、4.2の貯留層解析結果に照らし合わせると、ルーフ効果を起こすよう な層厚な貯留層セクションでは圧密が激しく、ケーシングは貯留層内で、垂直方向に5%以 上の圧縮歪みを引き起こされる可能性がある。また、パーフォレーションが実施されてい ない高圧薄層が帽岩内に存在する場合には、下部貯留層の圧力減退による圧密に伴う薄層 の有効応力の減少によって、ケーシングはその薄層付近で垂直方向に6.5%近くの引張歪み を引き起こされる可能性がある。この予測される約6.5%の引張歪みは、表 4.5.2にも示し たように、高グレードP110・Q125・V150においては破断までに耐えられる伸びが6%付 近かそれ以下になる可能性もあることから、この状況下でのケーシングは圧潰・引張破壊 の両方の破壊の危険性を持っているといえる。一方、低グレードのケーシングは、6.5%近 くの引張歪みを受けても、実用に耐えうると予測した伸びの許容値に十分収まるために、
圧潰・破壊までに伸びに関して余裕を持っている。ケーシングが伸びで破壊する場合はグ レードを上げると破壊を促進することがあり、逆にグレードを下げてケーシングの厚みを 少し増すと破壊を防ぐことができうる。このように、各グレードの引張強度に至るまでの 応力-歪み曲線のデータは、地層の伸縮によって引き起こされる地圧・歪みに適応するケ ーシングの厚さとグレードの選択に欠くことができない情報となる。またケーシングの降 伏強度や引張強度を下げることが不可能で、強度面で高グレードを必要とするような場面 では、坑井の傾斜角を増加させることで圧潰・破壊を回避できる可能性がある。最も顕著 に歪みが確認されているのは垂直方向であり、坑井を垂直方向から傾斜させることで、坑 井軸方向の伸縮を低下させることが可能である。
このように各グレードが耐えうる実際の最小伸びを把握することで、グレードの選別や ケーシングに傾斜を持たせるなどのケーシング破壊を回避できる設計が行える。せん断破 壊を伴う場合にはグレード向上の考慮も必要なため、ジオメカニックスモデルを使用した ケーシング設計が最近は日常的に用いられるようになっている。