九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
[04]農産物の遅延発光(DLE)とその品質評価・選別 への利用
中司, 敬
https://doi.org/10.15017/13930
出版情報:九州大学農学部農場報告. 4, pp.1-80, 1984-03-30. 九州大学農学部附属農場 バージョン:
権利関係:
要 約
農産物の品質を,客観的に迅速に非破壊で評価する方法の確立は,生産・流通などの諸場面で極め て重要であり,近年,活発に行われてきた農業機械や施設の自動化研究の布石ともなるものである。
その最も有力な方途として光学的方法が考えられ,米国を中心に,農産物の光透過性や光反射性など の光学的性質が究明されつつある。しかし,装置化へ適用するにはこれらの性質は,また,本質的に 不利な点を擁しており,複雑な周辺技術のための研究を必要としている。本論文は農産物の光学的性 質の一つであって著しい特徴をもつ遅延発光(Delayed light emission, DLE)に着目して,まず,その 基礎特性を解明してから,農産物の熟度・着色度あるいは品質とDLEとの相関関係を把握し,応用に 資するための基礎資料を集積したものである。また,実際の品質評価・選別への適用性を明らかにし て,問題点を提示した。各位の内容は以下の通りである。
1)第1章においては,研究分野によって,時代によって異なった意味に用いられるけい光,りん光,
DLEなどの用語を概括し, DLEの発現機構をまとめた。また,農産物の等級選別,品質評価への DLEの利用特性を,光透過法や光反射法などの他の光学的方法と比較しながら考察した。
2)第2章においては,本研究を進める手段となったDLE測定装置の概要を記述した。光学系の補正 係数を求め,装置の性能を検定して使用上の留意点と操作方法を述べた。
3)第3章から第8章までは,代表的な数種類の農産物についてDLE特性を究明したものである。第 3章では,熟度・着色度が重要視される代表的な果菜としてトマトをとりあげた。その結果,励起 光を照射する直前の暗期がDLE強度に顕著な影響を及ぼす事実を得た。すなわち,トマトのDLEは クロロプラストのクロロフィルによるものであって,このDLEは光励起を行う前に長い暗期を与え れば,その強度が一定値まで回復する暗期回復現象をもっことを認めた。他の重要な知見として,
励起光照射時間とDLE強度の関係を得た。従来は,励起光照射を一定時間行えば, DLE強度は最 大となり,それ以上の付加的な照射はDLE強度に何ら影響を及ぼさないものと考えられた。しかし,
光照射が数秒以上に及べばDLE強度は漸減し,1分程度の照射で定常値を示すことが判明した。す なわち,トマトのDLE強度は励起光照射時問3〜6秒で幅の広いピークを示すことが求められた。
以上の2点は,農産物のクロロプラストのクロロフィルによるDLEを測定するうえで極めて重要な 因子であると考察した。また,DLEの光飽和性,温度依存性などを求めて最適な測定条件を導いた。
トマトのDLE強度はクロロフィル含量と1次の相関をもち,緑熟果から完熟果までのトマトのDLE 強度による分級精度は実用上支障のない程度にあると評価できた。
4)第4章においては,カキ(富有)を対象としてDLE特性を詳細に求めた。その結果, DLEの暗点回 復は励起光の強度レベルによって異なる型を示すことが判明したが,これは果実・野菜のDLEに全 般的に認められることがわかった。カキのDLEを測定するための適切な条件として,基礎特性から,
暗期15分以上,励起照度28001x以上,励起時間1〜3秒を得た。果実の生育期ならびに収穫期を通 じてDLE測定を行った結果,果実の色づきの開始,収穫適期の開始に符合してDLE強度の急激な低 下があり,その際,果粉の付着の有無がDLEに及ぼす影響は小さかった。一方,受傷はDLE強度に 複雑に影響した。果皮色のうち,色相がDLE強度とよく対応し, DLE強度による着色度の分級はほ
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ぼ良好であった。
5)第5章においては,温州ミカンのDLE特性を明らかにした。温州ミカンについてはKyaw Seinが 学位論文のなかでDLEに触れているが,基礎特性の捉え方に問題を残したため,データの再現性が 低かった。その後,上述のように,DLEの極めて重要な性質である暗期回復現象が明らかになった ので,多量の試料を供してDLE基礎特性の精確な把握と応用への検討を行った。その結果,温州ミ カンのようにクロロフィル含量が広範囲にわたる農産物では,励起光が試料の表面近くで遮へいさ れることもしくはDLEが自己吸収されることに起因して,クロロフィル含量とDLE強度の関係はク ロロフィル含量が多い領域で直線性が低下した。DLEによる分級を果実表面の一部で行ったところ,
緑色果で精度がやや低かったが概ね満足できるものと判断した。
6)第6章から第8章までにおいては,緑茶について,生葉,製造工程中の茶葉,荒茶,貯蔵荒茶の 全般にわたるDLEを究明した。まず,第6章においては測定装置にせん光光源を採用して,実用化 への見地からそれが有利であることを考察した。改良した装置を用いて生葉のDLEを検討した結果,
生葉のDLEはクロロプラストのクロロフィルによる発光であることを確認し, DLE基礎特性を踏ま えて,クロロフィル含量をDLE強度によって推定することができた。その際に,生葉裏面のDLE測 定が望まれる。さらに,緑茶原料として適する新葉と不適な古葉のDLEによる分離指標を提示した。
7)第7章においては,製造工程中の茶葉と荒茶のDLEを取り扱った。茶葉は製造工程で蒸熱を受け るとDLEを示さなくなり,乾燥工程で含水率が約10%(w.b.)になるとDLEを示すようになるが,
これはクロロフィルaによるものではなかった。したがって,荒茶のDLEは生葉の場合とは著しく 異なる様相を示すと考えられ,暗期回復がないことなどのいくつかの重要な基礎特性を明らかにし た。この基礎特性は玉露,せん茶,番茶で同様の傾向にあった。茶問屋の価格で表わされる荒茶の 品質とDLE強度との間には有意の相関が認められた。
8)第8章においては,荒茶の含水率,アミノ酸成分とDLEとの関係をしらべた。また,貯蔵試験:を 行って,品質の劣化とDLE強度による評価を検討した。その結果,荒茶のDLEは含水率の増加と ともに強度が急激に低下し,ほぼ11%(d.b.)以上では発現しないことを確認した。また,荒茶のDLE
は蒸熱を経て乾燥されることによって発現することを推定した。アミノ酸成分との関係については,
玉露ではテアニン含量と,せん茶ではテァニン含量およびアミノ酸合計値とDLE強度はよい対応が あることを認めた。貯蔵中の荒茶については,その変質の進行をDLE強度の変化によって特徴づけ た。劣化の前後にお・いてDLEのスペクトルに大きな変化はみられず,劣化によってDLEは主に強度 レベルが低下することが判明した。
9)結言では,三章で得た結果をもとにして,DLE法に存在する不利な点と対策を考察し,等級選別 への実用化の問題点,ならびにDLE研究の今後の方向を示した。
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