はじめに
本論文は、買い物難民問題の背景を読み取り、
解決を目指すことによって、高齢者がより良い買い 物環境のもとで、日々の暮らしを有意義に過ごす ための環境づくりに関する提案について述べたも のである。まず、買い物環境の変化を読み取り、そ の上で買い物難民が発生した経緯を論ずる。そこ で、高齢者のインサイト、買い物難民対策の先行事 例を読み取り、今後の社会の動きも見据えた上で 買い物難民対策としての提案を行う。
1.買い物を取り巻く環境の変化
買い物難民の起源は90年代に遡る。80年代末 頃、バブル経済下で大手流通資本が郊外に多数の 大規模店や量販店を出店し始めた。そして、この頃 の過剰モータリゼーションや大店法の規制緩和が それに拍車をかけた。モータリゼーションの中で 車利用者の集客のために駐車場を必要とするよう になり、郊外の広い土地が必要になったのであ る。そうして郊外の大型店が増加し、自動車保有 者は豊富な品揃えの中で快適な買い物が出来るよ うになった。さらには複合商業施設の出現、24時 間スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの 生鮮食品販売、インターネットショッピングの利用 により買い物は多様化した。
2.現在の買い物における問題と今後
モータリゼーションの進展や大店法の規制緩和に より郊外には次々に大型店が出店した。その影響 を受け、都市中心部の商店街や商店の利用客は減
り、シャッター街が目立ち、商店は軒並み閉店し た。近隣の商店に買い物を頼っていた高齢者は買 い物をする店を失い、遠い店まで行かなければな らなくなった。買い物難民の出現である。買い物 難民は店までの距離が長くなったことにより頻繁 に買い物行けなくなった。したがって、一度にま とめ買いをしようと思うが、その分重くなった買 い物袋を持って長くなった帰り道を帰らなければ ならなくなった。店が遠くなったことによりその ような弊害が生じたのである。また、高齢者の半 分以上は自動車を利用しておらず、日々の買い物に は歩きか自転車を利用している。そして、高齢者全 体で1.5kmまでしか歩けないと答えた人は75%に 上り、75歳以上の20%は100m程度までしか歩け ないと答えた。今後少子高齢化はますます進むと 考えられるが、買い物難民の数は現時点で経済産 業省の報告では約600万人、農林水産省の報告では 約910万人とされている。そして2030年には全人 口の6.8%、2055年には7.8%が買い物難民となる と予測される。
3.高齢者のインサイト
2004年の株式会社第一生命経済研究所の調査に よると高齢者の外出場所として、「買いものをす る場所」と答える人が圧倒的多数となった。そし て、外出時の問題点として、「出かけるための費用 が高い」、「出かけると疲れやすい」、「一緒に 出かける人がいない」、「出かけたい場所がな い」、「移動手段が少ない」という答えがあがっ た。そういった問題を感じているにもかかわらず
高齢者の買い物環境に関する研究
ー買い物難民の問題とその対策ー
A research on the environments of purchases for elderly people
‒Problems and its measures of “Shopping Refugees”‒
1W090359-9 寺本 篤央 指導教員 長 幾朗 教授
TERAMOTO Atsuo Prof. CHOH Ikuro概要:80年代末頃、モータリゼーションの進展によって大型店が郊外に出店し始めた。さらに、複合商業施設の出現、
24時間スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの生鮮食品販売、そしてインターネットショッピングという新た な買い物スタイル。そういった買い物環境の変化の中で従来の買い物が出来なくなり、日々の買い物を困難に感じる人 が出てきた。買い物難民の出現である。買い物難民は少子高齢化の中でますます深刻化すると考えられる。本研究で は、買い物難民の背景を読み取り、今一度高齢者にとっての買い物の意味を考え直した上で、高齢者がより良い買い物 環境のもとに生活するためにはいかなる対策が必要か考え。今後の社会の動きも見据えた上で持続可能な提案を行っ た。
キーワード:買い物拠点の郊外化、買い物難民、近居、三世代コミュニティ
suburbanzation of shopping bases、shopping refugees、neighborhood livinng、three generation community
多くの人は頻繁に買い物に出かけている。そして 更なる調査によると「買いものをする場所」は全 体で3番目に行って楽しい場所という結果となっ た。すなわち、買い物は多くの高齢者にとって、非 日常的なレジャーと同程度の楽しみを与える日常 的な行為である。また、高齢者の消費傾向として、
高齢者は「便利さ」、「品揃え」、「品質」を重 視しているという結果となった。そして店舗との距 離は歩いて10分程度の店を利用している人が最も 多く、その距離は約1kmとなっている。巣鴨の地 蔵通り商店街は高齢者の気遣いにあふれており、
商店街には椅子が多く並んでいたり、話し込める 店が多かったり、夕方に雪が降った翌日の朝でも 通りの雪がきれいにされていたりする。そして、こ の商店街が高齢者に人気なのはそういったサービ スが行き届いているだけでなく、昔ながらの商店 街を守り抜いていることが魅力の一つなのではな いかと考えられる。
4.買い物難民対策の事例紹介と評価
買い物難民の問題は少し前から政府や自治体で も取り上げられ、様々なサービスがなされてき た。そのいくつかを取り上げてみる。
・実店舗設置「ノーソンくらぶ」
実店舗の設置は歩ける距離に店ができるため最も シンプルな対策と言える。しかし、実店舗設置は どの地域でもできるという訳ではない。しかも 元々運営が成り立たなくなった地域で店を開くと いうのは容易ではない。
・移動販売「ハッピーライナー」
移動販売車は商品の種類が少ないという問題が ある。移動販売車に乗せられる商品の量は一般に 400品種と言われる。一方でコンビニエンスストア は3500〜5000種の商品を販売している。比較すれ ばその量は10分の1しかない。さらに車内はどうし ても狭くなってしまうため客の人数が多くなった 場合は商品を見るのにひと苦労である。
・宅配サービス「らくらくお買い物システム」
宅配サービスに関して有料のものはやはり利用 率が低い。安定した収入源のない高齢者にとって は節約に値するととらわれることがあるだろう。
ある一定額以上の商品を買えば送料が無料になる という方が良心的だと考えられる。そうすれば、
重いに持つに苦しむ高齢者をもっと救えるかもし れない。
・送迎サービス「トドックあかびら号」
無料送迎サービスは普段同じ人が同じバスを利 用するため新たなコミュニティが形成されやす い。一方バスの本数の問題やそもそものバス停ま での距離などの問題が残される。
5.買い物難民対策の提案
親と子の世帯が近い距離に住む「近居」と、自 分の日常的な行動範囲により決定される「一次行 動範囲」、「二次行動範囲」の概念を合わせ、
「三世代近居」の居住スタイルを推進する。その 上で三世代同居の家族が集合して形成される「三 世代コミュニティ」をが形成されれば。そのコ ミュニティでは買い物に不便がある親がいても子 が時には買い物に連れて行き、時には代わりに買 い物を行うと行った形で買い物が成り立つ。
図1. 一次行動範囲と二次行動範囲のイメージ(寺本、2013)
三世代コミュニティにおいては高齢者が役割を持 ち、役割を持つことでその分の恩恵を受けること や、身近な人からの支援を受けることができる。
そして、社会に関わることで、新たな生き甲斐や目 的を持つことができるかもしれない。それは買い 物難民問題のみならず高齢者によりよい生活環境 をもたらすだろう。
6.結論
三世代コミュニティは万能ではなく、即時性が ないことが問題である。従って、即時性のある第4 章であげた対策を講じながら徐々に三世代コミュ ニティへと移行して行くことが必要である。
参考文献:
1). 杉田聡「買物難民もうひとつの高齢者問題」大月 書店 2008/9/11
2). 竹内宏「とげぬき地蔵商店街の経済学」日経ビジネ ス文庫 2005/12/1
3). 斉藤毅憲、藤野次雄、松浦克己、南知恵子「アク ティブ・シニアの消費行動」中央経済社 2004/4/1 図表一覧:
図1.(寺本、2013)