社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
スラブ復号と格子基底縮小を用いた低演算量な過負荷 MIMO 信号検出法
早川 諒 † 林 和則 † 金子めぐみ †
†
京都大学大学院情報学研究科 〒606-8501
京都市左京区吉田本町E-mail: † [email protected], { kazunori,meg } @i.kyoto-u.ac.jp
あらまし 本稿では,過負荷
MIMO (Multiple-Input Multiple-Output)
伝送のための低要求演算量の信号検出法を提 案する.提案法では,スラブ復号を用いて(送信ストリーム数−
受信アンテナ数)分の信号の候補を絞り込み,各候補 それぞれに対応する残りの受信アンテナ数分の信号を格子基底縮小を用いたMMSE (Minimum Mean Square Error)- SIC (Successive Interference Cancellation)
法で検出する.(送信ストリーム数−
受信アンテナ数)分の信号を網羅的 に探索する従来の手法に比べて格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法の回数が減少し,計算量が削減される.格子基底 縮小を用いたMMSE-SIC
法は球内復号法よりも低演算量であるため,受信アンテナ数分の信号を球内復号法で検出 するスラブ-球内復号法と比べても,提案法はより少ない計算量で信号検出を行える.計算機シミュレーションによっ て,提案法では従来法に比べて少ない計算量でほぼ同等のビット誤り率特性が達成できることを示す.キーワード 過負荷
MIMO
,格子基底縮小,スラブ復号A Reduced Complexity Signal Detection Scheme for Overloaded MIMO Systems Using Slab Decoding and Lattice Reduction
Ryo HAYAKAWA † , Kazunori HAYASHI † , and Megumi KANEKO †
† Graduate School of Infomatics, Kyoto University, Yoshida-Honmachi, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8501 Japan E-mail: † [email protected], { kazunori,meg } @i.kyoto-u.ac.jp
Abstract This paper proposes a reduced complexity signal detection scheme for overloaded MIMO (Multiple-In- put Multiple-Output) systems. The proposed scheme uses slab decoding to reduce the candidates of transmit signals whose number is the difference between the number of transmit streams and the number of receive antennas, and de- tect remaining signals that correspond to the candidates by lattice reduction aided MMSE (Minimum Mean Square Error)-SIC (Successive Interference Cancellation) detectors. Simulation results show that the proposed scheme can achieve almost the same performance as conventional schemes while reducing the computational complexity.
Key words overloaded MIMO, lattice reduction, slab decoding
1.
ま え が きMIMO (Multiple-Input Multiple-Output)
伝送において,受信端末の大きさや重さ,消費電力などに制限があり十分な数 の受信アンテナを使うことができない場合がある.受信アン テナ数が送信ストリーム数よりも少ない
MIMO
伝送は過負荷MIMO
と呼ばれ,様々な信号検出法が提案されている[1]- [6]
.MIMO
信号検出において,理論的に最良のBER (Bit Error
Rate)
特性を与える手法として最尤推定法があるが,最尤推定法は送信信号がとりうる値を網羅的に探索するため,送信スト リーム数に対して計算量が指数的に増加するという問題がある.
そのため,最尤推定法の計算量の削減を行うスラブ
-
球内復号 法が提案されている[1]
.スラブ-
球内復号法は,よく知られた球内復号法を過負荷
MIMO
に適用するための手法であり,ス ラブ復号を用いて(送信ストリーム数−
受信アンテナ数+ 1
) 個の信号の候補を絞り込んだ上で,球内復号法で尤度を評価す る.一方,さらに計算量の少ない過負荷MIMO
信号検出法と して,PVC (Pre-Voting Cancellation)
と格子基底縮小を用い たMMSE (Minimum Mean Square Error) -SIC (Successive Interference Cancellation)
法が提案されている[2]
.この手法 では,送信信号を(送信ストリーム数−
受信アンテナ数)分の 信号と受信アンテナ数分の信号に分け,前者を最尤基準で網羅 的に探索し,その各々の候補信号に対して後者を格子基底縮 小を用いたMMSE-SIC
法によって検出する.このため,その 計算量は(送信ストリーム数−
受信アンテナ数)に対して指数 的に増加するという問題があり,特に近年注目を集めている— 1 — - 77 -
一般社団法人 電子情報通信学会 信学技報
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.
IEICE Technical Report
RCC2015-16,MICT2015-16(2015-05)
Bit to symbol mapping
S/P Detector P/S
Information bit
Received data
˜ s
1˜ s
n˜ h
1,1˜ h
m,1˜ h
1,n˜ h
m,n˜ v
1˜ v
m˜ y
1˜ y
mn
. . . ... ... . . .
図
1
システムモデル大規模
MIMO
に適用するためには,さらに低演算量な過負荷MIMO
信号検出法が不可欠である.本稿では,
PVC
を用いた信号検出法とスラブ復号の両方 のアイデアを利用した,より低演算量な信号検出法を提案す る.提案法では,スラブ復号で得られた(送信ストリーム数−
受信アンテナ数)分の信号の候補のみに対して格子基底縮小を 用いたMMSE-SIC
法による残りの受信アンテナ数分の信号の検 出を行い,得られた候補の中で尤度が最大のものを送信信号の推 定値とする.これにより,(送信ストリーム数−
受信アンテナ数)分の信号の探索を網羅的に行う従来の
PVC
を用いた手法に比 べ,格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法の計算の回数を減ら すことができる.計算機シミュレーションにより提案法と従来 法の特性を比較し,候補数の削減量を評価する.提案法では従 来法に比べて特性を大きく劣化させることなく,候補数が大幅 に削減されることを示す.2.
システムモデル送信アンテナ数が
n
,受信アンテナ数がm
のMIMO
伝送の システムモデルを図1
に示す.簡単のため送信ストリーム数=
送信アンテナ数とし,プリコーディングは考慮しないもの とする.送信ビット列はデジタル変調によりシンボルに変換さ れた後,送信アンテナ数n
と同じ数の信号に直並列変換され,送信アンテナから送信される.受信側では,フラットフェージ ング通信路を通った送信信号に雑音が加わったものが受信され る.シンボルがとる値の集合を
S ˜
とし,n
個の送信アンテナ から送信されたn
個のシンボル˜ s
1, . . . , s ˜
nからなるベクトルを˜
s = [˜ s
1, . . . , ˜ s
n]
T∈ S ˜
nとおく.ただし,E [
˜ s˜ s
H]
= σ
2sI
nとす る.上付きのH
はエルミート転置を表し,I
nはn × n
の単位 行列である.通信路行列をH ˜ =
˜ h
1,1· · · h ˜
1,n.. . . . . .. .
˜ h
m,n· · · ˜ h
m,n
∈ C
m×n(1)
とすると,受信信号ベクトルは
˜
y = ˜ H˜ s + ˜ v (2)
と書ける.ここで,v ˜ = [˜ v
1, . . . , ˜ v
m]
T∈ C
mは平均0
,共分散行列
σ
v2I
mの白色複素ガウス雑音ベクトルである.後の計算では,複素数で表される式
(2)
のモデルと等価な実 数で表されるモデルを主に考える.Re{·}, Im{·}
をそれぞれ実 部と虚部を表す演算子とし,y = [ Re { ˜ y }
Im{˜ y}
]
∈ R
M, H =
[ Re { H ˜ } − Im { H ˜ } Im{ H} ˜ Re{ H} ˜
]
∈ R
M×N, s =
[ Re { ˜ s } Im{˜ s}
]
∈ R
N, v = [ Re { ˜ v }
Im{˜ v}
]
∈ R
M(3)
とおくことで,式
(2)
と等価な実数で表されるモデルy = Hs + v (4)
が得られる.ここで,
M = 2m, N = 2n
である.3.
従来の信号検出法3. 1
受信アンテナ数が送信アンテナ数以上のMIMO
信号 検出法まず,受信アンテナ数
m
が送信アンテナ数n
以上であるMIMO
伝送における信号検出法について述べる.3. 1. 1
最尤推定に基づく手法 最尤推定法はˆ s
ML= arg min
s∈SN
∥ y − Hs ∥
2(5)
を
s
の推定値とする.ここでS
は,S ˜
の要素の実部と虚部が とりうるすべての値からなる集合である.例えば,変調方式 がQPSK
でS ˜ = {1 + j, −1 + j, −1 − j, 1 − j}
の場合には,S = { 1, − 1 }
となる.最尤推定法は理論的に最良のBER
特性 を得られる手法であるが,s
の取りうる値すべてを網羅的に探 索するため,計算量がN
に対して指数的に増加するという問 題がある.最尤推定法の計算量を削減する手法として,球内復号法
[7]
が知られている.球内復号法では,定数
C
に対して∥y − Hs∥
2< = C
2(6)
を満たすs
のみを探索することで計算量を削減する.H
のQR
分解H = QR
によって得られる直交行列Q
を利用して式(6)
は∥ z − Rs ∥
2< = C
2(7)
と書ける.ここで,z = Q
Ty
である.式(7)
を満たすs
の値を 探索し,得られた候補の中で∥ y − Hs ∥
2が最小となるものをs
の推定値とする.3. 1. 2 MMSE
規範に基づく手法MMSE
法 は ,最 小 平 均 二 乗 誤 差 規 範 に 基 づ い てE [
∥Wy − s∥
2]
を最小にする行列
W = (
H
TH + σ
2vσ
2sI
N)
−1H
T∈ R
N×M(8)
を用いてˆ s
MMSE= Wy
をs
の推定値とする.MMSE
法は少な い計算量で信号検出を行えるが,その特性は最尤推定法や球内 復号法に劣ることが知られている.MMSE
法の特性を改善した手法としてMMSE-SIC
法があ る.MMSE-SIC
法では,ˆ y =
[ y 0
N] , H ˆ =
[ H
σv σs
I
N] , v ˆ =
[ v
−
σσvss ]
(9)
とおいて拡張した以下の受信信号モデル
ˆ
y = ˆ Hs + ˆ v (10)
を考える.ここで,0
NはN
次元零ベクトルである.まず,H ˆ
のQR
分解H ˆ = ˆ Q R ˆ
を行い直交行列Q ˆ
と上三角行列R ˆ
を得 る.次に,Q ˆ
の転置Q ˆ
Tを式(10)
に左から掛けてˆ
z = ˆ Rs + ˆ η (11)
を得る.ここで,ˆ z = ˆ Q
Ty, ˆ η ˆ = ˆ Q
Tv ˆ
である.ˆ z
の第i
成分をˆ
z
i,R ˆ
の(i, j)
成分をr ˆ
i,j,s
の第j
成分をs
j,η ˆ
の第i
成分をˆ
η
i(i, j = 1, . . . , N
)とおくと,式(11)
は
ˆ z
1. ..
ˆ z
Nˆ z
N+1.. . ˆ z
N+M
=
ˆ
r
1,1· · · r ˆ
1,N0 . . . . ..
0 0 r ˆ
N,N0 0 0
.. . .. . .. .
0 0 0
s
1.. . s
N
+
ˆ η
1. ..
ˆ η
Nˆ η
N+1.. . ˆ η
N+M
(12)
と書ける.式
(12)
の第N
行はˆ
z
N= ˆ r
N,Ns
N+ ˆ η
N(13)
であるから,
| ˆ z
N− r ˆ
N,Ns
N|
2を最小にするs
N∈ S
をs
Nの推 定値s ˆ
Nとする.s
N= ˆ s
Nとすると式(12)
の第N − 1
行目はˆ
z
N−1= ˆ r
N−1,N−1s
N−1+ ˆ r
N−1,Ns ˆ
N+ ˆ η
N−1(14)
の よ う にs
N−1 の み に つ い て の 式 と な る の で ,|ˆ z
N−1− (ˆ r
N−1,N−1s
N−1+ ˆ r
N−1,Ns ˆ
N) |
2 を最小にするs
N−1∈ S
をs
N−1 の推定値ˆ s
N−1 とする.同様の手続きを式(12)
の第N − 2, · · · , 1
行目に順に適用することで,s
N−2, . . . , s
1の推定 値ˆ s
N−2, . . . , s ˆ
1を得る.MMSE-SIC
法の特性をさらに改善するため,式(10)
の通信 路行列H ˆ
に格子基底縮小を適用する手法が提案されている[8]
. 格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法では,まずH ˆ
に格子基底 縮小を適用し,H ˆ
よりも条件数が小さい行列H ˆ
′= ˆ HT
を求め る.ここで,T
はユニモジュラ行列である.そしてu = T
−1s
とおき,式(10)
をˆ
y = ˆ H
′u + ˆ v (15)
と変形する.式(15)
をH ˆ
′が通信路行列である受信信号モデル とみなし,MMSE-SIC
法と同様の計算を行ってu
の推定値u ˆ
を求めたあと,ˆ s = Tˆ u
としてs
の推定値を得る.H ˆ
′の条件 数はH ˆ
の条件数よりも小さいので,特性を改善することがで きる.3. 2
過負荷MIMO
信号検出法受信アンテナ数
m
が送信アンテナ数n
よりも少ない過負 荷MIMO
システムにおいては,通信路行列H
は列数が行数 よりも多い行列となり,球内復号法や格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法をそのまま適用することができない.そのため
[1]
では,球内復号法を過負荷MIMO
に適用するためにスラ ブ復号を用いるスラブ-
球内復号法が提案されている.また[2]
では,格子基底縮小を用いた
MMSE-SIC
法を過負荷MIMO
に適用する手法としてPVC
が提案されている.3. 2. 1
スラブ-
球内復号法スラブ
-
球内復号法は,球内復号法と同様に式(7)
を満たすs
を探索する.M < N
であるから,z
iをz
の第i
成分,r
i,jをR
の(i, j)
成分(i = 1, . . . , M
かつj = 1, . . . , N
)とすると,式
(7)
は
z
1.. . z
M
−
r
1,1· · · r
1,M· · · r
1,N0 . . . .. . · · · .. . 0 0 r
M,M· · · r
M,N
s
1. ..
s
M.. . s
N
2
< = C
2(16)
と書ける.この式を満たすs
1, . . . , s
Nを求めるため,まず∥ z
M− (r
M,Ms
M+ · · · + r
M,Ns
N) ∥
2< = C
2(17)
を満たす
s
M, . . . , s
Nの値の組を,[1]
で提案されているスラブ復号アルゴリズムを用いてすべて求める.
s
M, . . . , s
Nの値が決 まれば,
w
1.. . w
M−1
−
r
1,1· · · r
1,M−10 . . . .. . 0 0 r
M−1,M−1
s
1.. . s
M−1
2
< = C
2− ∥ z
M− (r
M,Ms
M+ · · · + r
M,Ns
N) ∥
2(18)
は
s
1, . . . , s
M−1 のみについての不等式となるので,得られた
s
M, . . . , s
Nの組の候補それぞれに対して式(18)
を満たすs
1, . . . , s
M−1の組の候補を球内復号法ですべて求める.ただし,w
i= z
i− (r
i,Ms
M+ · · · + r
i,Ns
N)
(i = 1, . . . , M − 1
)であ る.このようにして得られたs
の候補の中から,∥y − Hs∥
2を 最小にするものをs
の推定値とする.3. 2. 2 PVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法PVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法は,受信信 号 の う ち 送 受 信 ア ン テ ナ 数 差 の 分 の 信 号 を 網 羅 的 に 探 索 し,残りの受信アンテナ数分の信号をMMSE-SIC
法で求め る.まず添字の集合{ 1, . . . , n }
をそのうちのn − m
個の要 素 を持つ集合P = { p
1, . . . , p
n−m} ⊂ { 1, . . . , n }
と,残り のm
個の要素の集合Q = {q
1, . . . , q
m} = {1, . . . , n} \ P
に 分 け る .そ し てP, Q
を 用 い て 送 信 信 号 ベ ク ト ル˜ s
を˜
s
P= [˜ s
p1, . . . , ˜ s
pn−m]
T とs ˜
Q= [˜ s
q1, . . . , ˜ s
qm]
Tに分ける.同 様に,通信路行列H ˜ = [˜ h
1, . . . , h ˜
n]
もH ˜
P= [˜ h
p1, . . . , h ˜
pn−m]
とH ˜
Q= [˜ h
q1, . . . , h ˜
qm]
に分ける.ここでh ˜
j(j = 1, . . . , n
) はH ˜
のj
番目の列ベクトルである.以上のような分割を行う と,式(2)
の受信信号モデルは˜
y = ˜ H
P˜ s
P+ ˜ H
Q˜ s
Q+ ˜ v (19)
と書ける.さらにH
P=
[ Re{ H ˜
P} −Im{ H ˜
P} Im { H ˜
P} Re { H ˜
P}
] , s
P=
[ Re{˜ s
P} Im { ˜ s
P} ]
,
H
Q=
[ Re{ H ˜
Q} −Im{ H ˜
Q} Im{ H ˜
Q} Re{ H ˜
Q}
] , s
Q=
[ Re{˜ s
Q} Im{ ˜ s
Q} ]
(20)
とおくことで,式
(19)
と等価な実数で表されるモデルy = H
Ps
P+ H
Qs
Q+ v (21)
が得られる.
式
(21)
を利用して信号検出を行う.まずs
P のとりうる 値 をs
1P, . . . , s
KP と お く.|S|
を 集 合S
の 要 素 数 と す る と ,K = |S|
N−M となる.いまs
P= s
kP(k = 1, . . . , K
)であった とすると,式(21)
からr
k= H
Qs
Q+ v (22)
が得られる.ここで,r
k= y − H
Ps
kPである.H
QはM × M
の正方行列であるから,式(22)
は送受信アンテナ数が等しいMIMO
伝送の受信信号モデルとみなすことができる.したがっ て,式(22)
に格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法を適用する ことによってs
Qの推定値s
kQを求められる.このようにして すべてのk
に対してs
kPとs
kQを計算し,k ˆ = arg min
k∈{1,...,K}
∥ y − H
Ps
kP− H
Qs
kQ∥
2(23)
を求める.s
ˆkをs
Pの推定値,s
kQˆ をs
Qの推定値とする.P
とQ
の選び方について述べる.Q
を定めればP
もそれに 伴って決まるので,[2]
では格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法の推定精度ができるだけ良くなるように,[9]
で提案されている
MD (Max-min Diagonal)
規範Q
MD= arg max
Q
{ min
i∈{1,...,M}
r
i,iQ2
}
(24)
によって
Q
を決定する.ここで,r
i,iQ は[H
TQ(σ
n/σ
s)I
M]
Tに 格子基底縮小を適用して得られた行列をQR
分解したときの,上三角行列の
(i, i)
成分を表す.4.
提案信号検出法PVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法では送受信ア ンテナ数差の分の信号s
P を網羅的に探索するため,計算量が 送受信アンテナ数の差n − m
に対して指数的に増加するとい う問題がある.そこで提案法では,スラブ復号のアイデアを用 いてs
Pの候補を絞り込むことで,PVC
を用いた信号検出法の 計算量を削減する.まず,
PVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法と同様 に,式(24)
のMD
規範によって集合P, Q
を決定する.次に,スラブ復号のアイデアを用いて送受信アンテナ数差 の分の信号
s
Pの候補を決める.そのため,MD
規範により定 まったH
QとH
Pを横に結合した行列H ¯ = [H
QH
P]
を考え る.同様に,s
Qとs
Pを縦に結合したベクトル¯ s =
¯ s
1.. .
¯ s
M¯ s
M+1.. .
¯ s
N
=
s
Qs
P
(25)
を考える.
H, ¯ ¯ s
を用いた受信信号モデルはy = ¯ H¯ s + v (26)
となる.H ¯
をH ¯ = ¯ Q R ¯
とQR
分解し,式(26)
に左から掛け ると¯
z = ¯ R¯ s + ¯ η (27)
となる.ただし,¯ z = ¯ Q
Ty, η ¯ = ¯ Q
Tv
である.式(27)
の一番 下の行,すなわちM
行目は¯
z
M= ¯ r
M,Ms ¯
M+ · · · + ¯ r
M,N¯ s
N+ ¯ η
M(28)
と書ける.したがって,実際に送信された真のs ¯
M, . . . , ¯ s
Nの 値に対しては,z ¯
M− (¯ r
M,M¯ s
M+ · · · + ¯ r
M,Ns ¯
N)
の値は雑 音による項η ¯
M のみとなるので,他のs ¯
M, . . . , s ¯
N に対する¯
z
M− (¯ r
M,Ms ¯
M+ · · · + ¯ r
M,N¯ s
N)
の値よりも小さくなる確率が 高いと考えられる.そこで,ある定数C
に対して| z ¯ − (¯ r
M,M¯ s
M+ · · · + ¯ r
M,Ns ¯
N) |
2< = C (29)
を満たすs ¯
M, s ¯
M+1, . . . , s ¯
Nの値の組をスラブ復号を用いて探 索する.s
P= [¯ s
M+1, · · · , ¯ s
N]
T であるから,この探索によって
¯ s
M とs
Pの値の組の候補が得られる.このようにして得ら れたs
Pのうち,重複を取り除いた異なるL
個の値をs
Pの候 補s
1P, . . . , s
LPとする.得られた
s
Pの候補s
1P, . . . , s
LP それぞれに対応する残りの受信アンテナ数分の信号
s
Q の値s
1Q, . . . , s
LQ を,格子基底 縮小を用いたMMSE-SIC
法[8]
によって求める.s
P= s
ℓP(
ℓ = 1, . . . , L
)とすると,式(21)
の受信信号モデルはr
ℓ= H
Qs
Q+ v (30)
となる.ここで,r
ℓ= y − H
Ps
ℓPである.このモデルに対して 格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法の計算を行って,s
ℓPに対 応するs
Qの値s
ℓQを得る.まずˆ r
ℓ=
[ r
ℓ0
M] , H ˆ
Q=
[ H
Qσv σs
I
M] , v ˆ
Q=
[ v
−
σσvss
Q]
(31)
とし,式
(30)
と等価な受信信号モデルˆ
r
ℓ= ˆ H
Qs
Q+ ˆ v
Q(32)
を得る.次に,H ˆ
Qに格子基底縮小を適用してH ˆ
′Q= ˆ H
QT
Q となるユニモジュラ行列T
Qを求める.s
′Q= T
−Q1s
Qとおくと 式(32)
からˆ
r
ℓ= ˆ H
′Qs
′Q+ ˆ v
Q(33)
が得られる.H ˆ
′QをH ˆ
′Q= ˆ Q
′R ˆ
′ とQR
分解して得られた直 交行列Q ˆ
′の転置( ˆ Q
′)
Tを式(33)
に左から掛けるとˆ z
ℓ= ˆ R
′s
′Q+ ˆ η
Q(34)
となる.ただし,
ˆ z
ℓ= ( ˆ Q
′)
Tˆ r
ℓ, η ˆ
Q= ( ˆ Q
′)
Tv ˆ
Q である.式(34)
にMMSE-SIC
法の計算を適用してs
′Qの成分の推定値を 得る必要があるが,一般にs
′Qの成分がとりうる値はT
Qやそ のもととなるH
に依存し,単純な端数処理によってs
′Qの成分 の推定値を求めることはできない.そこで[10]
にあるように,送信信号ベクトルの成分が整数となる受信信号モデルへの変換 を行う.例えば
S = { 1/2, − 1/2 }
の場合は,s
Q,Z= s
Q+
1 2
.. .
1 2
∈ Z
N−M(35)
とおき,式
(34)
をˆ z
ℓ= ˆ R
′
s
′Q,Z− T
Q
1 2
.. .
1 2
+ ˆ η
Q, (36)
すなわち
ˆ z
ℓ+ ˆ R
′T
Q
1 2
. ..
1 2
= ˆ R
′s
′Q,Z+ η
′(37)
0 5 10 15 20
BER
10-4 10-3 10-2 10-1 100
PVC-MMSE-SIC SSD ML
図
2 n = 4, m = 2,QPSK
の場合のBER
特性と変形する.ただし,
s
′Q,Z= T
Qs
Q,Zである.T
Qはユニモ ジュラ行列であり,s
Q,Zは整数ベクトルであるから,s
′Q,Zは通 信路行列H
の値にかかわらず整数ベクトルとなる.したがっ て,s
′Q,Zの推定値は単純な端数処理によって求めることができ る.式(37)
に対してMMSE-SIC
法の計算を行ってs
′Q,Zの推 定値を求め,式(35)
とs
′Q,Z= T
Qs
Q,Z を用いることでs
Qの 推定値s
ℓQが得られる.最後に,得られた
s
P, s
Qの組の候補のうち尤度が最大とな るものを最終的な推定値とする.すなわち,ℓ ˆ = arg min
ℓ∈{1,...,L}
∥y − H
Ps
ℓP− H
Qs
ℓQ∥
2(38)
を求め,s
Pの候補をs
ˆℓP,s
Qの候補をs
ℓQˆ とする.5.
計算機シミュレーション計算機シミュレーションにより提案法の有効性を評価する.
評価対象の一つ目は
BER
特性であり,二つ目は従来のPVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法におけるs
Pの候補数|S|
N−M に対する,提案法においてスラブ復号を用いて得られ るs
Pの候補数L
の割合L/ |S|
N−M である.通信路行列H ˜
の 成分は平均0
,分散1
のi.i.d.
な複素ガウス分布に従うとする.さらに
H ˜
は時不変であるとし,100
個の独立なH ˜
の実現値に 対してそれぞれ1, 000
個の送信信号ベクトルを送信した際の平 均BER
を評価する.格子基底縮小を行うアルゴリズムは,[8]
と同様に
LLL
(Lenstra-Lenstra-Lov´ asz
)アルゴリズム[11]
を 用いる.各信号検出法の
BER
を計算した結果を図2-4
に示す.「Pro- posed
」,「PVC-MMSE-SIC
」,「SSD
」,「ML
」はそれぞれ提案 法,PVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
法,スラブ-
球 内復号法,最尤推定法を表している.図2
は送信アンテナ数n = 4
,受信アンテナ数m = 2
とし,QPSK
を用いた場合のBER
特性である.図3
はn = 6, m = 2
としQPSK
を用いた 場合のもので,図4
はn = 4, m = 2
とし16-QAM
を用いた場 合のものである.いずれの場合でも,式(29)
において適切なC
を選択することによって,提案法を用いて従来法とほぼ同等 の特性を得られることがわかる.図
5
は,従来のPVC
と格子基底縮小を用いたMMSE-SIC
0 5 10 15 20 25 30
BER
10-4 10-3 10-2 10-1 100
PVC-MMSE-SIC SSD ML
図
3 n = 6, m = 2,QPSK
の場合のBER
特性10 15 20 25 30
BER
10-3 10-2 10-1 100
PVC-MMSE-SIC SSD ML
図
4 n = 4, m = 2,16-QAM
の場合のBER
特性Eb/No(dB)
10 15 20 25 30
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
図
5
候補数の割合(%)法における
s
Pの候補数|S|
N−M に対する,提案法においてス ラブ復号を用いて得られるs
P の候補数L
の割合L/|S|
N−M である.n = 4, m = 2
でQPSK
を用いた場合の候補数の割合 が他の2
つの場合に比べ大きいことから,送受信アンテナ数の 差が大きいほど,また変調多値数が大きいほど,候補数削減の 効果も大きくなることがわかる.これは,そのような場合の方 が,実際に送信された送信信号ベクトルと異なる成分を多く持 つ送信信号ベクトルの候補の数の割合が多いためだと考えられ る.s
Pの候補数が削減されることで,s
Qを求めるための格子 基底縮小を用いたMMSE-SIC
法の計算の回数も減少し,計算 量が削減される.6.
ま と め本稿では,従来よりも計算量の少ない過負荷
MIMO
信号検 出法について検討した.従来のPVC
を用いた手法では送受信 アンテナ数差の分の信号を網羅的に探索していた部分で,スラ ブ復号のアイデアを用いることでその候補を絞り込み,計算量 を削減する手法を提案した.計算機シミュレーションにより,提案手法によって従来法とほぼ同等の
BER
特性を達成しつつ,計算量を削減できることを示した.今後の課題としては,それ ぞれの信号検出法の計算量の理論的評価や,大規模
MIMO
へ の適用の検討などが挙げられる.謝 辞 本 研 究 の 一 部 は ,科 学 研 究 費 補 助 金
15K06064
,15H2252
の助成を受けたものです.文 献