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年度新潟リハビリテーション大学大学院修士論文

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(1)

1

2012

年度新潟リハビリテーション大学大学院修士論文

食物の硬さが口腔内での味の広がり認識に及ぼす影響

―甘味の場合―

Influence of firmness of food on recognition of taste spreading in the oral cavity:

-In the case of sweetness-

新潟リハビリテーション大学大学院 リハビリテーション研究科 リハビリテーション医療学専攻

摂食・嚥下障害コース 学籍番号

G11002

平田 和晃

指導教員 山村 千絵 先生

提出日

2013

1

23

(2)

2

Graduate School of Rehabilitation Niigata University of Rehabilitation

Master's Thesis in 2012

Influence of firmness of food on recognition of taste spreading in the oral cavity:

-In the case of sweetness-

Department of Eating Disorder and Dysphagia Graduate School of Rehabilitation Niigata University of Rehabilitation

University Register Number G11002 Kazuaki Hirata

Adviser Chie Yamamura

Date of submission

January 23,2013

(3)

3

修士論文の要旨

学位の種類 平田 和晃

修士論文課題

食物の硬さが口腔内での味の広がり認識に及ぼす影響

-甘味の場合-

研究目的

今日の我が国では、咀嚼力の弱った高齢者や摂食・嚥下障害者が増加しているが、あ まり咀嚼を必要としない軟らかい食物を食べる場合でも、味を適切に感じ、おいしく味 わって食べることが出来るのかについては不明である。本研究では、軟らかい食物の場 合は、咀嚼時間や回数が少なくても味を認識することが可能であると仮説を立て、同量 のスクロース(甘味)を添加した硬さの異なる咀嚼試験試料(グミゼリー)を咀嚼させ て味を認識させる実験を行い、この仮説を検証することにした。

被験者は、味覚、嗅覚、その他の口腔感覚や咀嚼・嚥下機能が正常であり、機能正常 咬合を有する健康成人男女

30

名(男性

15

名、女性

15

名、平均年齢±標準偏差=20.9±

2.1

歳)を対象とした。研究の趣旨からは、咀嚼・嚥下機能が減退した高齢者等を対象と することが望ましいが、今回は基礎的データの収集を目的としていること、および高齢 者を被験者とした場合の疲労や誤嚥の危険性等を考慮して、若年健常者を用いることと した。

(4)

4

材料および方法

1.咀嚼試験試料の調整について

寒天粉末および、食品添加物であるカラギーナンを使用して、グミゼリーを作成し、

咀嚼試験試料とした。

水分量に対する寒天とカラギーナンを合わせた濃度を

2 %、3 %、4 % の 3

段階に調整 し、硬さの異なる

3

種類のグミゼリーを作製した。グミゼリーに付与する味は、甘味と し、5%のスクロースを添加した。グミゼリーは一辺

15mm

の立方体とした。

2.味を感じるまでの咀嚼時間と咀嚼回数の測定

被験者には、グミゼリーの甘さがどの程度のものかを認識させる目的で、最初に味の しないグミゼリーを咀嚼させ、味がしないことを確認させ、次に甘味のあるグミゼリー を咀嚼させて甘味を確認させた。

(1)咀嚼時間と咀嚼回数の測定法

被験者には味の広がり程度の判定に集中させる目的で、咀嚼回数の判定を自己申告と はせずに、咀嚼筋筋電図を用いて行うこととした。得られた筋電図波形をもとに咀嚼時 間と回数を測定した。また、同意を得られた

24

人の被験者には咀嚼中の

VTR

撮影も行い、

記録された咀嚼運動の様子から咀嚼の適切性や筋電図との対応を調べた。

(2)口腔内における味の広がり程度の判定

硬さの異なる

3

種類のグミゼリーをランダムに

1

個ずつ、合図とともに被験者の口腔 内に挿入し、自由咀嚼後、飲み込むように指示した。飲み込むまでの間で、被験者が① 舌一部および②舌全体に、味の広がり程度を認識した時点で筋電図の時間軸にマーカー を挿入した。

嚥下終了後は、毎回蒸留水で十分うがいをするように指示し、2分間休憩した後、次 のグミゼリーの咀嚼を開始させ、同じように測定を繰り返した。

(5)

5

1.

男性と女性による違い

a)咀嚼時間

舌一部や舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間は、いずれの硬さのグミゼリーを咀 嚼する場合も、男性と女性の間に有意な差は見られなかった。

b)咀嚼回数

舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数は、いずれの硬さのグミゼリーを咀嚼する場 合も、男性と女性の間に有意な差は見られなかった。

しかし、舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数では、いずれの硬さのグミゼリーを咀 嚼する場合も、男性の方が女性より有意に咀嚼回数が多かった(p<0.05)。

2.

グミゼリーの硬さによる違い

a)咀嚼時間

①舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼時間

4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼時間は、2%グミゼリー (p<0.001)や 3%グミゼリー(p<0.001)を咀嚼した時よりも有意に長かった。

②舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間

4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼時間は、2%グミゼリー (p<0.001)や 3%グミゼリー(p<0.001)を咀嚼した時よりも有意に長かった。また、 3%グ

ミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼時間は、2%グミゼリー(p<0.001)を咀 嚼した時よりも有意に長かった。

③舌一部と舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間の比較

舌の一部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、甘味を認識するのに必要 な咀嚼時間は、いずれの硬さのグミゼリーの場合も約2倍長くなった。

(6)

6 b)咀嚼回数

①舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数

4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、2%グミゼリー (p<0.001)や 3%グミゼリー(p<0.01)を咀嚼した時よりも有意に多かった。また、3%グ

ミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、

2%グミゼリー(p<0.05)を咀嚼

した時よりも有意に多かった。

②舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数

4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、2%グミゼリー (p<0.001)や 3%グミゼリー(p<0.001)を咀嚼した時よりも有意に多かった。また、 3%グ

ミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、2%グミゼリー(p<0.001)を咀 嚼した時よりも有意に多かった。

③舌一部と舌全体に甘味を感じるまでの咀嚼回数の比較

舌の一部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、甘味を認識するのに必要 な咀嚼回数は、いずれの硬さのグミゼリーの場合も約2倍多くなった。

考察

1,口腔内での味の広がり認識に関する性差について

女性の方が、より少ない咀嚼回数で甘味を認識できた理由として、女性は男性に比べ、

甘味嗜好性が強く、甘味閾値も有意に低いために、甘味を認識しやすいからだと考えら れる。

2,咀嚼試料の硬さが味の広がり認識に及ぼす影響

舌一部、舌全体に関わらず、グミゼリーの硬さが増加するにつれて、甘味を認識する までの咀嚼時間は長くなり、咀嚼回数は多くなった。軟らかい食物は、あまり咀嚼をし なくても水や唾液に溶解しやすいため、短い咀嚼時間や少ない咀嚼回数で味質を認識し やすく、硬い食物は、長い時間にわたって何回も咀嚼をしないと水や唾液に溶解しにく いため、味質の認知が遅れると考えられる。

(7)

7

3,舌一部と舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間、咀嚼回数について

噛みはじめは弱い味が、より強い味を求めて咀嚼を促し、咀嚼とともに溶け出す食物 成分も増える。咀嚼運動の進行に伴って、味物質が徐々に口腔内に拡大していくため、

舌一部で甘味を認識するよりも舌全体で甘味を認識するまでの咀嚼時間は長くなると考 えられる。

本研究では、食物の硬さの違いが甘味の認識にどのような影響を及ぼすかについて検 討し、以下の知見を得た。

1.

舌一部や舌全体に甘味を感じるまでの咀嚼時間、および舌一部に甘味を感じるまで の咀嚼回数に男女差は見られなかった。しかし、舌全体に甘味を感じるまでの咀嚼 回数では、男性は女性より有意に咀嚼回数が多かった。

2.

咀嚼する試料の硬さが硬いほど、甘味を認識するまでの咀嚼時間は長かった。舌一 部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、いずれの硬さの試料の場合も 甘味を認識するのに必要な咀嚼時間は約2倍長くなった。

3. 咀嚼する試料の硬さが硬いほど、甘味を認識するまでの咀嚼回数は多かった。舌一

部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、いずれの硬さの試料の場合も 甘味を認識するのに必要な咀嚼回数は約2倍多くなった。

以上の結果から、食物の硬さは、口腔内での味の広がり認識に対して、強い影響を及 ぼしていることが示唆された。

(8)

8

目次

緒言---1

対象---2

材料および方法---2

1.咀嚼試験試料の調整について---2

2.味を感じるまでの咀嚼時間と咀嚼回数の測定---4

(1)咀嚼時間と咀嚼回数の測定法---4

(2)口腔内における味の広がり程度の判定---4

3.統計学的解析---5

結果---5

1.男性と女性による違い---5

a)咀嚼時間---6

b)咀嚼回数---6

2.グミゼリーの硬さによる違い---7

a)咀嚼時間---7

b)咀嚼回数---7

考察---8

1.基本味質のうち甘味を調査対象としたことについて---8

2.口腔内での味の広がり認識に関する性差について---9

3.咀嚼試料咀嚼時の咀嚼リズムについて---9

4.咀嚼試料の硬さが味の広がり認識に及ぼす影響---10

5.舌一部と舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間、咀嚼回数について---11

6.甘味を認識するまでの咀嚼時間、咀嚼回数と嚥下するまでの咀嚼時間、咀嚼回数の比較

について---11

7.今後の発展---12

結論---13

引用文献---14

謝辞---17

図表---18

Abstract---32

(9)

9

食物の硬さが口腔内での味の広がり認識に及ぼす影響

―甘味の場合―

ヒトは毎日の食事の際に、様々な硬さの食物を咀嚼して嚥下を行っている。硬い食物の 場合は食塊を作るために口腔内で何度も咀嚼をしなければならないが、軟らかな食物の場 合は数回咀嚼するか舌で押しつぶすだけで嚥下を行うことが可能である 1)。このように、

ヒトは食物の硬さによって咀嚼回数や咀嚼運動を変化させて対応している。食物の硬さが 咀嚼や咀嚼運動に及ぼす影響に関しては多くの研究報告があり、たとえば、田中らは、食 物が硬くなるに従って咀嚼運動のリズムは遅くなると報告2)している。

咀嚼は単に食物を粉砕して嚥下しやすい食塊を作るためだけではなく、食物を味わうた めにも重要な役割を担っている。食物を味わう際には、味覚、視覚、嗅覚、触覚、温度感 覚などが総合的に関与する 3)が、それらのうち、味覚、触覚、温度感覚は、口腔内に入っ てきた食物を咀嚼することにより発現される感覚である 4)。ここで味覚に注目すると、食 物が咀嚼によって噛み砕かれ、唾液と混合されて食塊が形成される過程において、溶け出 した呈味成分が味蕾に到達して味を感じる 5)。そして、ヒトは咀嚼を通じて、いろいろな 飲食物のおいしい味を楽しむことで生きる喜びを実感し、それが

QOL(qualityof life)の向

上や維持に深く関与している。

食物の味は咀嚼により口腔内いっぱいに広がっていくが、咀嚼と味の広がりの関係を調 べた研究は数少ない。代表的なものとして挙げられる沼尾らの研究では、咀嚼回数が少な いと味は広がらず、咀嚼回数が増大するにつれて味の広がりも拡大する傾向があると報告

6)7)8)されている。彼らの研究は同一の硬さのアガロース(寒天から抽出した一成分)キュ

ーブを用いて、味(甘味)の濃度や咀嚼回数を変えて味の広がり方を調べているだけであ り、硬さの異なる食物を咀嚼した場合に味の広がり方が異なるか否かについては調査され ていない。

一方、我が国では高齢化が進み、咀嚼力の弱った高齢者や摂食・嚥下障害者が増加して いる 9)。そのような人たちに対しては、咀嚼しやすい軟らかな食物が提供されることが多 10)。軟らかい食物のように、あまり咀嚼を必要としないものを食べる場合でも、味を適

(10)

10

切に感じ、おいしく味わって食べることが出来るのかについては、著者が調べた限り、こ れまでに研究されておらず、不明である。そこで、本研究では、軟らかい食物の場合は、

咀嚼時間や回数が少なくても味を認識することが可能であると仮説を立て、同量のスクロ ース(甘味)を添加した硬さの異なる咀嚼試験試料(グミゼリー)を咀嚼させて味を認識 させる実験を行い、この仮説を検証することにした。

被験者は、味覚、嗅覚、その他の口腔感覚や咀嚼・嚥下機能が正常であり、機能正常咬 合(歯科矯正学用語:正常咬合の分類のひとつ。形態的に多少基準から外れていても日常 生活に機能的な問題がみられない咬合状態のこと。)を有する健康成人男女

30

名(男性

15

名、女性

15

名、平均年齢±標準偏差=20.9±2.1 歳)を対象とした。なお、グミゼリーを 好まない又はアレルギーがある場合は、被験者から除外することとしたが、除外対象者は いなかった。研究の趣旨からは、咀嚼・嚥下機能が減退した高齢者等を対象とすることが 望ましいが、今回は基礎的データの収集を目的としていること、および高齢者を被験者と した場合の疲労や誤嚥の危険性等を考慮して、若年健常者を用いることとした。実験は、

正午~午後3時の時間帯に、本学の摂食・嚥下障害実験実習室にて行った。被験者の姿勢 は座位とした。

本研究は、新潟リハビリテーション大学大学院倫理委員会の承認を得た後、被験者に文 書および口頭で実験内容を充分に説明し同意を得て実施した。

材料および方法

1.咀嚼試験試料の調整について

試料を作製するための材料を選定するにあたって必要とされる条件として、①無味無臭 に近いこと、②味の添加が可能であること、③硬さの調節が可能であること、④人体に無 害であること、の

4

点を設定した。本研究では、これらを満たす材料として、寒天粉末(日 本ガーリック株式会社)および、適度な噛みごたえを試料に付加するために食品添加物であ

(11)

11

るカラギーナン(MW-351, k-カラギーナン, 八宝商会株式会社)を使用し(図1)、グミ ゼリーを作成することにした。なお、グミゼリーは、咀嚼の研究において一般的な試験試 料として用いられることが多い11)。作製にあたっては、ユーハ味覚糖によるゼリー菓子の 製造方法を参考に、寒天とカラギーナンの比率を

4

1

12)とした。

グミゼリーは3段階の硬さのものを設定するために、水分量に対する寒天とカラギーナ ンを合わせた濃度を

2 %、3 %、4 % の 3

段階に調整して作製した。グミゼリーに付与する 味は、甘味とし、いずれの硬さの場合も寒天カラギーナン溶液

500ml

に対し、スクロース(和 光純薬工業、一級)を

25g、すなわち、5 %のスクロースを添加して調整した。寒天、カラ

ギーナン、スクロースは常温の蒸留水の入ったビーカーに入れ、マグネチックスターラー を用いて

550

回/分、3分間撹拌したのち、溶液の温度が

80

度になるまで熱し、完全に溶 解させた。この溶液を縦

240mm×横 170mm、高さ 15mm

の型に流し込み、常温で粗熱を取っ た後、温度を

10

度に設定したクールインキューベータ(三菱電機エンジニアリング㈱ CN

―25C)に入れて冷やし固めた。その後、一辺

15mm

の立方体に切り分けることで、沼尾らの 研究5)に準じた、一辺

15mm

の立方体グミゼリーを作製した(図2)

<作製したグミゼリーの糖度の均一性>

5 % のスクロースを添加した溶液の糖度を、糖度計(PEN-J, ATAGO)で測定したところ、

4.4~5.3 Brix (%) であった。使用した糖度計の測定精度は、Brix±0.2 % であり、溶液

の糖度の均一性が確認された。なお、約

5 %の糖度は、およそ桃太郎トマト(大玉のピン

ク系で甘いトマト)の甘さに匹敵する。

<作製したグミゼリーの硬さの均一性>

同じ濃度の寒天とカラギーナンを添加してもグミゼリーの硬さに変化が生じる可能性 があったため、高分解能型クリープメーターRHEONERⅡ‐RE2-33005B(YAMADEN社製)を使用 して、テクスチャー硬さの測定を行い、硬さが均一に作成されているか確かめた。試料を 直径

40mm、高さ 15mm

の円柱状試料容器に高さ

15mm

に充填し、直径

25mm、高さ 14mm

のク サビ型樹脂製プランジャーを使用して、圧縮速度

10mm/s、クリアランス 5mm

2

回圧縮す ることにより測定した。測定の結果、本研究で使用した試験試料の硬さ応力の範囲は、

2%

硬さのものでは(1.15~1.22)×104

(N/m

2

)、 3%硬さのものでは(2.92~3.10)×10

4

(N/m

2

)、

4%硬さのものでは(4.99~5.31)×10

4

(N/m

2

)であり、硬さ応力の平均値±標準偏差は、 2%

硬さのものでは(1.18±0.03)×104

(N/m

2

)、3%硬さのものでは(3.01±0.07)×10

4

(N/m

2

)、

4%硬さのものでは(5.16±0.12)×10

4

(N/m

2

)であった(表1)。同一の濃度のものであれば、

(12)

12

ほぼ均一の硬さに作製されていることが確認できた。日本介護食品協議会が提唱している ユニバーサルデザインフードの硬さ規格(以後、UD 基準 と略す)に当てはめてみると、

最も軟らかい

2%硬さのものは UD

基準3(舌でつぶせる硬さ)に相当し、3%硬さのもの

UD

基準2(歯茎でつぶせる硬さ)に相当し、最も硬い

4%硬さのものは UD

基準1(容 易にかめる)に相当する硬さであった。

2.味を感じるまでの咀嚼時間と咀嚼回数の測定

データ採取に先立ち、被験者には、グミゼリーの甘さがどの程度のものかを認識させる 目的で、最初に味のしない(スクロースを添加していない)グミゼリーを咀嚼させ、味が しないことを確認させ、次に甘味のある(5%のスクロースを添加した)グミゼリーを咀 嚼させて甘味を確認させた。3種類の異なる硬さのグミゼリーを咀嚼させた時に、舌の一 部(以下、舌一部 と略す)あるいは舌全体で甘味をはっきりと認識するまでの咀嚼時間 と咀嚼回数の測定を、以下の方法により行った。

(1)咀嚼時間と咀嚼回数の測定法

被験者には味の広がり程度の判定に集中させる目的で、咀嚼回数の判定を自己申告とは せずに、咀嚼筋筋電図を用いて行うこととした。筋電図測定にはマルチセンサー生理計測

装置

NeXus-10(Mindmedia

社製)を使用した。両側の咬筋に、電極間距離

16mm

でディス

ポーザブル表面電極

LecTrode(株式会社アドバンス)を設置し、得られた筋電図波形をもと

に咀嚼時間と回数を測定した(図3)。咀嚼筋筋電図波形から咀嚼時間と咀嚼回数を求める 際には、Shiozawa et al. 13) の方法に準じて行った。また、同意を得られた

24

人の被験者 には咀嚼中の

VTR

撮影も行い、記録された咀嚼運動の様子から咀嚼の適切性や筋電図と の対応を調べた。なお、筋電図と

VTR

撮影の同時記録では、同一観察者内での咀嚼回数 測定の再現率が

92.7%と高率であることが報告されている

14)

(2)口腔内における味の広がり程度の判定

3

個ずつ用意した

3

種類(2%、

3%、 4%)の硬さのグミゼリーは、実験開始直前まで 10℃

のクールインキュベータに保存しておき、その都度

1

個ずつ無作為に取り出して使用した。

合図とともに被験者の口腔内に挿入し、自由咀嚼後、飲み込むように指示した。被験者に は、飲み込むまでの間で、①舌一部および②舌全体に、味の広がり程度を認識した時点で

(13)

13

手を挙げるように指示した。挙手と同時に、験者が筋電図の時間軸にマーカーを挿入した。

マーカーは一回の咀嚼につき、a)グミゼリーを口腔内に挿入した時点、b)舌一部で甘いと 認識した時点、c)舌全体で甘いと認識した時点、d)嚥下時点の

4

回、挿入した。味の広が りが認識できるまでに、どの程度の咀嚼時間や咀嚼回数が必要かを調べるために、咀嚼開

始から

b)あるいは c)のマーカーまでの時間・回数を測定して求めた。なお、挙手とマー

カー挿入のタイムラグは非常にわずか(視覚刺激の後に、できるだけ早くボタンを押す実験 での平均的な反応時間は、277~326msecといわれている15))であると考えられ、データに 及ぼす影響は少ないものとみなすとともに、記録された

VTR

の映像をもとに、マーカー 挿入のタイミングを確認して解析を進めた。

嚥下終了後は、毎回蒸留水で十分うがいをするように指示し、2分間休憩した後、次の グミゼリーの咀嚼を開始させ、同じように測定を繰り返した。一人につき各硬さのグミゼ リーを3個(1回に1個ずつ)咀嚼させ、得られた咀嚼時間と咀嚼回数は、それぞれ平均 値をもって測定値とした。一人の被験者には合計9個(3種類の硬さ×3個)のグミゼリ ーを食べてもらったが、途中で満腹感を訴えた者はいなかった。一回の実験は

30

分程度 で終了した。

3.統計学的解析

統計ソフトは

GraphPadPrism5J

を用いた。最初に、各データの性差の有無について、

男性のデータと女性のデータを、対応のあるt検定で比較した。次に、硬さを

3

段階に設 定したグミゼリーにおいて採取されたデータの平均値を比較するため、繰り返しのある

ANOVA

で有意差があることを確認したのち、Tukeyの多重比較検定を行い解析した。有

意水準は

5%とした。

3.

男性と女性による違い

まず、男性と女性で味の広がり程度を認識するまでの咀嚼時間と咀嚼回数に有意差があ るか調べた。

(14)

14 a)咀嚼時間

①舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼時間(表

2)

舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼時間(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで男性 4.18

±1.53秒、女性

4.64±2.49

秒、

3%グミゼリーで男性 5.25±2.29

秒、女性

5.62±2.96

秒、

4%グミゼリーで男性 7.31±6.65

秒、女性

7.11±4.67

秒であった。統計処理を行った結果、

いずれの硬さのグミゼリーを咀嚼する場合も、男性と女性の間に有意な差は見られなかっ た。

②舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間(表

3)

舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで男性 8.14

±2.39秒、女性

8.54±4.08

秒、3%グミゼリーで男性

10.09±3.65

秒、女性

10.54±4.78

秒、4%グミゼリーで男性

13.00±8.07

秒、女性

13.12±6.40

秒であった。統計処理を行 った結果、いずれの硬さのグミゼリーを咀嚼する場合も、男性と女性の間に有意な差は見 られなかった。

b)咀嚼回数

①舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数(表

4)

舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで男性 7.6±

3.5

回、女性

7.2±4.2

回、3%グミゼリーで男性

9.4±4.1

回、女性

8.1±4.4

回、4%グミ

ゼリーで男性

11.7±8.2

回、女性

9.1±4.8

回であった。統計処理を行った結果、いずれの 硬さのグミゼリーを咀嚼する場合も、男性と女性の間に有意な差は見られなかった。

②舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数(表

5)

舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで男性 14.5

±4.8回、女性

12.1±4.6

回、

3%グミゼリーで男性 17.9±6.4

回、女性

14.8±5.8

回、

4%

グミゼリーで男性

22.3±11.0

回、女性

17.4±6.4

回であった。統計処理を行った結果、い ずれの硬さのグミゼリーを咀嚼する場合も、男性の方が女性より有意に咀嚼回数が多かっ た(p<0.05)。

(15)

15 4.

グミゼリーの硬さによる違い

前章の結果より、舌全体で甘味を認識するまでの咀嚼回数以外の測定項目では、男性と 女性に有意差が見られなかった。また、性差が見られた舌全体で甘味を認識するまでの咀 嚼回数の結果も、男性と女性ともに同様の傾向、すなわち、グミゼリーが硬くなるほど咀 嚼回数が多くなる傾向が見られた(表5)。そこで、グミゼリーの硬さの違いにより、味の 広がり程度を認識するまでの咀嚼時間と咀嚼回数に差があるかを調べる本章においては、

男性と女性のデータを合わせて解析を行った。

a)咀嚼時間

①舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼時間(図4)

舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼時間(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで、4.41±

2.07

秒、

3%グミゼリーで 5.44±2.63

秒、

4%グミゼリーで 7.21±5.71

秒であった。統計

処理を行った結果、4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼時間は、2%グ ミゼリー(p<0.001)や

3%グミゼリー(p<0.001)を咀嚼した時よりも有意に長かった。

②舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間(図5)

舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで、8.34±

3.33

秒、

3%グミゼリーで 10.31±4.24

秒、

4%グミゼリーで 13.06±7.24

秒であった。統

計処理を行った結果、4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼時間は、

2%

グミゼリー(p<0.001)や

3%グミゼリー(p<0.001)を咀嚼した時よりも有意に長かった。

また、

3%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼時間は、2%グミゼリー(p<0.001)

を咀嚼した時よりも有意に長かった。

③舌一部と舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間の比較

舌の一部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、甘味を認識するのに必要な 咀嚼時間は、いずれの硬さのグミゼリーの場合も約2倍長くなった。

b)咀嚼回数

①舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数(図6)

舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで、 7.4±3.8

(16)

16

回、

3%グミゼリーで 8.7±4.3

回、

4%グミゼリーで 10.4±6.8

回であった。統計処理を行

った結果、4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、

2%グミゼリー

(p<0.001)や 3%グミゼリー(p<0.01)を咀嚼した時よりも有意に多かった。また、 3%グミゼ

リーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、

2%グミゼリー(p<0.05)を咀嚼した時

よりも有意に多かった。

②舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数(図7)

舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数(平均±標準偏差)は

2%グミゼリーで、13.3±

4.8

回、

3%グミゼリーで 16.4±6.3

回、

4%グミゼリーで 19.9±9.3

回であった。統計処理

を行った結果、4%グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、2%グミゼ リー(p<0.001)や

3%グミゼリー(p<0.001)を咀嚼した時よりも有意に多かった。また、 3%

グミゼリーを咀嚼した時の味を認識するまでの咀嚼回数は、2%グミゼリー(p<0.001)を咀 嚼した時よりも有意に多かった。

③舌一部と舌全体に甘味を感じるまでの咀嚼回数の比較

舌の一部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、甘味を認識するのに必要な 咀嚼回数は、いずれの硬さのグミゼリーの場合も約2倍多くなった。

考察

1, 基本味質のうち甘味を調査対象としたことについて

本研究では、試験試料を作成するにあたり、基本味質の中から甘味だけを選択的に採用 し添加することにした。

一般に市販されているグミゼリーは甘いものが多いので、甘いグミゼリーは、より自然 で食べやすいと考えた。また、甘味の摂取は生体にとって濃度にかかわらず、快の情動を 生じ、おいしさの感受性に結び付くとされている。一方、基本味質のうち、苦味は不快を 伴いやすく、不快を感じることで咀嚼回数が減少するとの報告がある 16)17)。本研究では、

味質の特徴を抽出・判断させる際に、被験者に不快感を与えずに自然に咀嚼を行わせる必 要があり、甘味に限定した試験試料の作成が有効であると考えた。

(17)

17

さらに、基本味質の刺激が咀嚼リズムに与える影響を見た研究16)においては、甘味刺激 を行うと、もともと咀嚼リズムが遅い人は速くなり、速い人は遅くなることから、咀嚼リ ズムの画一化が見られると報告されている。この結果から、甘味を添加した咀嚼試料を用 いることで、データの均質性が得られやすいことが考えられた。

一方、味覚閾値の加齢変化を見た久木野ら18)は、加齢に伴い基本味すべての認知閾値は 低下するが、甘味は他の味質に比べ、高齢者でも閾値が低下しにくい場合が多いと報告し ている。このことから、甘味を用いて行った研究の結果は、他の味質を用いた場合よりも 多くの年代に適用しやすいことが考えられた。

以上のような甘味の特徴を総合して考慮し、本研究では、甘味の認識について調査する こととした。

2, 口腔内での味の広がり認識に関する性差について

男性と女性の結果の有意差は、舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数においてのみ見 られた。この場合、硬さの異なるグミゼリー全てにおいて、男性に比べ女性の咀嚼回数が 有意に少ない値を示した。また、舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数については、有 意な性差が見られなかったものの、やはり男性に比べ女性の咀嚼回数が少ない傾向を示し た。舌一部の場合に有意な性差が見られなかったのは、咀嚼回数が男性で

7.6 ( 2 %

グミ ゼリー) ~ 11.7 ( 4 % グミゼリー) 回、女性で

7.2 ( 2 %

グミゼリー) ~ 9.1 ( 4 % グミゼリ ー) 回と、両性ともに少なかったため、差はあっても統計学的に有意とまではいかなかっ たからだと考えられる。女性の方が少ない咀嚼回数で甘味を認識できたという結果は、調 査対象年齢は異なるが、沼尾ら 8)の報告と一致した。女性の方が、より少ない咀嚼回数で 甘味を認識できた理由として、女性は男性に比べ、甘味嗜好性が強く19)20)、甘味閾値も有 意に低い21)ために、甘味を認識しやすいからだと考えられる。

一方、甘味を認識するまでの咀嚼時間については、硬さの異なるグミゼリー全てにおい て有意な性差は見られなかった。すなわち、甘味を認識するまでの咀嚼回数は女性の方が 男性より少ないが、咀嚼時間は両性でほぼ同じという結果は、男性と女性で咀嚼リズムが 異なっており、男性の方が速かったことを示している。

3,試験試料咀嚼時の咀嚼リズムについて

咀嚼リズムは咀嚼回数÷咀嚼時間で示されるパラメーターである。実際に咀嚼リズムを

(18)

18

計算で求めてみると、男性の場合、2%グミゼリー咀嚼時が

1.8

回 / 秒(舌一部に甘味を 感じるまで、および舌全体に甘味を感じるまで、の期間ともに)、3%グミゼリー咀嚼時が

1.8

回 / 秒(舌一部に甘味を感じるまで、および舌全体に甘味を感じるまで、の期間とも

に)

4%グミゼリー咀嚼時が 1.6

回 / 秒(舌一部に甘味を感じるまでの期間)~1.7回 /

(舌全体に甘味を感じるまでの期間)であった。また、女性の場合、

2%グミゼリー咀嚼時

1.4

回 / 秒(舌全体に甘味を感じるまでの期間)~1.6回 / 秒(舌一部に甘味を感じる までの期間)、3%グミゼリー咀嚼時が

1.4

回 / 秒(舌一部に甘味を感じるまで、および舌 全体に甘味を感じるまで、の期間ともに)、4%グミゼリー咀嚼時が

1.3

回 / 秒(舌一部に 甘味を感じるまで、および舌全体に甘味を感じるまで、の期間ともに)であった。咀嚼リ ズムは、平均的に算出すると、約

1.5

回 / 秒であるといわれている22)。本実験結果も、そ れに類似した値となっているのに加え、個人別に見ても、男女共に平均値から大きく逸脱 する被験者はいなかったことから、実験・解析は正しく行われたと思われる。また、男性 の方が咀嚼リズムが速かったことについては、

20

代男女にハードゼリーを咀嚼させて咀嚼 運動の性差を調べた井川23)の研究結果と一致した。さらに、咀嚼試料が硬くなるほど、男 女ともに咀嚼リズムがやや遅くなったが、この結果も田中らの報告2)と一致した。

4,咀嚼試料の硬さが味の広がり認識に及ぼす影響

舌一部、舌全体に関わらず、グミゼリーの硬さが増加するにつれて、甘味を認識するま での咀嚼時間は長くなり、咀嚼回数は多くなった。本研究で使用した

2%~4%グミゼリー

の硬さは、UD基準の

3~1

に相当したことから、若年健常者にとっては、いずれの硬さの グミゼリーも、比較的容易に粉砕が可能であったと思われる。各グミゼリーの硬さを比較 してみると、クリープメーターで測定したテクスチャー硬さの値では、

2%グミゼリーに比

べ、3%グミゼリーは約

2.6

倍、4%グミゼリーは約

4.4

倍の硬さであった。

硬さの異なる咀嚼試料を被験者に咀嚼させた研究では6)7)8)16)24)、硬い試料を咀嚼する場合 は、軟らかい試料を咀嚼する場合に比べて、嚥下までの咀嚼回数は増加し、またこれに伴 い咀嚼時間も増大することが報告されている。柴崎ら25)は硬さが異なる

3

種類の同型ビス ケットを幼児に食べさせたところ、軟らかいビスケットと比較して硬いビスケットほど、

咀嚼回数が多かったと報告している。小児や成人といった年齢による差はなく、硬いもの ほど、嚥下までの咀嚼回数が増加することが明らかになっている。

食物を咀嚼して嚥下するまでの間に味覚が発現される過程は以下の通りとなっている。

(19)

19

すなわち、食物は咀嚼運動によって破砕、粉砕され、唾液との混和によって嚥下可能な食 塊に再形成される。その過程で、水や唾液に溶解した食物成分は、イオンや分子の形で味 細胞表面膜において受容され、その情報が味神経を介して味覚中枢へと伝達され、味とし て認識される。このように、味覚は、咀嚼によって粉砕された食物内に唾液が浸透してい くことで、味質が水や唾液に溶解して感受される感覚である。よって、甘味を認識するま でに必要な咀嚼時間や咀嚼回数は、食物の粉砕度、すなわち咀嚼運動の進行の度合いと大 きく関係していると考えられる。したがって軟らかい食物は、あまり咀嚼をしなくても、

水や唾液に溶解しやすいため、短い咀嚼時間や少ない咀嚼回数で味質を認識しやすく、硬 い食物は、長い時間にわたって何回も咀嚼をしないと、水や唾液に溶解しにくいため、味 質の認知が遅れると考えられる。

5,舌一部と舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間、咀嚼回数について

考察の4で述べたように口腔に取り込まれた食物の性状は咀嚼によって急速に変化し、

唾液と混合されて、嚥下しやすい食塊になって嚥下される。噛みはじめは弱い味が、より 強い味を求めて咀嚼を促し、咀嚼とともに溶け出す食物成分も増える。このように咀嚼運 動の進行に伴って、味物質が徐々に口腔内に拡大していくため、舌一部で甘味を認識する よりも舌全体で甘味を認識するまでの咀嚼時間は長くなると考えられる。

本研究では、甘味を認識するのに必要な咀嚼時間は、舌一部から舌全体へと味の広がり 度が拡大するのに伴い、いずれの硬さのグミゼリーの場合も約2倍長くなり、咀嚼回数も 約2倍多くなった。咀嚼時間と咀嚼回数は、本来、咀嚼機能量を示す属性として同質のも のであり、両者は極めて高い相関26)があるといわれている。そのため、両者は互いに影響 しあい、増加率がほぼ等しくなったと考えられる。

6,甘味を認識するまでの咀嚼時間、咀嚼回数と嚥下するまでの咀嚼時間、咀嚼回数の比 較について

咀嚼する食物の硬さが増すと、咀嚼を開始してから嚥下するまでの咀嚼時間や回数(嚥 下閾)は、一般的に増加するといわれており1)、グミゼリーを咀嚼させた本研究でも同様 の結果となった(表6,7)。一方、ヒトには、それぞれ固有の嚥下閾が備わっており27) 同じ食品を同一量咀嚼させた場合は、何回咀嚼させても嚥下までの咀嚼回数はほぼ一致し

28)、 こ の 嚥下 閾 を規定 し てい る のは 食 物の 粉 砕度 で あ る 29)と い われ て いる 。

(20)

20

Pommerenke

30)は、ヒトにおいては、前口蓋弓などの領域では、弱い機械刺激を狭い領域

に限局して与えた場合でも、反射性嚥下が誘発されると報告している。ヒトの嚥下閾がほ ぼ定まっているということは、おそらくその人の反射性嚥下を誘発することができる比較 的小さな食片がある程度の量形成される時点がほぼ定まっており、硬い試料を咀嚼した場 合には、軟らかい試料を咀嚼する場合に比べて、反射性嚥下を誘発することができる小さ な食片が、ある程度の量形成されるためにはより多く咀嚼しなければならず、その結果、

嚥下までの咀嚼時間や咀嚼回数が増加すると考えられる。

このように、試料の硬さが増すと嚥下までの咀嚼時間や咀嚼回数が増加するが、この際、

味を認識するまでの咀嚼時間や回数が増加するばかりでなく、味を認識してから嚥下する までの咀嚼時間や回数も増加することが本研究により明らかとなった(表6,7)。舌全体 で甘味を認識してから嚥下するまでの咀嚼時間の平均値は、

2%グミゼリーで 5.44

秒、

3%

グミゼリーで

7.45

秒、

4%グミゼリーで 8.74

秒であり、咀嚼回数の平均値は、2%グミゼ リーで

8.1

回、3%グミゼリーで

11

回、4%グミゼリーで

13.6

回であった。

また、いずれの硬さのグミゼリーの場合も、舌一部で甘味を認識するまでに咀嚼した時 間の約

3

倍の時間をかけて咀嚼した後に嚥下が起こり、舌全体で甘味を認識するまでに咀 嚼した時間の約

1.7

倍の時間をかけて咀嚼した後に嚥下が起こっていた(表6)。咀嚼回数 で見ても、舌一部で甘味を認識するまでに咀嚼した回数の約

3.2

倍の回数をかけて咀嚼し た後に嚥下が起こり、舌全体で甘味を認識するまでに咀嚼した回数の約

1.7

倍の回数をか けて咀嚼した後に嚥下が起こっていた(表7)。甘味を感じるまでの咀嚼時間・回数と嚥下 が起こるまでの咀嚼時間・回数(嚥下閾)の間には、グミゼリーの硬さにかかわらず、一 定の関係が見られたことになる。また、最初にたてた仮説の、軟らかいグミゼリーの場合 は、硬いグミゼリーの場合よりも少ない咀嚼時間や回数で甘味を認識することが可能であ るということが、本研究結果により実証できた。

7,今後の発展

本研究は、咀嚼機能や味覚機能が正常な若者を被験者として実施したが、それらの機能 が衰えたり障害されたりしている高齢者等でも同様の結果となるかについては、今後さら なる研究が必要である。また、おいしさを構成する味覚を総合的に考えた場合に、甘味以 外の味質の場合についてはどうかということについても解明していく必要がある。

(21)

21

本研究では、食物の硬さの違いが甘味の認識にどのような影響を及ぼすかについて検討 した。

試験試料として、3 段階の硬さのグミゼリーを作成し、同量のスクロース(甘味)を添 加した。健康成人男女

30

名を対象に、グミゼリーを自由咀嚼させ、舌一部あるいは舌全 体で甘味を認識するまでの咀嚼時間、咀嚼回数を計測し、求めた平均値から以下の知見を 得た。

1.

舌一部や舌全体に甘味を感じるまでの咀嚼時間、および舌一部に甘味を感じるまでの 咀嚼回数に男女差は見られなかった。しかし、舌全体に甘味を感じるまでの咀嚼回数 では、男性は女性より有意に咀嚼回数が多かった。

2.

咀嚼する試料の硬さが硬いほど、甘味を認識するまでの咀嚼時間は長かった。舌一部 から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、いずれの硬さの試料の場合も甘味 を認識するのに必要な咀嚼時間は約2倍長くなった。

3.

咀嚼する試料の硬さが硬いほど、甘味を認識するまでの咀嚼回数は多かった。舌一 部から舌全体へと味の広がり度が拡大するのに伴い、いずれの硬さの試料の場合も甘 味を認識するのに必要な咀嚼回数は約2倍多くなった。

以上の結果から、甘味については、軟らかい食物ほど咀嚼後早くに認識され、硬い食物 ほど遅くに認識されることが明らかになった。食物の硬さは、口腔内での味の広がり認識 に対して、強い影響を及ぼしていることが示唆された。

(22)

22

引用文献

1) 山田好秋:よくわかる摂食・嚥下のメカニズム,医歯薬出版,東京,33-44,2004.

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味と匂学会誌,4,511-514,1997.

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ションⅢ 栄養管理と障害へのアプローチ,医歯薬出版,東京,68-90,2006.

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13,No.3,

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する要因,日本味と匂学会誌,14,No.3,595-598,2007.

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とにした新たな味覚検査の確立,日本補綴学会誌,1,378-385,2009.

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Ⅲ 栄養管理と障害へのアプローチ,医歯薬出版,東京,68-90,2006.

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23 No.1,27-34,1986.

16) 天野仁一朗、安東俊介、松岡弘毅、他:成人の咀嚼リズムの経時的変化および味覚刺

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活動量及び咀嚼回数に与える影響,鶴見歯学雑誌,17,No.2,301-311,1991.

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日本味と匂学会誌,12,No.3,361-364,2005.

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21) 楢崎有季子、堀尾強:高齢者の味覚に関する研究,栄養学雑誌, 64, No.6, 339-343,

2006.

22) 中川弥子、畑江敬子、又井尚也、他:咀嚼性に基づく食品テクスチャーの評価,日本

家政学会誌,42,No.4,355-361,1991.

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について―,広島大学教育学部紀要 第二部

45

号,199-206, 1996.

24) 道脇幸博、衣松令恵、横山美加、他:食品の大きさとテクスチャーによる咀嚼運動の

変化,口腔科学雑誌,50,No.1,70-75,2001.

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26)塩野幸一,清水久喜、小椋正、他:咀嚼ゼリーの物性と咀嚼筋活動との関連,小児歯

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28) Kawamura,Y.and Nobuhara,M.:Studies of masticatory function, ll.The swallow

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(24)

24

30) Pommerenke,W.T.:A study of the sensory areas eliciting the swallowing reflex.

Am J physiol,84,36-41,1928.

(25)

25

謝辞

本論文の執筆指導を頂いた新潟リハビリテーション大学大学院リハビリテーション研究科 長の山村千絵教授に感謝いたします。さらに本研究の実験にご協力下さった、新潟リハビ リテーション専門学校、および大学大学院の教職員と学生の方々に厚く御礼申し上げます。

(26)

26

【表

1】3

種類の硬さのグミゼリーの硬さ測定値

硬さの範囲 (N/ m2

)

硬さの平均 (N/m2

) ave.±S.D.

2%グミゼリー (1.15~1.22)×10

4

(1.18±0.03)×10

4

3%グミゼリー (2.92~3.10)×10

4

(3.01±0.07)×10

4

4%グミゼリー (4.99~5.31)×10

4

(5.16±0.12)×10

4

(27)

27

【表

2】咀嚼時間(舌一部)

男性

ave.±S.D. (秒)

女性

ave.±S.D. (秒)

2%

グミゼリー

4.18±1.53 4.64±2.49

3%

グミゼリー

5.25±2.29 5.62±2.96

4%

グミゼリー

7.31±6.65 7.11±4.67

(28)

28

【表

3】咀嚼時間(舌全体)

男性

ave.±S.D. (秒)

女性

ave.±S.D. (秒)

2%

グミゼリー

8.14±2.39 8.54±4.08

3%

グミゼリー

10.09±3.65 10.54±4.78

4%

グミゼリー

13.00±8.07 13.12±6.40

(29)

29

【表

4】咀嚼回数(舌一部)

男性

ave.±S.D. (回)

女性

ave.±S.D. (回)

2%

グミゼリー

7.6±3.5 7.2±4.2

3%

グミゼリー

9.4±4.1 8.1±4.4

4%

グミゼリー

11.7±8.2 9.1±4.8

(30)

30

【表

5】

:咀嚼回数(舌全体)

男性

ave.±S.D. (回)

女性

ave.±S.D. (回)

2%

グミゼリー

14.5±4.8 12.1±4.6

3%

グミゼリー

17.9±6.4 14.8±5.8

4%

グミゼリー

22.3±11.0 17.4±6.4

(31)

31

【表

6】

:甘味を認識するまでの咀嚼時間と嚥下するまでの時間の比較 舌一部で甘味を認識

ave.±S.D. (秒)

舌全体で甘味を認識

ave.±S.D. (秒)

嚥下するまで

ave.±S.D. (秒)

2%グミゼリー 4.41±2.07 8.34±3.33 13.78±4.63

3%グミゼリー 5.44±2.63 10.31±4.24 17.76±5.48

4%グミゼリー 7.21±5.71 13.06±7.24 21.80±8.73

(32)

32

【表

7】

:甘味を認識するまでの咀嚼回数と嚥下するまでの回数の比較 舌一部で甘味を認識

ave.±S.D. (回)

舌全体で甘味を認識

ave.±S.D. (回)

嚥下するまで

ave.±S.D. (回)

2%グミゼリー 7.4±3.8 13.8±5.8 21.9±6.9

3%グミゼリー 8.7±4.3 16.9±6.8 27.9±7.7

4%グミゼリー 10.4±6.8 20.5±9.7 34.1±13.1

(33)

33

図1 使用した材料 (上写真:寒天粉末、 下写真:カラギーナン)

(34)

34

図2 作製したグミゼリー

(各辺が

15 mm

の立方体、写真では陰も見えているため、

15 mm

より長く見

えている部分があるが、実際は

15 mm

であった。

(35)

35

3:咀嚼回数の測定法

(バースト波形の数を数える)

マーカー(グミゼリーを口腔内に挿入)

・口の開閉に伴いバースト波形が出現。

・次のバースト波形より咀嚼開始(咀嚼回数のカウント開始)

○舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数

=1の波形~次のマーカーの波形までの咀嚼回数

○舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数

=1の波形~次の次のマーカーの波形までの咀嚼回数

1 2 3 4 5 6 7

注:本来、波形はもっと連続していたが、用紙に入りきらないので、この図では、7回 までで以後省略。

(36)

36

図4 舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼時間

2%

グミゼリー

3%

グミゼリー

4%

グミゼリー 0

5 10 15

(秒)

ns

***

***

***:p<0.001

ns:有意差なし

(37)

37

図5 舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼時間

2%

グミゼリー

3%

グミゼリー

4%

グミゼリー 0

5 10 15 20 25

(秒)

* * *

***

***

***:p<0.001

(38)

38

図6 舌一部に甘味を認識するまでの咀嚼回数

2%

グミゼリー

3%

グミゼリー

4%

グミゼリー 0

5 10 15 20

(回)

**

***

*:p<0.05

**:p<0.01

***:p<0.001

(39)

39

図7 舌全体に甘味を認識するまでの咀嚼回数

2%

グミゼリー

3%

グミゼリー

4%

グミゼリー 0

10 20 30 40

(回)

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