論文内容要旨
中年期以降に二次修正を希望する唇顎口蓋裂患者の背景分析 日本形成外科学会誌 第 38 巻 第 5 号 227-233 頁 2018 年
医学研究科外科系形成外科学専攻 宮部真以
【序論】唇顎口蓋裂に対する治療は整容的・機能的両面における問題を解 決し,患者がより高い自尊心を持って社会生活に適応することを目標とし ている.通常一連の治療は 20 歳前後で終了するが,中には術後数十年を 経ても修正手術を希望する患者がいる.患者の QOL や心理社会的機能に関 する研究は散見されるが,そのほとんどは青少年期の患者を対象としたも のである.本研究では精神的に成熟,安定する中年期以降に修正手術を希 望する患者の背景分析を試みた.【方法】2011 年から 6 年間に,二次修 正術を希望して当科を受診した唇顎口蓋裂患者のうち,初診時に 45 歳以 上であった患者を対象とした.診療録をもとに性別,主訴,既往歴,手術 歴などを調査した.【結果】調査の結果,対象は 50 例(男性 21 例,女性 29 例)であった.初診時の平均年齢は 54.3 歳で最年長は 75 歳であった.
裂型は片側裂 38 例,両側裂 10 例,口蓋裂単独 2 例であった.主訴は整容 的改善の希望が 35 例で最多であり,そのうち 4 例は家族への配慮を動機 としていた.口蓋瘻孔や言語的問題が 10 例,鼻閉が 4 例,異物の抜去希 望が 3 例であった.既往歴では対象の 12%が精神疾患を有していた.当科 初診時すでに二次修正手術歴のある患者は 30 例であった.平均修正手術 回数は男性 1.5 回,女性 1.8 回であった.調査期間中に 34 例が当科にて 修正手術を受けた.手術内容は,口唇鼻形成 19 例,鼻形成 14 例,口唇形 成 4 例,口蓋瘻孔や咽頭弁形成 6 例であった.【考察】対象患者の男女比 は約 4:6 の割合で女性患者が多く,本邦における唇顎口蓋裂患者の男女比 がおよそ 6:4 であることをふまえると,中年期以降も修正術を希望する患 者は女性が 2 倍以上多いと考えられた.患者の主訴は「整容的改善を目的 に小修正を繰り返すもの」,「異物抜去を希望するもの」,「機能的改善を希 望するもの」の 3 パターンに分類することができた.前二者は女性患者に
多く,そのほとんどは鼻修正を希望した.一方,機能的改善を希望する患 者は男性に多い傾向がみられた.顔貌や言語に対するコンプレックスから 生じる唇顎口蓋裂患者の青少年期における心理社会的不安定性は,悩みの 共有や他者との比較,現状を許容していくことで年齢を重ねるごとに安定 していく.この過程において適切な修正手術が行われ,よりよい安定性を 得られた患者がいた一方,手術結果に満足できず精神的安定性を求めて繰 り返し手術を望む患者や,手術結果が良好であるにもかかわらず強迫観念 によりさらなる手術を求める患者もみられた.【結語】中年期以降の患者 で特筆すべきは,異物抜去を希望するもの者,家族のために最後の修正を 決心した者などがいることであった.高齢であっても二次修正術が生活機 能に及ぼす影響は大きく,個々のパーソナリティや心理社会的背景を考慮 して手術方針を選択することが重要であると思われた.