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COPD 診療の展望

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Academic year: 2021

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特  集 呼吸器

COPD 診療の展望

昭和大学医学部内科学講座(呼吸器アレルギー内科学部門)

  大 西  司

は じ め に

 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary  disease:COPD)は,近年増加傾向にあり世界的 にも 2030 年には,死因の第 3 位になるといわれて いる.原因は主にタバコで,肺胞破壊に伴う弾性収 縮力の減少による気道閉塞と,溜まった空気による 気道の圧縮(動的気道圧縮)気道分泌物の貯留がそ の病態の主体である1)

 日本での喫煙率は減少しているといわれるが,若 い女性の喫煙率はやや上昇傾向であり,決してまだ まだ減少傾向の見られない疾患である.今回の特集 では 20 年間にわたる COPD 診療の変遷と今後の展 望を述べたい.

COPD

診療の変遷

 COPD という言葉はあまりまだ広くは認知され ていないかもしれないが,以前は肺気腫とか慢性気 管支炎といわれていた疾患である.日本では,20 年前の 1995 年に慢性閉塞性肺疾患(COPD)とし て統一されるようになった.当時はまだ気管支拡張 薬は短時間作用性の抗コリン薬とβ2刺激薬がある のみで薬剤の選択は少なかった.抗コリン薬の臭化 オキシトロピウム(テルシガン)は 1 日 4 回の吸入 を必要とし,弱干の効果が得られるものの限界があ り,肺気腫といえば可逆性のない,治らない病気と いう認識があり,社会的にも広くは認知されていな い疾患であった.

 肺の破壊は恒久的に障害されるため,気腫化した 肺の容積を如何に減少させるか,外科手技が積極的 に行われた時代があった.最初は肺を折りたたむ手 術や,レーザーで肺の表面を焼き弾性を持たせると いう方法もあったが,気胸の合併症もあり 1995 年 前後に,広く行われるようになったのは,米国の

Cooper らが行い普及させた肺容量減量術(Lung  volume reduction surgery:LVRS)である2).これ は気腫化した部分を取り除き圧縮されていた,より 健常な肺を有効に働かせる手術である.切断面の リークを少なくするために縫合部分に牛の心膜を充 てたり,呼吸筋への影響を避けるため,アプローチ を胸骨縦割りや胸腔鏡での手術が盛んに行われた.

日本でも大学病院を中心に,各地で行われるように なったが,北米で大規模な比較試験が行われ,有効 性の評価としては,「症例を選んでおこなう.」とい う結論であった3).気腫自体を治せる手術ではな く,効果は 3 年といわれたが,気腫化している部位 が偏在している場合は良好な結果が得られた4).現 在でも内科的治療で十分に効果の得られない重症例 で,両側上葉など気腫部分が偏在した例では限られ た施設で行われている.

 日本呼吸器学会では 1999 年に「COPD(慢性閉 塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」が 出され診断と治療の推進が図られ,COPD の医療 者の中での認知を高め,診断治療の充実を図ろうと した5).時期を同じくして,日本で他施設共同試験 としての疫学調査が行われた.この NICE STUDY 

(the Nippon COPD Epidemiology study)は 2000 年 に行われ6),有病率が 40 歳以上で 8.5%,530 万人 が罹患していると言われている.医療機関に通院し ている COPD 患者が 22 万人とされていたので,予 想された以上に COPD 患者が潜在的にいることが 示された.

 COPD 診療の大きな転機は世界的なガイドライ ンとしての GOLD (The Global Initiative for Chronic  Obstructive Lung Disease)が 2001 年に出された ことである7).GOLD での定義で「完全には可逆性 ではない気流制限を特徴とする疾患であり,通常進 行性で有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症反

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応によって生ずる」とされた.それまで英国の慢性 気管支炎としての臨床的な診断名と米国の肺気腫,

病理的な概念の診断名が同一なものとして捉えられ るようになり大きく診療の方向性が見直されること となった(表 1).2003 年の修正版では気流制限を きたす以前の,スパイロが正常で慢性症状のみのリ スク群が Stage 0 として組み入れられ,2004 年の 日本のガイドライン第 2 版にも取り入れられ,未病 の段階で診断し予防をしようとした.しかしこれ は,喫煙歴と症状のみで診断することになり鑑別診 断に問題があるため 2006 年版(日本は 2009 年第 3 版)以降は初版と同様に Stage 1 から分類されるよ うになった.2013 年の第 4 版では,COPD は予防 も治療も可能な疾患であること,全身性の疾患とし て捉えるべき疾患であることが強調された7).また 治療可能な疾患と位置付けられるようになったの は,より強力で選択的な薬剤の普及の力も大きい.

COPD

の予防

 予防に関して大切な点は健康日本 21 でも取り上 げられ,社会環境の整備と認知率の向上である.そ の中で禁煙運動の推進は重要な課題であると考え る.喫煙をしなければ COPD の 9 割は発症しない ことになる.喫煙していても,タバコをやめれば症 状が出なくなり,COPD に罹患していても,経年的 な 1 秒量の低下は抑えられる.COPD が発症して自 覚症状が現れると大半の患者は禁煙する.しかし自 覚症状のない COPD 予備軍への禁煙指導のアプロー チに関してはまだハードルが高い.禁煙の薦めは身 近な診療の中から行うべきだと思われる.医師が禁 煙のアドバイスを行うだけでも効果があるとされ,

タバコの毒性を強調するだけでなく,本人の意志の

変化を促すことができれば,禁煙外来受診などの行 動に結びつけると,禁煙の実現が可能となる.

 禁煙治療はニコチン貼付剤とバニレクリン(ニコ チン受容体拮抗薬)を使い分ける,2 か月間あるい は 3 か月間の治療である.敷地内の禁煙化と経験あ る医師と看護師がいれば病院でもクリニックでも容 易に外来を開設できる8).カウンセリングの手法と しては,認知行動療法や来談者中心の面接法である 動機付け面接法 (Motivational Intervew:MI) が 有用であり9),ただ特殊な技術がなくても話を聞き 禁煙の機会を作ってあげることが大きな変化をもた らす.

COPD

治療の流れ

 診療に関して,長時間作用性の吸入薬の出現で内科 的な診療や呼吸器リハビリテーションの重要性が改め て認識されて来ている.安定期の管理に関しては診断 と治療のためのガイドラインに詳しく記載されてお り,その表を参考にすると理解しやすい(図 1)1).  薬物療法は,長時間作用性の抗コリン薬 (long- acting muscarinic antagonist,LAMA),長時間作 用性β2刺激薬 (long-acting β2 agonist,LABA) が 出現したことで,患者のコンプライアンスも高ま り,治療効果もより得られるようになった.COPD 患者に対する反応性がややβ2刺激薬に勝ることか ら,抗コリンが第一選択薬として用いられることが 多かったが,β2受容体の選択性が高いより強力な LABA の出現からガイドラインでも抗コリン薬と

β

2

刺激薬は同等に並べられるようになった.COPD 基本診療の基本的な考えとしては,ステップアップ の治療で単剤を使用して効果が不十分であれば作用 の異なる薬剤を追加して併用を行う.ただしこれは 安定期の治療で増悪期は対応が異なる.増悪は感染 などを契機に起こり,呼吸困難感や低酸素血症の進 展に伴い,治療薬の追加変更を要する病態であり,

気管支拡張薬の吸入や抗菌薬,全身性ステロイド薬 などを必要とする.増悪症状は改善しても,呼吸機 能の改善には時間を要する.気管支喘息が好酸球性 炎症性疾患であるのに対し COPD は好中球が炎症 の主体となる.このため喘息治療に有効な吸入ステ ロイドは一秒量の経年的変化を抑制する効果が得ら れず主要な治療薬にならなかった.しかし増悪の頻 度を抑制する効果が期待できるということで増悪を

表 1 COPD の定義

タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露すること で生じた肺の炎症性疾患である.呼吸機能検査で正常に 復すことのない気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病 変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用するこ とにより起こり,通常は進行性である.臨床的には徐々 に生じる労作時の呼吸困難や慢性の咳,痰を特徴とする が,これらの症状に乏しいこともある.

(COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイド ライン.第 4 版,日本呼吸器学会; 2013.)

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繰り返す患者には使用が推奨されている10).ただし 長期間の吸入ステロイドの使用が肺炎など感染症の 併発に影響するとの報告がある11)

 これらの薬物療法を十分に行うとともに,非薬物 療法を並行して行う.禁煙やインフルエンザワクチ ン接種,そして呼吸器リハビリテーションである.

これは薬物療法に匹敵する大切な治療法である.基 本はストレッチと腹式呼吸,口すぼめ呼吸である.

過膨張した肺の空気(残気)を効率よく吐き出すた めに,口をすぼめて,気道の内圧を高めゆっくりと 吐き出す.横隔膜を使った腹式呼吸を行う.これが 日常生活の中でできるように訓練すると病気と上手 に付き合えるようになる.

COPD

診療の展望

 以上を踏まえて,今後の COPD 診療で問題とな る 3 点について考察する.

 1)予防と早期診断に関しては,禁煙の推進は もっと積極的に行う必要があり,今後日本の喫煙者 を減らそうとする試みが大切である.そのためには 医療者が診療の場で禁煙を薦めていく態度が必要で ある.

 早期診断に関しては他疾患との並存症の問題も注 目されているが,喫煙者には虚血性心疾患や糖尿病 患者が多く,循環器内科,糖尿病内科などとの連携

が必要である.またかかりつけ医との病診連携を進 めて,COPD の認知が進み診療所で喫煙者で咳, 

痰,労作時の息切れがある患者に,スパイロを行う ことによる拾い出しが可能である.

 2)薬物療法として近年の傾向として効果の高い 合剤の出現である.合剤では(LAMA + LABA)

(LABA + ICS)がある.最近発売された薬剤をふ くめて日本国内で承認された COPD に保険適応と なる治療薬を表に示す(表 2).抗コリン薬とβ2刺 激薬と吸入ステロイド,これらをいかに使い分ける かが治療の要点である.気管支拡張薬に関しては前 述したが,基本的に COPD はステップアップの治療 でありまず単剤(LAMA もしくは LABA)を使用 して反応が足りなければ(LABA もしくは LAMA)

を追加する.もしくはより重症の患者には最初から 合剤を使用することが考えられる.新たな LAMA

+ LABA(チオトロピウム・オロダテロール)の合 剤では 1 秒率の改善のみならず,残気量の有意な改 善を認めている12).さらに自覚症状の改善,健康関 連 QOL の改善を証明している報告もある13).薬剤の 効果で貯留した残気を減らし,より活動性を増すこ とでコントロールを高めようとする考えと言える

(Pharmacological Volume reduction)14)

 近年,喘息と COPD の合併例が注目されている15). 好酸球の増加している例,喘息の合併例(Asthma-

図 1 安定期 COPD の管理

重症度は FEV1 の低下だけではなく,症状の程度や増悪の頻度を加味し,重症度を総合的に判断したうえで治療法 を選択する.

:増悪を繰り返す症例には,長時間作用性気管支拡張薬に加えて吸入ステロイド薬や喀痰調整薬の追加を考慮す る.

(COPD (慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン.第 4 版.日本呼吸器学会; 2013.)

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COPD Overlap,ACO)では初期から吸入ステロイド が使用される16).また気腫合併肺線維症(combined  pulmonary fibrosis and emphysema,CPFE)と呼ば れる病態があり,肺の気腫化とともに線維化を来す.

肺線維症の治療や増悪に対する注意も必要で,肺癌 合併の頻度も高まる7)

 3)活動性を増すこと,在宅との連携が大切にな ると思われる.COPD は高齢者がほとんどであり,

喫煙を止めたとしても経年的な呼吸機能の低下およ び体力の低下は避けられないところである.苦しい から動かなくなる,動かなくなるとさらに筋力が低 下する,さらに動けなくなる.家にこもりがちにな る.うつ傾向も出てくる.この悪循環を断ち切る試 みが必要となる.このためには病気のことを理解し てできるだけ病院に通えるように活動性を増す試み が大切である.患者さん自身が病気のことを理解 し,増悪に備えるための勉強会や集団でフライング ディスク競技(フリスビーを用いた運動)を行うこ とも大切な試みである.

終 わ り に

 内科の診療を通して言える事と思われるが,

COPD は慢性の疾患であり生涯,患者が付き合っ

ていく病気である.このために患者自身の病気に対 する正しい認識が必要である.薬剤の効果は日進月 歩で少しずつ改良や工夫が凝らされ,デバイスを含 め患者がより使いやすいような工夫が施されてきて いる.これをどのように使用していくと日常の生活 に有用であるのか,また増悪させないためにはどの ようなことが必要なのか,自己認識が大切である.

この薬剤を上手に使いながら,日常生活の中でリハ ビリを行い,生活の質を高めていくことが重要であ る.医師だけでなく,看護師,理学療法士,薬剤 師,栄養士,酸素業者が力を合わせて診療に取り組 むことが必要とされる.

文  献

1) 日本呼吸器学会 COPD ガイドライン第 4 版作成 委員会編.COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と 治療のためのガイドライン.第 4 版.東京: 日本 呼吸器学会; 2013.

2) Cooper JD, Trulock EP, Triantafillou AN,  .  Bilateral pneumectomy (volume reduction) for  chronic obstructive pulmonary disease. 

. 1995;109:106‑119.

3) Fishman  A,  Martinez  F,  Naunheim  K,  .   A randomized trial comparing lung-volume-reduction  surgery  with  medical  therapy  for  severe   表 2 配合剤(吸入薬)

長時間作用性 吸入抗コリン薬 LAMA  スピリーバ(チオトロピウム)

 シーブリ(グリコピロニウム)

 エクリラ(アクリジニウム)

 エンクラッセ(ウメクリジニウム)

長時間作用性 吸入β2刺激薬 LABA  セレベント(サルメテロール)

 オンブレス(インダカテロール)

 オーキシス(ホルモテロール)

配合剤 LAMA/LABA

 ウルティブロ(グリコピロニウム・インダカテロール)

 アノーロ(ウメクリジニウム・ビランテロール)

 スピオルト(チオトロピウム・オロダテロール)

ICS/LABA 配合剤

 アドエア(サルメテロール・フルチカゾン)

 シムビコート(ブデソニド・ホルモテロール)

 レルベア(フルチカソンフロレート / ビランテロール)

本邦で承認され保険適応になっている薬剤

(5)

emphysema.  . 2003;348:2059‑2073.

4) 加賀基知三,桑平一郎,岩崎正之,ほか.本邦 に お け る 肺 気 腫 に 対 す る 肺 容 量 減 少 手 術

(LVRS)の全国実 態調 査 報 告.日呼 吸 会 誌.

2004;42:803‑809.

5) 日本呼吸器学会 COPD ガイドライン作成委員会 編.COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療の ためのガイドライン.東京: メディカルレビュー 社; 1999.

6) Fukuchi  Y,  Nishimura  M,  Ichinose  M,  .   COPD in Japan: the Nippon COPD epidemiology  study.  . 2004;9:458‑465.

7) Global Initiative for Chronic Obstructive Lung  Disease.  Methodology  and  summary  of  new  recommendations.  2014. (accessed  2018  Feb  20)www.goldcopd.org/

8) 神奈川県内科医学会編.禁煙外来を開設しよ う!東京: 中和印刷; 2014.(今日からできるミニ マム禁煙医療; 1).

9) 加濃正人,磯村 毅,稲垣幸司,ほか.禁煙指 導者研修における動機づけ面接法の 「2 つのやり 方 練 習 」 の 有 用 性 に つ い て. 日 禁 煙 会 誌.

2010;5:79‑89.

10) Calverley  PM,  Anderson  JA,  Celli  B,  .   Salmeterol  and  fluticasone  proplonate  and   survival  in  chronic  obstractive  pulmonary   disease.  . 2007;356:775‑789.

11) Crim  C,  Calverley  PM,  Anderson  JA,  .    

Pneumonia  risk  in  COPD  patients  receiving   inhaled corticosteroids alone or in combination: 

TORCE  study  results.  .  2009; 

34:641‑647.

12) Beeh  KM,  Westerman  J,  Kristen  AM,  .  The  24-h  lung-function  profile  of  once-daily  tiotropium and olodaterol fixed-dose combination  in  chronic  obstructive  pulmonary  disease. 

. 2015;32:53‑59.

13) Buhl R, Maltais F, Abrahams R,  . Tiotropium  and olodaterol fixed-dose combination versus  mono-components  in  COPD (GOLD2-4) 

. 2015;45:969‑979.

14) Tanabe N, Muro S, Mishima M,  . Computed  tomography  assessment  of  pharmacological  lung volume reduction induced by bronchodilators  in COPD.  . 2012;9:401‑408.

15) Gibson PG, Simpson JL. The overlap syndrome  of  asthma  and  COPD:  what  are  its  features  and how important is it?  . 2009;64:728‑

735.

16)日本呼吸器学会喘息と COPD のオーバーラップ

(Asthma and COPD overlap:ACO)診断と治 療の手引き 2018 作成委員会編.東京: 日本呼吸 器学会; 2017.

参照

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