別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲・乙 第 3060 号 氏 名竹丸 真以
論文審査担当者
主査 教授 美島 健二 副査 教授 高見 正道
副査 教授 槇 宏太郎
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Comparison of protein profiles of gingival crevicular fluids collected from incisors, canines, and molars」について、上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
歯肉溝浸出液(GCF)は様々な抗菌物質や好中球やマクロファージなども含んでおり、歯周組織の生体防御 機構としての働きをもつことが知られている。 これまでに歯種による GCF 成分の特徴について比較検討し た報告はない。 本研究は、歯種によって GCF のタンパク成分を網羅的に比較することを目的とした。 健康 な成人男性 6 名を対象とし、同一被験者の上顎中切歯、犬歯、第一大臼歯の三歯種の全周からペーパーポイ ントを用いて GCF を採取した。 被験者には歯肉炎や歯周炎が認められず、また喫煙や矯正治療はしていな い。 GCF 中のタンパク成分について SDS−PAGE により比較したところ、歯種によらずバンドパターンは類似 していた。 それぞれのバンドに含まれるタンパク質を液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS/MS 分析)により 同定したところ、 GCF 中の主要なタンパク質は血清アルブミン、セロトランスフェリン、補体 C3、ミエロ ペルオキシダーゼ、protein S100 A8、A9 などであった。 同位体標識タグ(iTRAQ 法)を用いた LC-MS/MS 分 析によって網羅的かつ定量的に微量サンプル中のタンパク質プロファイルを検討したところ、86 種のタン パク質が同定でき、歯種間の量比を示す分析結果を得た。 いくつかのタンパク質で量比の異なるものが散 見されたが、すべての被験者 6 名に共通する著しい差はみとめられなかった。 今回の分析により、健康な 歯周組織であれば、GCF のタンパク成分は歯種による特定の違いを示さないことが分かった。
近年増加してきている GCF 中のタンパク質について調べた研究ではその採取部位がまちまちであったが、
今回の結果から健康被験者の健康な歯周組織から採取した GCF は互いに比較しうると考えられた。
本論文の審査において、副査の高見委員および槇委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対する 回答を以下に示す。
高見委員の質問とそれらに対する回答:
1。サンプル中にプラーク由来のタンパク質は含まれていないのか。
(GCF 中の細菌由来のタンパク質を同定した過去の報告(2)があることから、プラーク由来のタンパク質も微 量に含まれていると考えられる。しかし本研究ではタンパク質の同定を行う際にヒトのゲノムデータベース を用いているため、検出されなかった。同じサンプルをバクテリアのデータベースで解析したところ、いく つかの細菌由来のタンパク質が検出されたが、おそらく量が非常に少ないためシグナルが弱く、十分な信頼 性をもって同定することは困難であった。)
2。血漿成分と GCF 成分でどのようなタンパク質の量に差が見られたか。その理由も考察せよ。
(GCF 中の血漿由来のタンパク質について、網羅的なすべてのパターンの比較ではないが、過去の報告 で同一被験者の GCF 中と血漿中の酸化 LDL を ELISA にて比較したところ、GCF 中の酸化 LDL が血漿中よ
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇。〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇。〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇。〇〇〇〇〇〇〇〇〇
りも有意に高い値を示した(3,4)。このことから GCF 中の血漿成分は、血漿がそのまま滲出するのでは なく、選択的に GCF 中に移行している可能性が考えられる。)
槇委員の質問とそれらに対する回答:
1。GCF のタンパク質プロファイルは何に影響を受けているか。
(GCF は接合上皮直下の毛細血管から接合上皮を通過して歯肉溝に滲出する血漿由来の体液である。血漿成 分や様々な抗菌物質を含み、接合上皮を通過した好中球やマクロファージ、剥離した上皮細胞などの細胞成 分も含まれており、歯周組織の生体防御機構としての働きをもつことが知られている。GCF に関する研究の 歴史は古く、19 世紀に発見され、その組成と流れは Waerhaug J らによって示された。その後 GCF はそのサ ンプル中の炎症性メディエーターの総量や濃度の測定などから、歯肉炎や歯周炎などの局所の歯周組織の炎 症状態を反映することが明らかにされてきた。また我々はこれまでの研究で、GCF 中の LDL および酸化 LDL に対応する apoB および apoB-酸化ホスファチジルコリン複合体の存在を初めて報告し、糖尿病患者の GCF 中の apoB 濃度の分析から、高血糖状態の鋭敏なマーカーとしてこの値が全身状態の把握にも有用である可 能性を示唆した。このように GCF のタンパク質プロファイルは、歯肉局所の炎症状態および全身状態に影響 を受けている。)
2。侵襲性歯周炎の病態と人種差について述べよ。
(病型分類としては現在も議論が続いている侵襲性歯周炎だが、全顎的に歯周組織破壊が進行する広汎性と、
中切歯と第一大臼歯に限局して、部位によって進行する限局性のものがある。一般的に歯周炎には部位特異 性はないとされてはいるが、侵襲性歯周炎のように部位特異性が存在するかもしれない病態があることも事 実である。全身的には健康であるが、急速な歯周組織破壊を認めることを特徴とする歯周炎である。また一 般的には細菌性プラークの付着量は少なく、患者は 10 歳〜30 歳代かに多い。患者によっては AA 菌の存在比 率が高く、生体防御機能、免疫応答の異常が認められるなどの二次的な特徴がある。日本における侵襲性歯 周炎の罹患率は難病センターの平成 24 年度の報告によると 0.05〜0.1%とされている。2002 年の調査で西 欧での罹患率は 0.1〜0.5 %、アメリカでは 0.3〜1.0%、アジアで 0.4〜1.0%、アフリカで 0.5〜5.0%と、世 界的に見ると一定の地域で罹患率が高くなっており、人種的・民族的集積が見られる。)
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 美島委員の質問とそれらに対する回答:
1。ペーパーポイントの刺激により出血が生じた可能性はどのように排除されたか。
(ペーパーポイント挿入時に余分な刺激を与えないよう細心の注意を払うとともに、挿入後に目視にて出血 が確認されたペーパーポイントは廃棄し、本研究には用いないこととした。また LC−MS/MS 分析は非常に鋭 敏なため、微量の血液由来の hemoglobin subunit alpha/beta も検出されたが、その量は同時に検出された その他の蛋白と比較して微量であった為、その影響はないものと考えられる。)
主査の美島委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
以上の審査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。
(主査が記載)